有効数字を考慮した計算について 以下の議論において、1.0000・・・・や 3.3333・・・・のような無限桁精度の数値は、 ・ ・ 1.0 や 3. 3 のように、上にドットを付けて表示する。 1. 数学的な数値と、データとしての数値 たとえば y=(1+χ)/(5-z) という式があり、χとz(独立変数)に実験値を当てはめて y(従属変数)を求める場合を考えよう。この数式に含まれている「1」や「5」は数学的数値 ・ ・ であり、有効数字の概念からはそれぞれ無限桁精度の「1.0」ないし「5.0」に相当する。ただ の一桁精度ではない。ただし、このように解釈されるのは理論的に導かれた数式(解析解)で ・ ・ あって、 「1」や「5」が整数(≡無限桁精度の「1.0」ないし「5.0」)である場合に相当する。 そうではなく実験式であって、y=(1.00+χ)/(5.00-z) は、それぞれ 1.00,5.00 そのままの3桁精度である。 などのように書かれている場合 2. 加法(足し算)における計算 ① 計算準備 a) 最初から概数である数値の取り扱い: 全ての数値を○.○○…×10Δの形に整理する。 3375 千 → 3375000 → 3.375×106 (3.375000×106 では無い) 4 桁精度概数 000 は数値と 4 桁精度 して意味が無い b) 一般的な数値の取り扱い: 同じく、全ての数値を○.○○…×10χの形に整理する。 123456 → 1.23456×106 978.65 → 9.8765×102 123000 → 最後の ”000” に意味があるのか、それとも元々が概数であるのか[上記の a)に 相当]判断する必要がある。意味があるなら 1.23000×106,概数であるなら 1.23×106 である。 c) χの統一: いずれの場合でも、χを大きい方の数値に統一する。 例) 12345+9.876×102 → 1.2345×104+0.09876×104 ダメ) 12345+9.876×102 → 123.45×102+9.876×102 例) 123 千+9.876×102 → 1.23×105+0.009876×105 ② 計算: 小数点以下の桁数が小さい方に合わせて概数化する。 例) 1.2345×104+0.09876×104 = 1.33326×104 ≒ 1.3333×104 小数点下 4 桁 小数点下 5 桁 この 4 桁を採用 小数点下 4 桁 答えの「1.3333×104」は、全部で 5 桁の有効数字 ③ 繰上り計算がある場合 例) 9.8765×104+8.76543×104 = 18.64193×104 ≒ 1.86419×105 小数点下 4 桁 小数点下 5 桁 この 4 桁を採用 繰上りで桁が増えた 5 答えの「1.86419×10 」は、全部で 6 桁の有効数字。 3. 減法(引き算)における計算: 加法の場合と同じ。ただし、今度は「繰下り」による有 効桁の減少がありうる。 例) 5.43210×104-4.5678×104 = 0.86430×104 ≒ 8.643×103 小数点下 5 桁 小数点下 4 桁 この 4 桁を採用 繰下りで桁が減った (全部で 6 桁) (全部で 5 桁) 全部で 4 桁になった 4. 乗除(掛け算・割り算)における計算: 全体の有効桁が一番少ない数値に合わせる。 例) 3.4567×98.7654×45.67÷1234.567=12.62940423≒12.63=1.263×101 全5桁 全 6 桁 全 4 桁 全 7 桁 この 4 桁を採用 全4桁 数式が乗除だけで出来上がっているときは、上の例のように直接計算していって、最後に有効 数字桁数を判断すればよい。(注)何処の国でも二桁の数字は言いやすいようで、たとえば米国 人は 3000 を three thousand というより、thirty hundred と言い慣わしている(通貨の単位と も関係する)。そこで、126.3 であると 1.263×103 なのだが、12.63 だと 1.263×101 とはせず にそのまま 12.63 とすることが多いようである。決して推奨しないが・・・・。 次は、これまで述べたことの例外。 ・ ★ 繰 り 返 し 単 位 が ぴ っ た り 60 個 ( = 60. 0 , 無 限 桁 ) で あ る エ チ レ ン の オ リ ゴ マ ー , (2,60 は整数・無限桁精度) H-(CH2CH2)60-H,の分子量を求めよ。 原子量 C:12.011,H:1.008 C120H242(120 と 242 も無限桁精度) ・ ・ Mw=12.011×120.0+1.008×242.0=1441.320+243.936=1685.256 5桁 無限桁 4 桁 無限桁 7桁 6桁 7桁 なぜ解答は 7 桁になるのだろうか? 水素原子が 10 個 ⇒ 1.008×10=10.080 ?? 1.008 を 10 回足し算すると当然ながら繰り上 がりを生じて 10.080 となる。 「×10」は、 「掛け算」の定義にしたがえば「10 回足し算」と同 じ意味のはずである。したがってその分だけ、有効数字が大きい桁に向かって増えることにな る。このように、『無限桁数字』との掛け算は繰り上がりによって有効数字桁数が増えるこ とがある。 ・ ★それでは、1441.320÷120.0 はどうなる? 