“流れ”のパターンを言語化し,流体 設計を最適化する新アルゴリズム 京都大学 ⼤学院理学研究科 教授 坂上貴之(さかじょうたかし) 1 流体⼒学を必要とするインフラの需要は 世界的にますます増加 “流体”=現代社会のキーワード 写真3枚は WIkiPedia より 流体力学 理学・工学 世界の航空機需要 風力発電の規模 運輸インフラ 環境インフラ (上・下)一般社団法人 日本航空機開発協会 民間航空機に関する需要予測 2014 より 2 《World Market Update 2010, BTM Consult ApS》 エネルギー価格の高騰と環境負荷低減 航空機輸送のCO2排出量 燃料価格の推移 (左・右)一般社団法人 日本航空機開発協会 民間航空機に関する需要予測 2014 より 世界の新興国の中間層の増加にともなう,輸送インフラの需要の 高まり,二酸化炭素排出量や燃料高騰による輸送コストの増加を 抑制するという相反する要望を解決する「エネルギー高効率」輸送 手段の開発が望まれている. 流体力学に関わる輸送インフラの設計技術: 流体力学に関わる輸送インフラの設計技術 「エネルギー効率化」と「輸送需要増への対応」を可能に 例)航空機の翼端ウィングレット ⇒ 燃費効率を4〜5%改善. 3 JST 坂上CREST「渦・境界相互作用が創出するパラダイムシフト」のコンセプト “渦を活かせ!!” 従来,流体力学上厄介者とされた「渦」をエネルギー効率向上のエコデザインに活用する. 従来の空力 《 翼理論》 ・ 航空力学の基礎 ・ 流線形, 揚力 ・ 「 渦」 は厄介も の 坂上CREST こ れから (? )の空力 《 渦・ 境界相互作用の 数学と 計算科学》 ・ 生命流体の基礎 《 パラ ダイムシフ ト !》 ・ 「 渦」 の効率的利用 ・ 「 渦翼」 の基礎 ・ 渦剥離と 乱流 ・ 風力発電, 環境工学 ・ スポーツ 力学 4 JST 坂上CREST概要 渦閉じ込めこめによる高率的な「渦翼」 例) 渦翼=渦を翼まわりに 閉じこめることで,付加的 揚力を得るメカニズム A model of a Kasper wing Kasper(1978) US #3831885 「渦閉じこめの状態の数学的記述」が必要 渦閉じこめの状態の数学的記述」が必要 5 従来の流体解析/設計技術 流体運動のパラメータ探索 •原理:与えられた流体中の物体形状の設計問題において,流体方程式の 数値実験や風洞実験から,物理パラメータ探索を網羅的に行う. 「焼きなまし法」や「遺伝的アルゴリズム」を用いた探索. •長所:手法が直感的であり計算機資源を使えば容易に実施. 定量的な評価と比べながらの最適化が行われる. •短所:局所的な探索となる可能性がある.繰り返し行われる計算のため 計算時間と設計コストの増大化.探索範囲は経験と勘による. 技術課題:効率的な最適状態の設定とその探索 6 従来技術(翼設計を例に) 同じ翼で、同じ空気の流れでも 時間的に揚抗比は変化する シミュレーション結果 揚抗比の時間変動 4 赤線:揚抗比 ld ratio drag lift 3.5 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 0 見た目にはどれが「最適」状態 かわからない. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 従来技術では,計算結果を繰り返し揚抗比を計算 ⇒ 計算コスト・設計時間の増大と「最適性」 7 新技術の特徴①: 流れパターンの位相的分類と語表現 二次元多重連結領域内における構造安定な非圧縮流れ場の流線の位相的分類と その語表現理論の構成に成功 流体の流れパターンに対して固有の「語表現」を与えるアルゴリズム (a) 与えられた物体の数から「達成されうる全ての」流れがわかる IA2 (b) IA0 (a) S OB0 IC (c) S OB2 S (b) 流れパターンに固有の語表現:語とその流体機能が結びけられる シミュレーション結果・実験結果 語表現 流れパターンの言語化・図形の文字表現手法 8 新技術の特徴②: 流れパターンのグラフ表現と正規表現 問題点:与えられた流線構造に固有の語表現を割り当てることは可能だが,与えら れた語表現に一つの流線構造を割り当てることができない(一対一対応でない) 解決:流体の流れパターンに対して固有の「グラフ表現」を与えるアルゴリズム (a) 流線構造と一対一に対応する「グラフ表 現」とそのグラフを表す「正規表現」と呼ばれ る新しい文字列表現を与えるアルゴリズム (b) 正規表現による識別とそれを語表 現に変換するアルゴリズム 流線パターンを曖昧さなく表現できる記号体系 9 新技術の特徴③: 語表現・正規表現による遷移の記述 解決:流体パターンの語表現と正規表現を用いた流体遷移の記述アルゴリズム (a) 語表現による候補絞り込み 指数差と部分語 遷移表からの候補の選択 (b) 正規表現比較による確定 (a) X= IM1,s + 10 効果:画像から⽂字列へ(データ圧縮技術) 情報の圧縮:数値シミュレーションや流体実験の流線パターンを記号「だけ」で記述 (a) 画像に関する知識の文 字表現による顕在化 (b) 100KBのデータが数十 のデータが数十 バイトの文字列に変換 (1/10000のデータ圧縮!) のデータ圧縮!) 