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平成 27 年 3 月 16 日
キーワード:発
キ
達障害・自閉
閉スペクトラム症・知覚過敏
敏/知覚鈍麻
麻・知覚体験シ
シミュレータ・福
福祉用具・支
支援機器
自閉
閉スペク
クトラム
ム症の知覚世界
知
界の理解
解へ
— ヘッドマ
マウントデ
ディスプレ
レイ型知覚
覚体験シミュレー タを開発
発 —
本研究成
成果のポイン
ント
●知覚過敏
敏や知覚鈍麻といった自閉ス
スペクトラム症
症注1)の特異な
な知覚世界が体
体験できる、ヘ
ヘッドマウントデ
ディスプレイ型知
覚体験シ
シミュレータを開
開発
●特異な知
知覚症状が環境
境からの視覚
覚・聴覚信号に
によって生み出
出される過程を
を、世界で初め
めて計算論的
的に解析・モデル
化
●自閉スペ
ペクトラム症の方
方が抱える社会
会性の問題と
と特異な知覚の
の関係を明らか
かにすることで
で、真に有益な
な支援法の提案
案
に期待
概要
大阪大学大
大学院工学研究
究科の長井志
志江特任准教授
授(常勤)、秦
秦世博博士前期
期課程 2 年、 浅田稔教授、東京大学先端
端
科学技術研究
科
究センターの熊谷晋一郎特任
任講師、綾屋 紗月特任研究
究員の研究グループは、自 閉スペクトラム
ム症者の特異な
知覚世界を体
知
できる、ヘッドマ
マウントディスプ
プレイ型知覚体
体験シミュレー
ータを開発しま
ました。知覚過
過敏や知覚鈍麻
麻
験することので
として知られる視
と
視覚のコントラ
ラスト強調や不
不鮮明化、グレ
レースケール化
化、ノイズ発生
生といった症状
状が、環境から
らのどのような視
視
聴覚信号によっ
聴
って引き起こさ
されているのか
か、その過程を
を世界で初めて
て計算論的に
に解析・モデル
ル化しました。
本研究の成 果を応用する
ることで、自閉スペクトラム症
症者の特異な
な知覚が彼らの
の社会性の問題
な影響を与えて
題にどのような
いるのかを理解
い
解し、自閉スペ
ペクトラム症者に
にとって真に有
有益な支援法
法を提案することが期待され
れます。
研究の背
背景と成果
自閉スペクトトラム症は、従
従来、社会的能
能力の問題と考
考えられてきま
ましたが、近年
年の認知心理学
学研究や当事
事者研究注2)によ
に
り、その原因が
が社会性以前の
の感覚・運動レ
レベルにあるこ
こ
とが指摘されて
と
ています。一般
般に、人間の脳
脳では感覚器
器
から入力された
か
た信号を時空間的に統合す
することで環境
境
認識や行動決
認
決定を行います
すが、その統合
合能力が定型
型
発達
発 注3)者と異なることにより、高次の認知
知機能である社
社
題が生じたり、
会的能力に問
会
、知覚過敏や知覚鈍麻など
ど
の特異な知覚症
の
症状が現れる
るというものです
す。
当研究グル ープでは、自 閉スペクトラム
ム症者の特異
異
な知覚と社会性
な
性の問題にど
どのような関係
係があるのかを
を
探るため、まず
探
ず、特異な知覚
覚が環境からの
のどのような視
視
聴覚信号によっ
聴
って生み出され
れるのかを解明しました。特
特
異な知覚という
異
う主観的な経
経験を客観的か
かつ定量的に
に
評価するため、
評
、画像・音声処
処理技術を用
用いてさまざま
ま
な知覚過敏・知
な
知覚鈍麻のパ
パターンを画像
像フィルタとして
て
図 1:環境からの視聴覚信号とそれ
れにより引き起こ
こされる自閉
用意し、自閉ス
用
スペクトラム症
症者が日常生活
活の経験に基
基
スペク
クトラム症者の知
知覚過敏や知覚
覚鈍麻の症状
づいて、自己の
づ
の知覚世界を構
構成的に評価
価・報告できる
るシステムを開
開発しました。こ
これは、自己の
の経験を内省
省することが苦手
手
な自閉スペクト
な
トラム症者にと
とって、彼らの経
経験を具現化
化し、客観的に
に評価すること
とを可能にする
る強力なシステ
テムとなります
す。
当研究グループ
当
プは、成人の自閉スペクトラ
ラム症者を対象
象に本システ
テムを用いて実
実験を行い、知
知覚過敏や知覚鈍麻として知
知
られる視覚のコ
ら
コントラスト強調
調や不鮮明化、グレースケー
ール化、ノイズ
ズ発生といった症状が、画像
像の輝度やエッ
ッジ量(複雑さ
さを
表す量)、動き
表
、音の強さと、
、これらの時間
間変化という、 環境からの低
低次の視聴覚信
信号と相関を
を持つことを明ら
らかにしました
た。
これは、社会性
こ
性の問題と考え
えられている自
自閉スペクトラム
