SURE: Shizuoka University REpository http://ir.lib.shizuoka.ac.jp/ Title Author(s) イリジウムおよびその周辺金属で付活した新規硫化亜鉛 蛍光体の創製と発光特性に関する研究 白田, 雅史 Citation Issue Date URL Version 2011-03-22 http://doi.org/10.14945/00006522 ETD Rights This document is downloaded at: 2016-02-02T09:59:39Z 静岡大学 博 士論文 イリジウムおよびその周辺金属で付活した 新規硫化亜鉛蛍光体の創製と発光特性に関する研究 2011年 大学院 3月 自然 科 学 系 教 育 部 ナ ノ ビジ ョンエ 学 専攻 白田 雅史 論 文概要 硫化亜鉛 (Zns)蛍 光体 は、遷移金属や希土類、ハ ログ ン族な どを取 り込む こと で様 々な発 光色を示 し、そ のアプ リケー シ ョンは CRTを は じめ ELパ ネルや VFDな ど多岐 にわたってい る。その歴史は古 く、研究分野 としては成熟 した領域 に入 つてい るが、最近 になって新 たにイ リジ ウム (Ir)ド ープによる発 光効率 の向上が報告 され たことか ら、Zns蛍 光体 に対 して再び注 目が集 まつてい る。本研究 では、ZnS蛍 光体 へ の Irド ープの効果 の特徴 を把握 しそ のメカニズム を明 らかにす るとともに、その周 辺金属 (Rじ 耽 Pd′ Pt)で 付活 した新規 Zns蛍 光体 を合成 とその評価 により、新 し い付活斉Jと しての IIや その周辺金属 の機能 につい て明 らかにす るこ とを 目的 とした。 得 られた結果 は以下の通 りである。 (1)ZnS、 IrcLお よび フラックス を混合 し焼成す ることで、ZnSIttCl蛍 光体 を合成 し、Irド ー プがその発光特性 に与 える影響 につい て調 べ た。Irド ー プ によ り ZnSiClの SA発 光 の強度 が増 大 し、Vs由 来 の発光 が減少す るこ とがわか った。 これはESRで 観測 されたIrド ー プによるVsの シグナル 強度 の減少 と一致 してい た こ とか ら、Irド ープによる発 光強度 の増 大は、Vsの 生成抑制 によるものであ るこ とを初 めて明 らかに した。 このよ うなIrド ープによる発 光増大 のメカニズ ムはZnS蛍 光体 の高効率化技術 として応用 で きるだけでな く、他 のII― VI族 蛍光 体 に も適用 で きる可能性があ り、学術的 にも実用的にも価値 のあるもの と考 え る。 (2)ZnS蛍 光体 へ のIrド ー プ につ い てそ の 知 見 を深 め るた め 、Clを 用 い ず にIrを 単独 で ドー プ した 場合 の発 光特性 つ い て 詳細 に調 べ た。 Ir源 として はIrC13に 対 して Clを 含有 しないIr2(S04)3° 4H20や Irの 価数 が異 なるIr02を 用 いた。PLス ペ ク ト ル およびそ の温度依存性 か ら、Irc13及 びIr2(S04)3・ 4H20を 用 いた場合はSA発 光 中心 を、Iro2を 用 いた場合 は局在型発光中心を形成 してい ることが示唆 された。 これ らの結果 によりIr自 身 が発光中心を形成す るこ と、さらにはZnS中 で4価 の 遷移金属が発 光中心を形成す るとい うこれまでにない新 しい知見を得 た。 (3)ZnSへ のIrド ープに関 し、その特徴 を明確化 しメカニズムの応用 の可能性 を検 討す るためIr周 辺金 属 である 白金族 (Ru、 Rh、 Pd、 Pt)の ドープ効果 につい て詳細 に調 べ た。 中で も、Rhを 添力日した試料は450m付 近に発 光 ピー クを示 し、そ の発光 の温度依存性や励 起光強度依存性 を調べ た結果、Irを 添カロした場 合 とは異 な りDAペ ア発光 に特徴 的な挙動 を示 した。 これまでに半導体中でRh がDAペ ア発光 に類似 した特性 を示す とい う報告例 はな く、本研究 で新 たに見 出 した発光中心である。 これ らの結果 は、Znsに 限 らず蛍光体全般 において、 白金族 ドープの効果 を示 したほぼ初 めての ものであ り、新 しい蛍光体 の発光中 心 として、他 へ の展開も含 めて今後 の発展 が期待 で きるもので ある。 Zns蛍 光体 としては従来 にない新 しい特性、 新 しい発光中心であ り、 以上 の結果は、 その応用や実用化 に対 して新 たな可能性 を提案 できたもの と考 える。特 にIrド ープの Vs生 成抑制効果は、他 のII― VI族 蛍光体 に応用できる可能性が十分 にあることか ら、本 研究 の さらなる発展 により蛍光体 を用 い た発光デバ イ スの性能 向上に大きく貢献 で きると期待 で きる。 目 次 第 ■章 序 論 研究 の背景 1 1.1 1.1.1 硫化亜鉛蛍光体研究 の歴史 1.1.2 硫化亜鉛蛍光体 の概要 1.1.3 硫化塩蛍光体 の応用分野 1.1.4 最近 の研究動向と課題 1.2 本研究 の 目的 1.3 本論文 の構成 1.4 参考文献 第 第 2章 試 料 の 合 成 方 法 と 評 2.1 合成方法 2.2 評価方法 2.2.1 結晶相 の同定 2.2.2 粒子形状 の観察 2.2.3 発光特性 の評価 2.2.4 1r価 数 の評価 2.2.5 ZnS中 の硫黄空位 の評価 3章 ZnS=Cl蛍 1 2 23 32 34 36 38 価 方 法 光 体 の 特 性 に対 す る 40 40 42 42 44 45 47 49 Irド ー プ の 効 果 51 3. 1 は じめに 51 3. 2 実験条件 53 3. 3 結 晶構 造及 び粒 子形 態 54 発 光特性 59 3.4 3. 5 Irの 状態評価 63 3. 6 ZnSIttCl蛍 光体 の発 光 メカ ニ ズ ム 66 3. 7 ま とめ 67 参考文 献 68 3. 8 第 第 ZnSに 添 カロさ れ 4章 4.1 は じめに 4.2 実験条件 4.3 結 晶構 造及 び粒 子形 態 4.4 発 光特性 4.5 発 光 の温度 依存性 4. 6 ZnSIrの 発 光 メカ ニ ズム 4.7 ま とめ 4. 8 参 考文献 5章 た Irの 状 69 態 種 々 の 白 金 族 元 素 を 添 カロし た 69 71 72 76 79 81 83 84 ZnSの 合 成 と 発 光 特 性 評 価 85 1 は じめ に 85 2 5. 3 実験条件 86 結 晶構 造及 び粒 子形態 87 5. 5。 5。 4 発 光特性 90 5. 5 93 5. 6 発 光 の 温度 依 存性 お よび 励 起光 強度依存性 白金族 ドー プ した Znsの 発 光 メカ ニ ズ ム 5. 7 ま とめ 97 5。 8 参 考文献 98 第 6章 謝 辞 総 括 96 99 103 第 ■章 1 序 論 研 究 の背景 硫化 亜鉛蛍光体研究 の歴史 蛍光体 とは、 ある波長域 の光 を吸収 して別 の波長 の光を発す る物質 の総称 で あ り、 その研究 の歴史は古 く、錬金術 の時代 か ら知 られていた。 しか し、当初 は励起す るた めのエネル ギーで ある電子線、X線 、紫外線 を作 りだす こ とが難 しか ったため、それ らと蛍光体 と組み合わせたデバイ ス とい うのは、19世 紀末 までは実用的なものはなか つた。20世 紀初頭 か ら蛍光 ランプが製造 されたの を皮切 りに して、今 日では、照明、 デ ィスプ レイ、医療な ど多種多様 な分野 で実用化 され 、それ らに使 われ る蛍光体 の種 類 は数百種類 といわれてい る。中で も硫化 亜鉛 (Zns)蛍 光体は、比較的安定性 が高 く発光効率 が高いこ とか ら、応用分野 は多岐 にわたつてい る。 ここでは硫化亜鉛蛍光 体 に着 目し、その歴史 と応用分野について概観す る。 硫化亜鉛 の発光 (蛍 光体)材 料 としての研究 の歴史は、約 140年 前にまで遡 る。1866 年 フランスの SidOtが 昇華法 で作製 した Zns微 結晶 における燐光 を発 見 つしたのが、 最初 と言 われている。そ の後、Znsに 微 量 の金属塩 を添加 して焼成す ると、その金属 に特有な発 光 が生 じることが しだい にわか つてきた。1920年 代 には微 量 の銅 が緑色 の、 銀 が青色 の発光を示す ことが明 らか となった。当時は NaClの よ うな低融″ 点のハ ロゲ ン化物 を融剤 として加 え、1000℃ くらいで焼成す ることで合成 していた。1930年 代 か ら 40年 代 にか けてこれ ら Zns蛍 光体 の研究 のは極めて活発 に行 われ 、1940年 代 の終 わ り頃 になると、 Krё gerら →はハ ロゲ ン化物融剤 が結晶成長 を促進す るだけでな く、 3′ ハ ロゲ ンイオ ンの供給源 として機能 し、Zns中 に導入 されたハ ロゲ ンが発光中心の形 成 に寄与 してい るこ とを明 らか とした。1950年 代 に入 ると、Prenerと Wilhams動 は、 Ib族 付活剤、VII bま たは ⅡI b族 共付活剤 はそれぞれ アクセ プター、 ドナー として考 え、その発光は ドナーーアクセプ ターペ ア間で起 こることを提案 した。 これは ドナー (DA)ペ ア発光 とい う半導体 のル ミネ ッセ ンスにおける重要な最初 ーアクセ プター の概念 にもなってい る。応用面か ら研究 の歴史をた どると、1919年 に Eo RutherfordO によリシンチ レー タが、1936年 に G.Destriau乃 によリエ レク トロル ミネ ッセンスパネ ルが提案 され、現在 までにエ レク トロル ミネ ッセ ンス (EL)パ ネル 、ブ ラウン管、蓄 光剤、X線 蛍光板、蛍光表示管 (VFD)な どの様 々なデバ イ ス において ZnS蛍 光体 が 実用化 され てい る。 2 硫化 亜鉛蛍光体 の概要 (1)結 晶構造 znsは 立方晶系の閃亜鉛鉱型 (zinc― blende′ ZBと 表記 )ま たは六方晶系 の ウルツ鉱 型 (wurtzit%Wと 表記 )の 構造 を有す る。 1020℃ を転移 J点 として低温側が ZB構 造、 高温側が W構 造を形成す る。ZB構 造 と W構 造 の違 い を Fig。 1。 1に 示す。 ZB構 造は、Sを イオ ンが立方最密充填 (ccP)配 列 を し、その四面体孔を一つおきに zn2+ィ ォ ンが埋めている。それぞれ の亜鉛 イオ ンは、4つ の S2-ィ ォ ンによつて四面体 位置 に配位 され てお り、またその逆 であるとも言 える。また構成す るす べ ての原子 が 同一種 の場合 は、 ダイヤモン ド構造 とまつた く同 じもの になる。一方 W構 造は S2イ オ ンの六方最密充填 (hcP)配 列中の四面体孔 を一つ おきに Zn舛 イオ ンで埋めた構造 をとつてい る。 それぞれ の Zn2+ィ ォ ンに対 して 4つ の S2-ィ ォ ンが 四面体形 に配位 し てお り、そ の逆 も言 える。 -2- また高圧下において NaCl型 構造へ転移 動す るこ とも報告 されてい る。 (b)‐ (a)‐ 3 ZB構 造の(111)投 影図 Fig。 1.1 2W構 造のZnS42の 四面体 (b)-3W構 造の (001)投 影 図 ZnSの 結晶構造 -3… (2)電 子状態 勁 ZB構 造 とW構 造はいずれ も直接遷移型 の半導体で、禁制帯幅は近紫外領域に相 当 し、室温で ZB型 が約 3.7eV、 W型 が約 3。 8eVで ある。 そのため付活剤や共付活剤 を 導入 (ド ー プ)す ることによつて可視光短波長 の発光を得 ることがで きることか ら、 可視域 での効率 の良い蛍光体材料 として古 くか ら用 い られてきた。Table l。 1に ZnS の半導体物性定数 1の を示す。 Table l.l ZnSの 半導体物性定数 遷移 タイプ B.G.[eⅥ @R.T Wultzite 直辞 Zinc blende 直競 101 励 起 子 エネル ギ 励 起 子結 合 エ ネ ° 4K IeⅥ ル ギー04KIeVl れo 有効質量 ※ 擁ホ 正孔 ■.4 3.799 ∼3.7 ※正 孔 の有効質量に対す る 2つ の値 は価電子内の方向による違 いを示 している。 -4- 0.39 0.49 次 に ZnS結 晶 にお け る 点付 近 の 電子 の エ ネ ル ギー 状態 「 1の を Fig.1.2に 示 す。 ら (A) 「 「 poo] [000] (a)Zinc_blcndc typc (b)Wurtzitc type Fig。 7(B) 7(C) 1.2「 点付近 の ZnSの バ ン ド構造 10) ZB型 、W型 いずれ も、伝導帯 の底 も価電子帯 の頂上 も た=0の 点にある。ZB型 「 の価電子帯はスピン軌道相 互作用 により、 8(A)(軌 道状態は二重縮退)と F7(B)に 分 「 裂 してお り、Aが 上にある。W型 ではスピン軌道作用 と結晶場 の異方性 のために軌 道縮退はすべて とれ 、上か ら局 (A)、 ル (B)、 多 (C)と なってい る。実際の ZnS蛍 光体 の発光は電子 と正孔 の直接 の再結合 によることは少な く、付活剤 として導入 した不純 物準位 を経 由しての遷移 に起 因 している。 この場合、不純物 が ドナーや アクセプター の場合は、それ らのエネル ギー準位 は伝導バ ン ドあるい は価電子バ ン ドに摂動 が加 わ つた ことによって発 生 した もので あるか ら、そ の特性 はバ ン ドのそれ と同 じであ り、 したがつて再結合係数 は直接再結合 の場合 (間 接再結合 の場合 より4桁 ほど大 きい) と同様 になる。 これ が、直接遷移型が蛍光体 にとつて有利 な理 由の一つで ある。 -5- (3)発 光過程 物質 が何 らか のの励起 エネル ギー を吸収す ると基底状態 にあつた電子が高エネル ギー状態 (励 起状態)に 励起 され る。励 起エネル ギーの種類 の違 い によリエ レク トロ ル ミネ ッセ ンスや フォ トル ミネ ッセ ンスな どに分類 され る。再結合過程 (電 子 が再 び 基底状態 に戻 る過程)に は 2つ のル ー トがあ り、 1つ が輻射再結合過程 で励起準位 と 基底準位 のエネル ギー差 に相 当す るエネル ギー を持 つ光子 を放出す る過程 であ る。こ の過程 により発光を示す物質 を蛍光体 と言 い、硫化亜鉛 がその代表例 の一つ となって い る。もう 1つ の過程 が無輻射再結合過程で、再結合 エネル ギーが光 ではなく熱な ど の形 で放出 され る過程 である。禁制帯 の 中央付近 に形成 され る深 い局在準位 は伝導電 子 と正孔 の両者 に対 して大きな捕獲確率をもつ こ とが多 く、この無輻射再結合過程は 両者 を順次捕獲 して生 じる。このよ うな局在準位 は不純物原子、点欠 陥、転位、界面、 表面な どの結晶の不完全性 に付 随 して発生す る。 輻射再結合 (発 光)の 確率を上 げるた めには無輻射過程 へ流れ る前に励起状態 の電 子 を輻射過程 に結 びつ けるよ うな 「発光中心」を意図的 に形成す るこ と、 さらには輻 射再結合過程 を妨害す るよ うな結晶の不完全性 (格 子欠陥)や 不純物などを出来 る限 り少な くす るこ とが重要 である。 発光中心 としては大きくわけて 2種 類 があ り、母体結 晶中の孤立イオ ンの電子遷移 を利用 した 「局在型発光中心」 と母 体結晶中に ドナー とアクセプ ター とな り得 る 2種 類 の不純物 を ドープす るこ とにより形成 され る「非局在型発光中心」がある。Fig。 lt に ZnS中 で発光中心 (可 視発光)を 形成す る元素 10を 示す。 -6- :UPAC Periodic Tab:e ofthe E:ements 隆¨ Rm¨ D * *l (可 視発光 )を 形成す る元素 10 -7- 口一 ” Cffi Ho r” ″”一K 一 苺断 一 &et B .dc 1.3 ZnS中 で発光 中心 ■ 一一 , a r.5 at*.6-F 一 4.!tent ” S t!6dE.rt 0︸ , 日” &tsf e' b ︲¨ “ ” ¨ B S¨ b P 暉 Kh ¨鋪 ¨ , g聖 H , r”¨腋” 〓︲ 鴫 階け ・∝ 一一 Fig。 ..:t! G 804 や 一 !effis's?tts 4-lt@F<'c€ @ i に ●S ︲Q” エl n” 3 ●コ ス 匈” h 、R 一 d R¨ “ ■ ¨ P一 ︲ ¨ 2N r∞﹃ e [ 詢F h 一 ・腱 一一嘔B Rg ”U ” ユ r?. F{ S9 Dy .ru.{5.9#*l@ .aa€ ・W 一一 9﹄ 一一・た 一 ф “陽 一 ヽ■ 一嘔 ¨ 一助 師一 ¨ 2 ”m 一 五 a¨”針¨“詢¨ ” C F黎 C一 ¨“Y¨ ′ S S” 工 節¨“ C ”L 一 Mo N” │ cC 一 〓B ¨ ロロロ 3日” 画 非局在型発光中心 局在型発光 中心 (ア クセラ 局在型発光 中心 (ド ナー (4)局 在型発光中心 局在型発光 とは、 1つ のイオ ン内の遷移 によつて生ず る発 光 をいい、そのイオ ンに よつて形成 された発 光中心を局在型発 光中心 とい う。特 に ZnS内 に形成 され る局在型 発光中心 としては、3d"の 電子配置 を有す る遷移金属イオ ンや、4fた の電子配置 を有す る希土類 イオ ン等 が あたる。4dや 5dの 内殻電子 を持つ遷移金属 においては、可視域 での発光を示す ものはない 1め と言 われてい る。 <遷 移 金 属 イ オ ン > 遷移 金 属 を ドー プ す る こ とに よる発 光 は 、遷移 金 属 の 3dπ 不完全殻 内 の 電子配 置変 化 に よ つ て 起 こ る。 この 電子遷移 は同 一 の軌道 内で起 こ るた め 他 の軌道 は電子遷 移 に 関 与 しな い 。 3d軌 道 には dπ ― d"遷 移 と呼 ばれ 、 10個 の 電子 が入 る こ とがで き るが 、 ZnSの 発 光 中心 として代表 的 な もの は 3d5内 殻 電子 を持 つ Mn2● ィ ォ ンで あ る。 Mnは (lS)2(2s)2(2p)6(3s)2(3p)6(3d)5(4s)2の 電子 配 置 を持 っ て い るが 、Mn2+ィ ォ ン にな る と(4s)2の 2個 の 電子 が とれ 最外殻 の 3d軌 道 に 5個 の 電子 を有 す る電子 配 置 とな る。 Mn2+ィ ォ ン に よる発 光 は この 3d5不 完 全 殻 内 の 電子遷移 に よ り生ず る。 3d5電 子 の基 底状態 で は 、フ ン トの規則 に よ り合成 ス ピン角運動 量 が最 大 にな る よ うに電 子 が 配列 す る。3d電 子 は軌道角運動 量 I=2を もつ が 、合成 軌 道 角運動 量 Lは 軌 道 角運動 量 の z成 分 Izで 考 えて 、次 の よ うにな る。 L= Σ =(-2)+(-1)+0+(+1)+(+2)=0 Izゴ また 合成 ス ピン角運動 量 Sは S〓 Σ SJ=(1/2)+(1/2)十 (1/2)十 (1/2)+(1/2)=5/2 で表 され 、 したが つ て基 底状態 のスペ ク トル 状態 2S1lLは 6s(望 1)と な る。 これ は 5個 の 3d電 子 が の す ス ピンが す べ て 平行 にな っ た 状 態 で あ る。 一 方 、Mn21の 励 起 状 態 は 3d5電 子配 置 の 変化 に よ り生 ず る。励 起状 態 の 中 で も低 い 状態 は 、5個 の うち 1個 の 電子 の ス ピンが 反 平行 にな っ た 状 態 で 、 この場合 多重度 は -8- 4で あるか ら、低 い ほ うか ら順に 4G、 4P、 4D、 4Fと 表 され る。最 も低 い励起状態 が 4G で、 この状態 の合成軌道角運動量 Lと 合成 ス ピン角運動 量 Sは 、(14S)が (21/2)に あ つた電子 が(+ム ー 1/2)に 遷移 した として次 のよ うに考 えるこ とができる。 L= Σ IzJ=(-1)+0+(+1)+(+2)+(+2)=4 S〓 ΣSJ=(1/2)+(1/2)十 (1/2)+(1/2)+(-1/2)=3/2 したがって 25+lL=4Gぐ Tl)と なる 遷移金属 の ― 遷移 は最外殻 の電子遷移 によるので、結晶構造中での振舞 い は遷 d″ d“ 移金属イオ ンを囲む陰イオ ンの影響 により、そ のエネルギー準位 の位置やその広が り お よび準位 間の遷移確率 が、 自由イオンの ときと比べ て大き く変わる。Mn21は znS 中で Zn舛 格子点を置換 してい るので、4面 体対称 の結晶場 を受ける。4面 体対称にお ける d軌 道 と陰イオ ンの位置 動を Fig。 1.4に 示す。 …9- (a)4面 体対称 の d軌 道 %を 脅 +lDρ d軌 道 自由イオン 乳 名 (b)4面 体対称 のエネル ギー準位 の分裂 Fig.1.4 d軌 道 と陰イオ ンの位置 とエ ネル ギー 準位 の分裂 (4面 体対称)動 -10- 3d電 子 の持つエネル ギー は電子 の運動エネル ギー と内側 の閉殻 が及 ぼす中心場 ポ テ ンシャル によって決ま り、5つ の軌道 のエネルギー は等 しく縮重 してい る。 しか し このイオ ンが結晶中にあると、まわ りの陰イオ ン (Sを イオ ン)か ら影響 を受け、5重 縮退 していた軌道 が L軌 道 と e軌 道に分裂す る。M2+ィ ォ ンの 3d5電 子 のエネル ギー 準位 1つ を Fig。 1.5に 示す。ZnS中 の Mnは 、D7/B∼ 1の 弱い場 にあ り、4G励 起状態 は 4Tl、 4T2お よび 4Al、 4Eに 分裂す る。Zns:Mnの 発光は 4Tlぐ G)→ 6Al(6s)に 対応 した準位 間の電子遷移 によるもの と考 えられてい る。 E ■ J J ′ 日 ノ ′ 0 0 7■ 7崎り軍珈ザ町 “り?電3 崎≧ l T2 e,{r ttelerJ TA〔 ぽ F) 2T2{f25) Fig。 1.5 結晶場 に よる d5電 子 のエネル ギー 準位 の変化 121 … 11- <希 土 類 イオ ン > 希 土 類 元素 とは La(Z=57)と 14個 の ラ ン タ ノイ ド元素 (Ce(z=58)か ら Lu(Z=71)) を指 し、 そ の 特徴 は不 完 全 4f殻 を持 つ こ とで あ る。 RE (Z巧 7∼ 71):(lS)2(2s)2(2p)6(3s)2(3p)6(3d)10(4s)2(4P)6(4d)10(4f)“ (5s)2(5P)6(5d)1(6s)2 =[Kr](4d)10(4f)“ (5s)2(5p)6(5d)1(6s)2 希 土 類 元素 は 3価 の イオ ン にな る場合 が 多 い が 、 そ の ときは (5d)1(6s)2電 子 を失 い 、 [Kr](4d)10(4f)π (5s)2(5P)6 の 電子配 置 を とる。 La3+で は 4f殻 に電子 はな く、それ 以 降原 子番 号 の増 加 とと もに 4f殻 の電子 数 が 1 個 ず つ 増 え 、Lu3+で は 4f殻 に 14個 の 電子 が 入 り、完 全 殻 とな る。希 土 類 イオ ンの発 光 に 関わ る電 子遷 移 はそれ ぞれ の (4f)″ 不完全 殻 内 の 電子 配 置 の 変化 (P― P遷 移 )に よ っ て 起 こ る。Fig.1.6に ZnS:REの 発 光 ス ペ ク トル 131を 、 Fig。 1.7に 希 土 類 イオ ンの (4f)″ 電子 の エ ネ ル ギ ー 準位 1の を示 す。 ‐12… 抽 帆 600 ↓ 一 h 一 ■ 躙 (a)ZhS:Pr(thin 500 600 70, (b)ZnS:Nd(thin■ hn)の 500‐ EL13→ ● oo 00 7o0 (C)ZnSISm(thin■ lm)の EL13→ 壽 ﹂、 500 (d)ZnS:Eu(Powder)の PL13b) 600 100 700 (e)ZnSITb(thin ilm)の EL13→ o ZnS:Dy(thin film)の EL13a) ZnS ITm覧 Zttitrl 500 600 710 (gl aS:Ho(thin film)の EL13→ 言督 ヨー E 暉言一 12 1五 "ytttL 500 600 500 700 (D ZnS:Er(thin film)の EL13→ 600 re lw 12 lfr3eJl (j) ZnS:Yb(bulk) OPL13.) Fig.1.6 ZnS:REの 発光 スペ ク トル 遷移 )13) "ψ 13 'DI (i)ZnS:Tm(thin ilm)の EL13→ 三ゴrゝ =妥9s€£ヽto6 & ag ■ 00 り 一 ﹄ , . 一 中一 一 一 r i F ―一 ヨ プ ト ︲ ︲ ‘ H H ロ I ー P I I I I I I ﹂ ト ー ー ー ー ー F↓ ー ー マ ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー ー サ ﹂ ^ ム ム プr H H H 出 什 H H H H H H = H 障 P H H Lヽ 件甘▼EF Lr ﹄喘 貯 I ︲ ︲ i← ・ 〓 一一 一 聾 一 7 ¨ 一 ユ 一 一 一 一 一 止 崎 一 い 終 . , 一 ] 中 一 一 ﹂ 一 一 ﹂ 特 ﹁ 一 一 に o イ 7 絆 +〓 ム ﹂ ♪ ♂ 卜 Fig。 C・ 4In', 上 Jlた 1′・ = Ef* Tm3+Yb3+ 1.7 3価 希 土類イオンの(4f)″ 電子 のエネ ル ギー準位 10 希土類イオ ンの(4f)電 子はその外側 にある(5s)2、 (5p)6電 子によって外部 の影響 か ら 遮蔽 されてい るために、そのエネル ギー準位 は周 囲の環境 にあま り依存せず、イオ ン 固有 の値 をとり、非常 に鋭 い発光 スペ ク トル を示す。 これは 3d遷 移金属 の場合 と大 きく異なる点 である。例 えば、Eu3+ィ ォ ンか らの発光はい くつ かの線状 のスペ ク トル を持 ち、610∼ 630 nmの 赤色領域 に強い発光 を示す。 これは Eu3+ィ ォ ンの 全殻内の電子遷移 により生 じる。 Eu3+ィ ォ ンの 電子配置 :[Kr](4d)10(4f)6(5s)2(5p)6 14- (4f)6不 完 (5)非 局在型発光中心 電 子 を トラ ップ す る ドナ ー (Donor)と 正 孔 を トラ ップ す るア ク セ プ タ ー (▲ cceptor)の 在型 ペ アにより電子 と正孔が再結合す る際 に可視発光を生 じる発光を非局 (DA発 光)と い う。大きなバ ン ドギャップをもつ Zns中 ではこの DA発 光 を示 す ことが多い。アクセプ ター としては主に Cuま たは Agが 用 い られ Cu+、 Ag+イ オ ン として zn2+サ ィ トを置換す る。一方、ドナー としては主にAlま たはハ ロゲ ン元素 (Cl、 Br、 I)が 用 い られ 、Ap+は zn2+サ ィ トをハ ロゲ ンイオ ンは S2-サ ィ トを置換す る。ZnS 系蛍光体 のエネルギーバ ン ド図 1り を Fig。 1.8に 示す。 Q=2。 eXp(― ″/4) (電子の波働■数) ドナー((■ or Al) 亀︱︱← アクセプター(Agor CO EA (■ 電子帯) (正 孔の議■日数) Fig。 1.8 距離 γ離れ た位置 に存在す る ドナ ー・ アクセ プター対 -15- 1つ 発 光 の エ ネ ル ギ ー は次 式 で 与 え られ る。 hv - E s * (2, * E )* t/ ( neoe,r) … 。(eq.1.1) Egは バ ン ドギ ャップエネルギー、EDと EAは それぞれ孤立 した ドナー とアクセ プタ ーの東縛 エネル ギー (エ ネルギー準位 の深 さ)、 ε′は比静電誘 電率、ァは母体結晶中の ドナー とアクセプ ターの間の距離 である。第 3項 は発 光後 に ドナー とアクセ プ ター間 に生 じるクーロンエネル ギー を表 してお り、これが ドナー・アクセプ ター発光 の特徴 の起源 である。 ここで Fig。 1.8に 示す よ うな距離 r離 れた位置 に存在す る ドナー・ ア クセ プター対 を考 える。発光 が生 じる前 は、電子 は ドナー に東縛 され正孔はアクセ プ ター に東縛 されてい るので電気的 には中性 である。一方 、発光後 には正にイオ ン化 し た ドナ ー ト負 にイオ ン化 したアクセプ ター が残 され るの で 、 クー ロ ンエ ネ ル ギー (一 「い ると長 二ネ́ 争えること力やできる。 このこ 氏下 して r))分 、‐ネルギーがイ /(4′ r〆 ″ づ ル ギー分 は電子 と正孔 の再結合 により生 じる光子 (発 光)に 付与 され る。したが つて、 ドナー・アクセプ ター対 の電子 ―正孔 が放射再結合 した際 のエネル ギー は、距離 rに 依存 し、(eq.1・ 1)に 示す よ うにクーロンエネルギーが加算 され る。結晶内では ドナー および アクセプ ター は格子位置 にあるので、ァの とり得 る値 は離散的であ り、1つ 1 つの対 か らの発光 が分離 で きれば、発光 スペ ク トル は多数 の鋭 い線状 になると期待 で きる。 ドナー・アクセプ ター対発光 の遷移確率 は、電子 と正孔 の波動関数 の重な り合 いの 2乗 に比例す ると考えて良い。ここで正孔はアクセプ ター に強 く東縛 されてお り (深 い準位 )、 一方電子は ドナー に弱 く東縛 され てい る (浅 い準位 )と す ると正孔 の 波動 関数 はあま り広がってお らず 電子 の波動関数 はより広が ってい ると考 えられ る。 この よ うな場合 には波動関数 の重な りは電子 の波動関数 の距離 ァにおける値 に比例す るとみなせ る。 したが つて、遷移確率 は距離 rに 依存 し、次式で表 され る。 -16- 2=鴫 ″(r)=ζ 鳥lexp(― ″ /ち 】 ax eXp(-2r/ち ) (eq. 1.2) ここで γ Bは 電子 の波動関数 のボー ア半径 である。電子 が ドナー に強 く束縛 され 、す なわち電子 の波動関数 があま り広が ってお らず、正孔がアクセ プター に弱 く東縛 され Bを 正孔 の波動関数 のボーア半径 とすれ てい る場合 も同様 な議論 が成 り立 ち、上式 の γ ば良い。 この式は遠 く離れた ドナー・ アクセプ ター 間の遷移確率は低 い とい うこと を表 してい る。遷移確率 の逆数は励起状態 の緩和時間 と考 えられ るか ら、 この式は、 遠 いペ アほど長 い時間 かか つて緩和す るこ とを表 してい る。 以上 の よ うに、非局在型発 光 (DA発 光)で は、発光エネル ギー、遷移確率 ととも に、 ドナー・ アクセプター 間の距離 γに依存 し、距離 γが小 さい ほど発光は高エネル ギー側 (短 波長側)に 現れ、またその遷移確率 が大き くなる。 このこ とか ら ドナー・ アクセプ ター発光は次 の よ うな特徴 を持 つ。 17- ☆時間分解 スペ ク トル (Fig。 1。 9)lt η パルス状 に励起子 した後 の発光 の減衰 スペ ク トル (時 間分解 スペ ク トル)を 観測す ると、発光バ ン ドは時間 とともに長波長側 (低 エネル ギー側 )に シフ トす る。これは、 (eq.1.2で 表 され るよ うに、ァが大きい ほど遷移確率 が低 い (緩 和時間が長 い)た め、 励起後 の時間が経 つ ほど遠 いペ ア (吸 収 により生 じた電子 と正孔 が生 じた場所 か ら遠 い ところで再結合 )の 発光 スペ ク トル を観測す るこ とに由来 してい る。す なわち(eq. 1。 1)に よ り時 間分解 スペ ク トル における発光 ピー クの低 エネル ギー シフ トが説明 され てい る。 ヽ 、 ノ ノ ヽ \ 群 卿 ヽ L_T」 \ \ ヽ、 ヽ mにヽヽ / 螂 ヽヽ \ ヽ ノ 「 Ⅳ川 ヽ ヽ ノ 1圭 ヽ ヽ \ 36 ヽ ﹂ づ ゴ r/ ノ / ヽ \ / / lt ヽ ヽ ヽ ヽ / / // Z グ 7 r w む喘贅﹀ 〓●●ユ■電解 一 E 〓鸞霧一 / /// ノ De lay tiI に 引刊 κ 多 〆 二二L二 百姜計 ¬デ言 _コ ユーー 旨 Photon enett teV) Fig.1.9 ZnSiCu′ Al蛍 光体 の時間分解 スペ ク トル (@4.2K)鴫 151 ‐18… ☆励起光強度依存性 (Fig。 1.10)14均 励起光強度 を強 くしてい くと、DA発 光 のピー クは高エネル ギー側 にシフ トす る。 も し、励起 が強 くなって励起 の確率 が再結合 の確率 よりも高 くなると、励起状態はい つ も占有 されてい るこ とにな り、これ以上励起光強度 を上げても発光強度は増 えない 「飽和状態」となる。遠 くの ドナー・アクセ プター対は(eq.1・ 2)に より再結合 の確率 が 小 さいため励起光強度 が低 くて も飽和 して しま うが、近 くのペ アは再結合確率が高い ので励起光強度がかな り強 くなるまで飽和 しない。 したがって、弱励起 では遠 くのペ ア も近 くのペ ア も同様 に光 ってい るが、強励起 では遠 くのペ アは飽和 して しま って近 くのペ アのみ の再結合 が観測 され るこ とになる。距離 の近 いペ アは高エネル ギー発光 を示す ((eq.1.1))こ とにより、励 起光強度 を増加 させた ときの ピー クシフ トが説明 されてい る。 ,0 104 h一﹁ 槃翠 E EOち 蘊 E “ ●2 一●■ E 5 。 4 l o h p Fig。 e,6 2,8 energl leVl 1,10 ZnS:Cu/Al蛍 光体 の発光 スペ ク トル にお ける励起光強度 依存性 (@4.2K)14151 19- ☆温度依存性 (Fig.1.11)10 電子 0正 孔 の ドナー・アクセプ ター における捕獲/放 出が起きに くくなるため、遠 い 距離 の発光確率 が減少 し、近 い距離 での発光 が優位 とな り、より発光エネル ギーが大 きくなると考えられてい る ((eq。 1・ 1))。 これにより、低温でのスペ ク トル波長 の短波 化 が説明 されてい る。 ︲ ︱ ︰ ︱ ヽ 卜 ・ ︲ ︲ 5 0 一 む5 嬌一 L一 F﹂国 ︷ 毒中国〓□写こ●〓 ︸ 卜t田C紳一 に │○ Fig。 1lo■ へ∵ ﹁ Fh辱 骨 2,5 ユ難 onけ「gy(e・ TI 1.11 様 々 な温度 で測定 した ZnsiCち Al蛍 光体 の発光 スペ ク トル 10 この よ うに、非局在型発 光 (DA発 光)は 、局在型発光中心にはない特徴的な発光 挙動 を示 し、それぞれを見分け る上で重要になる。 -20- (6) 自己付活型発光中心 ZnS中 で形成 され る発 光 中心には、局在 型お よび非局在 型発 光 中心以外 に Self acuvated(sA)発 光 がある。ZnS中 の SA発 光中心は、Cl―や A13+な どの ドナー元素を 単独 で ドー プ した場合 に形成 され る。Cl― が ドープ され ると S2-(A13+が ド_プ され ると zn2+)と 置換 し、結晶内では電荷 の 中性 を保 つ ため Zn卜 空位 が形成 され る。SA中 心 は この Zn2+空 位 と CI(A13+)が 最近接位置 で会合 した準位 による形成 されてい る 171 と言 われてい る。