感圧塗料を用いた 物体表面圧力計測技術 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 航空技術部門空力技術研究ユニット 満尾和徳 1 目次 ■感圧塗料(Pressure-Snsitive Paint:PSP)計測について ・PSP計測の原理 ・PSP ・計測装置(光学系) ・画像処理 ■JAXA PSPの特徴 ■新技術の特徴・従来技術との比較 ■想定される用途 ■実用化に向けた課題 ■お問い合わせ先 2 従来技術 多点圧力センサを用いた風洞模型上の圧力分布計測 圧力孔 配管でセンサと結合 多点圧力センサ ・圧力点数が少ない。 ・取り扱いが煩雑である。 3 新技術 PSP計測技術(PSP:Pressure-Sensitive Paint ) – 感圧塗料(Pressure-Sensitive Paint:PSP)は、酸素感応分子 センサを利用した表面圧力場計測 【化学分野との融合技術】 – 詳細な圧力分布計測 – 衝撃波の位置など空力現象の可視化 Pressure Temperature ONERA M5 Model 4 PSP計測結果の一例 遷音速 超音速 低速 5 PSP計測の原理 PSPは感圧色素、酸素透過性ポリマ、溶媒を調合して作製し、模 型にスプレーガンを用いて塗装する。紫外線を照射すると発光し、 その発光をCCDカメラを用いて計測する。 PSPの発光と圧力の関係 PSP計測の光学系 LED 照明 CCD カメラ 励起 発光 明るい 圧力 低い 暗い バンドパスフィルタ 発光 PSP coat White undercoat Model surface 発光強度を高めるため下地に白色塗料を コーティングする。 高い 圧力と発光強度の関係 I ref I run P = A+ B Pref I:PSP 発光、P:圧力 -6ref:無風時、run:通風時 ※発光強度の比を取ることで塗り斑と、 照明の当たり方の影響をキャンセル 6 PSPの励起・発光スペクトル PSPの発光原理図 PSPの発光と励起 1.2 Intensity, Arb.Unit 1.0 Excitation Emission 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 300 400 500 600 Wavelength [nm] 700 800 7 PSP計測システム PSP 感圧色素、ポリマー、 溶媒 計測装置 画像処理 照明(LED、Xe光源 など)、CCDカメラ、 バンドパスフィルタ、 画像取得ソフト 画像の演算、画像 位置合わせ、画像 フィルタ、圧力変換、 統計処理など ※カメラ、光源は既製品 カメラ感度はリニアリティが必要 ※市販の科学技術計算ソフトウェアで 開発可能 8 PSP 感圧色素 酸素透過性ポリマ PSPの写真 F F F F F F F N F N F F Pt F F N F N F F F F F F F PtTFPP(Pt(II) meso-tetrakis (pentafluorophenyl) Porphyrin) poly(isobutyl-co-1,1,1,3,3,3hexafluoroisopropyl methacrylate) 溶媒:有機溶媒 9 PSP 塗装の様子 ・スプレーを用いて塗装する。 ・塗装環境の整備が必要。 ※規模は塗装する模型の大きさによる。 10 PSP塗装されたサンプル基板の発光画像 機材 エアダスター 発光動画 会場では動画をご紹介します 酸素を排除する →PSP発光が明るくなる。 ※エアーダスターからガスが出ると酸素が減少 するためPSP発光が明るくなる。 11 PSP計測装置の例 較正システムの概要(PSP特性評価装置) CoolingWater Circulator Excitation Light Source Shutter Controller Vacuum Chamber 較正システムの写真 Data Acquisition System Camera Control Unit ThermoController Pressure Controller Gas Cylinder (dried air) Vacuum Pump ※PSPの圧力、温度感度特性を調べる。 