交易利得について

経済統計学 交易利得について
例えば,原油価格と為替レートの影響について考えてみよう.円安になっ
ても,それ以上に原油価格が下がれば,国内のガソリンが安くなってお買い
得になる.交易条件が有利になって,交易利得が発生したのである.SNA
では,これを貿易全体に拡張して,実質 GDI を計算している.
交易条件
円建ての輸出価格指数 PX と輸入価格指数 PM の比率 PM /PX を実質為替
レート (real exchange rate) または交易条件 (terms of trade) という.輸出価
格指数 PX に対して輸入価格指数 PM が下がると,国内所得の実質的な購買
力である実質 GDI は増加する.しかし,基準年を 100 とする価格指数で計
算している実質 GDP には,この増加分が反映されない.GDP と GDI の名
目値は一致するが,実質値にはズレが生じるのである.このズレが交易利
得または損失 (trading gain or loss) である.
実質実効為替レート
為替レートには様々な通貨との組み合わせがあるので,貿易額で加重平
均して名目実効為替レート (nominal effective exchage rate) が計算されてい
る。実質実効為替レート (real effectice exchange rate) は,名目実効為替レー
トをインフレ率で調整した値であり,各国の中央銀行や国際決済銀行 (BIS)
が計算して公表している.
SNA のデフレーター
SNA で使われている交易条件によって,実質 GDP と実質 GDI の違いに
ついて考えよう.各変数の名目値に添字 P をつけて表示する.デフレーター
で実質化すると,実質 GDP を決定するマクロ均衡式は
)
(
IP
GP
XP
MP
CP
+
+
+
−
× 100
Y =C +I +G+X −M =
PC
PI
PG
PX
PM
と表示できる.この実質 GDP は,基準年を 100 とする各変数の価格指数を
使って名目値を実質化しているので,基準年以降の交易条件 PM /PX の変化
による損得を反映できない.つまり,交易条件が有利になり,ガソリンが安
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くなってお買い得になっても,実質 GDP には反映されないのである.もち
ろん,逆にガソリンが高くなっても同じである.
基準年と比較して,交易条件 PM /PX が小さくなれば,同じ所得で買える
輸入品の数量が増加するので,国民全体の効用水準は上昇する.したがっ
て,実質 GDP が同じでも実質 GDI は増加する.この差額 α が交易利得ま
たは損失である.
名目 : GDI = GDP
実質 : GDI = GDP + α
この α を評価するために,ニューメレール・デフレーター
PN =
XP + MP
X +M
を使い,次式で計算する.
XP − MP
α=
−
PN
(
XP
MP
−
PX
PM
)
PX = PM ならば α = 0 である.PX > PM ならば PX > PN であるから
(
)
XP
XP − MP
MP
α=
−
−
PN
PX
PM
(
)
XP − MP
XP
MP
>
−
−
=0
PX
PX
PM
同様に,PX < PM ならば PX < PN より α < 0 である.つまり,交易条件
が PM /PX < 1 ならば交易利得が発生し,PM /PX > 1 ならば交易損失が発
生する.
課題
問 1 XP = 100, MP = 120, PX = 1, PM = 2 として α を求めよ.
問 2 PX = PM ならば α = 0 であることを示せ.
ヒント PN の X と M を名目値に戻し,PX = PM を適用する.
問 3 PX > PM ならば PX > PN であることを示せ.
ヒント 問 2 と同じ計算に不等式 PX > PM を適用する.
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