環境条件の変遷を考慮した凍害予測に関する基礎的研究 論文 遠藤 裕丈 *1, 島多 昭典 *2, 浩二 *3 川村 Fundamental Study on Frost Damage Prediction Considering Change of Environmental Conditions Hirotake ENDOH *1, Akinori SHIMATA*2 and Kohji KAWAMURA*3 要旨:寒冷地の道路コンクリート構造物では,凍結融解と凍結防止剤の複合作用に起因す る凍害の進行が懸念される.構造物の耐久性設計・維持管理を効率的に行うためには,適 切な凍害予測技術が必要となる.一方,凍結防止剤の散布量はスパイクタイヤの使用が規 制された 1991 年以降増加しており,予測に際してはこのような環境条件の変遷も留意する 必要がある.本研究では,環境条件の変遷を考慮した凍害予測技術に関する基礎的な検討 を行った.その結果,既往の凍害予測式に組み込まれている時間の変数を環境条件の変遷 に応じて変化させる等により実用的な予測が可能となる知見を得ることができた. キーワード:コンクリート,凍結融解,凍結防止剤,凍害,予測 1.はじめに ような環境条件の変遷に十分留意する必要があ コンクリート構造物の機能増進・長寿命化を る.しかし,一般にコンクリートの凍結融解抵 合理的に図るための耐久性設計法の充実・整備 抗性の評価においては,凍結融解試験の途中で が課題となっている.とりわけ,寒冷地の道路 試験水の種類を変更する作業は行わず,基本的 コンクリート構造物は凍結融解と凍結防止剤の には同じ種類の試験水を継続的に使用すること 複合作用を受けやすい環境に曝されており,凍 になっており 害や鉄筋腐食の進行が懸念される.厳しい財政 害予測技術に関する知見は少ないのが現状であ 事情の下で構造物を安心して長く使い続けるに る.そこで,本研究では環境の変化に見立てた は,構造物の合理的な耐久性設計ならびに効率 室内実験を行い,環境条件の変遷を考慮した凍 的な維持管理を実践する必要があり,適切な設 害予測技術について基礎的な検討を行った.さ 計および維持管理計画の立案に資する凍害予測 らに実構造物において,室内実験で得た知見の 技術の確立が急務となっている.一方で凍結防 現場への適用性についても検証した. 2) ,環境条件の変遷を考慮した凍 止剤の散布量は,スパイクタイヤの使用が規制 された 1991 年以降,増加し続けた 1).すなわち, 2.室内実験による基礎的な検討 これよりも前に建設された構造物の環境条件は 2.1 実験概要 1991 年を境に大きく変化していることになり, (1) コンクリートの配合・材料 実務において凍害予測を適切に行うには,この 表-1 にコンクリートの配合を示す.水セメン *1 独立行政法人土木研究所 寒地土木研究所 耐寒材料チーム 研究員 *2 独立行政法人土木研究所 寒地土木研究所 耐寒材料チーム 上席研究員 *3 独立行政法人土木研究所 寒地土木研究所 寒地技術推進室 研究員 表-1 0 コンクリートの配合 100 200 サイクル 3 記号 N55 B55 単位量(kg/m ) セメ W/C ント (%) W C S G 普通 55 146 265 871 1067 高炉 55 147 267 865 1061 W/C:水セメント比,W:水, C:セメント,S:細骨材,G:粗骨材 C 塩水 ※ W1C 淡水 塩水 試験面(打設面) 5mm 100mm ※ コンクリート 図-2 400mm 図-1 淡水 塩水 ※ スパイクタイヤ規制(凍結防止 剤の本格的な散布)開始時期に 見立てる 100mm 枠 5mm 10mm W2C 凍結融解試験で供試体に与える環境条件 100mm (3) 供試体 凍結融解試験 本研究では部材の表面から水分が供給される ト比は 55%とし,セメントは普通ポルトランド 実構造物の状態を模擬した形で評価を行うこと セメントと高炉セメント B 種を使用した.目標 とし,ASTM C 672 に準じた凍結融解試験を行 スランプは 8±2.5cm,目標空気量は 4.5±1.5% うこととした.