一方で時間分解 スペ ク トル における発光 ピー クの長波長 シフ トが見 られ るこ とか ら、発光遷移状態 は、会合準位 内の遷移 ではな く、孤立 した clド ナー 準位 も関与 してい る りと考 えられてい る。Zn21空 位 は電荷補償 のために 2個 の CIを 必要 とす るが、その 1個 は会合 し、他 の 1個 は孤立 してい るはず で、その準位 が関与 してい ると考 えられてい る。Fig。 1.12に ZnS:Cl蛍 光体 の発光中心 の会合構造 0を 示 す。 $yruetry Axie Sinc Ion Vacaney Fig。 1,12 ZnS:Cl蛍 光体 の SA中 心 の会合 モ デル …21- lη ZnS:Clは W構 造 の場合 りには 440 に ピー クを持つ青色発光 を示す nm付 近に、ZB構 造 の場合 10に は 460 nm付 近 (Fig.1.13)。 Fig。 ル も示 して あるが、室温に比べ て低 エネル ギー側 1.13o)に は低温での発光 スパ ク ト (長 波長側 )に シフ トす るこ とがわ か つてい る。時間分解 スペ ク トルで は DA発 光 に特徴的 な挙動 を示す が低温発光 スペ ク トル ではそ の特徴 を示 さないこ とか ら、発光中心 の距離 に依存す るよ うな DA発 光 には分類 されない。 約 440nm 約460nm り N 〓薔 F こ ロ ア 〓 ゝ 〓 ゛ 〓 0 一C 一 ︵﹁¨ ⊂ 0 一岬い 丁≧ 腱] Emission Zn SiCI} 2 ゝ一一”CO一E 一 0ヒ ●レ一一口 一 0 4000 210 4500 5000 Wovelength (a)W構 造 博 5 0 rgy in Eleciron Vofts .8 2.6 2.4 2.2 2.0 :.8 :口 6 in Angstroms 2.5 Phtton言 日 明 FI「 31D │ (b)ZB構 造 (950℃ 焼成 )10 (1150℃ 焼成 )181 Fig.1.13 ZnS:Cl蛍 光体 の発光 スペ ク トル -22- 硫化亜鉛蛍光体 の応用分野 (1)エ レク トロル ミネ ッセンス (EL)パ ネル 「電 ELと は、蛍光体 106v/cm以 上 の高電界 を印加 した際 に発光す る現象 の名称 で、 界発光」 と訳 され る。 1936年 に初 めて確認 された のが、発見当初は透明電極がな く面発光 とい う概念はなかったため、実用 上 の発展 はなかった。 1950年 頃、透明 Panelite〃 とい う商品名 で実用化 され 、次世 電極 の開発 もあ り米国の Sylvania社 か ら″ Panelite″ とい う商品は、い わ ゆる今 日で言 うとこ 代光源 として注 目を集 めた。 この″ ろの 「分散型 EL」 に相 当 し、一般照明に用 い るほどの特性 はないが面状で フレキシ ブルであるとい う特徴 を有す る。また製品寿命 として輝度劣化 が早い とい う欠′ 点はあ るものの、電球 の よ うに突然切れ るこ とがない とい う特徴 か ら、イル ミネー シ ョンや 特殊用途 で使用 されてお り、現在 で も同様 な製 品がい くつ かの会社 か ら販売 されてい る。一方 、1970年 代 か ら薄膜蛍光体 を用 いたデ ィスプ レイ (「 薄膜型 EL」 )の 研 究 が進め られた。猪 口ら りが二重絶縁型 の素子構造を提案 したことにより、比較的高 輝度 で長寿命 な素子 が得 られ 、薄型デ ィスプ レイ の有力候補 として注 目された。その 後 カナダの Fire社 をは じめ として各社 が実用化研究を行 ったが、液晶デ ィスプ レイ i― (LCD)や プ ラズマデ ィスプ レイな どと比較す るとフルカ ラー化 が遅れ たこともあ り、 本命 か ら外れ る形 となった。現在 では寿命や信頼性 の高 さか ら要求 され る特殊用途な どの使用に留まってい る。 分散型 EL素 子 の構造を Fig.1。 14に 示す。 -23- フイルム基板 興 防湿フイルム Fig.1.14 分散 型 ELの 素子構造 基板にはガラスあるい はプ ラスチ ックフイルム を用 い る。上層 の電極は例えば ITO か らなる透明電極 を用 い、発光層は蛍光体粉末をシアノエチルセル ロースなどの高誘 電率バ イ ンダー に分散 させ 、40∼ 80脚m程 度 の厚 さにす る。蛍光体 としては、付活剤 (Cu)や 共付活剤 (Cl)を 添カロした ZnS蛍 光体 が古 くか ら用 い られてい る。 また背 面 での反射 を促進 し輝度 を高め、また絶縁破壊 を防止 す るために誘電体層 を用 い る。 背面電極 としては通常 アル ミが用 い られ る。 さらに、ZnS蛍 光体 は水分 による表面劣 化 が起きるため、素子全体 を防湿 フイル ムでパ ッケー ジングす ることが長寿命化には 有効 であ る。 分散型 ELの 発光機構 として、現在最 も有望視 されてい るのは、Fischerモ デル m) である。1個 の ZnS蛍 光体 の粒子 内には″ 点欠陥や線欠陥が存在 し、それに沿 つて付活 剤 として添カロした Cuが 析 出 し、そ こで硫化銅 (⊂ 助S)力 ` 形成 され る。CLSは P型 の電気伝 導 を示 し且つ Znsよ りもかな り高い電気伝導度 を示す。この よ うな状態 のエ ネル ギーバ ン ド図を Fig.1.15に 示す。Zns内 に存在す る CLSは ZnSと ヘテ ロ接合 を 形成す るこ とか ら、Znsに 電界 が印加 され ると、CttS― ZnS界 面 には 105∼ 106v/cm とい う高い電界 が生 じ、この高電界 によつて界面準位 か ら一次電子 が トンネ リングに よ りZnSに 注入 され 、正孔 と再結合 して発光す る。 -24- ①両電極間に電場を印加 ②ZnS内 の不純物(Cuχ s)か ら電子/正 孔が注入される ③ZnS内 の不純物(Cl、 Cu)準 位に電子/正 孔がトラップされる ④逆電場を印加(交 流) ⑤ZnS内 の不純物(Cu‐ cl)間 でドナー…アクセプター発光 Fig.1.15 分散 型 ELの 発光 メカ ニズム 薄膜型 EL素 子 の基本構造を Fig。 1.16に 示す。分散型 ELと 素子構成はほぼ同 じで、 蛍光体層 の部分 が物理蒸着 で作製 した薄膜 か ら構成 されてい る。透明電極側 に も絶縁 層 を設置 してお り、 この点で分散型 ELと は異 なるが、 これ が素子 の長寿命化 に大き く貢献 してい る。 この素子構造 は、発光層 が絶縁層 によつて挟まれた構造になってい るこ とか ら、一般 に二重絶縁構造型 EL素 子 と呼ばれてい る。電極間 に 100∼ 200Vの 交流電圧 が印加 され ると、 絶縁膜 と蛍光体薄膜 の界面 には 106v/cmの 高電界 が生 じ、 絶縁膜 と蛍光体薄膜 の界面 か ら電子がエネル ギーバ ン ドの伝導帯に放出され る。さら に高電界により放出され た電子は蛍光体薄膜内で加速 され る。 この加速電子 (ホ ット エ レク トロン)が 発光中心に衝突 して基底状態 に緩和す る際に発 光 が生 じる。 蛍光体 としては古 くか ら Znsに Mnを ドープ したア ンバ ー色発 光 の蛍光体 が用 い -25- られてきた (Fig.1。 17)が 、その性能 も着実 に進化 してお り、 1990年 代 に発光層 の高品質化 によりZns:Mnを 使 つた透明 ELも 発表 され 、脚光 を浴びた (Fig。 1。 18)。 この透明デ ィスプ レイは非発光時で透過率 70%以 上を確保 してお り、他方式 のデ ィ スプ レイでは実現困難な完成度 に達 してい るこ とか ら、無機 ELの 独 自性 をア ピール す るためのフル カ ラー化、大型化 など、今後 の発展 が期待 され る。 // ガ ラス墓板 透 明導 電性フイルム 誘 ■体■ ― 呻 Fig。 1.16 薄膜 型 ELの 素子構造 -26- E Fig。 1.17 ZnS:Mnを 使 ったモ ノクロデ ィスプ レイ (1987年 SHARP) Fig.1.18 ZnS:Mnを 使 つた透 明デ ィス プ レイ (2001年 デ ン ソー ) -27- (2)ブ ラウン管 ブ ラウン管 は、Cathode Ray Tube(CRT)と も呼ばれ 、 1897年 、 ドイ ツのブ ラ ウンによって発明 された こ とにちなんで命名 された真空管 の一種 で ある。電子銃 と言 われ る電子 ビーム発生部 か ら出た電子 を前面 の蛍光体 に照射す るこ とで、蛍光体を励 起 し発光 させ る。この電子 ビームは途 中にあるコイル によって走査す るこ とが可能 で あ り、水平用 と垂 直用 の二組装備 されてい るので、加 える偏 向信号によって ビーム を 任意 の向きに曲げ られ 、さらに高速 で走査できるこ とか ら、蛍光体残光 と視覚 の残像 を利用 して像 を表示 してい る。Fig.1。 19に カラーブ ラウン管 の構造を示す。 メ タル バ ッ ク シ ャ ドウ マ ス ク イスプ レー ト 収 東 コ イル RGB tt r・ 銃 偏向 ヨー ク Fig。 ` ヽ て\ 」 RGB蛍 光体 1.19 カ ラー ブ ラ ウン管 の構造 電子線 により蛍光体を励起す るこ とで発光す るブ ラ ウン管 は、RGB三 原色 の蛍光 体を用 い るこ とでフル カラー化 を実現 してい る。 そ の中で も青色蛍光体 には Agを 付活 した Zns:Ag2つ を、緑色蛍光体 には ZnSに ZnS:Aur⊂ u7A12り が使われ てい る。 -28- Au、 ZnSに Cuお よび Alを 付活 した (3)蓄 光材 蓄光材 とは、光 のエネル ギー を吸収 蓄積 して、そのエネル ギー を自発的に長波長 の 光 として放出す る蛍光体 のこ とをいい、しか もこの過程 を何回でも繰 り返す性質を持 つ。 ・ 発光原理について簡単 に述べ る。光 の照射 な どによつて、外部 か らエネル ギー を与 えて発 生 した電子 と正孔は、 ドナーや アクセプター などの捕獲 中心に捕獲・放出 され た りしなが ら、最終的 に再結合す る。通常は励起 が止まった後 に発光す るこ とか らこ の光 を残 光 と称 してい る。 この よ うな残 光 は、母体結晶の化合物 の組成や、不純物 の 種類や濃度によつて、発光色や残 光輝度、残光 時間が異 なって くる。捕獲 中心のエネ ル ギー的深 さが深 い と熱的活性化 に時間がかかるので残 光時間が長 くな り、また、捕 獲 中心の密度 が高い と残 光輝度 が高 くなることになる。 古 くか ら目覚 ま し時計 の文字盤 などに塗 られ ていたのが硫化亜鉛蛍光体 (Zns:Cu) で あ り、黄緑 の光 で 1∼ 2時 間発光す るもので あつた。 その他 にも腕時計用文字盤や 非常時用案内板など、日常生活 に身近にある蛍光体材料 として多 く使われ ている。最 近 では 、耐久性や輝 度 、残 光 時間 な どの 特性 の観 点 か ら、新規 の 蓄光顔料 で あ SrA1204EurDy系 顔料 231も 使われ ている。 -29- (4)蛍 光表示管 (Vacuum Fluorescent DisPlay;VFD) VFDは ブ ラウン管 と同様 に、電子線励 起による蛍光体発光 を利用す るデ ィスプ レ イである。 ブ ラウン管 と異なる点は加速電圧が 10∼ 50V程 度 の低電圧 の電子線が用 い られ るこ とである。またブラ ウン管 の よ うな電子線 の走査による表示方式 とは異な り、面状 に放 出 され る電子線 を用 い る こ とか ら素子 を平面状 にす る こ とがで きる。 VFDは 、低電圧駆動、平面型、小型・軽 量な どの特徴 を持 ち、デ ィスプ レイ として 車載機器 をは じめ とす る多 くの分野 で用 い られてい る。そ の構造をFig。 1.20 家電製品、 に示す。 フロン トガラス Fig。 フィラメン ト 1.20 蛍光表示管 (VFD)の 構造 約 600℃ にカロ 熱 された フィラメ ン トか らメッシュ状 の グ リッ ドにより熱電子 を引き 出 し、 これを加速 してアノー ド上に塗布 された蛍光体 に照射す る。100V以 下の低速 電子は蛍光体へ の侵入 が表面近傍 に限 られ るため、高抵抗なブ ラウン管用 の蛍光体を 使用す ることがで きない。帯電 が生 じない導電性 の高い蛍光体 も しくは Iル 03な どの 導電物質を混合 した蛍光体 が用 い られ る。代表的 な VFD用 蛍光体 は、導電性 のある ZnO:Znで あるが、カラー用 10に は青色蛍光体 として ZnS:Agが 、ア ンバ ー色蛍光体 では ZnS:Mnが 使われ る。 ‐30- この よ うに、硫化亜鉛 は発 光材料 として多 くの分野 で実用化 されてお りその用途 も 幅広 い。それぞれ の発光現象は、励起方法 こそ異 なるが、基本的には母体物質 である ZnSを 何 らかのエネル ギーで励起 し、そのエネル ギー によつて付活斉Jで ある Agや Mnが 形成す る発光中心で発光す るものである。Table l.2に 励起方式による硫化亜鉛 発光デバ イ スの分類 を示す。 Table l.2 硫化 亜鉛 を用 い た発 光デバ イ スの分類 デバ イ ス ELパ ネル 発 光 の分類 エ レク トロル ミネ ッセ ンス 発 光原 理 励 起源 電界 物質に高電界を印加す る ことによる発 光 物質例 ZnS:Mh ZnS:ゝ,Cl ブ ラウン管 カ ソー ドル ミネ ッセ ンス 高速電子線 物質に陰極線 (電 子線 )を 照射す ることによる発光 ZnS:Ag ZnS:AttCurCl 蓄光材 フォ トル ミネ ッセ ンス X線 蛍光板 蛍光表示管 カ ソー ドル ミネ ッセ ンス 光 物質に光を照射す る ことによる発光 ZnSiCu 放射線 物質に放射線 を照射す ることによる発 光 ZnS:Ag 低速 電子線 物質に陰極線 (電 子線 )を 照射す ることによる発光 ZnS:Lh ZnS:Ag ECO"を キー ワー ドに、高効率/低 消費電力/高 耐久を実現 近年 では “ 環境"や “ す る材料お よびデバ イ スの開発 が盛 んに行 われてお り、硫化亜鉛 について もさらなる 特性 向上が望まれてい る。特 に発 光材料/発 光デバ イ スの分野 は、青色 LED2)や 白色 有機 EL2助 の発明をきっか けに して世界中で研究投資 されてい るため、 今後 の発展 が大 い に期待 されてい る分野 である。 …31` 最近 の研究動 向 と課題 ZnSは 、発光中心 の違 い によ り様 々 な発 光特性 を示す ことか ら、ブ ラウン管や ELパ ネル な ど幅広 い分野 で実用化 され て きた。残念なが ら近年 の LCDや 有機 ELと いつた発光デバ イ スの性能向上を背景 として、ZnS蛍 光体 を用 いたデバ イ スの活躍 の 場 が減 ってきてい るのは事実である。そ の理 由は、発光デバ イ ス として通常使用 の条 ・「発光効率 が低 い」 な ど、他 のデ 件 では 「暗い」、高輝度条件 の とき 「寿命 が短 い」 バ イ ス と比較 して優位 な特徴 を見出せていないこ とが考 えられ る。 しか しなが らここ最近 になって、ZnS蛍 光体 を用 いた ELパ ネルの技術進展 がい く つ かの研究 グループか ら報告 され てい る。 これまでの分散型 cd/m2程 度 (通 常使用条件 )で あったが、富士フイル ムは輝度 度 ELパ ネル ("Luxsheer)26′ ルのイメージを払拭 させた Fig。 2の ELパ ネル は輝度 100 600 cd/m2と ぃ ぅ高輝 を発表 し、 これまでの 「暗い」 とい う分散型 ELパ ネ (Fig。 1.21)。 1.21 ZnS:Cu′ Clを 用いた分散型 ELパ ネル (2005年 富士フイルム)26′ 2つ -32- この技術進展は、蛍光体 で ある ZnSiCu/Cl粒 子 の高性能化 によるところが大きい。粒 子構造 の精密制御 (非 効率 となる深 い電子 トラップの除去 、小サイ ズ単分散化、高濃 度 Cuド ープなど)に より、大幅 な性能向上 (高 輝度長寿命化 )を 達成 した。時 を同 じくしてt茶 谷産業 とクラ レは共同で超 高輝度 EL2助 を発表 した。 そ の発表内容は、 350000 cd/m2で 寿命 が 25000時 間以上 とい う性能 で、LEDや 有機 ELを 凌 ぐ桁違 いの ものであった。またその発光材料は Znsと されてお り、今後 の さらなる技術進展 とそ の実用化に大きな関心が寄せ られてい る。奈良先端大 とl■lイ メー ジテ ックは、zns蛍 光体 の簡易合成法 として真空マイク ロ波加熱装置 を用 いた合成方法を提案 2動 し、均一 発光可能な ELパ ネル を作製 した。真 空下でマイ クロ波照射 で きる加熱装置 を用 い る こ とで、迅速 0安 価 に ZnS蛍 光体 を合成す るこ とが可能 とな り、従来 の高温焼成法に 代 わる新 たな合成法 として注 目され てい る。Uedaら 3の は、znS:Mnに Irを ドー プす るこ とによりPLの 発光効率 が著 しく向上す ることが報告 された。Zns蛍 光体 の発光 効率 を向上 させ る新 たな技術 として、大変興味深 い ものであると同時に、成熟期 に入 った ZnS蛍 光体分野 において新 たな発見 と言 える。ZnSNhに 限 らず、Zns:Cuや ZnSe:Mn、 SrS:Ceな どにおいて も同様 に発光強度 を増加 させ るこ とができるとしてお り、その適用範囲は Ⅱ― VI族 化合物全般 にわたつてい る。 この よ うな Irの ドープ効果 を PLだ けでなくELや CLを 使 った様 々なアプ リケー シ ョンに適用できればそのデバ イ スの さらなる性能 向上が期待 され 、実用 上大変重要な技術 に発展す る可能性 がある。 