第11回生物数学の理論とその応用

無限の分配的な遅れを持つ複数株モデルのリアプノフ汎関数
Lyapunov functional for multistrain models with infinitely
distributed delay
岡山大学大学院環境学研究科
Graduate school of Environmental Science, Okayama University
應谷 洋二
Yoji Otani
岡山大学大学院環境生命科学研究科
Graduate school of Environmental and Life Science, Okayama University
梶原 毅
佐々木 徹
Tsuyoshi Kajiwara
Toru Sasaki
概要
平衡点の大域安定性を証明するための手法として、リアプノフ関数・リアプノフ汎関数は、非
常に有用であり、その構成方法や証明手法にさまざまな工夫がなされている。Volterra 型のリア
プノフ関数を出発点として、遅れのある微分方程式に適用するために McCluskey による積分型
の汎関数を用いて構成することや、拡張された相加相乗平均の不等式を用いて非正性を証明する
ことが提案されてきた。これらにより、リアプノフ汎関数による大域安定性の解析が、広く進展
している。
遅れのある微分方程式で表現された感染症のモデルについて、リアプノフ汎関数を構成する。
その手法として、単一株で遅れのない簡単なモデルのリアプノフ関数から出発して、複数株で遅
れのある複雑なモデルでのリアプノフ汎関数の構成までを、モデル間の関連を考慮しながら順次
行う。複数株のモデルにおいて、どのような条件の下で、安定な平衡点に関わるリアプノフ汎関
数が構成できるかを示す。また、無限の分配的な遅れを扱うことによって生ずる課題や、理論的
な側面についても触れる。
1 吸収効果のある単一株モデル
病原体が未感染細胞に感染するとき、病原体が減少する吸収効果を扱う.
x(t) : Population of uninfected cells , v(t) : Population of viruses
dx
= λ − δx − µ(x)v
dt
∫ ∞
dv
=r
g(τ )µ(x(t − τ ))v(t − τ )dτ − ρ µ(x)v − bv.
dt
0
(1.1)
初期条件および変数は以下の通りである :
x(θ) = ϕ1 (θ), v(θ) = ϕ2 (θ), θ ∈ (−∞, 0].
µ(x) : Nonlinear incident,∫ strictly increasing, µ(x)/x : monotone non-increasing
∞
g(τ ) : Kernel of delay,
g(τ )dτ = 1
0
ρ : Effect of absroption
λ : Recruitment rate of uninfected cells
δ : Natural death rate for uninfected cells
β : Contact rate between uninfected cells and viruses
b : Natural death rate
r : Burst size
1
(1.2)
1.1 相空間
無限の遅れがあるために、fading memory type のような適切な相空間が必要となる.
∆ > 0 に対して、次のように C∆ , Y∆ を定める.
C∆ = {φ : (−∞, 0] → R | φ(θ)e∆θ は有界で、一様連続 },
Y∆ = {φ ∈ C∆ | φ(θ) ≥ 0 for all θ ≤ 0}.
C∆ と Y∆ におけるノルムを次のように定める.
∥φ∥ = sup |φ(θ)e∆θ |.
θ≤0
このとき、適切な ∆ のもとで、初期条件が ϕi ∈ Y∆ (i = 1, 2), x(0) > 0, v(0) > 0 であるな
らば、(1.1) の解が正で有界となることが示される.
1.2 汎関数の準備
W0∞ ((xv)t )
∫
∞
=
d ∞
W ((xv)t ) =
dt 0
∫
0
α(η)x(t − η)v(t − η)dη,
∞
g(a) (x(t)v(t) − x(t − a)v(t − a)) da,
