山梨県における公共事業評価の 取組み状況について

特集 公共事業の新たな事業手法の推進と事業評価
山梨県における公共事業評価の
取組み状況について
なか
じま
中 嶋
はる
ひこ
晴 彦*
山梨県では、公共事業等の効率性、実施過程の透明性の一層の向上を図り、事業実施に対する県民の理
解を得るとともに、限られた財源等の効果的な執行を図るために、事業の計画・建設から維持管理までの
各段階に応じて評価を行う『公共事業等評価システム』を平成17年度から本格実施している。本稿では、
公共事業評価システムの考え方、評価の体制と手順などについて紹介する。
1.はじめに
れているかをチェックすること(事業貢献度)
公共事業は、県民生活を豊かにし、経済発展の基
盤となるとともに、暮らしと経済活動の安全性を確
保する社会資本を整備することを役割として実施す
るものである。
②事業が効率よく実施されているかをチェックす
ること(事業の経済効率性)
③環境負荷が抑えられているかをチェックするこ
と(環境負荷度)
一方、厳しい財政状況のなか、公共事業の実施に
④社会経済情勢等に合致しているか、地域同意が
あたっては、県民にとって真に必要性が高く、より
図られているかなどをチェックすること(社会
大きな効果が早期に得られる事業を効率的に実施す
要請一致度)
ることが求められている。
⑵ 公共事業評価の方法
そのため本県では、公共事業等の効率性及びその
実施過程の透明性の一層の向上を図っていくため、
評価の目的別に、次の評価方法を採用する。
〔評価の目的〕
〔評価の測定項目〕
①事業貢献度の評価
・事業の目標に対応した成果指標による測定
建設から維持管理までの各段階に応じた、事前評価、
②経済効率性の評価
・費用便益比、整備規模、整備手法、進捗率、
ライフサイクルコストの縮減状況等による評価
再評価、事後評価を実施している(図−1)
。
③環境負荷度の評価
・環境負荷の存在と配慮の程度による評価
④社会要請一致度の
評価
・社会経済情勢等への合致状況、地域同意の状況
(合意形成の熟度)
等の程度による評価
「公共事業等評価システム」に基づき、事業の計画、
(計画)
(予算化)
(着工)
(完了)
(維持管理)
図−2 公共事業評価の目的と評価の方法
事前評価
(調査)
事前評価
(事業)
予算論議
再評価
事後評価
図−1 公共事業等の実施段階に応じた評価の仕組み
⑶ 公共事業評価を実施するうえでの基礎的視点
評価の実施にあたっては、次の3つの視点を踏ま
える。
2.公共事業等評価システムの考え方
⑴ 公共事業評価の目的
本県では、以下の点を目的に公共事業評価を行っ
ている。
①公共事業の役割を果たす事業が計画されて(行
われて)いるか、より成果が上がる事業が行わ
①説明責任(アカウン
タビリティ)の達成
②客観性・透明性の
確保
③評価の効率的な
実施
・県民に将来展望(事
業実施によって生
み出される価値)
を
明確に説明できる
こと
・評価方法、手法等
が論理的・客観的
であり、評価に用
いた資料・データ
や評価結果等を公
開すること
・評価に多大な労力
と経費を必要とし
ない評価手法を選
択し、必要な情報
を効率的に収集で
き、説明責任に耐
えうる評価が実施
できること
図−3 評価システムを支える3つの基礎的視点
*山梨県 県土整備部 総括技術審査監 055-237-1111
月刊建設14−06
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3.評価の体制と手順
①事前評価(平成15年度試行、平成16年度より本
⑴ 公共事業等評価システムの体制と手順
格実施)
新たに事業費や準備・計画に要する費用を予算
評価の体制は、公共事業等を所管している森林環
境部、農政部、県土整備部の3部で構成されており、
化しようとする事業に対して、事業実施の妥当性
各部毎に決定機関である「公共事業評価会議」が設
や政策目標に対応した事業開始の優先度などを判
置されている。また、評価の適正化を図るため、第
断するもの。
三者の意見を求める機関として学識経験者等による
〔評価会議対象事業〕
「山梨県公共事業評価委員会」が設置されており、
実施要綱で定める事業で、
公共事業等の実施にあたっては、ここにおける意見
公共関与が必要であり、県が事業主体となる
及び助言を尊重するものとしている(図−4)
。
べき公共事業
公共関与が必要であり、
県が補助する公共事業
公共事業調整会議
(第1次調整)
林務環境事務所
農務事務所
評価調書
評価調書
森林環境部
農政部
(原案作成)
上の事業の事業化に必要な調査
評価対象事業のうち、事業規模1億円以上の
建設事務所
事業
評価調書
〔外部評価対象事業〕
県土整備部
事前評価対象事業のうち、事業規模10億円以
(評価調書作成)
評価調書
評価調書
評価調書
上の事業(ただし、調査、及び県が補助する
