呼気終末 CO [2] 分圧を指標とする筋内電極を用いた横隔膜ペースメーカ

SURE: Shizuoka University REpository
http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/
Title
Author(s)
呼気終末CO[2]分圧を指標とする筋内電極を用いた横隔膜
ペースメーカの開発
福井, 美仁
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1991-03-23
http://doi.org/10.11501/3054352
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0002512846 R
66
静岡大学附■団雷館
静岡大学博士論文
打乎安く轟冬ラ匡C02分圧を手旨標とする筋内観
を用しヽた横膵討博打ヾ−スメ−カの開発
平成3年2月
大学院電子科学研究科
電子応岡工学専攻
手高井美仁
(概要)
人工呼吸法は、今日臨床上不可欠な治療手段である。従来からの陽圧式人工呼
吸法は、多くの急性呼吸不全患者を蘇生可能とし、大きな治療効果をあげている。
しかしながら、その呼吸様式が自然呼吸に比べて非生理的であるため、長期間の
院庄式人工呼吸法の適応においては、感染や肺線維症などの重篤な合併症や、肺
循環に対する悪影響を誘発する。
これに対し横隋戚ペーシングは、横隔膜ベースメーカによって横隔神経に周期
的に電気刺激を与え、人工的に横隔膜を収縮させて換気を確保する人工呼吸法で
ある。横隔膜ペーシングにおける呼吸様式は、自然呼吸に近い陰圧式呼吸である
ため、長期間の適応においても防圧式人工呼吸法における問題を生じることがな
い。横隔膜ペーシングは、主に中枢性肺胞低換気症患者や呼吸不全を伴った四肢
麻痔患者に対して適応されており、有効な治療手段の一つとなっている。
現在臨床に使用されている横隔膜ベースメーカの問題点として、1)刺激電極装
着の際に横隔神経の損借の可能性があること、2)横隔膜の疲労現象により長時間
の連続使用が困難であること、3)換気量の自動調節機能がなく、患者の代謝需要
が変化した場合に換気量の過不足を生じることが挙げられる。
本研究の目的は、これらの問題点を解決す.ることのできる新たな横隔膜ペース
メーカの開発にある。本論文は、患者の代謝変化に即応して自動的に呼吸数を変
化させることができ、神経損佑および横隔膜疲労を生じ難い横隔膜ペースメーカ
の開発および、その有効性の評価について述べたものである。
本論文は8章からなっている。
第1章では、本研究の背景および目的について述べた。
第2章では、本研究に関連する呼吸運動の解剖および生理学的事項について述
べた。
第3章では、横隔膜ベースメーカの開発に至るまでの歴史とその原理について
述べた。また現在臨床に使用されている横隔膜ベースメーカの現状およびその問
題点について概説した。
第4章では、開発した横隔膜ベースメーカの換気制御方法および回路構成につ
ー1−
いて述べた。本ベースメーカは、動脈血CO2分圧と相関の高い呼気終末C O2分
圧を指標とし、この値が常に一定に保たれるように呼吸数を変化させて換気塵の
制御を行うものである。
第5章では、本ベースメーカで採用したペーシング方式である筋内電極を用い
た横隔膜ペーシングの結特性を動物実験によって調べた。基本的特性の測定から、
筋内電槌を用いた横隔膜ペーシングの最適の刺激波形および刺激条件を決定した。
また決定した刺激波形および刺激条件を用いて連続的に横隔膜ペーシングを行い、
その時の一回換気量の変化から疲労特性を調べた。
第6章では、本ベースメーカの換気制御方法の評価実験について述べた。正常
肺を有する動物および肺疾患を有すると考えられる動物に対して、本ベースメー
カを通用した。動物の代謝を冗進させるために発熱物質を経口授与し、その時の
血行動態、換気状恩および血液ガスを調べて本ベースメーカの換気制御方法の有
効性について検討した。
第7章では、肋間筋ペーシングの換気補助としての有効性について検討した。
横隔膜ペーシングでは肋間筋の収縮を伴わないので、上部胸郭の変形を生じ、変
形のない場合に比較して得られる一回換気量が減少する。横隔膜ペーシングの際
に、電気刺激によって肋間筋も同時に収縮させることができれば、上部胸郭の変
形を防止し、一回換気量の増大も期待できる。
第8章では、本研究を総括して結論を述べた。
本論文中の医学用話にはその後ろに*を付けて明示し、巻末に一括してその用
語解説を載せた。
本論文中の解剖学用語はラテン譜表妃とし、巻末にその日本語名と共にアルフ
ァベット順に一覧表にして載せた。
本論文中に使用した噂話は、巻末にその正式名称と共に一覧表にして載せた。
本研究に関する発表論文および学術講演は巻末に列記した。
′
′
● ●
−11−
目 次
概要 ‥‥‥‥‥‥‥・‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥・‥‥‥‥‥‥‥Hi
目次 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥iii
第1章 序論 ‥‥‥‥‥‥‥・‥‥‥‥‥‥‥・‥‥‥‥‥‥‥・‥・1
第2章 呼吸運動に関する解剖および生理学的事項 …………‥3
2−1 呼吸運動 ・‥‥‥‥‥‥‥‥‥・‥‥‥‥‥日日‥・‥‥・3
2−2 横隔膜および横隋神経 …………………………6
2−3 肋間筋および肋間神経 …………………………13
2−4 呼吸調節 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥・‥‥‥‥‥・13
第3章 横隔膜ベースメーカの歴史および現状 ‥‥・‥‥・‥・‥‥・17
3−1 横隔膜ベースメーカの歴史 ……………………‥17
3−2 横隔膜ベースメーカの原理 ……………………‥18
3−3 横隔膜ペースメーカの適応疾患 …………………・19
3−4 横隔膜ベースメーカの現状と問題点 ………………20
第4章 呼気終末C O2 分圧を指標とする横隔膜ベースメーカ …・25
4−1 呼気終末C O2 分圧について ……………………25
4−2 換気制御方法 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥・‥‥‥‥‥‥・25
4−3 ハードウェア ・‥‥‥‥‥‥‥‥・‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥27
第5章 筋内電極を用いた横隔膜ペーシングの諸特性 …………31
5−1 基本的特性の測定 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥・・・‥‥‥‥‥・31
5−1−1 実散方法 ‥‥‥‥‥・‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥日・31
5−1−2 実験結果 ………・∴‥‥‥‥‥‥・‥‥‥‥‥・32
5−1−3 考察 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥36
● ● ●
−111−
5−2 疲労特性の測定 ………………………………40
5−2−1 実数方法 …………・「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥40
5−2−2 実験結果 ………………………………40
5−2−3 考察 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥・‥・・‥‥‥‥‥‥‥・42
第6章 開発した横隔膜ベースメーカの代謝克進時における
評価実験 ……………………………………‥45
6−1 実験方法 ・‥‥‥‥‥‥・‥‥‥‥日‥・‥‥‥‥‥・‥‥47
6−2 実験結果 ……………………………………48
6−2−1 正常肺を有する動物に対する適用 …………‥48
6−2−2 肝疾患を有すると考えられる動物に対する適用 ‥52
6−−3 考察 ・‥‥‥‥‥‥‥‥・‥‥・‥‥‥‥・‥‥‥‥‥‥‥57
第7章 換気補助としての肋間筋ペーシング ………………‥61
7−1 実験方法 ……………………………………61
7−2 実験結果 ……………………………………66
7−3 考察 ………………………………………・70
第8章 結論 ‥‥‥‥‥‥・‥‥‥‥‥‥・‥・‥‥‥‥‥‥‥・‥‥72
謝辞 ………………………………………………‥75
参考文献 ……………………………………………・76
医学用詩解説 …………………………………………83
使用した解剖学用語一覧 ………………………………‥89
使用した略語一覧 ……………………………………‥91
本研究に関する発表論文および学術講演 ……………………92
−1V−
第1章 序論
人工呼吸法は、今日臨床上不可欠な治療手段である。従来からの院庄式人工呼
吸器による人工呼吸法は、多くの急性呼吸不全患者を蘇生可能とし、有効な治療
手段となっている。 ・
障圧式人工呼吸法は、障圧式ポンプによって強制的に肺に空気あるいは高濃度
酸素を送り込むものである。したがってその呼吸様式は自然呼吸に比べて非生理
的であり、静脈遠流量の減少に伴う心拍出量の低下1・2,や、肺血管抵抗の上昇に
伴う肺動脈圧の上昇‘I・日を生じる。特に長期間に及ぶ隔圧式人工呼吸法の適応に
おいては、感染5)、肺線維症*日・5)、自然気胸*2〉・日などの重篤な合併症の誘発
や循環不全2,等の問題を生じる。また、患者はチューブによって人工呼吸器に接
続されることになるために、発声や食事の摂取が困難となり、患者に対する負担
も大きく、家庭生滴や社会復帰も困難となっている。
これに対し横隔膜ペーシングは、横隔膜ペースメーカの刺激電極を介して横隔
神経に周期的に電気刺激を与え、人工的に横隔膜の筋肉を収縮させて換気を確保
する人工呼吸法である。横隔膜ペーシングにおける呼吸様式は、自然呼吸に近い
陰圧式呼吸であるため、陽圧式人工呼吸法に比べより生理的であり、院庄式人工
呼吸法に伴う問題を生じることがない。
現在臨床に使用されている横隔膜ベースメーカは、1966年にGlennら6)によっ
て開発された高周波誘導型横隔膜ベースメーカである。横隔膜ペースメーカは、
主に中枢性肺胞低換気症*3〉患者や呼吸不全を伴った四肢麻痔患者に対して適応
されている。また、慢性閉塞性肺疾患*いや胸部手術後急性期における人工呼吸
法としての使用3・7)も行われている。その臨床使用例は、全世界で約600例以上
に及ぶ吟)。横隔膜ペースメーカの出現により陽圧式人工呼吸器から離脱すること
ができ、家庭生滴や社会復帰が可能となった例も報告されている9)。現在横隔膜
ペースメーカによる呼吸のみで10年以上の長期にわたって生括している症例も少
なくなく、最長期間は15年以上に及ぶ川)。
このように横隔膜ベースメーカは、臨床における有用性が認められてはいるも
のの、依然として以下に示す問題点を有しているために広く普及しているとは言
−1−
い難い。
1)刺激電梅装着の際に横隔神経の損傷の可能性がある。
2)長時間の連続使用において、横隔膜の疲労現象によって一回換気量*5)が減少
し、必要な換気量を維持することができない。
3)換気量の自動調節機能がなく、患者の代謝需要が変化した場合に換気量の過
不足を生じる。
したがってこれらの問題点を解決することのできる横隔膜ペースメーカの開発が
強く望まれる。
1)、2)の閉居点に関しては、筋内電極を用いた横隔膜ペーシングが有効である
と考えられる。従来の横隔膜ペースメーカのペーシング方式は、横幅神経に装着
した刺激電極によって直接的に横隔神経を刺激するものである。これに対し筋内
電極による横隔膜ペーシングは、横隔膜筋内部に埋め込んだ刺激電極によって間
接的に横隔神経を刺激するものである。したがって直接横隔神経を取り扱うこと
がなく神経損傷の可能性が小さい。また刺激電極の横隔神経への直接の影響を避
けることができ、その特性によって横隔膜の疲労現象も進行し難いものと考えら
れる。
3)の問題点に関しては、換気量の自動調節機能を有する横隔膜ペースメーカが
いくつか開発されてはいるが、いずれも清足しうるものではなく、臨床応用まで
には至っていない。呼気終末CO2分庄(PHCO2)は、換気量変化によって直接
的に変化する生理的指標である動脈血CO2分圧(PaCO2)と相関が高く、換気
量の自動調節を行うのに最適な生理的指標であると考えられる。PETC02によ
って換気量の自動調節を行うことのできる横隔膜ペースメーカについてはSatoら
1日によって既に提案されているが、3−4で述べるように患者の代謝が変化し
た場合に必ずしも有効であるとは言えない。
そこで本研究では、上記の閉居点を解決するために、PETC02を指標として
ペーシングレートを変化させて患者の代謝変化時にも適切な換気量を確保するこ
とのできる筋内電極を用いた横隔膜ペースメーカを開発し、その有効性を評価す
ることを目的とした。
−2−
第2章 呼吸運動に関する解剖および生理学的事項
2−1 呼吸運動12−1日
人体は絶えず外界から酸素を取り入れて消費し、最終代謝産物である炭酸ガス
を外界に排出している。この酸素の摂取と炭酸ガスの排出は、肺において血液と
空気の間で行われ、ガス交換といわれる。肺におけるガス交換は、生命を維持す
るための最も根本的な生命現象であり、ガス交換のわずか数分間の中断は、生体
に重大な危険をもたらす。ガス交換を維持するために、吸気によって肺内に空気
を送り込み、呼気によってガス交換を終えた空気を体外に排出させる。この吸気
と呼気による運動を呼吸運動という。そして呼吸運動の際に働く筋を呼吸筋とい
う。
呼吸運動にはFig・1に示すように多くの呼吸筋が関与している−5)。呼吸運動に
おいて筋の収縮が吸気を引き起こす働きをする筋を吸気筋、呼気を引き起こす筋
を呼気筋という。呼吸の様相により動員される呼吸筋は異なるが(Tablel)川、
なかでも横隔膜(Diaphragla)、肋間筋群(Ml.intercostales)および腹筋群(伽.
