更新日:2016/1/25 調査部:舩木弥和子 ベネズエラ: 国会議員選挙での野党大勝が探鉱・開発へ与える影響 (Platts Oilgram News、International Oil Daily、Business News Americas、Business Monitor International 他) 1.2015 年 12 月 6 日に実施された国民議会議員選挙で、野党連合民主統一会議(MUD)が 112 議席と議 員定数の 2/3 以上を獲得した。ベネズエラでは、1999 年以来、反米左派政権が貧困層に対して手厚 い支援を行なうことで人気を保ってきたが、経済状況や治安の悪化に国民の不満が高まり、野党が大 勝することとなった 2. 政府の探鉱・開発政策を反映し、ベネズエラの石油生産量は 2007~2010 年に減少した後、伸び悩む 状況が続いている。停滞する石油生産状況や原油価格低迷、ベネズエラがこれまで資金面で大きく 依存してきた中国からの融資の変化等から、ベネズエラは石油戦略の変更を迫られており、PDVSA の最新の戦略計画案では、Orinoco Belt にアップグレーダーと製油所を建設することを延期し、その 資金を軽質原油の輸入と Orinoco Belt の超重質油の生産増に充てるとしている。また、PDVSA は、 2016 年の投資額を 150 億ドルに引き下げるとしている。一方、天然ガスについては、ベネズエラ湾 Cardon IV Block、Perla ガス田の生産開始、Mariscal Sucre ガス田の共同探鉱・開発を含む投資計画で の PDVSA と Rosneft の合意、トリニダード・トバゴとの Loran-Manatee ガス田開発契約締結等により、 生産量の増加が期待されている。 3. 国民議会議員選挙で、野党連合が勝利したものの、Maduro 大統領の任期は 2019 年 1 月までで、即 座に大きな政策変更が行なわれることはないとみられている。また、与野党の対立が激化していること からも、当面、政策や法律が大きく変更される可能性は低いとの見方がなされている。MUD は、市場 指向の経済システム導入や PDVSA の改革、外資導入のため E&P 契約の変更等を主張しているが、 国民に痛みを強いる改革を実施するよりは、経済状況の悪化が続き Maduro 政権の存続が脅かされる ことを静観することを選択する可能性も考えられる。Maduro 大統領は、炭化水素に関する法律を守ら なければならないと強調したと伝えられており、探鉱・開発に関する法律が変更される可能性も低いと みられる。Maduro 大統領は、罷免されることを避けるため、ガソリンに対する補助金や貧困者対策へ の支出を増やし、PDVSA への依存を強めていく可能性がある。原油価格低迷も加わり、PDVSA の上 流部門への投資は減少し、PDVSA が中心となって石油生産量を増やすことは難しくなるだろう。そこ で、PDVSA は外資のパートナーにインセンティブを与えることで石油生産量の維持、増加を図ろうと すると考えられる。このような状況となれば、現状と大差はなく、既存のプロジェクトでは粛々と生産が 続くが、Orinoco Belt をはじめとする新規プロジェクトへの投資が大幅に増加することは見込めず、当 面、ベネズエラ全体として石油生産量は伸びないが、大きくも減らない状態が続く可能性が高い。 4.ベネズエラについては、デフォルトや Maduro 大統領罷免の可能性も指摘されている。これらは原油価 格の行方とともに、ベネズエラの探鉱・開発に大きく左右するものであり、あわせて動向を注視していく 必要があろう。 -1Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 1.国民議会議員選挙で野党連合大勝 ベネズエラでは、2015 年 12 月 6 日に国民議会(一院制、定数 167 議席)の議員選挙が実施され、野党 連合である民主統一会議(MUD)が定数の 2/3 以上となる 112 議席(うち 3 議席は先住民枠)を、与党の ベネズエラ社会統一党(PSUV)が 55 議席を獲得した1。投票率は 74.25%で、事前の予想を大きく上回っ た。 ベネズエラでは、1999 年に故 Chávez 前大統領が就任して以来、反米左派政権が貧困層に対して手 厚い支援を行なうことで人気を保ち、16 年にわたり支配を続けてきた。議会でも与党が優勢を占めてき た。 