(
)
∫ ∞
(1.3)
x(t − η)v(t − η)
∞
W1 ((xv)t ; c) = c
α(η)H
dη,
c
0
}
∫ ∞ {
x(t − a)v(t − a)
d ∞
W ((xv)t ; c) = g(a) x(t)v(t) − x(t − a)v(t − a) + c log
da,
dt 1
xv
0
∫∞
ただし、 α(η) = η g(τ )dτ, H(x) = x − 1 − log x, c > 0.
1.3
0
(1.1) の平衡点 (ˆ
x, 0) に対するリアプノフ汎関数
(1.1) における基礎再生産数は、R0 =
rµ(ˆ
x)
,
ρµ(ˆ
x) + b
x
ˆ=
λ
である.
δ
(
R0 ≤ 1 ⇔ µ(ˆ
x) −
)
b
≤ 0 のとき、DFE(Disease free equilibrium) (ˆ
x, 0) が安定である
r−ρ
ことを示す. 次のように、汎関数 U1 を定義する.
∫ x
µ(ξ) − µ(ˆ
x)
1
r
U1 (x, v) =
dξ +
v+
W0∞ ((µ(x)v)t ),
(1.4)
µ(ξ)
r
−
ρ
r
−
ρ
x
ˆ
U1 の (1.1) に沿った時間微分は次のようになる:
(
)
(
)
µ(ˆ
x) (
x)
b
d
U1 (x, v) = δ x
ˆ 1−
1−
+ µ(ˆ
x) −
v.
dt
µ(x)
x
ˆ
r−ρ
(1.5)
これは非正で、 U1 は (1.1) の平衡点 (ˆ
x, 0) に対するリアプノフ汎関数となる.
1.4 (1.1) の平衡点 (x∗ , v ∗ ) に対するリアプノフ汎関数
R0 > 1
ならば、b = (r − ρ)µ(x∗ ) であり、このとき内部平衡点 (x∗ , v ∗ ) が安定となる.
∫
U2 (x, v) =
x
x∗
µ(ξ) − µ(x∗ )
1
r
dξ +
(v − v ∗ log v) +
W ∞ ((µ(x)v)t ; µ(x∗ )v ∗ ). (1.6)
µ(ξ)
r−ρ
r−ρ 1
2
このとき、相加相乗平均不等式の拡張 [6] として得られる次の不等式や、
n−
m−1
∑
i=1
n
n
∑
∏
bi
b′i
b′i
−
+ log
≤ 0,
ai i=m ai
b
i=m i
where
n
∏
ai =
i=1
n
∏
bi .
(1.7)
i=1
µ(x)/x の単調非増加性から得られる次の不等式などにより、
(
)
(
)(
)
µ(x∗ ) (
x)
µ(x∗ )
µ(x)
1−
1− ∗ ≤ 1−
1−
,
µ(x)
x
µ(x)
µ(x∗ )
(1.8)
U2 の (1.1) に沿った時間微分は次のようになる:
(
)
(
)
d
ρ
µ(x∗ )v ∗
µ(x∗ ) (
x)
∗
U2 (x, v) ≤ 1 −
·
δx
1
−
1
−
dt
r−ρ
δx∗
µ(x)
x∗
)
∫ ∞ (
r
µ(x(t − τ )v(t − τ )
µ(x∗ ) µ(x(t − τ )v(t − τ )
∗ ∗
+
µ(x )v g(τ ) 2 −
−
+ log
dτ.
r−ρ
µ(x)
µ(x∗ )v
µ(x)v
0
(1.9)
したがって、次の条件が成り立つならば、
1−
(
(
)
)
µ(x∗ )v ∗
v ∗ µ(x∗ )
x
ˆ
ρ
·
>
0
⇔
r
>
ρ
1
+
⇔
r
>
ρ
·
,
r−ρ
δx∗
δx∗
x∗
(1.10)
U2 の時間微分が非正となり、U2 は (1.1) の (x∗ , v ∗ ) に対するリアプノフ汎関数となる.
2 吸収効果と免疫変数のある単一株モデル
明示的に 免疫変数 z(t) を含むモデルを考える. このモデルは、体液性免疫に対応する.
dx
= λ − δx − µ(x)v
dt
∫ ∞
dv
=r
g(τ )µ(x(t − τ ))v(t − τ )dτ − ρµ(x)v − bv−pvz
dt
0
dz
= vq(z) − mz.
dt
ここで、q(z) は z > 0 において連続, s(z) = z/q(z) は狭義増加,
limz→∞ s(z) = ∞, を仮定する.
(2.1)
limz→+0 s(z) = 0,
2.1 (2.1) の平衡点 (ˆ
x, 0, 0) に対する リアプノフ汎関数
