卒業論文講評と要旨(PDF版);pdf

広田康生ゼミ卒業論文講評
―グローバル都市の社会問題をテーマとするゼミナールー
担当
2014 年度の広田ゼミの卒業論文は、以下の 9
広田
康生
特に前期は、グローバル化に伴う、人々の国境
本である。
を超える移動(マイグレーション)と「定着」
・HS23-0015B 吉田
「公園の空間的性格
が、われわれの生き方や考え方や価値観、日本
に関する研究~望まれる公園の姿~」
の地域社会・都市社会に及ぼす社会問題を中心
・HS23-0037B
田島
梓
凌 「消費社会の在り方」
に、そうした問題を扱った幾つかの文献を輪読
・HS-23-0041J 尾形竜太郎「ポケットモンスタ
し、後期は、この中から何らかの示唆を受けた
ーが幼児期と児童期の子ども達に与え
り、あるいはこの過程で浮かんだテーマに関連
る影響~発達心理学的概念を手がかり
する文献を各自が数冊選定し、この購読を通じ
に~」
て自分の関心領域を特定し、テーマを選定して
・HS23-0043E 大波
俊
「ライブ空間の研究
いくというやりかたをとっている。こうした過
~パフォーマーとオーディエンスが創
程を経て、3 年生は、最終的にその年度の最後
る空間性~」
に、6000 字から 8000 字程度のゼミ論を提出す
・HS23-0088B 岩下ふみか「郊外における地域
ることにしている。このゼミ論については、単
性の創造について」
・HS23-0092J 酒井佳樹
なる読書感想文やレポートというよりは、論文
「情報化社会におけ
形式で、テーマ、問題意識、視点と方法、分析
る地域活性化~地域ブランドは必要な
を、各自の関心に応じて、まとめてみるという
のか~」
ことを要求している。
・HS23-0112B 塚田友香
「サードプレイスと
担当者自身が「フィールドからの発想」を重
してのスターバックスコーヒー~コー
視しているので、必ずしも調査研究のゼミ論や
ヒーカップに映るもの~」
卒論を義務付けているわけではないが、何度か
・HS23-0113A 秦
勇気
「日本における第三
は、テーマに関連したフィールドを訪れて、現
国定住難民とインドシナ難民の受け入
場で話を聞く努力をしてほしいと要請している。
れとその影響」
・HS23-0115G 谷
優希
「イスラム・スポッ
先の卒業論文も、こうした授業経緯で生まれ
トに見る現代都市コミュニティ研究の
たものである。
方向性~新宿百人町イスラム・スポッ
各論文の要旨は、卒業論文要旨を見ていただ
トを事例にして~」
ければその簡単な内容紹介がされているのでそ
ちらのほうを見ていただきたいが、担当者なり
広田担当の 3 年生の専門ゼミナールと 4 年生
に各論文に一言だけ評をしておく。
専門ゼミナールは、木曜日の 3 限目に、3 年生
吉田梓の論文は、公園を素材に、都市の公共
と 4 年生が合同で授業に出席し(主体は時間割
空間の内容について考察したもので、二つの実
どおり 3 年生であるが)
、4 限目に 4 年生だけの
際にある公園を歩いて確かめている点で評価さ
授業を行っている。4 年生としては、2 時間続き
れる。論文としての構成もしっかりしている。
で授業に出席をすることになり、負担は大きい
田嶋凌の論文は、消費社会における個人のニー
かもしれないが、3 年生と 4 年生が一緒の時間
ズがどのように形成されているかを考察したも
を過ごすメリットのほうを優先している。
ので、自分なりにアルバイト先の職場をフィー
授業のテーマとしては、合同授業のほうは、
ルドに具体的に考えている点で評価している。
1
広田康生ゼミ
大波俊の論文は、ライブ空間のなかで形成さ
卒業論文全体を通じて講評をしておきたい。
れるある種の空間世界、パフォーマーとオーデ
筆者の場合、研究とは、それぞれのテーマに
ィエンスが創る空間性を論じたもので、これも
応じた「現場」
「フィールド」―それが理論の
実際のライブ会場に行く中で思いついたもので、
世界であろうと、現実の世界であろうと―で、
力作だと思う。岩下ふみかの論文は、現在の都
バラバラに見える現象や出来事や概念を、一
市「郊外」について研究したもので、画一的、
つのストーリーのある「世界」
としてまとめ、
均質的にイメージされがちな「郊外」の、空間
読んでくれる人に呈示し、その社会的、人間