abdoLinis)の役割が主である。
安静時の吸気は、能動的な吸気筋の収縮にほとんど依存し、呼気は拡大された
胸郭、腹壁、肺などの弾性復元によって受動的に行われる。安静呼吸では、横隔
膜と外肋間筋(鵬.intercostales externi)の収縮によって吸気が行われ、呼気
時にはこれらの筋が弛緩するだけであって、特別の呼気筋の関与はない。安静呼
吸では、一回の吸気で肺に入る空気のうち約70%は横隔膜の運動により、約30%
は外肋間筋の運動による。
深くあるいは速い呼吸時における吸気では、横隔膜、外肋間筋だけでなく斜角
筋(MA・SCaleni)、胸鎖乳突筋(H.sternocleidonaStOideus)等の補助呼吸筋が関
与してくる。呼気では主に腹筋群と内肋間筋(MA.intercostalesinterni)が呼
気筋として働く。前者は肋骨を下方に引くと同時に腹部内臓を圧迫して横隔膜を
上方に押し上げ、後者は肋骨を下方に動かし、共に胸腔を狭めるように働き、積
極的に呼気を行う。
うー
Fig.1Main respiratorY muSCles.15)
ー4−
Tablel Muscles,rOOtS and nervesinvoIvedin the phases
of resplratlon.14)
Root
Muscle
Peripheral nerve
Quietinspiraヒion
、C3−C5
Dlaphragma
N.phrenicus
T1−で12
Nn.intercosヒales
Diaphragma
C3−C5
N.phrenicus
Mm.intercostales externi
で1−で12
Nn.intercosヒales
Mm.inヒercosヒales exヒerni
Forcedinspiration ●
N.accessorius
M.ste.rnocleidomasヒoideus
Mm.scaleni
C2−C8
N.cervicales
Mn.1evaヒores costarum
で1−で1
Nn.intercostales
M.pecヒoralls ma〕or
C5−C8
N.pectoralis medialis
et laヒeralis
C5−C8
N.pectoralis medialis
eヒ1aヒeralls
で1−で12
Nn.intercostales
M.obliquusinternhs abdominis T8−Tll
Nn.intercostales
M● PeCヒoralls
mlnor
Quieヒ expiraヒion
Forced expiraヒion
Mm.inヒercosヒalesinterni
N.subcosヒalis
N.iliohypogasヒricus
M.obliquus externus abdominis T8−Tll
Nn.intercostales
N.subcosとalls
N.iliohypogasヒricus
T8−で11
M.transverSuS abdominis
N.subcostalis
N.iliohypogastricus
M.recヒus
abdominis
T5−Tll
M.serraヒus posteriorinferior T7−Tll
N.subcosヒalis
Nn.intercostales
N.subcostalis
ー5−
呼吸運動に伴う胸郭および横隔膜の変化をFig.2に示す12)。呼吸運動における
吸気時(Inspiration)には、外肋間筋等の吸気筋の収縮によって胸郭が挙上され、
また横隔膜の収縮によって胸腔が拡大される。一方、呼気時(Expiration)には内
肋間筋等の呼気筋によって胸郭が引き下げられ、また横隔膜の弛緩によって胸腔
が狭められる。 、
安静呼吸における肺内圧(Pressurein thelung)、胸腔内圧(Pressurein the
thoracic cavity)、換気量(Ventilation voluAe)および換気流速(Ventilation
flow)の変化をFig.3に示す13}。また防圧式人工呼吸法(PP8)における肺内圧およ
び胸腔内圧の変化を同図に示す。胸腔は外界に対して閉鎖された空間で、前後の
胸壁により外界と、横隔膜により腹腔と境されている。胸腔内は左右の肺によっ
て占められている。肺内は、気管支、気管、上気道によって外界に通じている。
呼吸運動によって胸腔容積が変化し、その容積変化による胸腔内圧変化によって
肺が縮んだり膨らんだりし、それによって肺内に空気が出入りする。安静呼吸で
は、呼気位および吸気位における胸腔内圧はそれぞれ一5∼−8C皿H20で、この時の
肺の弾性圧は+5∼+8cnH20、肺内圧は0で気流の流れはない。吸気筋が収縮すると、
胸腔内圧の陰圧は肺の弾性圧を上まわるために、肺内圧は外界に対し陰圧となり
吸気が起こる。吸気筋が吸気終末で弛緩すると、肺の弾性圧によって肺は受動的
に収縮し呼気が始まる。一方、陽圧式人工呼吸法においては、肺内圧の平均は院
庄となり、また胸腔内圧も上昇するために、静脈還流量の減少に伴う心拍出量の
減少や肺血管抵抗の増大による肺循環への悪影響を生じる。
2−2 横隔膜および横隋神経川・17,
横隔膜は腰椎、下部肋骨、胸骨に起始し、ほぼ中央の腱中心に集まる筋線経か
らなる膜様ドーム状の骨格筋で胸腔と腹腔とを分けている。Fig.4は、横隔膜を
腹腔側からみた図である16}。横隔膜は腱中心(CentruL tendineuA)と、さらに小
部分に分けられる筋性部からなっている。両側に胸骨部(Pars sternalis)、肋骨
部(Pars costalis)および腰椎部(Parslu■balis)が区別される。胸骨部は剣状突
起の内面から出て、腱中心に入り込んで終わる。肋骨部は第7∼第12肋骨の内面
−6−
一エー
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(ZL・UOT叩TTIUaA叩ubで叫deTp aqlpUでXでJOtn叩=01Uaua^OW Z●BTd
UOTlでJTdx耳:一一…−
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01・2 3 4
Fig・3芸慧‡三;n㌻篭芦てalventilationandpositive
−8−
FOraヨen くenae
Caくae
Fiやゝ Aspect Of the diaphra琶Seen frOヨthe abdOヨ1na卜surface・一三
−?
から起こり、腱中心に終わる。腰椎部は第1∼第4腰椎稚体前面および第1∼第2腰
椎肋骨突起に起こり、腱中心に終わる。
横隔膜には、各種臓器の通路となる孔が開口している。脊椎の前方にある大動
脈裂孔(Hiatus aorticus)には拘大動脈、交感神経叢、胸菅および奇静脈が通る。
食道裂孔(Hiatus esophageus)には食道と迷走神経が通る。大静脈孔(ForaAen
Venae CaVae)には下大静脈と右横隔神経の小枝が通る。また腰椎部の内部には、
大・小内蔵神経、右側奇静脈、左側半奇静脈および両側の交感神経幹が通ってい
る。
横隔膜の支配神経は横隔神経(N.phrenicus)である。Fig.5は胸腔内での横隔
神経の走行を示したものである18り。C3∼C5レベル*6,の頸椎から出た横隋神経は
繋部で前斜角筋(M.scalenus anterior)の上を斜めに下降し、鎖骨下動脈の前で
胸郭上口の中に入り、壁側心腹と縦隔胸膜の間を通って横隔膜に連する。横隔神
経は、横隔膜上部で分枝し横隔膜内に入る。横隔神経は主に3校に分枝し、それ
ぞれ前校(RahuS anterior)、外側枝(RaLuSlateralis)、後枝(Ranus posterior)
となる。Fig.6は胸腔側からみた横隔神経分枝の横隔膜内での走行を示したもの
である=)。前校は横隔膜の胸骨部と腹側方の肋骨部を支配している。外側枝は
横隔膜の外側方の肋骨部を支配している。後枝は横隔膜の背側方の肋骨部と腰椎
部を支配している。
横隔神経を支配する上位運動ニューロンは、脳幹を出た後、脊髄を下降してC3
∼C5レベルで脊髄の前角細胞でシナプス*7,を作り下位運動ニューロンとして脊
髄を出る。横隋神経の運動枝は、C3∼C5レベルの脊髄前角細胞を神経細胞体とし、
その軸素が脊髄を出て横隔膜に至る。
したがってC3レベルよりも上位で脊髄損傷等を生じた場合には、横隔膜の麻痔
を生じる。また他の呼吸筋も、C3レベルよりも下位の脊髄から出た神経によって
支配されているために、同様に麻痺を生じ、換気を維持することはできない。
横隔膜の収縮は中心部を下方に引き下げると同時に、わずかに下部肋骨を挙上
する。中心部の動きは腱中心を左右にやや離れた部分で最大で、立位安静呼吸時
で1.5cm前後、深呼吸時では6∼7C■以上に連する。
ー10−
N.phrenicus
Diaphragma
Fig.5 Arrangement of the phrenic nervein the thoracic cavitY・16)
−11−
−Zト
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UaaS u丘甘JqdでTp aql uTtnTA SUOTST^Tp TでdT〇UTJd a^JaU DTUaユLTd 9●BTLJ
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2−3 肋間筋および肋間神経16・17}
肋間筋には、外肋間筋と内肋間筋が存在する。Fig.7に外肋間筋と内肋間筋を
示す17〉○ 図中の矢印の実線は筋の走行、点線は運動の方向を示す。外肋間筋は
肋骨(Costae)下緑より起こり、胸壁前部では外側上方から内側下方へ、外側部で
は後上方から前下方へ 後部では内伽上方から外側下方へ向かって走り、それぞ
れ次位肋骨の上緑に付着する。内肋間筋は外肋間筋の内方にあり、その走行は外
肋間筋とは逆方向で肋骨下操から起こり次位肋骨の上棟に付く。
肋間筋の支配神経は肋間神経(Nn.intercostales)である。肋間神経の走行を
Fig・8に示す1”。Tl∼T12レベル*8)の胸椎(Vertebrae thoracicae)から出た肋間
神経は、肋骨下操に沿って最初は胸郭の内面を、ついで内肋間筋と最内肋間筋
(h・intercostalesinti■i)の問を肋間動静脈に伴って走る。そのうち第1∼第6
肋間神経は水平に横走して胸骨(Sternu皿)嫁に連するが、第7∼第12肋間神経は下
位のものほど急角度で前下方に向かって走り、前胸壁の正中線に連する。
肋間神経を支配する上位運動ニューロンは、脳幹を出た後、脊髄を下降してTl
∼T12レベルでそれぞれ脊髄の前角細胞でシナプスを作り下位運動ニューロンと
して脊髄を出る。肋間神経の運動枝は、Tl∼T12レベルの脊髄前角細胞を神経細
胞体とし、その軸素が脊髄を出て肋間筋に至る。
呼吸運動の吸気相、呼気相における外肋間筋および内肋間筋の活動様式とその
作用については必ずしも明かではないが、概括的にいって外肋間筋はその収縮に
よって肋骨を引き上げ、胸郭を広げることで吸気筋に属する。一方内肋間筋はそ
の収崩によって肋骨を引き下げ、胸郭を狭めることで呼気筋に属する。また肋間
筋群の収縮は、胸郭の安定化に寄与し、横隔膜の収縮による胸郭の変形を防いで
いる15)。
2−4 呼吸調節12・19−21,
呼吸運動の調節のしくみをFig.9に示す12,。呼吸運動は、脳幹(Truncus
encephalicus)の呼吸中枢を中心として大脳皮質(Cortex cerebri)、脳幹および
−13−
Fig.7 Aspect of the externaiandinternalintercostalmuscles・17)
Mm.intercostales externi
Mm.intercostales
interni
Nn.inヒercostales
仙m.intercostales
lnヒimi
Fig.8 Arrangement of theintercostalnerve・17)
ー14−
Cortex cerebri
ー一
Fig.9 Regulation of the respiration・12)
−15−
脊髄(Medulla spinalis)によって制御されている。体液中のPH、CO2分圧およ
び02分圧の変動は呼吸連動に変化を起こし、これらの化学成分の恒常性を保つ
ように換気が制御される。体液中の州、CO2分圧および02分圧は化学刺激とし
て作用するが、これらを受容する化学受容器には、中枢性化学受容器(Central
CheAOreCepter)と末梢性化学受容器(Peripheral cheAOreCepter)がある。中枢性
化学受容器は脳脊髄液の、末梢性化学受容器は動脈血の化学的環境を感受して呼
吸中枢に情報を送り、呼吸運動を変化させて換気量を変化させる。
中枢性化学受容器は延髄の腹側部(Ventralis)に存在し、脳脊髄液中のpHの低
下あるいはCO2分圧の上昇によって呼吸運動が促進される。
末梢性化学受容器には、頸動脈体(Carotid body)と大動脈体(Aortic body)と
がある。頚動脈体は、総額動脈が内頸動脈(A.carotisinterna)と外頚動脈(A.
CarOtis externa)に分岐する部分に左右一個ずつある。また大動脈体は、大動脈
弓(Arcus aortae)の近傍に数個存在する。これらの末梢性化学受容器は、動脈血
pH(pHa)の低下、PaC02の上昇、動脈血02分圧(PaO2)の低下によって刺激さ
れ、頸動脈体の情報は舌咽神経印.glossopharyngeus)を介して、大動脈体の情
報は迷走神経(N・VaguS)を介して呼吸中枢に伝達され呼吸運動が促進される。換
気調節に最も重要な要素はPaC02で、この調節機構の感度は特に敏感である。
安静や運動が繰り返されてもPaC02の日内変動は311Hg以内にすぎない。この
ような呼吸の化学性制御は、覚醒、睡眠、運動などの状態を問わず有効に作用す
る。
化学受容器以外にも呼吸に関する受容器がいくつか知られている。このうち特
に重要な受容器は、肺および気管支にある伸展受容器である。呼吸運動によって
肺および気管が拡張した場合に、延髄の吸気中枢を抑制するように働き、橋の呼
吸調節中枢と共に呼吸の深さと呼吸数の調節にあずかる。この反射を、Hering−
Breuer反射という。
したがって脳幹の呼吸中枢がおかされると呼吸の調節機構が正常に働かず、脳
脊髄液中のpHの低下、CO2分圧の上昇あるいはpHaの低下、PaC02の上昇、
Pa02の低下に対しても呼吸運動が促進されずに呼吸不全となる。
ー16−
第3章 横隔膜ペースメーカの歴史および現状
3−1 横隔膜ベースメーカの歴史
横隔神経を電気刺激すれば、横隔膜を動かすことができるということは、200
年以上も前から知られていた。
1937年にWaud22,は、横幅神経を連続刺激波によって電気刺激することにより、
呼吸運動をさせることができることを最初に発表した。
1948年、Sarnoffら23)は、動物実験において横隔神経を電気刺激することによ
り、22時間にわたってPa02が十分に維持できたことを報告した。そして彼らは、
この人工呼吸法をEPR法(Electrophrenic respiration)と命名した。
1949年、Sarnoffら2日は、脳炎による球麻痔*9,に対して、頚部における横隋
神経に電気刺激を行い、短時間ではあったが好結果を得たことを報告した。その
後も彼らは、EPR法に関して系統的に研究を行い、多くの報告がなされた25−3日い。
彼らが用いたEPR法は、横隔神経直接刺激法および経度的刺激法であった。横隋
神経直接刺漁法は、頚部において横隋神経に直接刺激電極を装着し、刺激電極に
付属するリード線を患者の皮膚を貫いて体外の刺激装置に接続して刺激を行うも
ので、皮膚穿刺部の感染の問題があった。また経度的刺激法は、頸部において刺
激電極を体表上に置き、皮膚を介して横隔神経を刺激するもので、感染の恐れは
ないものの刺激の不安定性等の問題があり、いずれの方法も臨床に広く用いられ
るには至らなかった。
1950年代の後半以降になると、ワクチンの開発によってEPR法のよい適応と考
えられていた急性小児球麻痔が減少し、それに伴いEPR法も行われなくなり、EPR
法に関する報告も減少した。しかしながら1960年代に入ると、再びEPR法に関す
る実験的、臨床的研究が報告されるようになり、その方法や適応において新しい
