表現し、協働的に学び合う

分科会K1
思考し、表現し、協働的に学び合う、ICTを活用した理科学習
- てこのしくみとはたらきの実践 -
東温市立川上小学校 教諭 小田浩範
キーワード:小学校,6年,理科,協働的な学習,タブレットPC
1.従来の課題
分科会K1
理科の学習では、実感を伴った理解が大切である。
「てこのしくみとはたらき」で行う実験は、まさに重
さを体感するという実験で、実感を伴いやすい。しか
し、自分自身が棒を押して体感するために、実験をし
ている全体像を客観的に捉えにくかった。
また、グループで1つの実験セットを使って実験す
るため、協力しやすい単元である。しかし、実験結果
を基に話し合ったり考察したりしながら協働的に学習
を深めていくということにはつながりにくかった。
時
1
2
3
4
2.目的・目標
(1)体験を客観的に捉え、共有化する。
棒を押して重さを体感している様子を撮影し、客観
的に実験の様子を見つめることで、さらに実感を伴わ
せることができる。また、大きく映して紹介し合うこ
とで、体験や発見を全員で共有化できる。
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(2)実験の結果や思考を整理・蓄積する。
実験の様子や結果を写真で記録し、その写真に結果
を短い言葉でかき込んでいくことで、結果が数値だけ
ではなく視覚情報として認識できるようになる。さら
に、話し合いながら実験結果や思考を整理し、画面上
に蓄積していくことで、生きた知識としての理解が深
まるとともに、表現活動の資料としても活用できる。
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(3)協働的に学び合う。
ア グループで話し合って思考する。
グループで写真にかき込む言葉を考えたり、一つの
考えにまとめたりすることで話し合う必然性が生まれ、
言語活動が充実する。
また、
一つの画面を媒体にして、
グループで思考を整理したりつないだりする作業をす
れば、根拠として蓄積した写真を使ったり、写真にか
き込みながら説明したりするなど、よりよい表現を考
えながら話したり思考したりすることにつながり、表
現力や思考力が高まる。
イ 協働的に実験に取り組む。
てこの実験の様子を写真で撮ろうとすると、必ず撮
影者と被撮影者が必要となる。さらに、重いおもりや
大きい実験セットを扱うために、実験中に撮影しよう
とすれば道具を動かす役割分担も必要となる。このよ
うに、協働的に活動する場面が自然に生まれ、互いに
協力しながら学び合える状態にいざなえる。
3.実践内容
3.1単元計画
小学校6年の単元「てこのしくみとはたらき」で行
った実践である。単元計画及びICT活用の目的につ
いては表1に記す。
3.2 ICT環境
本実践を行った学習環境は次のとおりである。
・ iPadmini9台(各班1台+教師用1台)
・ 電子黒板1台
・ ロイロノート・スクール(学習支援アプリ)
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表1 単元計画
主な活動
ICT活用の目的
棒を自由に使い、ものを軽 体験の共有化
く持ち上げる方法を探る。
てこの使い方やその用語を 知識の定着
知る。
力点・作用点の場所を変え、 結果の整理
重さの違いを探る。
実験結果を考察し、一般化 思考の共有化
比較・検討
する。
力の大きさをおもりの重さ 結果の整理
で表す。
てこがつり合う場合を調べ 結果の整理
る。
実験結果を考察し、一般化 思考の共有化
する。
比較・検討
上皿天秤を使ってものの重 結果の整理
さを量る。
身の回りにあるてこを使っ 分類
た道具を見付ける。
見 付 けた もの を紹 介し 合 発見の共有化
い、検討する。
比較・検討
学習のまとめをする。
表現活動による
知識の定着
3.3授業の実際
(1)体験の共有化【第1時前半】
授業の始めに、「棒を使って、重いものを軽く持ち
上げる方法がある。
どのように使うとよいだろうか。
」
と投げかけ、てこ実験器の棒と10kgのおもりを班
に一つずつ配った。子どもたちは思い思いに試してい
た。教師はその様子を、iPadmini を使って撮影してお
いた。
活動後、話し合う際にその写真を電子黒板に映し出
し、それぞれが試した方法を共有していった。
(2)知識の定着【第1時後半】
棒を使って重いものを持ち上げる仕組みについて学
習し、グループごとにてこでものを持ち上げる体験を
行った。その際、子どもたちはグループ1台ずつの
iPadmini を活用し、その様子を撮影した。その後、グ
ループごとに1枚の写真を選び、自分たちがてこを使
っている写真に支点・力点・作用点等とかき込んでい
った。グループ全員が頭を寄せ合い、「ここが支点だ
よね。
」
などと話し合いながらかき込む姿が見られた。
最後に、
全グループの写真を比較画面で一斉に提示し、
間違いが無いか確認していった。
(3)結果の整理【第2時(第4・5・7時)】
支点は動かさず、力点、または、作用点のみ移動さ