供試体の試験面に試験水を深さ に設定し,練混ぜにおいては AE 減水剤(リグ 6mm 張って-18℃で 16 時間,23℃で 8 時間の 1 ニンスルホ ン酸化合物 およびポリ オール複合 日 1 サイクルの凍結融解作用を与えた.ここで 体)と AE 助剤(変性ロジン酸化合物系陰イオ は劣化を促進させる理由から,試験面は比較的 ン界面活性剤)を使用した.細骨材は苫小牧錦 脆弱となりやすい打設面とした. 3 岡 産 の 海 砂 ( 表 乾 密 度 2.67g/cm , 絶 乾 密 度 3 凍結融解試験で供試体に与える環境条件を図 2.65g/cm ,吸水率 0.87%,粗粒率 2.85,除塩処 -2 に示す.本研究では 3 種類の条件(C,W1C, 理済み),粗骨材は小樽見晴産の砕石(表乾密度 W2C)を準備した.C は,スパイクタイヤ使用 3 3 2.67g/cm ,絶乾密度 2.62g/cm ,吸水率 1.78%, 規制後に建設された構造物を想定したもので, 粗粒率 6.74)を使用した.粗骨材の最大寸法は 試験水は凍結防止剤に見立てた濃度 3%の塩化 25mm とした.各配合にはセメントの種類と水 ナトリウム水溶液(以下,塩水と記す)を継続 セメント比を組み合わせた記号を付した. 的に使用した.W1C は,スパイクタイヤの使用 (2) が規制される前に建設された構造物を想定した 供試体 図-1 に供試体を示す.供試体は 100×100× もので,試験水はスパイクタイヤ使用規制時期 400mm の角柱とし,材齢 7 日まで湿った麻布で に見立てた 100 サイクル以前は淡水,100 サイ 覆った後,材齢 28 日まで温度 20℃,湿度 60% クル以降は塩水を使用した.W2C は建造時期が の恒温恒湿室に静置した.また,静置期間中に 古く,供用開始からスパイクタイヤの使用が規 発泡スチロールを使用して高さ 10mm,幅 5mm 制されるまでの期間が比較的長い構造物を想定 の枠を作製し,材齢 21 日にエポキシ樹脂とシリ したものである.ここでは,スパイクタイヤの コーンを用いて作製した枠を供試体の表面(100 使用規制開始に見立てた時期を W1C の倍の 200 ×400mm,以下,試験面と記す)に据え付けた. サイクルに設定し,試験水は,200 サイクル以 れの条件も塩水による凍結融解は 300 サイクル 与えることとし,C は 300 サイクル,W1C は 400 サイクル,W2C は 500 サイクルとした. SC=ae cyc A 計算 値 REd=100e ccyc 100 計算 凍結融解サイクル 凍結融解試験では平均欠損深さ,スケーリン グ量,相対動弾性係数の測定を行った.平均欠 b log 相対動弾性係数(%) 供試体に与える凍結融解のサイクル数は,いず スケーリング量(g/cm2) 前は淡水,200 サイクル以降は塩水を使用した. 図-3 d 値 凍結融解サイクル 既往の研究における凍害予測の概念 4),5) 損深さはスケーリング発生箇所における欠損深 ング量は試験面から剥離片を採取し,110℃で乾 燥させた後,剥離片の質量を測定して求めた. 相対動弾性係数は超音波測定器を使用して求め た . 供 試 体 を 挟 む 形 で 供 試 体 の 側 面 ( 100 × 400mm)に超音波の発・受振子をあてて深さ 10, SC=a2 e スケーリング量(g/cm2) さを 5 点測定し,その平均をとった.スケーリ SC=a1e 2 REd= E dn 100 Ed 0 b1 log B A 値 計算 B 凍結融解サイクル 淡水使用 塩水使用 スパイク非規制期間 スパイク規制期間 供用開始 a1e (cyc≧B) cyc A 0 図-4 E dn=4.0387Vn -14.438Vn+20.708 cyc B A (0≦cyc<B) 20,…,90mm の超音波伝播速度を測定し,式 (1)3),(2)より各深さの相対動弾性係数を求めた. b1 log b2 log スパイクタイヤ使用規制開始 (1) 実験結果の整理・考察に先立って既往の 知見をもとに検討した環境の変遷を考慮 したスケーリング予測の考え方 (2) 的簡易なモデルとしてスケーリングは式(3)4), 相対動弾性係数は式(4) 5)が示されている(図-3 に概念を示す). ここに,Edn は凍結融解作用を n サイクル与え た時の動弾性係数(GPa),Vn は n サイクルの超 音波伝播速度(km/s),REd は n サイクルの相対動 弾性係数(%),Ed0 は凍結融解を受けていないコ ンクリートの動弾性係数(GPa)である.