R&I レポート vol.58

2015 年 3 月 18 日
R&I レポート
vol.58
株式投資における2つの投資スタイル
年金事業部
チーフアナリスト 舎利弗 孝通
標題の投資スタイルは、いわゆる「バリュー」や「グロース」といった運用スタイルを意味し
ているものではない。ここでの投資スタイルというのは、言い換えれば、投資の考え方やアプロ
ーチといった意味でご理解して頂きたい。
経済学者として高名なケインズは、
株式投資における 2 つの投資スタイルを 1936 年に著した『雇
用・利子および貨幣の一般理論』において区分した。1つは、有名な美人投票である。これは株
式投資を美人投票に喩え、「自分がいいと思う株に独りよがりで投資するのではなく、他人(市
場)がいいと思う株に投資を行うことが成功の鍵だ」という考えである。よって、投資家からみ
た場合、分析及び予想の対象となるのは、他人(市場)の投資行動である。
一方、ケインズが示したもう 1 つの投資スタイルが、価値を創造する株式投資である。価値を
創造する株式投資というのは、中長期的に企業価値を評価し投資を行うことで、リスクマネーを
供給することである。それにより、新しいテクノロジーとイノベーションが具現化され、新規の
雇用と新しい富を社会全体に生み出すことが可能であるとしている。この考えによれば、投資家
の分析及び予想の対象となるのは、企業そのものである。
ケインズのこうした区分から、およそ 70 年後の 2012 年、イギリスで株式市場を分析した興味
深いレポート(ケイ・レビュー)が公表された。そのケイ・レビューでは、株式投資における投
資家を 2 つに区分して指摘した。
1 つは「株式市場」に関心のある投資家であり、もう 1 つは「企業」に関心のある投資家であ
る。株式市場に関心のある投資家の例として短期投資家やパッシブ投資家が挙げられるが、彼ら
は株式市場に関心はあるものの、投資先企業に対し関心が低い。一方、企業に関心のある投資家
は、将来のキャッシュフローを長期に予測し株式を保有し続けるため、投資先企業について関心
が高い。先に指摘したケインズの区分によれば、株式市場に関心のある投資家は、短期の美人投
票の考えに類似しており、企業に関心のある投資家は、価値を創造する長期の株式投資の考えに
近い。このように、ケインズの示した 2 つの投資スタイルが、ケイ・レビューでもほぼそのまま
指摘されていることは、70 年を超える時間の経過の中で、非常に興味深い点ではあろう。
もちろん、ここでの議論は株式投資における投資スタイルとして、この 2 つの優劣を決めよう
ということではない。ただし、昨今、長期的な視点で株式投資を行うことの重要性が説かれる機
会が増えている。それは、ケインズの指摘した価値を創造する長期の株式投資が行われることに
よって、社会全体に新しい富が創出できるからである。こうした機会が、企業年金にとって改め
て株式投資の意義を考える契機となってくれることを期待したい。
(参考文献:年金大革命、キース・P・アムバクシア著)
株式会社格付投資情報センター
2015 年 3 月 18 日
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