海岸護岸における耐震対策工法に関する一考察

海岸護岸における耐震対策工法に関する一考察
海岸護岸
耐震対策工法
時刻歴応答解析
建設技術研究所
建設技術研究所
建設技術研究所
京都大学大学院
京都大学
正 会 員
国際会員
正 会 員
国際会員
国際会員
○ 秋場
李
岡嶋
小山
大西
俊一
圭太
義行
倫史
有三
1. はじめに
近年,東北地方太平洋沖地震以降南海トラフによる巨
民家
大地震に備え,既設の海岸護岸ではレベル 2 地震動に対
する耐震性能照査と照査結果に伴う耐震対策が実施され
ている.
幹線道路
本研究では,海岸護岸の耐震性能照査と照査結果に伴
う耐震対策工を設定するにあたり,海岸護岸の構造物特
パラペット
性,近接する幹線道路をはじめとした周辺環境へ配慮し
た検討結果を示す.なお,本研究に示す照査外水位(対
消波ブロック
象とする津波高),耐震対策工法は実際に施工で決めら
れたものではなく,検討過程でのものである.
本研究では,施工可能な耐震対策工法として,液状化
地盤の流動化抑制を目的とした鋼管矢板連続壁を適用し,
図 1 対象区間平面図
養浜盛土,大型消波ブロックのモデル化,既設コンクリ
ート護岸と地盤との動的相互作用に着目した解析的検討
結果を示す.
2. 対象地域と護岸の概要
対象とした海岸護岸は護岸前面に海岸の養浜を目的と
した盛土,消波を目的とした消波ブロックが設置されて
いる.また,背面側は周辺住民の生活環境において重要
地震時の動的挙動は地震時の液状化挙動を対
象とすることから,有効応力法(解析コード:
FLIP-ver7.22)による時刻歴地震応答解析手法を
適用し,検討を行った.
入力地震動を図 3 に示す.中央防災会議公開
加速度(gal)
となる幹線道路が併設されており,その先は宅地である.
海岸護岸の構造は,図 2 のようなパラペット形式の特
殊堤である.
500
3. 護岸構造を考慮した時刻歴応答解析
400
図 2 護岸構造図
max=408gal
300
200
100
0
-100
-200
-300
-400
-500
0
50
100
150
時刻(sec)
200
250
図 3 入力地震動
の東南海・南海地震連動型(H15)を用い,最大加
速度は 400gal,継続時間は 300 秒とし,モデル
下面(基盤岩上面)を入力位置とした.
対象断面の地盤モデルを図 4 に示す.当該位
置では堤防盛土下に液状層となる沖積層が堆積
している.層厚は上位から Ags 層:5.2m,Ag1-m
層:7.2m,As 層:18.1m である.
土質試験より設定したパラメータを図中に示
す.また,液状化の目安として平均 N 値,RL20
を併記する.Ags 層,Ag1-m 層は RL20 が小さく
比較的液状化しやすい層であるといえる.
液状化パラメータ
土層区分
φp
(度)
W1
p1
p2
c1
S1
Ags
28.0
2.500
1.200
0.700
1.900
0.005
Ag1-m
28.0
3.500
0.700
0.700
2.000
0.005
As1
28.0
8.500
1.200
0.900
1.900
0.005
図 4 地盤モデル図
A study on the earthquake-resistant method of sea wall
Shunichi AKIBA Kyu-Tae LEE
Yoshiyuki OKAJIMA CTI Engineering Co., Ltd.
Tomofumi KOYAMA Graduate School of Kyoto University
Yuzo OHNISHI Kyoto University
300
4. 解析モデルの検討
モデル化の検討として,消波ブロックを線形要
素でモデル化した結果を図 5 に示す.変形モード
消波ブロックの変形に
地盤が追随
に着目すると護岸前面の消波ブロックの水平変位
に引っ張られる形で地盤が変形しているものの,
実際の挙動としてこのような変形は考え難い.耐
震照査としては,護岸頭部の水平・鉛直変位に着
目することから,消波ブロックの変形は考慮せず,
直下の地盤の応力増加を考慮するため荷重として
図 5 解析結果図
(消波ブロック:線形要素)
図 6 解析モデル
モデル化し自重解析時のみ与えるものとした.
護岸と盛土のモデル化について,筆者らは土要素とコンクリート要素間
の動的相互作用について検討を行ってきており ※ 1 ,護岸と盛土の境界に
養浜盛土による護岸流動の抑制
joint 要素を設け,土要素とコンクリート要素の動的相互作用を適切に表現
するモデルとした.
以上のように設定した解析モデル(図 6)で実施した現況断面の解析結果
堤体の沈下
を図 7 に示す.護岸周りの変形に着目すると,液状化層は流動化し,護岸
背面の盛土は沈下している.一方,護岸前面の養浜盛土は護岸の海側への
流動を抑制する方向に働く.結果として,パラペット護岸がローテーショ
ンを伴う移動となり水平で 71cm(許容値:50cm),鉛直で 70cm(許容値:25cm)
液状化層の流動
図 7 現況解析結果図(護岸周囲)
となる.
5. 鋼矢板による液状化対策
現況モデルの変形モードとして,液状化地盤が表側に流動
する変形となっていること,対象地域の特性として護岸背面
には幹線道路が設置されており,また民家が近接しているこ
とから,施工可能な耐震対策工法として,液状化地盤の流動
化抑制を目的とした鋼管矢板連続壁を適用することとした.
鋼管矢板の設置位置として流動化抑制を目的としているこ
とから,盛土中央付近に設置し,護岸前面からの土圧と背面
からの土圧が調和した位置とすることが望ましいものの,幹
線道路が設置されているため,既設護岸付近に設置すること
図 8 現況解析結果図
とする.また,既設パラペットと鋼管矢板を連結させた場合,
パラペット部分に掛かる慣性力により鋼管矢板の変形も追随
して大きくなることから,既設パラペットと鋼管は連結させ
ず,鋼管上部に新たにパラペットを設置し,鋼管のみで支持
鋼管矢板(両側 joint 要素)
する構造とすることとした.
解析結果を図 9 に示す.液状化層の流動化が抑制されたこ
とから護岸のローテーションが抑制され,全体的な変形は抑
えられている.既設護岸は,許容値を上回る結果(水平 52cm,
鉛直 30cm)となったものの,鋼管矢板上部(新規パラペット護
岸部)では水平が 49cm,鉛直 1cm の変位となった.
6. まとめ
対策工標準図
本研究では,海岸護岸を対象とした耐震性能照査と照査結
果に伴う耐震対策工の検討として,養浜盛土,大型消波ブロ
ックのモデル化,既設コンクリート護岸と地盤との動的相互
作用に着目したモデル化と周辺環境に配慮した対策工の検討
を行った.
7. 参考文献
図 9 対策工解析結果
1) 富澤彰仁,李圭太,岡嶋義行,秋場俊一,小山倫史,大西有三:コンクリート護岸を有する河川堤防の動的挙動解析に関す
る考察,第 47 回地盤工学研究発表会, 2012
2) 国土交通省水管理・国土保全局治水課:河川構造物の耐震性能照査指針・解説, 2012.