<今月の症例> 67 代男性。深夜に左前胸部痛が出現し、1時間ほど様子をみたが良くならないため救急要請。 【胸部単純CT軸位断】 あなたの診断は? 【画像所見】 胸部単純CTで下行大動脈周囲に三日月状の高吸収域(high-attenuating crescent sign) 壁の石灰化が内側へ偏位 造影CTでは早期相(右図)・後期相(省略)ともに偽腔への明らかな造影剤の流入なし :high-attenuating crescent sign :石灰化の偏位 【診断】胸部大動脈解離(Stanford B、偽腔閉塞型) 【解説】 大動脈解離(aortic dissection)とは、大動脈壁が中膜のレベルで2層に剥離し、動脈の走行に沿ってある長さを 持ち偽腔を形成した状態で、大動脈壁内に血流もしくは血腫が存在する動的な病態である。急性大動脈解離 は大動脈緊急症の原因疾患の中では高頻度で、動脈瘤破裂を凌ぐとされている。 偽腔の状態により、偽腔開存型、ULP(ulcer-like projection)型、偽腔閉鎖型に分類される。偽腔に血流や tear(ULP 含む)の認められないものは偽腔閉鎖型で、偽腔内は凝血塊や血腫で満たされている。 解離範囲による分類はStanford分類が広く用いられている。上行大動脈に解離が及ぶA型は可及的速やかな 修復が必要とされる。上行大動脈に解離が及んでいないB型は、合併症がなければ内科的に高血圧治療が行 われる。 CT検査では、単純CTで内膜の石灰化の内方への偏位、内腔を取り囲む高吸収域(多くは三日月状で high-attenuating crescent sign と呼ばれる)が重要な所見である。造影CTでは早期相で偽腔が造影されない場 合もあり、後期相まで撮像する必要がある。 【コメント】 画像診断がきわめて有用な疾患として、最後に大動脈解離を提示させていただきました。 平成26年4月より今月まで症例提示を担当させていただきました。研修医から経験を積まれた専門医、開業医 の先生方まで幅広く読んでいただいているとのことで、症例に悩むこともありましたが、興味を持って読んでいた だけていれば幸いです。 1年間ありがとうございました。この場を借りて関係者・読者の皆様に御礼申し上げます。 (放射線科 甲斐 聖広) 参考文献) 臨床画像 2013(vol.29)10 月増刊号 症状からアプローチする画像診断 胸部のCT 第3版 メディカル・サイエンス・インターナショナル
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