知見がみられるようになった。
1965年、Daggetら3日 は、浅外頸静脈より上大静脈にカテーテル型刺激電極を
挿入し、経静脈的に横隔神経を電気刺汝する経静脈性横隋神経刺激法について報
告した。
−17−
1966年、Glennらいは、既に開発されていた高周波誘導型心臓ペースメーカの
原理を応用し・高周波誘導型横隔膜ペースメーカを開発した。これは、刺激電極、
受悟機、ループアンテナおよび刺激発生装置よりなる。頸部あるいは胸部におい
て横隔神経に刺激電極を装着し、刺激電極に接続した受信機を皮下に置く。体外
の刺激発生装置から送悟された高周波は、ループアンテナを介して皮下の受信機
に伝えられ、横隋神経を刺激するものである01968年よりGlennら−2,は、高周波
誘導型横隔膜ペースメーカの臨床応用を開始し、主に彼らのもとで現在までに約
600例の臨床応用が報告されている。
Glennらは、横隔膜を一定の間隔で刺激するという概念は、心臓ペーシングと
変わりないとして、EPR法に対して横隔膜ペーシングと呼ぶことを提唱した。
3−2 横隔膜ペースメーカの原理
心臓ペースメーカの場合は、心筋に対して帥値*18〉以上の強度をもったlnsec
程度の単発パルスを与えるだけで、all or noneの収縮*ll)に従って心室全体を
スムーズに収縮させることができる。これは心筋細胞が機能的合胞体*日日をつく
り、心筋自身に興奮の伝導性があるからである。しかし骨格筋である横隔膜の場
合には、その支配神経である横隔神経を刺激しなければ横隔膜の全体的な収縮を
得ることはできない。また、ただ単に単発パルスを与えるだけでは、しゃっくり
様の横隔膜の動きを起こすにすぎない。そこで横隔膜全体のスムーズな収縮を得
るためには、横隔膜の筋肉に対して開値以上の強度をもった連続するパルス列を
必要とする。横隔膜ペーシングでは、Fig.10に示すように0.15msec程度のパルス
幅(Pulse width)で、40ASeC程度のパルス間隔(Pulseinterval)を有するパルス
列で横隔神経を刺激しなければならない。このパルス間隔の逆数を繰り返し周波
数(Burst frequency)という。パルス列の刺激によって横隔膜が収縮し吸気が行
われる。この刺激時間が吸気時間(Inspiratory period)となる。呼気は刺激を休
止することによって行われ、横隔膜の弛綾および拡大された腹壁や肺などの弾性
復元によって受動的に行われる。この休止時間が呼気時間(Expiratory period)
となる○ したがって一回の呼吸運動に要する時間(Respiratory period)は、吸気
−18−
eriodJn幽10ryPeriodcme。t
」皿此山>Time
軒一句
●
ExpJrQ10ry Period
0.15msec
l←可
PutseinlervQl=1/BulsHrequency=40msec
Bursl
frequency=25Hz
Fig.10 Stimulating pulse trainin diaphragm pacing・
時間と呼気時間の和によって与えられる。
3−3 横隔膜ベースメーカの適応疾患
横隋頗ペーシングの適応においては、電気刺激によって横隔神経、横隔膜系が
正常に反応し、肺、胸郭系が換気力学的にほぼ正常であることが前提となる。し
たがって、下位運動神経以下の障害による疾患、たとえば、筋ジストロフィー
*=り、重症筋無力症*川、横隋神経麻痔および肺自体に起因する呼吸不全症例で
は横隋頗ペーシングの適応外となる。
横隔膜ペーシングの適応は、大別して四肢麻痔と中枢性肺胞低換気に分けられ
る。
頚髄損は=こよる四肢麻痔の症例のうち、C3レベルよりも上位の損傷の場合に横
隔膜ペーシングの適応となる9・●き3−日,。原因としては、自動車事故、スポーツ外
怯、頸髄手術後などの外侮によるものであるが、腫瘍や脊髄空洞症*15Iによる脊
髄系の圧迫による場合もある。
一方、中枢性肺胞低換気の原因としては、原因不明のいわゆる原発性*16I肺胞
−19−
低換気症候群の他に、脳炎、脳幹部の腫瘍または梗塞*17)、外傷などの病変に伴
うものやpickWkkian症候群*t日等がある25・36−48日。中枢性肺胞低換気は、呼吸
中枢におけるCO2ガスに対する感受性低下を特赦とし、覚醒時における換気量
の低下や夜間睡眠中の著明な低換気ないし睡眠時無呼吸を生じる。
Severringhausd日は、このような特徴を有する症候群をOndine,s curseと呼んだ。
その他に、慢性閉塞性肺疾患3日2・…や、肺切除術後3,あるいは関心術後7)
急性期の適応も行われている。慢性閉塞性肺疾患への適応では、本疾患において
しばしばみられる呼吸中枢の換気応答性の低下に基づく低換気状態を補助するこ
とを目的としている…。肺切除術後あるいは関心術後急性期の適応では、術後
の右心負荷の軽減*19,を目的とする。
横隔膜ペーシングの適応と考えられる患者に対しては、横隔神経が電気刺激に
対して正常に反応するかどうかを確かめる必要がある。
横隔膜の麻痺を伴わない中枢性肺胞低換気においては、Ⅹ緑透視で横隔膜の運
動が十分に大きいことを確かめること、そして自発的呼吸を行わせた時に動脈血
ガス所見が正常化することを確かめることにより横隔神経および横隔膜系の機能
が正常であることがわかる。
四肢麻痔では呼吸筋が麻痺している場合が多く、横幅神経に電気刺激を与えて
その反応性を検討する必要がある。頚部の横隋神経に桂皮電極を介して電気刺激
を与え、その結果生じる横隔膜の収縮を皮膚表面電極により筋電図としてとらえ
る。そして反応の強さおよび刺激伝導時問を測定する。刺激伝導時間が、7.5∼
10nSeCであれば正常で横隔膜ペーシングの適応となるが、10∼12nSeC以上に延長
している場合には、横隔膜ペーシングの適応とはならない45)。
3−4 横隔膜ペースメーカの現状と問題点
1)横幅神経の損傷の可能性がある。
現在の横隔膜ペースメーカのペーシング方式は、頸部あるいは胸部における横
隔神経に刺激電垣を装着し、直接横隔神経を刺激するものである。したがって、
刺激電極装着時に直接横隔神経を取り扱うことになる。この際に横隔神経を損傷
ー20−
させる18}可能性が大きく、きわめて細心の注意が必要となる。刺激電極装着時
に横隔神経の栄養血管である、神経に伴走する細動脈を破綻させると、脱髄*20)
等の神経変性を生じる。また刺汝電極装着時に横隔神経周囲の組織の剥離が完全
でないと神経周囲組織の線維化を生じる。その他に刺激電極による横隋神経の機
械的圧迫や刺汝に伴う電極装着部位における神経細胞の電気分解等46)も考えら
れる。また体動等によって刺汝電極やそのリード線が引っ張られたような場合に
は、横隔神経に過度な力が加わり、横幅神経の損傷の原因ともなる。このような
神経損傷を生じた場合にはペーシング不全を起こす。神経損傷の程度が重い場合
には再生に多くの年月を要し、再生しても完全な機能回復を得られるとは限らな
い。神経損傷はまた横隔農の疲労現象の一因となることも考えられる。
2)横隔膜の疲労現象を生じる。
横隔膜ペースメーカの長時間の連続使用においては、横隔膜の疲労現象を生じ
る。横隔膜の疲労現象とは、横隔膜または横隋神経に対して適度の刺汝を加えて
も十分な横隔膜の筋収縮が得られない状態をいう。そしてこの現象は一回換気量
の減少として反映される。横隔膜ペーシングを12時間以上継続すると横隔膜の疲
労現象によって横隔膜の収縮力が弱まり、収縮力を回復するために12時間以上を
要するようになる46,。したがって、24時間連続的に横隔膜ペーシングを行う必
要のある患者の場合には、両側の横隋神経を交互に12時間ずつ電気刺激する方法
がとられている。しかし子供や幼児では、片側の横幅神経の電気刺激のみでは必
要とする換気主を維持することができず、両側の横幅神経の同時刺激と院庄式人
工呼吸法とを12時間ずつ交互に行う方法がとられている。
横隔膜疲労の原因として、刺激電極と横幅神経との接触部位での神経興奮性の
低下=)、横隋神経と横隔膜の神経筋接合部におけるアセチルコリン*21,分泌の
低下=・4≦日、横隔膜筋自体の筋肉疲労5いなどが考えられている。しかしながら、
横隔膜ペーシングの長時間連続使用に伴う横隔膜疲労のメカニズムやその発生部
位については必ずしも明らかになっていない。
この横隔膜疲労の問題に対処するために、横隔神経に与える刺汝電淀の波形、
刺激条件および刺激電極の形状等の改善に関する報告3−1・一13・47・51■−53,が多くな
一2ト
されたo Glennら35)は、低周波数、低刺激回数のペーシングで横隔膜を疲労し難
い筋に調整(Conditioning)することにより、呼吸不全を伴った四肢麻痔患者に対
して、両側の横隔神経を同時に24時間の連続ペーシングを行い、最高33ケ月にわ
たり良好なガス交換が得られたことを報告している。また8aerらは5‥は、4電極
で横隔神経をはさみこみ、刺激をこの4電極間を回転させて個々の横隋神経線経
の刺激頻度を減少させることによ.り、横隔膜の疲労現象を回避できるとしている。
しかしながら、いずれの方法も従来の横幅神経に刺激電極を装着し直接横隋神経
を刺激するペーシング方式を用いており、横隔神経の損傷の可能性がある。
1)、2)の問題点を解決する上で、筋内電極を用いた横隔膜べ●−シングが有効で
あると考え、本ペースメーカでは筋内電極によるペーシング方式を採用した。
3)換気量の自動調節機能がない。
現在臨床に使用されている横隔膜ペースメーカは、患者の代謝変化とは無関係
に一定のレートおよび一定の強度で横隔神経を刺激するものである。したがって
患者の得ることのできる換気量は常にほぼ一定で、患者の代謝が変化した場合に
は換気量の過不足を生じる。
換気量を制御する方法の一つとして、患者に弱い自発呼吸が残存する場合に、
その自発呼吸に同期してペーシングを行うことによって患者の呼吸中枢の制御機
構を利用する方法がある。このように残存する自発呼吸に同期してペーシングを
行う横隔膜ペースメーカとして、次のようなものが提案されている。
Johnsonら55,は、残存する自発呼吸に手動によって岡期させてペーシングを行
う横隔膜ペースメーカを提案している。
Bilgutayら56,は、鼻腔に取り付けたサーミスタセンサによって自発呼吸を検
出し、これに同期してペーシングを行う横隔膜ペースメーカを提案している。
Kanekoら∼7)は、残存する自発呼吸を胸郭のインピーダンス変化としてとらえ、
これに同期してペーシングを行う横隔膜ペースメーカを提案している。
Hoshi再yaら58)は、横隔神経に装着した検出電極によって残存する自発呼吸の
活動電位*22,を検出し、これに同期してペーシングを行う横隔膜ペースメーカを
提案している。
ー22−
しかし・これらの横隔膜ペースメーカは、適応範囲が自発呼吸が残存する患者
に限られ、また自発呼吸を検出する際の検出悟号が微弱であるために検出エラー
も無視できない。
一方、患者の呼吸中枢の換気制御機構を利用せずに換気量を制御する方法とし
て、患者の生理的指標を用いて代謝変化を検出し、これによって換気量の制御を
行う方法がある。
患者の生理的指標によって換気量の制御を行う方法として、患者の代謝変化に
伴って変化する生理的指標を潮定し、その測定値によって換気量を制御するオー
プンループ制朝日こよる方法がある○ その生理的指標としては体温や心拍数などが
考えられる。
Kihuraらは、体温59,あるいは心拍数…,によってペーシングレートを制御する
横隔膜ペースメーカを提案している○ そして評価実験においては、代謝変化に対
して有効な換気制御を行うことができたことを報告している。しかしながら体温
や心拍数と換気量の間の関係は間接的なものであり、体温や心拍数は代謝変化以
外にも様々な要因によって変化する。したがって体温あるいは心拍数とペ_シン
グレートの関係の設定が適切でないと良好で安定した血液ガスを維持することは
困難であると考えられる。
患者の生理的指標によって換気量の制御を行う別の方法として、換気量の変化
によって直接的に変化するPaO2、PaC02やpHa等の生理的指標を沸定し、こ
れらが正常値となるように制御を行うクローズドループ制御による方法がある。
この制御方法によれば正常な呼吸と同様なフィードバック制御を行うことができ、
有効な換気制御を行うことができるものと考えられる。
血液中のPaO2、PaC02やpHa等を、長期間安定に沸定することのできるセ
ンサは現在のところない。しかしPETC02は、PaC02と相関が高く間接的に
PaC02を知ることができる。近年CO2モニタの開発により、呼気中のCO2分
圧の長期間安定な連続的測定が可能となり、臨床においても一般に呼吸管理に使
用されている○ したがってCO2モニタを用いてPETC02を測定すれば、動脈血
を採取することなく連続的に患者の代謝変化を知ることができ、PHC02は換
気量の制御を行うのに適切な生理的指標であると考えることができる。
−23−
PETC02によって換気量を制御することのできる横隔膜ペースメーカは、既
にSatoら1日によって提案されている。彼らは、あらかじめPETC02とペーシン
グレートの間に線形的な関係を設定し、この関係に従ってペーシングレートの制
御を行う換気制御方法を提案している。しかしこのような換気制御方法では、
PHC02とペーシングレートの関係の設定が適切でないと、PE,C02が目標値
よりも高くあるいは低く保たれて換気畳の過不足を生じる可能性が大きく、代謝
が変化した場合に良好で安定した血液ガスを維持することができるかどうかは疑
問である。彼らは、評価実験で安静状態において有効な換気制御を行えたことを
報告しているが、代謝が変化した場合の評価実験については言及していない。
そこで本研究では、ペーシングレートを操作してPETC02のフィードバック
制御を行うことにより、代謝変化時においてもPaC02を正常値に維持すること
のできる新たな換気制御方法を提案した。そして本換気制御方法を発熱物質を経
口投与した動物に適用して、代謝変化時における有効性を検討した。
ー24−
第4章 呼気終末CO2分圧を指標とする横隔膜ベースメーカ
4−1 呼気終末CO2分圧について
単純化した肺をFig.11に示す。肺は、ガス交換に関与しない気道(Airway)とガ
ス交換が行われる肺胞(Alveolar)とに分けることができる。肺胞では毛細血管
(Capillary)内の血液と肺胞ガスとの間でガス交換が行われる。肺は約3億個の肺
胞からなっている。
気道上部でのCO2分圧を連続的に検出することを考える。Fig.12は気道上部
のCO2分圧(PECO2)の軽時的変化を示したものである。ペーシングが開始さ
れて横隔膜が収縮すると吸気が行われる(Fig.12 D∼A)。吸気相でのCO2分圧は、
吸気ガスすなわちrool airのCO2分圧を検出することになるのでほぼ零である。
そしてペーシングが終了して横隔膜が弛緩すると呼気が行われる(Fig.12 A∼D)。
呼気相では、初めはガス交換に関与しない気道部分から呼出されてくるガスなの
で吸気ガスのCO2分圧に等しくほぼ零であるが(Fig.12 A∼B)、やがてガス交換
に関与する各肺胞からのガスが混入してくるために、CO2分圧は次第に上昇し
(Fig.12 8∼C)、呼気の終末期にはCO2分圧はほぼ一定となる(Fig.12 C∼D)。
この一定となったC O2分圧がPHC02である。
PETC02は、PaC02と平衡状態にある肺胞内CO2分圧を示すものである。
したがって、PETC02は、PaC02と相関が高い。正常な肺では、呼気の終末
期に肺胞ガスは動脈血と充分に平衡状態に適して肺胞内CO2分圧は明瞭なプラ
トーを示す(Fig.12)。この場合には、PETC02はPaC02とほぼ等しい20,。
したがってPETC02がPaC02の正常値40nAHgとなるように分時換気量*23)
を制御することができれば、PaC02を正常値に保つことができ、有効な換気制
御を行うことができる。
4−2 換気制御方法
分時換気量を制御するための電気刺激パラメータを変化させる方法として、繰
−25−
CapillarY
Fig.11 Simpiified normallung.
40mmHg
PECO2
InspirQtion ExpfrQtion
l
I
Isec
Fig・12 CO2tenSion waveform during respiration with norma1
1ung.
