第1章 概要と今後の方向性

第1章
概要と今後の方向性
以下、本報告についての概要と、分析結果から考えられる今後の当市の取り組みの方向
性を示す。詳細については、各章を参照いただきたい。各章の扉には要約も記載してい
る。
(1)縮小する日本と東京 23 区への人口集中
当市は今後、多摩 26 市や東京 23 区、埼玉県など周辺地域の中でまち
の魅力を競っていかなければならない。
我が国の人口は平成 20 年をピークに減少傾向にある。そうしたなか東京都は人口増を続
けており、平成 32 年までの増加が推計されている。しかし、多摩地域は平成 27 年を人口
のピークとされており、既に都心から遠い西部から人口減少が始まっている。当市も人口
減少傾向にある。
平成 25 年の当市の社会増減は、東京 23 区、多摩 26 市、埼玉県など周辺地域で転出超過
となっており、地方からの転入超過があるものの、全体では転出超過である。「まち・ひ
と・しごと創生法」が施行され、東京一極集中の是正が促されるなか、今後、地方からの
転入は望めなくなる可能性が高い。
(2)社会増に支えられていた当市の人口
当市の人口減少の主な要因は「転入者の減少」である。
当市は平成 23 年 7 月まで人口増を続けてきたが、この大部分が社会増によるものであっ
た。しかし、社会増減は平成 21 年以降急減し、平成 25 年に減少へ転じるとともに人口減
少要因の 66%と大きな割合を占めている。
(3)若年女性の転出超過が出生数の減少に影響している
転入者数の減少は社会減だけでなく自然減にも影響している。
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当市では社会減に加えて、出生数の減少による自然減も進んでいる。自然減の主な要因
は「出生数の減少」である。出生がある世帯は出生前に転居をする傾向があることから、
若年女性の転出超過は、女性人口だけでなく、出生率も減少させている。
(4)若い世代の転入が市の人口を左右する
転入者数の減少はその年の人口や出生数の減少だけでなく、その後の
市の人口に長く影響する。
当市がシティプロモーションを行う場合、対象者は 20・30 歳代の者
を中心とすることが効果的かつ効率的である。
当市で生まれ育った者の多くが 20 歳代から 30 歳代にかけて転出する傾向がある。この
年代に結婚や就職などのライフイベントに伴った転居を行う傾向が強いこと、そうした場
合に勤務先への通勤時間を重視することに起因しており、これらの転出者は常に居住者の
一定割合あるものと考えられる。一方でこれらの年代の転入者も多く、当市の住民の多く
がこの年代で転入した者となっている。
年齢が上がると移動者自体が減ることから、若い年代で転入者が少なかった場合、その
後の年代では人口が増えにくい。また、出生数も少なくなるなど、転入者の減少はまちの
存続に関わる重要な問題となる。
(5)転出者の多くが勤務先や都心へのアクセスを重視している
長期的には職場の創出、交通アクセスの充実、街並みの整備、買い物
の利便性向上などにも取り組む必要がある。
20・30 歳代の多くは「通勤・通学時間」や「都心アクセス」を決め手として勤務地・通
学地の近隣に転居先を探している。
「通勤・通学時間」の重視は合理的かつ優先度の高い志向であろうから、これに沿った
もの以外を訴求することは難しいと考えられる。よって、職場の創出や交通機関の充実を
目指すこととなるが、これらは当市のみでは対応が困難である。近隣地域、鉄道沿線地域
や鉄道会社等との協力を検討することが必要となるだろう。
「都心アクセス」は、価値観によるところも大きく、また、当市が都心と同じ方向性で
競争することは困難である。しかし、一部の要素を取り入れることは可能であり、有効で
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あると考えられる。「都心アクセス」と連動する項目として「買い物の利便性」「街並
み」がある。例えば、「買い物の利便性」について大きなデパートや駅ビルは難しいが、
乗換駅のエキナカや鉄道高架下の活用、個人商店の創業支援など、生活面での利便性の向
上や地域の特性を活かした手段は考えられる。また、「街並み」について、並木道や広い
道路、公園、当市の特徴である「みどり」など、歩くことを楽しめるまちを目指すことは
当市の方向性と矛盾しないだろう。
(6)転入者の多くが住宅を重視している
短期的には住宅に関する施策が有効である。長期的には東村山市独自
の魅力を確立することが課題である。
当市への転入者の多くは「住宅の条件」や「家賃・住宅価格」を決め手としている。当
市の転入者数は住宅開発の多寡と連動しており、住宅開発が多い場合は転入超過となる
が、少ない場合に転出超過となっている。
よって、現状では転入者を増やすためには住宅や住宅に関わる環境を整えることが重要
である。住宅用地は限られており、永久に住宅開発ができるものではないから、空き家の
整理や中古住宅のリノベーションなどの住宅施策が重要となるだろう。
しかし、住宅を整えたとしても、長期的には都心から離れた地域ほど人口減少が進んで
いくことも考えられるから、住宅以外の魅力も課題となる。当市独自の魅力を磨きなが
