Trend watcher 東南アジア主要国における外資投資規制の概要と留意点 EYトランザクション・アドバイザリー・サービス(株) M&Aアドバイザリー チーム 森田哲郎 • Tetsuro Morita 外資系証券会社において株式調査業務、M&A関連業務および資本調達業務に従事した後、EYグループに参画。国内外の買収、事業再編、 経営統合に関してM&A戦略立案から案件執行までのアドバイザリー・サービスを提供。主要担当業種はヘルスケア、化学、物流など。日 本証券アナリスト協会 検定会員。 (株) マーケッツ <お問い合わせ先>EYトランザクション・アドバイザリー・サービス Tel: 03 4582 6400 E-mail:[email protected] Ⅰ はじめに 資規制が設けられています。外資投資規制への対応は、 買収スキームや買収後の事業運営に大きな影響を与え 日本企業によるアジア地域でのM&A件数は、同地 域の高い成長性や2015年末の東南アジア諸国連合 ることを踏まえ、東南アジア主要国における外資投資 規制について概観し、留意点をまとめました。 (ASEAN)経済統合などを背景に、リーマンショッ ク後の落ち込みから急回復し、高水準で推移していま す(<図1>参照)。中でも、東南アジアでのM&A件 Ⅱ 東南アジア主要国の外資投資規制 数はアジア地域全体202件のうち99件と約5割(13 年)を占め、東南アジアは日本企業がM&Aにおいて 最も注力する地域といえます。しかし東南アジア各国 では、業種により国内企業の保護を目的とした外資投 ▶図1 日本企業によるアジアでのM&A件数推移 (件) 13年の東南アジアでの日本企業によるM&A件数上 位5カ国はタイ、ベトナム、インドネシア、シンガポー ル、マレーシアでした。これら5カ国の外資投資規制 の概要を<表1>にまとめました。 外資投資規制の検討では対象業種、出資比率制限、 土地所有制限が主な検討項目と考えられます。 250 198 200 150 100 153 151 189 202 140 121 113 90 1. 対象業種 全体的に、安全保障関連、農林畜産漁業関連、小 売・サービス業関連で比較的厳しい外資投資規制が設 けられる傾向にあります。一方、製造業では各国とも 外資100%の出資がおおむね認められています。 2. 出資比率制限 50 出資比率制限は、国および業種によってさまざまで 0 05 06 07 08 09 10 11 12 13(年) 20 20 20 20 20 20 20 2 0 20 出典:M&A専門誌「MARR」提供データに基づきEYトランザクション・ アドバイザリー・サービス作成 22 情報センサー Vol.102 March 2015 すが、そもそも外資による投資が禁じられているケー ス、外資が議決権の過半数あるいは株主総会における 特別決議に要する比率を保有できないケースに、特に ▶表1 東南アジア主要国の外資投資規制概要 国 対象業種 対象業種における外資出資比率 外資企業による土地所有規制 タイ • 外国企業(右記参照)による参入が禁止されている業種: • 外資出資比率50 %以上(特定の業種につい • 外資が49 %超を保有する法人は 新聞・ラジオ・テレビ/農林畜産漁業/骨董品/宗教関連 ては49 %超)の企業は外国企業とされ、規 土地保有が原則として禁止(業種 における外資投資規制と基準比率 製品/不動産/武器の製造/国内陸上・会場・航空運輸およ 制対象業種への参入が禁止される が異なる) び国内航空/文化・工芸関連/環境・天然資源関連/木材 加工/石灰製造/会計・法律/建築設計/エンジニアリング /建設/代理・仲介/競売/農産物取引/小規模小売・卸売/ 広告/ホテル/観光/飲食物販売/植物繁殖・品種改良など ベトナム • 外資のみを対象とした条件付投資業種: • 業種に応じて外資出資比率に上限(多くの場 • 土地は国有 放送・テレビ放映/文化的作品の制作・出版・配給/鉱 合49%∼51%) • 外資企業(外国資本が出資する全 物の探査・開発/長距離通信および情報伝達網の設置・ ての企業)は土地使用権の割当を • ネットワークインフラを備えない基本通信 受けることができず、政府から土 