混沌の時代? 鹿児島大学名誉教授 岡本嘉六 「北朝鮮が水爆実験」のニュースが世界を駆け抜けた。独特の調子で語る何 時もの北朝鮮テレビのアナウンサーを眺めながら、戦前の日本の大本営発表も こうだったのかしらと想像した。インタビューの「一般市民」も、 「自衛のため の国の固有の権利だ」と主張しており、戦前の日本でインタビューしたら同じ ような反応だったのかも・・・。昨年末にフランスを襲った IS のテロ攻撃につ いて、彼らのネット発表で同様の誇らしげな主張がテレビで流れていた。とて も理解できないこれらの主張が、まかり通っている社会が存在していることに 違和感を覚えながらも、歴史はこうしたことを繰返してきたのではないかとい う気もする。 第二次世界大戦がどのようなものだったのか、経験していない世代には判ら ないが、 「狂気のぶつかり合い」が大量殺戮となって記録に残されている。日独 伊のファシズムに対して、自由、平等、基本的人権を主張する連合国が勝利し たと単純化するには、事態があまりにも複雑であった。第一次世界大戦の戦勝 国となって大正デモクラシーを謳歌した日本が、昭和恐慌を背景として五・一 五事件、二・二六事件を経て軍事政権へと移行し、満州事変による満州国建設、 国際連盟脱退、日中戦争、太平洋戦争へとのめり込んでいった時代を振り返る と、現在の北朝鮮や IS が歴史上初めてのことではなく、繰り返されてきたこと ではないかという気がする。 ヒトは何を信じて生きているのか? 宗教や哲学、権力や財力などの社会的 地位、遊びや快楽、・・・・。そのどれもが対立の原因となっており、世界は常 に混沌状態にある。そうした中で、第二次世界大戦後に比較的平穏な生活がで きた日本人は、争いのない社会を普通のことと信じている。しかし、オバマ大 統領は銃規制を任期最後の課題とすることを表明したが、 「自分の身は自分で護 る」という保守派の反撃に会っている。日本では豊臣秀吉などによる「刀狩」 で一般市民は武装解除されてきたが、米国はそれ以前の段階にある。世界は様々 な社会を抱えており、 「何が正しく、何が間違っている」という価値観はそれぞ れ異なっている。 しかし、そうした混沌の中にあっても、自由、平等、基本的人権を尊重する 社会が理想であるという認識が多くの人々に共有されており、そういう社会を 維持するために、民族、国、社会組織が最小限遵守すべきことが国際条約に定 められてきた。国際連合を中心とする平和維持機能を強化することが、一般市 民の願いを実現する唯一の道である。
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