JTTA2010 in Asahikawa 平成 23 年度日本遠隔医療学会学術大会 研究論文 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― COPD Ⅳ期の在宅酸素療法患者を対象としたテレナーシング実践: トリガーポイントによる在宅モニタリングデータの検討 Telenursing practice with COPD stageⅣpatients using Home Oxygen Therapy: Analysis of triggered home-monitoring data 1 1 1 2 3 4 5 亀井智子 )、山本由子 )、梶井文子 )、中山優季 )、亀井延明 )、穴田幸雄 )、辻洋介 )、相羽大輔 かめい ともこ 1)、やまもと ゆうこ 1)、かじい ふみこ 1)、なかやま ゆき 2)、かめい のぶあき 3)、 あなだ ゆきお 4)、つじ ようすけ 5)、あいば だいすけ 6) 1 1 1) 2 6) 3 Tomoko Kamei ), Yuko Yamamoto ),Fumiko Kajii , Yuki Nakayama ), Nobuaki Kamei ), Yukio Anada4), Yousuke Tsuji5), and Daisuke Aiba6) 1) 聖路加看護大学、2)東京都医学研究機構、3)明星大学理工学部、4)㈱コンダクト、 5) ㈱星医療酸器 RST プロジェクト、6)㈱ドリームガレージ 1) St. Luke’s College of Nursing, 2)Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science, 3) School of Science and Engineering,Meisei University, 4)CONDACT Corporation., 5) HOSHI IRYOU SANKI Co.,Ltd., RST Project, 6)Dream Garage Inc. ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 要旨 COPD Ⅳ期の HOT 患者 20 名を対象に、日々の在宅モニタリングに基づくテレナーシング実践を行い、収集した 2,341 日 のモニタリングデータについて、標準トリガー該当の有無による特性、および因子構造を示した。 その結果、トリガー該当日のバイタルデータは、酸素飽和度、最低血圧、ピークフロー、修正版 Borg Scale は非該当日よ りも低値を示し、体温と最高血圧はトリガー該当の有無による差は認めなかった。また、睡眠、痰の喀出、食欲、歩行、排 便、尿量、浮腫、身体の痛み等身体状態は、トリガー該当日に不良の割合が高かった。在宅モニタリングデータの因子数は 3 因子(累積寄与率 61.9%)で、第Ⅰ因子「不快症状」第Ⅱ因子「呼吸・歩行困難感」、第Ⅲ因子「総合自己体調評価(VAS)」 であった。 以上から、トリガー該当日は各バイタルデータ、および身体状態は平常時よりも低下(悪化)しているため、変化の兆候に 留意して看護保健指導に生かす必要があるが、体温、最高血圧は他の兆候と併せて注意深く判断する必要があること、また 在宅モニタリングデータは 3 因子構造を示し、各対象者がどの因子に変化を生じているか把握することで、関連症状の観察 に生かすことができることが示唆された。 キーワード:テレナーシング、在宅モニタリング、在宅酸素療法(HOT)、慢性閉塞性肺疾患(COPD) これら COPD Ⅳ期にある HOT 患者を対象として、安定 した療養を継続するため、亀井 4)は在宅モニタリングにも とづくテレナーシングシステム(:生き息き HOT 和み、特願 2007-182020、および血圧他データ自動取り込み装置、特 願 2008-287590)を開発し、一日1回酸素飽和度等のバイタ ルデータの計測と、心身に関する質問項目への回答を併せ たモニタリングデータを、HOT 患者宅のネット端末から看 護モニターセンターに送信し、それをテレナースがトリア ージして、予め主治医と取り決めた看護プロトコルに従っ て、必要な看護保健指導を行うテレナーシングシステム実 践を行っている。 