7桁 Ans.=12.01100 無限桁 5. 複合計算: 下記の例では分母の部分計算で出される 1.124922 が 3 桁精度しかないので、 最終の答えは 3 桁精度になる。 3.141593×1.732÷(1.2345×9.876-11.067) =5.441239076÷(12.191922-11.067)=5.441239076÷1.124922=4.836992321 ≒4.84 (注意1) 上記の複合計算は比較的簡単な例である。加減を含む部分計算[ここではカッコ内] は、2.に準じて予め○.○○…×10χの形に統一した方が良い。 (注意2) 部分計算の段階で概数にしないこと。⇔ 重要!! たとえば上記の例でいえば、最終 段の計算を「5.441÷1.12」としてはならない。あくまでも計算自体は 「5.441239076÷1.124922」とし、最後に概数にする。途中、5.441239076 のように書 くのは、有効桁判断の助けにするためである。 6. ベキ数の有効桁判断: ベキ数には二通りの表示方法がある。 (a) 4.47×103 (3 は整数・無限桁精度) (b) 103.650 (a)は誰でも理解しやすい形式だが、(b)は小数を伴うベキ数の取り扱いを間違えやすい。 定義より、103.650=100.650×103=4.4668×103≒4.47×103(3 は整数・無限桁精度)になる。答え が3桁精度となっているのは、3.650 というベキ数を整理して 103 を分離した残りのベキ数が 3桁の 0.650 だからである。 実例を示そう。 4.00×10-5mol の(CF3)3CO-H (Ka=10-5.40) 溶液の pH を求めてみる。[H+]=xとするとき、 Ka=10-5.40=x2/(4.00×10-5-x),整理して、 x2+10-5.40x-10-5.40×4.00×10-5=0 ここで出現した 10-5.40×4.00×10-5 という項の取り扱いはどのようにすべきだろうか? ① 4.00×10-5 においては、4.00 が有効数字の桁数を決めており、もちろん 3 桁である。 ・ 10-5 の「-5」はベキ数であって-5.0 と考えてよい。 ② 10-5.40 は、○.○○…×10χの形に変換する必要がある。10-5.40=100.60×10-6 であるから、 100.60=3.98107…、すなわち 10-5.40=3.98107×10-6(=4.0×10-6)である。注意点は、上記 の赤字部分で示した通り、有効数字はたったの二桁であること。 考え方としては①,②のようになるが、この時点ではどうせ途中計算である。それならば、現 ・ 時点では 10-5.40×4.00×10-5=4.00×10-10.40 としておけば良いだろう。「-5.40」は-5.0+ ・ 0.40 であり、「-5」はそのまま「-5.0」を意味しているのであるから、ベキ数部分の足し算 は ・ ・ ・ -5.40+(-5.0)=(-5.0+0.40)+(-5.0)=-10.40 で良い。 二次方程式を解いて、 χ={-10-5.40+(10-10.80+4×4.00×10-10.40)1/2}/2 χ={-10-0.40+(10-0.80+16.0×10-0.40) 1/2}×10-5/2 χ={-0.398107+(0.158489+6.369715) 1/2}×10-5/2 χ={-0.398107+(0.158489+6.369715) 1/2}×10-5/2 χ=1.078464×10-5 pH=-logχだから、 ・ pH=-logχ=-log(1.078464×10-5)=5.0-0.032806=4.967194=4.967 [最後の解答が 4.967 であって、4.9672 ではないことに注意せよ!] 上の計算のうち、二 行目の赤字部分に注目してもらいたい。この段階で×10-5 を統一項にまとめる工夫を行って、 以後の計算をやりやすくしている。計算間違いの多い人は、式上での工夫をせずに、やみくも に数値化してインプットミスをする。あるいは、やみくもに数値化したために、有効数字桁数 を間違える。さらにはベキ数を間違えて、本来の正解数値の 10 倍にしたり、逆に 1/10 にして しまう。これらは致命的な間違いに直結する。 log(自然対数)計算: 水の pKa を求めてみる。 7. ・ 解離積(Kw)=1.0×10-14、水の分子量を 18.02 とすると、 Ka=1.802×10-16 であるから、 pKa=-log(Ka)=-log(1.802×10-16)=-log(1.802)-log(10-16) =-0.255754786+16=15.74424521≒15.7442 ここで出現する「16」はベキ数(=整数)に由来し、定義から数学的数値である。したがって、 ・ ただの「16」ではなく、無限桁精度の「16.0」と考えて計算する。 【逆計算】 自然対数が 3.4567 である元の数値は? logx=0.4567(4 桁精度),x=2.862200149,したがって元の数値は、 2.862×103 となる。(注意)3.4567 は 5 桁精度であるように見える。しかし、最初の「3」 はベキ数に相当する部分なので、「桁精度」の中には数え入れない。
© Copyright 2024 ExpyDoc