的な特徴と「場所性」について考察したもので
的な意味を考える作業だと思っている。その
ある。なによりも、均質空間としての「郊外」
意味で言えば、やはり、方法論や認識論と言
ではなく場所形成の個性をみるという姿勢が現
ったものが―それが可視的であろうとその研
代の郊外論の特徴を表している。構成もしっか
究の中に埋め込まれていようが―が、最も大
りしている。酒井佳樹の論文は、グローバル化
拙であると考えている。方法論とは、何をど
のなかでその存在が縮小イメージでとらえられ
のような視点、角度から見るかという認識論
がちな地域性の問題を、情報化社会における地
的な考察や、それをどのような考え方や概念
域ブランドの創生の必要性について問題提起し
や言葉や理論を掛け合わせて理解するか、と
たもので、これもグローバル化が引き起こした
いう問題である。その場合、使用する概念が
社会問題に取り組んだ論文として評価したい。
現実に合わなければ、その概念のほうを自分
塚田友香の論文は、スターバックス・コーヒー
の感性にあわせて修正して使えばいい。こう
店を対象にして、都市コミュニティ形成の「結
したことに関するちょっとした意識の結果、
び目」
「ノード」を表すレイ・オルデンバーグの
自分が考えたことを、どのように伝えようと
「サードプレイス」という概念を手掛かりにし
するかという論文構成案が出来てくると考え
て、考察しようと試みたもので、東京都心部、
る。その点でいうと、いつもそうだが卒論と
郊外、横浜都心部の三つの事例で、その特徴を
言えども、自分の考察のなかに埋め込まれた
調査研究したものである。とにかく現場に、と
認識論や方法論の類について、無自覚である
いう担当者からすれば、何度も現場に行きフィ
と感じる。洗練された考察などを求めている
ールドワークをしたという点でおもしろい作品
のではなく、どの努力はしてほしいと願って
になっている。秦勇気の論文は、いわゆる難民
いる。きいたふうな言葉でうまくまとめるよ
問題を扱ったもので、
「第三国定住難民」と「イ
うなことは必要ないが、フィールドワークを
ンドシナ難民」の受け入れの違い、変化につい
きちんとしようすると、自分の立っている立
て考察したものである。筆者も、1990 年代に、
ち位置や認識方法について考えざるを得ない
大和インドシナ難民定住センターに何度か聞き
と考える。
取り調査をし、いちょう団地にお邪魔をした経
今年度の広田ゼミでは、今野裕昭先生、藤
験からすると、現在ほとんど話題にすらならな
原法子先生のゼミと共同で、9 月に日本都市
い難民問題を扱った点で、本人にとっても貴重
社会学会大会をお引き受けし、ゼミ生の人た
な経験をしたのではないか、と考えている。本
ちにお手伝いをお願いした。広田ゼミの今回
人は公務員として就職が決まっているので、一
の 4 年次生からは、吉田梓、岩下ふみか、谷
層、この経験は貴重であると考えている。谷優
優希諸氏にお手伝いいただいた。学会大会に
希の論文は、東京新宿大久保・百人町に形成さ
参加した会員諸先生からは学生諸氏の仕事ぶ
れている多民族地帯、特に新大久保駅のすぐ近
りに大変好感と感謝をいただいた。
くにある、通称「イスラム・スポット」に焦点
そのようなことも思い出しつつ、最後に、
をあて、都市社会学的に見た場合、どのような
卒業する 4 年次生全員の今後の活躍を祈りた
問題提起をしているかを考察したものである。
い。
2
2014 年度
卒業論文要旨
都市公園における空間的性格に
ついての研究
HS23-0015B
吉田
消費社会の在り方
梓
HS23-0037B 田島
本論文では、公園が利用者、設置者にとってど
のような役割を果たし、公園という空間の性格が
どのように形成されるのか考察した。様々な一面
を持つ公園がどのような空間として存在している
かを明らかにしたかったからである。中でも周辺
住民の利用を目的とし設置されている都市公園に
焦点を当て分析した。具体的には誰にでも開かれ
た存在である公園の公共はなにを指すのか。
また、
三元弁証法を考察の軸にし、公園設置目的と利用
者のニーズの相互関係からどのような公園空間が
形成されていくのかを分析した。
分析の結果、公園空間の公共に関しては、公園
設置者が想定している空間性を守るため、公園の
利用ルールに反する秩序を乱す恐れのある特定の