テレナーシングの効果に関するランダム化比較試験の結 果から、テレナーシングを受けた群の急性増悪の発症率は テレナーシングを受けない群よりも 32.9%減少したことを 5) 報告し 、COPD Ⅳ期の最重症ステージにある HOT 患者 への急性増悪予防効果を示している。 はじめに 慢 性 閉 塞 性 肺 疾 患 (Chronic obstructive pulmonary 1) disease:COPD)患者は 530 万人 といわれ、病期の進行に 伴い、慢性呼吸不全状態となった場合、在宅酸素療法(Home Oxygen therapy:HOT)への導入が検討される。 2) わが国の HOT 患者数は 15.9 万人 といわれ、HOT 患者 の主疾患は 43%が COPD と報告されている 3)。 これら HOT 患者の療養経過中には、疾患の進行、および気道感染等に 3) よる呼吸不全急性増悪を発症する場合が多く 、これらを 早期に発見して看護対応することによって、適切な医療に つなげることは在宅療養を継続する上で重要である。しか し、HOT 実施者の平均年齢は 71.1 歳と高齢者が多く 3)、月 1回の定期受診とその間の自己健康観察による従来の療養 3) 方法では、1 年間の再入院率は 33% に上っている。 1 JTTA2010 in Asahikawa 平成 23 年度日本遠隔医療学会学術大会 本研究では、本テレナーシングシステムでモニタリング を行っている COPD Ⅳ期の HOT 患者の日々のバイタルデ ータ等に注目し、テレナーシングを実施する上で用いてい るトリガーポイントへの該当日と非該当日別のデータの分 析を行い、トリガー該当日の在宅モニタリングデータの特 性、および在宅モニタリングデータの因子構造を示すこと を目的とした。 る因子構造の分析は因子分析(最尤法)により分析した。 統計ソフトは PASW Statistic 17 を用い、有意水準 5%と した。 4.倫理的配慮 本研究は、所属大学、および協力医療機関の研究倫理審 査委員会の承認を得て実施した。対象者には研究目的、端 末操作の方法、個人情報保護、送信データの SSL(Secure Socket Layer)暗号化、サーバへのアクセス制限等について 口頭と文書で説明し、任意で同意を得た。 看護モニターセンターではデータ閲覧、一般電話・テレ ビ電話中は他者の入室を禁止した。ネット端末は急変時の 通報機器ではないことを十分説明した。対応内容は主治医 に報告し、主治医には対象者データの閲覧権限を与え、連 携をはかりながら行った。 方法 1.対象 研究対象者は、2009 年 6 月から 2011 年 3 月に研究協力 の同意を得た都内、都下、および川崎市内から便宜的に抽 出した 6 医療機関(病院 3 機関、診療所 3 機関)と 1 訪問看 護ステーション、計 7 機関に登録中の COPD HOT 実施者 とした。対象選定基準は①24 時間 HOT を実施している、 ②終末期でない、③認知機能、および端末等の自己操作に 支障がない、を全て満たした者とした。 リクルート方法は、基準に合致した対象候補者に対し、 主治医または所長から、研究概要パンフレットを配布し、 研究協力の意思をもつ者は、研究協力申込用紙を FAX 等で 返送する方法とした。 結果 1.対象者の特性 対象 者 20 名の性 別は全て男性であった。 平均年齢 76.0(SD7.0)歳、平均 HOT 実施期間 1318.9(SD972.2)日で あった。呼吸機能 1 秒率(FEV1.0%)の平均は 39.2(SD 13.3)% で、COPD 病期分類は全員Ⅳ期(最重症)に該当した(表 1)。 急性増悪による再入院によりテレナーシングを中断した 対象者は 4 名(20%)であった。 2.