−26−
り返し周波数・パルス幅、刺激電流強度などを変化させて一回換気量を変化させ
る方法とペーシングレートを変化させる方法とが考えられる。一回換気量の変化
によって制御を行った場合には、横隔膜ペーシングでは正常な呼吸運動にみられ
るような横隋腐以外の呼吸筋の運動が得られないので一回換気量の増加には限界
があり、高度に代謝が冗進して充分な分時換気量が必要な場合には対処しきれな
い。一方、ペーシングレートの変化によって制御を行った場合には、ペーシング
レートを増減させることによって比較的広範囲にわたって分時換気量を制御する
ことができる。したがって分時換気量の制御は、ペーシングレートによって行う
ことが好ましいと考えられる。
本ペースメーカにおける換気制御方法は、ペーシングレートの操作によって
PHC02のフィードバック制御を行い、分時換気量の制御を行うものである。
PHC02のフィードバック制雀=ま、PETC02の湘定借と目標値を比較し、その
制御偏差が零となるようにペーシングレートを増減して行う(Fig.13)。生体のよ
うに遅れのある複雑な系において、PETC02の制御偏差(△PETCO2)とペーシ
ングレートの増減量(△Pacing rate)の最適な関係を求めるのは非常に困難であ
るが・本研究では点も単純であると考えられるFig・14に示す傾き一定の直線関係
を用い、これによって制御を安定に行うことができるかどうかを検討することに
した6ト63〉。
低換気状態となってPETC02が目標値よりも上昇した場合には、その上昇の
偏差分から直線関係に従ってペーシングレートを増加させる。そしてペーシング
レートの増加によって分時換気量を増加させて、PETC02を低下させ目標値に
保たれるように制御が行われる。また、過換気状態となってPETC02が目標値
よりも低下した場合には、その低下の偏差分から直線関係に従ってペーシングレ
ートを減少させる。そしてペーシングレートの減少によって分時換気量を減少さ
せて、PHC02を上昇させ目標値に保たれるように制御が行われる。
4−3 ハードウェア
試作したPETC02を指標とする横隔膜ペースメーカのブロック図をFig.15に
−27−
PR:PcLCIng rQle
Fig.13 Block diagram of ventilation control method.
→TU盲ゴロ﹂印U⋮UUdq
△PETCO2.mmHg→
Fig・14 Relationship between the PETCO2deviation from
desiredlevel and the change of pacing rate.
−28一
PPI:ProgrQmmQbLe peripherQlinterIQCe
PJT:Progrq叩mCLbLe jnlervQL timer
Fig・15 Block diagram of PETCO25enSitive diaphragm pacemaker
Withintramuscular electrodes.
示す。呼気CO2分圧は、CO2モニタのセンサによって検出される。CO2モニ
タの出力より呼気CO2分圧の最大値が、ピーク・ホールド回路によって保持さ
れる。ワンボードマイクロコンピュータは、この呼気CO2分圧の最大値を8bit
のA/Dコンバータを介して入力する○ そして過去3回のPHC02の値と入力した
呼気CO2分圧の最大値とで加重平均をとり、この加重平均値を現在のP【TCO之
とする。コンピュータは・入力したPHC02からペーシングレートを計算し、
そのレートに従って刺激回路を介して横隔膜のペーシングを行う。ワンボードマ
イクロコンピュータには・ヱ80マイクロコンピュータを使用した。.PETC02のフ
ィードバック制御に関する制御パラメータや刺激電流強度、繰り返し周波数、パ
ルス幅などの刺汲パラメータの設定は、パーソナルコンピュータPC8801を介して
行われる。試作した横隔膜ベースメーカの外観をFig.16に示す。
−29−
ウリT P U T Ⅵl▲Vf1011■l
ヽ 亡▲▼l●00■▲
℡ や や日用
OIl ▲■011▲L
R【SP ■▲Tf
C01川■UT
CO2NO∼lTOPL
OUT■UT ■10∼lTOR
MONITOFI
LEFT
RIGHT
LFFT
FHGHT
BNEI
O e e ● ● ● ● ●
Fig・16 PETCO2SenSitive diaphragm pacemaker withintramuscular
electrodes.
′ノ
−30−
第5章 筋内電極を用いた横隔膜ペーシングの諸特性
3−4で述べたように従来の横隋神経を直接刺激するペーシング方式では、刺
激電極の装着の際に横隔神経を損傷させる…仁可能性があり、また横隔膜の疲労
現象により横隔膜ペーシングの長時間の連続使用は困難となっている。本ペース
メーカではこれらの問題点を解決する上で筋内電梅を用いた横隔膜ペーシングが
有効であると考え、このペーシング方式を採用した○筋内電極を用いた横隔膜ペ
ーシングは・横隔膜筋内に埋め込んだ筋内電極によって横幅神経を刺激するもの
である。したがって刺汝電極を装着する際に直接横隋神経を取り扱うことがない
ので横隔神経を損催させる可能性が小さい○ また刺激電極の横隔神経への直接の
影響を避けることができ、その特性によって従来のペーシング方式に比べ横隔膜
の疲労現象が進行し難いものと考えられる。
筋内電極を用いた横隔膜ペーシングを採用する上で、その諸特性を知ることは
重要である。しかし筋内電極を用いた横隔膜ペーシングの諸特性についての報告
はほとんどない。
本章では茄内電極を用いた横隔膜ペーシングの緒特性を調べた。5−1では筋
内電極を用いた横隔膜ペーシングの基本的特性を調べ、最適の刺激波形および刺
激条件を求めた64)。5−2では、5−1で求めた刺激波形および刺激条件を用
いて、筋内電極を用いた横隔膜ペーシングの疲労特性を調べた65,。
5−1 基本的特性の柵定
5−1−1 実験方法
三頚の雑種成犬(9・5kg∼14・Okg)に対し、ネンプタール(25mg/kg)ウレタン
(800mg/kg)混合麻酔を経静脈的に行った○ 気管カニューレを挿入し陽圧呼吸下で、
左側は第7肋間を、右側は第8肋間をそれぞれ切開し開胸した。両側の横隔神経が
横隔膜に入り込む点から約10…離れた横隔膜筋内部に左右それぞれ一ヶ所ずっ刺
激電極を埋め込んだ。刺汲電極を埋め込む場所は、テストプローブを横隔膜筋表
づ1−
面にあて、横隔膜の全体的な収縮が得られる位置に決定した。刺激電極には体外
式心臓ペースメーカ用電極(Hedtronic川ODEL6500)をモノポーラ型電極として使
用した。電極部はステンレススチール製で、直径0.8山、長さ3mmの円柱状をして
いる○ 刺激電極の外観をFig.17に示す。刺激電極を横隔膜筋内に埋め込んだ様子
をFig・18に示す。対梅として白金板(25X20Ⅹ0.1m)を第3肋間の高さで胸骨前方の
皮下に埋め込んだ。輸液のために大腿静脈よりカテーテルを挿入した。
刺激波形には、・有効な刺激が可能であると考えられる3種類の波形を使用した。
刺激波形をFig・19に示す。刺激波形は一定のパルス幅を有する定電流パルスが、
一定の周波数で繰り返される。(1)のBiphasic cathodal波形は刺激電極が対極に
対してカソードとなり負の電流を流す。(2)のBiphasic anodal波形は刺汲電梅が
対極に対してアノードとなり正の電流を涜す。(3)のBiphasic bidirectional波
形は刺激電極が対極に対しパルスごとにカソード、アノードと交互に代わり両極
性の電流を流す。いずれの波形も刺激電極から周囲の組織に流れる正味の電荷量
をゼロとするために、交流結合によって使用した。パルス幅を0.15nSeCとし、繰
り返し周波数を9、23、53Hzと変えて、それぞれの刺激波形の刺激電流強度と一
回換気量の関係を求めた。またパルス幅と一回換気量の関係を求めた。両側の刺
激電極には等しい強度の電流を流した。ペーシングレートは毎分15回とした。吸
気時間は至適吸気時間*2日の1.3秒とした。パルス幅0.15■SeC、繰り返し周波数
23Hzは従来の横隔神経を直接刺激するペーシング方式において滑らかな収縮が得
られる刺激条件である。この刺激条件よりも大きい繰り返し周波数として53Hzを
選んで検討した。繰り返し周波数9Hzの刺激条件は、Glennらが臨床に用いている
低周波数刺激における刺激条件35)である。
一回換気量は、フライッシュ型気流抵抗管(日本光電;TV−122T)および差圧トラ
ンスデューサ(日本光電;TP−602T)により換気気流を測定し、これを積分すること
によって求めた。
5−1−2 実験結果
Biphasic cathodal、Biphasic anodalおよびBiphasic bidirectional波形を用
づ2−
−紘一
●apOJ1〇aT∂丘uTleTnuTIS 上し・BTd
Caudalis
Cranialis
PD:N.phrenicus dexterr V:Ⅴ・CaVainferior
D:Diaphragmar ST:Stimulating electrode
Fig・18 Stimulating electrodeimplantedin the diaphragm・
づ4−
Re声竿eriodln西10ryPeriodcme。t
』111111__」11日1111_____」l榊111111111Lト晶e
1m
(1)BiphQSic cQthodQIwQVeform
◆ 0−
」UU丑山
2)BiphcLSic QnOdQIwQVeform
Widlh
◆ 0 −
PhQSic bidirectionQLwQVeform
PuIseintervQL=1/Burstfrequency
Burst
frequency=9−23−53Hz
Fig.19 Three stimulating current waveforms・
−35−
いた時の一回換気量(Tidalvolu−e)と刺激電涜強度(StiAulation current)の関
係の一例をFig・20∼Fig・22に示す○パルス幅は0・15mSeCである。パルス幅0.15
msec・繰り返し周波数23Hzのそれぞれの波形を用いた時の刺激電流強度と一回換
気量の関係の一例をFig・23に示す。他の例もほぼ同様な傾向を示した。Biphasic
Cathodal波形の開値は・約2AAであったo Biphasic bidirectional波形の閥値も
同様に約2皿Aであった。Biphasic anodal波形の開値は約4nAで、他の刺激波形に
比べ高値を示した。一回換気量は・いずれの刺激波形においても刺激電流強度に
よって制御することができた。Biphasic cathodal波形では、繰り返し周波数が
9Hzの時に横隔膜の収縮に伴う横隔膜の振動が観察された。23Hz、53Hzでは横隔
膜の振動は観察されす、滑らかな換気が得られたo Biphasic anodal波形では、
繰り返し周波数が9Hz・23Hzの時に横隔膜の振動が観察された。53Hzでは横隔膜
の振動は観察されなかった。Biphasic bidirectional波形では、繰り返し周波数
が9Hzおよび23Hzの刺激電流強度の小さい時に横隔膜の振動が観察された。53Hz
では横隔膜の振動は観察されなかった。一回換気量はBiphasic cathodal波形が
最も大きく、Biphasic anodal波形が最も小さいo Biphasic bidirectional波形
における一回換気量は、Biphasic cathodal波形とBiphasic anodal波形のほぼ中
間の値を示した。
繰り返し周波数が23HzのBiphasic cathodal波形を用いた時のパルス幅と一回
換気量の関係の一例をFig・24に示す○ 他の例もほぼ同様な傾向を示した。パルス
幅が約0・15msecで一回換気量がプラトーに達し、最大の一回換気量を得られるこ
とがわかった。
5−1−3 考察
実験結果よりパルス幅0・15ASeC、繰り返し周波数が23Hz以上のBiphasic
Cathodal波形では他の刺激波形に比べ得られる一回換気量が最も大きく、また横
隔膜の振動を生じることなく滑らかな換気が得られることがわかった。また開値
電涜値と最大刺激電流値との間に比較的大きな電流範囲があり、刺激電流強度に
よって比較的容易に一回換気量を制御できることがわかった。横隔膜の疲労現象
づ6−
5 10 15 20
51imutation current,mA
Fig●20 Evoked
tidal
volume
during
biphasic
cathodal
waveform
stimulation in case A.
5 10 15 20 25
5日mulauon current.mA
Fig●21Evoked
tidal
volume
during
stimulation in case A.
一37−
biphasic
anodal
waveform
Fig.22 Evokedtidalvolumeduringbiphasicbidirectional
waveform stimulationin case A・
Fig●23 Evoked
tidal
volume
during
stimulation in case A.
一光−
three
current
waveform
82 0.4 0.6 0.8 18 1.2
PuIse wIdlh.nsec
Fig・24 Relationship between stimulating pulse width and
evoked tidal volume during biphasic cathodal
WaVeform stimulationin case B.
1
を考えると繰り返し周波数が小さいことが好ましい。繰り返し周波数を23Hzより
も低下させると、繰り返し周波数の低下にしたがい横隔膜の振動が顕著となった。
したがってパルス幅0・15msec、繰り返し周波数が23Hz程度の8iphasic cathodal
波形が筋内電転を用いた横隔膜ペーシングの最適の刺激波形であると考えられる。
本実験では刺汲電極の埋め込む場所を、横隋神経が横隔膜に入り込む点から約
10…離れた横隋虐筋内部としたo Noch川0Vitzら66,は動物実験から刺激電梅の横
隔膜筋内部への刺入部位は、横隋神経が横隔膜に入り込む点を中心に2川以内が
有効であると述べている。刺激電梅が横隔神経に近すぎると刺激電極の横隔神経
への直接の影響が大きくなり、開値電流値と最大刺激電流値との間の電流範囲が
狭くなって一回換気量の制御が困難となることが考えられる。また刺激電極が横
隔神経より触れると充分な一回換気量を得るのに大きな刺激電流が必要となり、
そのような場合には刺激電極刺入部位の痔痛を起こす可能性も考えられる。した
がって適切な刺激電極の刺入部位の検討が必要である。
づ9−
5−2 疲労特性の沸定
5−2−1 実験方法
体重11・5kgの雑種成犬に対し、ネンプタール(25qg/kg)麻酔を経静脈的に行っ
た。
5−1と同様に、左側は第7肋間を、右側は第8肋間をそれぞれ切開し開胸した
後、横隔膜筋内部に左右それぞれ一ヶ所ずっ刺激電極を埋め込み閉胸した。刺激
電樋には体外式心臓ペースメーカ用電極をモノポーラ型電極として使用した。対
極として白金板を第3肋間の高さで胸骨前方の皮下に埋め込んだ。切開部位の治
癒、横隔膜筋内における刺激電極の定着および胸腔内圧の正常化を図るために一
週間経過した後、再びネンプタール(25mg/kg)麻酔を経静脈的に行った。気管内
に気管カニューレを挿入した。輸液のために大腿静脈よりカテーテルを挿入した。
刺激波形として5−1で最適であると考えられた、パルス幅0.15msec、繰り返し
周波数23IIzのBiphasic cathodal波形を用い、ペーシングレートが毎分15回のも
とで連続的に横隔膜ペーシングを行い、一回換気量の変化を調べた。一回換気量
は、5−1と同様の方法を用いて求めた。刺激電涜強度は、一回換気量が横隔膜
の最大収縮時に得られる一回換気量の約80%となるように電流値を設定した。滑
らかな換気が得られるように刺激パルス列の電流強度は、スロープをつけ、閉値
電涜値から徐々に増加させた(Fig・25)○ 吸気時間は至適吸気時間の1.3秒とした。
麻酔は角膜反射を調べ適宜追加した。
5−2−2 実験結果
横隔膜ペーシングの継続時間と一回換気量の変化の関係をFig.26に示す。横隔
膜ペーシングの開始初期に一回換気量がペーシング開始時の87%にまで減少した
ものの、その後は一回換気量はほぼ一定に保たれた。動物の代謝は輸液のみによ
ってまかなわれており、また輸液のカテーテル挿入のための切開部からの感染の
可能性も考えられる。したがって一回換気量の低下が動物の体力の消耗や感染に
ー40−
Time→
0
く∈、UPコ一〓dEO︸∪巴LコU
Fig.25 Stimulating current waveform.
︵ヂ︶むひuDも UE⊃一〇>一DPF
0 4
8 12 16 20 24 28 32 36
Time.hour
Fig●26 Tidai
volume
changes
paclng.