集団、人物を排除したうえでの誰でも利用できる
という不平等さを含んだ公共だということがわか
った。相互関係に関しては、公園を管理する側は
公園がスポーツ等で利用されることで健康増進な
どの役割を果たす利用機能と環境保全や防災など
の役割を持つ存在機能を期待し設置されている。
また地域活性化の拠点としても期待されている。
これらの役割が果たされるために公園の設備を整
え、利用者を増やそうと空間が改善されている。
しかし、利用者のニーズに合わない点もあり利用
者が減少し、衰退した公園空間が形成されてしま
っている場所も存在するのである。衰退した空間
は悪影響を周辺に及ぼし、地域を衰退させてしま
う。設置者の公園空間と利用者の公園空間の相互
関係が生き生きとした公園空間を形成するのに重
要なのである。
公園空間は秩序を守るため不平等さを含んだ公
共空間でもあり、公園を管理する側の設置意図か
ら形成される空間と利用者が実際に公園を利用し
て形成されていく空間の 2 つが混ざり合い成り立
っている。多くの人々に利用され、公園が期待さ
れている役割を果たすことで公園空間が生き生き
とした場所となり、結果として公園が地域活性化
の拠点としての一面も出てくるのである。
凌
現代の日本社会は、より良いもの・快適さを求
め、モノの生産を繰り返し、消費が全く追いつい
ていない傾向にあり、このモノはどうやって処理
すればいいのだろうと悩まされる。これは時代を
経て技術が進歩し、モノの能力が上がったから、
過去のモノが余ったという理由ももちろんあるだ
ろうが、それは単純に見た意見に過ぎないだろう。
なぜモノが減らないのかということ、どのように
減らしていくかということ。また消費者、つまり
我々は消費社会において今後どのような姿勢で向
き合っていくのかに非常に関心を持った。
日本は現在、消費の落ち込みという社会的問題
を抱えている。
消費とは社会に必須なことであり、
個人単位でも生きていくうえで重要なことである。
しかし多くの人々はただなんとなく、物価が上が
り物を思うように買えない、たくさん働いている
のに、所得がなかなか上がらないといった日常を
過ごしているだろう。日常生活品や食品、電化製
品など安さを売りにする広告がここ近年で増えて
きている。一見とても潤っているからこその安売
りだしに見えるだろうが、実際には違う。個人消
費の落ち込みに伴うデフレ・スパイラルという背
景がある。安くないと買わない、安くなる時だけ
を狙って買うという行為ばかりを消費者がせざる
を得ない状況のため、企業側はどんどん物価を下
げるしかなくなる。そのようにしないと物が減ら
ないという事実がある。
消費というのは生きる上で絶対に必要なことで
あり、誰にも共通し関与している。バブル崩壊、
消費税 5%引き上げ、8%引き上げによってデフ
レ・スパイラルから抜け出せない悪循環が 20 年
ほど現在も続いている。これから社会に出ていく
私たちにとって興味深いことであるし同時に不安
要素でもある。景気を低迷させている様々な要因
があるからこそ、様々な切り口から人々が消費社
会の現状を理解し、対策をしていくということも
可能である。今後の消費社会の在り方が現在と比
べてどのように変化していくのか、見所である。
3
広田康生ゼミ
ポケットモンスターが幼児期と
児童機の子どもたちに与える影響
HS23-0041J 尾形
ライブ空間の研究
-パフォーマーとオーディエンスが創る空間性-
HS23-0043E
竜太郎
大波
俊
まず、現代の生活の中で人々は多様な形で「音
楽」に接していることが多く、人の思考や価値観
または行動の変化をもたらすことから文化的影響
を与える可能性を有している。特に非日常の音楽
が演奏されるライブ空間では、その場での出来事
が観客に強い印象を持たせ、長期的な記憶として
残す作用が発生すると考えられた。そこで本論文
のテーマは、このような音楽と記憶が深く結びつ
いていく因果関係について問いを立て、ライブハ
ウスや音楽フェスなどのライブ空間に焦点に置き、
ライブの印象や場の一体感を左右する存在である
パフォーマーとオーディエンスの関係を研究の視
点として考察し、空間論と文化的側面から論じた
ものである。次に、本論文の構成について紹介し
ていく。
第1章では、ライブ空間では、時間や場所が限