研究方法 1)テレナーシング実践の方法 研究者は主治医に対し、テレナーシング開始前にトリガ ー項目、トリガーポイント、およびテレナーシング看護プ ロトコルについて患者毎に取り決めを行い、トリガー該当 時の対応・連絡方法等について個別患者毎に指示書を交わ した。 対象者には、家庭訪問によりネット端末を設置し、取り 扱方法を説明し、操作の理解を確認した。 2)在宅モニタリングの方法とトリガーポイント、テレナ ーシングプロトコルについて 患者宅に設置したネット端末を用い、酸素飽和度、血圧、 脈拍などのバイタルデータ、および睡眠、痰の喀出、食欲、 歩行、排便、尿量、浮腫、身体の痛み等の心身の各モニタ リング項目について、絵柄で示した回答選択肢の中から患 者自身がその日の心身状態に該当する項目を選択し、タッ チパネルで回答し、無線通信による送信を一日 1 回午前中 に行う方法とした。これらの選択肢はある一定以上の回答 を報告した場合、トリガーポイントが設定してあり、アラ ートが表示される。例えば、酸素飽和度では、 「90%以下」 をトリガーポイントと設定し、テレナーシングプロトコル では「直ちに病状確認、酸素吸入確認、看護指導、結果の 医師連絡」としている。 日々の受信データはテレナースが直ちに確認し、トリガ ーポイント該当の有無、トリガーポイントに該当した場合 はプロトコルに従った看護保健対応を一般電話・テレビ電 話により行い、看護記録、医師報告を行った。 尚、トリガーポイントは医師と相談の上、標準設定に基 づき、患者個別に設定の変更を可能とした。 3)テレナーシングの実践期間 テレナーシング期間は 3 か月間とし、希望者にはそれ以 降も延長した。尚、介護保険制度による訪問看護、訪問介 護等の利用はテレナーシング開始以前と同様とした。 4)調査項目 診療記録、および主治医から、主副傷病名、治療経過、 急性増悪状況、HOT 期間、酸素・薬物処方、入院歴、診療 日数等を収集した。テレナーシング実施中に受信した日々 の在宅モニタリングデータを用いた。 表1 対象者のテレナーシング開始時の特性 性 別 平均年齢 N=20 男性 20 名(100%) 76.0(SD7.0) 歳 平均 HOT 実施期間 1318.9 日 COPD 病期分類 Ⅳ度 20 名(100%) 2.在宅モニタリングデータの分析結果 対象者一人当たりのテレナーシング期間は 27 日~396 日 の範囲に分布し、平均 117.1 日であった。全対象者の合計 テレナーシング期間は計 2,341 日であった。 日々の在宅モニタリングデータの平均値は酸素飽和度 95.5%、脈拍 79.3 回/min、血圧 122.7/72.9 mmHg、体温 36.2 度、ピークフロー(測定者 7 名)197.5 L/min、修正版 Borg Scale 2.5、その日の総合自己体調評価(Visual Analogue Scale) 7.2 であった(表 2)。 表2 在宅モニタリングデータの概要 モニタリング項目 N=20,データ 2,341 範囲 平均値 酸素飽和度(SpO2) % 76~100 脈拍 回/min 49~138 95.5 79.3 最低血圧 mmHg 0~187 72.9 最高血圧 mmHg 体温 度 ピークフロー L/min(N=7,データ 726) 修正版 Borg Scale(0~10) 総合自己体調評価(VAS:0~10) 0~224 122.7 35.0~39.0 36.2 11~450 197.5 0~9 2.5 0~10 7.2 3.トリガーデータ観察時の在宅モニタリングデータの比較 受信したデータを標準トリガーポイントに 1 項目でも該 当した日を「トリガー該当日」、全くトリガーポイントに 該当しなかった日を「トリガー非該当日」とした。トリガ 2 ー該当の有無により t-test,あるいは χ -test により各モニタ リングデータに差が認められるかを検討した(表 3~表 5)。 3.