長距離通信およびインターネットサービス/公共郵便網 事業・仮想プライベートネットワークサー 地を賃借する必要あり ビス・Webコンテンツサービスは65 %∼ の建設・郵便および宅配サービス/港湾および空港の建 設・運営/線路・空路・道路・海路・現地水路での貨物 70%、銀行およびその他金融業は30% および乗客の輸送/漁獲/タバコ製造/不動産/輸出入およ • 上場企業は外資出資比率49%まで び運輸/教育・訓練/病院・診療所など • 投資制限がある業種(内資・外資を問わず): • 政府が提示する「投資ネガティブ・リスト」 • 土地は原則として国有 農業/林業/海洋・漁業/エネルギー・鉱物資源/工業/国 により業種毎の詳細な投資条件(外資出資比 • インドネシア企業(外資を含む) 率、特別許可の要否、投資地域等)を規定 防・警備/公共事業/商業/文化・観光/運輸/情報通信技 は土地基本法に定められた各種権 利を取得し利用 術/金融/銀行/労働・移住/教育/保健 • 外資出資比率制限は事業分野に応じて0 % インドネシア (外資の出資が禁止・制限される主な業種は、建設、小 (外資出資禁止) ∼95% 売、運輸、金融) • 2007年4月以前に設立された外資出資比率 100%企業は営業開始後15年以内に株式の 一部をインドネシアの個人または法人に譲渡 する義務あり シンガポール • 外資出資規制がある業種: メディア • 外資出資規制・ブミプトラ*資本出資義務がある業種: マレーシア 水・エネルギー・電力供給・放送・防衛・保安等の国家 権益に関わる事業/陸運/海運・倉庫/通関/ハイパーマー ケット・スーパーストア • 外資参入禁止業種: スーパーマーケット・ミニマーケット/食料品店・一般 販売店/コンビニエンスストア/新聞販売店・雑貨販売店 /薬局/ガソリンスタンド/常設市場・歩道店舗/国家戦略 的利益に関連する事業/布地屋・レストランなど • 外資出資比率の上限は49%(放送事業) • 住宅用不動産および住宅用不動産 所有企業への投資に制約あり • 事業用不動産に関しては特になし • 国家権益関連事業:外資出資比率30%まで • 一定規模以上の不動産の取得にお いて、政府の承認、ブミプトラ出 • 陸運(貨物):ブミプトラ出資比率30%以上 資要件および最低払込資本金要件 および外資出資比率49%以下 の充足を要する • 海運/倉庫(一般保税倉庫):ブミプトラ出資 比率30%以上 • 通関:ブミプトラ出資比率51%以上 • ハイパーマーケット・スーパーストア:ブミ プトラ出資比率30%以上 * ブミプトラ:マレー人およびその他先住民 出典:JETRO資料、ヒアリングなどに基づきEYトランザクション・アドバイザリー・サービス (株) 作成 注意が必要です。また、上場企業への外資出資比率に での株式を保有してもらうスキームが可能なケースや、 制限のあるケースや、会社形態により出資比率制限を含 タイのように外資出資比率が議決権ではなく持分金額 めた株主構成に関する規制が異なるケースもあります。 で判断される場合、普通株式に比べ議決権が少ない優 先株式を用い、持分金額ベースで外資投資規制をクリ 3. 土地所有制限 国によっては外資による土地所有が禁じられている アしつつ、議決権ベースで外資が過半数以上を確保す るスキームが可能なケースがあります。 場合があり、買収スキームや買収後の事業運営への影 響を慎重に検討することが必要です。 Ⅳ おわりに Ⅲ 外資投資規制の回避 東南アジア各国の外資投資規制は緩和される方向に あります。しかし、M&Aを検討中の案件に外資投資 各国の投資優遇対象業種に該当する場合や、政府な 規制の適用がある場合は、規制をクリアしつつ案件の どの認可を得られる場合に、外資投資規制をクリアで 戦略的目的を達成することが可能か、財務アドバイ きることがあります。また、案件次第ですが、外資に ザーおよび法務アドバイザーと協働しつつ、案件の初 該当しない現地の友好的な株主に、過半数に達するま 期段階から検討することが重要と考えます。 情報センサー Vol.102 March 2015 23
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