せて実験する等条件制御をしながら実験方法を確認し、
実験を行った。実験の際には、自分たちで実験の様子
を撮影するようにした。実験後、ノートに記した実験
結果を基にして、写真に「重い」「軽い」などとかき
込みながら、実験データを整理する作業を行った。一
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JAPET&CEC成果発表会
つの画面を媒体にして話し合い、実験ごとに順序を考
えながら写真をつないでまとめていくことで、実験の
結果がすっきりと整理されていった。
第4時、第5時、第7時においても、同様の活動を
行った。結果や思考を画面上で整理すると頭の中の考
えもすっきり整理できることを体感し、分かりやすく
整理しようとする意識が高まっていった。
理解へとつなげることができた。
(5)分類【第8時】
教師から「てこの仕組みをつかった道具」「てこで
はない道具」という2枚のカードと、くぎ抜きやはさ
みなどの写真を複数枚転送した。本当は全ててこの仕
組みを使った道具であるが、てこの仕組みを使った道
具とそうでないものとに分類するよう投げかけた。子
どもたちは実物を操作したり、写真にかき込んだりし
ながら分類していった。使い方を実演したり、これま
での学習で残してきた写真を根拠として見せたりしな
がら説明し合い、積極的に話合いが行われた。拡大す
れば1画面に1つの道具が映し出されるため、必然的
にグループ全員が同じ道具に注目して話し合うことに
なり、話合いが充実した。
授業の終末で、転送された全ての道具がてこの仕組
みを使った道具と分かり、大きな驚きを感じていた。
最後に、てこではないと考えていた道具にもかき込み
を行い、種類別に分類し、知識の定着もねらった。
(6)発見の共有化・比較・検討【第9時】
「校内にあるてこを探そう。」と投げかけた。見つ
けた際には、てこである証拠を撮影した写真にかき込
むようにさせた。子どもたちはグループごとに
iPadmini を持ち、体育館や廊下、特別教室など自由に
移動しながら探しに行った。その際、見つけたものに
対して、「てこでしょ。」「違うんじゃない。」とい
う話合いが様々な場所で行われていた。その後、電子
黒板に映し出し、紹介し合いながら本当にてこの仕組
みを使っているか、かき込んだ力点や支点、作用点の
位置は合っているかなどについて話し合った。
(7)表現活動による知識の定着【第10時】
学習のまとめとして、これまで蓄積してきた資料を
使い、
グループ内で iPadmini 画面を使ったミニプレゼ
ンを行った。どの実験でどんなことが分かったのか、
全員が順番に話しながら単元の流れを再現することで、
より理解が深まった。また、言葉につまった子に、ノ
ートを指し示したり、助言したりするなど、グループ
内で助け合いながらミニプレゼンを進め、より確かな
写真1 子どもがかき込んだ画面
写真2 頭を寄せ合い話し合う様子
4.成果
○ 自分たち自身の写り込んだ写真を教材にして話し
合ったり、かき込みをしたりする活動を通して、体
験したことをより客観的に見つめ、より実感を伴っ
た理解へとつなげることができた。
○ ノートに実験の結果や自分の思考を蓄積しただけ
でなく、写真にかき込んだり、グループで考えたり
したことを画面に蓄積していったことで、実験の意
味やその考察をより確かなものとすることができた。
○ グループに1台の iPadmini に結果や思考を整理
していく、という活動で話し合う必然性が生まれ、
グループ内での話合いが活性化した。
お尻を浮かべ、
頭を寄せ合い、自分事として話し合う、という状況
が毎時間生まれた。また、蓄積した内容を振り返り
ながらそれを根拠に話し合うなど、話合いの質も向
上した。
○ 自然と役割分担をして実験に取り組んだり、複数
人で1台の画面を操作するため譲り合ったりするな
ど、互いを尊重しながら実験や話合いに取り組めた。
単元全体を通して、グループで協働的に学ぶという
意識が高まった。
5.今後に向けて
授業後の感想から、子どもたちがてこの学習に主体
的に取り組む中で、友達と関わりながら協働的に学習
を深めることのよさを存分に感じていたことが分かっ
た。今後も、教科の内容を学んでいく中で、学び方自
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分科会K1
(4)思考の共有化・比較・検討【第3時(第6時)】
教師から、「力点と支点との距離は」「作用点と支
点との距離は」とかいたカードを転送し、前時に整理
した実験結果から考察をしていった。各グループで積
極的な話合いが行われた。
各グループでの考察を転送し、電子黒板の比較画面
で比較し、検討していった。どのグループも、表現は
違っていたが、きちんと一般化できていることが確認
できた。そのうえで、どの表現が適切か検討し、学級
のまとめとした。
第6時においては白紙のカードに自分たちでかき込
む、
または、
ノートにまとめた考察を写真で撮影する、
どちらかの方法を選ばせた。