−41−
during
continuous
diaphragm
よるものなのか・あるいは横隔膜の疲労現象によるものなのかを判断するのは困
難であると考えられる。よって横隔膜ペーシングの継続は、36時間で中断した。
比較として、Tanaeら…の実験結果を同図に示す○彼らは本疲労実験とはぼ同
様な刺激条件のもとで従来のペーシング方式の疲労特性を調べた。頸部の横陥神
経に刺激電極を装着した麻酔下の雑種成犬に対して、一週間後にパルス幅0.15
mSCC、繰り返し周波数25HzのBiphasic cathodal波形を用い、ペーシングレート
毎分15臥 吸気時間1・3秒のもとで24時間にわたって連続的に横隔膜ペーシング
を行った。その結果、ペーシングの開始より一回換気量は減少し、12時間後には
ペーシング開始時の90%までに・24時間後にはペーシング開始時の37%までに一
回換気量が減少したことを報告している。
Fig・27に横隔膜ペーシングにおける換気流速波形および換気量波形を示す。比
較として自発呼吸(Spontaneous respiration)の換気流速波形および換気量波形
を同図に示す。
5−2−3 考案
実験結果よりペーシング開始初期に一回換気量の減少がみられたものの、その
後は一回換気量はほぼ一定に保たれ、筋内電極を用いた横隔膜ペーシングが従来
の横隔神経を直接刺激するペーシング方式に比べ横隔膜の疲労現象を生じ難いこ
とがわかった(Fig・26)。しかし実験例はわずか1例のみであるから、今後さらに
検討を要する。従来のペーシング方式において、自発呼吸を抑えた麻酔下の状態
で本疲労実験のように長時間にわたって一回換気量を維持できたという報告は知
り得る限り他にない。また茄内電極を用いた横隔膜ペーシングにおいて、自発呼
吸を抑えた麻酔下の状態での疲労実験については知り得る限り本実験のみである。
自発呼吸下の雑種成犬に対する筋内電極を用いた横隔膜ペーシングの疲労実験と
しては、Petersonら8)の報告がある。彼らは、筋内電極を埋め込んだ動物に対し
て・パルス幅0・1−SeC・繰り返し周波数30∼40HzのBiphasic cathodal波形を用い、
ペーシングレート毎分15回のもとで26週間にわたって横隔膜の疲労現象を生じな
い横隔頗ペーシングが実現できたことを報告している。
−42−
DiQPhrQgm
Sponlqneous
PqCing
resp汀qlion
l
VenlilqH0n
Ilow.L′sec O
VenlHqlion
VOlume.ml
1sec
Fig・27 Waveforms of ventilationm flow and ventilation volume
●
during diaphragm pacing and spontaneous respiration.
従来の横隔神経を直持刺汲するペーシング方式の横隔膜疲労の原因として、
3−4で述べたように・①刺汲電梅と横縞神経の接触部位での刺汲伝導能の低下、
②横隋神経と横隔膜の神経筋接合部位におけるアセチルコリンの放出不全、③横
隔膜筋自体の筋肉疲労が考えられている。
従来のペーシング方式では、3−4で述べたように、脱髄等の神経変性、横隋
神経の周囲組織の線維化・刺激電梅による横隋神経の機械的圧迫や刺激に伴う電
極装着部位における神経細胞の電気分解等の横幅神経の損傷の可能性が考えられ
る。これらの横隔神経の損傷は・①の刺汲電梅と横隋神経の接触部位での刺激伝
導能を低下させ、横隔鰯の疲労現象の一因となることも考えられる。しかし筋内
電極を用いた横隔膜ペーシングでは、刺激電極装着時に直接横隋神経を取り扱う
ことがないので・神経損侍の可能性を小さくできる。また刺激電極と横隔神経の
間に横隔膜の筋肉層を介することにより、ペーシングに伴う横隋神経の損傷等の
刺激電極の横隋神経に対する直接の影響を避けることができる。
従来のペーシング方式では、閉値電流値と最大刺激電流値との間の電流範囲が
狭く、充分な一回換気量を得るためには最大刺激電流値に近い電流値によってペ
ー43−
ーシングを行わなければならない。そのような場合に神経に対して過刺激となっ
ている可能性が大きい。過刺激となった場合には②の神経筋接合部における神経
伝達物質アセチルコリンの放出不全を起こし・横隔腰の疲労現象を生じる。また
過刺激によって横隔膜の収縮力が非常に強くなると、横隔膜の血行が悪くなり、
③の乳酸の蓄積そしてそれに伴うpHの低下は・横隔膜筋線維細胞膜の興奮度を低
下させて、横隔膜の疲労現象を生じるものと考えられる。しかし筋内電極による
横隔膜ペーシングでは、5−1で述べたように問値電涜値と最大刺激電流値との
問に比較的大きな電流範囲がある。したがって刺激電流値によって比較的容易に
一回換気量を制御でき、よって横隔膜の収縮力を制御することができるので、過
刺激に伴う神経伝達網の放出不全や横隔膜筋自体の疲労を避けることができる。
以上の理由で筋内電極による横隔膜ペーシングが従来のペーシング方式に比較し
て、横隔膜の疲労現象が進行し難いものと考えられる。
本実験では滑らかな換気が得られるように刺激パルス列の電流強度にはスロ_
プをつけた。しかし実際にはFig・27からもわかるように単にスロープをつけただ
けでは横隔膜ペーシングの換気流速波形および換気量波形は自発呼吸のそれとは
著しく異なってしまう。横隔膜ペーシングにおける換気流速波形は、吸気相で急
速に大きく上昇した後に直ちに下砕するのに対し、自発呼吸では持続的に小さく
なだらかな変化を示す。また換気量波形もペーシングでは急速な上昇を示し、自
発呼吸とは異なっている。生体が必要とする肺胞換気量*25)を確保し、また生体
に対する様々な悪影響を避けるためには・換気涜速波形および換気量波形は自発
呼吸にできるだけ等しいことが望ましいと考えられる。筋内電極を用いた横隔膜
ペーシングでは、5−1で述べたように一回換気量を刺激電流強度によって比較
的容易に制御でき、またパルス幅や繰り返し周波数によっても制御が可能である。
したがって筋内電極を用いた横隔膜ペーシングにおいて、換気流速波形および換
気量波形を自発呼吸に近づけるような刺激波形の改善も可能であると考えられる。
ー44−
第6章 開発した横隔膜ベースメーカの代謝冗進時における評価実験
本ペースメーカの換気制御方法の有効性を検討するために、試作した横隔膜ペ
ースメーカを雑種成犬に適用した61 ̄63)。正常肺を有する動物および肺疾患を有
すると考えられる動物について検討した。動物の代謝を冗進させるために発熱物
質を軽口授与し、その時の動物の血行動態、換気状態および血液ガスを調べた。
刺激波形には5−1で最適であると考えられた、パルス幅0.15■SeC、繰り返し
周波数25HzのBiphasic cathodal波形を用いた。刺激電流強度は、一回換気量が
横隔膜の最大収縮時に得られる一回換気量の約80%となるように左右の刺汲電極
各々に対して電流値を設定した。滑らかな換気が得られるように刺激パルス列の
電流強度は、スロープをつけ、印僑電流値から徐々に増加させた。
横隔膜ペーシングにおける呼気は、横隔膜の弛緩および拡大された腹壁、肺な
どの弾性復元によって受動的に行われる。したがって完全に呼気を終えるのには
一定の時間を要する。成犬においては約0.5秒が必要である。また吸気にも一定
の時間を要し、吸気時間が短縮すると一回換気量の減少を生じる。この吸気時間
の限界も成犬においては約0.5秒である。以上の数値は、麻酔下の成犬に対して
横隔膜ペーシングを行って得た値である。したがってペーシングレートの最大値
は毎分60回とした。またペーシングレートの最小値は、安静時の代謝を維持でき
る最低の分時換気量を確保できると考えられる毎分5回とした。ペーシングレー
トと吸気時間の関係をFig.28に示す。吸気時間は、ペーシングレートが毎分33.3
回までは至適吸気時間の1.3秒で一定とした。ペーシングレートが毎分33.3回で
の吸気時間は1.3秒、呼気時間は0.5秒である。ペーシングレートが毎分33.3回以
上では呼気時間を0.5秒で一定とし、ペーシングレートが毎分60回となるまでペ
ーシングレートの増加と共に吸気時間を減少させた。ペーシングレートが毎分60
回での吸気時間および呼気時間は共に0.5秒である。
PETC02のフィードバック制御におけるPETC02の目標値からの制御偏差と
ペーシングレートの増減量の関係は、予備実験にて制御が安定に行われると思わ
れた傾き0.7/=Hgの直線を採用した。ペーシングレートの増減量には上限を設定
した。この時の関係をFig.29に示す。ペーシングレートによる分時換気量の変化
−45−
ー9ト
・1UauTJadxa t2UT alt2ユ丘uTDt2dJO86U叩a atn pUで Ta^aT
paJTSap uOJJ UOTlでTAep Zo⊃エgd atn Uaa呵aq dTIISUOTlt2TaY 6Z・丘TLJ
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lコSP一﹁口tOry PeユOd.
●
h′
l
Sen
がPETC02の変化としてあらわれる遅れを考慮し、フィードバック制御は3呼吸
サイクルごとに行った。
有効な換気が得られたかどうかを判断する基準として、次に示す判断基準を設
けた。
(1)Pa02が60日Hg以下にならないこと。
(2)PaC02が45mHgを超えないこと。
(3)pHaの変動範囲が0.1を超えないこと。
(1)、(2)には厚生省特定疾患呼吸不全調査研究班による呼吸不全の診断基準
20)を用いた。(3)は、本実験が急性実験で麻酔や手術等の侵製によってpHaは影
響されるので、動物実験におけるpHaの判断基準は、その変動範囲がpHaの正常値
(7・35∼7.45)の変動範囲の0.1を超えないものとした。
動物の換気状愚の適否を判断するのに、正常状態をどの範囲までとするかを決
めることはむずかしい。しかし成犬と成人では、02、CO2輸送の重要な因子で
あるヘモグロビン量やヘマトクリット値*26)、また血液ガス所見もよく類似して
いる51・67・68}ことから、動物実験の判断基準として成人の呼吸不全の判断基準
を適用してもよいものと考える。
6−1 実験方法
四頭の雑種成犬(11.0kg∼15.5kg)に対し、ネンプタール(25皿g/kg)ウレタン
(800ng/kg)混合麻酔を経静脈的に行った。
5−1と同様に、左側は第7肋間を、右側は第8肋間をそれぞれ切開し開胸した
後、横隔膜筋内部に左右それぞれ一ヶ所ずつ刺激電極を埋め込み閉胸した。刺激
電梅には体外式心臓ベースメーカ用電極をモノポーラ型電極として使用した。対
極として白金板を第3肋間の高さで胸骨前方の皮下に埋め込んだ。
気管内に気管カニユーレを挿入した。採血、輸液および血圧モニタのために大
腿動脈および右房内にカテーテルを挿入した。心拍出量を測定するために、右第
4肋間で開胸し大動脈基部に超音波流量計(Transonic SysteJASlnc.:T201)のプロ
ーブを装着した後閑胸した。動物の体温を測定するために右外頸静脈から右房内
−47−
へサーミスタ温度計(芝浦電子製作所:HODEL−MGAIl)のセンサを挿入した。仰臥位
で発熱物質の2・4−ジニトロフェノール(DNP)25ng/kgを経口的に投与し動物の代謝
を冗進させてPETC02のフィードバック制御を行った。自発呼吸は、実験中麻
酔を適宜追加し麻酔の深度を保つことによって抑えた。PETC02は、赤外線吸
収方式によるCO2モニタ(日本光電;0IR−7107)のセンサを気管カニューレの先端
に装着し測定した。CO2センサの応答時間は、100nsecである。CO2モニタの
外観をFig・30に示す。CO2センサの外観をFig.31に示す。動物の代謝変化は、
酸素摂取量により評価した。酸素摂取量は、心拍出量および勅静脈血の酸素分圧
較差より求めた。血液ガスの分析は、血液ガス分析装置(CORN川G;168pH/Blood
Gas Analyzer)により行った。一回換気量は、5−1と同様な方法を用いて求め
た。分時換気量は、呼吸数に一回換気量を乗じて求めた。
6−2 実験結果
6−2−1 正常肺を有する動物に対する適用
PETC02とPaC02がほぼ等しい値を示した動物に対して、PETC02の目標
値をPaC02の正常値である40日Hgに設定してフィードバック制御を行った。
動物の代謝を冗進させた時の心拍出量(Cardiac output)および心拍数(Heart
rate)の変化をFig.32に示す。PETCO2およびペーシングレートの変化をFig.33
に示す。体重当りの一回換気量および分時換気量(拇inute voluAe)の変化を
Fig・34に示す。動脈血の血液ガスの変化をFig.35に示す。横軸はそれぞれ酸素摂
取量(Oxygen uptake)である。
DNPの投与によって動物の代謝は冗進した。Case Dでは約10分で体温が上昇し
始め、約2・5時間後に代謝冗進は最大となり、酸素摂取量は約5.6倍に増加した。
Case Eでは約25分で体温が上昇し始め、約3時間後に代謝完進は最大となり、酸
素摂取量は約2・7倍に増加した。Case Fでは約10分で体温が上昇し始め、約2時間
後に代謝冗進は最大となり、酸素摂取量は約3.8倍に増加した。
心拍出量は、代謝の冗進と共に増加し、最大代謝冗進時にCase DではDNP投与
−48−
﹃iヂuO CONヨOnitOr・
﹃iヂ山一CON SenSOr・
ー金−
ー0⊆−
.560p Tt2uJOU UT UOTlt2^aTa DTTOqt21au
餌TJnp a叩ユ丘uTDでd pue Zo〇品gd uT開Bu叩つ EC・BTd
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丘uTJnp alt2ユ1ユ開q puで1ndlnO Dt2TpJt2〇 UT SaBu叩⊃ ZE・BT.I
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一
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ひ〆、一∈、む∈コ︼0>一口PF ひずU盲、一巨、むEコ一〇>空うり宣
0:CqseU(川.5kg)
ム:CqseE(14.0kg)
口:CoseFt11.0kg)
600
400
200
100 200
0xygen UPLqke. rnl/mIn
Fig・34 Changesin tidai volume and minute volume during
metabolic elevationin normal dogs・
「
0 ̄屯に2卑し0、。
0
●●
ひエEE
一 一
∩︶ 0 nV
.岩Ud.NOd
100 200 300
0叩gen UPlqke● ml/mIn
Fig.35 Changesin arterial blood gases during metabolic
elevationin normal dogs.
−51−
前の約1・9倍に、Case Eでは約1・6倍に、Case Fでは約1.4倍に増加した。心拍数
は・代謝の冗進と共に増加し、Case Dでは180から231に、Case Eでは168から
185に、Case Fでは162から211に増加した。
ペーシングレートは、代謝の冗進と共に増加した。PE,C02は、ペーシング
レートの増加によって代謝の完進に際しても目標値である40日Hgにほぼ一定に保
たれたo Case Dではペーシングレートの増加が飽和した時以降に、代謝の冗進と
共にPETC02の上昇の傾向がみられた。
一回換気量は、代謝の冗進と共に減少の傾向がみられた。分時換気量は、酸素
摂取量の増加に対してほぼ直線的に増加し、Case DではDNP投与前の約7.8倍に、
Case Eでは約2・9倍に、Case Fでは約6.6倍になった。
pHaは代謝の冗進と共にわずかに低下したが、いずれも判断基準を満たした。
Pa02は、Case Dでは代謝冗進初期にわずかに上昇の傾向がみられたものの、
その後は代謝の冗進と共に低下した。Case Eでは代謝の冗進と共に低下し、その
後一定に保たれた。Case Fでは、代謝の冗進と共にわずかに上昇の傾向がみられ
た。いずれも判断基準を満たした。
PaC02は、Case Dでは約45■JLHgに、Case Eでは約42AJLHgに、Case Fでは約43
日llgに代謝の冗進に際してもほぼ一定に保たれた。Case Dではペーシングレート
の増加が飽和した時以降に、PaC02に上昇の傾向がみられた。Case Dのペーシ
ングレートが飽和した時には判断基準を超えたが、それ以外ではいずれも判断基
準を満たした。
6−2−2 肺疾患を有すると考えられる動物に対する適用
呼気CO2分圧の経時的変化は、肺疾患によって特異な変化を示す。この動物
の場合は、Fig・36に示すように呼気CO2分圧が呼気終末に明瞭なプラトーを示
したものの、PETC02はPaC02よりも約10”Hg低値となり、両者の間に分圧
較差を生じた。このことからこの動物は、肺血流障害等の疾患を有していたので
はないかと考えられる。犬のなかにはフィラリア等の寄生虫を有している場合が
あり、寄生虫卵による肺塞栓症*27,が考えられる。肺塞栓症においては、Fig.37
一52−
40mmIlg−
PECO2
1 1
1sec
Fig・36 CO2tenSion waveform during expiration with
pulmonarY arterial obstruction.