分析方法 日々のモニタリングデータは記述統計、トリガー該当日 と非該当日のデータの比較は t- test、χ2-test、症状に関す 2 JTTA2010 in Asahikawa 平成 23 年度日本遠隔医療学会学術大会 表4 睡眠 痰喀出 食欲 歩行/移動困難 排便 尿量 浮腫 在宅モニタリングデータ(選択回答項目)のトリガー該当日と非該当日の比較 大変良好 やや良好 普通 やや不良 大変不良 χ2 p-value トリガー該当日 266(35.1) 329(43.5) 104(13.7) 50(6.6) 8(1.1) 33.6 <0.001** トリガー非該当日 515(32.9) 816(52.1) 186(11.9) 45(2.9) 4(0.3) トリガー該当日 232(30.6) 352(46.5) 9(1.2) 161(21.3) 3(0.4) 295.6 <0.001** トリガー非該当日 203(13.0) 1074(68.6) 25(1.6) 102(6.5) 162(10.3) 108.8 <0.001** 43.5 <0.001** 76.8 <0.001** 195.9 <0.001** 136.3 <0.001** 378.8 <0.001** 通常と同じ やや不良 不良 大変不良 トリガー該当日 427(56.4) 188(24.8) 134(17.7) 8(1.1) トリガー非該当日 1147(73.2) 325(20.8) 92(5.9) 2(0.1) トリガー該当日 236(31.2) 388(51.3) 126(16.8) 7(0.9) トリガー非該当日 651(41.6) 744(47.5) 171(10.9) - トリガー該当日 307(40.6) 409(54.0) 34(4.5) 7(0.9) トリガー非該当日 508(32.4) 1048(66.9) 7(0.4) 3(0.2) トリガー該当日 575(76.0) 173(22.9) 9(1.2) - トリガー非該当日 1491(95.2) 75(4.8) - - あり なし 76(10.0) 681(90.0) トリガー該当日 トリガー非該当日 部位 痛み 手 1559(99.6) 7(0.4) 61(8.1) 腰 3(0.4) 下腿 101(13.3) トリガー該当日 351(46.4) 406(53.6) トリガー非該当日 319(20.4) 1247(79.6) 数値,( )=% **;p<0.01 トリガー該当日と非該当日でデータに有意差が認められ たモニタリング項目は、酸素飽和度、脈拍数、最低血圧、 ピークフロー、修正版 Borg Scale で、酸素飽和度、最低血 圧、ピークフローはトリガー該当日の値が低く、脈拍、修 正版 Borg Scale はトリガー該当日の値が高かった。一方、 最高血圧、体温は両群で差が認められなかった(表 3)。 表5 疼痛部位 表3 在宅モニタリングデータ(バイタルデータ)のトリガー該当日と 非該当日の比較 N=20 トリガー トリガー モニタリング項目 t p-value 該当日 非該当日 N=715 N=1,559 酸素飽和度 95.8 96.8 9.3 <0.001** (SpO2) % 脈拍数 回/min 81.9 80.5 2.3 0.02* 最低血圧 mmHg 71.1 74.6 5.5 最高血圧 mmHg 124.0 123.8 0.3 0.80 36.4 36.3 0.6 0.58 ピークフローL/min 161.6 248.3 27.1 <0.001** 修正版 Borg Scale 3.0 2.3 8.1 <0.001** 体 温 /min 度 疼痛部位、その他の症状の回答数 <0.001** 頭部 咽頭 胸部 腹部 腰部 その他の症状 喘鳴 咳 動悸 倦怠感 悪寒 頭重感 気分の落ち込み 回答数 (割合) 20( 2.6) 4( 0.5) 34( 4.5) 31( 4.1) 283(37.4) 回答数 (割合) 84(11.1) 58( 7.7) 92(12.2) 189(25.0) 72( 9.5) 79(10.4) 22( 2.9) 4. COPD HOT 患者の在宅モニタリングデータの因子構造 全在宅モニタリングデータを用いて、因子分析(因子抽出 法:最尤法・プロマックス回転)を行い、因子構造の明確化を 行った。 