一般に, SC=ae b log cyc A REd=100e ccyc (3) d (4) Ed0 は凍結融解試験前(0 サイクル)の測定値が あてられるが,ここでは動弾性係数の変化に及 ここに,SC はスケーリング量(g/cm2),cyc は ぼす水和の影響を極力排除したい理由から,試 凍結融解サイクル,A はサイクルを無次元化さ 験水を張って同じ期間,常温下に曝した供試体 せるための係数(一般に凍結融解期間の 1/2), の動弾性係数を Ed0 とすることとした. a,b,c,d は条件によって定まる係数である. 各項目の測定値はいずれも供試体 3 個の平均 Stark ら 6)は,塩水による凍結融解試験を行っ とした. た場合,淡水の場合と比較すると表面で大きな (4) スケーリングが進行する一方,特記すべき内部 凍害予測の考え方 コンクリートの凍害予測式は土木学会コンク 劣化は生じない知見を述べている.竹田ら 7) の リート標準示方書に未だ示されていないが,幾 研究でも,凍結融解作用を与えた際の質量減少 つかのモデルが提案されている. 率は塩水を使用した方が多いのに対し,相対動 例えば,同じ種類の試験水を継続的に使用し て凍結融解試験を行った既往の研究では,比較 弾性係数の低下速度は塩水と淡水で顕著な差が さほど見受けられない実験結果が示されている. スケーリング量(g/cm2) 0.5 0.4 スケーリング量(g/cm2) B55-C 0.4 0.3 0.3 実測値 計算値 0.2 0.2 0.1 0.1 0 0 0 100 200 300 0 100 200 300 0.5 0.5 N55-W1C 0.4 B55-W1C 0.4 淡水から 塩水へ 変更 0.3 0.3 淡水から 塩水へ 変更 スケーリング予測式の係数 記号 a1 b1 a2 b2 N55-C - - 0.05 0.43 N55-W1C 0.03 1.24 0.05 2.25 N55-W2C 0.01 0.86 0.03 1.00 B55-C - - 0.37 2.11 B55-W1C 0.05 1.86 0.31 1.99 B55-W2C 0.04 1.27 0.41 2.79 予測式は式(5),(6), A は 150(全条件),B は 条件 C が 0,条件 W1C が 100,条件 W2C が 200 0.2 メントの種類で比較すると,いずれの環境条件 0.1 0.1 も高炉セメント B 種を使用した方がスケーリン 0 0 0.2 0 スケーリング量(g/cm2) 表-2 0.5 N55-C 100 200 300 400 0.5 グ量は多くなっており,既往の知見 0 100 200 300 400 0.5 N55-W2C 0.4 0.4 0.3 0.3 淡水から 塩水へ 変更 0.2 淡水から 塩水へ 変更 から塩水に変更したところ,いずれもスケーリ ングの発生速度が増加に転じ,スケーリング量 が大きくなる実験結果が得られた.このことは, スケーリングの予測に際しては環境条件の変遷 0 0 100 200 300 400 500 0 凍結融解サイクル 図-5 ている.環境条件 W1C,W2C においては,100 サイクルもしくは 200 サイクルに試験水を淡水 0.1 0 と対応し B55-W2C 0.2 0.1 4) 100 200 300 400 500 凍結融解サイクル スケーリング量の測定結果 を考慮する必要があることを示唆している.