11 効果(表現語と機能) 流線構造の語表現化 揚抗比の時間変動 4 t=5.5 揚抗比〇 ld ratio drag lift 揚抗比 3.5 t=12.6 3 2.5 揚抗比× 揚抗比× 2 1.5 1 揚力 0.5 抗力 揚抗比〇 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 t=11.4 ICCB0という構造(これが渦閉じ込め状態の表現!) (これが渦閉じ込め状態の表現!)が揚力を上げる (これが渦閉じ込め状態の表現!) 「流れ構造」この文字表現を持つ(維持する)ように形状を設計 12 本技術の活⽤例:渦翼の最適設計 《例:渦翼の設計》 物体の数と流れの状況を設定 起こりうるすべての流線パターンと 語表現の取得 本技術 問題に応じた最適パターンの選択 語表現・正規表現を用いたパラメー タ領域の効率的探索 適合する最適状態の全出力 「渦閉じこめ状態」の言語による表現(IC) 粗視化して得られる形態の「最適」状態 ⇩ それを達成するパラメータをサーチする 語表現を通した新しい最適化問題 13 効果:従来設計技術との比較 従来技術 本技術 設計パラメータの 探索の範囲 計算の確度 自動化 × 局所的な探索 △ ガイドライ ンのない繰り返 し探索. × 経験と勘 によって最適 状態を探索. ○ 漏れの無い網 羅的な探索が可能 ○ 語表現を通 したガイドライ ンに沿った確実 な探索. ○ 普遍的な 表現による表 現,標準化可 能. 14 期待される⽤途① 1.流体解析ソフトウェアへの組み込み 基本的な流れ表現の記述記号列として普及を図る 2.エネルギー効率のよい航空機翼の設計 「渦閉じこめ」状態の表現 →起こりうる状態すべての列挙により,渦閉じこめ最適状態 とその語表現を定めてパラメータ探索が可能になる. WikiPedia より A model of a Kasper wing 15 期待される⽤途② 3.エネルギーロスの少ない低騒音ブレードの設計 本語表現を用いた渦閉じこめ状態を達成する 風⼒発電のブレードデザインの提案. エネルギーロスの少ない低騒⾳風⼒発電が期待. 4.あらゆる分野の設計に適用 鉄道パンタグラフ,⾃動⾞のトランスミッション, 効率的に帆⾛する船舶デザイン,河川・港湾改修デザイン WikiPedia 「集電装置」より WikiPedia 「オートマティックトランスミッション」より 16 実⽤化に向けた課題と企業への期待 実用化に向けた課題 1.アルゴリズムの計算機への実装 本技術のアルゴリズムはすべて計算機上にて実現可能 しかしながら実際のプログラム実装のためのソフトウェアの開発を大学で の研究体制にて行うことは人的・資金的に難しい. 2.適⽤例を作る 適⽤可能な問題を探索し,実際に本アイデアを実現した新しい設計 技術の確⽴.⻑い時間にわたる産学パートナーシップが必要 企業への期待 本特許のプログラム実装や設計技術の確⽴に向けた協⼒体制の構築 17 本技術に関する知的財産権 • 発明の名称:流れパターンの語表現方法、語表現装置、および、 プログラム 出願番号:特願2012-203601号 PCT/JP2013/070939号 出願人:科学技術振興機構(2015年12月現在) 発明者:坂上貴之、横山知郎 公開番号:WO2014/041917A1 • 発明の名称:流体遷移経路取得装置、流体遷移経路取得方法、 および、プログラム 出願番号:特願2013-230678 PCT/JP2014/079512 出願人:科学技術振興機構(2015年12月現在) 発明者:坂上貴之、横山知郎 公開番号:WO2015/068784A1 18 本技術に関する問い合わせ先 【ライセンスについて】 科学技術振興機構 知的財産戦略センター 桑島 健 TEL 03-5214 - 8486 e-mail [email protected] 【技術内容について】 京都大学 坂上 貴之 TEL 075-753 - 2660 e-mail [email protected] 19
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