事例研究【ケース 1】 山田さんは管理部門から営業課へ配置転換となり

事例研究【ケース 1】
山田さんは管理部門から営業課へ配置転換となり、最初の 3 カ月は遅刻もしないで、ま
じめに勤務してきました。しかし、もともと山田さんは持病を抱えており、季節の変わり
目に体調を崩したりしましたが、新しい部署で上司・同僚に弱みをつかまれたくなかった
ので、体調のことは誰にも話しませんでした。また、やさしい性格のため、なかなか自分
のことを人には言えないという気弱な部分もありました。
この会社でもご多分にもれず、営業実績もなかなか上がりにくくなって、人減らしもあ
り、一人一人のノルマがきつくなるなどの状況の下、頑丈でない山田さんは、最近、体調
不良もあり、精神的にもきつくなって、遅刻や有給休暇をとることが多くなってきました。
しかし、営業の仕事はチームでの成果を求められるので、山田さんも周囲に迷惑をかけな
いように精いっぱい仕事をしていました。
ところが、今回の人事異動で新しく着任した鈴木課長は、きつい性格で、小さなミスで
も注意する人との評判でしたので、
「きつい性格の人や、自分のことを話すことが苦手」だ
と思っている山田さんは「困ったなあ」と思いましたが、自分のことについては、新任の
鈴木課長や営業課の誰にも相談できずにいました。
そんなある日のこと、山田さんは鈴木課長に呼ばれ、課員の前で「以前からあなたは休
みや遅刻が多いと聞いている。サボっているのではないか」と言われました。課員の前で
言われたので、その時は「申し訳ありません。これから気をつけます」と鈴木課長に謝り
ました。
山田さんは、体調がすぐれないときでも鈴木課長の手前、まじめに仕事をこなしていま
したが、鈴木課長は山田さんがいるところでも他の課員に対して「山田さんは仕事ができ
ないね」とたびたび言っていましたし、直接山田さんに対しても「あなたはサボるのがう
まいね」と言ったりもしていました。ミスをすれば、同僚の前でネチネチ注意をされるよ
うになり、山田さんはとうとう病気になり休職してしまいました。
議論の概要
問題1
山田さんはどのように対応すればよかったのでしょうか。
・関係部署には持病を話しておく必要があったのでは?
・一人で抱え込まず他の上司、同僚、保健室などに相談する
・課長に注意された時点できちんと説明する
・周囲とコミュニケーションをとり、信頼関係を作る努力
アサーション力
「弱みをつかまれたくない」
「気弱な部分」
・業務上安全に健康でコストパフォーマンスを果たす義務、無理をすれば結局周囲
に迷惑をかけるという自覚
問題2
鈴木課長の態度はどのように評価されますか。
・パワハラといえるか
ネチネチの度合い、頻度、時間
人前での叱責
・指導相手との信頼関係、コミュニケーション、マネジメント力はどうか
遅刻、休みの理由を理解しようとしない
先入観、決めつけ
こんな風に言われたら指導相手、部下がどんな気持ちになるか
問題3
会社としてはどのような対処が求められていますか。
①職場環境配慮義務
・社内相談対応の体制整備・周知
・社外相談対応の利用(弁護士、社会保険労務士、産業医、産業カウンセラー等)
・労働者の健康管理、把握の体制
人事・総務部門等がヒアリング等行い把握
休職に対するケアや復職のプラン(復職先など本人の意向や医師の意見等によ
り慎重な配慮が必要)
労働者の日頃の勤務態度や遅刻、休暇理由等を気にかけ声をかける適切なコミ
ュニケーションが行われる雰囲気作り
管理職、一般労働者への定期的なヒアリング
②管理職のマネジメント力増強
・人事・総務部、上位職などが部下の管理職の人材マネジメントが適切であるかに
注意を払う
「きつい性格で、小さなミスでも注意する人との評判」
・行き過ぎた成果主義、評価制度で中間管理職に過度なプレッシャーやストレスッ
サーを与えていないか
・管理職研修・パワーハラスメント研修・指導方法研修・アサーション研修
事例研究【ケース 2】
パワーハラスメント相談室に営業部第一課の加藤さんから「上司の原田課長からパワハ
ラを受けている」との相談がありました。
加藤さんの話
「もともと原田課長とは相性が悪いというか…。私が仕事のやり方や進め方についていろ
いろと意見を言ったり、提案を出したりしているのに反対するばっかりで。言い合いにな
ることもたびたびありました。それを根に持って『君とはもう話合うつもりはない』とは
っきり言われました。挨拶も聞こえないふりをして無視。終業間際に急に仕事を押し付け
てきて具体的な指示もしない。聞いても『自分で考えろ。任せたからな。』で終わりです。