定されており、それに伴ってパフォーマーとオー
ディエンスの関係も一回性のものとなっているこ
とからライブ空間の非日常性を検証していった。
また、アライダ・アスマンの理論を参考にパフォ
ーマーが空間で実践する楽器の演奏やトークなど
のパフォーマンスが空間の印象を強調化させ、オ
ーディエンスの記憶の形成と連鎖しているのだと
捉えた。
第2章では、ライブハウスやロックフェスを具
体的なライブシーンの事例として挙げ、パフォー
マーとオーディエンス両者の関係と記憶の形成に
つながりえる両者が生み出している一体感につい
て論じている。さらに自身が実際に参加した野外
音楽フェスを分析し、ライブ空間の印象やライブ
で発生するパフォーマーとオーディエンスの<世
代の場所>に関して述べている。
第3章は、
本論文の全体的な考察になっており、
ライブ空間においてパフォーマーとオーディエン
スの交流には様々な形があり、偶然的な対面によ
って一体感が生まれることで持続的な記憶形成に
つながるのだという結果を論じた。
最後に、第4章(結論)であるが、自己の本論
文のテーマに関する研究過程を通しての見解を述
べている。
ポケットモンスターが幼児期と児童期に与える
影響を考察するにおいて、私は心理学的面から人
が成長することにおいてそれぞれ段階とその段階
それぞれに課題があることに注目して考察した。
それらを発達段階と発達課題という。本論文では
この発達段階のうち、幼児期と児童期の段階にお
ける発達課題を手掛かりに、ポケットモンスター
との関連性を考察した。
幼児期:人間にとって幼児期は人としての基礎
的な能力を身に付ける期間。幼児期は人としての
基礎として前頭前野の発達や環境の変化といった
中で言語能力やその土台が遊びを通して発達する
時期。児童期:幼児期の子ども達が物事を見かけ
で判断する直感的な特徴であるのに対してこの時
期の子ども達はより物事を本質でとらえることが
できるようになり、
小学校高学年になるにつれて、
論理的思考、物事の概念化、自立意識といったも
のがみられるようになるといった客観的思考や、
環境の変化における、生活空間の拡大による社会
性が発達する時期
※両者に共通する点として、遊びを通してそれ
ぞれの課題を解決している。
ポケットモンスターとの関連性 ポケットモン
スターは男女ともに人気がある。つまり、ポケッ
トモンスターは遊びを通して成長する幼児期、児
童期の子どもたちに深く関係すると考えられる。
幼児期の子ども達は無意識に自身のスキルを向
上させるものとしてまたは生活空間の拡大からそ
こで形成される社会集団に適用するための比較的
子ども達が使用しやすいツールとしてポケットモ
ンスターというものを意図的に活用しているので
はないかと考える。また児童期においても、論理
的な思考、思考の計画性、自身の仮説に基づく推
理的思考ができるようになるなどの要素から、築
かれた社会集団に属するために、意図的に使用し
ているのではないかと考える。つまりポケットモ
ンスターは遊びを通して幼児期、児童期の発達課
題を解決する一つのツールになっているのではな
いかと考える。
4
2014 年度
卒業論文要旨
郊外における地域性の創造過程
情報化社会における地域活性化
~地域ブランドは必要なのか~
HS23-0088B
岩下
ふみか
HS23-0092J
近年、さまざまな都市や地方において、その土
地独自の性質を活かして新しい価値・魅力を見出
そうとする試みが多くなされている。たとえば、
2004 年から始まった日本橋における再開発事業
や、2007 年から継続的に行われている東京駅周辺
の再開発などは記憶に新しい。
これらの新たな
「地
域性」の発見の試みは、再開発や街おこしには欠
かせないものであり、その多くがその場所特有の
イメージに基づいている。これらの「地域性」は、
経済的あるいは社会・文化的な側面を強く持って
いるが、コミュニティという側面から考えてみて
も、共通の認識を持つことでそこに暮らす人々の
結びつきを強めることが可能であるというメリッ
トを有している。
しかし、そのような多様な都市や地方とは対照
的に、私たちが郊外に対して持っているイメージ
は漠然としており、均質的で、地域性や歴史性に
欠けがちである。まったく同じ都市や地方が存在
しないように、実際にひとつとして同じ郊外はな