こ れらの実験結果を図-4 で示した考え方に基づ いて解析した結果を図-5(計算値)および表-2 以上をふまえて,本研究では図-4 に示すよう に,スケーリングについては式(3)の概念を基本 としつつ,スパイクタイヤ使用規制前と以降, それぞれにおいて式(3)に含まれる係数を使い に示す.A については,最小試験期間である条 件 C の 300 サイクルの平均をとって 150 とした. 計算値は実測値と非常に良く対応しており,前 述の凍害予測の考え方の適合性が確認された. 図-6 は相対動弾性係数の測定結果である.こ 分けた式(5),(6)による予測を試みる. こでは代表して,深さ 10mm 位置の測定結果を SC=a1e SC=a2 e b1 log cyc A b2 log cyc B A 示す.今回の実験では,いずれの供試体におい (0≦cyc<B) a1e b1 log B A (5) (cyc≧B) (6) ても試験期間全体を通じて 90%以上の高い値を 示した.AE 減水剤の使用によってコンクリー ト内部に導入されたエントレインドエアが凍結 膨張圧の緩和に効果的に作用したことが影響し ここに,a1,b1,a2,b2 は係数,B はスパイク ていると考えられる.W1C は 100 サイクル, タイヤ使用規制開始に見立てた,試験水を淡水 W2C は 200 サイクルに試験水を淡水から塩水に から塩水に切り替える時のサイクルである. 変更しているが,図-5 とは対照的に相対動弾性 一方,相対動弾性係数はスパイクタイヤ使用 係数の低下速度が大きく変化する様子は確認さ 規制前と以降で式(4)に含まれる係数を使い分 れなかった.さらに,深さ 10mm の相対動弾性 けることは行わず,式(4)のみで予測を試みる. 係数は,表面欠損が深さ 10mm 近くまで進行し 2.2 ても値が急速に低下する兆候は見受けられず, 実験結果・考察 図-5 にスケーリング量の測定結果を示す.セ 塩水による凍害の促進は実質的にコンクリート 実測値 100 200 300 100 200 110 0 100 90 平均欠損深さ 80 10mm到達サイクル 70 60 0 100 200 300 実測値 計算値 100 200 凍結融解サイクル 相対動弾性 係数(%) 平均欠損 深さ(mm) N55-W1C 300 300 400 100 200 110 0 100 90 80 淡水から 塩水へ変更 70 60 0 100 200 400 平均欠損 深さ(mm) 相対動弾性 係数(%) 図-6 300 400 300 100% 300 400 B55-W2C 100 200 300 コンクリートが 消失したため、 これ以降、データなし 式(4) 0% 供用後の経過時間 室内実験の結果から得られた環境条件 の変遷を考慮した凍害予測の概念 表-4 110 0 100 90 80 淡水から 塩水へ変更 70 60 0 100 200 300 400 500 100 200 300 400 500 凍結融解サイクル 凍結融解サイクル 400 500 橋名 建造年(西暦) 経過年数 散布量(kg/m) 調査対象の道路橋 Ⅰ 1968 45 1118 Ⅱ 1996 17 650 Ⅲ 1982 31 698 Ⅳ 1967 46 336 散布量: 供用開始から現在までに道路橋に散 布された橋長 1m あたりの凍結防止 剤の散布量で,この表では,凍結防 止剤に含まれている塩化物イオンの 質量を表示している. の変遷を考慮した凍害予測の概念を整理すると, 淡水から 塩水へ変更 平均欠損深さおよび深さ 10mm 位置に おける相対動弾性係数の測定結果 表-3 供用後の経過時間 400 凍結融解サイクル 500 式(6) スパイクタイヤ 使用規制開始 12 10 8 6 4 2 0 200 式(5) 0 図-7 N55-W2C 100 欠損深さ10mm B55-W1C 凍結融解サイクル 110 0 100 90 80 70 60 0 300 12 10 8 6 4 2 0 100 200 110 0 100 90 80 淡水から 塩水へ変更 70 60 0 100 200 凍結防止剤 本格散布 300 凍結融解サイクル 12 10 8 6 4 2 0 12 10 8 6 4 2 0 スケーリング B55-C 12 10 8 6 4 2 0 例:建設当初の 表面から深さ 10mm位置の値 110 0 100 90 80 70 60 0 N55-C 相対動弾性係数 平均欠損 深さ(mm) 12 10 8 6 4 2 0 相対動弾性 係数(%) 平均欠損深さ10mm値 図-7 のようになる.