それなのにちょっとしたミスにも厭味ったらしく注意点をメールしてきたり…。ほんとに
私ばかり目の敵にしています。もう仕事へのモチベーションがわいてきません。」
原田課長からのヒアリング
「なんですって、私がパワハラを?冗談じゃない、加藤君がモンスターなんですよ。的外
れの意見ばっかり言ってきて、私の考えを素直に受け入れずむやみに突っかかってくる。
彼の『意見』といっても仕事の不平や不満、文句としかいえないものばかりですよ。仕事
の指示にも従わないし、何度注意しても同じミスを繰り返して言い訳ばかりで…。もう彼
と話なんかしたくありませんよ。彼の顔を見ているとムカムカして動悸がします。私の方
が被害者ですよ。」
議論の概要
問題1
このケースはパワーハラスメントに当たるかどうか判断するにはどのような確認
事項が必要でしょうか。
①具体的な事実の確認(双方とも抽象的
・業務上必要、適正な範囲であったか
認識のずれ、くい違いをすり合わせる)
・回数
・いつどんな場面で何をどのように言ったのか
・加藤さんのみに対してか
・提案書やメールの内容データ
②第三者の視点、周囲からのヒアリング
・人物(パワハラ・モンスター)
・他に被害がないか、職場の雰囲気、全体のコミュニケーションの状態
問題2
相談窓口として、加藤さんと原田課長に対しどのように対応すればよいのでしょ
うか。
①両者に相手方、第三者へのヒアリングについて了解を得る(守秘義務)
②先入観を持たず、公平、客観、透明性を持って双方の言い分を傾聴する
相手の言い分についても双方に伝え、さらに具体的な事実の確認を行う
③誤解や和解が可能と判断された場合は、相談窓口の仲介による和解
③判断が困難なケースやパワハラと思われる場合は、
・外部の専門家に相談する
・ヒアリング結果をパワハラ対策委員会等に報告し判定を仰ぐ
④社内の組織的な課題がある場合は提言する
・パワハラ防止の基本方針の再確認を促す広報
・従業員研修(管理職向け・一般従業員向けパワハラ研修、マネジメント研修)
事例研究【ケース 3】
ある企業の総務課長高田さんの悩み
「私の会社は製造業で、従業員数が300人弱の中小企業です。最近、若手の社員がうつ
病で休職という困った事態になり、
その原因がパワーハラスメントであると判明しました。
もともと現場などでは荒っぽい口調で、時には怒鳴り声が飛んだり、いまだに部下のほと
んどは呼び捨て、という社風ではあったので、最近いろいろと問題になっているパワハラ
がいつ起こっても不思議ではないと心配はしていたのですが…。
」
「人事の担当としては、早急に対策をとらなければと焦るのですが、社長や経営陣が全く
パワハラ対策に理解がないというか、むしろこの経営が難しいときに何を言い出すのかと
いう考えなのです。」
「社長も経営陣もたたき上げの人たちですから、『今どきの若いもんは本当に軟弱だ』『自
分たちはそうやって育ってきて、頑張ってきて今の会社を作り上げたんだ』
『どうやって部
下を指導するんだ?パワハラ問題なんか取り上げたら思う通りの教育ができない』と…。
社長たちの意識を180度転換させるなんて、どうしたらいいかと途方に暮れるばかりで
す。
」
議論の概要
問題1
社長や経営陣の意識改革にはどのような戦略・戦術が有効でしょうか。
①放置のリスクや対策のメリットを訴え、取組みの緊急・必要性を理解させる
リスク
:問題解決までの時間・労力・コスト
職場風土の悪化による業績低迷・人材流出
企業のイメージダウン、信頼失墜
職場環境配慮義務違反等法的責任
メリット:管理職の意識の変化による職場環境の改善
職場のコミュニケーションの活性化
管理職のマネジメント力の増強
社員の会社への信頼感アップ
②数値で具体的に
裁判事例(慰謝料、賠償額)
休業、退職者の代替人件費
社内アンケート実施結果
採用コスト
離職率
③世代感覚のずれ(高度成長期・低成長期の職場環境、気質、価値観等)の認識
④課長の話に耳を貸さない社長にどのように迫るか
社長に近い取締役から提案してもらう
社外の社労士、税理士、弁護士、産業医などから
労働組合との労使交渉
経営トップ対象の研修に参加
問題2
社内の体質改善についてはどのように対処したらよいでしょうか。
①トップのメッセージ
企業全体の意識改革の必要性
②ハラスメントやコミュニケーション等の研修
経営層、管理職、一般職と階層的に、定期的に
③ハラスメント防止の継続的な周知・啓発
ポスター、社内報、朝礼、イントラネット等利用
④取組効果のフィードバック
アンケート結果、研修の感想、離職率