そのためには、この Irド ープによる発 光効率向上 のメカニズム を解明す るこ とは極 め て重要 と考 える。 -33- 2 本研究 の 目的 本研究 では、発光効率を向上 させ る効果 があるとされ る Irに 着 日した。Irは コバル ト (Co)族 に属す るが、も ともと Coは そ の周辺 の鉄 (Fe)や ニ ッケル (Ni)と 同様 に ZnS蛍 光体 におけるキラー元素 3つ として知 られてお り、蛍光体 の発光効率 を低下 させ る元素 とされて きた。最 近になってそ の同族 である Irが 、発光効率を向上 させ る 効果 が あることが示 され 、大変注 目され てい る。また Ir周 辺 の金属 (RL O助 耽 Pd′ Pt)は 一般 に 白金族 と呼ばれ 、物理的性質や化学的性質 が互 い によ く似 てい るこ とか ら、同族 として扱 われ るこ とが多い。そのため、Irと 同様 に ZnSへ の ドー プ効果 につ いて も大変興味が持たれ るところである。 そ こで本研究 では以下の 3つ を研究 目的 とした。 ①ZnSiCl蛍 光体 における Irド ー プの効果 とその メカニズム解明 ZnSiCl蛍 光体 に Irを ドープ し、その発光特性 へ の影響 を調 べ るとともに、そのメ カニズム を解明す るこ とを 目的 とした。本研究 において効率向上 のメカニズムが解明 で きれば、これまでにない新 たな知 見 となるとともに、蛍光体 の設計指針 が明確 とな り、Irド ープの実用化、蛍光体デバ イ スの性能向上につ ながると考えた。 ②ZnSへ の Ir単 独 ドープによる特徴明確化 ZnSに 対 して Irを 「単独」で ドープ した報告例 は これまでにな く、その基礎的な発 光特性や物性は未知な部分 が多い。本研究 では Znsへ の Irド ープの効果 を明確 にす るこ とを目的に、種 々の Ir源 を用 いて Znslrを 合成 しそ の発光特性 を評価 した。 こ れにより Zns中 に単独 で ドープ した Irが 、発光中心を形成 してい るのかか、または ドープに伴 う欠陥生成 が発光 に影響 を与えてい るのかな ど、そ の詳細を明 らかにす る こ とを 目的 とした。 -34… ③ 白金族 を ドー プ した Zns蛍 光体 の特性把握 Irと 類似 の性質 を有す る白金族 (Ru、 Rh、 Pd、 Pt)に 着 日し、その発光特性につ いて明 らかにす ることを 目的 とした。Irド ープの結果 と比較す るこ とでその特徴 を明 確 にす るだけでなく、白金族 を付活剤 として用 いた これまでにない新 しい蛍光体を合 成 し、Zns蛍 光体 における新 たな知 見 を得 ることも目的 の一つ とした。 -35- 3 本論文 の構成 本論文は、本章を含 めて 6章 か ら構成 され る。 第 1章 では、ZnS蛍 光体研究 の歴史 、結晶構 造や発光機構 を中心 とした ZnS蛍 光 体 の概要、さらには ZnS蛍 光体 の応用分野 について概観 し、本研究 の背景や 目的を明 確 に した。 第 2章 では、本研究 における試料 の合成方法や評価方法について記載 した。評価方 法 については、評価 に用 いた測定機器や そ の測定条件 の詳細な ども併せて記載 した。 第 3章 では、Irド ープ効果 を検証 し、そのメカニズムについ て提案 した。ZnS蛍 光 体 としては SA発 光中心を有す る ZnS:Clを 選択 し、Ir源 として IrC13を 用 いて固相反 応 により合成 した。IrC13添 加量依存性 における ZnSiClへ の Irド ー プによる発光特性 の変化 だ けでな く、 Irの 価数や Zns中 の欠陥 に対す る評価な ど、 結晶構造や粒子形状、 詳細な解析 を行 つた。 第 4章 では、合成 に用 い る Ir源 として、IrC13に 代 わ って Clを 含有 しない Ir2(S04)3・ 4H20や 価数 の異なる Ir02を 用 いて、ZnSへ Irの みを ドープ した ZnSIrを 作製 した。 特 に 4価 の Irを ドープ した蛍光体 は本研究 において初 めて合成 されたものである。こ れ らの結果 か ら、Ir自 身に よる発光 中心形成 の有無や そ の発光中心 の特徴な ど明 らか にし、付活剤 としての Irの 全体像 を把握 した。 Irと 性質 が類似 した 白金族 を Znsヘ ドープ した場合 の発光特性につい 第 5章 では、 て詳細に調べ た。 白金族 としては、Ru、 り試料 を合成 した。 その 中で Ruや Rh、 Pd、 Ptを 選択 し、通常 の固相反応に よ Rhを ドープ した試料は可視発光す ることが確認 され 、 これまでにない新 しい蛍光体 の合成 に成 功 した。 そ の発光 の確認 だ けでな く、 どの よ うなメカニズムの発光を示す のか、Irの 発光効率向上効果 が他 の金属でも発 現 す るかな ど、それ らが Znsに 付活 された場合 の発光特性 に与える影響 を調べ 、白金族 -36- の付活剤 としての機能 を明 らかに した。 第 6章 では、本論文 で述べ てい る研究 の内容 とその成果 を総括 した。また、残 され た今後 の展望につい て もま とめた。 -37- 1。 4 参考文献 1)E.BecquereL C.R.五 ε α ″.Scプ .6z999(1866). 2)H.Leverenz′ A4動 ォγθ′ "ε ′ηナ θLzzj“ 4ε θO/Sθ I′ `sCθ `θ ′S′ JOhn wiley&Sons′ Inc.′ (1950)。 3)F.A.Krё ger arld J.E.Hellingman/Trα 4s.Eル cナ 7oc力 .′ 95′ 68(1949)。 `解 4)F.A.Krё geL Jo ED Hellingmm and N.W Smit Pん 5)J.S.Prener and F.E.Williams′ ′ rOcた J.EIθ ε `解 ysjε ら 15′ ,Sθ ε 103′ 。 ′ 990(1949). 342(1956)。 6)Eo RutherfOrd′ PttfI.M電 .v010 XXXVIL 537(1919)。 71 G.Destriau/J.Cた Z.Pり s.′ 33′ 620(1936). 8)G.A.Samara ttld H.G.Drickamatェ 9)塩 谷繁雄、舛本泰章 Pカ メ。 C力 χ勿″ハ ン ドブ ッえ 。 Sθ ′ I′ `解 II.2.3.1′ s′ 23′ 457(1962). 朝倉書店 (1984). 10)S.ShiOnoya and W M.Yen/P力 θ θ s′ た r Hα れ ′ bθ θ L CRC Press LLCし Boca Raton/FL (1999). 11)小 林 洋 志 発光 の 多 燿知 .2朝 倉 書 店 (2000). 12)H.Kamimura S.SuganO ttld Y Tanabら Liigα 4ダ Fた I″ ]吻 `θ jθ ry α″′イ オ sノ ψ′Ijε α チ 4S Syθ た αbθ ′Tokyo(1969)。 13)a)T Suyama N.Sawara K。 Okamoto md Y Hamakawaル 4・ 21‐ 1′ J・ 五″ I.Pり ′Sツ ′′J. S・ 383(1981). b)Eo W.Chaser R.T Hepplewhite/Do C.Krupka arld D.Kahng/ェ 五′′I.PLys.′ 40′ 2512(1969)。 C)H.Przybyliiskみ K.Swittet A.St彊 )o身 A.Suchocki and M.Godlewskt Pり R`aB′ 4Q1748(1989). 14)K.Era/S.Shionoya arld Y Washizawみ 二P″ S -38- Sθ ε ・ル4.′ 2%1827(1968). S・ Ohmatsu/J.Pり s 15)KD Era Se ShionOya Y Washizawa and H。 Sθ ε ・ル4・ ′29′ 1843 (1968)。 16)S,ShiOnOya7■ Kodar K.Era and H.Fuiiwara/J.Pり 17)■ Koda田 ■d Se Shionoya/Pり s,Rι υ ′13c ・ S Sθ ε 。 ル4・ ′19′ 1157(1964). A541(1964). 18)R.Bowers and N.T Meramed Pり s.Rθ υッ99′ 1781(1955). 19)猪 口敏 夫 、 エ レク ハ′ル ヾ ネ ッ セ ン ハデ ィヌ プ レイ p.6産 業 図書 20)AD G.FischeL Lzttj“ ε θ 4ε θO/助 θ rgα jc “ “ 21)小 寺 嘉 秀 、 数光 ″ とそ の応 用 ,p.21. Sθ :プ ′ s′ P.541′ (1991)。 Academic Press(1966). 22)芦 崎 重 也 、 Nα オ ね4α J■ ε た4Jε αI Rttθ ″ ちFEB7(1982). 23)田 部 勢 津 久 、花 田禎 一 、 ニ ュ ー を / ヾ ノ ク ヌ′9′ 27(1996)。 24)S.Nakamura/MoSenoh and I Mukatル ″・ A′ ′J.Pり Sッ J・ 32L8(1993). 25)J.Kido/K.Hongawar K.Okuyamar arld K.Nagaち A″ I,Pり 26)S.Yamashitar T Sato′ Rθ sθ α rc力 θ Dθ υ ′解 `Iθ `グ fη I′ チ ち 6t815(1994). Mo Shirata T,NogucL K.Kawato and K Ogawa/町 メIz ち5t31(2006). `π 2D S.Yamashita To SatOur M.Shiratar T.Noguchち P“ ε θ S・ K.Kawato arld K。 Ogawa/ g o/肋 ナ ηαffθ 4α :Djψ Iり WOrksた θ ′s(IDW′ θ6)′ p.1199(2006). `γ 28)T CHATANI&COoED。 ごld Kuraray Co.′ Ltdり FPD Internationa1 2005. 29)N.Tagucht Y Kobayashi and Y Uraokみ PЮ θ ″′ ″go/レ オ ι γ 4α オ ブ θ πα,D,s′ Iη `θ Woγ 鷺力θ ′s(IDW′ θ9,′ p.403(2009). 30)T.Ueda/s.Yamaucht J3 Karlamori arld Y.Hayasht W02θ θ7/θ 43676 Al. 31)M.Tabet seShionoya and H.Ohttnatsu/ル 4・ -39- J・ ノ卑平ガ.P力 ySッ 1■ 240(1970)。 第 2。 2章 1 試 料 の 合 成 方 法 と評 価 方 法 合成方法 本研 究 で は 、高 温 で 焼成 す る こ とで 原料 を反応 させ る 固相 反応 法 を用 い た 。 ま ず 高 純度 の ZnS微 結 晶粉末 と付活剤 、融斉J(フ ラ ッ ク ス )な どの原料 を混 合 した 後 、ル ツ ボ に入 れ 、炉 内で 焼成 した 。焼成 時 は 、周 囲 に活性 炭 を敷 き詰 め同時 に焼成 す る こ と で 非酸化性 (弱 還 元性 )雰 囲気 と し、ZnSへ の 酸素 の 混入 を防 止 した。反応 終 了後 、 融剤 を取 り除 くた めに水 洗 し、乾燥 させ る こ とで ZnS蛍 光 体粉 末 を得 た。 Fig。 2.1に 合成 方法 の フ ロー チ ャー トを示 す。 フラッタス 勁出饉議馴底 工襲Ω ■燿 捏合 │ 麗L菫 (@1■ 00° C′ 3h) │ │ 盤 │ J■ 邑 (@80● C′ 6h) │ ZnS:Ir£ 1 Fig.2.1 試料 の合成方法 -40- 各章 ご との詳細な合成方法 について以下 に述べ る。 【 第 3章 】 高純度 の ZnS微 結晶粉末 (フ ル ウチ化学製 ;99。 999%)、 IrcL粉 末 (三 津和化学製 ;99。 9%)お よび フラックス として Znsに 対 して 3w七 %の MgC12・ 6H20軒 ロ 光純薬 工業製 ;98%)、 2 wt%の NaCl軒 日光純薬 工業製 ;99.98%)を 混合 し、1100℃ で 3時 間、焼成す るこ とで ZnSIttClを 得 た。フラックスである MgC12° 6H20や NaCl は、その融フ 点よりも高い温度で焼成す ることにより溶融 し、それにより生ず る液相状 態 が系内の物質拡散 を促 進 させ 、粒子成長 を早めるもの と考 えられてい る。 さらに NaClや MgC12な どの塩化物 フラックスは Cl源 としても働 き Zns中 に取 り込まれ る こ とで SA発 光 中心を形成す る。焼成後 は純水 で洗浄 し、80℃ で 6 hrの 乾燥 を行 うこ とでフラックス を除去 した。 【 第 4章 】 高純度 の ZnS粉 末 (フ ル ウチ化学製 ;99.999%)と Ir源 粉末 を混合 し、 第 3章 と同様 に 1100℃ で 3時 間、焼成す る ことで行 つた。ZnS中 へ の Clの 取 り込み による SA発 光中心 の形成 を抑制す るため、NaCl等 のフラックスは用 いず に合成 し た。Ir源 としては、IrCL(三 津和化学製 ;99。 9%)、 Ir2(S04)3° 4H20(Ir含 量 ;54%) 三津和化学製 )、 Iro2(三 津和化学製 )を 用 いた。 また、 フラックス を用 いてい ない ため、焼成後 は軽 く乳鉢 中で粉砕す るのみで、水洗等 は行わなか った。 【 第 5章 】 高純度 のZnS微 結晶粉末 (フ ル ウチ化学製 ;99.999%)と 白金族 の塩化 物塩 を混合 し、1100℃ で3時 間、焼成す ることで行 つた。第 4章 と同様 にNaCl等 のフ ラックス は用 いず に合成 した。 白金族 の塩化物塩 としては、Irc13(三 津和化学製 )、 RuC13(和 光純薬 工業製 )、 RhCL(和 光純薬 工業製 )、 PdC12(和 光純薬 工業製 )、 H2PtC16° 6H20(和 光純薬 工業製 )を 用 いた。また焼成後 は軽 く粉砕す るのみで、水洗 等 は行わなかった。 -41- 2.2 評価方法 2.2.1 結晶相 の 同定 合成 した Zns蛍 光体粉末 の結晶相 の同定お よび結晶構造 については、X線 回折装置 (X― Ray Diffraction,XRD)を 用 いて評価 した。以下 にそ の装置 の概要 と測定条件 を 示す。 〔 測定装置〕 形式 :粉 末 X線 回折装置 機種 :RINT-2500(閉 リガク) 〔 測定条件〕 X線 源 :CuKα F口 (1.54056Å ) 力日 電iF■ :55 kV 電流 :280 mA 走査速度 :0.8 deg(2の /min ステ ップ角度 :0。 l deg -42- ※ 格子定数 の算出方法 回 λ グ θ す 線 rllllL 自 X 各 (eq.2.1) 3 2 2 暉 弓 > 摩 一 H H ミ フ か ら、 (eq.2.2) (eq.2.3) (eq.2.1)を (eq.2.2)お よび (eq。 2.3)に ぞ れ ぞ れ 代 入 す る と ZB構 造 W構 (立 方 晶 )の 場 合 造 (六 方 晶 )の 場 合 sin2 sin2 θ=ィ θ=上 ト 12+〆 +′ 2) 2)十 二 o2+ヵ 々 十た (eq.2.4) 野 2 (eq.2.5) I)と ブ ラ ッグ角 θ を代入 し、 (eq.2.4)お よび (eq.2.5)そ れ ぞれ の 面 で の ミラー 指数 (ん た そ の値 を最 小 二 乗 法 で 回帰分析 す る こ とに よ り格 子 定数 αお よび /ま た は cを 決 定す る。 -43- 2.2.2 合成 した (Scarll■ 粒子形状 の観察 Zns蛍 光体粉末 の粒子 サイ ズや形状 を調 べ るため、走査型電子顕微鏡 ing Electron Microscope,SEM)に よる観察 を行 つた。以下 に装置 の概要 と測 定条件 を示す。 〔 測定装置〕 形式 :走 査型電子顕微鏡 機種 :S-3400(閉 日立ハイテクテクノロジー) または TM-1000(日 立協和エ ンジニア リングm) 〔 測 定条件 〕 加 速電圧 :10 kV(S-3400)、 15 kV(TM-1000) 観 察倍 率 :500∼ 2000倍 検 出器 :2次 電子像 -44- 2。 2.3 発光特性 の評価 ZnS蛍 光体 の発光特性 は、紫外線励 起によるの発光 スペ ク トル およびその励起スペ ク トル を測定す ることにより評価 した。以下 に測定装置 の概要お よび仕様、測定条件 を示す。 〔 測定装置〕 形式 :蛍 光分光測定装置 機種 :Fluorolog-3 spectrophotometerr lnodel FL3-22(Horiba JObin Yvon) 励起光源 :450Wキ セ ノンランプ モ ノクロメー タ :f/3。 6 Czerny― Turnerマ ウン ト 回折格子 :機 械切 リグ レーテ ィング、中心部刻線数 1200 gr/mm 検出器 :室 温でR928P(光 電子倍増管)を 使用 (180∼ 850m) 分解能 (二 重回折モ ノクロメー タ):2.lnm/mm ス リッ トセ ッテ ィング :0∼ 15 nm 〔 測定条件 〕 <発 光 スペ ク トル > 測 定波長 範 囲 :400∼ 630 Flm 励 起波 長 :330ま た は 350m ス テ ップ 波長 :lnm 積 分 時間 :0.25 sec -45- <励 起 スペ ク トル > 測 定波長 範 囲 :300∼ 400m 励 起波長 :440∼ 450 nm ス テ ップ 波長 :0.5nm 積 分 時 間 :0.25 sec 低温での発光 スペ ク トル は、液体窒素 によリサ ンプル を冷却 しなが ら測定 した。