なお,今回の実験では相対 動弾性係数の低下が 90%程度にとどまったが, 今後は相対動弾性係数が低下しやすい供試体を 準備してデータを蓄積し,本概念の信頼性向上 に向けての検討を進めていく必要がある. 相対動弾性係数予測式の係数 記号 c d N55-C 0.0002 1.07 N55-W1C 0.001 0.50 N55-W2C 0.004 0.37 B55-C 0.0002 1.03 B55-W1C 0.000007 1.54 B55-W2C 0.000003 1.65 予測式は式(4),値は深さ 10mm 位置のもの 3.実構造物での適用性の検証 3.1 調査概要 次に,凍害を受けた道路橋を対象に,図-7 で 示した概念の現場への適用性について検証した. 調査は,札幌近郊の山間部に位置する同一路 線に架かる 4 橋を対象に行った.表-4 に道路橋 表面で限定的に生じやすいとする Stark ら 6) の の諸元を示す.Ⅰ,Ⅲ,Ⅳ橋はスパイクタイヤ 知見と良く対応する結果となった.式(3)に基づ 使用規制前(1991 年以前),Ⅱ橋は使用規制後 いて求めた相対動弾性係数の計算値と実測値と (1991 年以降)に建設された道路橋で冬期間は の対応を同じく図-6 に,また,解析により求め 凍結防止剤の散布が行われている.アメダス た式(3)の係数を表-3 に示す.計算値は実測値と によると,調査地区における 2013 年 11 月~2014 非常に良く対応する結果が示された. 年 3 月の日最低気温の最低値は-28.1℃である. これらの室内実験の結果をもとに,環境条件 8) また,最低温度がコンクリートの凍結温度とさ 深さ方向に位置を変えて 伝播速度を測定し,各深さ の相対動弾性係数を算出 写真-1 剥離深さ測定 写真-2 剥離面積測定 れる-2℃ 9)以下で,最高温度が-2℃よりも高い日 写真-3 表-5 を凍結融解 日と定義し て,調査地 区における 2013 年度(2013 年 11 月~2014 年 3 月)の凍結 融解日の日数を調べたところ,81 日であった. 調査対象は道路橋下部の橋台とし,スケーリ ングの程度と相対動弾性係数について調べた. 相対動弾性係数 測定用コア採取 写真-4 相対動弾性 係数測定 2013 年 8 月時点における各橋の剥離度 および深さ 10mm の相対動弾性係数 相対動 橋名 剥離度(mm) 弾性係数(%) Ⅰ 10.3 91 Ⅱ 4.8 63 Ⅲ 5.4 78 Ⅳ 1.1 85 スケーリングについては,前述の室内実験では 剥離片の質量から求めたスケーリング量で評価 発・受振子 をあてて建 設当初の表 面から深さ を行ったが,実構造物でスケーリング量を把握 10mm,20mm…,の超音波伝播速度を測定し, することは極めて困難である.このため,スケ 前述した式(1),式(2)より各深さの相対動弾性係 ーリングの程度については,式(7)で定義される 数を求めた.なお,式(2)の Ed0 は,コア内部(深 剥離度 10) で表現することとした. さ 0~60mm 位置および 350mm 位置)で得た超 音波伝播速度の全ての測定値の中で最も大きい Dm D As D S 50 50 (7) 値から求めた. 3.2 調査結果・考察 表-5 に 2013 年 8 月に調べた各橋の剥離度お ここに,Dm は剥離度(mm),D は平均剥離深 よび相対動弾性係数を示す.相対動弾性係数に さ(mm)(測定状況を写真-1 に示す),As はコ ついては代表して深さ 10mm 位置の値を示す. ンクリート面に据え付けた写真-2 に示す 50× 剥離度が最も大きかった橋はⅠ橋で,剥離度は 50cm の枠内に占めるスケーリング面積の割合, 10.3mm であった.