放射線グラフト重合体を利用した 金属資源回収とバイオ燃料製造 (独)日本原子力研究開発機構 原子力科学研究部門 量子ビーム応用研究センター 環境機能高分子材料研究グループ 植木悠二 放射線グラフト重合による高分子加工 放射線照射 (電子線, g線) 高分子基材 薬品と混ぜる (グラフト重合) 新たな 機能 目的に応じた化学修飾が可能 ラジカル (反応活性種) ○ 吸着・脱臭機能 ○ 触媒機能 ○ 親水・疎水(撥水)性機能 グラフト重合体 放射線グラフト重合の特長 触媒が不要 高い透過力 幅広い使用条件 (有害残存物質が無い) (大量処理が可能) (常温・常圧・低温処理) 既存の高分子基材を任意に選択可能 ○ 繊維(糸), ○ フィルム, ○ 粒子 高分子基材の物理的特性・形状を 保持した状態で目的の機能化が可能 100 mm 不織布: 水に対して接触効率が高い 繊維状基材の特性を利用する 繊維素材の場合 金属イオン 処理水 吸着速度 < 供給速度 対流 拡散 対流 拡散 細孔 カラム出口の金属濃度 粒子状吸着剤 粒子細孔内部には対流がなく、 吸着基との接触には濃度勾配を 駆動力として拡散移動 吸着速度 > 供給速度 金属イオン 対流 容量大 試料液の流量 破過曲線による捕集性能の評価 繊維状吸着材 グラフト鎖に付与された吸着基への 接触は対流のみで輸送が可能 (グラフト鎖間も同様) 繊維状グラフト吸着材の特徴 3 0 分 間 の 処 理 量 を 比 較 10 μg/Lのナトリウム水溶液の濃度を0.01 μg/L未満に 放射線グラフト重合で 作製したフィルター 処 理 液 充填体積: 1 mL 約2 L 市販樹脂 充填体積: 1 mL 約1 mL 2000倍高速に水をきれいにできる ○ 設備の省スペース化 ○ システム構築が容易(操作性良好) 温泉からのレアメタルの回収 レアメタル 溶存する金属 存在量が稀であるか、抽出困難な金属 であり、今後も工業需要があるもの ・鉄(Fe) 7 mg/L ・スカンジウム(Sc) ハイテク産業で不可欠 0.017 mg/L (17μg/L) ハイブリッドカーや電気自動車のモーター 携帯電話やノートPCの電池、液晶パネル 草津町を流れる温泉排水 (湯川) pH 1.8、湯量70,000トン/日 スカンジウム(Sc) 需要拡大による 価格の高騰 産出国による 輸出制限 供給が不安定 自国生産による安定供給は可能か? ・ 需要急増: 燃料電池用電解質 ・ 供給不足: ウラン鉱の副産物 需要 > 供給 温泉排水のScを捕集 国内需要を賄う事が可能 スカンジウム吸着材の製造方法とその性能 ・ Scの吸着 リン酸基が有効 O O P OH リン酸モノマー(HMPA※) CH2 CCH 3 リン酸基 COO(CH2)2 O O ビニル基 P COO(CH2)2 O OH グラフト重合 CH2 CCH 3 OH Sc吸着材 O O O P OH ポリエチレン製 不織布 ※ HMPA: メタクリル酸2-ヒドロキシエチルリン酸 スカンジウムの吸着量 [mg-Sc/kg-吸着材] 2000 源泉 ・ 鉱石の15倍の濃度 1500 吸着材中濃度 源泉 温泉排水 = 40,000倍 , 15,000倍 温泉水中濃度 高品位の鉱石 ・100 mg-Sc/kg 温泉排水 ・ 鉱石の2倍の濃度 1000 500 0 温泉水中のスカンジウムの濃縮率 0 5 10 15 浸漬時間 [h] 20 ※初期スカンジウム濃度 源泉: 0.04 mg/L, 温泉排水: 0.017 mg/L 25 温泉排水からのスカンジウムの回収 温泉排水 温泉排水を吸着材へ通液(吸着) 吸着材からのSc脱着(溶離) 50-70cm 溶離液中のScを精製 汲み 上げ 155mm Sc粗結晶 (Sc: 2.5%) 実用化するための課題 ・ 高容量 ・ 高純度 高濃度でFeが共存する温泉排水からScを効率的に吸着 高選択性スカンジウム吸着材が不可欠 高選択性スカンジウム吸着材の開発 Sc吸着特性評価 2-エチルヘキシルホスホン酸モノ-2-エチルヘキシル (EHEP) ホスホン酸基 CH3CH2CH2CH2CHCH2 CH3CH2CH2CH2CHCH2 O O P OH C2H5 優れた金属抽出剤として溶媒抽出で広く利用 EHEP型Sc吸着材 疎水性相互作用 疎水性 グラフト鎖 吸着容量 6 5 4 3 2 1 6 6倍 吸着容量 [mg/g] C2H5 Sc吸着量/Fe吸着量 [-] 長鎖アルキル基 選択性 0 5 4 5倍 3 2 1 0 : HMPA型 : EHEP型 O O P OH ポリエチレン製不織布 Feを排除し、Scを選択的に吸着! 