ま た励起光強度依存性につい は、励起光源 の出射側 に減光 フィル ター を設置 し、励起光量を調節す ることで測定 した。 -46- (NDフ ィル ター ) 2.2。 4 1r価 数 の評価 ZnS中 に ドープ された Irの 価数 を評価す るため、 X線 吸収端近傍 (X― ray Absorpuon Near Edge Structure,XANES)ス ペ ク トル を測定 した。XANESス ペ ク トル とは、X 線 のエネル ギー を連続的 に変化 させて照射 した ときに、原子 の内殻軌道電子を非 占有 軌道 の エ ネ ル ギ ー 状態 に励 起す る こ とに よ り得 られ る X線 吸収端構 造 (X― ray Absorption Near Edge Struchre,XAFS)の うち、吸収端近傍 のスペ ク トルのこ とを 指す (Fig。 2.2)。 一般的 に XANESで は、元素 の価数 が大きい (酸 化数 が大きい)ほ ど、吸収端 の位置 は高エネル ギー側 にシフ トす るこ とか ら、既 知 の リファ レンス と照 合す るこ とで、簡単 に着 目元素 の価数 を見積 もることがで きる。 ルLll_4、 _ 4 Photon Encrgy Fig。 2.2 XAFSの 原 理 とスペ ク トル -47- 〔 測定装置〕 形式 :XAFS測 定装置 ((財 )高 輝度光科学研究セ ンター(JASRI)所 有) ビーム ライ ン :Spring-8の 産業用 Ⅱ ビーム ライ ン BL14B2 エネル ギー領域 :3。 8∼ 72 keV ビームの水平方向の発散 :1.O mrad 光子量 :∼ 1010 photons/s エネル ギー分解能 :△ E/E∼ 104 〔 測定条件 〕 測 定方法 :蛍 光 XAFS法 検 出器 :19素 子 Ge半 導体検 出器 吸収端 :Ir L3-edge 標 準試 料 :Iゴ Ⅱ CL、 IrIV02 -48- 5 ZnS中 の硫黄空位 の評価 ZnS中 の欠陥の評価 には電子 スピン共鳴 (Electron Spin Resonance;ESR)を 用 い た。その原理 を簡 単 に説明す る (Fig.2。 3)。 ス ピンを持 つた電子に磁場 を与えると、 ゼーマン効果 によって物質 のエネルギー準位 が2つ に分割 され る (ゼ ーマン分裂 )。 の 2つ のエネル ギーの差 に相 当す るエネル ギー (周 こ 波数 によつてマイク ロ波や近赤外 光 が使われ る)を 外部 か ら加 えることで共鳴 を起 こし、このエネル ギー の吸収量を検 知す るこ とでESRス ペ ク トル を得 るこ とができる。ZnS中 の硫黄空位 (Vs)は 、電子 を トラ ップす る性 質 があ り、 この硫黄空位 に トラップ された電子がESRシ グナル を示 す こ とか ら、その半値幅 がほぼ同 じである場合 シグナル強度 を比較す るこ とで硫黄空 位 を定量す るこ とができる。 また、正 孔を トラップす る亜鉛 空位 (V励 や 、電子 を トラップす るCl― な ども同様 に分析す るこ とができる。 マ イ クロ波 :セ ーマン分裂とESRス ペ ク トル線形l Fig。 2.3 ESRの 原 理 -49- 〔 測定装置〕 形式 :ESR測 定装置 機種 :EMX型 (ブ ル カー・バ イオスピン社 ) クライオ ス タッ ト :He用 クライオス タッ ト (オ ックス フォー ド社 ) 光源 :300Wキ セ ノンランプ LAX-301(朝 日分光) 〔 測 定条件 〕 電磁 波 帯 :X― band(9.5 GHz) 測 定温度 :130K 励 起波 長 :330 nm バ ン ドパ ス フ ィル ター にて 分 光照射 -50- 第 3章 ZnS:Cl蛍 光 体 の 特 性 に 対 す る Irド ー プ の 効 果 は じめに 第 1章 で述べ たよ うに、Irド ープによ りZns蛍 光体 の発光効率 が著 しく向上す るこ とが報告つされた。 これは学術的な価値 とい うだけでなく、幅広 い分野 で実用化 され てい るZnS蛍 光体 にとつては実用的 に も価値 の高い技術 と言 える。 一方、Ir単 体 の性質についてここで簡単 に触れ てお く。Ir金 属 は、銀 白色 の金 属結 晶で面心立方格子を形成 し、その密度 は全元素 の 中で最 も高い。また酸や塩基に対 し て極 めて安定な物質 であ り、高温焼成 な どで高温にさらされた場合 で も酸化 が起き難 い物質 であ る。 この よ うな安定性 の観 点か らIrは 古 くか ら工業用 のルツボや 自動車 の 点火用プラグとして実用化 されてきた。 さらに最近ではOLED用 の発光材料 としてそ の有機配位子錯体りが用 い られ 、発光材料 の構成元素 として も大変注 目されてい る物 質 である。 本章 では、SA発 光 を示す ZnSiCl蛍 光体 の特性に対 して Irド ープの効果 を調べ 、 発光特性 を明 らかにす るとともに、そ の メカ ニズム を解 明す るこ とを 目的 とした。 ZnSiCl蛍 光体 は、Cl― と S2-と ィォ ン半径 助が近 く比較的容易に置換す るこ とか ら、簡 便に合成できる蛍光体 の一つ である。SA発 光 とは、ZnS中 の Zn空 位 (Vzn)と ドー プ された Clと の会合 により形成 された準位 が関与す る発 光 のであ り、青色領域 での発 光 を示す。母体物質 である ZnSの 結晶構造 により発光波長 が僅 かに異 な り、ZB構 造 の場合は 460 nm5)に 、W構 造 の場合は 440‐ つ に発 光 ピー クを示す こ とが報告 されて い る。 -51- 実験方法 としては 、 まず フ ラ ックス を用 い た 固相反応 に よ り Irを ドー プ した ZnSIttClを 合成 し、そ の結晶構造や発光特性 (PL、 PLE(励 起 スペ ク トル))に お ける Ir添 加量依存性 を調 べ た。 さらに、XANESに よリドープ した Irの 価数 を、ESR によりZns中 の空位 を評価 した。 -52- 3。 2 実験条件 詳細な実験方法については、第 2章 に述べ た通 りである。その際 のIrC13の 添カロ 量は、 ZnS lモ ル に対 して、0、 4x105、 4x10-4、 4x103お よび1.3x10-2モ ル mo1/m01Zn〃 とす る)と した。評価方法 としては、XRD、 SEM、 は″ ESRを 用 いた。 -53- (以 降の表記 PL、 PLE、 XANES、 結 晶構造 お よび粒子形 態 ZnSILClの XRDパ ターンをFig.3.1に 示す。下 2段 にはZB構 造 とW構 造 の回折パ タ ー ンを示 した。 今ヨ・ E¨ “︶ゝ〓OEO中 Fig。 ((a)QO)4X10巧 ′(c)4X19ち (d)4X10-3′ (e)1.3X 下方 のパ ター ンは、ZnSの W構 造 (ICPDS No。 36-1450)と ZB構 造 (ICIDDS 3.l ZnttIし Cl蛍 光体 の XltDパ ター ン 10-2 mO1/mol Zn)。 No.05-0566)の 回折 パ ター ンで ある。 図中の●は Ir金 属 を、 ■は Ir2S3に 帰属 され る回折 ピー クを示 した。 -54- Irド ープ量 として(a)0、 (b)4× 10-,mo1/mol Znの 2試 料 については、そ のほとん ど のピー クがW構 造に帰属す るこ とができた。これは焼成温度 が相転移温度の(1020℃ ) 以上であるためであると考 えられ る。一方 で、Irド ープ量が4× 104 moVmol Zn以 上 になると(W構 造 の (100)面 と (101)面 の回折 ピー ク強度 が、W構 造 の (0 02)面 およびZB構 造 の (111)面 の ピー ク強度 と比較 して小 さくなってお り、Ir 添力日に伴 つてW構 造 か らZB構 造 の比率 が増力日してい るこ とが示唆 された。Fig。 3.2に は、回折 ピー ク強度 か ら見積 もつたZns結 晶構造 におけるZB構 造比率 のIr添 加量依存 性 を示 した。 "構 造 の 比 率 (%)= I*(orr) 」 ″(002)十 二 i 」 I ru(rrr) f″ "(lH)十 28.5° (100) ・ 28.5° 十f26.9° 0 5 0 5 4 4 ま︶■ヨe劇彗口Ne■雀 N ^ 1o-4 10€ 10o2 lrFilI (mo/molZn) Fig.3.2 1r添 カロ量 に対す る Zns中 の ZB構 造 の比 率 の変化 ‐55- (eq. 3.1) 28.5° 付近 のピー クは、W構 造 の(002)と ZB構 造 の(111)面 がち ょ うど重なってい る ところであ り、26.9° 付近 の ピー クはW構 造に特有な ピー クである。ZB構 造 の比率は、 それ らの強度比か ら (eq.3。 1)助 により求 めた。 そ の結果、Ir添 力日 量が0か ら4× 104 moVmol Znに か けてZB構 造 の比率 が増加 し、 さらに4× 10-3 mOVm01 Znよ り多い添カロ 量 では飽和 し一定 になってい るこ とがわか る。ZB構 造比率 のIr添 カロ 量依存性 について、以下の よ うに考えてい る。Y.To Nienら 動 は、ZnS:Cu/X(X=CL Al)蛍 光体 に関 し、Cu添 力日 量 の増加 に伴 ってZB構 造 の比率 が増加 す るこ とを報告 してい る。 そ の理 由と して、過剰量 のCuに よって形成 され る CuχSが ZB構 造を安定化 させていると考察 してい る。 このこ とか らZnslttClの 場合 に 置 き換 えて考 えると、面心立方構造を形成す るIr金 属 の析 出によりZB構 造 の安定化 が 促進 されてい ると考 えられ る。またH.Kawaiら 10は 、ZnS蛍 光体 の焼成時 にフラック ス (特 にMgC12)を 用 いた場合、そ の使用量 によつてはZB構 造 か らW構 造へ の転移温 度 (1020℃ )が 高 くなるこ とを報告 してい る。Mg2+の イオ ン半径 はZn2+の イオ ン半径 と近 くZns中 に容易 に取 り込まれ ると考察 してい ることか ら、立方晶構造を形成す る MgSが 転移 温度 の変化 に関与 して い る と考 え られ る。本実験 は フ ラ ックス として MgC12を 用 い てお り、これによつて も転移温度 の上昇つ ま り低温安定相 で あるZB構 造 の安定化 が促進 された と考 えられ る。 さらに、XRDパ ター ンか らIr添 力日 量 が(d)4× 10-3 mOVmOIZnで は、2′ =41° 付 近にIrの (111)面 に帰属 され るピー クが出現 し、さらに(e)1.3× 10-2 mOVm01Zn では、Ir以 外にIr2S3の 回折 ピー クも確認 された。Fig.3。 3に 合成 したZns蛍 光体粉末 の 外観 を示す。 -56- い)O HLOllmOIZn o)4X105 moVm面 (C14X104 mOVmOZh (d14X103 mo1/molZn (d11.3× 102 111ollmolZn Fig.3.3 ZnS:LCl蛍 光体粉末 の外観 Irの 添加量が(d)4× 103 mo1/mol Zn以 下の試料 はほとん ど白色 であるが、(e)103 × 102 mo1/mol Znの 場合 は、明 らかに灰黒色に変化 していたが、 これはXRDで 見 ら れたIrや Ir2S3の 析 出 に対応 してお り、ZnS中 に取 り込む こ との 出来ないIrが Ir金 属や Ir2S3と して析出 してい るためと考 えられ る。 これ らの結果 か ら、Irの 固溶限界 が4× 104∼ 4× 10‐ 3 mO1/mol Znの 間 にあると推定 され る。 ‐57‐ 続 いてZnsIち Clの SEM像 をFig。 3.4に 示す。Ir添 加量によらずほぼすべ ての試料 で同 様 な多面体形状 を有 し、またそ の粒子サイズ も5か ら20 μmで 同程度 であった。特 にIr の添加量による粒子形状 の変化な どは確認 されなか ったが、Ir添 力日 量が(e)1.3× 10‐ 2 mo1/mol Znの 場合 は、粒子表面 に微 小な析出物 が観察 され 、 これ がXRDパ ター ンで 確認 された副生成物 で あるIrや Ir2S3で あると考 えられ る。 Fig.3.4 ZnSILCl蛍 mo1/mol Zn)。 光 体 の SEM像 ((a)Q(b)4X10-1(C)4X10t(d)4X100′ (e)に つい てはそ の拡大像 も示 した。 -58- (e)1.3X10‐ 2 3.4 Fig。 発 光特性 3.5に 波長 350 nmで 励 起 したZnslttClの PLス ペ ク トル を示 す。 1.0x106 一Eヨ00︶、たoE〇一 E︼ Fig。 3.5 ZnSIttCl蛍 光 体 の 室 温 で の PLス ペ (e)1.3X10‐ 2 mO1/mol Zn)。 ク トル ((a)QO)4X10-5′ (c)4X10-t(d)4X10t 励起波長 は 350mと した -59- Ir添 カロ 量(a)oの 試料 では、440 nm付 近を ピー クとす る青色発 光 と、515m付 近を ピー クとす る緑色発 光 の 2種 の発光 ピー クが観測 された。Ir添 力日 量を増加 させてい く と、青色発光 のピー ク強度は増大 し、緑色発光 のピー クは相対的 に減少す る傾 向を示 した。 さらにIrの 添力日 量を(e)1.3× 10‐ 2 mOVm01Znま で増やす と440 nmを ピー クと す る発 光強度 は減少 した。(e)で 発光強度 が減少す る理 由は、副生成物 であ るIrや Ir2S3 が蛍光体表面を灰黒化 しているためであると考 えられ る。いずれ の添カロ 量において も Irド ー プによる新 たな発 光 ピー クは観測 されなか った。Fig.3.6に 各試料 のPLEス ペ ク トル を示す。モ ニ ター波長 は440 nmと した。 1.5x106 →Eヨ●●︶、〓OE●“ E¨ Fig。 3.6 ZnttLCl蛍 光 体 の 励 起 ス ペ ク トル 10-2 mO1/mol Zn)。 モ ニ ター波長 は ((a)0′ lb)4X10-ち (C)4X10-t(d)4X10t(e)1.3X 440mと した。 -60- ピー ク波長は、Irの 添カロ 量 とともにわず かに330 nm(3。 75 eV)か ら333 rlm(3.72 eV) へ長波化す る傾 向 を示 した。 このこ とは、Ir添 力日に伴 ってW構 造 (バ ン ドギャップ : 3.8 eV)の よりもZB構 造 (バ ン ドギャップ :3.7 eV)の の比率 が増加 したXRDの 結果 に 対応 してい ると考えられ る。また、PLス ペ ク トル と同様 に新 たな ピー クは観測 されな かつた。 これ らの結果 か ら、ZnslttCl蛍 光体 におけるIrは ZnS中 で新 たな発光 中心を 形成 している可能性は低 い と考 えられ る。 ただ し、今回の実験はClと Irの 共 ドープの 結果 であ り、Ir単 独 で ドープ した場合 の発光中心形成 については第 4章 で詳細 を述ベ る。 3.7に 、ZnSIttCl(Ir=4× Fig。 10-3 mO1/mol Zn)の 低温で測定 したPLス ペ ク トル を示す。 ● ︶ 、 一¨O E ■ 一 今 〓・ 〓 ¨J L ﹁ oN〓 ● E E o Z ・ ・ o 叫. ︼ ︼ ︼ ︼ ︼ ︼ ¨ ︼ ︼ 打 (b) ゝ 3,7 ZnSIttCl蛍 光体 の低温 で の PLス ペ ク トル 。測定 温度 は(a)室 温 0 1 0 7 0 5 6 0 5 4 日 日 0 ︵ U 4 0 ︵ U 6 日 0 一 5 3 日 I Fig。 500 550 Wavelength(nm) (点 線 )、 lb)77K (実 線 )で 、それ ぞれ のスペ ク トル を ピー ク トップで規格化 した。励起波長 は 350mと し た。 …61- 室温でのピー ク波長 に対 して低温 (77K)で のピー ク波長は長波長側 にシフ トして いた。 これはSA発 光 に特徴的 な格子 の熱振動 の影響助によるもの と考 えられ る。 これ らの結果 より、ZnSILClに おける440 nmの 発光 はSA発 光中心に起因す るもの と考 え られ る。 一方 、PLス ペ ク トル にお ける515m付 近 の発光 ピー クは、S空 位 (Vs)と 価電子帯 またはZn空 位 (Vb)と の間の再結合 に起 因す る1つ と報告 されてい る。Vsは 、本実験 での活性炭 中の よ うな弱還 元性雰囲気 での焼成 により容易に生成す る欠 陥で あ り、こ れ が何 らかの理 由でIrド ープにより生成抑制 され 、515 nmの 発光 が減少 した もの と推 測 され る。 これ らの推測 をもとに、Irド ー プによる発光特性変化 の メカニズムを解明 す るため、次 にXANESに よるIrの 価数評価 とESRに よる欠陥 の状態 の評価 を行 った。 …62- 5 1rの 状 態評価 3。 Fig.3.8に ZnSIttCl、 IrCLお よび Ir02の Ir L3吸 収端 のXANESス ペ ク トル を示 す。 トユ 11180 Fig。 11190 11200 3.8 1rL3吸 収 端 の XANESス 11220 11210 Photon energy (eV) ペ ク トル 11230 11240 11250 ((a)Zn致 耽 Cl(In 4× 10 3 mO1/mol Zn)′ 0)IrClみ (C)Ir02) -63- ZnSIttClと IrC13の ピー ク位置 は非常 によく一致 してい るのに対 して、Ir02の ピー ク 位置 はやや 高エネル ギー側 であつた。 このことか ら、Zns中 に ドープ されたIrの 価数 はほぼ3価 であ り、合成 に用 い たIr源 はIrcLで Ir3+で 用 いてい るこ とか ら、焼成 中での Irの 酸化 も しくは還元 といつた価数変化 はな く、Zns中 に取 り込まれ てい ると考 えら れ る。一方 で、今回測定 したサ ンプル (Ir=4× 10-3m01/mol Zn)で は、XRD分 析 (Fig.3.1)か らIr金 属 の回折 ピー クが確認 されてい るが、XANESス ペ ク トル か らは そ の ピー クは確認 できなか つた。Ir金 属 のピー クはIr3+の ピー クとほぼ同 じ位置 に現れ る1つ こと、およびそ の量が ご く僅 かであるこ となどか ら、XANESス ペ ク トル では検出 す るこ とができなか った と考 えられ る。 -64- Fig。 3.9に 、ZnSIttClの 光照射前後 でのESRの 差 スペ ク トル を示す。測定温度は130K であ る。 1 .0x103 E.5x103 0.5x101 コ 輛︶■仁一α∽Ш , コ輛︸一C一匡∽Ш , !.0x103 0.0x']03 -0 5x103 -0.5x'|03 -1.0x103 3100 3200 3300 34□ 0 3100 3500 MagneJc F eld{6) 3200 3300 340□ 3500 Magnetic Fleld{G〕 Fig.3.9光 照射前お よび光照射後 の ESRの 差 スペ ク トル .測 定は 130Kで 行 つた。 (a)O md (b)4× 10 3 mO1/mol Zn。 ●は Vsに トラ ップ された電子 を、■は Vznに トラ ップ された正孔 を、 ▲ は Cl― ドナ ー に トラップ され た電子 を表 してい る。 いずれ のスペ ク トル において もg=2。 02(3330G)、 2.00(3360G)、 1.88(3555G) の3つ のシ グナルが観測 されたが 、それ らはそれぞれVznに トラップ された正孔 、Vs に トラ ップ された電子 、Clド ナー に トラップ された電子に帰属 loす ることがで きる。 13′ Irを ドープす るこ とでg=2.00(3360G)の 強度は減少す ることか ら、Vsの 生成量が 減少 してい ることが考 えられ る。PLス ペ ク トルのIr添 加量依存性 (Fig.3.5)か ら推測 した結果 )を 支持す る結果 であつた。一方、I♂+に 関 日によるVs生 成 の抑制」 (「 Ir添 力 す るESRシ グナル としては、正孔 トラップにより生成ηす るIr4+ゃ 、電子 トラ ップ によ り生成10す るIr外 が推定 され るが、それ らは観測 されなか った こ とか ら、Irに よる トラ ップ準位 の形成は起きてい ない と考 えられ る。 -65‐ 3.6 ZnSILCl蛍 光体 の発光 メカニ ズム XANESや ESRの 結果 か ら、Zns:Clヘ ドー プ されたIrは 3価 であ り、 これがVsの 生成 を抑制 (Vs由 来 の発光 中心へ のパ ス を削減 )し 、SA発 光 の効 率を向上 させ る効果 が あるこ とが考 えられた。I」 +が Vsの 生成 を抑制す る理 由については、I♂+が 形成す る局 所的な正電荷過剰領域 の形成な どが考 えられ る。以上 の推定 メカニズムをFig。 3.10に 示す。この よ うに母体結晶 における電荷補償 がその原因であるとす ると、CIも 同様な 効果 を示す はず である。 さらなるメカニズムの解明には、ZnS結 晶中でのIr"の 原子配 置 など原子 レベルでの さらなる解明が必要 である。 ZnS:CI(lr添 加あり) ZnS:Cl(lr添 加な し) ZnS 母体結晶 3.10 推定 メカ ニ ズム -66- ● ●# ● ● Fig。 L● 幕 ● ● ●●● 1 ● ●0 ● ● ● ● ● e_● ● ● 7 ま とめ ZnS、 IrC13お よびフラ ックス を混合 し1100℃ 、3時 間焼成す る こ とで、ZnSIttCl蛍 光体 を合成 し、Irド ープがその発光特性 に与える影響 について調べ た。XRDパ ターン より、Irド ープ量に伴 ってZB構 造 の比率 が増 大す るこ とがわか つた。また、PLス ペ ク トル では、Irド ープによりZnS:Clの SA発 光 の強度 が増大 し、Vs由 来 の発光 が減少 した。 これはESRで み られたIrド ープによるVsの シグナル 強度 の減 少 と相関 していた。一方 で、XANESス ペ ク トルで は、ZnS中 に ドー プ されたIrは 3価 であることがわか り、 こ のIr3+が znS中 で正電荷過剰領域 を形成 しVsの 生成 を抑制 してい るので はない か と考 えられた。 このこ とはZnS蛍 光体 の高効率化技術 として応用できるだけでなく、他 の II― VI族 蛍光体 にも適用できる可能性があ り、学術的 にも実用的 にも価値 のあるもので あると考える。 -67- 8 3。 参考文献 1)■ Ueda/s.Yamauchち Jo Kanamori arld Y Hayasht ttν O.Pα ′ θ ″ナNo.2007/043676 Al′ (2007). 2)H.Fuiit H・ Sakurat K.Tant K.7Vakisaka ttd■ Hirao′ EICE EIθ ε ナ ro4ブ cs Eχ ′ ″ss′ Z 260(2005)。 3)R.D.Shan■ on/Acナ αCッSナ・′A32′ 751(1976). 4)■ Koda and S.ShionOyar Pカ ン S・ R′ υ 136′ .′ A541(1964). 5)S.ShiOnOya7■ Kodar Ko Era arld H.Fuiiwarar J,Pり S.Sθ ε ・ル40′ 1%1157(1964). 6)R.Bowers and N。 ■ MelameC P力 ys.R′ υり9%1781(1955) 7)Se ShiOnOya and W M.Yen/P力 θs′ 力θγHα π″bθ θL CRC Press LL⊂ ♭Boca Ratonr FL (1999). 8)T BanSagL E.Ao Secco′ 0.K.Srivastava and R.Ro Martin/Cα 4.J.C力 θZ.′ 4Q2881 (1968). 9)Y■ Nien/1.Go Chen/C.S.Hwttlgご ld S.Y Chu/二 Pり s・ C力 θ 解.Sθ Jプ グs′ 6%366 (2008). 10)H.Kawa年 11)J・ ■ Abe田 ■dT.Hoshinみ ル η ・ 五′グ.Pり Sり J・ 2Q313(1981). ― C.Lee and D。 ― H.Partルfα ■Lθ ι オ5z2872(2003). .′ `θ 12)D.Lahirt V Subramanian and R V Kamat J,C力 θ ″.P力 ysッ 13)Y Shono′ Jo Pれ yS.Sθ c.ル 4り 5Q2344(1981). 14)RH.Kasai arld Y Otomo′ ェ C力 15)Lぅ 12化 204720(2006). S・ ′3z1263(1962). `z.Pり PidoL O.Guillot― NoeL M.JOurdieL A.Kahn― Hararち B.Ferrand′ R Dorenbos 狙 d Do Gourier/J.P″ S.Cθ れ″θ ナ θ 4S.Mα オ 為 15′ 7815(2003). 16)A.Raitzman7 J.ToSuss ttd W Lowr Pり S・ -68- Rθ υ .B′ 15′ 5184(1975)。 第 4。 4章 Znsに 1 添 力目さ れ た Irの 状 態 は じめに 第 3章 では ZnsiCl蛍 光体へ の Irド ー プについて、その発光特性に与える影響 を詳 細に調べ た。 その結果、Irが znS中 の Vsを 減少 させ るこ とがわか らり、それ により SA発 光 の効率が向上す るとい うメカニズムを提唱 した。ZnSiCl蛍 光体中の Clは 、 IrC13の 他、フラックス として用 いた塩化物塩 (NaCl、 MgC12・ 6H20)を 供給源 として、 SA発 光中心を形成 してい る。Ir3+は 発光中心形成 には関与せず、 取 り込まれ ることで、 Vsの 生成抑制 のみ に寄与す ると考 えた。 ZnSへ の Irド ープは これまで報告例 がほとん どなく、その基礎的な発 光特性や物 性は未知な部分 が多い。Znsに 限 らず他 の半導体材料 に Irを ドープ した場合 に発光を 示 した例 も極めて少な く、唯一 AgBrへ の Ir3+ド ープによる発 光 だけが報告 りされてい る。 これは Irと Brと の会合準位 ((IrBr6)3-)の 内殻遷移 によるもの され 、10K以 下の 極低温 で近赤外領域 に発光 を示す もので あった。 これに対 し Zns中 で Irが 発光中心 を形成 し室温で可視光発光 が確認 で きれば新たな知見 とな り、Zns蛍 光体 の新 たな可 能性 を引き出す こ とができると考 えられ る。 一方 、3価 金 属 を ドー プ した ZnS蛍 光体 としては、ZnS:AP)や ZnS:Ga2)、 znSIn3) な どが知 られてい るが、これ らは ZnS:Clと 同様 に Vznの 生成 を伴 って SA発 光中心を 形成 し青色発光を示す。も し Ir3+が 単独 で Zns中 に ドープ されれば同様 な生成機構 で 発光を示す こ とが予想 され 、 さらに第 3章 のメカニズムが機能すれば Vsの 生成 を抑 制 で き高効率 な発光 が期待 で きる。 また Irは 4価 の酸化状態 も安定であるが、ZnS へ の 4価 金属 ドープは、Irに 限 らず他 の金属 で もほとん ど報告例 がな く、その発光特 -69- 性 は大 変興 味深 い 。 そ こで本 章 で は 、ZnSへ の Irド ー プ に 関す る さ らな る知 見 を深 め る こ とを 目的 に 、 Irの 状 態 とそ の発 光特性 に 関 して 詳細 に調 べ た 。 そ の Clを 用 い な い Irド ー プ を試 み 、 -70¨ 2 実験方法 詳細な実験方法については、第 2章 で述べ た通 りである。フラックス を用 い ないた め、焼成後は水洗せず、粉砕 のみ行 った。Irの 添加量は、4X10巧 ∼8X103 moV molZn の間で検討 し、XRDに より副生成物 の有無 を確認 した。発光特性 については、Ir添 加 量依存性 の中か らそれぞれで最 も発光強度 が高 くなる試料 を選択 し、それぞれIr源 に よる特性 の違い を評価 した。 -71 3 4。 Fig。 結晶構造及 び粒子形態 4.1に 、Ir源 と して (a)Irc13、 0)Ir2(S04)3・ ″H20、 (C)Iro2を 用 い て 合成 したZnslr のXRDパ タ ー ン を示 す。 それ ぞれ の添カロ量 を図 の右側 に示 した 。 1 60x1 03 140 120 80 貧N M N 貧 8 ︶ 〓 ﹄ ︵ H︲ ← HHH︶ 〓︼ →コ・ ●︶、〓●E●︺ 100 4x 60 moVmol Zn L0-3 40 4 x 10a moUmolZn 20 4x 0 0 30 Fig。 40 2 theta(degrees) 50 mol/mol Zn 10-s moVmol Zn 60 4.1(a)Irc13を 用 い て 合 成 した Znslrの XRDパ タ ー ン 160x1 03 140 120 80 ︵ 劇 N︶ 餞ミ ●8 ︶〓 ︵ ﹄ HH=︶ H I︶ E¨ →コ・ ●︺、〓り〓0︺ 100 8 x t0-3 moVmol Zn 60 8x 40 L0-a mol/mol Zn 8 x L0-s moVmol Zn 20 0 0 30 40 50 mol/mol Zn 60 2 theta(degrees) Fig。 4.lo)Ir2(S04)3・ 4H20を 用 い て 合 成 した Znslrの XllDパ タ ー ン ‐72- 160x103 140 120 80 貧N 冨 N 9 8 ︶ 〓 ﹄H ︵ I← H==︺ ”︺、まりE〇一 →コ・ E︻ 100 60 4 - 1.0-3 mol/mol Zn 4 x L}-a mol/mol Zn 4 x L0-s moUmolZn 40 0 mol/mol Zn 20 0 30 Fig。 40 2 theta(degrees) 4.1(c)Iro2を 50 用 い て 合 成 した 60 Znslrの XRDパ ター ン いずれ の試料 ともIr源 の添カロ 量を増やす とともに、41° 付近 のIr(111)面 に帰属 され 量 としては、Irc13の 場合は4 る ピー クが増加 した。Ir金 属 の析 出が観測 され始 める添力口 X103 moVmol Zn、 Ir2(S04)3° 4H20の 場 合 は 8X104 moVmolZn、 Ir02の 場 合 は 4X10-3 mo1/mol Znで あ り、ほぼ 同程度 で あ る と考 え られ る。W構 造 で 帰属 した場合 の格 子 定 数 (最 小 二 乗 法 で 算 出)お よび 第 3章 と同様 に回折 ピー ク強度 か ら求 めたZB構 造 の 比 率→をTable 4.1に 示す。 ‐73- Table 4。 l Ir化 合物 lrを ドー プ した Znsの 格子定数 お よび ZB構 造比率 添加 量 W構 造で帰属 した場合 の格子定数 (moVmolZn) σ(A) 3.829(1) 6.267(5) 36 4X105 3.828(8) 6.274(0) 35 4X104 3.828(8) 6.274(0) 36 4X103 3.829(1) 6.273(6) 42 8X10も 3.826(9) 6.270(4) 36 8X10‐ 4 3.829(1) 6.273(6) 40 8X10‐ 3 3.828(8) 6.274(0) 40 4X10‐ 5 3.832(3) 6.280(8) 38 4X10-4 3.828(8) 6.274(0) 41 4X10-3 3.833(5) 6.283(9) 39 添加 無 し IrC13 Irz(SO+)s'nHzO ZB構 造比率 α (A) (%)0 ZB構 造 の比率 の変化は第 3章 の結果 と比較す ると軽微 であ り、格子定数 も含 めてIr ドープに伴 う大きな変化 はない と考 えられ る。第 3章 (Fig。 3.1)で はIrの 添力日により ZB構 造 の比率 が増加 したが、両者 の違 い は合成時 のフラックスの有無 である。本章で はフラックス を使用 してい ないため転移 温度 の変化 はほとん どな く、従来 の転移 温度 1020℃ よりも高い温度 (1100℃ )で 焼成 したために、Ir添 カロ 量に依存せずW構 造 が優 先的 に形成 された と考 え られ る。 -74- 量は、IrcLの 場合は4X 次 にZnSIrの SEM像 をFig。 4.2に 示す。観察 した試料 のIr添 カロ 10-3 mOVm01 Zn、 Ir2(S04)3° 4H20の 場合 は8X104 mo1/mol Zn、 Ir02の 場合 は4X103 mo1/mol Znと した。また比較 としてIrを 添力日してない試料 のSEM像 も同時に示す。い ずれ の試料でも、粒子同士が 固着、凝集 し2次 粒子 を形成 していた。 これは フラック ス を用 いてい ないため、粒 子 が分散 しに くくなってい るためと考えられ る。 1次 粒子 のサイズで比較す ると、IrCLの 場合 で5∼ 15μm、 Iル (S04)3° 4H20で 3∼ 101tm、 Ir02で 3 ∼10μmで あ り、IrcLを 用 いた粒子 がやや大きかつた。L.Ozawaら 助 は、塩化物 フラ ックスか ら発生す る塩 素 ガスがZnと 反応 し、Znc12を 生成 し、 これが気化す るこ とで Znキ ャ リア として機能 しZnsの 粒子成長 を促進す ることを報告 してい る。本系 におい て も同様 に、IrC13を 用 いた場合に、一部 のClイ オ ンが粒子成長 を促進 してい るこ とが 推定 され る。 ((al lrC13(4X103 moV molZn)′ o)Ir2(SO→ 3・ 4H20(8X104 3 mOV mOIZn)′ (d)添 加な し)。 moV molZn)′ (C)Ir02(4X10‐ Fig.4.2 ZnSIr蛍 光体 の SEM像 -75‐ 4。 4 発 光特性 Fig.4.3に ZnSIrの PLス ペ ク トル を示す。励 起波長は3301‐ 1と し、Ir添 力日 量はそれぞ れ、Irc13は 4X10-3 mOVm01Zn、 Ir2(S04)3・ η(H20)は 8X104 mo1/mol Zn、 Ir02は 4X10-3 moVmol Znと した。 12(X103 F︼ りE■EH 分百ヨOυ︶﹂ 400 450 500 550 Wavelentth rnm〕 Fig,4.3 ZnSIr蛍 光 体 の PLス ペ ク トル ((a)IrCL(4X10-3 mOV m01Zn)′ 0)Ir2(SOめ 10‐ 4m01/mol Zn)′ (C)Ir02(4X10‐ 3m01/mol Zn)′ 650 600 3・ (d)添 力日な し)。 励 起 波長 は 330111n。 -76- H20(8X “ いずれ も青色領域 での発光を示す が、中で もIrcLと Ir2(S04)3° 4H20を 用 いた場合は、 440 nm付 近を ピー クとす る同様 なスペ ク トル形状 を示 した。