建設後に変状を生じたトンネルにおける施工時の計測

51.建設後に変状を生じたトンネルにおける施工時の計測データに関する考察
Study on the measurement data during tunnel construction of the deformed tunnel after construction
○岡﨑健治・大日向昭彦・伊東佳彦(土木研究所寒地土木研究所),丹羽廣海・村山秀幸(フジタ技術センター)
Kenji Okazaki, Akihiko Obinata, Yoshihiko Ito,Hiroumi Niwa, Hideyuki Murayama
1.はじめに
端沈下量より大きい傾向にある.また,TD0~200 と
TD2,500~2,800 で 20~30mm を示すが,概ね 10mm 以
近年,トンネルの建設後に盤ぶくれや側壁の押出し
されて
下である.変状区間(変状前)の値は,区間②で 40mm
おり,車両通行への障害,補修対策コストの観点から
を超過する断面はあるが,その前後の値と比べて大き
大きな課題となっている.
な違いはみられない.切羽評価点は,変状区間の前後
等の時間遅れで生じる変状の発生事例が報告
1)
の値と比べで大きな違いはみられない 5).
本報告では,熱水変質を受けた安山岩質の地山から
なる北海道の国道トンネルにおいて,支保の完成後に
以上のことから,本トンネルの地質では,掘削変位
変状が生じた2つの区間を対象に,その施工時の計測
量と切羽評価点によって,施工時に時間依存性を有す
データである切羽観察記録,掘削変位量,先進ボーリ
る変状の発生を評価は難しく,新たに評価するための
ング調査 2 ) および岩石の吸水膨張試験 3 ) の結果をも
指標について検討が必要といえる.
次に,切羽での湧水量は,デイサイトと安山岩の境
とに時間依存性を有する変状との関係を分析した結果
界部周辺の TD1,800~2,300 において,1,500(L/min)
について述べる.
以上の湧水を示し,TD1,800 付近で低下した.また,
2.調査概要
同箇所周辺では,施工時の先進ボーリング調査におい
対象としたトンネルの主な地質は,自破砕部を含む
ても 1,500(L/min)以上の湧水が確認されている 6 ).
デイサイト,安山岩溶岩および火砕岩からなる.本ト
この箇所は変状区間②の近くである.また,デイサイ
ンネルでは,貫通直後に,貫通点近くの土被り厚の大
トと安山岩溶岩の境界付近である.湧水は,掘削に伴
きい2つの区間((図-1 の黒枠)で盤ぶくれが発生し,
う地下水の低下によって減少したと考えられる.
縫返し掘削が行われた 4 ).
3.2
変状が発生した区間の地山は,ともに熱水変質作用
を受けた自破砕部を含むデイサイトであり,多量のス
変状区間の岩石の膨張と粘土鉱物
表-1 に岩石の吸水による最大膨張応力,測定日数,
メクタイトが確認されている.変状は,掘削に伴う周
膨張率およびスメクタイト含有量を示す.
辺のゆるみと粘土鉱物の膨張圧が複合的に作用したこ
試験の結果,岩石の状態に関わらず,膨張すること
とが原因と推測されている 4).
がわかる.岩石の状態別に最大膨張応力と最大膨張応
そこで本報告では,はじめに,トンネル施工時の切
力に至る日数を平均値で比べると,軟質と硬質では大
羽観察記録,掘削変位量,湧水量を整理し,変状が生
きな差はみられない.日当たりの応力を平均で比べる
じた区間における施工時の値を再度見直すことで,施
と,軟質で大きく,硬質で小さい.次に,一定応力に
工時に着目すべき点の抽出を試みた.
至るまでの日数は,硬質で大きく,軟質で小さいこと
がわかる.また,膨張率は,スメクタイト含有量の多
次に,変状が発生した区間で採取したハンマーで割
い軟質な岩石で高い傾向にある.