高選択性Sc吸着材の開発に成功 吸着原理を触媒反応場に展開 吸着材 Sc3+ 触媒 吸着 反応物質 Sc3+ A B 化学反応 A 生成物質 B 吸着機能 として利用 C 触媒機能 として利用 バイオディーゼル燃料 (BioDiesel Fuel; BDF)とは ・ 動植物性油脂(トリグリセリド)とアルコールとの反応により得られる脂肪酸エステル ・ バイオマス資源由来のため、CO2の排出がゼロカウント(カーボンニュートラル) ・ CO2排出量は、LCA評価において軽油と比べて60%低減可能 ・ 軽油に比べて排ガスがクリーン (黒煙: 1/3以下, 硫黄化合物: 極少量, 発ガンリスク: 93.6%低減) ・ 既存のディーゼルエンジンを改良することなく使用可能 ・ 石油依存度の低減、エネルギー源の多様化 現行製造法の問題点 現行のBDF製造法 アルカリ触媒法, リパーゼ酵素法, 超臨界アルコール法 など アルカリ触媒法 CH2O OC R CHO OC R + 3 R’O H 触媒: NaOH CH2O OC R トリグリセリド(油脂) アルコール CH2O H 3 R CO OR’ + バイオディーゼル燃料 (BDF) CHO H CH2O H グリセリン 長所 ・ 触媒コストが安価 ・ 反応速度が速い 短所 ・ 反応溶液に触媒が溶解 (再利用困難) ・ 副反応による石鹸の生成 ・ 大量のアルカリ廃液が発生 イオン交換樹脂法 長所 ・ 反応溶液に触媒が不溶 (再利用可能) 短所 ・ 反応速度が遅い ・ 石鹸の生成がない グラフト触媒の製造方法とその性能 グラフト触媒の製造方法 繊維状不織布 電子線照射 グラフト触媒 グラフト重合 モノマー: クロロメチルスチレン Cl Cl Cl Cl BDF化反応 反応温度: 50℃ アルカリ処理 N(CH3)3 NaOH N+ OHN+ OHN+ OH- : 0.2 g BDFへの転換率 [%] 触媒性能の比較 トリオレイン : 1.4 g エタノール : 3.6 g デカン (補助溶媒) : 5.0 g グラフト触媒 アミノ化処理 グラフト触媒 100 80 速度が2倍 高速な転換 反応を実現 60 40 粒子状樹脂 20 0 0 2 4 6 反応時間 [h] ○ 触媒性能: 70g-油脂/g-グラフト触媒 (触媒再生処理: なし) 天然油脂を用いたBDF製造 BDF トリグリセリド 100 BDFへの転換率 [%] アマニ油 反応前 4時間後 牛脂 80 60 : アマニ油 40 : 牛脂 20 0 0 1 2 3 4 5 反応時間 [h] 反応前 4時間後 0 2 4 6 8 保持時間 [min] 10 12 グラフト触媒は、 天然油脂にも適応可能 転換率90%以上 6 触媒の繰り返し使用と触媒再生法 触媒の繰り返し使用 原因 触媒活性比 [-] 触媒活性の低下 副反応による OH-の消費 1.0 CH2O OC R 0.5 主反応: R’O H R CO OR’ CHO OC R 副反応: OH - 0 CH2O OC R + R CO OH 遊離脂肪酸 BDF 0 2 4 6 8 10 使用回数 [回] 触媒の再生方法 初期値まで回復 + - N O OC R イオン化した 触媒 遊離脂肪酸 NaOH × OH- の再固定化不可 + + N 有機酸 N OH NaOH - R CO OH OH を再固定化 触媒活性比 [-] 有機酸による遊離脂肪酸の除去 1.0 0.5 0 有機酸 処理前 有機酸 処理後 ま と め (新技術の特徴) 放射線グラフト重合体を利用した金属資源回収とバイオ燃料製造 放射線グラフト重合技術を活用して、 1. 温泉中に溶存するレアメタルを採取可能な材料を開発した。 ・ 鉱石の2倍に濃縮 ・ スカンジウムの固体化 2. 使用済油などを想定した廃油から、バイオディーゼル燃料を 製造可能なグラフト触媒を開発した。 ・ 粒子状樹脂の2倍の転換速度を達成 ・ 模擬油から90%以上の転換率 ・ 再生処理により半永久的に繰り返し利用可能 想定される用途 ○ 極低濃度溶液からの金属イオンの高効率な回収 ・ 有用金属回収用材料 (資源確保) ・ 有害金属回収用材料 (環境浄化・保全) ○ におい成分の吸着 (エアフィルター) ○ 高効率な反応場の提供 (新規触媒の開発) ○ 既存高分子材料への新規機能の付与 (表面改質技術) 実用化へ向けた課題 ○ 各種ターゲットに対して最適な官能基(リガンド)の設計 ○ グラフト重合体の製造コストの低減 ○ 実使用条件下におけるグラフト重合体の繰り返し使用 耐久性の評価 企業への期待 ○ レアメタルなどの金属回収に関する研究に興味を 持っている企業との共同研究を希望 ○ 触媒反応に興味を持っている企業との共同研究を希望 ○ その他グラフト重合技術(高分子材料への新規機能の 付与)に興味を持っている企業との共同研究を希望 本技術に関する知的財産権 1. 温泉からのレアメタルの回収 発明の名称: 登録番号: 出願人: 発明者: スカンジウムを捕集回収する方法 特許第4378540号 独立行政法人日本原子力研究開発機構 瀬古典明、玉田正男、吉井 文男 発明の名称: 登録番号: 出願人: 発明者: 固体高分子材料中のスカンジウムを溶出回収する方法 特許第5057322号 独立行政法人日本原子力研究開発機構 瀬古典明、玉田正男 など 2.バイオディーゼル燃料製造用触媒の開発 発明の名称: 登録番号: 出願人: 発明者: バイオディーゼル製造用触媒とその製造方法並びに バイオディーゼルの製造方法 特許第5167110号 独立行政法人日本原子力研究開発機構 植木悠二、玉田正男 本技術に関する問い合わせ先 日本原子力研究開発機構 研究連携成果展開部 高崎駐在 産学連携コーディネータ 鈴木 一如 (すずき かずゆき) TEL 027-346-9513 FAX 027-346-9480 e-mail [email protected]
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