理解ツールから表現ツールへの転換を目指したICT支援員の試み

分科会G2
理解ツールから表現ツールへの転換を目指したICT支援員の試み
玄海町立有浦中学校 ICT支援員 永島陵介
キーワード:表現活動,自作教材,指導法改善,学力向上
1.はじめに
平成23年度ICT支援員として、本校へ配属され
た。当時の職員はまだICT利活用についての意識・
知識ともに不十分だった。そこで、ICT支援員とし
てICT機器の操作説明、活用事例を含めた職員へ基
礎的研修を繰り返し行い、ICTに対する抵抗感の軽
減に努めた。ICTは図や写真などを提示し、理解を
助けるツールとして使用されることが多いがICTを
理解の補助に加えて、生徒が表現するためのツールと
して活用できないかと考えた。その表現のために、授
業支援、教材の提供など様々な場面で積極的に支援し
た。
め、教科書に合わせ Comic Sans MS を使用している
(図1)。その場合、大文字の「Y」は形が異なるた
め、できるだけこの文字を使わなくていいように例文
なども工夫している。
次に、レイアウト(デザイン)である。できる限り
文字を少なくし、図やイラスト取り入れ視覚的に分か
るような工夫を行った(図2)。
最後に、アニメーションである。アニメーションを
設定するとき、生徒の集中力を途切れさせないように、
様々なアニメーションを混在させないように配慮した。
また、矢印などを表示させる時にはアニメーションの
向きにも注意した。
2.ICT支援員としての役割
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2.1 ICT環境の整備に対応した職員研修
平成23年度ICT環境が整備される前は、9割の
職員が電子黒板の存在も知らない(使えない)状況で
あった。そこで職員研修では、電子黒板の授業での活
図1 教材の画面1
図2 教材の画面2
用例を各教科で提示し、イメージを持ちやすくした。
平成24年度ICT環境が整備されてからは、電子
3.2 活用場面の工夫と開発
黒板を使用しての職員研修を継続的に行った。すでに
一斉授業でICTを利活用する場合、提示のみの活
職員が活用イメージを持った状態で研修を行ったので、
用が多い中、本校では生徒参加型授業を目指して取り
様々な疑問点や質問が出され、よい情報共有ができた。
組んできた。そのためのICTの活用場面を工夫した。
英語科の文法指導では PowerPoint を使用し、スライ
2.2 教材作成支援
ド構成は概ね次の順序になっている。
教科によってデジタル教科書が使い辛かったり、教
① 文法:教科書の基本文に囚われず、簡単な英文
材がなかったりといった問題があった。その場合は、
を使用し文法説明を行う。
やりたいこと(目標)やイメージを言ってもらい、I
② 「言ってみよう」:イラストを見て習った文法
CT支援員がそれに合う教材を作成し提供した。
を使って文章を作り、それを全員で音読する。
また会話表現の場合には、2人の会話になるよ
うに提示方法も工夫している。
3.ICT利活用の実践と工夫
③ 「書いてみよう」:生徒が作った文章を電子黒
生徒に対するアンケートを行い、ICTを利活用し
板に書かせる(図3)。②と同じイラストを使
た授業に対する改善点を抽出した。ICT利活用を促
用することで、音から文字への変換をスムーズ
進させるためにより使いやすい環境作りに生かした。
にできるように工夫している。
それに加え、教材に対して教師の考えだけではなく、
④ 「自己表現活動」:習った表現を使って自己表
ICT支援員の考えやアイディアを融合させ、生徒が
現させる場面を設けている。
活動しやすくするための様々な工夫をした。
下線部は生徒がICTを用いて表現させる部分である。
ICTをどのような場面で活用するか、ICT支援
3.1 教材作成の工夫
員として助言を行い、ICT利活用に消極的な職員へ
英語科では、電子黒板が導入されてから文法説明を
の声掛けを行った。必要な既成教材がない場合は、教
プレゼンテーションソフト(PowerPoint)を使用して
師から教材イメージを手書きのメモで書いてもらい、
行っている。教材を作成するときに主として次のこと
それを基にICT支援員が教材を作成した。また、動
を工夫した。
画に身近な職員を登場させる導入のための教材も作成
はじめに、文字の大きさと書体である。文字の大き
した。これは、生徒の興味関心が高まり、その後の