一方、Iro2を 用 いた場合 は、発光 ピー ク波長 が433 rllnと 明 らかに他 の試料 と比較 して短波長側 にあ り、その半 値幅 も狭 い ものであった。Fig。 4.4に それぞれ の試料 のPLEス ペ ク トル を示す。モ ニ タ 波長は440 nmと した。 3OOx103 F一 ︵ 〓ヨ00 0〓0一EH ︺﹂ J 250 450 350 Wavelenqth (nm) Fig。 4.4 ZnSIr蛍 光 体 の PLEス ペ ク x10‐ 4 mOV m01Zn)′ トル ((a)IrC13(4X103 mo1/mol Zn)′ 0)Ir2(SO→ 3・ (C)Ir02(4X10-3 mOV mOIZn)′ ‐77- (d)添 カロな し )。 モ ニ タ 波 長 は 4H20(8 44011m。 IrCL及 びIr2(S04)3° 4H20を 用 いた場合 では、 いずれ も330‐ n付 近 か ら急峻に立ち上 が る鋭 い ピー クを示 した。IrCLを 用 いた場合 は、Irと ともにClも Zns中 に ドー プ され て い ると考 え られ る こ とか ら、 これ がSA発 光 中心 を形成 して い ると推定 され る。 In(S04)3・ 4H20の 場合は、Irc13を 添加 した場合 と同様 なPL/PLEの スペ ク トル形状 を示 す ことか ら同様 にSA発 光 中心を形成 してい ると考 え られ る。 しか しなが らClを 添力日 してい ない ことを考えると、ZnS:Alと 同様 に3価 金属であるIr3+が sA発 光中心 を形成 し てい ると考 えられ る。Ir02を 添加 した場合 は、PLEス ペ ク トル におい て330nm付 近 か ら立 ち上がるZnSの バ ン ド端吸収以外に、350rm付 近にブ ロー ドな ピー クが観測 され た。発光 スペ ク トルの起源 として他 の2種 とは異 なる発光中心が予想 され る。 ここで、さらに これ らの発光中心 の特徴 を把握す るため、低温 下でのPLス ペ ク トル を測定 し評価 した。 -78- 4.5 発光 の温度依存性 77Kで 測 定 したPLス ペ ク トル をFig.4.5に 示 す。 それ ぞれ のス ペ ク トル を ピー ク ト ップで規格化 した 。励 起波長 は3301w止 した 。 Wavelength(nm) Fig。 4.5(a)IrCL(4X10… 3 mO1/mol Zn)を 用 い て 合 成 した Znslrの 低 温 PLス ペ ク トル Wave:ength(nm) Fig。 4.5o lr2(S04)3・ れH20(8X10-4 mOV mOIZn)を -79- 用 い て 合 成 した Znslrの 低 温 PLス ペ ク Waveiengtth(nm) Fig.4.5(c)Ir02(4X10-3 mO1/mol Zn)を 用 IrC13を 用 いた場合は、第 3章 (Fig。 い て 合 成 した Znslrの 低 温 PLス ペ ク トル 3.5)と 同様 に比較 して低温での発光 ピー クは長 波 シフ トした。Ir2(S04)3° 4H20を 用 いた場合 も同様 に長波化す る傾 向を示 した。この ことか ら、I♂+が SA発 光中心を形成 してい るこ とが推定0さ れ る。ピー クのシフ ト量 の 違 い については、SA発 光中心を形成す る元素 がCl― かIr3+か の違 いが何 らかの影響 を及 ぼ してい ると考 え られ る。 またSA発 光 を示すZns:Alに おい てはそ のシフ ト量がA13+ の ドープ量に依存す ることも報告のされてい るこ とか ら、取 り込 み量 の違 い もその原 因 として考 えられ る。Iro2を 用 いた場合は、低温での発光 スペ ク トル で もピー ク波長 に変化 がな く、Zns母 体構造 の熱振動 にほとん ど影響 されないこ とがわか った。 これ は、ZnS中 のMhの よ うな局在型発 光中心の特徴助 の一つで あ り、Ir+に よる局在型発 光中心 とい うこれまでにない発光中心を形成 してい る可能性が示唆 された。 -80- 6 ZnSIrの 発光 メカニ ズム IrC13と Ir2(S04)3° 4H20を 用 いた場合 は、PL及 びその温度依存性 か ら、SA発 光中心を 形成 してい ると推定 された。 このこ とか ら、その起源 であるVム の形成には、Cl― 以外 に もI♂ +が 寄与 してい ると考 えられ る。 つ ま り、Ir3+は znS:Al動 やZnS:Gaη のA13+ゃ Ga3+ と同様 な効果 があると考 えられ る。第 3章 で提案 したよ うなIr3+の Vsの 生成抑制効果 も考えられ るが、本章 では定量的 に解明できてお らず、ESRを 用 いた欠陥 の評価 を進 めるこ とで今後明 らかに したい と考 えてい る。 一方 、Iro2を 用 い た場合 は他 の2種 とは異な る発 光特性 を示 した。Ir事 は5d軌 道 に5 個 の電子を有す るd5電 子系 であるが、同様 な遷移金属 としてMn2+(3d軌 道 に5個 の電 子を保 有す る不完全殻 )が ある。Mn卜 は第 1章 で述べ たよ うに、ZnS中 で5重 縮退 し ていたd軌 道 がし軌道 とe軌 道に分裂 し、 これ らの準位 間の電子遷移 により橙色 の発光 動を示す。ZnS中 に取 りこまれたIr4■ も同様 に5d軌 道 が分裂 してい ることが予想 され る。 また低温 下で も発 光 ピー クに変化 がない とい う特徴 も示す こ とか ら、Znsヘ ドープ さ れたIr4+は これまでにない新 たな局在型発光中心を形成 してい る可能性 が高い。 また、 Ir+は 、そのイオ ン半径 が0。 625Å (6配 位 )で あ りZn2+の イオ ン半径 (0.74Å (4配 位 )、 0.6Å (6配 位 ))と 比較的近 く、Zn位 置 を置換す る可能性 が高い こ とか らもMn2+と 同様 に局在型発光中心を形成 してい ることが示唆 され る。一方でIro2を 添加 した場合 は、Ir2(S04)3° 4H20の 場合 も同様 であるが、Oを 含 むためZnSへ のOド ープによる発 光 も予想 され る。 しか し、そ の発光 スペ ク トル は460∼ 470nmに ピー クを示 し、またDA ペ ア型 の発光 であると報告10さ れ てお り、今回の結果 とは一致 しない。Mn2+に 代表 さ れ る遷移金 属 のd“ d遷 移 は、それ を囲む 陰イオ ンの影響 によりそ のエネル ギー準位や 遷移確率は大きく変化す る。Znsの よ うな4配 位位置 での軌道分裂 は、報告例 がないた め、その発光メカニズム を完全に解明す るためには、その価数や結晶欠陥評価 も含 め -81- た詳細な解析 を進める必要がある。 …82… 7 ま とめ ZnS蛍 光体へ のIrド ー プについ てそ の基礎的な特性 を把握す るため、Clを 含有 させ ず にIrを 単独 で ドー プ したZnSIrを 合成 し、そ の特性 を評価 した。Ir源 としてはClを 含 有 しないIr2(S04)3・ ″H20や Irの 価数 が異 なるIr02を 用 い 、 フ ラックス を使用せ ず に、 1100℃ 、3時 間焼成す るこ とにより合成 した。 XRDパ ターンか ら、ほとん どの回折 ピー クはZnSの W構 造 に帰属 され、ほぼ単一相 が得 られた。Ir添 カロ 量に伴 うZB構 造比率 の変化や格子定数 の変化はほとん どみ られな か つた。PLス ペ ク トル か ら、Irc13及 びIr2(S04)3・ 4H20を 用 いた場合は、両者 とも同様 Ir02を 用 いた場合は4331w止 短波長側 に発光 な440m付 近 の発光 ピー クを示 したが、 ピー クを示 した。発光 の温度依存性 か ら、Irc13及 びIr2(S04)3・ ″H20を 用 いた場合はSA 発光中心に特徴的な長波長 シフ トを示 したのに対 して、Ir02を 用 いた場合 は波長 シフ トは見 られなか った。これはZns:0蛍 光体 の挙動 とも異な り、I≠+は Mh2+と 同様 な不完 全殻 (d5電 子)を 有 し、そ のイオ ン半径 もZn卜 に近い ことか ら、Zns中 でI≠+が 局在型 発光中心を形成 してい るこ とが示唆 された。これは、Znsへ の4価 金属 を ドー プ した初 めての報告例 で あ り、これまでにない新 しい蛍光体 の合成 として今後 の発展 が期待 で きる。 -83- 4。 8 参考文献 1) J. P. 2) K. Urabe and S. Shionoya,l. Phys. Soc. |pn.,24,543 (1968). 3) H. Koelmans, I. PWs. Chem. Solids,17, 59 (1950). 4) T. Bansagi, E. A. Secco, O. K. Srivastava and R. R. Martin, Can. Spoonhower and C. A. Hamer, I Lumi., 28,22'1. (1983). l. Chem., 46,2881 (1e58). 5) L. Ozawa, 6) M. Koike and M. Itotu Mat. Phys. and Chem.,93,420 (2005). T. Koda and S. Shionoyd, PWt. Rea.136, ,4'541 (1964). 7) T. Matsumoto, I. Imai and T. Ishida, Rep.of Facul.Eng.,Yamanashi Unia.,28,97 (1e77). 8) O. N. Djazovskt S. Tanak4 H. Kobayashi N. N. Semienov and V. V. Pasynkov, lpn. I. AppI. Phys.,34, 4819 (1995). 9) S. Shionoya and W. M. Yery Phosphor Handbook, CRC Press LLC, Boca Ratoru FL (leee). 10) A. L. Gurskii, E. V. Lutsenko, N. K. Morozova and G. P. Yablonskri, State 34, 1890 (1992). -84- Soa. PWt. Solid 第 5章 種 々 の 白 金 族 元 素 を 添 力日し た ZnSの 合 成 と発 光 特 性 評 価 5。 1 は じめ に 第 3章 、第 4章 では Irを ドー プ した Znsの 発光特性 を評価 し、そのメカニズムに ついて検討 を行 つた。 そ の結果、 フラックス存在 (Cl過 剰 共存)下 での Irド ープで は ZnS中 の Vsの 生成 が抑制 され SA発 光 の効率 を向上 させ る効果 が あること、また Ir3+を 単独 で ドー プ した場合 は SA発 光 に特徴的な発光 を、Ir41の 場合は局在型発光中 心に特徴的な発光を示す ことが明 らか となった。 一方 、Irは 、周期律表 の第 3系 列第 9族 に属す る遷移金属 であるが、周辺 の 白金族 元素は酸や塩基に安定である ことや融 点が極 めて高 い な どそ の特性 が極 めて類似 し てい る。 その特性 か ら、排ガス用 の改質触媒 動として多用 されてい る他、近年 では燃 料電池用電極触媒 ηとしても有効 であること、 さらにはその有機配位子錯体 が OLED 用 の発光材料 助として優れ た性質を持 つ ことなどか ら、注 目され てい る元素群 で ある。 これまで、半導体材料 に 白金族 を ドープ した発光 の報告例 として AgBrへ は Ir)の ほ かに Rh助 が あるが、これ も極低温 での近赤外領域 の発光 であ り、室温での可視域での 発光は報告例 がない。 本章では、Irの 周辺金 属 として 4種 の 白金族元素 (RL Iれ Pd′ Pt)を とり上 げ、 ZnS中 に ドー プ した場合 にどの よ うな特性 を示す かについて調べ た。これ らの金 属を ZnSに ドープ した場合、これまでにない新 しい蛍光体 となるだけでな く、Irと 同様な 発光特性 を示す ことが期待 できる。 ‐85- 2 実験方法 詳 細 な 実験方 法 につ い て は 、第 2章 で述 べ た通 りで あ る。 フ ラ ックス を用 い な い た め 、焼成 後 は水 洗 しな い が 、 試 料 に よ つ て は焼成 後 の 状 態 が 塊 状 にな っ て い た た め 、 乳鉢 で軽 く粉砕 し、粉末状 にまで解 した。出発 物 質 は 、Ru/耽 い 、添 カロ量 は 、す べ て の金 属 で4X103 Pd′ Ptの 塩 化物 塩 を用 moymolznで 統 一 した。XRDや SEM、 ス ペ ク トル の他 、PLの 励 起光 強度 依存 性 につ い て も評価 した 。 -86… PL、 PLE 3 5。 Fig。 結晶構造及 び粒子形態 5.1に Ir、 Ru、 Rh、 Pd、 Ptを ドープしたZnsの XRDパ ター ンを示す。 ︵ HHめ︶“ Nヽ︵ NH ︵H︼H︶“ N ヽ︵ N●●︶ ︵NNN︶︹ N ヽ︵哺●oビ ニ ︵ V 0 0 N 瀬 独 一 ヨ. ︵ 口︺ゝ一︼ り〓0“EH . Fig.5,1 種 々 の 白金族 を添力日した ZnSの XRDパ ター ン ((a)IrClみ PdClみ (e)H21ptc16・ 6H20)。 ■が Ir金 属 を 、● が -87‐ O RuC13′ (C)RhC13′ (d) RuS2を 、▲ が ZnPし をそれ ぞれ表 して い る。 金 属種 に依 存 せ ず 、ほ とん どの 回折 ピー クはW構 造 に 帰属す る こ とがで きた。最 小 二 乗 法 に よ り求 めた格 子 定数 と、第 3章 と同様 に ピー ク強度 比 か ら求 めたZB構 造比率 のをTable 5。 1に 示す 。 Table 5。 1 添カロした 白金族化合物 白金族 を ドー プ した Znsの 格子定数 お よび ZB構 造比率 W構 造で帰属 した場合 の格子定数 ZB構 造比率 α (A) σ(A) 添 力日無 し 3.829(1) 6.267(5) 36 IrC13 3.829(1) 6.273(6) 37 RuC13 3.828(8) 6.274(0) 33 RhC13 3.829(1) 6.267(5) 36 PdC12 3.829(1) 6.270(9) 31 3.829(1) 6.267(5) 32 H2PtC16・ 6H20 (%) いずれ の 白金族 におい て も ドー プな しと比較 して格子定数 に違 い はみ られず、ZB 構造比率 もいずれ も31∼ 37%程 度 であることか ら、主生成物 の結晶構造に違 い はみ ら れなか った。副生成物 について、IrC13を 添加 した場合 は、Ir金 属 がわず かに析出 して い るの に対 して、RuC13を 添力日した場合 はRuS2が 、H2PtCL° 6H20を 添力日した場合 は ZnP色 が析出 してお り、それ らは比較的Znsへ の ドー プ率は低 い と考 えられ る。RhC13 やPdC12を 添加 した場合 には副生成物 のピー クはほ とん ど見 られなか った。 ドー プ率 の違 いは主に金 属種 の酸化還元電位 に起 因 してい ると考えてい る。比較的電位 の高い Pt(+1.2V)や Ir(+1.16V)は 塩化物塩が加熱 によつて分解 し直 ちに金 属 に還元 され るの に対 して、比較的低 いRu(0.46V)は 系 内のSと 反応 しやすい と考えられ る。 そのため、 ZnS結 晶構造中に取 り込まれ る前に粒子表面 でそれ らの反応 が進行 して しまったもの と考 えられ る。 …88- 次 にそれ ぞれ の サ ンプル のSEM像 をFig.5。 2に 示す。 Fig.5.2種 々 の 白金族 を添力日した ZnSの SEM像 (o lrcL O)RuCL(c)RhCL′ (d)PdCl%(e) H2PtCL° 6H20)。 いずれ のサ ンプル とも一次粒子 としてはジ ャガイモ状 でサイ ズは5∼ 15μ m程 度 で あつた。RhCLを 添加 した試料 の粒子サイズ はやや大きいが、これはRhCLの 分解 温度 が450℃ と比較的低 いため容易 にZnキ ャ リア となるZnCLが 生成す るこ とで、 第 4章 と 同様 にこれが粒子成長促進剤ηとして機能 したためと考 えられ る。 -89- 5。 4 発 光特 J性 Fig.5.oに 330 rllnの 波長で励起 したPLス ペク トル を示す。 5x■ 06 n ︵ 目= J〓〓00︶いだり〓0= Fig.5.3 室温における PLス ペ ク トル ((a)IrClみ (b)RuClみ (C)IthClみ (d)PdCl%(e)H2PtC16・ 6H20)。 励起波長は 330mと した。 -90- IrC13を 添力日した場合 と比較 して、他 の 白金族塩化物塩 を添力日した試料 ではいずれ も PL強 度 が極端 に低 い結果 となった。特 にH2PtC16° 6H20や PdC12を 添力日した試 料 はほと ん ど発光を示 さなか った。XRDの 結果 か ら、H2PtC16・ 6H20を 添加 した場合はそ の多 Zns結 晶中に取 り込まれ てい ないこ ともその原因 として考 えられ くがZnPLを 形成 し、 る。PdC12を ドー プ した場合は副生成物 はないが、発光中心 の形成能 がほとん どない と考 えられ る。RuC13、 RhC13、 PdC12を 添カロした試料は、4501m付 近を ピー クとす る 発光 が観測 された。