(2.1) の基礎再生産数は、
(
R0 ≤ 1 ⇔ µ(ˆ
x) −
R0 =
rµ(ˆ
x)
λ
, x
ˆ = である.
ρµ(ˆ
x) + b
δ
)
b
≤ 0 のとき、次の汎関数 U3 を定義する:
r−ρ
∫ z
p
τ
U3 (x, v, z) =U1 +
dτ .
r − ρ 0 q(τ )
U3 の (2.1) に沿った時間微分は次のようになる:
(
)
(
)
µ(ˆ
x) (
x)
b
d
pm
U3 (x, v, z) = δ x
ˆ 1−
1−
+ µ(ˆ
x) −
s(z)z.
v−
dt
µ(x)
x
ˆ
r−ρ
r−ρ
これは非正で、U3 は (2.1) の平衡点 (ˆ
x, 0, 0) に対するリアプノフ汎関数となる.
3
(2.2)
2.2 (2.1) の平衡点 (x∗ , v ∗ , z ∗ ) に対する リアプノフ汎関数
R0 > 1 のとき、内部平衡点 (x∗ , v ∗ , z ∗ ) の安定性を議論するために、次の汎関数 U4 を定義
する:
p
U4 (x, v, z) =U2 +
r−ρ
∫
z
z∗
τ − z∗
dτ
q(τ )
U4 の (2.1) に沿った時間微分は、
{
(
)} (
)
r
ρ
µ(x∗ )v ∗
µ(x∗ ) (
x)
d
∗
U4 (x, v, z) ≤
δx 1 −
1+
1
−
1
−
dt
r−ρ
r
δx∗
µ(x)
x∗
)
∫ ∞ (
r
µ(x∗ ) µ(x(t − τ ))v(t − τ )
µ(x(t − τ ))v(t − τ )
∗ ∗
+
µ(x )v g(τ ) 2 −
−
+ log
dτ
r−ρ
µ(x)
µ(x∗ )v
µ(x)v
0
(
)(
)
pv ∗
z∗
s(z)
+
z 1−
1−
.
(2.3)
r−ρ
z
s(z ∗ )
(2.3) の最後の項は、 s(z) が増加関数であることから非正である. (2.3) の第 1 項は、次の不等
式が成り立つならば非正である.
ρ
1−
r
(
µ(x∗ )v ∗
1+
δx∗
)
>0
(
(
)
)
v ∗ µ(x∗ )
x
ˆ
⇔r >ρ 1+
⇔r >ρ· ∗ .
δx∗
x
したがってそのとき、U4 の時間微分は非正となり、U4 は (2.1) の (x∗ , v ∗ , z ∗ ) に対するリアプ
ノフ汎関数となる.
3 吸収効果のある複数株モデル
単一株モデル (1.1) を拡張した複数株モデルを考える.
n
∑
dx
= λ − δx −
βi µ(x)vi ,
dt
i=1
∫ ∞
dvi
= ri βi
g(τ )µ(x(t − τ ))vi (t − τ )dτ − ρi βi µ(x)vi − bi vi
dt
0
(3.1)
(i = 1, 2, . . . , n).
strain 番号に関わるすべてのパラメータおよび変数に添字 i を付ける. Delay kernel g(τ ) は共
˜ i = (ri − ρi )βi µ(ˆ
x)/bi を定義
通とする. また、ρi < ri を仮定し、すべての i-strain について R
0
する. ただし x
ˆ = λ/δ である. また、次のように仮定する.
˜ 01 > R
˜ 02 > · · · > R
˜ 0n ,
R
For i ̸= 1,
3.1
˜ 01 > R
˜ 0i ⇔ βi µ(x∗ ) −
R
(3.2)
bi
< 0.
ri − ρi
(3.3)
(3.1) から 遅れのないモデル (3.4) へ
次のような遅れのないモデルから始める :
n
∑
dx
= λ − δx −
βi µ(x)vi ,
dt
i=1
(3.4)
dvi
= ri βi µ(x)vi − ρi βi µ(x)vi − bi vi
dt
4
(i = 1, 2, . . . , n).
モデル (3.1) の平衡点 (x∗ , v1∗ , 0, · · · , 0), v1∗ > 0 は、モデル (3.4) の平衡点でもある.
˜ 0 を持つただ1つの株が生き残り、競争排除の原理 が成り立つことが以下のように示
最大の R
される.
UiA (x, vi ) for i = 0, 1, . . . , n および U A (x) を以下のように定義する.
∫
µ(ξ) − µ(x∗ )
dξ,
µ(ξ)
x∗

