マーケットウィークリー・820号 産業ニュース 2015.3.20 機能性表示制度開始、食品市場の拡大期待 作成者:兵藤三郎 制度変更は企業業 績を大きく変化さ せる 「Why Japanese People!?」、IT企業役員の厚切りジェイソン氏が、日本独自 の文化を笑いの種としたコントが人気となっている。日本人には特に違和感もな く受け入れられている風習・習慣には、欧米のそれと大きく異なっているケース がある。その一つが、4月1日からを新年度とする習慣であろう。新制度はその日 をもってスタートするため、昨年の消費税率変更や薬価改定など変更内容によっ ては企業業績を大きく変化させることも多い。消費増税では、国内を主力とする 多くの小売業者が苦戦する一方、インバウンド需要を取り込んだ一部企業や海外 展開で国内減収分を補った企業の業績は堅調。薬価改定では新薬メーカーは減収 となったが、ジェネリックメーカーには恩恵があった。 機能性表示制度導 入は成長戦略の一 環 本年は、食品に対し新たな機能性表示制度が導入される。同制度はアベノミク スが第3の矢として位置づける、規制緩和により新たな市場の創出を目指す成長戦 略の一つでもある。同制度の参考になったのが、米国で1994年に導入された「ダ イエタリーサプリメント制度」。米国では同制度導入でサプリや健康食品業界が、 導入後約5倍の市場規模まで成長している。わが国でも今回の新制度導入により、 恩恵を享受する銘柄は多いと考え、産業ニュースでは関連業界等を検証した。 トクホのハードル は高いが、その付 加価値は大きい 現在食品に対する機能性表示には、ミネラルやビタミン等を対象とした「栄養 機能食品」と「特定保健用食品(以下トクホ)」しか認められていない。栄養機 能食品は含有栄養成分の機能を表示するものでサプリメント等として販売されて いる。栄養成分以外の成分の機能などは表示できず、1日当たりの摂取目安量等の 表示も義務づけられる。トクホには国の審査という高いハードルがあるため、そ の付加価値は大きい。トクホでの代表的な成功例がサントリーBF(2587)の「特 茶」であろう。同社の14.12期業績は夏場の天候不順、コンビニコーヒーの浸透等 で厳しい経営環境下であったが、販売量を前年比45%伸ばしたトクホ飲料のけん 引で過去最高益を達成した。 ノンアルコール市 場にもトクホの波 到来 トクホをばねにシェア拡大を図る飲料メーカーは多い。サントリーの牙城を崩 すため、競合他社は新たな商品を投入する方針。伊藤園(2593)はトクホのウー ロン茶を他社より低価格で販売し、シェア奪回を目指す。本業のビール飲料で苦 戦しているサッポロHD(2501)はノンアルコールトクホビールを販売する予定。 花王(4452)もトクホ飲料のヘルシアシリーズでノンアルコールビールの販売認 可を受けた。報道によるとキリンHD(2503)、アサヒ(2502)も申請済みの模 様。ビール業界は第3のビールに続き新たな競争をトクホでも引き起こす。 ◇飲料を中心に様々な分野に広がるトクホ商品 主なトクホ商品と製造メーカー サントリーBF(2587) 特茶 アサヒ(2502) アミール(カルピスブランド) キリン(2503) メッツコーラ 明治HD(2269) ブルガリアヨーグルト 花王(4452) ヘルシア 森永乳(2264) ビヒダスヨーグルト キッコーマン(2801) 豆乳(紀文ブランド) 山崎パン(2212) 特食パン 伊藤園(2593) カテキン緑茶 日水(1332) エコクリップおさかなソーセイジ ライオン(4912) トマト酢生活 日清オイリオ(2602) ヘルシーリセッター (出所)各種資料よりCAM作成 -3- マーケットウィークリー・820号 早ければ6月にも 機能性表示食品が 店頭に並ぼう 2015.3.20 トクホは安全性や有効性について国の審査を受け、消費者庁の許可を必要とす るため、膨大な実証データが必要。認可までには時間と費用が掛かり、一部の大 手メーカーしか申請していないのが現状。成長戦略として活用するには、認可等 のハードルを下げる必要があった。今回導入される機能性表示食品制度は、食品 が健康に及ぼす機能について、企業側が60日前までに根拠となる情報を消費者庁 に届け出ることで販売が可能となる。消費者へ訴求しやすくなることで拡販が期 待できるため、多くの食品メーカーが参入を計画している模様。申請受け付けは4 月から、早ければ6月にも対応新商品が店頭に並ぼう。 ◇食品表示制度 対象品 栄養機能食品 ビタミン、ミネラル等 特定保健食品 食品全般 機能性表示食品 食品全般 (出所)各種資料よりCAM作成 評価者 国 企業 必要な手続き 国の設定した基準を満たせば表示可能 消費者庁の許可制 販売60日前までに消費者庁へ届け出 ヨーグルト、チョ コレート、トマト、 魚油に注目 明治HD(2269)はR-1乳酸菌など機能性ヨーグルトでの人気が高い。同社は 医薬品事業会社を傘下にもつため、同分野での強みを発揮できよう。ポリフェノ ール等の効用がうたえるチョコレートでも高いシェアを持つ企業。機能性ヨーグ ルトでは森永乳(2264)やグリコ(2206)等も展開している。大手製薬メーカー 等に素材供給する日水(1332)は自社でトクホ飲料「イマークS」を販売してい る。魚油由来成分EPAやDHA等を製造し機能性表示食品の展開が可能、同社 も子会社に日水薬(4550)を持つ。野菜ジュース等でシェアの高いカゴメ(2811) はトマトを活用した食材での展開が期待される。トマトは抗酸化作用があるとさ れるリコピンを含む食材として注目されている。 ドラッグは機能性 表示食品で拡販を 図る ファンケル(4921)、小林製薬(4967)等の健康食品を取り扱うメーカーにも 注目できよう。栄養機能性食品でのノウハウを機能性表示食品にも応用が可能、 事業領域の拡大に期待したい。その他健康食品等を手掛ける企業としてはAFC HD(2927)、ユーグレナ(2931)などがある。機能性表示食品をてこに拡販を 目指すドラッグストア等にも注目したい。関連銘柄はウエルシアHD(3141)、 マツモトキヨシ(3088)など。 違反表示のリスク は高い、消費者に 要求される判断力 新制度は市場の拡大をもたらす一方で、国の評価を必要としないため違反表示 のリスクは高い。制度先進国アメリカからの輸入増による国内メーカーへのダメ ージも懸念される。消費者にとってはトクホと機能性表示の違い等の判断力も要 求されよう。 ◇注目企業の株価とコメント コード 銘柄 株価 日水 1332 387 森永乳 2264 463 明治HD 2269 15,070 サントリーBF 2587 4,840 カゴメ 2811 1,871 花王 4452 5,793 (単位:円、倍) PER 10.2 28.7 41.9 35.0 46.4 33.4 コメント 魚油由来成分EPA、DHAを製造、機能性表示食品展開へ 機能性ヨーグルト販売、ココア等での事業展開が可能 乳業、チョコレート国内大手、薬品事業も手掛ける トクホ飲料トップメーカー、「特茶」が業績をけん引 トマト関連での機能性表示食品展開を期待 ヘルシアブランドでトクホ飲料展開中、ノンアルビールも (注)株価は3月16日終値、PERは今期予想 -4-
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