ム症の症状が
が、社会性以前
前の低次の感
感覚・運動情報
報に起因してい
いる
という仮説を支
と
支持する一つの
の可能性を示し
しています。
さらに、当研
研究グループで
では、上記の実
実験結果をもと
とに自閉スペク
クトラム症者の
の知覚世界をリ
リアルタイムで
で体験することの
できる、ヘッドマ
で
マウントディスプ
プレイ型知覚体
体験シミュレー
ータを開発しま
ました。環境か
からの視聴覚信
信号をもとに、それと相関を
をも
つことが明らか
つ
となった知覚過
過敏・知覚鈍
鈍麻の症状をヘ
ヘッドマウントデ
ディスプレイ上に
に再現すること
とで、自閉スペ
ペクトラム症者が
自己の症状を客
自
客観的に認識
識できるだけで
ではなく、定型発
発達者がその
の知覚世界を体
体験し、自閉ス
スペクトラム症
症者の非定型な
知覚が引き起こ
知
こす社会性の
の困難さを、主観
観的に評価す
することのできる
るシステムを実
実現しました。 これにより、自
自閉スペクトラム
症に対するさら
症
らなる理解が可
可能となります。
図 2:ヘッド
ドマウントディスプ
プレイ型知覚体
体験シミュレータ (左図)と環境か
からの視聴覚信
信号に基づく知覚
覚過敏・知覚鈍
鈍麻の症状生
成システム
ム(右図)
本研究成
成果が社会
会に与える影
影響(本研究
究成果の意義
義)
自閉スペクトトラム症と診断
断される幼児の
の数は、2009 年には 110 人に
人 1 人の割合にものぼり、 その急激な増
増加が問題視
視さ
れています。さ
れ
らに、自閉スペ
ペクトラム症の
の遺伝的・環境
境的要因や、脳
脳機能不全に
には未知の部分
分や多様性が
があり、個人の症
症
状に合った適切
状
切な治療法や
や支援法が確立されていな
ないのが現状で
です。これに対
対して本研究の
の成果は、感覚
覚・運動情報の
統合能力の非
統
定型性が社会
会性の問題にどのような影響
響を与えるのか
か、また、それ
れらがどのような
な神経科学的
的メカニズムに
によ
って引き起こさ
っ
れているのか
かという課題の解
解明に役立つ
つことが期待で
できます。
また、知覚シ
シミュレータを通
通して定型発
発達者が自閉ス
スペクトラム症
症者の抱える困
困難さを共有す
することで、自
自閉スペクトラム
症者の視点に立
症
立った真に有
有益な支援技術
術とその設計原
原理を提案し、彼らを取り巻
巻く社会構造の
の設計の見直
直しにも貢献す
する
ことが期待され
こ
れます。
特記事項
項
本研究は、文
文部科学省科
科学研究費補助
助金新学術領
領域研究「構成
成論的発達科
科学ー胎児から
らの発達原理
理の解明に基づ
づく
発達障害のシス
発
ステム的理解
解ー」の支援により行われまし
した。
本研究の成果の一部は、2014 年 10 月に開催され
れた国際会議で
で発表されまし
した。
oru Asada, “ Autism Simulator Employinng
□ Shibo Qin, Yukie Nagai, Shinichiro Kumagayaa, Satsuki Ayaya, and Mino
mented Reality
y: A Prototype
e,” in Procee dings of the 4th
4 IEEE Interrnational Confference on De
evelopment and
Augm
Learning and on Eppigenetic Rob
botics, pp. 12 3-124, Octo
ober 2014.
用語解説
説
注1)
注 自閉スペ
ペクトラム症(ま
または、自閉症
症スペクトラム障
障害)
かつて自閉症
症やアスペルガー症候群、特定不能の広
広汎性発達障
障害などと呼ば
ばれてきた、自 閉症の特性を
を示す一群の発
発
達障害を、連続
達
続体の一要素
素として捉えたも
もの。診断基準
準としては、対
対人関係の形成
成が難しい「社
社会性の障害」
」、ことばの発達
達
に遅れがある「
に
言語コミュニケ
ケーションの障
障害」、想像力
力や柔軟性が乏
乏しく変化を嫌
嫌う「想像力の 障害」の三つが
が挙げられる。
。
注2)
注 当事者研
研究
自閉スペクトトラム症を抱え
えた当事者が、
、自己の経験
験を主体的に内
内省し、分析す
することで、日常
常生活でのさ
さまざまな困難
難と
その要因を理解
そ
解し、より良い自助の方法を
を探る研究分野
野。
注3)
注 定型発達
達
自閉スペクトトラム症などの
の発達障害に当
当てはまらない
いこと。非定型
型な発達の対義
義語。