1


(v1 − v1∗ log v1 )
(i = 1)
r
−
ρ
A
1
1
Ui (x, vi ) =
1


vi
(2 ≤ i ≤ n),
ri − ρi
n
∑
A
A
UiA (x, vi ), x = (x, v1 , . . . , vn ).
U (x) = U0 (x) +
x
U0A (x) =
(3.5)
i=1
A
U (x) の時間微分を
SiA
for i = 0, 1, . . . , n を用いて表す:
(
)
µ(x∗ ) (
x)
A
∗
S0 = δx 1 −
1− ∗ ,
µ(x)
x

(
)
∗
µ(x)
µ(x
)

∗
∗

−
(i = 1)
 β1 µ(x )v1 2 −
µ(x)
µ(x∗ )
A
)
(
Si =
bi


vi
(2 ≤ i ≤ n).
 βi µ(x∗ ) −
ri − ρi
(3.6)
U A (x) の (3.4) に沿った時間微分は次のようになる:
n
∑
dU A
A
A
= S0 + S1 +
SiA .
dt
i=2
(3.7)
これで、(3.3) により、dU A (x)/dt は非正となり, U A (x) は、 (3.4) の平衡点 (x∗ , v1∗ , 0, . . . , 0)
に対するリアプノフ関数となる.
3.2 (3.4) から 遅れのあるモデル (3.1) へ
モデル (3.4) に遅れを付加する. モデル (3.1) のリアプノフ汎関数を構成するために、積分で
定義された汎関数 W1∞ ((µ(x)v1 )t ; µ(x∗ )v1∗ ) , W0∞ ((µ(x)vi )t ) を付加する.
UiAd (x, vi ) for i = 0, 1, . . . , n および U Ad (x) を以下のように定義する.
U0Ad (x) = U0A (x),

r1
 U1A (x) +
(i = 1)
β1 W1∞ ((µ(x)v1 )t ; µ(x∗ )v1∗ )
r
−
ρ
Ad
1
1
Ui (x, vi ) =
 UiA (x) + ri βi W0∞ ((µ(x)vi )t )
(2 ≤ i ≤ n),
ri − ρi
n
∑
U Ad (x) = U0Ad (x) +
UiAd (x, vi ).
(3.8)
i=1
書き直すと、
∫
µ(ξ) − µ(x∗ )
dξ,
µ(ξ)
x∗

1
r1


(v1 − v1∗ log v1 ) +
β1 W1∞ ((µ(x)v1 )t ; µ(x∗ )v1∗ ) (i = 1)
r
−
ρ
r
−
ρ
Ad
1
1
1
1
Ui (x, vi ) =
ri
1