なお,Ⅰ橋は剥離度が 10mm S は枠内におけるスケーリング発生箇所の面積 を上回ってはいるが,深さ 10mm 位置にもコン 2 (cm )である.スケーリングが全面的に発生 クリートが部分的に残存しており,写真-4 に示 している場合は,平均剥離深さが剥離度となる. す方法による測定が可能であったため,相対動 剥離度の測定は,外見上,スケーリングの程 弾性係数の測定を行っている.一方,相対動弾 度が最も大きい箇所を対象に行った.平均剥離 性係数が最も小さかった橋はⅡ橋の 63%で,剥 深さは,枠内で剥離深さを 10 点測定し,その平 離度は大きかったⅠ橋は 91%と最も高く,スケ 均をとった. ーリングの程度とコンクリート内部の凍害(ひ 相対動弾性係数は,写真-3 に示すコアボーリ び割れ)の程度は必ずしも対応するとは限らな ングマシーンを用いてコアを採取し,写真-4 に いことが確認された.ここで表-5 をもとに前述 示すようにコアを挟む形でコア側面に超音波の の室内実験で整理した概念(図-7)による計算 Ⅰ橋 スパイク 非規制 Ⅱ橋 Ⅲ橋 スパイク規制 スパイク規制 Ⅳ橋 ※全期間スパイク非規制と 仮定して計算 剥離度(mm) スパイク規制 スパイク 非規制 深さ10mmの 相対動弾性係数(%) 実測値 計算値 深さ10mm消失 以降、計算値はなし 深さ10mm消失 以降、計算値はなし 深さ10mm消失 以降、計算値はなし 供用年数 図-8 供用年数 供用年数 供用年数 実測値をもとに解析した道路橋橋台の剥離度および深さ 10mm の相対動弾性係数の計算結果 を試みた.ここでは図-4 の SC を剥離度 Dm,時 表-6 間の変数である cyc を供用年数 t に読み換えて, Ⅰ橋 Ⅱ橋 Ⅲ橋 Ⅳ橋 A (年) 8 8 8 8 B (年) 23 0 9 - a1 0.35 - 0.35 0.35 b1 1.50 - 1.50 1.50 a2 3.80 2.47 2.12 - b2 2.11 2.00 1.96 - c 0.0009 0.004 0.003 0.002 d 1.21 1.72 1.32 1.21 式は式(8)~(10),c,d は深さ 10mm 位置の値 式(8),(9),(10)により評価を行った.あわせて A,B も単位を年数に置き換えた.A は建造年が 若いⅡ橋の供用年数の中間をとって 8 年とした. Dm=a1e b1 log Dm=a 2 e t A b2 log (0≦t<B) tB A a1e b1 log B A (t≧B) (8) 式の係数(Ⅳ橋はスパイク非規制と仮定) (9) らないため,ここでは実測値に加え,便宜的に REd=100e c t d (ただし欠損に至る迄) (10) t→0 年における極限値(Dm→0mm,REd→100%) も計算に充てることとした. なお,1991 年以前に建設された道路橋の剥離 図-8,表-6 に実測値をもとに求めた道路橋橋 度の予測に際してはスパイクタイヤ使用規制前 台の剥離度および深さ 10mm の相対動弾性係数 (非散布期間)におけるスケーリングの進行に の計算結果を示す.ここでは 1 回の実測値しか 関する情報が必要となるが,本調査では把握で なく,将来的にはデータの蓄積を図り,計算結 きていない.そのため,本調査においては,い 果の精度の検証を継続する必要はあるものの, ずれの橋も同一路線・エリア内に架かっており, 取得したデータの範囲ではあるがⅠ,Ⅱ,Ⅲ橋 各橋とも凍結融解の程度に大きな差はないとみ では供用開始から 100 年経過後の剥離度は 20~ なし,剥離度が 1mm 程度で凍害に及ぼす凍結 30mm に達すること,Ⅰ,Ⅲ橋の深さ 10mm は 防止剤を含む融雪水の影響が比較的小さかった 相対動弾性係数が 60%よりも高い値で推移する と考えられるⅣ橋をスパイク非規制の橋と仮定 ものの,40~50 年経過後にその状態のままで欠 し,計算に充てることとした.