れる比較的硬質な岩石と,先進ボーリングの掘削から
1 週間後に劣化が進行してハンマーでボロボロに砕け
以上のことから,変状を生じる区間においては,比
る軟質となった岩石を試料採取し,吸水膨張試験によ
較的硬質な岩石であっても,時間の経過に応じて劣化
る吸水膨張率を求めた.ここで,岩石の一軸圧縮強度
や膨張が進行することを確認することができた.ただ
は,軟質で 1,000KN/㎡程度,硬質で 1,000~30,000KN/
し,スメクタイト含有量は,現状の膨張性判定の指標
㎡である.また,最大膨張応力および最大膨張応力に
に示される値 6 ) である 20wt%を超えるが,非変状区
至るまでの測定日数の関係を分析し,時間依存性を有
間における岩石においても 20wt%を超える値を確認
する劣化や膨張現象のメカニズムを分析した.
していることから,素因としてのスメクタイト含有量
の他の誘因が関与することで,変状の発生に至ること
3.調査結果
3.1
が推測される.
施工時の計測データの分析
4.おわりに
図-1 にトンネルの地質断面図,掘削変位量,切羽
評価点および切羽で確認した湧水量を示す.
本調査の結果,時間遅れを有するトンネルの変状に
まず掘削変位量は,トンネル全体の内空変位量が天
関わる地山岩石の劣化や膨張の現象解明に向けた試験
101
貫通点
標⾼(m)
地質断⾯図
450
400
350
⾃破砕溶岩
⼀部堆積岩
300
250
200
掘削変位量(mm)
60
デイサイト
0
500
+天端沈下量
40
安⼭岩
変状区間① ②
1,000
1,500
2,000
2,500
○内空変位量
20
0
80
0
500
1,000
1,500
2,000
2,500
TD(m)
0
500
1,000
1,500
2,000
2,500
TD(m)
0
500
1,000
1,500
2,000
2,500
TD(m)
切⽻評価点
60
40
20
湧⽔量(l/min)
0
2500
2000
1500
1000
500
0
図-1
表-1
岩石の状態
軟質
膨張応力
(KN/㎡)
トンネルの地質断面図と施工時の計測データ
変状区間の岩石の試験結果
測定日数 応力/日数
日数/応力
×100
膨張率
(%)
スメクタイト
含有量
(wt/%)
1
25
28
21
8
7
31
-
10.4
10.6
31
37
32
294
464
176
14
40
44
16
-
3
115
50
3
3
3
5
-
98
4
4
5
13
15
3
-
軟質(平均値)
150
26
20
17
10.5
33
硬質
205
239
259
531
4
5
194
12
6
3
-
26
135
30
70
3
3
30
5
5
3
-
8
2
9
8
1
2
6
2
1
1
-
13
56
12
13
75
60
15
42
83
100
-
6.4
18.3
3.6
0.6
23
31
16
13
146
31
4
47
7.2
21
硬質(平均値)
TD(m)
時間の経過に応じて劣化や膨張が進行することを確認
することができ,先進ボーリングコアの観察時に留意
が必要であることがわかった.
本調査の実施にあたり,資料提供ならびに現地調査
にご協力いただいた国土交通省北海道開発局の関係各
位に,ここに記して深謝致します.なお,本調査研究
は,国土交通省建設技術研究開発助成制度における「変
状を伴う老朽化トンネルの地質評価・診断技術の開発」
の補助金で実施した.
文献
1)例えば,土木学会(2013):山岳トンネルのインバ
ート,トンネルライブラリー第 25 号.
2)国土交通省北海道開発局(2014):道路設計要領.
3)地盤工学会(JSG2121):岩石の吸水膨張試験.
4)佐々木隆・宇治川徳夫・石黒聡(2013):熱水変質
軟弱層による施工中の盤膨れを縫返し工で克服,ト
ンネルと地下,Vol.44,No.11,pp.7-15.
を行い,本トンネルのような地質では,掘削変位量と
5)伊東佳彦・岡﨑健治・大日向昭彦・村山秀幸・丹羽
切羽評価点によって,施工時に時間遅れを有する変状
廣海(2014):先進ボーリングコア情報によるトン
の発生を評価は難しく,新たに評価するための指標に
ネルの時間遅れ変状機構に関する考察,(社)日本
ついての検討が必要であることがわかった.また,
応用地質学会平成 26 年度研究発表会(投稿中).
変状を生じる区間では,比較的硬質な岩石であっても,
102
6)土木学会(2006):トンネル標準示方書.