オーナー系企業の事業承継に係る財務デューデリジェンスのポイント;pdf

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オーナー系企業の事業承継に係る
財務デューデリジェンスのポイント
EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)
トランザクションサポート 公認会計士 吉原重之
• Shigeyuki Yoshihara
(株)
産業再生機構、外資系プライベートエクイティファンドなどの勤務を経て、2009年7月より、EYグループに参画。トランザクション
サポートにおいて、特にプライベートエクイティファンドを中心に、財務デューデリジェンスに限らず、総合的なアドバイザリー業務を
提供している。
Ⅰ はじめに
オーナー系企業は、会計監査を受けていない会社が
多く、第三者が事業承継(買収)する際には、専門家
によるデューデリジェンス(以下、DD)を実施し、実
態を把握することが非常に重要です。
本稿では、オーナー系企業に対する財務DDに関す
るポイントについて解説します。
なお、本稿で記載した内容は、筆者がこれまで実施
したオーナー系企業の財務DDの経験に基づくもので
あり、全てのオーナー系企業に同様のリスクがあると
いうことではないことを、補足させていただきます。
反対に売上除外、架空経費の計上等により課税
所得を過少申告している。
• オーナーおよび親族(の会社)との取引が実体
を伴わない取引であったり、取引条件が市場水
かい り
準から乖離している。
• 税務申告を主目的とした決算を行っている場合
など、固定資産および金融商品の減損、資産除
去債務、退職給付債務、役員退職慰労引当金等、
会計上のみで計上される費用(損失)や債務に
関連する会計基準が適用されておらず、財務諸
表が実態と乖離している。
• 連結財務諸表を作成していないため、グループ
全体の財務状況について把握しにくい。あるい
Ⅱ オーナー系企業の財務DDにおける調査の
ポイント
財務DDは、過去の財務諸表を調査対象とします。
監査を受けていないオーナー系企業を対象とする場合、
アドバイザーは経験則に基づき、例えば、潜在的なリ
スクとして、次の項目が財務諸表に内在している可能
性が通常よりも高いと考えます。
• 経営状況をよく見せるため、売上高の水増し、売
掛・在庫の過大計上といった不適切な会計処理に
よる収益の前倒し、費用の繰延等を行っている。
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は各社の決算月をずらし、各社の単体決算書を
見てもグループ全体の実態が把握できないよう
にしている。
• 十分な経験・知識がある経理担当者がおらず、
会計処理や決算処理が誤っていても、気づか
ない。
検証の進め方としては、前記の項目の有無を質問内
容に含め、直接オーナーおよび実務担当者に確認する
方法を採ります。それと同時に、科目別の増減分析など
の分析結果に基づき、異常項目の洗い出しを行います。
また、必要と判断した場合には、次のような検証手
続きを併せて実施します。
また、対象企業への情報の作成依頼に対しても、マン
1. オーナー関連取引の実態の把握
取引先別のデータからオーナー関連取引の金額を集
パワーの不足に起因して担当者が十分に対応できず、
計した上で、取引内容に関する質問、関連契約書の閲
情報の入手の遅延や、入手した情報間の不整合などが
覧といった作業で、取引の実態を把握します。
生じ、分析が進まないことがあります。
なお、オーナー関連取引について、実務担当者がほ
この場合の対応として、アドバイザーは対象会社の
とんど把握しておらず、オーナーのみが分かっている
総勘定元帳をエクセルなどの形式で入手し、必要な情
という場合には、オーナーに対するインタビューの実
報を自ら集計する方法を採ることがあります。
この方法を採る場合、対象会社の負担が軽減され、
施が重要な手続きとなります。
作業の遅延は回避できますが、アドバイザーの作業工
数はかなり多くなります。
2. 取引実在性の検証
現預金の金額の重要性が高い場合には、残高および
しょうひょう
入出金の記録を預金通帳などの外部証憑と突き合わせ、
実在性を確認します。また売掛金や在庫の実在性を直
Ⅳ おわりに
接確認するためには、外部への残高確認状や在庫実査
の実施が望ましいのですが、財務DDのアドバイザー
不適切な会計処理、経済合理性に欠けるオーナー関
がこれらの手続きを実施することは情報漏えいのリス
連取引などがあった場合、将来の税務調査において、
クが高いため通常は実施しません。
経費の仮装計上や利益の隠蔽といった指摘を受ける可
いんぺい
能性があるので、財務DDと並行して税務DDを行うこ
3. 連結グループの実態の把握
連結財務諸表の作成義務がないグループ企業が調査
対象企業の場合、グループ全体の実態を把握するため
とも重要です。また、オーナーの関連企業とのなれ合
いによる取引契約の不備、不存在などの法的なリスク
を法務DDによって明らかにすることも重要です。
に、アドバイザーが簡易連結数値を試算する場合があ
ります。
グループ間取引の影響がほとんどない場合には単純
合算で済みますが、グループ間取引の影響があり、例
えば、グループ各社の決算月が異なる場合には、基準
となる月を決めた上で、基準月の月次試算表、総勘定
元帳などから連結消去すべき資産・負債の残高、取引
お問い合わせ先
EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株)
マーケッツ
Tel: 03 4582 6400
E-mail:[email protected]
高を集計し、必要な連結修正金額を試算することが必
要です。
また、月次試算表の勘定科目や総勘定元帳の摘要欄
から取引相手や取引内容の詳細が判明しない場合は、
実務担当者へのインタビューにより補足します。
Ⅲ オーナー系企業における情報不足の実態と
アドバイザーの対応
オーナー系企業では、通常、詳細な財務諸表を開示
する機会がないことから、計数管理が十分に実施され
ておらず、取引先別の残高明細、主要商品(群)別の
売上・粗利データ、資金繰り実績表、設備投資実績
データといった、財務DDに必須の情報の入手が困難
な場合があります。
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