知的機械と ネットワーク

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物理学と技術 | 技術
知的機械とネットワーク
知的機械
ロボカップ
ロボットは人間の助手として、複雑な、単調な、あるいは危険な仕事が得意だ。
しかし、予想外の局面に対応できる、人間の知的な判断力や多才さには及ばない。
この国際競技は、学生や科学者の
創造性を鼓舞し、遊び心に満ちた挑
ロボットはコンピューターで制御される
自立して移動できるロボットはもっと独
機械だ。特定の仕事を遂行するように設計
立性が高い。そして、歩き、運転し、泳ぎ、
されており、例えば工業用ロボットは溶接
飛び、さらには突然の事態に対応することも
や組み立て作業をする。しかし、決まった
できる。最近では建物の防犯、食事の世話、
動作環境のもとで、決まった仕事をこなすよ
訪問客の展示案内、惑星の探査などの仕事
人工知能
その後、研究者が模擬したのは、生物が
るのはこの原理による。こうした一連の刺
神経細胞(ニューロン)のそれぞれをコン 「知 識データ」は組み合わせてステートメ
に夢中になりながら階段を上るときに使わ
戦だ。その挑戦とは、人間の姿をし
たロボットでサッカー・チー ムをつく
り、2050 年までに 人 間 のワー ルド
カップ・チャンピオンを負かす夢だ。
従う刺激・反応原理だ。私たちが熱いスト
人工知能(AI )
は、コンピュー ター科学の一専門分野だ。
研究者たちは、人間が持つ知的な能力をコンピュー ター で再現しようと
している。それは、知覚、学習、推論、言語処理などの能力だ。
ーブを触ったとき、反射的に手を引っ込め
激・反応は複雑な動作だが、私たちが会話
ピューターで模擬し、層状にして相互接続
ントにすることができる。このステートメン
れている。今はこれら両方の方法が組み合
すると、いわゆるニューラル・ネットワーク
トをいくつか使えば、論理規則によってさら
わされ、複合的な仕事も可能になっている。
ができ上がる。入力層に入ったデータは、
ネットワークでの処理を経て出力層まで伝
達される。出力層では、データがどのような
ロボット | 人工知能 | インターネット | WWW | 生体認証
ニューロン経路を通ってきたかに応じて処
理される。サンプルデータによって、ニュー
知的機械と
ネットワーク
ロン経路を調整するのが学習の段階だ。学
電子的なネットワークを使って、人も機械も通信ができるようになった。
これからは、人間の思考をモデル化した人工知能を備えた機械や、
多様な仕事をこなすようにプログラムされた機械が増えていく。
同時に、一見単純な日常生活の中でも、コンピュー ター の利用が増えていくだろう。
practice
習後は、手書き文字のように字体にばらつ
きがあっても認識できる。
コンピュー ター用の知識
H ロボカップはロボット工学と、人気のス
ポーツ、サッカーを結びつけたものだ。
コンピューター に知識を蓄えるのは複雑
距離を車輪の回転数から計算するが、車が
な処理になる。単に普通のデータを記憶す
すべるといった単純な誤動作により距離の
るよりも、ずっと大仕事だ。例えば、イスの
知識をとっても、単なる形状と置き場の情
うにプログラムされているだけなので、もし
の一部もこなせる。
誤差を生じる。このような場合は、問題が
仕事の手順に変更があればプログラムし直
ロボットは、自らに組み込まれたセンサー
起きたことをロボットが識別し、センサー の
報をはるかに超えたものとなる。多くの文脈
す必要がある。この変更はしばしば「ティー
で周囲の環境や構成部品に関するデータを
データを追加取得して補正する。
では座るものという本来の機能が重要だと
チイン」
という方法で行われる。人間の操作
取りこむ。例えば、超音波を出して反射が
ロボットの仕事によって、どのアクチュエ
員がロボットを手で動かして、一通り行わ
戻ってくる時間を測り、障害物までの距離
ーターをどのように動かすかはプログラム
せ、それをロボットが記憶するものだ。
を決めることができる。またカメラを使えば、 で決める。高度なロボットは、異なる行動を
チューリング・テスト
もっと詳細な環境のデータが得られる。ロ
うまく組み合わせることもできなければなら
1950 年代に数学者のアラン・チューリングは、コ
ボットのバッテリー の残量は電圧計からわ
ない。例えば、障害物を避けながら目標に
ンピューターが知的かどうかという疑問に答える試
かるし、内部分度器でロボットの握りアー
向かって進む、といったことだ。こうした複
験法を考案した。この
ムの位置を設定できる。自分がどこに居る
雑な行動をさせるには、人工知能(p. 385)
試 験 の 仕 組 みは、人
かは GPS 装置か、周囲の目印になるものを
の技術を使ってプログラムする。
間の判定員がコンピュ
ーターと自然な会話を
ロボットはアクチュエーターで動く。ア
続けるというものだ。
にステートメントを引き出す
クチュエーター は脚、車 輪、握りアーム、
判定員は、彼らが相手
ことができる。この方法はエ
にしているのが人間な
あるいは特殊ツー ルとして組み込まれ、す
のか、人間らしい応答
practice
べて電動モーターで動く。ロボットの装備
が複雑になるほど、技能は向上する。しか
し、その分プログラムも難しくなる。
をするようにプログラ
H アラン・マチソン・チューリン ムされたコンピューター
グ( 1912 ∼ 54 年 )は、 コン
ピューター理論を追求した。
なのかを判定する。
ロボットのプログラミング
H でこぼこ道を進めるように設計されたロボットは、昆虫をモデルに
することが多い。神経系をプログラムで模擬し、状況に応じて
どう動いたらよいかは、おのおのの脚自身が「決定」する。
p.418-421(新しい数学)参照
H コンピューターが人間を打ち負かす領域もある。2006 年、コンピューター
「ディープフリッツ」
がチェスの世界王者ウラジミール・クラムニクを破った。
利用して確認できる。
キスパート・システムに使わ
れるものだ。例えば、故障し
た機械の原因は何かを見つ
け出し、さらには修理計画ま
で立てるというように使える。
AIとロボット工学
ロボットは、センサー が取り込んだデー
しても、この機能以外にイスは物を置く場所
タから、周囲の状況や自分自身の動作機能
にも、踏み台にもなる。
ロボットは当初、
「 知覚する㱺計画する㱺行
知識には事柄や行動に関するものもある
動する」
という形でプログラムされた。この技
を評価するようにプログラムされている。そ
のときデータ不良の可能性も考慮するよう
にしている。例えば、ロボットは自分の移動
H 工業用ロボットは、限られた特定の仕事だけをするよ
うにプログラムされており、その実行は速く、正確で、
疲れ知らずだ。
し、知識そのものについての知識、つまりそ
法の弱点は演算時間が極めて長く、予期せぬ
の範囲、信頼性、出所などがある。こうした
事態でのロボットの反応速度が遅いことだ。
p.421(21 世紀の数学)参照
H 福岡市のショッピング・モールで、話をするロボットを
囲んで遊ぶ幼稚園児たち。
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