事業で市町村が外部評価委員会に諮ってある
各 部 局 間 調 整
(第2次調整)
評価調書
山梨県公共事業評価委員会
(外部評価)
評価調書
評価調書
場合は除く)
評価調書
評価調書
②再評価(平成10年度より実施)
評価調書
事業開始後、一定期間を経過しても完了しない
事業などについて実施し、事業の継続もしくは中
公共事業評価会議(各部)
止等の方針を決定するもの。
評価調書
評価調書
評価調書
〔評価会議対象事業〕
○実施事業等の選定と優先度の決定 (事前評価)
○事業継続の是非の決定 (再評価)
○成果の達成度の検証と改善事項の設定(事後評価)
実施要綱で定める事業で、
公表
・事業採択後5年間経過した時点で未着工の
事業
図−4 公共事業評価の体制と手順
・事業採択後10年間経過した時点で継続中の
事業
⑵ 評価の種類と評価対象
・事業採択前の準備計画段階で5年間が経過
山梨県公共事業評価実施要綱(以下、
「実施要綱」
している事業
という)では、公共事業評価の対象となる事業は、
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県(森林環境部、農政部及び県土整備部)が実施主
・再評価実施後5年間経過した時点で未着工
体となって行う社会資本整備のための事業(事業化
または継続中の事業(ただし、供用開始後
に必要な調査を含む)及び市町村等が実施主体と
の流域下水道事業にあっては10年間とする。
なって行う社会資本整備に対する市町村等への補助
なお、10年以内であっても、全体計画に変
事業で、災害復旧、維持管理等(補修・修繕を含む)
更が生じた場合は、対象とする)
を目的とする事業等は対象事業から除くことができ
〔外部評価対象事業〕
るとしている。
月刊建設14−06
再評価対象事業の全事業
③事後評価(平成16年度試行、平成17年度より本
設置し、道路計画の専門家からの助言を受けながら
格実施)
議論を重ね、本県独自のマニュアルを策定した。具
事業完了後に、事業の効果や環境への影響、成
体的には、従来の「走行時間短縮便益」、「走行経費
果の達成度などの確認を行い、必要に応じて適切
減少便益」、「交通事故減少便益」の3大便益に加え、
な改善措置等を検討・実施するためのもの。
山梨県の特性や実情を考慮して、「通行規制解消便
益」、「災害解消便益」、「救急救命率向上便益」、「観
〔評価会議対象事業〕
光客増加便益」などの7つの便益項目を追加し、総
実施要綱で定める事業で、
合的に評価することとした。このマニュアルについ
総事業費10億円以上の事業(完了した年度か
ては、公共事業評価委員会で審議を経て、平成21年
ら5年を経過する年度)
度より導入している。
全体計画において完成または概成した水系・
幹川で新たな事業を実施する必要が生じた当
該計画にかかる全事業(治山事業または砂防
制度導入から平成25年度までの実績は次のとおり
事業に限る)
である。
その他社会経済情勢の変化等により事後評価
(事前評価)
の実施が必要と判断した事業(必要と判断し
た時点)
〔外部評価対象事業〕
6.実施状況
事後評価対象事業の全事業
4.評価制度の見直し
公共事業評価システムの本格稼働から3年経過し、
評価業務が公共事業所管部に定着したことを踏まえ、
評価の迅速化等の観点から、次のとおり評価制度の
評価結果
新規事業
調査事業
実施
667件
359件
次年度以降
13件
4件
要検討
─
10件
合計
680件
373件
(再評価)
評価結果
件数
継続
335件
条件付継続
100件
休止
1件
見直しを行った。平成20年度以降の評価は新制度に
中止
7件
より実施している。
合計
443件
・庁内評価会議による最終評価を廃止し、公共事
業所管部内に評価会議を新たに設置
・農水省の基準改定にあわせ再評価対象事業を見
直し、事業開始からの経過年数を5年から10年
(事後評価)
評価結果
件数
今後の維持管理に留意必要
3件
特段の改善措置不要
123件
合計
126件
に変更
・評価調書の簡略化
7.おわりに
5.道路事業の費用便益分析
平成17年度から本格実施している本県の公共事業
本県では、車への依存度が極めて高いことから、
評価システムにより、公共事業等の効率性、実施過
道路事業について、平成20年度の公共事業評価委員
程の透明性の一層の向上を図り、限られた財源等の
会において、
「県民へよりわかりやすく説明するため、
効果的な執行に大きく寄与してきた。
本県の実情に即した評価手法等を導入していくこと
が重要である。
」との意見が出された。
これらを踏まえ、県では平成21年度に小委員会を
今後は、各分野における技術の進展や社会経済情
勢の変化に応じながら、適時適切に評価システムを
見直しながら、
県民への説明責任を果たしていきたい。
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