ら、新しい価値観を訴求していくことが長期的な課題だろう。
(7)転入者の多くが当市を具体的に認知していた
転入者の増加に有効であるのは、愛着度の醸成や市との深い関わりを
つくる取り組みである。
平成 25 年の転入者のうち、16%は以前に当市の居住者だった者である。また、転入者
(東京都・埼玉県からの転入のみ)の 82%はあらかじめ当市を知っており、さらにこのう
ちの多くが近隣に住んでいたなど具体的に知っていた者だった。こうした転入者を増やす
ためには市への愛着や関わりを持ってもらえる取り組みが有効と考えられる。但し、関わ
り方が薄い場合には大きな効果は見込めないので、交流人口の増加を目指す場合には留意
する必要がある。
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(8)シティプロモーションが必要である
安心して暮らせるまち、子育てがしやすいまちが多くの人から求めら
れており、当市は住宅、自然環境等からこれに応えることができる。
転入者には強みである自然環境をはじめ当市の魅力を知られていな
い。市全体でこれらを発信し認知度の向上に努めるべきである。
シティプロモーションのためには市民愛着度の向上が不可欠である。
本報告により、20・30 歳代の転入者数が当市の人口に大きく影響すること、転入者の多
くが住宅の条件や家賃・住宅価格を重視した者であることがわかった。また、当市の最も
大きな強みは、「みどり」や水辺空間などの豊かな自然であることが市民意識調査などか
ら示されていたが、自然環境を重視した転入者は少なく、転入者に対して当市の強みが十
分にアピールできていないことも明らかになった。
全国的に少子高齢化が進み、出生率の低下や人口減少が問題となるなか、人々が安心し
て暮らせるまち、若い世代が結婚、出産、子育てしやすいまちが多くの人に求められてい
る。当市はこうした需要に自然環境を中心とした生活環境の面から貢献することができる
だろう。しかし、現状では当市の人口は減少傾向にあり、強みが十分に活かされていない
状態である。この強みを必要としているかたへ当市の魅力を伝え、転入してもらえる仕組
みをつくることが今後の大きな課題といえる。
転居先として選んでもらうためには、まちを知ってもらうことが重要である。住宅や自
然環境のほか、まちの歴史や文化など当市は魅力的な地域資源をもつ。こうした魅力が多
くの対象者へ届くように発信することが必要である。但し、転入まで繋げるためにはただ
認知してもらうだけではなく、具体的に知ってもらうこと、愛着をもってもらうことが必
要であり、当市でのくらしが魅力的であると想像してもらえなければならない。よって、
個別のサービスや資源を発信するだけでなく、これらを組み合わせたものをライフスタイ
ルとして提案し、これを体験してもらうことが必要となる。
また、市民愛着度の醸成も重要である。市民がまちに愛着を持てない場合に行政だけが
シティプロモーションを行っても効果は期待できない。先ずは、市民や市に関わる多くの
人が愛着を持ってまちに関わっていくことがシティプロモーションの第一歩である。
まちの魅力を発信するにあたり、行政、市民や企業等による多方面からの発信、口コミ
などによる情報の伝播が不可欠である。また、一度転出した市民でも愛着度が高いかたに
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は再度転入してもらえる。市民向けの情報発信やイベント、市民間の交流等の取り組みを
行い、まちの魅力を共有していくことが必要だろう。
シティプロモーションは、行政の広報やイベントのみによって行うものではなく、さま
ざまな主体のさまざまな活動のなかで行われていくものである。市職員はもとより、市
民、企業、関係機関の一人ひとりがまちの魅力を共有し、これを伝えることが最も有効な
シティプロモーションとなるだろう。
(9)生活環境を活かす取り組みが効果的である
当市の強みを活用するまちづくりがシティプロモーションに不可欠で
ある。
シティプロモーションは伝えるべき魅力があって成り立つものであるから、魅力あるま
ちづくりが行われていることが前提である。当市の強みである住宅や自然環境を活用し、
これらを中心とした生活環境の価値を高めていくことが効果的かつ効率的だろう。
生活環境は様々な要素の組み合わせであり、住宅、自然環境、買い物の利便性、出歩き
やすさなどの要素間の繋がりが効果的であるほど良いものとなる。また、子育てサービ
ス、学校教育などもこれを補強する要素だろう。魅力ある生活環境をつくるためには、こ
れらの要素をつくる各施策が、目指す環境を共有し、連携する必要がある。例えば、当市
が「みどり」や自然を生活環境のなかで活用するためには、ただ公園を整備するだけでな
く、普段のくらしの中で、どのように「みどり」を楽しめるのかを提示し、これに各施策
が統合されることが必要である。
また、長期的には、生活環境のための取り組みのみではなく、近隣地域に職場の創出を
図っていくことも課題である。広域で長期的な取り組みを行う必要があるだろう。
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