騒音レベルによる低周波音の評価法と評価例

騒音レベルによる低周波音の評価法と評価例*
中野有朋(中野環境クリニック)
耳を通して聞こえるものが音であり、健常者が聞こえる音の周波数範囲はおよそ 20~
20000Hz である。そして、聞こえる音の大きさはオーバオール騒音レベルで表される。その
周波数成分は A 特性を用いて、例えばオクターブ分析して求められる。
平坦特性で分析して得られるものは聞こえる音ではない。耳に入る前の音波である。
健常者であれば、低周波音(およそ 20~100Hz)だけが聞こえるわけではない。可聴範囲
全体の音が聞こえるのである。参照値のように、低周波音ではなく、低周波音波について
評価し、かつ、低周波部分だけ取り上げ、それ以上の周波数範囲を除いて評価することは
適切ではない。低周波音について、それが可聴周波数範囲の一部であるとして評価しなけ
ればならない。
ここでは、騒音レベルを高周波音レベルと低周波音レベルに分け、その差の大きさによ
って低周波音がどの程度問題であるかを評価する方法及び評価例について述べる。
1. 評価方法
1) 騒音レベルと騒音スペクトルを測定する
発生騒音を A 特性でオクターブ分析し、騒音レベルと騒音スペクトルを求める。これに
よって発生音波ではなく、健常者の可聴範囲全体の聞こえる音が得られる。
2) 騒音レベルを二つに分け、低周波音レベルと高周波音レベルからなると考える。
低周波音レベルは、オクターブバンド分析の場合は、中心周波数 16、31.5、63Hz(22.
~90Hz)のバンドレベルのパワー和のレベル、 LAL  L16  L31.5  L63
㏈
とする。
高周波音レベルは、125、 250、 500、1000、 2000 4000、 8000Hz(90~11200Hz)のバ
ンドレベルのパワー和のレベル、LAH  L125  L250  L500  L1k  L2k  L4 k  L8k
する。ここでは、簡単のため、上記の+記号を、㏈のパワー和、つまり、10 log(10
を L1  L2
L1
10
㏈ と
L2
10
 10 )
と表すことにし、加算は暗算で行う(以下同じ)。
3) 得られた騒音スペクトルから低周波音レベルと高周波音レベルを算出する。
3 つのレベルと 7 つのレベルのパワー和の計算である。
4) 高周波音レベルと低周波音レベルを比較する
高周波音レベルと低周波音レベルの差及び騒音レベルに対する低周波音の影響程度を求
めると、表1に示すようになる。計算例も示してある。
高周波音レベルと低周波音レベルの差が 10 ㏈以上の場合は、騒音レベル L pA に対する低
*Evaluation method and evaluation examples of low-frequency sound by noise level
Aritomo
NAKANO(NAKANO Environmental Clinic)
1
周波音の影響はなく、低周波音は全く問題ないことになる。
しかし差が 5~9 ㏈の場合は、騒音レベルに対する低周波音の影響は 1 ㏈、差が 2~4 ㏈
の場合は 2 ㏈、差が 0 ㏈の場合は 3 ㏈となる。
これによって、健常者の場合、低周波音がどの程度問題あるかが判定される。
表 1 レベル差と低周波音の影響度
( LAH - LAL )
10 以上
㏈
低周波音の影響度 ㏈
0
計算例
LAH  70 ㏈、 LAL  60 ㏈以下
LpA  70+60  70 ㏈
5~9
1
LAH  70 ㏈、 LAL  65~61㏈
LpA  70+(65~61)  71 ㏈
2~4
2
LAH  70 ㏈、 LAL  68~64 ㏈
LpA  70+(68~64)  72 ㏈
0、1
3
LAH  70 ㏈、 LAL  70(69) ㏈
LpA  70+70(69)  73 ㏈
2.評価例
上記に従った評価例を次に示す。
図 1 は風力発電装置の騒音レベルと騒音スペクトル測定結果の一例である。騒音レベル
及び各バンドレベルは図中に示す通りである。
この結果から、高周波音レベル LAH 及び低周波音レベル LAL を算出すると、表 2 中に計算
経過と結果を示すように、57 ㏈と 37 ㏈となる。従ってその差は 20 ㏈となる。差は 10 ㏈以