さは席が後ろの生徒にも見えるように24ポイント以
PowerPoint による説明への流れをスムーズに行う上
上を心掛けている。書体は英語科の先生の助言により、
で有効だった。
主にゴシック体を活用し、1年生英語では「a」「g」
の表記がそのままでは戸惑いを与える可能性があるた
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JAPET&CEC成果発表会
4.実践の特長・ねらい
本校のICT利活用は、前述のとおり教師が提示す
る「理解のためのツール」としてだけでなく、生徒が
主体的に授業に参加する「表現ツール」としてのIC
T利活用への転換を図った。その結果、生徒の学力向
上につながった(グラフ1)。また教師からICT支
援員へ教材依頼がしやすい体制を作り、学校全体でI
CT利活用が広がるように次の点に努めた。
① 教師から教材作成を依頼しやすい体制を作る。
② ICTを生徒に開放し、生徒が準備・片づけ段
階から操作に携わる。
③ ICTを「理解ツール」から、生徒による「表
現ツール」への転換を図る(図3、4)。
④ ICTにより教師主体の授業から、生徒主体と
なる授業への転換を進める(図4)。
⑤ 生徒の実態に応じた教材を作成する。
図3
で、気軽に依頼できるような体制を作り上げた。平成
25年度にはICT利活用に消極的だった職員はいな
くなった。また、ICT環境(普通教室への電子黒板
とICT支援員の配置)が不十分な学校への転勤に不
安を抱えている者もいる程である。
5.2 ICTを使いやすい環境作り
本校では始業時にICT(電子黒板)がセットされ
ており、スムーズに授業が始まる。異動によりICT
に不慣れな教師が授業することになっても、生徒が操
作協力をするまでになった。
5.3 教師の指導法改善
ICTを利活用することで、板書する時間を短縮し、
生徒の活動する時間と場面が増えた。さらに、机間指
導する時間も増え、生徒のつまずきに早急に対応する
ことができた。さらに、生徒の表現に対する意欲が高
まり、教師、生徒共に達成感を感じている。
5.4 ICTによる学力向上
佐賀県学力・学習状況調査の英語科の結果で、IC
Tが導入され、1年次からICTに親しんだ2年生は
H24年次に大きく県平均を上回った。それがH25
年次にも持続している(グラフ1)。また、平成26
年度4月に行った教研式標準学力検査の3年生英語
(内容は2年次のもの)の結果では、全国平均とほぼ
変わらなくなった。その中でも、聞くことの①質問や
依頼に適切に応じる領域で100ポイント、話すこと
の②強勢や区切りに注意して話す領域で106ポイン
ト、③考えや気持ちを正しく伝える領域で100ポイ
ント、書くことの④分野の適切な表現を用いて書く領
域で103ポイントと全国平均を上回った(表1)。
グラフ1 佐賀県学力・学習状況調査の結果
解答を電子黒板に記入する生徒
68.2
H25(3年)
63.5
県 本校
図4
50
自己表現活動をする生徒
55
60
65
70
5.実践の成果
ICTを使った授業づくりに向けて、教師からの依
頼が短時間にしかも気軽にできる体制を整えた。当初、
ICT利活用に消極的だった教師も積極的に依頼した
り、ひいては自ら教材作成したりするようになった。
その結果、授業で生徒が活動する場面が増え、自己表
現活動するなどの指導方法の変化が見られた。また、
佐賀県学習・状況調査や標準学力検査で学力の伸びが
見られた。
5.1 教材作成依頼をしやすい体制の確立
まず、教師に手書きメモで依頼を受ける(教師の時
間軽減)。次に、そのメモを参考に教材を作成し、ス
ライド一覧を印刷し教材全体を把握する。
その後、教師とICT支援員によるアニメーションな
どのイメージを確認し、修正する。
このように教師の負担をできるだけ軽減すること
表1
領域別のポイント
大領域
話すこと
聞くこと
書くこと
領域
①
②
③
④
本校
100
106
100
103
全国
100
100
100
100
5.5 生徒の実態に合わせた教材
授業で使用する自作教材は生徒の実態に応じて、教
員の考えとICT支援員の考えやアイディアを融合さ
せることで、よりよいものを作り上げることができて
いる。そうすることで、生徒の表現に対する意欲が高
まり、教師、生徒共に達成感を感じている。
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