慢性閉塞性肺疾患における歩行動作中の適応反応について 慢性閉塞性

慢性閉塞性肺疾患における歩行動作中の適応反応について
慢性閉塞性肺疾患(以下 COPD)は、骨格筋機能障害を伴うことが報告されている。COPD
における骨格筋機能障害の臨床上の特徴として、筋力低下、易疲労性、低い運動耐容能、
大腿中央の断面積の低下が報告されている。組織学的特徴としては、筋線維の TypeⅠ線維
の減少と TypeⅡ線維の相対的な割合の増加、筋線維断面積の減少、筋組織内の毛細血管密
度の減少が報告されている。代謝的特徴としては、酸化的酵素の減少、解糖系に関わる酵
素の増加、細胞内のアシドーシスの増加、乳酸の増加が報告されている(Man, Kemp,
Moxham, & Polkey, 2009)。そして COPD における骨格筋機能障害は、低い運動耐容能の
因子であると報告されている(Saey et al., 2003)。
このような骨格筋の特徴を持つ COPD に対して、運動強度の高い動作である階段動作と
6 分間歩行テストの生理学的な違いを検討した研究を紹介する。階段を 44 歩昇った後の血
中の乳酸値は 1.14mmol、最大努力での 6 分間歩行テスト後の乳酸値は 0.33mmol であり、
階段昇降動作は有意に血中の乳酸値を上昇させることが示された。さらに血中の pH を比較
すると、階段を 44 歩昇った後の血中の pH は‐0.05±0.02 低下していたのに対し、6 分間
歩行テスト後の pH は‐0.03±0.03 の低下であり、有意な差を認めている(Dreher et al.,
2008)。乳酸の蓄積による体内のアシドーシスは、COPD において呼吸困難感を増加させる
主要な因子とされている(Saey et al., 2011)。この報告からは、COPD に対する階段昇降の
ような筋への仕事量が大きくなるような動作は、より早期に骨格筋の疲労を引き起こし、
運動継続を困難にさせることが示唆された。
ここで生じた疑問は、上記のような骨格筋機能障害を有した COPD は、どのように適応
しているのかについてである。COPD を有するものであっても目的の動作を遂行する為に
は、身体運動に対してなんらかの適応しているのではないかと考えた。以下に、COPD に
おける歩行動作中の適応反応を示唆した文献を紹介する。79 名の COPD と 24 名の健康高
齢者を対象とし、6 分間歩行テスト中の重心動揺を加速度計を用いて評価した研究によると、
COPD 群は健康高齢者群と比較し、有意に左右軸の重心動揺が少なかったと報告している。
さらに COPD 群は、健康高齢者群と比較し 6 分間歩行テスト中の歩数が有意に多く、歩幅
が有意に少なかったと報告している(Annegarn et al., 2012)。この報告から COPD は、歩
行時に歩幅を小さくし、重心動揺を抑えることで下肢の骨格筋の仕事量を軽減させている
ことが考えられた。歩幅とエネルギー効率との関連についても報告されている。トレーニ
ングされたランナーと一般成人を対象とし、歩幅を変化させた際の酸素摂取量を測定した
研究では、歩幅を増加および減少させると酸素摂取量が増加することを示している(de
Ruiter, Verdijk, Werker, Zuidema, & de Haan, 2014)。このことからも歩幅を大きくした場
合、筋出力を大きくする必要があり、より骨格筋の仕事量を増大させることで乳酸などの
代謝物質の増加をきたす可能性が考えられる。
COPD は、低酸素や骨格筋機能障害に対して運動パターンを変化させるという適応反応
を行っている可能性が考えられる。今後も COPD の呼吸困難感を改善させるような運動療
法を実施するために、動作パターンについても研究を行う意義はあると考える。
参考文献
(合計 IF 値:28.814)
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doi:10.1371/journal.pone. 0037329
De Ruiter, C. J., Verdijk, P. W. L., Werker, W., Zuidema, M. J., & de Haan, A. (2014). Stride
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