R&I レポート vol.57

2015 年 3 月 9 日
R&I レポート
vol.57
株式市場の低迷を放置しない
年金事業部
チーフアナリスト 舎利弗 孝通
安倍政権の誕生以降、株式市場に関する報告書及び提言が相次いで公表されている。時系列に
並べると、平成 25 年 11 月に「公的・準公的資金の運用・リスク管理等の高度化等に関する有識
者会議」、平成 26 年 2 月に「責任ある機関投資家の諸原則」
《日本版スチュワードシップ・コード》、
平成 26 年 8 月に「持続的成長への競争力とインセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築~」
プロジェクト(伊藤レポート)、平成 26 年 12 月には、「コーポレートガバナンス・コード原案」
である。これらは、資産保有者(アセット・オーナー)、機関投資家、上場企業のそれぞれに対し
て、向けられた報告書及び提言である。
これらの報告書及び提言は、資産保有者(アセット・オーナー)、機関投資家、上場企業が現
在直面する課題を克服し、それぞれの役割・機能を十分に果たすことが株式市場の活性化には必
要であると指摘している。もちろん、こうした報告書及び提言の背景には、国内株式の長期低迷
があることは間違いない。確かに、安倍政権誕生以降、株式市場は活況を取り戻しつつあるもの
の、最高値更新を経験している欧米の株式市場に比較すると、未だに 89 年の最高値に到達してい
ない日本の株式市場は、どうしても見劣りしてしまうのが実情であろう。
本来、ファイナンス理論では長期的には株式などのリスク資産のリターンが、リスクフリー資
産のリターンを上回るとされている。歴史を振り返れば、株式を社会のインフラとして整備した
国は、株式が存在しなかった国に比べ、市民生活の質を高め、平均寿命を延ばしてきた事実があ
る。ベルリンの壁崩壊はその象徴といえよう。価値創造にチャレンジするリスクマネーとしての
株式が、新たな価値を創造し続けてきたからだ。
そう考えると、資産運用の中心に株式を据えても、何ら不思議はない。むしろ、合理的でさえあ
る。事実、欧米では長期にわたって株式はリスクフリー資産を上回るリターンをもたらしてきた
のである。
翻って、日本の現状を考えると、アベノミクス以降、運用環境は好転し、公的年金において株
式投資を拡大させる動きは顕在化しているものの、企業年金においては株式投資を拡大させる兆
しはみられない。また、「貯蓄から投資へ」というスローガンのもと、株主としての個人投資家
の育成もNISA等の税制優遇制度が発足したものの、まだ緒についたばかりである。残念なが
ら、投資主体のこうした行動は、過去の株式のリターンがリスクフリー資産を下回るという欧米
とは異なった投資環境が大きく影響を与えていることは間違いなかろう。
冒頭に紹介した一連の報告書及び提言は、「株式市場の低迷を放置しない」との安倍政権の強
い決意の現れかもしれない。こうした提言が株式市場の活性化に寄与し、株式市場の中長期的な
投資魅力の向上に繋がる事を期待したい。
株式会社格付投資情報センター
2015 年 3 月 9 日
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