因子の決定は、スクリープロット上固有値が大きく落ち 込む因子数(3)とし、固有値 1 以上、共通性 0.16 以上、累 積寄与率 50%以上、因子負荷量 0.4 以上のモニタリング項 目を採用した。 分析の結果、10 項目 3 因子が示された。第Ⅰ因子「不快 症状」第Ⅱ因子「呼吸・歩行困難感」、第Ⅲ因子「総合自 己体調評価(VAS)」と命名した。3 因子による累積寄与率は 61.9%、因子間相関は因子ⅠとⅡ=-0.08、因子ⅡとⅢ=-0.34、 因子ⅠとⅢ=0.42 であった(表 6)。 *;p<0.05, **;p<0.01 モニタリングデータのうち、選択回答項目である睡眠、 痰喀出、食欲、歩行、排便、尿量、浮腫、身体の痛みにつ いては、全ての項目でトリガー該当日と非該当日の回答割 合に有意差が認められ、トリガー該当日に各項目とも「不 良・やや不良」と選択するものが多かった(表 4)。 疼痛部位は腰部がもっとも多く、その他の症状では、倦 怠感、動悸、喘鳴、頭重感の順で出現頻度が高かった(表 5)。 3 JTTA2010 in Asahikawa 平成 23 年度日本遠隔医療学会学術大会 表6 在宅モニタリングデータの因子分析結果 (最尤法プロマックス回転後の因子パターン) 因子 Ⅰ 不快症状 頭重感 寒気 浮腫(下腿) 動悸 体の痛み 冷汗 歩行/移動困難 食欲 修正版 Borg Scale 総合自己体調評価(VAS) 因子間相関 .996 .886 .807 .535 -.523 .428 -.065 .045 .165 .158 ⅠⅡ-0.08 特に、因子Ⅱ「呼吸・歩行困難感」と因子Ⅲ「総合自己 体調評価(VAS)」は負の相関、因子Ⅰ「不快症状」と因子Ⅲ 「総合自己体調評価(VAS)」は正の相関が認められるため、 両因子間の相関が高かった「総合自己体調評価」(0~10 に よる Visual Analogu Scale)は対象者本人が主観的に自覚して いる体調を的確に客観化できる不可欠なモニタリングデー タとすることなど、さらに有用性を検討する必要があると 考える。 今後は個別のトリガー項目に着目して、モニタリングデ ータの変化を分析する必要がある。 Ⅲ Ⅱ 総合自己体 呼吸・歩行 調評価 困難感 (VAS) .006 .017 .009 .054 .010 .015 1.003 .540 .445 -.191 ⅡⅢ-0.34 -.089 -.058 .039 .264 -.405 .063 .102 まとめ COPD Ⅳ期の HOT 患者 20 名を対象に、日々の在宅モニ タリングにもとづくテレナーシング実践を行い、収集した 2,341 日の在宅モニタリングデータを標準トリガー該当の 有無により分析し、トリガー該当日の特徴を示した。また、 因子分析により、COPD HOT 患者の在宅モニタリングデー タの因子構造を示した。 その結果、トリガー該当日のバイタルデータでは、酸素 飽和度、脈拍、最低血圧、ピークフロー、修正版 Borg Scale は非該当日よりも値が低く、体温と最高血圧についてはト リガー該当の有無による計測値に差は認められなかった。 また、睡眠、痰の喀出、食欲、歩行、排便、尿量、浮腫、 身体の痛み等の心身状態の選択回答項目は、トリガー該当 日の方に不良の割合が高かった。 収集した在宅モニタリングデータの因子構造は、第Ⅰ因 子「不快症状」第Ⅱ因子「呼吸・歩行困難感」、第Ⅲ因子 「総合自己体調評価(VAS)」で、3 因子による累積寄与率は 61.9%であった。 トリガー該当日では、各バイタルデータ、および心身状 態の選択回答項目は平常時よりも低下、または悪化してい るため、早期兆候に留意してモニタリングする必要性があ るが、体温、最高血圧はトリガー該当の有無による差が認 められないため、他の兆候や経過と併せて毎日注意深く観 察・判断する必要性があること、また、COPD HOT 患者の 在宅モニタリングデータのどの因子に変化が出現している のかを把握することで、関連する症状の観察に生かすこと ができることが示唆された。 -.162 -.360 .753 ⅠⅢ0.42 考察 本対象者となった COPD HOT 患者の平均年齢は、先行 報告の対象者 3)よりも約 5 歳高く、呼吸機能検査による 1 秒率をみても、著しい閉塞性障害が確認され、最重症に分 類される対象者であった。 テレナーシングの実施期間は最低 27 日から最高 396 日の 範囲で、平均 117 日であった。急性増悪による再入院は 4 名(20%)で、先行報告の再入院割合よりも少なかった 3)。 これらの対象の特性、およびテレナーシングへの参加状 況から、最重症 COPD 高齢患者であってもネット端末から のバイタルデータと心身データの入力・送信操作は十分可 能であり、これは端末操作を平易に行え、スケール化した 絵柄の中から、該当項目を容易に選択できるように意図し て作成したため、それが対象者に適したものとなっていた と考えられた。 在宅モニタリングデータの最高血圧と体温以外の項目で は、トリガー該当の有無により、値に有意な差が認められ、 トリガー該当日は総じてモニタリングデータが低下してお り、心身の変化を捉えることができた。しかし、これらの データは「正常」「異常」などに区分される値ではなく、 脈拍値や最低血圧値、体温値などは両群ともに正常範囲内 であった。 酸素飽和度については、トリガー該当日平均 95.8%、ト リガー非該当日 96.8%と、トリガー該当日の方が低酸素状 態を示していると考えられたが、対象者によって、平常時 の値が異なるため、この値のみでその対象者の正常・異常 を判断することは困難である。そのため、前日までの経過 と当日のデータを総合的に判断して、看護保健指導を行う 必要があると考えられる。 在宅 HOT 患者について把握した症状は、喘鳴、咳がひど い、動悸、倦怠感、悪感、頭重感、気分の落ち込みなど幅 広く、これは呼吸不全患者に出現する症状が、心身両面に わたることを示しているためと捉えられる。気分の落ち込 みなどは低酸素や呼吸困難感の強さとの関連が指摘されて いるため、単独の症状として判断するのではなく、Borg Scale Score や歩行の困難(動きたくない)など、他のモニタリ ングデータと併せて、心理的状態の判断を行うことが必要 であると考えられる。 その点において、在宅モニタリングデータの因子分析結 果を生かすことができ、因子負荷量の高かった 10 項目 3 因 子を主要モニタリング項目とすることにより、症状やデー タ相互の関連をみる視点となると考えられる。 引用文献 1)日本呼吸器学会 COPD ガイドライン第 2 版作成委員会. COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドラ イン,第 2 版.東京:日本呼吸器学会,2004. 2)ガスレビュー. 在宅酸素療法患者数の推移; ガスレビュ ーNo.702: 36, 2010. 3)日本呼吸器学会在宅呼吸ケア白書作成委員会編.在宅呼吸 ケア白書 2010, 第 1 版.東京:文光堂,2010. 4)亀井智子.在宅酸素療法実施者の療養管理遠隔看護支援シ ステムの開発;聖路加看護大学紀要第 29 号: 2003, 1-11. 5)亀井智子、山本由子、梶井文子、et al. COPD 在宅酸素療 法実施者への在宅モニタリングに基づくテレナーシング 実践の急性増悪および再入院予防効果-ランダム化比較 試験による看護技術評価;日本看護科学学会誌第 31 巻 2 号: 2011, 24-33. 謝辞 本研究は、文部科学省科学研究費補助金平成 22~24 年 度基盤研究(B)課題番号 22390446 により実施した一部で ある。本研究にご協力いただいた医療機関、訪問看護ステ ーションの皆様、HOT 患者の皆様に謝意を表します。 4 JTTA2010 in Asahikawa 平成 23 年度日本遠隔医療学会学術大会 5
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