しかし、Chávez 前大統領の後を継いだ Maduro 政権下、経済政策の失敗と原油価格の下落により国民 の生活は急激に悪化した。輸出収入の 90%以上を占める原油の価格下落で外貨が不足し、輸入品が激 減、生活必需品を含む物資不足の状況が悪化し、物価高騰を招いたのだ。IMF は、同国の経済成長率 を 2015 年が-10%、2016 年が-6%、インフレ率を 2015 年が 159%、2016 年が 210%と推定している。 2010 年には 10 万人当たり 46 人であった殺人率が、2013 年には 79 人に増加するなど治安が悪化して いることにも国民の不満が高まっていた。そのため、今回の選挙では投票前から野党が優勢とされてい た。 ベネズエラの国会では、過半数の賛成があれば、法律の制定、予算の承認、国民議会議長の選出が でき、定数の 3/5 にあたる 101 議席以上の賛成があれば、副大統領や大臣の罷免ができる。さらに、2/3 にあたる 112 議席以上の賛成があれば、憲法改正、高等裁(最高裁)判事の罷免、選管委員長任命等が 可能であり、今回の選挙で野党連合は大きく権限を拡大したことになる。大統領就任から 3 年後に実施 できる大統領罷免の可否を問う国民投票が 2016 年に実施される可能性も高まるとみられている。 2.探鉱・開発状況 (1)石油生産状況 原油価格が下落したことにより、ベネズエラにとって石油生産量を増加させることはこれまで以上に重 要な課題となっていると思われる。しかし、BP 統計によれば、その生産量は 2006 年の 334 万 b/d から 2011 年に 273 万 b/d に減少した後、270 万 b/d 台で推移し、大きく減退はしていないものの、伸び悩む という状況が続いている。 1 Amazonas 州での選挙違反を理由に当選無効訴訟が起こされ、最高裁が MUD3議員、PSUV1 議員の当選を認め なかったことから、公式な議席数は MUD109 議席、PSUV54 議席となった。MUD はこの最高裁の判断を受け入れ たものの、選挙違反について争うとしている。 -2Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 ベネズエラ石油生産量、消費量(千b/d) 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 1965 1967 1969 1971 1973 1975 1977 1979 1981 1983 1985 1987 1989 1991 1993 1995 1997 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011 2013 - 石油生産量 石油消費量 (BP 統計を基に作成) Chávez 政権以降、PDVSA は貧困層を支援するため社会プログラムの資金を負担したり、国家開発基 金(FONDEN)への資金移転を行なったり、PetroCaribe 等のエネルギー協力協定に基づいてカリブや中 米諸国に対し長期、低金利の融資を付け、一部は物納での支払いも認める石油輸出を行ったりしてきた。 そのため、本来であれば探鉱・開発に投じられるべき資金までが社会プログラムやFONDENに回された り、石油輸出による収益を十分に得られなかったりするという状況が続いてきた。さらに、ベネズエラ国債 の格付けが低く、非市場ベースの資金調達しか手段が無いことから、PDVSA が探鉱・開発を進めるため の資金調達は困難となっている。これら資金面での問題に、PDVSA 従業員の技術力が低いという問題 が重なった。2002~2003 年に Chávez 政権は、反 Chávez 派による統一ストライキに参加したことを理由 に、PDVSA 従業員の約 40%を追放した。その後、PDVSA は従業員数を 2003 年の 2.9 万人から 2013 年末には 14 万人まで増やしたが、新たに雇用した従業員の技術力が十分に育っていない。その一方で、 給与が低いために技術力のある従業員の流出も多いという。その結果、探鉱・開発が進まず、多くのプロ ジェクトが遅延し、2010 年頃まで生産量は減退した。 一方で、近年、PDVSA が Orinoco Belt を含む主要プロジェクトの操業、管理について外国のパートナ ー企業の意見を取り入れるようになってきたという報道もある。