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生態プリントNo5
生物多様性を考える~何のために生態学を学ぶのか
目的
●生物多様性には遺伝子の多様性、種の多様性、生態系の多様性があることがわかる。
●生物多様性が人間の活動によって失われることがわることがわかる。
●生態学に関する基本的な知識・理解を前提として、ディスカッションにより多様な意見に触れ、
「生物多様性」について考えることができる。
●「リテラシーとしての生態学」について考えることができる。
ディスカッション課題<生物多様性について考える>
課題1 自分の生活の中の行動で、生物多様性に負の影響を与え、生態系のバランスを崩す恐れの
あるものを挙げよ。
課題2 以下の例は、生物多様性にどのような影響があると考えられるか考察せよ。
① 家や学校の花壇に外来種を植える
② ペットの魚や亀を自然界に放つ。
③ 別の地域からとってきたホタルやメダカを自然界に放つ。
④ 野生動物や野良猫にエサをあげる
⑤ 森林を定期的に伐採する。
⑥ クマの駆除を防ぐために全国から集めたドングリを一部の山里に配布する。
⑦ 河川浄化のために、プランクトン食魚を放つ。
⑧ 土壌改良や水質改善のためにEM(有用微生物群)を使用する。
⑨ 農業用地を確保するために干潟をなくす。
⑩ 薪をとる必要がなくなったり、田んぼを維持する人がいなくなったため、里山に人の手が
入らなくなる。
⑪ シカを駆除するために自然にオオカミを再導入する。
課題3 「自然」とは何か考察せよ。また、それを基に「保護(人の手をいれない)」と「保全(人
の手を入れる)
」はどうあるべきか考察せよ。
課題4 現代社会を生きていく上で、生態学に関してどのような知識・理解を一般市民が持つこと
が望ましいと考えられるか考察せよ(リテラシーとしての生態学とは何か?)。
「生物多様性を考える」参考資料
大野からのメッセージ①「能力・法・倫理」
何かをするかしないかは何で決まるのでしょう。
まずは「能力」です。できないことはできません。
次に「法律」です。「能力」としてはできるけど、法律で規制されているからしない、ということ
があります。窃盗などはこれに入るでしょう。
それでは、法的に問題がなく、自分の能力にも問題がなければ何でもしていいのでしょうか。
最後の判断基準となるのが「倫理」です。
倫理には「能力的にできるし、法的にも問題ないけれど、それはすべきでないからしない」という
発想があります。
ときに、
「権利」や「正当性」を主張し、理屈のみで戦おうとすることがあります。そんなときに、
「倫理」という視点を忘れてはいけないと感じています。
正しい倫理感を持つ。人生を豊かにするために必要なことだと思います。そのためには、思考停止
することなく、自らの「倫理感」と向き合い、考え続けることが何よりも重要です。
大野からのメッセージ②生態系の歴史性
生態系の基本概念として「いまここに存在するものは、『地域独自の時間の積み重ね』によって存
在している」ということが言えます。
その場所にあるものというのは長年に渡る過去の蓄積により存在しているので、人間活動によって
奪ってしまうと取り返しがつかないというのが重要な基本概念となるでしょう。
大野からのメッセージ③「理解・予測・決定」
生態学を学んで得た知識や理解は、そのままではいかにも役に立たなさそうです。実際に皆さんの
実生活で直接役に立つという実感は得にくいかもしれません。
しかし、生物どうし、あるいは生物と環境との「関わり合い」「つながり」を学べるのは生態学で
す。その知識・理解を基にすれば、複雑な世界に対して何らかの行動を起こしたときの影響を予測
することができます。すると、いくつかの選択肢の中から、それらの予測も参考にしてある行動を
決定することができます。
恐ろしいのは、
「知識・理解」に基づかず、
「予測」もなしに、感情だけで「決定」してしまうこと
です。
倫理は、あくまでも「私」がどう考えるかということですが、正しい知識・理解や予測に基づかず、
すべてを「自分がどうしようと自分の自由である」と決定してしまうと大きなものを失う可能性が
あります。
端的に言えば、
「善意による行為が、生態系のバランスを崩す」ことさえありうるのです。
生物多様性とは何か
(1) 種の多様性(種間の多様性)
(2) 生態系の多様性
(3) 遺伝的な多様性(種内の多様性)
(4) 相互作用の多様性
・どんな生物も他の生物とのかかわり(相互作用)をもっています。生物を保全するときには、保