12 風洞実験におけるPSP計測装置(光学系) LED照明 Xe光源 励起照明 バンドパスフィ ルタを取付け たCCDカメラ 13 画像取得ソフトの機能 PSP発光画像 【操作】 ・CCDカメラの設定 ・露光時間 ・トリガ設定 ・ゲイン ・簡易画像処理 ・コンター調整 ・加工画像の保存 など 14 データ処理法の基本 (1)マーカーによる位置ずれの補正 ※Iref÷Irunの正確な計算のために補正する。 ※カメラ画像から暗電流成分を差引く(ダーク減算)。 (2)発光強度比(Iratio= Iref÷Irun )を計算 ※無風時画像を通風時画像で割る。 Iref:無風時のPSP発光画像 Irun:通風時のPSP発光画像 (3)発光強度比⇒圧力画像へ変換 ・圧力孔を参照:Insitu法 ・PSP較正データ利用:Apriori法 15 マーカーの位置情報を参照した画像補正 無風時 通風時 Wind-on Wind-off (yi, yi) (Xi, Yi) ※両画像の位置ズレと変形量を補正する。 16 PSP発光画像から発光強度比を演算 発光強度比画像 (Iratio= Iref÷Irun ) 位置補正なし 位置補正あり 17 発光強度比⇒圧力画像へ変換 圧力分布 PSP発光強度比 圧力比 較正曲線 発光強度を圧力に変換する。 発光強度比 18 JAXA PSPの特徴① 圧力/温度感度特性 感圧特性 感温特性 1.2 1.0 1.30 0degC 10degC 20degC 30degC 40degC 50degC 60degC 1.20 0.6 1.00 0.4 0.90 0.2 0.80 0.0 0.0 60kPa 80kPa 100kPa 120kPa 1.10 I/Iref Iref/I 0.8 5kPa 10kPa 20kPa 40kPa 0.2 0.4 0.6 P/Pref 0.8 1.0 1.2 0.70 0 10 20 30 40 Temperature, degC 50 *PtTFPP, Polymer:HFIPM 1 JAXA PSPの特徴② 温度感度が低い(→計測精度が高い) 番号 ポリマ 感圧色素 溶媒 発光ピーク (nm) 温度感度 (%/℃) 劣化特性 ○:しない 1 ポリスチレン PtTFPP トルエン 650 -1.3 ○ 2 HFIPM PtTFPP 酢酸エチル 650 -0.4 ○ 3 IBM-co-TFEM PtTFPP トルエン 650 -0.8 ○ 4 シリコンゴム Ru(dpp)3 ジクロロメタン 620 -1.1 △ 低温度感度が最も低い。←本特許 ※温度の影響を受けにくい。 19 新技術の特徴・従来技術との比較 • 模型表面の圧力分布を高解像度に計測できる。 • PSPを塗装するだけで圧力分布計測が可能である。数 点の圧力孔のデータを参照することにより、計測精度を 高めることができる。 • 低コストで圧力計測が可能である。 • たとえば、肉厚の薄い部位やマイクロサイズの物体など の圧力孔が設置できない場所の圧力分布を計測するこ とができる。 • 計算格子にマッピングすることでCFDとの対比が容易で ある。 20 想定される用途 • 航空、鉄道、自動車、スポーツ分野(リュージュ、スキー ジャンプなど)などの風洞試験における圧力分布計測 • 燃料電池内部の酸素濃度分布の計測 • マイクロマシーンなどの微小物体表面の圧力分布計測 • 土壌中、大気/液体の酸素濃度分布計測 ※企業、大学等の研究機関からPSPを利用したいとの要望が強い。 21 実用化に向けた課題 実用化に向けた課題として、温度の影響が強い流れを 計測する場合、温度による計測誤差が含まれる。 温度の影響を補正するためには、感温塗料、赤外線カ メラを用いた温度補正が必要である。 22 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称 :温度感度を低減した感圧塗料および 感圧センサ • 登録番号 :特許第 5544561号 • 出願人 :宇宙航空研究開発機構 • 発明者 :満尾和徳、小幡誠、矢野重信 ※参考文献:満尾和徳、中北和之、栗田充、渡辺重哉:JAXA感圧塗料(PSP) 計測システムの研究開発(1) -概要編-、JAXA-RR-13-005、2014年2月. 23 お問い合わせ先 宇宙航空研究開発機構 新事業促進部 新事業課 e-mail [email protected] 24
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