大阪都構想

第912号
平成 27年4月10日
大阪都構想
大阪市を廃止して、東京都の23区に相当する5つの特別区に分割する「大阪都
構想」について、その賛否を問う住民投票が5月17日にも実施される事となりま
した。大阪市内の有権者は215万人ですから、住民投票としては過去最大の規模
となります。
今回の住民投票は「大都市地域における特別区の設置に関する法律」に基づいて
行われるもので、その結果は、各自治体の条例に基づいて行われる住民投票とは異
なり法的拘束力を有しています。
しかも、投票率が一定以上でなければ開票しないといった縛りは有りませんので、
投票率が幾ら低くても、過半数を得た結果に自治体も住民も拘束される事になりま
す。もしも、賛成多数なら、2017年の4月1日に大阪市はなくなり5つの大阪
都特別区が誕生する事になります。
ところで、大阪府を大阪都にし、大阪市を5つの特別区にするという「大阪都構
想」とは、一体どういうものなのでしょうか。
かつては日本経済の中心といわれた大阪市も、今や、日本経済に占めるシェアは
1割を切り、人口も横浜市の後塵を拝しています。
このように、地盤沈下の著しい大阪市ですが、その要因には大阪府と大阪市によ
る二重行政にあるというのが、
「大阪都構想」を推進している橋下大阪市長の主張で
す。
橋下市長は、大阪市と大阪府を合体する事で2重行政による無駄を排し、効率的
な行政を確保して大阪市の再生を図ろうとしているようですが、大阪府を大阪都に
したからといって、それだけでは大阪市が日本経済の中心の位置に戻れるという可
能性は低いと私には思われます。
ただ、政令市は一般の市と比べると権限が大きいために、道府県と政令市との間
でしばしば二重行政の問題が指摘されているところです。その意味では、大阪府と
大阪市の役割分担を整理して、広域的な行政は府に集約し、福祉や教育等身近な住
民サービスは特別区が担うとする「大阪都構想」には大きな意味があります。
ただ、二重行政解消の問題は、大阪府と大阪市だけの問題ではなく、政令市と政
令市を抱える道府県に共通した問題であり、日本の自治制度の根幹にも関わる問題
だといえます。従って、大阪市民による住民投票の結果は、今後の自治体の在り方
に大きな影響を与える事になると思われます。
一方、菅官房長官は、17日の記者会見で「地方分権の中で大阪市の問題。市民
が最終的に決める事だ。(3月18日付日本経済新聞から)」と多少突き放した感じ
で述べていますが、私には、
「大阪都構想」は日本の自治制度の根幹に関わる問題で
あるとの認識が、いささか薄いように感じられてなりません。
大阪府下には政令市が大阪市の他に堺市がありますが、堺市は「大阪都構想」に
は参加していません。従って、
「大阪都」下に政令市である堺市、5つの特別区、そ
して市町村が存在するという形になりますので、仮に住民投票の結果「大阪都構想」
が承認されたとしても二重行政の解消が進むわけではありません。
そもそも、道府県と政令市との二重行政を解消するためには政令市そのものを解
体しなければならないものなのでしょうか。
都道府県、政令市、中核市、市町村、それぞれの自治体間の権限は、地方自治の
制度設計の問題ですから、二重行政の解消というなら、本来は自治制度の設計変更
をすれば済む事だと思います。しかし、現実には利害調整が難しいために、国が大
阪府や大阪市に下駄を預けた形になっている、つまりは国の責任放棄ではないかと
いうのが、私の感想です。
また、大阪市が5つの特別区に分割された場合には、大阪市はなくなりますが新
たに5つの自治体が誕生する事になります。この結果、大阪市の行政について見れ
ば、5つに分割される事で、かえって行政コストは増え、非効率になるのではない
かという事も懸念されます。
「大阪都構想」については、今のところ市民の賛否は拮抗しているようですが、
いずれにせよ、大阪市民は歴史的な選択を迫られる事になりました。現在、その前
哨戦ともいえる大阪府議会議員、大阪市議会議員の選挙の真っ最中で、その結果は、
住民投票にも大きく影響する事になるでしょう。
いずれにせよ、橋下市長は、市民に対してメリット・デメリットを包まず明らか
にして欲しいと思いますし、大阪市民の皆さんも、結果如何では自分の生活だけで
はなく、未来の大阪市民の生活をも変えてしまう程大きな選択である事を十分に自
覚し、投票に臨んでいただきたいと思います。
(塾頭:吉田 洋一)