XRDパ ター ンより、RuCLを 添力日した場合 はZns中 の一部 のSが Ru と反応 しRuS2を 形成 してい るこ とか ら、Zns中 でVsの 生成 を促進 し、これが500m以 降の長波側 のブ ロー ドな発 光 の要因 と考 えられ る。次 にFig.5。 4に それぞれ のサ ンプル のPLEス ペ ク トル を示す。 0 ■ ︵ り〓●J 〓H J■ヨ00︺、■一 Fig。 5.4 室温における PLEス ペ ク トル ((a)Irclち lb)RuClみ (C)IthClみ (d)PdCl写 (e)H2PtC16・ 6H20)。 励起波長は 330mと した。 -91- RuC13や RhC13を 添加 した試料 ではIrcLを 添加 した試料 と同様 に325 nm付 近か ら急 峻に立 ち上が り、Znsの バ ン ド端 の吸収に相 当す る333 nm付 近で ピー クを持 ってい る ことがわか った。さらに、340 nmよ り長波側 は、IrcLで は急激 に強度 が低下す るのに 対 して、RuC13や RhC13は 比較的ブ ロー ドなスペ ク トル を示 した。これは発 光 の起源が ZnSの バ ン ド端 の吸収以外に新たな準位 を形成 してい る可能性があ り、IrcLと は異な る発 光中心の形成 が予想 され る。 さらに これ らの発光 の特徴 を明確 にす るため、発光 の温度依存性および励起光強度依存性 を調べ た。 -92- 5。 5 発光 の温度依存性 お よび励起光強度依存性 IrCL、 RuC13、 IthC13を 添力日した 試 料 の 77Kに お け るPLス ペ ク トル をFig.5.5に 不 す 。 N〓 何FE O 〓 ︵・ヨ・C︶ いだ り〓3 〓¨JL ﹃ x︺ 。 。 4 500 550 Wavelength(nm) Fig.5,5(a)IrCLを 用 い て合成 した Znslrの 低 温 PLス ペ ク トル 1.2 ︵・コ ・暉︺ 卜 〓 n〓g E 一J﹂ ﹁o N〓 c F E O 〓 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 500 550 Wavelength (nm) Fig.5,5o)IthC13を 用 い て 合 成 した Zns:Rhの 低 温 PLス ペ ク トル -93- ︵・ 〓口 暉︶ い僣 0〓0一〓一JL ﹁ON〓 何F〓 0 〓 500 550 Wavelength (nm) Fig.5.5(c)RuC13を 用 い て 合 成 した Zns:Ruの 低 温 PLス ペ ク トル IrC13を 添力日した試料ではSA発 光 に特徴的 な挙動 で ある発 光 ピー クの長波化 を示す のに対 して、RuC13や RhCLを 添加 した試料 では短波化す ることがわか った。第 1章 で 示 したよ うに、室温に対 して低温でスペ ク トルの ピー ク波長 が短波長化す るのは、 ド ナー・アクセ プター (DA)型 発光 の特徴助であ り、Irc13と は異 なる発 光中心を形成 し てい ることが示唆 された。 -94- IrCL及 びRhC13を 添加 した試料についての励起光強度依存性 をFig.5.6に 示す。それ ぞれ のスペ ク トル を ピー ク トップで規格化 した。励起波長 は3301w此 した。 励起光強度 X30 0 ・ 起光強度 X 8 ・ 励起光強度 X 6 ・ 4 ・ 〓・ ︵. C︺い〓nC8 〓一■冒日 〓 “F〓0〓 コ・ C︺いだ0〓g 〓一■馴“E”F〓0〓 ︵. 励起光強度 X■ 0“ 2 ・ 450 500 450 550 500 550 Wavelength〔 nm) Wavelength (nm) Fig.5.6 1rC13及 び IthC13を 添力日した ZnSの PLの 励起光強度 依存性。 IrC13を 添加 した場合は、励起光強度に依存せず発光 のピー ク波長にはほとん ど変化 がないのに対 して、RhCLを 添力日した試料 では、励 起光強度 の増加 に伴 って発光は短 波長側 ヘ シフ トした。 これは、DA型 発光 に特徴的な挙動%1の であ り、低温下でのPLス ペ ク トルの特徴 と一致 した傾 向を示 した。 -95- 白金 族 を ドー プ した Znsの 発光 メカ ニ ズム IthC13を 添加 した試料 は、PLの 温度依存性 お よび励起光強度依存性 か ら、DA型 の 発光中心を形成 してい ることが示唆 された。Zns結 晶 における電荷 のバ ランス を考 え ると、S2を 置換す るCl― やZn2+を 置換す ると考 えられ るIth3+は ぃずれ も ドナー を形成す る可能性が高い こ とか ら、アクセ プター としてはZn空 位 (Vzn)ま たはそれ らの会合 準位 な どが関与 してい ると考 えられ る。Ith3+が ドナー も しくは発光中心を形成 してい るとす ると、ZnS:Alの よ うなSA発 光中心の形成 も考 え られ るが、発光 の温度依存性 や励起光強度依存性 な どの特性 がZns:Alの それ とは明 らかに異 なってお り、SA発 光 中心ではな くIth3+に 特有な性質 と考 えられ る。今後 は この発光 が、Ith3+自 身 の準位形 成 によるものか、それ ともm3+ド ー プにより生成 したVznに よるものか、またRhが 3価 で ドープ されてい るかな ど、ESRや XANESな どを用 いて解析 を進 め、その仮説 を検証 す る必要 があ る。 -96- 7 Irと Ru、 ま とめ 性が類似 した 白金族元素 をZnSヘ ドープ した場合 の発光特性 について調べ た。 特′ Rh、 Pd、 Ptの それぞれ の塩化物 を用 いてZnsへ 白金族 を ドープ した。XllD分 析 より、ほぼすべ ての ピー クがZnSの W構 造に帰属 され 、格子定数お よびZB構 造比率 と Ru及 びPtを 用 いた場合はRuS2 も白金族種 に対す る依存性はほ とん どみ られなか った。 及 びZnPt3と いつた副生成物 が確認 され、 ドープ率 が低 いこ とが示 唆 された。PLス ペ ク トルの強度は、Irを 添加 した試料 に比べ その強度 は低 いが、Ruや Rhを 添加 した試料 は450 nm付 近を ピー クとす る発 光 が観測 された。PLの 温度依存性や励起光強度依存 性 を調べ た結果、RhC13を 添カロした場合はDA発 光 に特徴的な挙動 を示 した。これ らの 結果 より、半導体材料 へ の 白金族 ドー プで可視発光を示す こ と、 さらにはIth3+が DA 発光 の特徴的な発光を示す こ とな どを初 めて明 らかに した。白金族元素を用 いた新 し い蛍光体 として、今後 の発展 が期待 できる。 …97‐ 5.8 参 考文献 1) I. T. Kummer, I.PWs. 2) D. Chem.,90, 4747 (1986). Geng, D. Matsuki, ]. Wang, T. Kawaguchi, W. Sugimoto and Y. Takasu, /. Electrochem. Soc., 156, B,397 (2009). 3) M. A. Baldo, S. Lamansky, P. E. Burrows, M.E. Thompson and S. R. Forrest, Appt. PWt. Lett., 75, 4 (1999). 4) ]. P. Spoonhower and C. A. Hameq, I Lumi., 28, 221(1983). 5) ]. P. Spoonhower and M. S. Burberry 5) T. Bansagi,E. A. Secco, O.K. Solid State Comm., 53, 933 (1985). Srivastava and R. R. Martin, Can. l. Chem.,46,2881 (1e68). 7) L. ozawa 8) M. Koike and M. Itotu Mnt. PWt. and Chem.,93,420 (2005). S, Shionoya, T. Koda K. Era and H. Fujiwara, I. Phys. 9) K. Er4 S. Shionoya 10) Soc. lpn., T9,IL1T (1964). and Y. Washrzawa, l. Phys Soc. \pn.,29,1827 (1968). K. Era, S. Shionoya Y. Washizawa and H, Ohmatsu, I. PWt Soc. lpn., 29, L84g (1e68). 11) L. Corner, R. Ramos-Garcia A. Patris and M. I. Damzen, Optics Comm., 143, (1ee7). -98- '165 第 6章 総 括 ZnSに Irお よびその周辺金属 (Ru,Rh,Pd,Pt)を ドープ した新規蛍光体を合成 し、 そ の特性 を評価 した。本研究 で得 られた結果 を以下に総括す る。 (1)ZnS、 IrcLお よび フラックス を用 いて通常の固相反応 により Zns:cl蛍 光体ヘ Irを ドープ した。Irの 添力口 量を 0か ら 4X10-3m01/mol Znま で変化 させ 、SA発 光 を示す ZnS:Cl蛍 光体 に Irが 与える影 響 を調べ るとともにそのメカニズム を解明す る ことを目的 とした。XRDノ くターンか らは Ir添 力日 量が 4× 104 mo1/mol Znま では副 生成物なく合成でき、ZnS中 へ Irを 取 り込む こ とができることがわか った。 また Ir Znsの 構造 が W構 造 か ら ZB構 造に変化す る傾 向を示 した。 添カロ 量を増やす こ とで、 PLス ペ ク トル か ら、Irド ープ量 の増加 に伴 って ZnsiClに よる SA発 光 の強度 が増大 し Vs由 来 の発光 が減少す るこ と、PLEス ペ ク トルか ら新たな ピー クは観測 されなか つたことか ら、ZnsiCl中 では新 たな発光中心を形成せず、Vsの 生成 が抑制 されてい るこ とが示唆 された。ESRの 結果 か ら Irド ー プによりVsの シグナル 強度が減少す る こ とが観測 され 、このこ とも上記推測 を強 く支持す るものであった。また XANESス ペ ク トルか らは、Zns中 に ドープ された Irの 価数 は 3価 であることがわか り、Ir3+に より形成 され る局所的正電荷過剰領域 がVsの 生成 を抑制 してい るこ とが推定 された。 この よ うな Irに よる欠陥生成抑制 の効果 は本研究により初 めて見出され、学術的 に価 VI族 蛍光体 に も適用 で きる可能性が 値 の高い ものであるとい うだけでな く、他 の Ⅱ― あることか ら、実用的 にも非常 に価値 あるもの と考える。 (2)ZnS蛍 光体へ のIrド ープについてその基礎的な特性 を把握す るため、Irを 単独 で ドー プ した場合 にどの よ うな発光特性 を示す かについて詳細 に調 べた。出発物質 とし …99- てClを 含有 しないIル (S04)3° 4H20や Irの 価数 が異 なるIr02を 用 い、フラックス を用 いず に固相反応 により合成 した。PLス ペ ク トルか ら、Irc13及 びIn(s04)3・ 4H20を 用 いた場 合 は、両者 とも同様 な440 nm付 近 の発光 ピー クを示 したの に対 して、Ir02を 用 いた場 合は430mと 短波長側 に発光 ピー クを示 した。 また、発光 の温度依存性 か ら、IrcL 及 びIn(s04)3° 4H20を 用 いた場合 はSA発 光 に特徴的 な長波 シフ トを示 したことか ら、 Ir3+が AP+と 同様 にSA発 光中心形成に関与 してい るこ とが示唆 された。一方でIro2を 用 いた場合 の発光 の温度依存性 か らは波長 シフ トは観測 されなか ったことか ら、明 らか にSA発 光 とは異 なる発光中心 の形成 が考 えられた。これは酸素 ドー プ したZns:o蛍 光 体 の挙動 とも異なる。合成 に用 いたI≠ +は Mn2+と 同様 な不完全殻 (d5電 子 )を 有 し、 またそのイオ ン半径 もZn2+に 近いこ とか ら、Ir+が zns中 で局在型発光中心を形成 して い るこ とが推定 された。 この よ うな結果 はZns中 でIr自 身 が発光中心を形成す るとい 4価 の遷移金属を初 めてZnsに ドープ した う新 しい知見を見 出 した とい うだけでな く、 結果 で もあ り、新 しい蛍光体 として期待 で きる。 (3)ZnSへ のIrド ープに関 してそのメカニズムの応用 の可能性 を検討す るため、 Irと その特性 が類似 した 白金族 (Ru、 Rh、 Pd、 Pt)に 着 日し、それ らをZnsに ドープ した場合 の発光特性 について評価 した。それぞれ の金属 の塩化物塩 を用 いて、フラッ クス を用 いず に固相反応 により合成 した。XRD分 析 より、ほぼす べ てのピー クがZnS のW構 造に帰属 されたが、Ru及 びPtを 用 いた場合 はRuS2及 びZnPLと いった副生成物 が確認 され 、Znsへ の取 り込みやす さの違 いが明 らか となった。PLス ペ ク トル か ら、 Ruや Rhを 添カロした試料は、450m付 近を ピー クとす る発 光 が観測 された。発光 の温 度依存性や励起光強度依存性 を調べ た結果、Rhを 添力日した場合 はIrを 添加 した場合 と は異 な りDAペ ア発光に特徴 的な挙動 を示 した。半導体中でRhが 可視発 光 を示す こと は これまでに報告例 がな く、本研究 で新 たに見出 した発光中心であ る。 これ らの結果 は、ZnSに 限 らず蛍光体全般 において、白金族 ドープの効果 を示 したほぼ初 めての も -100- ので あ り、新規蛍光体 として今後 の展開が期待 できる。そのために も、今後 はその発 光過程 の詳細 な解析 を進 める必要 がある。 以上の結果 をTable.6.1に ま とめる。 本研究 における結果 は、長 いZns蛍 光体研究 の歴史 の 中で も、ほとん ど報告例 のな い知 見 で あ り、初 めて合成 された物 質群 と言 える。特 にIr3+に よる欠陥抑制効果は大 変興味深 い特性 である。 このよ うな特性 をZnSだ けでな く他 の蛍光体にも応用できれ ば、そのデバ イスの性能向上に貢献 でき、幅広 く応用 されてい る発 光デバ イ スの将来 発展 に大き く寄与す るもの と考 えられ る。 101 Tablle 6.1 ■およびその周辺金属を ドープ した繊 出発物 質 鴫 唱 ′nut Ztt lr243041ゴ "叩 一〇い ︰ Ztt lr02 鴫 RhCL 営光体 合成条件 の特徴 ZfttLCl rト ノWi■ Cl 踊 b lrJト 踊 L F/ 昴 助 Cl 発光タイプ ノWi山 雌 α 鮒 低 温 発光 の シ フ ト 発光 中心の構造 (推 曰 rEl 長減化 Vur-Cts (asstriaEd) SAN光 中Jふ の薄成 440 rEL 長波fヒ Vh―IrL cawoCiattdl 局在尭光 中心の形成 433 fEL 変fヒ 無 し F(ご 団 岬 Ш d可 ドープ金属 の役害J V轟成 の抑 lll exc邸 witru.rtct 光体の発光特性 内殻遷移 D瑞 光 中心の形成 〔ア クセフコ ー形威 ?〕 室温 での発 光 ピータ 螂 輌 fEL 短波fヒ Df,r/A:Rlff ? 謝 辞 本研究 を行 うにあた りその機会 を与 えて戴 き、また論文 の作成 に際 して多大なるご 指導 ご鞭撻 を賜 りま した静岡大学電子 工学研究所 原和彦教授 に対 しま して深甚な る謝意 を表 します。 社会人学生 として博 士課程 へ の入学を強 く推薦 していただき、本研究全般 に対 して 当初 か ら数 々の有益な ご教示 を戴 きま した、同研究所 中西洋 一郎客員教授 に対 しま して心か ら感謝 いた します。 本研究を遂行す るにあた り、実験方法や そのデー タに関 しま して親切丁寧な ご指導、 ご助言を戴きま した 同研究所 小南裕子准教授 に深 く感謝 いた します。 本論文 に対 しま して ご鞭撻 ご助言 を賜 り審 査 して くだ さつた同研 究所長 三村秀 典教授、創造科学大学院 鈴木 久男教授 な らびに本論文 の細部にわた りご助言 を戴 き、 審査 して くださつた創造科学技術大学院 荻野明久准教授 に感謝 申 し上 げます。 本研究 の遂行お よび学生 としての単位取得 にあた り、業務 に配慮 して くだ さった富 士フイルム帥R&D統 括本部 高 田俊二参与、同本部技術戦略部 長、同本部先端 コア技術研究所 山田隆技術担当部 西村亮一研究担 当部長に感謝 申 し上 げます。実 際の 業務 に対 して多大 なる理解 と配慮 をいただいた同研究所 佐藤忠伸 主任研究員、細谷 陽一 主任研究員、岡崎賢太郎主任研究員 に感謝 いた します。一緒 に研究 し重要なデー タを測定・発見 して くれた同研究所 小池理 士研究員、実験 をサポー トし効率 よ く研 究を進 めることに尽力 して くれ た同研究所 清水久美子 さんに感謝 いた します。詳細 な解析やそ のデ ー タの理解 に関 しま して ご協力 いただい た同本部 解析技術 セ ンタ ー 松井高史主任研究員 な らびに小宮 山孝研究員 に感謝 いた します。 最後 に、博 士後期過程 での研究に際 し、応援・協力 して くれた妻 京子な らびに 昨年誕生 した娘 理子に この場 を借 りて感謝 いた します。 -103- 本研究は多 くの方 々のご支援、ご協力 の下 に行 われてお り、諸氏に改 めて感謝 の意 を表 します。 ‐104-
© Copyright 2024 ExpyDoc