高度経済成長期以前の鉄筋コンクリートの現状 2015 年;pdf

高度経済成長期以前の鉄筋コンクリートの現状
現在のコンクリートに使用されているポルトランドセメントがジョセフ・アスプディン
(英)によって開発されたのは 1824 年のことであり、ポルトランドセメントの建築材料とし
ての歴史は、まだ 200 年にも満たない。ちなみ に、日本で最初にポルト ランドセメントが製
造されたのは、官営深川 セメント製造所において であり、1875 年のこ と である。また、鉄網
と鉄板で補強されたコン クリート製の床がフラン ソワ・コワニエ(仏)に よって開発され、4
階建ての住宅の床に利用されたのは 1853 年のことであるが、日本で初めて鉄筋コンクリート
が用いられたのは、1905 年に建設された佐世保 港内第一烹水場・潜水器 具庫においてである
よ う に 、 日 本 に お け る 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト 造 建 築 物 の 歴 史 は 、 木 造 建 築 物 や 石 造 建 築 物 の それ
に比べると浅く、僅か 100 年程度であると言える。
明治維新後、 不燃都市の 実現を目指し て多用され ていた煉瓦造の 建築物は 、1891 年の 濃尾
地 震 に お い て 耐 震 性 に 劣 る こ と が 明 ら か と な っ た 。 そ の 結 果 、 都 市 の 建 築 物 は 煉 瓦 造 か ら鉄
筋コンクリート造へと徐 々に移り変わりつつあっ たが、 1923 年の関東 大 震災において、鉄筋
コ ン ク リ ー ト 造 は 、 そ の 耐 震 性 ・ 耐 火 性 の 高 さ が 改 め て 実 証 さ れ た た め 、 研 究 と 技 術 開 発が
いっそう加速され、大きく発展することとなった。そして、1950 年代中盤から 1970 年代前半
における高度経済成長期において、全国各地に鉄筋コンクリート造建築物の建設ラッシュを
起 こ し た 。 し か し 、 建 設 ラ ッ シ ュ は 、 技 能 労 働 者 不 足 と 短 工 期 の 影 響 で 低 品 質 と も 言 え る鉄
筋コンクリートを生んで しまい、1980 年代中 盤 に「コンクリート・クラ イシス」という社会
的 問 題 ま で を も 引 き 起 こ す こ と と な っ た 。 こ の よ う な 背 景 を 受 け て 、 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト の耐
久 性 と 維 持 保 全 に 関 す る 調 査 研 究 活 動 が 精 力 的 に 行 わ れ る こ と と な っ た が 、 日 本 建 築 学 会に
お い て は 、 今 も な お 、 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト 造 建 築 物 の 耐 久 設 計 ・ 調 査 診 断 ・ 維 持 保 全 に つ いて
の調査研究が進められている。
高度経済成長期 以前に建 設された鉄筋コ ンクリー ト造建築物のう ち現存す るものは、築 50
年を超え、もうすぐ 100 年になろうとするもの も現れてきており、歴史 的文化財として価値
を与えられたものもある。今後、築 50 年を超え、使用を継続するか解体するかの判断を迫ら
れ る 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト 造 建 築 物 が 急 増 す る こ と は 必 至 で あ る が 、 我 々 は 、 鉄 筋 コ ン ク リ ート
の耐久性および鉄筋コン クリート造建築物の耐用 年数については 、僅か 100 年間の経験しか
有 し て い な い の が 実 情 で あ る 。 し た が っ て 、 経 験 に 基 づ い て 、 そ の よ う な 建 築 物 の 余 寿 命を
判 断 す る こ と は 困 難 で あ り 、 高 度 経 済 成 長 期 以 前 に 建 設 さ れ た 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト 造 建 築 物に
お け る コ ン ク リ ー ト お よ び 鉄 筋 の 現 状 を 明 ら か に す る 必 要 が あ る 。 そ の 際 、 黎 明 期 か ら 高度
経 済 成 長 期 ま で の 間 に 、 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト に 関 わ る 材 料 生 産 技 術 や 施 工 技 術 は 大 き く 変 化を
遂 げ た た め 、 そ れ ら の 技 術 的 変 遷 を 踏 ま え て コ ン ク リ ー ト お よ び 鉄 筋 の 現 況 を 評 価 す る 必要
がある。
このような事情に鑑み、日本建築学会においては、材料施工委員会の傘下に、黎明期から
高度経済成長期までの間に建設された築 50 年超の鉄筋コンクリート造建築物におけるコンク
リ ー ト と 鉄 筋 の 現 状 に つ い て の 調 査 を 行 う ワ ー キ ン グ グ ル ー プ が 設 置 さ れ 、 こ れ ま で 数 々の
調 査 活 動 を 行 っ て き て い る 。 こ こ に 示 す 調 査 結 果 は 、 こ の よ う な 鉄 筋 コ ン ク リ ー ト 造 建 築物
に対する調査診断のあり方および維持保全のあり方について、今後、日本建築学会として体
系化を図り、指針類として制定していく ための基礎資料となるものである。
2015 年 4 月 1 日
既存鉄筋コンクリート造建築物の耐久性調査 WG 主査
1. 同潤会上野下アパート調査報告
同上
付録
野口貴文