上である。従って、騒音レベルに対して低周波音レベルは無視でき、低周波音は全く問題
ないことになる。問題なのは低周波音ではなく、高周波音である。風力発電装置について
は、問題があれば、高周波音の低減対策が必要になる。
風力発電装置の低周波音については、既に別の方法で問題ないことを明らかにしている 1)
が本方法によっても同じ結果となる。
図 2 は、オスプレイの騒音レベルと騒音スペクトル測定結果の一例である。騒音レベル
及び各バンドレベルは図中に示す通りである。
この結果から、高周波音レベル LAH 及び低周波音レベル LAL を算出すると、表 2 中に計算
経過と結果を示すように、91 ㏈と 72 ㏈となる。従ってその差は 19 ㏈となる。差は 10 ㏈以
上である。従って、騒音レベルに対して低周波音レベルは無視でき、低周波音は全く問題
ないことになる。問題なのは低周波音ではなく、やはり高周波音である。オスプレイにつ
いても、問題あれば、高周波音の低減対策が必要になる。
2
オスプレイの低周波音についても、既に別の方法で問題ないことを明らかにしている 1)
が本方法によっても同じ結果となる。
図 3 は、ヒートポンプ給湯器近傍での騒音レベルと騒音スペクトル測定結果の一例であ
る。騒音レベル及び各バンドレベルは図中に示す通りである。
この結果から、高周波音レベル LAH 及び低周波音レベル LAL を算出すると、表 2 中に計算
経過と結果を示すように、42 ㏈と 19 ㏈となる。従ってその差は 19 ㏈となる。やはり差は
10 ㏈以上である。従って、騒音レベルに対して低周波音レベルは無視でき、低周波音は全
く問題ないことになる。問題なのは低周波音ではなく、高周波音である。
給湯器についても、問題あれば、高周波音の低減対策が必要になる。
ヒートポンプ給湯器の運転音については、公表された参考資料2)に示す報告書において、
給湯機の低周波音が健康症状の発生に関与している可能性があるとされている。しかし、
その内容は、超低周波音、音、低周波音の基本的性質に関して、多くの誤りからなる報告
書となっている。
3.結言
本方法により、簡便、適切に、低周波音を評価できると考える。問題あれば、評価結果
を基に、環境基準、規制基準等にしたがって適切に騒音レベルの低減を測ることができる。
参考資料
1) 中野:「低周波音など問題はない」風力発電機やオスプレイの発生騒音、
日本騒音制御工学会技術発表会講演論文集、2014/9
2) 消費者安全法第23条第1項に基づく事故等原因調査報告書(家庭用ヒートポンプ給湯機
から生じる運転音・振動により不眠等の健康症状が発生したとの申出事案):
消費者安全調査委員会、2014/12
図1 風力発電装置(約60m地点) の騒音スペクトルの一例
60
A
特
性
音
圧
レ
ベ
ル
㏈
50
49
40
50
46
45
38
36
30
20
0
57
43
30
10
54
11
16
31.5
63
125
250
500
1k
2k
4k
8k
LpA
中心周波数 Hz
3
図2 オスプレイ(MV-22着陸時)の騒音スペクトルの一例
100
A
特
性
音
圧
レ
ベ
ル
㏈
90
91
80
81
70
50
30
84
84
81
72
60
40
83
71
54
44
16
31.5
63
125
250
500
1k
中心周波数
2k
4k
LpA
Hz
図3 ヒートポンプ給湯器近傍の騒音スペクトルの一例
50
A
特
性
音
圧
レ
ベ
ル
㏈
40
30
36
30
20
10
14
17
15
63
125
42
40
27
22
15
0
-10
-20
16
31.5
250
500
1k
2k
4k
8k
LpA
-8
中心周波数 Hz
表 2 評価例
発生源
L pA ㏈
風力発電装置
57
オスプレイ
給湯器
91
42
LAH ㏈
LAL ㏈
43+49+54+50+45+
11+30+36
45+38≒57
≒37
81+83+84+84+81+
44+54+72
81+71≒91
≒72
25+30+36+40+27+
-8+14+17
22+18≒42
≒19
( LAH - LAL )㏈
20>10
備考
低周波音は
問題なし
19>10
高周波音が
問題
23>10
+記号はパワー和
4