いはずなのだが、私達が郊外にそのようなイメー
ジを持っているのは一体なぜなのだろうか。
また、
郊外における地域性とは、一体どのようなものな
のだろうか。
本論は、このような疑問を出発点として、郊外
開発の歴史と変遷を振り返りつつ、都市でも地方
でもない新しい空間として郊外を捉え、郊外にお
いて地域性がどのように形成されていくのか、い
くつかの理論や事例をもとに考察したものである。
5
酒井
佳樹
この論文では、まず地域ブランドの必要性につ
いて理解を深めるために 2.関心の所在と本論の視
点で戦後の都心への人口流出などによる東京一極
集中や過疎化などの地域格差、などの問題点と並
行して、全国総合開発計画を始めとする国土開発
に焦点を当てることで日本の地域活性化・地域開
発の歴史と急速に発展してきた地域の情報化に触
れ、2-2 と 2-3 の視点の中でそれらを踏まえた上
で地域ブランドの新しい定義と地域ブランドを構
築するために欠かせない人材やプロモーションの
ために利用されるメディアなどを分析項目として
とらえ、定住構想の概念を背景にしつつ地域ブラ
ンドができるまでのプロセスを人々がものに対し
て価値をどのように感じるのかという点を参考に
①準備、②計画、③実行、④評価の四段階に分け
て述べている。さらには、3 の中で過疎化によっ
て集落の存続が危ぶまれ地域の再生を目指す京都
府綾部市の水源の里条例を中心とした集落保全を
目的とした住民参加型の取り組みと、観光客の減
少や交通アクセスの不便さから人口流出と過疎化
により定住する人新潟県佐渡島の当時の流行に乗
せた取り組みや、現地の人ではなくよそから来た
人を採用し、多方面から佐渡島を見つめなおすこ
とによって島改革に新しい要素もたらしうる取り
組みを事例として紹介し、3-2 ではそれらの事例
の考察を行った。4 では定住構想において、地域
ブランドはコミュニティを存続させるためだけで
はなく、原住民が今後もより住みやすい地域を保
全していくためにも地域ブランドは必要であり、
そのためには住民が自覚をもって地域開発に関わ
っていくことや、教育施設などとの連携をより高
めること、さらには社会において需要の高いもの
などを分析しながら、ブランド化を推し進めてい
く必要があるということが述べられている
広田康生ゼミ
サードプレイスとしてのスターバックス
日本における第三国定住難民と
インドシナ難民の受け入れとその影響
―コーヒーカップに映るもの―
HS23-0112B
塚田
友香
HS23-0113A
私たち現代人が自宅で過ごす時間は目に見えて
少ない。かつて生活の軸として華やいだ自宅は今
や、着替えるため寝るための場として無機質に存
在する。自宅と職場あるいは学校を行き来する生
活の中で私たちはどこに安らぎを求めているのだ
ろうか。筆者は多くのビジネスパーソンが行列を
作りカフェに立ち並ぶ姿にそのヒントを得た。し
かし、立ち並ぶほどの熱狂する味や扇情的な店員
の存在がここにあるとは考えにくい。また多くの
SNS に投稿された店内の写真は店の周知を図る
というよりは、自らも写真に映り込む様が店自体
が演出道具に成り上がった印象を与える。
本論文では現代を代表するカフェ、スターバッ
クスコーヒーを題材に取り上げてサードプレイス
として活気に満ちた 19 世紀のパリのカフェの姿
を探した。R.オルデンバーグの定義するサードプ
レイスの 8 つの項目(①中立性②平等性③会話が
主な活動であること④便宜性⑤常連客⑥目立たな
い店構え⑦遊び心⑧もう一つの我が家)に沿い、実
際に訪れた3店舗(①東京ミッドタウン コンプレ
ックススタジオ店 ②関内馬車道店 ③武蔵小杉東
急スクエア店)で質的調査を行った。調査の結果に
ついては各店舗または同一店舗においても時間帯
により大きく特色が異なる。スターバックスによ
る物理的・感覚的な仕掛けが人々を先導し、集ま
った人々がお店のイメージを確固たるものにして
いく様子が見て取れた。サードプレイスの枠に納
めること自体いささか乱暴であり、平等性におい
て、一見すると街を歩く人には皆誰でも暖かいコ
ーヒーを差し出す人魚の看板は、実は訪れる客の
見定めをし店の風紀を保っている。
選ばれた客たちは書斎やリビングとして家よ
りも家らしく過ごす。店内には多くの「個人」が