これまでベネズエラ政府がとってきた資源 ナショナリズム政策の影響で投資決定に慎重になる企業がある一方で、PDVSA がほとんどの操業上の 決定を任せてくれるのでビジネスの環境は悪くないとする企業もあるという。これらの企業は、新たな開 発に投資を行なうほどのインセンティブはないが、長期的に見た場合、既存のプロジェクトから得られる 報酬は良いとし、生産を続けている。このような状況から、ここ数年のベネズエラの石油生産は安定して いるとみられる。 -3Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 (2) 変化が見られる中国からの融資 ベネズエラは 2007 年から 2014 年までに、中国より 16 件の融資、総額 563 億ドルを受けている2。ベネ ズエラは必要とする資金の多くを中国に依存してきたということができる。しかし、2015 年に入ってからは、 その状況に変化が見られているようだ。Maduro 大統領は、1 月に 200 億ドル、4 月に 50 億ドルの融資を 中国から受けることで合意したとしたが、中国側はこれらの融資のいずれについても確認していない。中 国は、経済減速による余剰資金の不足や石油需要の伸びの鈍化により、ベネズエラに融資を行い石油 により返済を受けることにメリットを感じなくなっているのではないだろうか。ベネズエラはこれまでのよう に資金面で中国に依存することが難しくなっていると考えられる。 (3)PDVSA による生産増のための取り組み 原油価格低迷や経済状況の悪化から、2015 年半ば以降、PDVSA は生産量を増加させるための取り 組みを相次いで発表した。 6 月には、以下 3 点の取り組みが明らかにされた3。 ① 成熟油田の入札を実施し、1 年以内に生産量を 5.7 万 b/d 増やす計画である。対象油田を検討中。 ② Orinoco Belt 新規プロジェクトの生産量を増加させる。2014 年の生産量は合計で 3.1 万 b/d であった が、これを 5.5 万 b/d に増加させており、2015 年末までにさらに 9 万 b/d 増加させることを目標として いる。当初は、2015 年までに生産量を 20.8 万 b/d とする計画であった。 ③ Orinoco Belt のアップグレーダーを設計能力の 80 万 b/d で稼動できるようメインテナンスを行う。 8 月には、PDVSA が Maracaibo 湖に位置する Lagunillas Lago 油田のリハビリを行ない、生産井 176 坑 の生産量を合計で 1 万 b/d 増加させるプロジェクトを開始したとの発表があった。スケジュールや投資額 は明らかにされていないが、同プロジェクトには労働者の技術訓練も含まれるという。Maracaibo 湖及び 周辺の油田の生産量は、2006 年の約 120 万 b/d から 2014 年には 745,164b/d に急減している。また、 沖合の Lagunillas Lago 油田、陸上の Lagunillas Tierra 油田からなる Lagunillas 油田は 1926 年に生産を 開始し、ピーク時の 1967 年には 95万boe/dを生産していたが、現在の生産量は 8万b/d となっている4。 これらの PDVSA の取り組みは生産量を増やすことを目指すものではあるが、大幅な生産増が期待で きるものではない。 2 3 4 International Oil Daily 2015/9/3 Platts Oilgram News 2015/6/18 BNA2015/8/25 -4- Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 (4)石油戦略に変更? 伸び悩む石油生産や原油価格低迷から、ベネズエラは石油戦略の変更を迫られているという。 PDVSA の石油生産計画 Plan 2014-2019 では、6 年間にベネズエラの石油生産量を 600 万 b/d に引 き上げることが目標とされている。生産増の中心となるのは Orinoco Belt の超重質油とされ、2019 年まで に 400 万 b/d(うち、新規プロジェクトの生産量 200 万 b/d)に引き上げられるとされた。そのために、 Orinoco Belt には、処理能力 20 万 b/d のアップグレーダー6 基と精製能力 40 万 b/d の製油所が建設さ れる計画であった。 しかし、PDVSA の最新の戦略計画 Business Plan 2016-2025 の案では、アップグレーダーと製油所へ の投資を延期し、その資金を軽質原油の輸入と Orinoco Belt の超重質油の生産増に充てるとしている。 PDVSA は 2014 年後半以降、アルジェリアのサハラブレンドやロシアのウラル原油等軽質原油を輸入 するようになった。これは、これまで希釈剤として利用されていた Mesa 30 及び St. Barbara 原油の生産 量が、2008 年の 94 万b/d をピークに 2014 年12 月には 70.5 万b/d に 25%減少し、また、North Monagas で生産されるこれらの原油の大部分が主に Morichal、San Tome 油田で生産される原油の希釈に用いら れてしまうためである。希釈剤として使用してきたナフサの値上がりもあって、ベネズエラは軽質原油を 輸入し、超重質油とブレンドして輸出するようになった。PDVSA は、現時点では、軽質原油、中質原油を 生産するより輸入するほうが割安だが、軽質原油輸入は一時的な解決策で、軽質原油の生産量を増や し、次第に輸入量を減らす意向であるとしている。また、ベネズエラの 2014年の軽質、中質、重質原油の 生産コストは$18.05/bbl、超重質油の生産コストは$11.10/bbl となっており、軽質原油の輸入を増やし、超 重質油の生産に集中することで、PDVSA は生産コストを削減できる見通しであるという5。 (5)2016 年の投資額削減 PDVSA は、原油価格下落により、2016 年の投資額を削減するとしている。 当初、同社の Del Pino 総裁は、2016 年、2017 年の OPEX、CAPEX を 2015 年とほぼ同額とすると語っ ていた。これに対し、ベネズエラは 2016 年、2017 年は石油生産量を増やすことは難しく、生産維持が目 標となると見る向きが多かった。その後 PDVSA は、2016 年の投資額を 2015 年の 400 億ドルから 63%引 き下げ、150 億ドルとすると発表した。PDVSA は、伝統的な生産エリアの生産能力を回復させ、生産量を 維持することを優先するとしているが、大幅な投資額の削減に生産量を維持することも難しくなるのでは ないかとの見方もある。 Baker Hughes によると、それまで 70~80 基で推移していたベネズエラの稼動リグ数は、2014 年 11 月 から60基台に減少、2015年2月に72基に回復したものの、その後も50~60基台に落ち込んでいたが、 5 Platts Oilgram News 2015/12/2 -5- Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 7 月以降は 70 基台に増加している。このリグ数増加については、切迫した石油生産量の減退を意味する との見方をする向きもある。なお、ベネズエラの石油生産量を維持するためには、150~170 基のリグが 必要とされている。 (Baker Hughes ホームページを基に作成) (6)順調とされるガス開発 このように石油生産は伸び悩んでいるものの、天然ガス生産は増加に向かいつつあるとの見方がなさ れている。 ベネズエラでは、ガスパイプライン等のインフラが欠如しているために、生産されたガスの多くがフレ アされてきた。フレアされるガスの割合は 2010 年の 10%から 2013 年には 18%、2014 年には 20%と増 加している6。しかし、原油価格が下落したことで、政府は随伴ガスからも収益を生み出す必要に迫られる ようになった。Maduro 大統領は 11 月 6 日、Cabello 国民議会議長を委員長とし、産業開発を進めること でフレアリングを減らし、ガス利用を促進する方法を探るための委員会を設置した。 ガス田開発にも進展がみられる。 Repsol/Eniは、7月6日に、ベネズエラ湾Cardon IV Block、Perlaガス田の生産を開始したと発表した。 Repsol/Eni によると、同ガス田の原始埋蔵量は 17Tcf で、中南米最大の沖合ガス田である。開発コストは 45 億ドルとされ、生産量は当初 150 MMcf/d で、2015 年末までに 450 MMcf/d、2020 年までに 1.2 Bcf/d を生産する見通しである。生産されたガスは PDVSA が$3.96/MMBtu で買い取り、Paraguana 半島 Tiguadare のガス処理プラントに輸送されている。当初、PDVSA が同ガス田の権益の一部を取得する計 画であったが、資金不足から参入できていない。 6 World Gas Intelligence2015/11/25 -6- Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 6 月 21 日には、PDVSA と Rosneft が、ベネズエラでの共同探鉱・開発を含む投資計画で合意したと発 表した。両社は合弁会社を設立し、Mariscal Sucre ガス田開発計画に含まれる Mejillones、Patao、Rio Caribe 等のガス田で生産を行う計画だ。また、Orinoco Belt の Petromiranda 及び Petrovictoria の生産性 を高めることでも合意した。 さらに、9 月には、ベネズエラとトリニダード・トバゴが、両国の境界にまたがる Loran-Manatee ガス田を 開発し、生産されたガスの 20%をトリニダード・トバゴの Atlantic LNG、Point Fortin プラントに送り、液化 することで契約を締結した。ベネズエラ側では PDVSA と Chevron が、トリニダード・トバゴ側では Chevron と BG が権益を保有し、いずれも Chevron がオペレーターを務めている。 ベネズエラは、2008 年からコロンビアより天然ガスを輸入している。PDVSA によると、2014 年にはコロ ンビアからのガス輸入量は 94 MMcf/d となっている。ベネズエラのガス生産量が増加に向かっているこ とから、2015 年 11 月、ベネズエラはコロンビアからのガス輸入契約を更新しないことを決定、2016 年 1 月からは 39MMcf/d のガスをコロンビアに輸出することとした。輸出量は次第に増やす計画であるとされ た7。 しかし、1 月、エルニーニョ現象による降水量不足で水力発電量が減少し、ガス火力発電量を増やす 必要に迫られたため、PDVSA はコロンビア向けガス輸出開始を一時的に中止すると発表した。コロンビ ア及びベネズエラでは 2月まで少雨が続く可能性があるという。ベネズエラは、今回の措置はフォースマ ジュールにあたり、コロンビアも 2014 年4 月に電力不足を補うためとしてガス輸出を停止したことがあると している。 3. 国民議会議員選挙の探鉱・開発への影響 国民議会議員選挙で MUD が大勝したことで、政策に変化が生じたり、法律が変更されたりすることは あるのだろうか。 Maduro 大統領の任期は 2019 年 1 月までとなっており、MUD が勝利を収めたからといって、即座に大 きな政策変更が行なわれることはないとの見方がなされている。 また、与野党の対立が激化していることからも、当面、政策や法律が大きく変更される可能性は低いの ではないかとされている。 Maduro 大統領は、選挙翌日の 12 月 7 日、MUD が 99 議席を獲得したという速報が発表された直後 に、選挙結果を受け入れると語った。しかし、政府は、正規の国会である国民議会とは別に、予算案の承 認や法案の審議が可能な共同議会を設置した。また、12月23日には、新議会発足前の与党が多数を占 める国民議会が、政府派で最高裁判事を固めようと、最高裁判事32人中、空席となっていた13人を指名 7 Platts Oilgram News 2015/11/24 -7- Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 した。さらに、2016 年 1 月 4 日には、Maduro 大統領が、中央銀行法の改正を官報に掲載、中央銀行経 営審議会の委員任命、解任の権限を国民議会から剥奪した。このように、政府は MUD が多数を占める 新議会に対抗する措置をとっている。 一方、1 月 5 日に発足した新議会で議長に就任した野党の Henry Ramos Allup 議員は、半年以内に、 「憲法に基づく、民主的、平和的、選挙(投票)による、現政権停止の決着」を目指すと就任演説で宣言8、 大統領就任から 3 年後に実施できる大統領罷免の可否を問う国民投票の手続きをとる可能性を示唆して いる。 では、探鉱・開発には影響が生じるのだろうか。 MUD は、市場指向の経済システムや PDVSA の改革、外資導入のため E&P 契約の変更等を主張して いる。