なお,式には係 落・消失に至ることが読み取れる,環境の変遷 数が 2 つ以上あり,1 回の実測値では式が定ま を考慮した凍害の進行曲線を描くことができた. いただきました.ここに記して謝意を表します. 4.まとめ 本研究ではスパイクタイヤ使用規制前に建設 された道路橋のように,1991 年を境に凍結防止 参考文献 剤の散布量が大きく変動する条件下のコンクリ 1) 社団法人日本コンクリート工学協会:コン ート構造物の凍害予測を適切に行うための技術 クリートの凍結融解抵抗性の評価方法に関 の提案に向け,環境の変化に見立てた室内実験 する研究委員会報告書,pp.21-22,2008.8 を行い,環境条件の変遷を考慮した凍害予測技 2) 例えば)2010 年制定コンクリート標準示方 術について基礎的な検討を行った.さらに実構 書【規準編】JIS 規格集,pp.506-510,土木 造物にて,室内実験で得た知見の現場への適用 学会,2010.11 性についても検証した.今回の実験・調査の範 3) 緒方英彦,野中資博,藤原貴央,高田龍一, 囲で得た知見をまとめると以下のようになる. 服部九二雄:超音波法によるコンクリート (1) スケーリングの予測は,既往の凍害予測式 製水路の凍害診断,コンクリートの凍結融 に組み込まれている時間の変数を環境条件 解抵抗性の評価方法に関するシンポジウム の変遷に応じて変化させる必要がある 論文集,pp.63-70,2006.12 (2) 今回の条件下では,相対動弾性係数は基本 4) 独立行政法人寒地土木研究所:凍結融解と 的に時間を区分せず,同一の式で予測が可 塩化物による複合劣化に対するコンクリー 能である結果が示された. トの耐久性設計法および表面含浸材を活用 (3) 提案した予測技術の妥当性を室内実験で確 認するとともに,データ数は少ないが,実 した耐久性向上に関する研究,寒地土木研 究所報告,第 133 号,p.141,2011.3 構造物での適用も可能であることを示した. 5) 野口博章:凍結融解作用を受けるコンクリ ートの劣化予測に関する基礎的研究,法政 5.今後の課題 大学博士学位論文,p.32,2007.9 実構造物での塩害や中性化の調査では,1 回 6) Stark, J. and Wicht, B.(訳者:太田利隆,佐 の実測値を用いて Fick の拡散方程式やルート t 伯昇) :Dauerhaftigkeit Von Beton,p.202,セ 式による評価(予測)が行われることもある. メント協会,1999. 凍害についても同様のプロセスで表面のスケー 7) 竹田宣典,十河茂幸:凍害と塩害の複合劣 リング,内部の凍害ひび割れの経時変化を把握 化作用がコンクリートの耐久性に及ぼす影 できれば,凍結融解による塩化物イオンの拡散 響,コンクリート工学年次論文集,Vol.23, 係数の経時変化を定量的に把握することも可能 No.2,pp.427-432,2001. となり 11) ,寒冷環境下のコンクリート構造物に おける実態に即した合理的な耐久性設計,維持 管理を迅速に実践することができる.今後は本 8) 気象庁:2013.11~2014.3 アメダスデータ 9) 日本コンクリート工学協会:コンクリート 技術の要点’99,p.155,1999. 研究で示した知見の信頼性をさらに高めるため, 10) 北海道開発局港湾部港湾建設課,寒地港湾 データの蓄積を図るとともに,耐久性の設計体 技術センター:海洋環境下におけるコンク 系の構築に向け,構造物の立地環境に応じた式 リートの耐久性向上技術検討業務報告書, の各係数の決定方法について整理していきたい. 資 1-10,2000.3 11) 遠藤裕丈,田口史雄,田畑浩太郎:寒冷環 謝辞 調査に際し,北海道開発局札幌開発建設部と 小樽開発建設部から調査フィールドを提供して 境下におけるコンクリートの塩化物イオン 浸透予測技術に関する研究,寒地土木研究 所月報,No.727,pp.2-14,2013.12
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