存在し、隣の席の人は同じ作業に従事する同士で
はあるが、自分のテーブルを脅かされる心配はな
い。スターバックスコーヒーは現代人の持つ人付
き合いへのジレンマに合わせて組み替えたニュー
サードプレイスといえよう。
秦
勇気
私は難民とは海外で発生しているもので、日本
とはあまり関係がないものだと感じていた。しか
し、日本政府が難民保護の在り方を定めた難民条
約に加入して、2012 年で 30 年を迎えたと知った。
さらに、2010 年には避難先の国で長年滞留したま
まの難民を対象に、第三国定住制度という新しい
難民受入制度が始まるなど、日本においても難民
について関心が集まるようになってきた。しかし、
日本の難民受入制度には様々な問題があり、十分
には機能していないと指摘されている。そこで、
私は最近始まった第三国定住難民と 1970 年代ご
ろから日本が受け入れたインドシナ難民の歴史や
現状を比較し、各難民が抱える問題を見つけ、そ
の問題は日本にどのような影響や課題を与えてい
るのか、そして、日本は彼らのためにどのような
支援をすべきなのかを分析、考察したいと思い、
このテーマを選んだ。
さらに、二つの難民の歴史や現状から、私はイ
ンドシナ難民や第三国定住難民などの日本に住む
外国人と日本人にとってのより良い多文化共生社
会とは何かという点に焦点を当てていく。私は彼
らが日本に住むにあたって、どのような問題を抱
えているのかをそれぞれの難民を対象にしたアン
ケート調査や私が実際に行った現地ヒアリングの
結果などを用いて分析しながら、どうすればお互
いが理解しあい、より良い多文化共生社会を実現
できるかを考察している。
第 1 章ではこのテーマを選んだ理由等が述べら
れている。第 2 章では第三国定住難民、インドシ
ナ難民の難民としての存在の仕方、現状、受入制
度に焦点を当てて、第三国定住難民、インドシナ
難民ともに日本社会への適応の問題があることな
どを指摘している。第 3 章では各難民それぞれが
抱えている課題や共通している課題、また、受け
入れている日本側の課題をまとめ、それらの具体
的解決方法として、定住難民らを対象にした徹底
調査を通じ、具体的課題を把握することが大切で
あることなどを指摘している。
6
2014 年度
卒業論文要旨
イスラム・スポットに見る現代都市
コミュニティ研究の方向性
―新宿百人町イスラム・スポットを事例にして
HS23-0115G 谷
優希
本論文は新宿百人町のイスラム・スポットで行
った自分の聞き取り調査体験から見えてくる現代
型の都市コミュニティの形成やその特徴、および、
そうした都市コミュニティ研究における位置につ
いて考察することを目的としている。
都市のインナーシティとして位置づけられてい
る新宿区大久保。そこは都心と郊外を結ぶ第三空
間、大都市衰退地区の再生の現場として都市コミ
ュニティ研究の中では注目されてきた。筆者がこ
の論文でまず明らかにしたいことは、イスラム・
スポットに住む外国人のコミュニティ形成である。
イスラム・スポットに集まる人々は既存の建物
や制度などを巧みに利用して、受け入れ国に同化
するわけでもなく、自分達の住みやすい環境に変
化させてきた。ここに住む外国人がどのようにコ
ミュニティを形成し、それがどのような特徴を持
っているか明らかにしたい。また本論文では彼ら
のコミュニティから見えてくる同化を伴わない
「適応力」に注目して、現代型の都市コミュニテ
ィについて考察してきた。
高度成長期、東京への大量人口流入が起こり、
家族や地縁の繋がりではなく、互いに異質な人々
が作り出すコミュニティが現れてきた。例えば、
上記のイスラム・スポットに集まる人々は、居住
の近接性を持たず、彼らは自国との往還的な移動
を繰り返しながら、受入国でのコミュニティの既
存の制度を巧みに利用したり、たまには衝突しな
がらも自分達色に作り変えていく特徴が目につく。
本論で言う「適応力」とは、そのような積極的な
意味を持っている。
本論は一章で、筆者の問題の所在とイスラ
ム・スポットを研究する現実的、理論的意味につ
いて書き、二章で、先行研究をまとめて現代型の
都市コミュニティ形成について考察した。本論は
イスラム・スポットを事例とした、現代型の都市
コミュニティ形成とその特徴である「適応力」に
ついてまとめたものである。
7