貿易赤字の続くなかでの原油価格の急落(その 1) 急落後の原油価格は、異常高騰以前への回帰である 2015/03/11 オピニオン 久保田 宏 東京工業大学名誉教授 いま、日本経済を苦しめている貿易赤字の大きな要因となっている原油価格が、昨年(2014 年)の後半、や や、突然、急落した。この下落がどうして起こったのか、と何時に、どこまで下がるのかが問題になっている。 これらの問題について、先ず、考えてみる。 2005 年頃からの原油価格の高騰は、市場経済原理を離れた異常な高騰であった エネルギー経済統計データ(エネ研データ(文献 1-1 ) )から、日本における原油の輸入 CIF 価格(US ドル/バ レル)の年次変化を図 1-1 に示した。この輸入 CIF 価格とは、産地の出荷価格に運賃と保険料を上乗せした価格 である。産油地から遠い日本の値でも、他の先進諸国の値に比べて余り大きな差が無い(輸送費の比率が余り大 きくない)ことから、ここでは、この日本での輸入価格を国際貿易市場での原油価格とほぼ等しいと見なすこと にする。 図 1-1 に見られるように、輸入 CIF 価格で表される原油価格は、1980 年代初めの石油危機に伴う高値が次第 に減少し、1990 年代初めを底値にして、やがて、ゆるやかな上昇に転じていた年次増加が、2005 年以降、明ら かに異常な高騰を示し、それが、今回(2014 年の暮れ)の急落まで続いていた。 この図 1-1 に示した原油価格の年次変化と、図 1-2 に示した世界の石油の消費量(資源量としての一次エネル ギー消費量で表した値、エネ研データ(文献 1-1 )の IEA(国際エネルギー機関)のデータから)の年次変化と の相関を調べてみたのが図 1-3 である。この図 1-3 からも、2005 年以降の原油価格の高騰が、世界の石油の年 間消費量が 2005 年以降、殆ど伸びていない中での、すなわち、市場経済原理を離れた異常な高騰であることが 判る。 先物市場の取引対象にされて起こった原油価格の異常高騰 原油の生産コストは、生産地の地理的条件、生産される原油の物理化学的性状等によって大きく左右される。 水野ら(文献 1-2 )は、最も安価な、サウジアラビア原油では、開発、生産コストがそえぞれ、1.5 ドル、総計 で 3 ドル、中東諸国の平均でも 5 ドル以下、一方で、アメリカやヨーロッパの沖合油田では、生産費が 10 ドル、 総計で 13 ドルだが、さらに、カナダのオイルサンド由来の原油では、軽質化のコストが必要になり、平均出荷 額は 50 ドル以上にもなるとしている。 Copyright © 2015 NPO 法人 国際環境経済研究所. All rights reserved. このように、その生産コストが、産出国別で大きく変化する状況のなかで、石油危機時の高騰に見られるよう に、国際貿易市場の原油価格は、その生産コストには無関係に、需要と供給のバランスの崩れに、政治的な要因 が入り込むことで大きく変化する。さらに、水野ら(文献 1-2 )が指摘するように、この政治による介入を超え て、大きく入り込んでいたのが、2005 年以降の原油の異常高騰で、その原因は、世界的な経済不況による先進 諸国での低金利政策が採られるなかで、原油が先物市場における取引対象とされてしまったためである。 原油輸入 CIF 価格 140 ドル/バレル 120 100 80 60 40 20 0 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 年度 図 1-1 原油の輸入 CIF 価格の年次変化、十字印は、2014 年度暮の価格 (エネ研データ(文献 1-1 )を基に作成) 一次エネルギー(化石燃料)消費 4500 石油換算百万トン 4000 石油 3500 3000 石炭 2500 2000 天然ガス 1500 1000 500 0 1960 1970 1980 1990 2000 2010 2020 年 図 1-2 世界の化石燃料種類別一次エネルギー消費量の年次変化 (IEA データ(エネ研データ(文献 1-1 )から)を基に作成) Copyright © 2015 NPO 法人 国際環境経済研究所. All rights reserved. US㌦/バレル 120 原油輸入 11 年 100 80 価格 CIF 10 年 09 年 05 年 60 80 年 40 20 0 73 年 0 1,000 2,000 3,000 90 年 00 年 4,000 5,000 一次エネルギー消費(石油) 石油換算百万トン/年 図 1-3 世界の一次エネギー消費(石油)と日本の原油輸入 CIF 価格の関係 (IEA データを含むエネ研データ(文献 1-1 )を基に作成) 今回の原油価格の下落は、市場経済原理に基づく価格への回帰と見ることができる この異常と見られる 2005 年以降の原油価格の高騰が、昨年(2014 年)の後半、急に下落した。この原因と しては、世界的な景気後退のなかで、図 1-2 に見られるように、エネルギー資源として高価になった石油の需要 の停滞 (石炭や天然ガスではみられない) のなかで、 世界の原油の生産量の 32.8 %を占める中東の石油生産 (2012 年)に主導権を持つサウジアラビアが、価格維持のための生産調整を行わないと発表したためとされている。こ の価格の下落が余りに急であったから、一時は、一体、どこまで下がるのかが問題にされたが、現在(2014 の 暮れから 2015 年の初めにかけて) 、どうやら 45 ドル /バレル 前後に落ち着いているようである。 この現在の原油輸入 CIF 価格の値は、図 1-1 と図 1-3 に、十字印で示したように、1973 年と 1978 年の 2 度の石油危機の影響がなくなって、1993 年頃から始まり 2004 年まで続いていた比較的ゆっくりした年次上昇 の曲線上に戻ったと見ることができる。すなわち、本来の需要と供給の市場経済の原理に基づいて決まる原油価 格に回帰したと見てもよさそうである。 <引用文献> 1-1.日本エネルギー経済研究所 計量分析ユニット編:エネルギー・経済統計要覧、省エネルギーセンター、2014 年 1-2.水野和夫、川島博之 編著:世界史の中の資本主義、エネルギー、食料、国家はどうなるか、東洋経済新報社、2013 年 Copyright © 2015 NPO 法人 国際環境経済研究所. All rights reserved.
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