全しようとする種 1 種だけではなく、この相互作用が保たれるような種の多様性を保全することが
必要。
・遺伝的に多様な集団は、環境の変化や病気などでも絶滅を免れやすい。多様な生物が生きていく
ためには、多様な生態系も必要。
ex)コウノトリは田んぼや池でえさをとったり、パートナーをみつけたりするが、木の枝などの
巣の材料は林から得ている。
絶滅の原因
オオカミやトキ・・・乱獲と開発
サギソウ・・・珍しいために大量に採られ、個体数が減少
メダカの減少・・・田んぼなどの水辺の減少
生物多様性とは何か(まとめ)
●生物多様性とは、生物がそれぞれに異なった形や性質、生育環境をもつこと
●種の多様性だけではなく、遺伝的多様性、生態系の多様性、さらに生物と環境や生物間の相互作
用も大切である
●現在、生物多様性は地球の歴史上かつてないスピードで減っており、その原因は人間活動である
生物多様性と人間生活
●私たちは多くの生き物を利用している
・私たちの生活に必要な生き物
・私たちの生活に豊かさを与えてくれる生き物
●生物多様性があることで健全な生態系が保たれる
・健全な生態系によっていろいろな効果がもたらされている
・生態系の働きを乱すと人間の生活にも悪い影響が出る
生態系サービス
生態系や生物多様性から得る利益を生態系サービスという。
ミレニアム生態系評価(国連によって提唱された世界中の生態系や生物多様性の最近数十年間の変
化に関するアセスメント)による生態系サービスの分類。
① 供給サービス・・・食料や繊維などの生産・供給
② 調節サービス・・・気候や病気などの制御。
③ 文化サービス・・・レクリエーションの場、地域の文化。
④ 支持基盤サービス・・・その他のサービスを支える基盤。
なぜ生物多様性が大切か(まとめ)
●生物多様性は人間生活に利益(生態系サービス)をもたらす
●生態系サービスは、供給、調節、文化、支持基盤サービスに分類される
●現在経済的評価を受けていないものでも、将来の技術発展により利用の可能性がでてくるものも
多い
●いったん絶滅した生物は復活できない
どのような生物が大切なのか(まとめ)
●たくさんの生物と関係を持っている生物が、生態系の働きを保つために重要
●その地域に固有な生物が特に重要で、人間が外から持ち込んで、そうした生物を脅かす生物はむ
しろ排除すべき
●単純に種数が多いということが重要なのではなく、生態系の働きを保つ種、地域固有な生物が重
要
生物多様性国家戦略 2012-2020
5 つの基本戦略
1) 生物多様性を社会に浸透させる
2) 地域における人と自然の関係を見直し、再構築する
3) 森・里・川・海のつながりを確保する
4) 地球規模の視野を持って行動する
5) 科学的基盤を強化し、政策に結びつける
TEEB(生態系と生物多様性の経済学)
・TEEB は「生態系と生物多様性の経済学(The Economics of Ecosystem and Biodiversity)
」の
頭文字をとったもの。
・すべての人々が生物多様性と生態系サービスの価値を認識し、自らの意思決定や行動に反映させ
る社会を目指し、これらの価値を経済的に可視化することの有効性を訴えている。
TEEB の主なメッセージ
1.様々な主体の行動や意思決定に生物多様性の価値を反映することが重要
これまでの経済社会では、生物多様性や生態系サービスの多くをタダ(無料)同然に扱い、その価
値を十分に評価・認識してこなかったため、生物多様性の損失や生態系サービスの劣化を招く意思
決定がされてきました。
生物多様性を保全し、生態系サービスを将来にわたって受け続けるためには、市民、ビジネス、行
政などあらゆる主体が、商品の購入、企業活動、政策立案など、ありとあらゆる意思決定の場面に
生物多様性や生態系サービスの価値を反映していくことが重要です。
2.生物多様性の価値を経済的評価などにより可視化することが有効
生物多様性や生態系サービスの価値を適切に認識するためには、経済的な価値に置き換えることな
どにより可視化することは有効な手段の一つです。
可視化することにより、生物多様性の保全や生態系サービスの利用にかかる全体のコストや便益を
考慮した意思決定につながる場合があります。
ただし、経済的価値評価には限界があり、生物多様性の価値のすべてを明らかにすることは困難で
ある点には留意が必要です。
TEEB の段階的アプローチ
■ステップ1 価値の認識
どのような生態系サービスを受けているか、その中で特に重要なものは何か、生態系サービスを持