■−Alrway
Alveolar
Pulmonary
arヒery
Pulmonary vein
Fig.37 Lung with pulmonary arterial obstruction・
−53−
に示すように正常にガス交換が行われた肺胞気と肺動脈(PulmOnary artery)に閉
塞(Obstruction)を生じた部位のまったくガス交換が行われなかった肺胞気が混
合して呼出されるために、呼気CO2分圧は呼気終末に明瞭なプラトーを示すも
のの、PETC02とPaC02の間に分圧較差を生じる。
肺疾患を有すると考えられる動物に対するフィードバック制御は、PaC02の
正常値である40…Hgから分圧較差分を補正し、PE,C02の目標値を30日Hgに設
定して行った。
動物の代謝を冗進させた時の心拍出量および心拍数の変化をFig.38に示す。
PETCO∼およびペーシングレートの変化をFig.39に示す。体重当りの一回換気
量および分時換気量の変化をFig.40に示す。動脈血の血液ガスの変化をFig.41に
示す。
DNPの投与によって動物の代謝は冗進し、約15分で体温が上昇し始め、約2.5時
間後に代謝冗進は最大となり、酸素摂取量は約4.7倍に増加した。
心拍出量は、代謝の冗進と共に増加し、最大代謝完進時にmP投与前の約1.8倍
に増加した。心拍数は、代謝の冗進と共に増加し、191から240に増加した。
ペーシングレートは、代謝の冗進と共に増加した。PETC02は、ペーシング
レートの増加によって代謝の冗進に際しても目標値である30日Hgにほぼ一定に保
たれた。
一回換気量は、代謝の冗進と共に減少の傾向がみられた。分時換気量は、酸素
摂取量の増加に対してほぼ直線的に増加し、DNP投与前の約4.6倍に増加した。
pHaは、代謝の冗進と共に上昇の傾向がみられた。pHaの変動範囲は0.95で判断
基準を満たした。
Pa02は、代謝の冗進と共に低下し、その後一定に保たれた。最大代謝冗進時
に59日Hgとなって判断基準をわずかに超えてしまったが、それ以外では判断基準
を満たした。
PaC02は、代謝の冗進に際しても約39日Hgにほぼ一定に保たれ、判断基準を
満たした。
−54−
−⊆⊆−
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6〉帽●91
6−3 考案
本評価実験で得られた血液の分析結果から、正常肺を有する動物、そして肺疾
患を有すると考えられる動物に対しても設定した判断基準をほぼ満たしており、
有効な換気制御を行うことができたものと考えられる。
正常肺を有する動物に対しては、PHC02の目標値をPaC02の正常値に設
定してフィードバック制御を行い、高度な代謝完進に際してもPaC02を約42∼
45日Hgに保つことができたくFig.35)。一方、肺疾患を有すると考えられる動物に
対しては・あらかじめ採血によってPETC02とPaC02の分圧較差を沸定し、
PETC02の目標値を補正してフィードバック制御を行うことにより、高度な代
謝完進に際してもPaC02を約39日Hgに保つことができた(Fig.41)。正常肺を有
する動物、肺疾患を有すると考えられる動物は共にPETC02とPaC02の分圧
較差が代謝の完進に際しても変動なくほぼ一定であった。このことはPHC02
とPaC02の分圧較差を一度淵定すれば、代謝需要が変化した場合であっても、
測定したPETC02を補正することによってPaC02を知ることができることを
示している。したがって正常肺を有する場合であっても、あらかじめ採血によっ
て分圧較差を測定し、その分圧較差によってPETC02の目標値を補正してフィ
ードバック制御を行えば、より有効な換気制御を行うことができるものと考えら
れる。
pHaは、正常肺を有する動物では代謝の冗進と共に低下し低換気の傾向を示し
たくFig・35)。また肺疾患を有すると考えられる動物では代謝の冗進と共に上昇し
過換気の傾向を示したくFig.41)。しかし、その変動量はわずかなものであった。
Case Fおよび代謝冗進初期におけるCase DのPa02の上昇(Fig.35)は、ペーシ
ングレートの増加によって分時換気量が増加し、その結果分時肺胞換気量*2窄,が
増加してガス交換が促進されたためであると考えられる。一方、Case E、Case G
および代謝冗進時におけるCase DのPa02の低下(Fig.35,Fig.41)の理由は、次
のように考えられる。ペーシングレートの増加によって分時換気量が酸素摂取量
に対して直線的に増加したものの、一回換気量が減少している(Fig.34,Fig.40)
ことから分時肺胞換気星に関しては直線的な増加が得られなかったものと考えら
−57−
れる。この肺胞換気量の不足による換気血沈比の不適合*29,や代謝冗進に伴う酸
素摂取量の増加によるPvO2(静脈血02分圧)の低下の影響などによってPa02
の低下を生じたものと考えられる。
一回換気量の減少の理由としては次のようなことが考えられる。mPの投与に
よって動物の呼気時間の延長が観察されたことから、高度な体温上昇によって肺
コンプライアンス*30)の上昇を生じたのではないかと考えられる。ペーシングレ
ートの増加に伴う吸気時間の短編=こよって、肺コンプライアンスの増加した時定
数が日の大きな肺胞への空気の涜人が減少したことや、ペーシングレートの増加
によって呼気時間が短縮されて実際に必要な呼気時間を下まわり、横隔膜が完全
に弛緩しきらないうちに再びペーシングが行われて、機能的残気量*32)が増加し
たこと等が考えられる。また横隔膜の疲労現象も考えられる。
本換気制御方法は、PHC02の目標値からの制御偏差とペーシングレートの
増減量を傾き一定の直線関係に従ってペーシングレートを操作してPETC02の
フィードバック制御を行うものである○ この直線の傾きの設定値によっては制御
量であるPETC02の振動や発散等が考えられる。また操作量であるペーシング
レートすなわち呼吸数の異常な変臥 たとえば呼吸数が急に速くなったり遅くな
ったりする等の周期性の呼吸運動を生じる可能性も考えられる。したがって適切
な直線の傾きの設定が必要である〇 本評価実験では、予備実験においてフィード
バック制御が安定に行われると思われた直線の傾きを採用した。そして川円こよ
るゆっくりとした持続的な代謝変化に対してPETC02の振動や発散、異常な呼
吸運動もなく安定に制御が行われ、有効な換気制御を行うことができた。しかし
ながら、実験例はまだわずかであり、今後さらに動物実験により検討を行う必要
がある。また本評価実験では行わなかったが、急汝な代謝変化を伴う場合につい
てもPETC02の目標値からの制御偏差とペーシングレートの増減量の関係を直
線関係としてよいのかどうか、よい場合にはどうのような傾きの値が有効である
のかについても本換気制御方法の安定性や有効性について検討を行う必要がある。
本評価実験ではペーシングレートの変化によるPETC02の変化の遅れを考慮
し、PE−C02のフィードバック制御は3呼吸サイクルごとに行った。このように
制御を行った場合には・ペーシングレートが小さく1呼吸サイクルが長い時には
−58−
制御が行われる時間間隔は長くなり、一方ペーシングレートが大きく1呼吸サイ
クルが短い時には制御が行われる時間間隔は短くなる。しかし実際臨床において
は分時換気量の変化が血液ガスの変化としてあらわれるのには約2∼3分の一定時
間を要することが知られている。したがって制御を行う間隔についてはペーシン
グレートの大きさによって制御を行う呼吸サイクルを変えるとか、あるいは一定
時間ごとに制御を行う等の制御方法についても検討が必要であると考えられる。
本換気制御方法では、肺あるいは他の疾患等によってペーシングレートの増減
によってもPaC02が改善されす、PETC02を目標値に維持することができな
い場合には、ペーシングレートが著しく増加あるいは減少して最大ペーシングレ
ートあるいは最小ペーシングレートに保たれてしまう。このような状態は好まし
くなく、PETC02を目標値に維持することができなくとも、PETC02がある程
度改善され、もうこれ以上ペーシングレートの変化によってPE,C02が改善さ
れなければその時点でペーシングレートを保持することがむしろ好ましいものと
考えられる。したがって、たとえばPETC02の経時的変化の微係数をとり、も
うこれ以上PETC02の改善が見込まれないことを検知した場合には、その時点
でペーシングレートを保持する等のフェイルセーフの機能が必要であると考えら
れる。
本換気制御方法では代謝需要によっては高回数刺激が要求される。正常な呼吸
運動においても高回数呼吸では疲労を生じ、横隔膜ペーシングでの高回数刺激に
対しても同様に疲労現象を生じることは容易に予想することができる。本換気制
御方法を臨床応用するにあたっては、横隔膜の疲労現象を問題とすることなくペ
ーシングレートをどの程度まで増加させることができるか、またどの程度の時間
まで横隔膜ペーシングを継続することができるかが重要となる。5−2ではペー
シングレートが毎分15回のもとで36時間にわたって横隔膜の疲労現象を生じるこ
となく横隔膜ペーシングを継続することができた。また本評価実験では、それが
横隔膜の疲労現象によるものかどうかはわからないが、一回換気量が減少したも
のの、高度な代謝冗進に対しても約2∼3時間にわたって有効な換気制御を行うこ
とができた。しかし筋内電極による横隔膜ペーシングの高回数刺激に対する疲労
性についてはまだよくわかっておらず、今後検討を行っていく必要がある。
−59−
本ペースメーカのよい適応と考えられるのは、肺切除術後や関心術後の一時的
な使用である。肺切除術後や関心術後の横隔膜ベースメーカの使用は、院庄式人
工呼吸法における合併症を避けることができ、また右心補助手段ともなり得るた
めに注目されており、その患者群の大きさから考えてみても今後興味ある呼吸補
助手月日こなると思われる。術後の呼吸管理は重要で、血液ガスをコントロールす
ることのできる本ベースメーカの貢献できる可能性は大きいものと考えられる。
また小型軽量のCO2センサが開発されれば、患者の鼻腔内や気管内にCO2セン
サを留置することによってPHC02をセンシングすることができ、本ベースメ
ーカの他の患者への適応も可能であると考えられる。
−60−
第7章 換気補助としての肋間筋ペーシング
正常な呼吸運動では、横隔膜の収縮と共に外肋間筋が収縮し吸気が行われる。
外肋間筋の収縮は肋骨を引き上げ胸郭を広げるだけでなく、胸郭の安定化に寄与
し、横隔膜の収縮による胸郭の変形を防いでいる15)。この時に上部胸郭(Upper
rib cage)の前後径は増加する。一方横隔膜ペーシングは、横隔膜の収縮のみに
よって換気を得るもので、外肋間筋の収縮を伴わないので、上部胸郭の前後径の
減少をきたし、上部胸郭の変形を生じる(Fig.42)66)。この上部胸郭の変形は、
胸郭に変形がない場合に比較して得られる一回換気量を減少させる66)。したが
って、横隔膜ペーシングの際に肋間筋を電気刺激して肋間筋も同時に収縮させる
ことができれば、上部胸郭の変形を防ぐことができ、また一回換気量の増加も期
待できる。
Dinarcoら69)は、雑種成犬の硬膜外に刺汝電梅を刺入し、胸髄を刺鼓して肋間
筋を収縮させることにより有効な換気が得られたことを報告している。また
Geddesら78)は、動物実験で体表電極により呼吸筋を収縮させて有効な換気が得
られたことを報告している。しかしながら前者は刺汲電極を刺入する際に脊髄を
損傷させる可能性があり、後者は刺汲電流に数百山を要するためにショック等の
危険性がある。
本章では肋間筋の新たな刺激方法として肋間筋に撞着した刺激電極による肋間
筋ペーシング法を提案する。そして本肋間筋ペーシングの換気補助としての有効
性について動物実験により検討を行った。
7−1 実験方法
二頭の雑種成犬(11.0kg,13.5kg)に対し、ネンプタール(25mg/kg)ウレタン
(800ng/kg)混合麻酔を経静脈的に行った。
5−1と同様に、左側は第7肋間を、右側は第8肋間をそれぞれ切開し開胸した
後、横隔膜筋内部に左右それぞれ一ヶ所ずつ刺激電極を埋め込み閉胸した。刺激
電極には体外式心臓ペースメーカ用電極をモノポーラ型電極として使用した。対
−6卜
−Z9−
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極として白金板を第3肋間の高さで胸骨前方の皮下に埋め込んだ。
気管内に気管カニユーレを挿入した。輸液のために大腿静脈よりカテーテルを
挿入した。
第3肋骨の高さで肩甲骨内側縁に沿って肩甲骨下角まで切開を進め、その後脊
椎に平行に第7肋骨の高さまで切開して左右の肋間筋を露出した。第3肋間から第
6肋間の肋間筋にバイポーラ型電樋を撞着した。第1、第2肋間隙は非常に狭く、
肩甲骨および上肢があるために第1、第2肋間筋に刺汲電極を錬着するのは困難で
あった。左第7肋間筋、右第8肋間筋は、横隔膜の刺汝電極装着の際に切開を行っ
っているため、バイポーラ型電極の縫着は、第3肋間から第6肋間の肋間筋に限定
した。刺激電垣には10芯のリード線を使用した。刺汲電樋を撞着する位置は、各
肋間の中央よりも上位肋骨下繚寄りとした。演背鋸筋(M.serratus dorsalis
Cranialis)と肋間筋の境界部より約3cm腹側部に陽徳を、さらに陽極よりも約2cn
腹側部に陰極を緩着した。なお、予備実験にて刺汲電極の極性を変えてペーシン
グを行っても、換気状態に変化は窪められなかった。刺激電極を撞着した位置を
Fig.43に示す7日。
肋間筋ペーシングには試作した肋間筋刺激装置を使用した。肋間筋刺激装置の
外観をFig.44に示す。本刺激装置は、アイソレートされた6チャンネルの刺激出
力を有しており、外部からのトリガ悟号に同期して同一のパルス幅および繰り返
し周波数の定電流パルス列を出力して肋間筋のペーシングを行うものである。刺
激電流強度は、各々のチャンネルごとに設定が可能となっている。本実験では、
4−3の試作した横隔膜ペースメーカよりトリガ信号をとり、これに同期して肋
間筋ペーシングを行った。
肋間筋ペーシングと横隔膜ペーシングを同時に行い、その時に得られる一回換
気量を測定して肋間筋ペーシングの換気補助としての有効性について検討した。
一回換気量の測定は動物を仰臥位の状愚で行った。一回換気量は、5−1と同様
な方法を用いて求めた。麻酔は角膜反射を調べ適宜追加した。
横隔膜ペーシングでは5−1で最適の刺激波形であると考えられた、パルス幅
0.15bSeC、繰り返し周波数25HzのBiphasic cathodal波形を用いた。肋間筋ペー
シングも同様な刺激波形を用いた。刺激パルス列の刺激電流強度は、スロープを
一63−
Dorsalls
Caudalis
>
Cathode
Ventralls
Fig.43Locationof electrodes forintercostaimuscle pacing・71)
■ ′
−64−
ー⊆9−
・ユ01でTnuTIS aT〇Snu TeISO〇Ja叩工 的・丘Td
つけず一定とした。ペーシングレートは、毎分15回とした。吸気時間は、至適吸
気時間の1.3秒とした。
7−2 実験結果
肋間筋ペーシングのみを行った時・肋間筋ペーシングと横隔膜ペーシングを同
時に行った時の肋間筋の利敵レベルと一回換気量の関係をFig.45∼Fig.48に示す。
肋間筋ペーシング、横隔膜ペーシングは共に最大刺激である。肋間筋ペーシング
のみを行った時の一回換気量は、Case Hでは第3肋間筋をペーシングした時が最
大で、ペーシングが下位の肋間筋になるにしたがい減少し、第6肋間筋のペーシ
ングでは呼気となった(Fig・45)。CaseIでは第4肋間筋をペーシングした時が最
大となり、第6肋間筋のペーシングにおいても吸気となった(Fig.47)。各々の肋
間筋を同時にペーシングした時には(Fig・45,Fig・47)、第3,4,5肋間筋を同時にペ
ーシングした時が一回換気量が最大となり、各肋間筋を単独でペーシングするよ
りも一回換気量の増大が認められた。肋間筋ペーシングと横隔膜ペーシングを同
時に行った時は(Fig・46・Fig・48)、第3,4,5肋間筋をペーシングした時に横隔膜ペ
ーシングのみを行った時よりも最大の一回換気量の増加が得られた。Case Hでは
約40%(Fig・46)、CaseIでは約58%(Fig・48)の増加が得られた。
第3・4・5肋間筋をペーシングした時の刺激電流強度と一回換気量の関係の一例
をFig・49に示す。閥値は、約3−Aであった○ 刺激電流強度と共に一回換気量は増
加し、約8皿Aでプラトーに連した○ 他の一例もほぼ同様な傾向を示した。
横隔膜ペーシングと第3・4,5肋間筋の肋間筋ペーシングを同時に行った時の刺
激電流強度と一回換気量の関係の一例をFig・5椚こ示す。横隔膜ペーシングは、
回換気量が最大刺激時に得られる一回換気量の約67%となる刺激電流強度である。
肋間筋ペーシングの刺激電涜強度が6nA以上では、最大刺激時の横隔膜ペーシン
グよりも大きな一回換気量が得られた○ 他の一例もほぼ同様な傾向を示した。
ー66−
TIdql volulne.ml
_50 0 50 100
3thlCMP
41h
61h
3.41h
3.4.51h
‘.51h
JCMP:lntercosIQL muscle pQClng
Fig.45 Level of pacedintercostal muscle and evoked tidal
volume in case H.
Tldql volume.ml
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l
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3.4.51h
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l ■
l l l l
DP:DIcLPhrqgmpQClng JCMP:JntercosIQtrnUSCtePQCing
Fig.46 Levei of pacedintercostal muscle and evoked tidal
VOlume during maximal diaphragm pacingin case H・
ー67−
TIdql volume.ml
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■
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3.41h
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4.51h
ICMP:Jnlercoslot rnuscte pqclng
Fig●47 Level
of
pacedintercostal
muscle
and
evoked
tidal
volume in case Z.
TIdql voIume.ml
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l l l t l l
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CombinedmcLXimQI DlP
qnd31hlCM P
郎剛 附 ・・
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ベ仝さ泣拉モミ
モモモ決モ決1
h
8 分8 仝8 分y 丈y 《y R Ⅵ
h
決》太さとモモ決亡べ幸治ミ
h
沢 モモ決流下R 寺社ミ
ミギ》冷モq
h
≧主流W
h
≧ミ
斌モモモモ決古流決モ社説ミ羽
▲
■
l l l l
DP:DJQPhrQgm PqCJng JCMP:JnlercosLQt mUSCle pQCing
Fig.48 Level of pacedintercostal muscle and evoked tidal
VOlume during maximal diaphragm pacingin case Z.
ー68−
盲、むEコ一〇>︼DPF
SIImutQUon current of3.415th
InlercosIQlmuscte pQCJng
(mA)
Fig.49 Evoked tidal volume during 31415thintercostal
muscle pacingin case Z.
盲、む∈コ一〇>一口PF
3.4.5thInlercosIQlmuscte pQCfng
(mA)
Fig.50 Evoked tidai volume during combined 3,4.5thintercostal
muscle pacing and diaphragm pacingin case Z・
−69−
7−3 考察
実験結果より肋間筋ペーシングと横隔膜ペーシングを併用することにより、横
隔膜ペーシングのみを行った時よりも一回換気量の増大が得られることがわかっ
た。特に第3,4,5肋間筋をペーシングすることにより、最大の一回換気量の増大
が得られることがわかった(Fig.46,Fig.48)。
肋間茄ペーシングの適応にあたっては、電気刺激によって肋間神経、肋間筋が
正常に反応し、肺、胸郭系が換気力学的にほぼ正常であることが前提である。
肋間筋ペーシングは肋間神経の刺激を行うものである。肋間神経の支配を受け
るのは、外肋間筋、内肋間筋、肋下筋、胸横筋、最内肋間筋、肋骨挙筋である。
このうち外肋間筋、肋骨挙筋は、肋骨を引き上げ胸郭を広げる作用をし、吸気筋
に属する。一方内肋間筋、肋下筋、胸横筋、最内肋間筋は、胸郭を狭める作用を
し、呼気筋に属する。したがって肋間筋ペーシングにおいては、これらの吸気筋
と呼気筋を同時に刺激しているものと考えられる。Case Hの第6肋間筋をペーシ
ングした時には呼気となったものの(Fig.45)、Case Hのその他の肋間筋(Fig.45)
およびCaseIのすべての肋間筋(Fig.47)のペーシングでは吸気となった。このよ
うにペーシングによって吸気となるかあるいは呼気となるかは、刺激されたこれ
らの吸気筋および呼気筋の収縮力の相互作用によって決まるものと考えられる。
したがって吸気筋の収縮力が呼気筋の収縮力にまさる場合には吸気となり、その
逆の場合には呼気となるものと考えられる。しかし、肋間筋ペーシングにおいて
吸気となった肋間筋と横隔膜を同時にペーシングすることにより一回換気量の増
大が得られたのみならず、呼気となったCase Hの第6肋間筋を横隔膜と同時にペ
ーシングすることによっても一回換気量の増大が得られた(Fig.46,Fig.48)。こ
のことは単に肋間筋ペーシングにおける一回換気量の増大が、吸気筋の収縮力が
呼気筋の収縮力にまさって肋骨を引き上げて胸郭が広がったためだけによるもの
でなく、肋間筋群の収縮が胸郭の安定化に寄与し、横隔膜の収縮による上部胸郭
の変形を防ぐ働きがあるためであると考えられる。
横隔膜ペーシングにおける呼気は、横隔膜の弛綾および拡大された腹壁、肺な
どの弾性復元によって受動的に行われる。したがって完全に呼気を終えるのに一
イ0−
定の時間を要し・正常呼吸にみられる呼気筋群による努力性呼気によって呼気時
間を短縮することはできない○ また吸気にも一定の時間を要し、吸気時間が短縮
すると一回換気量の減少を生じる。故にペーシングレートの増加には限度があり、
PETC02のフィードバ’ック制御においてはペーシングレートの増減によって制
御できる分時換気量は制限されてしまう○ 特に閉塞性の肺疾患を有する患者では、
呼気時間および吸気時間に延長がみられ、さらに制御できる分時換気量は制限さ
れる。しかし横隔膜ペーシングと肋間筋ペーシングを併用することにより一回換
気量の増大が得られるので、制御できる分時換気量を拡大することができる。
PHC02のフィードバック制御においても肋間筋ペーシングを併用することに
より、制御できる分時換気量を拡大させることができ、閉塞性の肺疾患を有する
患者や大きな代謝需要を要する場合でも適用することが期待できるものと考えら
れる。
現在、幼児や子供では片側の横隔膜ペーシングのみでは換気量が足らず、両側
の横隔神経の同時刺激と陽圧式人工呼吸器との併用を余儀なくされている。しか
し、横隔膜ペーシングと肋間筋ペーシングを併用することにより一回換気量を増
加させることができるので、大人のように左右の横隔膜を交互にペーシングする
ことによって陽圧式人工呼吸器からの離脱も可能であると考えられる。
横隔膜ペーシングと肋間筋ペーシングを併用することによって一回換気量の増
大が期待できるので、Fig.49に示すように横隔膜ペーシングにおける刺激電流強
度を小さくすることによって横隔膜の負担を小さくすることができ、横隔膜の疲
労現象軽減にも有効ではないかと考えられる。
ー71−
第8章 結論
本論文では、PETC02のフィードバック制御によって患者の代謝需要に即応
して自動的に呼吸数を変化させることができ、また神経損傷や横隔膜疲労の生じ
難い横隔膜ベースメーカの開発および、その有効性の評価について述べた。また
横隔膜ペーシングの換気補助としての、肋間筋ペーシングの有効性についても検
討した。
本研究で明らかになったことは以下に示す通りである。
1) 換気量の変化によって直接的に変化するPaC02と相関の高いPETC02
を指標とし、ペーシングレートを変化させて換気量の制御を行うことのでき
る筋内電極を用いた横隔膜ペースメーカを開発した。
2) 筋内電極を用いた横隔膜ペーシングの話特性を動物実験により測定した。
基本的特性の測定から、筋内電極を用いた横隔膜ペーシングの最適な刺激波
形は、パルス幅0・15ASeC、繰り返し周波数23Hz程度のBiphasic cathodal波
形であることがわかった。閉値電流値と最大刺激電流値の間に比較的大きな
電流範囲があり、刺激電涜強度によって一回換気量を比較的容易に制御でき
ることがわかった。疲労特性の測定では36時間にわたって一回換気主をほぼ
一定に保つことができ、従来の横隔神経を直接刺激するペーシング方式に比
べ横隔膜の疲労現象を生じ難いことがわかった。
3) 筋内電樋を用いた横隔膜ペーシングでは、刺激電極装着時に横隔神経を直
接取り扱うことがなく、神経損傷の可能性が小さい。刺激電極と横隔神経の
間に横隔膜の筋肉層を介することにより、刺激電極の横隔神経に対する直接
の影響を避けることができる。また刺激電流強度によって一回換気量を制御
することができるので横隔神経に対して通刺激となることを避けることがで
きる。以上の点で、筋内電極を用いた横隔膜ペーシングが従来のペーシング
方式に比較して優れており、横隔膜の疲労現象を生じ難い原因であると考え
−72−
られる。
4) 開発した横隔膜ベースメーカの換気制御方法の有効性を評価するために動
物実験を行った。筋内電極を埋め込んだ動物に発熱物質を経口投与し代謝を
冗進させて・その時の本ペースメーカの有効性を検討した。正常肺を有する
動物および肺疾患を有すると考えられる動物に対して行った。正常肺を有す
る動物に対しては、PETC02の目標値をPaC02の正常値に設定して制御
を行った。肺疾患を有すると考えられる動物に対しては、PHC02の目標
値を補正して制御を行った。いずれの場合も、代謝の冗進と共にPHC02
を目標値に保ちながらペーシングレートは増加した。PaC02は、代謝の冗
進に際しても約39∼45日Hgにほぼ正常値に一定に保つことができた。PaO2
およびpHaも設定した評価基準を満たした〇 本ペースメーカによって代謝冗
進に対して良好な換気が得られ、有効な換気制御を行うことができた。
5) 肋間筋ペーシングの換気補助としての有効性を動物実験により検討した。
横隔膜ペーシングと肋間筋ペーシングを併用することにより、横隔膜ペーシ
ングのみを行った場合よりも一回換気量の増大が得られた。特に第3,4,5肋
間筋をペーシングすることによって、最大の一回換気量の増大が得られるこ
とがわかった。横隔膜ペーシングおよび肋間筋ペーシングが最大刺激の場合
に、横隔膜ペーシングと第3,4,5肋間筋ペーシングを併用することにより、
横隔膜ペーシングのみを行った場合よりも約40∼58%の一回換気量の増大が
得られた。
本ペースメーカの臨床応用においてよい適応と考えられるのは、肺切除術後あ
るいは関心術後の一時的な使用である。肺切除術後や関心術後の横隔膜ペ_スメ
ーカの使用は陽圧式人工呼吸法における合併症を避けることができ、また右心補
助手段ともなり得るために注目を集めており、その患者群の大きさから考えてみ
ても今後興味ある呼吸捕助手お目こなるものと思われる。術後の呼吸管理は特に重
要で、血液ガスをコントロールすることのできる本ペースメーカの貢献できる可
ー73一
能性は大きいものと思われる。現時点ではCO2センサの形状が大きく、気管内
挿管も伴うためにその適応が困難であると考えられる患者に対しても、小型軽量
のCO2センサが開発されれば患者の鼻腔内や気管内にCO2センサを留置するこ
とによってPETC02をセンシングすることができ、さらに適応を拡大すること
ができるものと思われる。
本ペースメーカでは、ペーシングレートの増加に限界があるために、ペーシン
グレートの増減によって制御できる分時換気量は制限される。しかし横隔膜ペー
シングと肋間筋ペーシングを併用することにより一回換気量の増大が得られるの
で、制御できる分時換気量を拡大させることができる。したがって本ペースメー
カにおいても肋間筋ペーシングを併用することによって、制御できる分時換気量
を拡大させることができ、閉塞性の肺疾患を有する患者や大きな代謝需要を要す
る場合でも適用することが期待できるものと思われる。
一74−
謝 辞
本研究は1988年4月から1991年3月にわたり、静岡大学大学院電子科学研究科医
用電子工学講座において、静岡大学大学院電子科学研究科教授ならびに浜松医科
大学外科学第一講座教授・原田幸雄教授の御指導の下で行われたものである。原
田教授からは・終始変わらぬ御教示と激励を賜りました。ここに厚く感謝致しま
す。また、同講座、木村泰三助教授(医用電子工学講座助教授、浜松医科大学外
科学第一講座助教授)からも、御指導と激励を賜りました。ここに厚く感謝致し
ます。
本論文をまとめるに当たり、・適切な御意見と御助言を賜りました、森田之大教
授(生体情報処理講座教授、浜松医科大学生理学第一講座教授)、水晶静夫教授
(電子科学研究科科長、波動制御講座教授)、渡辺健蔵教授(制御システム講座
教授)ならびに杉浦敏文助教授(波動制御講座助教授)に深く感謝致します。
木村元彦助手(医用電子工学講座助手)には、筆者の研究活動のみならず、私
事においても終始変わらぬ御教示と激励を賜りました。ここに厚く感謝致します。
本研究を進めるに当たり、動物実験等において甚大なる御協力を頂いた戸川森
雄株(元電子科学研究科技官)ならびに高橋動技官に心から感謝致します。
筆者は、医学的知識を習得するために、浜松医科大学解剖学第一講座、解剖学
第二講座、生理学第一講座ならびに生理学第二講座の諸先生方に御教授頂いた。
ここに心から感謝致します。
−75−
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.n卜nL、hu巾d∈OU■ 川岩山puコ巾S.内.王
医学用語解説=一日・∼8・72,
*1) 肺線維症
肺の肺胞壁や細気管支・細動静脈周囲の問質を病変の主産とする疾患である。
肺の広範な部位で結合組織の増殖をきたし、肺胞腔内の硝子頗形成などの浸出を
認めると同時に浸出物の器貫目ヒ、肺胞壁の線維性肥夙 肺胞腔の減少などを示す。
咳蠍、息切れを主訴とし、換気障害、拡散障害、低酸素血症などをきたす。
*2) 自然気胸
気胸とは胸膜腔内に空気が貯留した場合をいう。特に肺胸膜直下にあるプレプ
の破裂によって起きた気胸を自然気胸という○ プレプとは、肺胞壁が破れ、空気
が間男を通じて肺胸膜の線維層に集まり、嚢胞を形成したもので、肺尖部に多い。
プレプの成因については不明であるが、炎症説が重要視されている。自然気胸が
いかなる環境で発生するかについては一定していないが、運動時、安静時、ある
いは睡眠中に発生する場合もある。症状は呼吸器系、循環器系および用心的なも
のに分かれる。呼吸器系の症状は吸気時の胸痛・痕を伴い咳、および肺の虚脱に
応じた呼吸困難である。循環器系の症状としては頻脈、動惇および不整脈などが
ある○ 肺の虚脱状態により冷感、朗面蒼白、血圧の低下もみられる。精神面では
不安感を伴うが、概して再発例に強い。
*3) 中枢性肺胞低換気症
脳幹にある呼吸中枢の活動性低下によって起こり、肺疾患の有無にかかわらず、
低換気あるいは無呼吸が安静状憩、特に睡眠中にみられる疾患をいう。
*4) 慢性閉塞性肺疾患
気道閉塞を主病恩とした慢性肺疾患のことをいい、慢性気管支炎、肺気腫、気
管支喘息が含まれる。慢性気管支炎は、非特異的な気道分泌の冗進や湿咳を特徴
とする。肺気腫は、肺胞壁の弾性線経の欠如や肺胞壁の破壊を伴い、肺胞の拡張
を特徴とする。気管支喘息は、自立神経障害あるいは免疫学的異常のために気道
−83−
が過敏となり、様々な刺激による発作性の気道閉塞を特徴とする。
*5) 一回換気量
一回の呼吸運動で肺に出入りする空気量のことである。
*6) C3∼C5レベル
脊髄神経のなかの頸神経は、8対の神経幹からなる。後頭骨と第1頚椎の問か
ら出るものをClとし、上から順番にC8まである。C3∼C5レベルの頸神経は、第2
頸椎から第5頸椎の間から出た神経のことである。
*7) シナプス
神経細胞間あるいは神経細胞一筋問の接合部をシナプスという。シナプスでは、
シナプス前終末とシナプス後膜がシナプス間隙によって隔てられている。シナプ
ス前終末に神経刺激が到達すると、伝達物質がシナプス間隙に放出される。そし
て放出された伝達物貝がシナプス後膜の受容器に結合することによって、神経刺
激が次の神経あるいは筋に伝達される。
*8) Tl∼T12レペりレ
脊髄神経のなかの胸神経は、12対の神経幹からなる。第1胸椎と第2胸椎の
間から出るものをTlとし、上から順番にT12まである。Tl∼T12レベルの胸神経は、
第1胸椎から第1腰椎の間から出た神経のことである。
*9) 球麻痔
脳炎等に起因する延髄の機能低下による麻痔のことである。
*10) 開値
ある刺激を生体に加えた時、反応を引き起こすのに必要な最小の刺激の強さの
ことをいう。
一朗−
*11) all or noneの収縮
心筋の1ヶ所に閉値以上の刺故を与えると、金筋にわたって興奮が波及し心筋
は収縮する。また閥値以下の利敵では心筋の収縮はまったく起こらない。これを
all or noneの収縮という。
*12) 機能的合胞体
心筋線経の構造は基本的には骨格筋と同様であるが、線経が枝分かれし、吻合
を繰り返すという特徴がある。組織学的には、心筋線経は境界膜によって分けら
れている。しかし境界膜には小通路が存在して隣接細胞間のイオンの流通が可能
となっており、興奮の電気的伝達が行われる。このように心瓜は捕追的には合胞
体ではないが、機能的には1ヶ所で発生した邦吉が、直ちに金筋に伝招する性質
を有するので、機能的合胞体と考えられる。
*13) 筋ジストロフィー
遺伝性の筋疾患で、進行性の筋力低下と筋組織の変性を主な特徴とする疾患で
ある。
*14) 重症筋無力症
種々の程度の筋力衰弱を特赦とする慢性疾患である。麻痔にまで進行すること
もある。しばしば眼筋に始まり、胸腺の異常を伴うことが多い。この疾患は神経
筋接合部をおかし、アセチルコリンの正常な放出を妨げる。
*15) 原発性
他の疾患に合併したものでないこと。
*16) 脊髄空洞症
脊髄中心管に揺する灰白貝内に空洞が存在することを特徴とする。痛覚と温度
覚の消失、触覚の低下をきたす。進行例では、四肢麻痔、腰椎の側轡をきたす。
ー85−
*17) 梗塞
ある領域へ血液を供給している動脈が閉塞して組織が壊死すること。
*18) Pickvickian症候群
極度の肥満、労作時の息切れ、および傾眠傾向を特徴とする原発性肺胞低換気
症に似た症状を示す疾患である。肺疾患の有無にかかわらず、睡眠中に無呼吸状
態を反復する。・その結果、血液ガス異常およびそれに関連した不整脈や右心不全
など種々の臨床症状を示す。
*19) 右心負荷の軽減
肺循環は、右心房および右心室からなる右心のポンプ作用によって成り立って
いる。右心室から肺動脈へ送り出される血液星は、肺動脈の血管抵抗および右心
房への静脈道流量等によって影響される。陽圧式人工呼吸法に対して陰圧式人工
呼吸法′を行うと、肺血管抵抗の減少および静脈還流星の増加によって、右心室か
らの拍出鼻は増加し、右心の負荷を減少させることができる。
*20) 脱髄
神経鞘中のミエリンの破壊や脱落のことである。脱髄は、神経に非常に強い圧
が加えられたり、直接機械的に圧迫された場合に起こる。その他にも神経の栄養
血管の破綻、ジフテリア毒素の影響や多発性硬化症などが脱髄の原因として挙げ
られる。脱髄による神経の障害が強いと伝導遮断に至る。また脱髄から回復して
もミエリンの再形成は不完全で、数ヶ月経過しても、その髄鞘は薄い。
*21) アセチルコリン
シナプスにおける神経刺激の化学伝達物質である。シナプス前終末から放出さ
れたアセチルコリンは、シナプス後膜の受容器に結合するが、それから触れると
直ちに分解酵素であるコリンエステラーゼの作用によって不描性のコリンと酢酸
に分解される。分解産物のコリンの大部分はシナプス前終末に再び取り込まれ、
酵素によってアセチルコリンに再合成され、そこに貯蔵される。
−86−
*22) 活動電位
神経細胞や筋線経では、情報を全か無の電気パルスに変換して伝えており、そ
の電気パルスを活動電位という。活動電位の発生時には、60∼90mV細胞外に対し
て陰性に保たれていた細胞内電位が30∼50mV陽性に変化する。
*23) 分時換気星
一回換気屋と呼吸数の税で定義される畳である。つまり1分間に肺に出入りし
た空気量をあらわす。
*24) 至適吸気時間
呼吸運動における肺・胸郭系などの仕事且が最‘小となる吸気時間である。
*25) 肺胞換気旦
一回の呼吸運動でガス交換に関与する肺胞部分に入ってくる吸入気量のことを
いう。
*26) ヘマトクリット値
全血における赤血球の体積百分率のことである。正常男子では、全血容量の約
45∼50%、正常女子ではおおよそ40∼45%である。
*27) 肺塞栓症
肺動脈へ種々の物質が流入し、血管内腔を閉塞し、血流障害をおこすものをい
う。肺塞栓症の原因となる物質としては、脂肪球、腫瘍細胞、羊水、寄生虫、寄
生虫卵、異物あるいは空気などがあるが、もっとも多くみられるのは血栓による
塞栓である。肺動脈の閉塞により血流が途絶し、肺組織の壊死を生じた場合を肺
梗塞というが、肺塞栓は必ずしも肺梗塞に進展するとは限らず、塞栓の範囲、発
症の絶息の関係で、症状・徴候の軽微なものから、急激に死の転帰をとる重症な
ものまである。
ー87−
*28) 分時肺胞換気旦
ガス交換に関与する肺胞部分に入ってくる毎分の吸入気塵のことをいう。
*29) 換気血流比の不適合
肺におけるガス交換は、換気旦Ⅴと血流塵Qの両者がうまく適合しないと進行
しない○ 正常肺では、肺全体として換気血流比Ⅴ/Qが0.8となっている。この
Ⅴ/Qのバランスがくずれると、02、CO2輸送の障害を生じる。この状憩を換
気血流比の不適合という。
*30) 肺コンプライアンス
肺コンプライアンスは、肺の弾性を示す指標で、肺に作用する圧が1川/1120の
時に何リットルの空気が肺に入るかを示す。単位は1/C州20であらわされる。肺
コンプライアンスの正常値は0.11/C州20程度であるが、肺気腫では増加し、肺線
維症では減少する。
*31) 時定数
肺の粘性抵抗Rは、空気の通りやすさを示す指標で、単位はCmH20/1/secであ
らわされる。粘性抵抗の正常値は、1.0∼3.Oc皿1120/1/secであるが、喘息、気管
支炎ではこの値が正常人の10∼15倍にも上昇する。肺コンプライアンスCは、肺
の弾性を示す指標である。このRとCが、肺における換気の速さを規定する。そ
してRとCの積RCを肺の時定数という。時定数が大きい場合には換気が退く、
時定数が小さい場合には換気が速い。
*32) 機能的残気息
安静呼気位の肺気息のことをいう。
一朗一
使用した解剖学用語一覧
Aa.pul鴫Onales
肺動脈
A.carotis externa
外貌動脈
A.carotisinterna
内灘動脈
Arcus aortae
大動脈弓
A.thoracicainterna
内胸動脈
Caudalis
尾棚方
CentruA tendineul
麒中心
Cortex cerebri
大脳皮質
Costae
肋骨
Cranialis
現川方
Diaphragma
横隔膜
Dorsalis
背棚方
Esophagus
食道
Fascia endothoracica
胸内筋頗
ForaAen Venae CaVae
大静脈孔
Hiatus aorticus
大動脈孔
JIiatus esophageus
食道裂孔
Hedulla spinalis
脊髄
伽.abdominis
腹筋
伽.intercostales
肋間筋
H皿.intercostales externi
外肋間筋
伽.intercostalesinterni
内肋間筋
Mh.intercostalesintimi
最内肋間筋
M皿.levatores costarum
肋骨挙筋
M皿.SCaleni
斜角筋
M.obliquus externus abdominis
外膿斜筋
H.obliquusinternus abdodLinis
内腹斜筋
−89−
H.pectoralis major
大胸筋
M.pectoralis uinor
小胸筋
M.rectus abdoAinis
腹直筋
M.scalenus anterior
前斜角筋
H.serratus dorsalis cranialis
兢背鋸筋
M.serratus posteriorinferior
下後鋸筋
H.sternocleidoJIaStOideus
胸鎖乳突筋
M.transversus abdoAinis
腹横筋
M.transversus thoracis
胸横筋
M.trapezius
僧帽筋
N.accessorius
副神経
N.cervicales
頸神経
N.glossopharyngeus
舌咽神経
N.iliohypogaStricus
腸骨下腹神経
Nn.intercostales
肋間神経
N.pectoralislateralis
外側胸筋神経
N.pectoralis 皿edialis
内側胸筋神経
N.phrenicus
横隔神経
N.phrenicus dexter
右横隔神経
N.phrenics sinister
左横隔神経
N.subcostalis
肋下神経
N.Vagus
迷走神経
Pars costalis
肋骨部
Parslumbalis
腰椎部
Pars sternalis
胸骨部
Ra皿uS anterior
前校
RamuSlateralis
外側枝
RamuS pOSterior
後枝
Sternum
胸骨
一90−
Truncus encephalicus
脳幹
V.cavainferior
下大静脈
Ventralis
腹側方
Vertebrae thoracicae
胸椎
V.thoracicainterna
内的静脈
使用した略語一覧
; 繰り返し周波数
【llz 】
; 動脈血CO2分圧
【mmllg】
P aO2
; 動脈血02分圧
【MHg]
P【C O2
; 呼気C O2分圧
[mmHg】
P EIC O2
; 呼気終末C O2分圧
【mmHg]
plla
; 動脈血pll
【 】
P R
; ペーシングレート
【min ̄1】
P vO2
; 静脈血02分圧
【mmHg】
P W
; パルス幅
【msec]
B F
P
aC
Oヱ
−9ト
本研究に関する発表論文および学術講演
1)木村元彦、福井美に、杉浦敏文、原田幸雄:横隔膜直接刺激による横隔膜ペ
ーシングの試み,人工臓器,18(2),pp841−844,1989.
2)福井美仁、木村元彦、杉浦敏文、原田幸雄:呼気終末期CO2分圧を制御指標
とする横隔膜直接刺激による横隔膜ペーシングの試み,人工臓器,19(3),
pp1219−1222,1990.
3)福井美仁、木村元彦、戸川森雄、杉浦敏文、原田幸雄:呼気終末CO2分圧に
よるレート制御機構を有する筋内刺激横隔膜ペーシングの実験的研究,静岡
大学大学院電子科学研究科研究報告,第11号,pp139−145,1990.
4)福井美仁、木村元彦、杉浦敏文、木村泰三、原田幸雄:呼気終末CO2分圧を
制御指標とするレート調節機能を有する筋内刺激横隔膜ペーシングの実験的
研究,人工臓器,印刷中.
5)Fukui,Y.,Kinura,H.,Togawa,M.,Sugiura,T.and Harada,Y.:An
experiAental study on the effectiveness of the direct diaphra印
PaCing.7th World Congress of thelnternational Society for
Artificial Organs,Abstracts 62,Sapporo.
6)木村元彦、原田幸雄、杉浦敏文、戸川森雄、福井美仁、吉村敬三:体温による
制御機構を有する横隔膜直接刺激装置の開発,医用電子と生体工学,第26巻
(特別号),p554,19的.
7)福井美仁、木村元彦、戸川森雄、杉浦敏文、原田幸雄:筋内電極による横隔膜
直接ペーシング,医用電子と生体工学,第27巻 く特別号),p486,1989.
−92−
8)福井美仁・木村元彦、戸川森臥 杉浦敏文、原田幸雄:呼気終末CO2分圧に
よるレート制御機構を有する筋内刺激横隔膜ペーシングの試み,医用電子と生
体工学,第28巻く特別号),plO3,1990.
9)福井美仁、木村元彦、戸川森雄、杉浦敏文、原田幸雄:筋内電極による横隔膜
直接ペーシングについて,第3回日本ME学会東海支部学術集会,No.30.
10)福井美仁、木村元彦、戸川森雄、杉浦敏文、原田幸雄:呼気終末CO2分圧を
制御指標とする筋内電極による横隔膜ペーシングの試み,平成元年度日本HE
学会東海支部学術集会,No.19.
一93−