台風・大雪・土砂崩れなどによる 交通機関運休に伴う欠勤と賞与の取り扱い

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賞 与 関 係
台風・大雪・土砂崩れなどによる
交通機関運休に伴う欠勤と賞与の取り扱い
豪雨による土砂崩れで公共交通機関が全面的に運休し、数日間出社できない社員
が複数発生しました。後日、対象者のうち希望者は年次有給休暇(以下、年休)扱
い、その他の者は欠勤扱いとしました。ところで、当社では、賞与の支給に際して、
考課結果などから算定された賞与額に出勤率を乗じて支給する定めがあります。こ
のケースの場合、年休扱いと欠勤扱いで賞与額の算定(出勤率)に差異が出ても問
(広島県 M社)
題ないでしょうか。
賞与の性格からして、賞与額の算定は就業規則の規定に反しない限り使
用者の裁量の範囲にある。しかし、年休取得者への不利益取り扱いの禁
止により、年休扱いの者を欠勤として取り扱うことはできないため、両
者の間で賞与の算定に差異が出てもやむを得ない
回答者 岡芹健夫 おかぜり たけお 弁護士
(髙井・岡芹法律事務所 所長)
1.賞与の性格
んが、その判断基準として、行政通達は「定期又
ご質問では、賞与の支給額が問題となっていま
は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて
すので、まずは賞与の性格について理解しておき
支給されるものであつて、その支給額が予め確定
ましょう。
されていないものをいう」
(昭22. 9.13 発基17)
賞与とは、一般に半年等一定の期間ごとに会社、
としています。また、労基法89条 4 号は、賞与が
個人の業績に基づき従業員に支払われる金員であ
会社内で制度として設けられる場合には、就業規
り、月例給与がコストとされるのに対して、賞与
則に規定するように求めています。
は利益を原資として配分されているのが一般的で
賞与は、このような多面的な性格を有し、原則
す。こうした賞与の性格は、基本的には支給対象
として支給額が変わり得るものであるために、就
期間の勤務に対応する賃金ということになります
業規則において賞与の制度を設けるとしても、そ
ほ てん
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が、そこには功労報償的意味のみならず、生活補填
の制度内容は、個々の企業ごとにその支給条件、
的意味、将来の労働への意欲向上策としての意味
決定方法、査定方法等が規定されます。また、公
も込められているというのが一般的な見解とされ
序良俗や労働法の強行法規に反しない限り、企業
ています(菅野和夫『労働法 第10版』[弘文堂]
としてはその制度内容を自由に決定し得ることと
291ページ)
。
なります。さらに言えば、実務上、賞与の規定内
法令の面から見ると、労働基準法(以下、労基
容として、
「具体額は支給対象期間における会社業
法)には賞与について規定したところはありませ
績、従業員の業績を勘案して、会社が決定する」
労政時報 第3884号/15. 3.13
とされていることが多いですが、そうした会社業
績や従業員の業績の勘案も、それが恣意的であり
い」との結論は不当なものではないと考えます。
[2]
年休取得の不利益取り扱いの禁止
従業員間で不公平なものであることや、あるいは
しかし、前述したとおり、それが労働法等の強
不公正(例えば、組合員を意識して差別するなど。
行法規に反する場合は許されません。その点で、
これは労働組合法 7 条 1 号の組合員への不利益取
ご質問のように年休扱いにした場合、労基法136条
り扱いとして労働法の上でも違法です)なもので
が、年休取得による不利益取り扱いを禁止してい
なければ、法的には許容されることとなります。
る点を考慮しなければなりません。この点につき、
なお、実務における賞与の中には、
「月例給○カ
エス・ウント・エー事件(最高裁三小 平 4. 2.18判
月分」といったように具体額を規定している場合
決 労判609号12ページ)は、賞与の算出において
もあります。これは、前述の行政通達に照らせば、
年休取得日を欠勤扱いすることを無効としていま
厳密な意味で賞与とするかは疑問な部分もありま
す。したがって、事象としては「休み」であって
すが、原則として月に 1 度支払うべきとされてい
も、これを年休扱いした場合は、賞与の算出にお
る月例給との違いは看過されるべきではありませ
いては出勤日とみなすべきこととなります。なお、
ん。少なくとも、支給の有無あるいは加減につき
欠勤した場合、年休に振り替えることはできます
想定されるような事情(典型的には就業規則の規
が、その場合は就業規則に規定しておくことが必
定)があれば、やはり、一定程度の会社側の裁量
要です(昭23.12.25 基収4281、昭63. 3.14 基発
が認められると考えられます。
150・婦発47)
。
一方、ご質問において年休扱いとされなかった
2.年休扱いと欠勤扱い
「欠勤」については、原則どおり、あくまで欠勤日
では、前述1.の基本論を前提に、ご質問のケー
(出勤率計算上、出勤しなかった日)として取り扱
スを考えてみます。
えば足りるということとなります。
[1]
休みと賞与支給額の算定(原則論)
休み(
「有給」ではない単なる「休暇」を指しま
3.ご質問のケースへの当てはめ
す)を取得した場合、休みを取得しない場合と比較
以上により、ご質問のケースでは、年休扱いと
して会社に対する貢献度が異なることは明白ですの
欠勤扱いとで賞与支給額の算定に差異が出ても法
で、これを賞与支給額の算定において考慮すること
的には問題ないでしょう。
は基本的には許されます。これは、休みがご質問の
なお、一応付言すれば、以上は、あくまで法的
ような交通機関の運休といった従業員にとって不可
に問題はないということですので、会社側が考慮
抗力によるものであっても変わりません。なお、実
して、年休扱いとせず欠勤扱いとなった従業員に
質的に考えても、こうした従業員にとって不可抗力
対しても、賞与支給額の算定においては、年休扱
による欠勤については、それが使用者の責めによる
いとなった従業員同様に出勤したものと取り扱う
ものでなければ、従業員は賃金請求権を有しません
ことが法的に許されないということではありませ
から(民法536条 1 項)
、
「差異が出てもやむを得な
ん。
※岡芹健夫弁護士による『労働条件の不利益変更 適正な対応と実務』(労務行政、2015年 3 月)が刊行されました。
詳しくは、本号の裏表紙をご覧ください。
労政時報 第3884号/15. 3.13
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