続的に利用するための障害はないかなどを整理して認識し、関係者の間で共有します。
■ステップ2 価値の可視化
生態系サービスの価値やその変化を定量化し、可能なものは経済的な価値評価をして、生態系サー
ビスの価値を可視化します。
■ステップ3 価値の捕捉
最後の段階では、生態系サービスの価値が意思決定に組み込まれるよう、具体的な施策や取り組み
に反映します。例えば、生物多様性を保全し、生態系サービスを持続的に利用するために必要な費
用を税金や助成金からまかなう仕組みを整えたり、消費者が環境に配慮した商品やサービスを利用
しやすい環境を整備することなどが該当します。
<参考文献>
「生物多様性の未来にむけて」
(東北大学大学院生命科学研究科生態適応センター)
TEEB 報告書普及啓発用パンフレット「価値ある自然」
みんなで学ぶ、みんなで守る 生物多様性(http://www.biodic.go.jp/biodiversity/index.html)
「生物多様性を考える」 課題プリント
個人課題
① 目的の達成度
1
2
3
4
② 今回のディスカッションに関して
1:そう思わない
2:どちらかといえばそう思わない
3:どちらかといえばそう思う
4:そう思う
①
多様な意見に触れることができた
1
2
3
4
②
人の意見から刺激を受けた
1
2
3
4
③
人の意見から新たな視点を獲得することがあった
1
2
3
4
④
ディスカッションを行う上で十分な背景知識があった
1
2
3
4
⑤
議論の「勝ち負け」を気にした
1
2
3
4
⑥
ディスカッションで積極的に発言できた
1
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4
⑦
発言することによって知識・理解が整理された
1
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4
⑧
人の発言を聞くことによって知識・理解が整理された
1
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1
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4
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2
3
4
⑨
⑩
ディスカッションを通じて「わからない」ことが明確になっ
た
ディスカッションを通じて自分が様々な課題の当事者にな
りうる「当事者意識」を感じた
⑪
さらに生態学について学んだり考えたりしたくなった
1
2
3
4
⑫
授業を通じて「価値観」を押し付けられたと感じた
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2
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4
⑬
生態学の知識は役に立つと感じた
1
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3
4
⑭
生態学はリテラシーとして必要であると感じた。
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4
⑮
「生物学」と「倫理」の双方の重要性を感じることができた。
1
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3
4
⑯
ディスカッションは自分にとって意味のある時間だった
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4
⑰
講義のみよりもディスカッションがある方が望ましい
1
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4
③ ディスカッションを進める上で「授業で獲得した知識」以外に知っておくべき必
要性を感じた知識(足りなくて困った知識など)。
④ ディスカッションを通じて新たに獲得した視点、刺激を受けた意見
⑤ 「自然」とは何であるか、自身の考えを述べよ。
⑥ 生物多様性や生態系の保全に関してどう考えるか、自身の「価値観」
「倫理観」だ
けでなく、「生態学の知識・理解」も基にして自身の考えを述べよ。
⑦ 「一般市民が持つべきリテラシーとしての生態学」で、絶対に外せない内容とそ
の理由
⑧ 感想
F ・ J
部
組
番
氏名: