【A-2コース】 テキスト

マンション建替え・改修アドバイザー制度
【A-2コース】
「老朽度判定・建替えと修繕の費用対効果の説明」
テキスト
このテキストは、主として、国土交通省「建替え・改修に関するマニュアル」
からの抜粋により作成しています。
抜粋しているマニュアルは、
「マンションの建替えか修繕かを判断するためのマニュアル」です。
1)マニュアル-P1~5 ・・・・・ 1 ~ 5
2)マニュアル-P6~12 ・・・・・ 6 ~ 12
3)マニュアル-P43~46 ・・・・・13 ~ 16
4)マニュアル-P65~72 ・・・・・17 ~ 24
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1
Ⅰ-1.マンションの老朽度の判定
(ⅰ)管理組合における簡易判定 ―①基本的考え方
マンションの修繕・改修の所要費用と改善効果を把握するためには、第一ステップとして、当該マン
ションの老朽度を客観的に把握することが必要になります。
マンションの老朽度の判定は、専門的な診断や判断が必要となることから、一般の区分所有者の方
のみで実施することは難しく、建物・設備診断等の専門家による判定を受けることが必要となります。し
かし、専門家に依頼する前に、一般の区分所有者の方々が、自らのマンションの現状を大まかにでも
認識しておくことが望まれます。
このため、まずは、管理組合において、自らマンションの状況を理解し、専門家による詳細判定を受
ける必要があるかどうかの確認をするための「簡易判定」の行い方について示します。
●簡易判定の基本的考え方
・ 老朽度の簡易判定においては、専門的な技術や器具等に頼ることなく、目視や簡易な手法等で管理組
合(区分所有者)が当該マンションの状況を大まかに判断することが可能な項目を抽出します。大きくは、
「安全性判定」と「居住性判定」の2つの体系とします。
・ 安全性判定に関する項目は、構造安全性と避難安全性の観点から判定します。いずれの項目も居住者
の安全性(人命保護)に関わる重要な項目ですから、「問題ありの可能性がある」に該当する項目が一つ
でもあれば、「安全上の危険性がある」ものとして、専門家による詳細判定を受けるようにして下さい。
・ 一方、居住性判断に関する項目については、躯体及び断熱仕様に規定される居住性や設備の水準の
観点から判定します。これらの項目は、安全性のような絶対的な項目ではなく、区分所有者の現マンショ
ンに対する不満や改善ニーズにより、その重要性や判定結果が異なることになる相対的な項目であると
言えます。このため、専門家による詳細判定を受けるかどうかは、区分所有者の方々の改善ニーズに応
じて、管理組合において任意に判断して下さい。
□管理組合向けの簡易判定の体系
安全性判定:構造安全性・避難安全性につい
ての簡易判定
一つでも該当すれば専門
家の判定を受ける
専門家の
詳細判定
による老
居住性判定:躯体及び断熱仕様に規定される
居住性・設備の水準等について
の簡易判定
-6-
専門家の判定を受けるか
どうかは管理組合で任意
に判断
朽状況等
の客観的
把握
Ⅰ-1.マンションの老朽度の判定
(ⅰ)管理組合における簡易判定 ―②簡易判定の方法
管理組合による当該マンションの老朽度の簡易判定の方法について説明します。
●管理組合における簡易判定
・ 管理組合における簡易判定は、安全性の判定と居住性の判定について行うこととします。その確認項目
は下表のようになります。管理組合において判定を行い、確認結果欄を記入(チェック)してみて下さい。
・ 記入にあたっては、共用部分に関して目視や実測等で容易に判断できる項目については、管理組合の
判断で記入して下さい。一方、専有部分に関する項目や居住者の評価にかかわる項目については、ア
ンケートを行うなどして、各区分所有者(居住者)の意識や不満の状況等を把握し、その結果を集約して
記入して下さい。 なお、複数棟の団地の場合は、棟ごとに判定を行うようにして下さい。
<安全性の判定>
確認項目
確認結果
1.構造安全性
①マンションの建築確認がなされた年は
1981(昭和 56)年6月1日以前か
□以前である
□以降である
②ピロティや、壁のない独立柱はあるか
□ある □ない
③外壁や柱、梁等にひびが入っているところ
が目立つか
④外壁や柱、梁等のコンクリートが欠けた
り、剥がれたりしているか
⑤庇やバルコニーの付け根にひび割れがみ
られるか
⑥外壁のタイル等が浮いたり、剥がれ落ちた
りしているか
⑦雨漏りや、上階からの漏水が目立つか
□目立つ
□目立たない
□剥がれている
□剥がれていない
想定される問題
⇒耐震性能が低く、地震時に
危険のある可能性がある
⇒建築材料が劣化しており、
建物の構造安全性や耐久
性に支障のある可能性が
ある
□みられる
□みられない
□剥がれている
□剥がれていない
□目立つ
□目立たない
2・防火・避難安全性
⑧本来勾配のない建物本体の床版(エントラン □転がる
スホールや階段室の踊り場等)にビー玉を置 □転がらない
くと自然に転がるか
⇒建物が傾斜しており、構造
安全性や日常生活に支障
のある可能性がある
⑨共用廊下や階段の幅員はどのくらいか
⇒火災などが起こった時に、
(共用階段 900 ㎜未満、共用廊下 1200 ㎜
㎜
避難上の危険がある可能
未満の場合は問題あり。ただし、両側に住 □幅員が足りてい
性がある
る
戸がある廊下は幅 1600 ㎜未満、避難用
階段では幅 1200 ㎜未満では問題あり) □幅員が足らない
⑩バルコニー側から隣の階段室の住戸また □避難できる
□避難できない
は下階の住宅に容易に避難できるか
評価
上記項目について、下線部(問題ありの可能性 □ある
があるもの)に該当するものがあるか
⇒当該項目について、専門家による判定を受け
る必要がある
□ない
⇒居住性判定の結果とあわせて、専門家による
判定を受けるかどうかを管理組合で判断する
-7-
<居住性の判定>
3.躯体及び断熱仕様に規定される居住性
確認事項
確認結果
①部屋(天井)の高さに圧迫感などを感じて □多い
いる者が多いか
□多くはない
想定される問題
⇒階高が十分ではない可能
性がある
②上階や隣戸のトイレの水を流す音が聞こ □聞こえる
えるか
□聞こえない
⇒建物の遮音性に問題のあ
る可能性がある
③住棟外部から1階住戸までのアプローチ
部分に段差があるか
④住棟外部から1階のエレベーターホール
までの段差部にスロープがあるか
⇒バリアフリー対応(高齢者
□ある
□ない
□ある
□ない
⑤玄関扉やポーチ部分に大きな段差がある
か
⑥浴室やトイレの出入口部分に大きな段差があ
るか
⑦共用廊下や階段、住棟へのアプローチ部分
に補助手すりが設置されているか
⑧サッシのまわりから「すきま風」が入って
くるか
⑨住戸内に結露が目立つか
□ある
□ない
□ある
□ない
□設置されている
□設置されていない
□入ってくる
□入ってこない
□目立つ
□目立たない
⑩住戸が狭いと感じているか者が多いか
□多い
□多くはない
⑪洗濯機置場がなくて不便と感じている者 □多い
が多いか
□多くはない
⑫赤水が出ることがあるか
□出る
□出ない
⑬シャワーの水圧等は充分か
4・設備の水準
□充分
□不充分
⑭給水管がコンクリートの中に埋設されて □埋設されている
いないか
□埋設されていない
⑮排水管が詰まることがよくあるか
□よく詰まる
□詰まらない
⑯排水管がコンクリートの中に埋設されて □埋設されている
いないか
□埋設されていない
⑰一度に色々な家電製品を使うとヒューズ □ある
が飛ぶことがあるか
□ない
5.エレベーター ⑱4・5階建ての住棟にエレ □ある
の設置状況
ベーターはあるか
□ない
対応)が十分でない可能性
がある
⇒断熱性に支障のある可能
性がある
⇒住戸面積が現在の一般レ
ベルからみて十分でない
可能性がある
⇒給水設備が劣化している
可能性があります。また、
劣化した給水設備の点検
や交換が容易ではない
⇒排水設備が劣化している
可能性があります。また、
劣化した排水設備の点検
や交換が容易ではない
⇒電気容量が現在の一般レ
ベルからみて不足してい
る可能性がある
⇒バリアフリー対応(高齢者
対応)が十分でない
評価
上記項目のうち、下線部(問題ありの可能性
があるもの)に該当する項目はいくつある
項目/18項目
か? また、該当項目に対する管理組合の不
満は大きいか・改善ニーズは大きいか
⇒上記の該当項目の結果と、その項目に対する区分
所有者の不満や改善ニーズの大きさ等を踏まえ
て、各項目について専門家判断を受けるかどうか
を管理組合で決める
-8-
<安全性の判定>
1.構造安全性
【耐震性能】
当該マンションの耐震性能について、「①マンションの完成した年は 1981 年以前か」「②ピロティはあるか」の
項目により確認します。
わが国の建築物の耐震性に関する法令は、過去の震災の教訓等を基に何度か見直しが行われています。近
年における最も大きな見直しは 1981(昭和 56)年の建築基準法改正であり、これに基づく新しい耐震基準が同年
年 6 月1日から施行されました。概ねこれ以降に建設された建物は、今日の基準に準じた性能を有しているもの
と考えられます。また、1995 年(平成 7 年)12 月 25 日に「建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促
進法)」が施行され、現在の新耐震基準を満たさない建築物について積極的に耐震診断や改修を進めることとさ
れました。したがって、当該マンションの耐震性を大まかに確認するには、この新耐震基準の施行日以前に確認
申請がなされたマンションかどうかという年月日を調べることが一つの目安となります。
このほかに、マンションの建物形状から大まかに耐震性をみる目安としてピロティや壁のない独立柱の有無が
あります。鉄筋コンクリート造の建築物は柱や梁の他に耐震壁と呼ばれる壁によって構造を支えているものが一
般的ですが、ピロティのように開放された空間や、壁とつながっていない独立柱が多く耐震壁が少ない場合に
は、地震に対する安全性に問題のある場合があります。
【建築材料の劣化】
建築材料の劣化による建物の構造安全性や耐久性上の問題について、「③外壁や柱、梁等にひびが入って
いるところが目立つか」「④外壁や柱、梁等のコンクリートが欠けたり、剥がれたりしているか」「⑤庇やバルコニー
の付け根にひび割れがみられるか」「⑥外壁のタイル等が浮いたり、剥がれ落ちたりしているか」「⑦雨漏りや、
上階からの漏水が目立つか」の各項目により確認します。
経年によるコンクリートの劣化や鉄筋腐食等により、外壁や柱、庇やバルコニー等におけるコンクリートの剥離
や、ひび割れ、外壁タイル等の仕上げ材料の浮きや剥落が生じていることがあります。コンクリート片が剥落し中
の鉄筋が露出している場合や、ひび割れ部分からの赤茶色のさび汁による外壁の汚れが目につく場合は、特
に劣化が著しいことが予想されます。また、防水層や躯体の劣化等により雨水のしみ出しや水漏れが頻繁に生
じることもあります。こうした躯体の材料劣化は、建物の耐久性や地震に対する安全性の問題を生じさせることに
なります。
【建物の傾斜等の構造不具合】
建設当時から今日に到る経年による劣化で、マンションの構造躯体に不具合が生じることもあります。構造不
具合のうち、一般の区分所有者でも比較的容易に確認が可能な項目として、建物(基礎、柱、壁等)の傾斜があ
ります。「⑧本来勾配のない建物本体の床版にビー玉を置くと自然に転がるか」の項目により確認します。建物
の傾斜は、構造の安全性と居住者の日常生活上の障害を引き起こすことにもなります。
-9-
2.防火・避難安全性
火災時の避難上の安全性が確保されているかどうかについて、「⑨共用廊下や階段の幅員はどのくらいか」
「⑩バルコニー側から隣または下階の住宅に容易に避難できるか」の項目により確認します。
共用廊下や階段の幅員については、火災時の避難が円滑にできるように階段や廊下の幅員が定められてい
ます。現行の建築基準法令(建築基準法施行令第 119~121 条)では共用階段で 900 ㎜、共用廊下で 1200 ㎜
(片廊下住棟の場合)と定められています。このため、現状でこれらを下回るマンションにおいては、現行の法令
以前に建設され、現行の法令に適さないマンションであると考えられます。
また、住戸出入口付近の階段や共用廊下側で火災が発生した場合には、反対側のバルコニー側から下階や
隣戸を通じて反対側の階段への避難が可能なことが必要とされます。このため、バルコニー側の隣戸との隔板
が突破可能な構造になっているか、下階への垂直避難口が設けられているか等の安全性の確保の確認が重要
になります。(ただし、マンションの階数や規模、当該マンションの所轄の消防指導によっては、こうした対策を避
難器具や屋内消火栓等の設置によって緩和している場合もあります。)
○バルコニー側からの2方向避難の考え方
火災
容易に突破可能な隔板により他の階段
(室)への避難が可能
垂直避難口等により下階への避
難が可能
<居住性の判定>
3.躯体及び断熱仕様に規定される居住性
【階高】
近年の新築マンションと比べ、建築後相当の年数が経過したマンションにおいて陳腐化のみられる一つの要素
として、階高が挙げられます。階高寸法(天井方向の高さ)にゆとりのないマンションでは、居住する上での圧迫
感を感じさせることに加え、住戸内のリフォームの際にもバリアフリー(段差解消)のための床の高さ処理や水廻り
位置の変更の際の床下排水管の勾配設定等に大きな制約を受けることになります。こうした不満の程度につい
て「①部屋(天井)の高さに圧迫感などを感じている者が多いか」の項目で確認します。
【遮音性】
マンション居住の大きなトラブルとして、上下階や隣戸との騒音のトラブルが挙げられ、遮音性の向上は大き
な改善ニーズになると考えられます。こうした不満の程度について、「②上階や隣戸のトイレの水を流す音が聞こ
えるか」の項目で確認します。
-10-
【バリアフリー性】
出入口の段差解消や廊下・階段への手すりの設置といったバリアフリー化は、一般的な住宅の性能として定
着しつつあります。こうした点について、「③住棟外部から1階住戸までのアプローチ部分に段差があるか」「④
住棟外部から1階のエレベーターホールまでの段差部にスロープがあるか」「⑤玄関扉やポーチ部分に大きな
段差があるか」「⑥浴室やトイレの出入口部分に大きな段差があるか」「⑦共用廊下や階段、住棟へのアプローチ
部分に補助手すりが設置されているか」の各項目により確認します。
建築後年数が相当経過してくると、居住者の高齢化も進展する場合が多いことから、こうしたバ
リアフリーに係る項目をどのように評価するかの確認が必要になると考えられます。
【断熱性】
建築後年数が相当経過したマンションと新築マンションの性能の大きな違いとして、気密・断熱
性能等に関する省エネルギー性能も挙げられます。昭和 30~40 年代に建設されたマンションにつ
いては、外壁や屋根等への断熱材の設置やサッシの性能が今日に比べ不十分なものもあり、これら
の居住性への影響として住戸内へのすきま風や結露などが発生することもあります。これについて、
「⑧サッシのまわりから「すきま風」が入ってくるか」
「⑨住戸内に結露が目立つか」の項目により
確認します。
【住戸面積】
建築後年数が相当経過したマンションは、近年の新築マンションに比べて住戸面積が狭く、その結果、
洗濯機置場が設置されていないことが、建替えを検討し始める大きな要因になる場合があります。居住
者の不満が大きいと考えられる項目であり、この点について、
「⑩住戸が狭いと感じているか者が多いか」
「⑪洗濯機置場がなくて不便と感じている者が多いか」の項目により確認します。
4.設備の水準
【給排水管の劣化と交換容易性】
建替えを検討し始めるマンションにおいては、給水管や排水管の設備も取り替える必要がある更新時期を迎
えているものが多いと考えられます。これらについて、「⑫赤水が出ることがあるか」「⑬シャワーの水圧等は充分
か」「⑮排水管が詰まることがよくあるか」の項目により給排水管の劣化状況を確認します。
また、昭和 30 年代頃に建設されたマンションでは、給排水管をコンクリート躯体の中に埋設・隠蔽してしまってい
るものも多く、こうした場合は、配管を取り替えることが容易ではなく、場合によっては外壁に配管を露出させて設
置しなければならず、マンションの美観等を大きく損なうものもみられます。配管の交換容易性については、「⑭
給水管がコンクリートの中に埋設されていないか」「⑯排水管がコンクリートの中に埋設されていないか」の項目
で確認します。
<電気容量>
マンションが建設された当時と比べると、今日では家庭における電気消費量は格段に増加しています。建設
当時のままの定格電力では、複数の家電製品を同時に使った場合にヒューズがとぶなど、生活上の支障を来す
ことがあります。この点について、「⑰一度に色々な家電製品を使うとヒューズが飛ぶことがあるか」の項目で確認
します。
マンションの各住戸において、こうした消費電力量の増大に対応していくためには、電力会社との定
格電力の変更等が求められますが、築 30 年程度を経過したマンションにおいては、マンション全体で有
している受電設備の容量が少なく、マンション内の全住戸の定格電力を挙げていくことは難しいものも
みられます。
-11-
5.エレベーターの設置状況
マンションを含むこれまでの中層建築物においては、5階建て以下の建物ではエレベーターが設置されてい
ないものが多数あります。しかし、近年においては、高齢社会の進展や生活利便性の向上等の観点から、4・5
階建ての中層住宅においてもエレベーターの設置が必要とされるようになってきています。こうした点につい
て、「⑱4・5階建ての住棟にエレベーターはあるか」の項目で確認します。
●簡易判定から専門家による詳細判定へ
管理組合で簡易判定を行った結果、「安全性判定の項目に問題ありの箇所がある」「居住性判定の項
目にも問題ありの箇所が多くて不安だ」ということになれば、専門家に詳細な判定を依頼して下さい。まず
は、当該マンションの管理会社に相談することが考えられます。そのほか、過去に建物診断や修繕工事を依
頼した専門家に相談することが考えられます。
なお、専門家向けの老朽度判定の進め方については、次頁から始まります。
専門家が記入する「マンション老朽度判定結果記入シート」を次頁から示しています。専門家に正式な
依頼を行う際には、このシートに判定結果を記入してもらうようにして下さい。
-12-
Ⅰ-2 現マンションに対する不満やニーズの把握
建替えと修繕・改修のどちらが合理的であるかを比較判断するためには、客観的な老朽度の判定に
加えて、各区分所有者が現在のマンションに抱いている不満や改善ニーズを的確に把握することが必
要となります。
●現マンションに対する不満やニーズの適切な把握
・ 各区分所有者が現在のマンションに抱いている不満・改善ニーズや、修繕・改修を行う場合に期待する
住宅の水準、修繕・改修では困難であるものの建替えを行う場合には実現したいと期待する住宅の水準
や住まい方等の改善ニーズを、アンケート等により把握します。例えば、以下のような内容が考えられま
す。
□不満やニーズを把握するためのアンケート等の項目(例)
(1)現在の住宅や住環境に対する満足(評価できる点)
(2)現在の住宅に対する不満
建物の老朽化(ひび割れ・漏水・建物の沈下・地震時の不安等)/建物の外観イメージが悪い/給
排水管の劣化・設備の陳腐化/周りからの音がうるさい/住宅の狭さ・間取りが使いにくい/洗濯機置
場がない/エレベーターがない/修繕費がかさむ
等
(3)現在の住環境等に対する不満
駐車場が不足/バイク置き場・駐輪場が不足/集会(総会)室がない/日当たりが悪い/空地や子
供の遊び場がない/コミュニティの問題
等
(4)修繕・改修を行う場合に期待する住宅の水準等
(5)建替えを行う場合に期待する住宅の水準や住まい方等
地震に対する安心感を高めたい/住戸面積を広くしたい/エレベーターが欲しい/電気容量を大
きくしたい/駐車場が欲しい
等
・ アンケートや意向調査等は全区分所有者を対象とし、全員の回答が得られるよう努める必要があります。
そのためには、検討組織メンバーが居住者を直接訪問して配布回収したり、不在区分所有者に対して
は、電話や定期的に訪問して回答を依頼することが必要になります。専門家に任せきりにするのではな
く、検討組織がコミュニケーションを行いながら実施することが効果的です。
・ また、アンケートだけでは表面的な意見しか把握できないこともあります。インタビュー等の直接的な意
向把握手法を併用したり、様々な意見を自由に言い合えるような場を設けることが望まれます。
◎専門家の関わり方のポイント
・ この段階では、建替えや修繕・改修への賛否を直接的に尋ねるような段階ではまだありません。専門家
は、アンケートやヒアリングを行う場合は、まずは各区分所有者がマンションの現状について、どのような
不満を持っているのか、何を問題と考えているのか等、本音を引き出すような工夫をして下さい。
・ 建替えを行う場合に実現したいと考える住まい方、暮らし方については、最近の新築マンションの性能
の実態を紹介しつつ、自由に意見交換し、区分所有者の積極的な関わりや気運を高めていくような環
境作りに配慮して下さい。
-43-
Ⅰ-3 要求改善水準の設定
当該マンションの老朽度を判定し、各区分所有者が現在のマンションに抱いている不満や改善ニー
ズ、修繕・改修を行う場合に期待する住宅の水準、建替えを行う場合には実現したいとする要望を把
握すると、次のステップとして、建替え又は修繕・改修のそれぞれの場合について、現在のマンション
に比して必ず実現しようとする改善の要求水準(要求改善水準)を管理組合において話し合い、設定し
ます。要求改善水準を設定することが、建替え及び修繕・改修の工事内容を設定し、それぞれの改善
効果と所要費用を比較する上でのスタートになるのです。
●要求改善水準の設定の考え方
・ 当該マンションの老朽度を客観的に判定するとともに、各区分所有者が現在の住宅・住環境に抱いて
いる不満やニーズ、修繕・改修を行う場合に期待する住宅の水準、建替えの場合には実現したいとする
要望をふまえて、建替え又は修繕・改修のそれぞれの場合について、現在のマンションに比して必ず実
現したいとする改善の要求水準(要求改善水準)を管理組合において設定します。
○「構造安全性」及び「防火・避難安全性」に関する項目については、居住者の安全性(人命保護)に関
わる項目であるため、老朽度判定により「問題のあるグレードC」と判定された項目については、全て問
題のない水準(グレードA)まで性能回復を図ることが必要となります。老朽度判定の結果、グレードB
と判定された項目の性能回復水準の設定については任意とします。
○「躯体及び断熱仕様に規定される居住性」「設備の水準」「エレベーターの設置状況」の居住性に関す
る項目については、各区分所有者がマンションの現状に対してどのような不満を持っているのか(例え
ば、給排水管等の設備の老朽化・陳腐化、住宅・部屋が狭い、エレベーターが欲しい、電気容量不
足、等)を的確に把握し、それに当該マンションの老朽等の状況を踏まえて、管理組合で自由に整備
を要求する水準を設定します。
□改善水準の設定の考え方
性能
今日の一般的水準
社会環境の変化
等により向上し
ていく水準
社会の変化等により向
上していく水準
建設技術・材料開
発等の進展
関係法令(現在)→
初期
性能
経年
修繕
劣化
居住性や設備等
の水準設定は区
分所有者の合意
により管理組合
で任意に決定す
る
保守
保守
保守
関係法令(建設当時)
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劣化等により安全
性の低下がみられ
問題のある場合に
は、その安全性に
係る項目への対応
は必須とする
・ 要求改善水準の案について全区分所有者に提示し、様々な意向を確認しあいます。こうしたプロセスを
経て、管理組合内において十分に話し合いを行い、区分所有者が共通して持っている改善要求のコン
センサスとして要求改善水準を設定します。
・ なお、改善意向としてあがらない項目であっても、安全性に関わる水準で老朽度判定の結果「問題のあ
るグレードC」と判定されたものについては、全て改善の対象として設定する必要があります。
●建替えにおける要求改善水準の設定
・ なお、建替えの場合については、現マンションの修繕・改修では困難であるが、建替える場合には必ず
実現したいとする水準が設定されることになり、建替えの場合の要求改善水準の方が高くなることが一般
的に考えられます。
・ 建替えの場合の要求改善水準については、先述のアンケートやヒアリングでの、建替える場合に期待す
る住宅の水準や住まい方等にかかる全区分所有者の意向のうちの共通的なものや、今日の一般的な新
築マンションの性能水準(巻末の参考資料1:『新築マンション性能の実態調査結果』を参考)をふまえて、
建替えの際の基礎的な、必須なものとしての水準が設定されることになります。
建替えの場合の要求改善水準
修繕・改修では困難であるが建替える
場合には実現したい事項
修繕・改修の場合の要求改善水準
建替え及び修繕・改修かのい
ずれの改善行為であっても必
ず実現したい要求改善水準
現在の水準
《建替え》
《修繕・改修》
●要求改善水準の設定
・ 要求改善水準については、次頁の例のようなフォーマットにして設定します。要求改善水準の記入欄に
ついては、専門家の協力を得て、老朽度判定基準の例にならって、グレードA・グレードB+・グレードB
-といったグレードを記入するか、具体的な数値を記入します。
・ この例では、老朽度判定の細項目を適宜統合した上で、修繕・改修では困難であるものの建替えでは実
現が期待できる、例えば、駐車スペース、敷地内オープンスペースや植栽、共用施設(託児施設、購買
施設等)、住戸外の収納スペース等を追加して設定しています。
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□要求改善水準の設定フォーマット(例)
1.共用部分
現状の
グレード
要求改善水準
建替えの場合の
要求改善水準
修繕・改修の場合の
要求改善水準
耐震性
構造安
全性
主要構造部の材料劣化
構造不具合
非構造部の材料劣化
防火・ 避
難安全
性
内部延焼に対する防火性
避難経路の移動容易性
避難経路の防煙性
階高
躯体及び
断熱仕様
に規定され
る居住性
遮音性
バリアフリー
その他
消防設備
給水設備
設備の
水準
排水設備
ガス管
給湯設備
電気設備
エレベーターの設置状況
駐車スペース
敷地内のオープンスペースや植栽
共用施設(託児施設、購買施設等)
住戸外収納スペース
2.専有部分
現状の
グレード
バリアフリー
給水設備
排水設備
設備の
水準
ガス管
給湯設備
面積のゆとり
IT関連設備
専有部分の諸設備
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要求改善水準
建替えの場合の
要求改善水準
修繕・改修の場合の
要求改善水準
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