R&I レポート vol.56

2015 年 2 月 23 日
R&I レポート
vol.56
伊藤レポートが年金基金に示唆する事
年金事業部
チーフアナリスト 舎利弗 孝通
インベストメント・チェーンという言葉が、最近聞かれるようになってきた。耳にした読者も
いらっしゃるだろう。これは、昨年8月に経済産業省から発表された「持続的成長への競争力とイ
ンセンティブ~企業と投資家の望ましい関係構築プロジェクト~」の中で、キーワードとして示
されているフレーズである。この報告書は、一橋大大学院の伊藤邦雄教授が座長になって取りま
とめたもので、「伊藤レポート」と呼ばれている。
インベストメント・チェーンとは、「資金の拠出者から、資金を最終的に事業活動に使う企業
に至るまでの経路および各機能のつながり」である。報告書の中では、以下のように記載されて
いる。「長期的に見て重要な課題は、日本経済が本格的な人口減少社会に直面する中で、国富を
維持・形成することである。そのためには、企業が「稼ぐ力」を高め、持続的に価値を生み出し
続けることと併せて、長期的な投資からリターンを得られる仕組み、すなわち経済のインベスト
メント・チェーンの全体最適化を図っていく必要がある。」としている。
報告書では、こうしたインベストメント・チェーンが有効に機能するために、幾つかの課題が
あるとしている。まず、企業に求めることとして、持続的な成長を目指すために、欧米に比較し
て見劣りするといわれる企業の「稼ぐ力」を高めることである。それは、日本的といわれる経営
体質から脱却し、ROE(自己資本利益率)の向上を図ることである。そのためには、企業と投資家
の間で持続的な価値創造を創出する「協創(協調)」の関係を構築し、
「高質の対話」が必要であ
ると伊藤レポートでは提言されている。
更に、投資家への注目される指摘として、株主としての個人投資家の育成に加え、年金基金な
どの機関投資家は市場平均を目指すパッシブ運用偏重から脱し、
「深い分析に基づく銘柄選択」へ
移行すべきだと提言している点である。
この背景には、日本市場では機関投資家がパッシブ運用に偏っており、中長期的な投資家層が
薄いことが指摘されている。パッシブ運用は、そもそも目標となるベンチマーク通りのリターン
を達成することが求められるだけで、投資先企業の選別が行われないため、投資先企業に対する
関心が薄い。これでは、価値創造の手段となり得る「協創」や「対話」が促進されにくいことは
明白である。これらは、昨今、日本だけでなく、海外でも指摘されているパッシブ運用の弊害で
ある。
もちろん、報告書では、中長期的な視点から主体的判断に基づいて銘柄を選択するアクティブ
運用を勧奨しているが、いきなりパッシブ運用からアクティブ運用への変更は、年金基金にとっ
てハードルが高いかもしれない。そこで、まず第一歩として、時価総額のみに基づくパッシブ運
用から、一定の企業価値基準等で選別したインデックスを主体的に利用することを考えてはどう
であろうか。十分検討の価値があるものと思われる。
株式会社格付投資情報センター
2015 年 2 月 23 日
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