しかし、それにより、ガソリン価格を引き上げたり貧困者への支援が削減されたりすることになるより は、経済状況の悪化が続き Maduro 政権の存続がさらに脅かされることを静観する可能性もある。また、 選挙直後、Maduro 大統領は、新議会において炭化水素に関する法律を守らなければならないと強調し たと伝えられている。国民議会と共同議会の関係がどうなるのか、選挙違反で当選を無効とされた議員 の処遇をどうするのかといった問題もあり、早い時期に探鉱・開発に関する法律が変更される可能性は 低いのではないだろうか。 一方で、Maduro 大統領は、大統領罷免手続きがとられる可能性があることから、大統領職を維持する ため、ガソリンの補助金や貧困者対策への支出を増やし、そのため、PDVSA の負担が大きくなる可能性 がある。原油価格低迷も加わり、PDVSA の上流部門への投資は限られたものとなり、生産量を増やすこ とは難しくなるだろう。生産量を維持、増加させたい PDVSA は外資のパートナーに依存することとなり、 これまで同様、プロジェクトの戦略や経営に関してパートナーの発言権を拡大したり、パートナーにとっ て有利な為替レートの利用等のインセンティブを与えたりすることについてパートナーと個別に交渉を行 なっていくことになると考えられる。 このような状況となれば、Orinoco Belt 既存プロジェクトを含め、既存のプロジェクトでは粛々と生産が 続くが、Orinoco Belt の新規プロジェクトへの投資が大きく進展することは見込めず、当面、ベネズエラ全 体として生産量は伸びないが、大きくも減らない状態が続く可能性が高いとの見方がなされている。 終わりに ベネズエラは、2015 年10 月に償還期限を迎えた PDVSA 債券「PETROBONO 2015」及び 11 月に分 割償還期限を迎える「Bono PDVSA 2017」の返済を完了した。返済額はそれぞれ 14.13 億ドル、23 億ド ルであった。Rodolfo Clemente Marco Torres 第二副大統領(経済財政担当)は、「ベネズエラ政府は今後 8 中南米治安・政治情報 2016/1/5 -8- Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。 も対外債務を返済し続ける」と語った9。長引く原油収入の低迷と対外債務の支払いで、12月17日のベネ ズエラの外貨準備高は前年比 31%減の 146.4 億ドルとなっている。2016 年には政府が 52 億ドル、 PDVSA が 55 億ドルの対外債務返済を控えている10ことから、ベネズエラがデフォルトを引き起こす可能 性を指摘する向きもある。 1 月 15 日には、危機的な経済状況に対応するため、政府が 60 日間の国家経済緊急事態宣言を発令 した。これにより Maduro 大統領の権限が強化され、民間活動への介入や為替取引の制限が可能となる とされているが、具体的な内容については明らかにされていない。 一方、大統領罷免の可否を問う国民投票が実施される可能性もあり、また、国民議会議員選挙での違 反を理由に議席を失った議員について MUD が争うとする等、政治面でも与野党が対立を続けているた め、不安定な状況が続いている。 政治・経済情勢は、原油価格の行方とともに、今後のベネズエラの石油生産を大きく左右する要素で あり、探鉱・開発の状況とあわせて引き続き動向を注視していく必要があろう。 以 9 10 上 JBIC ベネズエラの最新動向(10 月 1 日~10 月 31 日) Rigzone2015/12/22 -9- Global Disclaimer(免責事項) 本資料は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(以下「機構」)調査部が信頼できると判断した各種資料に基づいて作成されていますが、機構は本資料に含ま れるデータおよび情報の正確性又は完全性を保証するものではありません。また、本資料は読者への一般的な情報提供を目的としたものであり、何らかの 投資等に関する特定のアドバイスの提供を目的としたものではありません。したがって、機構は本資料に依拠して行われた投資等の結果については一切責 任を負いません。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。
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