vi +
βi W0∞ ((µ(x)vi )t )
(2 ≤ i ≤ n),
ri − ρi
ri − ρi
x
U0Ad (x) =
5
(3.1) に沿った U Ad (x) の時間微分は、
(
)(
)
n
∑
dU Ad
ρ1
µ(x∗ )
µ(x)
A
∗ ∗
Ad
= S0 −
β1 µ(x )v1 1 −
1−
+ P1 +
SiA ,
dt
r1 − ρ1
µ(x)
µ(x∗ )
i=2
ただし、
(3.9)
(
)
µ(x∗ ) µ(x(t − τ ))v1 (t − τ )
µ(x(t − τ ))v1 (t − τ )
2−
−
+ log
dτ.
µ(x)
µ(x∗ )v1
µ(x)v1
∫
r1 β1 µ(x∗ )v1∗ ∞
P1Ad =
g(τ )
r1 − ρ1 0
(1.8) により、
(
)
(
)(
)
µ(x∗ ) (
x)
µ(x∗ )
µ(x)
1−
1− ∗ ≤ 1−
1−
,
µ(x)
x
µ(x)
µ(x∗ )
(3.9) の第2項は、次の不等式を満たす:
(
)(
µ(x∗ )
ρ1
∗ ∗
β1 µ(x )v1 1 −
−
1−
r1 − ρ1
µ(x)
)
(
ρ1
µ(x∗ ) (
∗ ∗
≤−
β1 µ(x )v1 1 −
1−
r1 − ρ1
µ(x)
)
µ(x)
µ(x∗ )
x)
ρ1
β1 µ(x∗ )v1∗ A
=
−
·
S0 .
x∗
r1 − ρ 1
δx∗
まとめると、
dU Ad
≤
dt
(
1−
)
n
∑
ρ1
β1 µ(x∗ )v1∗
Ad
A
SiA .
·
S0 + P 1 +
r1 − ρ1
δx∗
i=2
(3.10)
ここで、次の不等式が成り立つならば、
(
)
ρ1
β1 µ(x∗ )v1∗
x
ˆ
1−
·
≥ 0 ⇔ r1 ≥ ρ1 ∗ ,
r1 − ρ1
δx∗
x
(3.11)
dU Ad /dt は非正であり、 U Ad は平衡点 (x∗ , v1∗ , 0, · · · , 0) に対するリアプノフ汎関数となる.
したがって、吸収効果のある (免疫変数の無い) モデルにおいては、競争排除の原理が成り立つ.
4 吸収効果と免疫変数のある複数株モデル
吸収効果と免疫変数 zi のある複数株モデルを考える.
n
∑
dx
= λ − δx −
βi µ(x)vi ,
dt
i=1
∫ ∞
dvi
= r i βi
g(τ )µ(x(t − τ ))vi (t − τ )dτ − ρi βi µ(x)vi − bi vi − pi vi zi ,
dt
0
dzi
= vi qi (zi ) − mi zi (i = 1, 2, . . . , n).
dt
(4.1)
qi (zi ) と si (zi ) = zi /q(zi ) についての条件は、 Section 2 での q(z) と s(z) = z/q(z) について
のものと同じである. 次の不等式を仮定する.
β2 (r2 − ρ2 )
βn (rn − ρn )
β1 (r1 − ρ1 )
>
> ··· >
.
b1
b2
bn
6
(4.2)
4.1 (4.1) の平衡点
次の不等式を満たす p
(0 ≤ p ≤ n) が存在する.
β1 (r1 − ρ1 )
βp (rp − ρp )
1
βp+1 (rp+1 − ρp+1 )
βn (rn − ρn )
> ··· >
>
≥
> ··· >
.
∗
b1
bp
µ(x )
bp+1
bn
(4.3)
b
i
このとき、 βi µ(x∗ ) −
≤ 0 (i = p + 1, · · · , n) となる. 次のように表せる平衡点が安
ri − ρi
定であることを示すためのリアプノフ汎関数を構成する:
(x∗ , v1∗ , z1∗ , · · · , vp∗ , zp∗ , 0, 0, · · · , 0, 0),
(4.4)
ただし、 x∗ , vi∗ , zi∗ (for 1 ≤ i ≤ p) は正である.
4.2 (4.1) から 遅れのないモデル (4.5) へ
まず、(4.1) から導かれた、遅れのないモデル (4.5) についてのリアプノフ汎関数を考える:
n
∑
dx
= λ − δx −
βi µ(x)vi ,
dt
i=1
dvi
= ri βi µ(x)vi − ρi βi µ(x)vi − bi vi −pi vi zi ,
dt
dzi
= vi qi (zi ) − mi zi ,
(i = 1, 2, . . . , n).
dt
UiM (x, vi , zi ) for i = 0, 1, . . . , n および U M (x) を以下のように定義する :
∫ x
µ(ξ) − µ(x∗ )
M
U0 (x) =
dξ,
µ(ξ)
x∗

∫ zi
pi
τ − zi∗
1

∗

(vi − vi log vi ) +
dτ
(1 ≤ i ≤ p),

ri − ρi
r − ρi zi∗ qi (τ )
∫ zi i
UiM (x, vi , zi ) =
1
pi
τ



vi +
dτ
(p + 1 ≤ i ≤ n).
ri − ρi
ri − ρi 0 qi (τ )
n
∑
M
M
U (x) = U0 (x) +
UiM (x, vi , zi ), x = (x, v1 , z1 , . . . , vn , zn ).
(4.5)
(4.6)
i=1
U M の時間微分を SiM for i = 0, 1, . . . , n を用いて表す.
(
)
µ(x∗ ) (
x)
M
∗
S0 = δx 1 −
1− ∗ ,
µ(x)
x

)
(
)(
)
(
∗
µ(x)
pi vi∗
zi∗
si (zi )
µ(x )

∗ ∗

−
+
z
1
−
1
−
, (1 ≤ i ≤ p),
β
µ(x
)v
2
−
 i
i
i
µ(x)
µ(x∗ )
ri − ρi
zi
si (zi∗ )
M
(
)
Si =
bi
pi mi


vi −
si (zi )zi ,
(p + 1 ≤ i ≤ n).
 βi µ(x∗ ) −
ri − ρi
ri − ρi
(4.7)
ここで、 SiM for i = 0, 1, . . . , n は非正となる. このとき、(4.5) に沿った U M (x) の時間微分は
次のようになる.
n
∑
d M
M
U (x) = S0 +
SiM .
dt
i=1
7
(4.8)
これは非正であり、U M (x) は、複数株が生き残る平衡点 (x∗ , v1∗ , z1∗ , . . . , vp∗ , zp∗ , 0, . . . , 0) につい
てのリアプノフ汎関数である (p > 1 のとき).
4.3 (4.5) から 遅れのあるモデル (4.1) へ
(4.5) に遅れを付加したモデル (4.1) について考える. そのリアプノフ汎関数を構成するため
に、積分で定義された汎関数を付け加える. UiMd (x, vi , zi ) for i = 0, 1, . . . , n および U Md (x) を
以下のように定義する:
U0Md (x) = U0M (x),

ri
 UiM (x, vi , zi ) +
βi W1∞ ((µ(x)vi )t ; µ(x∗ )vi∗ )
r
−
ρ
Md
i
i
Ui (x, vi , zi ) =
 UiM (x, vi , zi ) + ri βi W0∞ ((µ(x)vi )t )
ri − ρi
n
∑
U Md (x) = U0Md (x) +
UiMd (x, vi , zi ).
(1 ≤ i ≤ p),
(p + 1 ≤ i ≤ n).
(4.9)
i=1
このとき、U Md の時間微分を、 次の SiMd
(i = 0, 1, . . . , n) を用いて表す.
S0Md = S0M ,

(
∫ ∞
µ(x)
µ(x(t − τ ))v1 (t − τ )
ri

∗ ∗
M

β1 µ(x )v1
g(τ )
−
S +


∗
 i
ri − ρi
µ(x )
µ(x∗ )v1 )
0
Md
µ(x(t
−
τ
))v
Si =
1 (t − τ )
+ log
dτ
(1 ≤ i ≤ p),



µ(x)v1

 M
Si
(p + 1 ≤ i ≤ n),
(4.10)
したがって、
n
∑
d Md
Md
U (x) = S0 +
SiMd ,
dt
i=1
(4.11)
ここで、 S0M , SiM は 非正である. このとき、 SiMd for 1 ≤ i ≤ p は次のようになる:
SiMd =
ただし、
PiMd
(
)(
)
ρi
µ(x∗ )
µ(x)
∗ ∗
−
βi µ(x )vi 1 −
1−
+ PiMd ,
ri − ρi
µ(x)
µ(x∗ )
(
µ(x∗ ) µ(x(t − τ ))vi (t − τ )
g(τ ) 2 −
−
µ(x)
µ(x∗ )vi
0
)
µ(x(t − τ ))vi (t − τ )
+ log
dτ
µ(x)vi
(
)(
)
zi∗
si (zi )
pi vi∗
zi 1 −
1−
+
(1 ≤ i ≤ p),
ri − ρi
zi
si (zi∗ )
ri
=
βi µ(x∗ )vi∗
ri − ρi
∫
(4.12)
∞
(4.13)
は非正である. (1.8) により、
SiMd ≤ −
ρi βi µ(x∗ )vi∗ M
S0 + PiMd
ri − ρi
δx∗
(4.1) に沿った U Md (x) の時間微分は、
(
)
p
p
n
∑
∑
∑
d Md
ρi βi µ(x∗ )vi∗
M
Md
U (x) ≤ 1 −
S0 +
Pi +
SiM .
∗
dt
r
−
ρ
δx
i
i
i=1
i=1
i=p+1
8
(4.14)
(4.15)
したがって、条件 1 −
p
∑
i=1
ρi
βi µ(x∗ )vi∗
·
≥ 0 のもとで、この時間微分は非正となり、
ri − ρi
δx∗
U Md (x) は、 (4.1) の平衡点 (x∗ , v1∗ , z1∗ , . . . , vp∗ , zp∗ , 0, . . . , 0) に対するリアプノフ汎関数となる.
吸収効果と免疫変数のあるモデルでは、p > 1 のとき, 複数株が生き残り, 競争排除の原理が成り
立たない .
5 まとめ
遅れのないモデルのリアプノフ関数から、遅れのあるモデルのリアプノフ汎関数を構成する手
法 [7] をさらに進展させて、 遅れのある単一株モデルのリアプノフ汎関数から、遅れのある複数
株モデルのリアプノフ汎関数を構成する手法を導いた. 計算はやや複雑であるが、より簡潔な表
現にすることができた. また、齢構造モデルに、遅れのある微分方程式を関連付け適用すること
が考えられる.
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