偶発学習された単語の再認弁別におけるフォントの文脈依存

偶発学習された単語の再認弁別におけるフォントの文脈依存効果
○漁田武雄 1
1 静岡大学情報学部
梶山里実 2
2 明電ソフトウエア
酒井徹也 3
漁田俊子 4
3 静岡大学創造科学技術大学院
4 静岡県立大学短期大学部
Key words: context-dependent effect, recognition, type font
本研究は,コンピュータディスプレイ上の文字フォントの形態が,
ランダムとした。同様に,5 個の緩衝項目も 5 種類の旧文脈フォン
再認におよぼす文脈依存効果を調べた。このため,学習時のフォン
トで提示した。
全項目の提示が終わると,その日の実験は終了した。
トと同じフォントでテストする同文脈(SC)条件と,学習時に提
符号化セッションの 24 時間後に,テストセッションを行った。
示されていないフォント(新文脈)でテストする異文脈(DC)条
テストセッションでは,40 個の旧項目に 40 個の新項目を加え,1
件を比較した。ICE 理論では,Hit と FA の両方で,同程度の文脈
個ずつ提示した。旧項目を学習時と同じフォントで提示する条件を
依存効果が生じる。このため,再認弁別では文脈依存効果が生じな
SC 条件,新文脈フォントのいずれかで提示する条件を DC 条件と
いと予測する。しかしながら,漁田・漁田・岡本(2005)は,文脈
した。新項目も 8 項目ずつ,5 種類の旧文脈フォントと 5 種類の新
が手がかり過負荷にならない条件下では,背景色文脈で文脈依存効
文脈フォントで提示した。項目の提示順序および新旧文脈の提示順
果が生じることを見いだしている。本研究は,項目により密着した
序は,実感参加者間でランダムとした。
フォント文脈で,この点を検討し,ICE 理論の妥当性を検証した。
実験参加者は,各項目が昨日の符号化セッションに出てきたか否
手がかり過負荷の問題を回避するために,1 文脈あたりの項目数を
かを,項目の下の「あった」
,
「なかった」のボタンを,マウスで押
8 と抑えた。
すことで反応した。
「反応は,実験参加者ペースで行った。実験終
実験1・2
実験1を実施したところ,天井効果が疑われる水準であったため,
提示速度を速くして実験2を実施した。
方 法
実験参加者 静岡大学生 21 名(実験1)と静岡県立大学生 26
名(実験2)が参加した。
材料 熟知価が 3.50 以上(小柳・石川・大久保・石井,1960)
のカタカナ 3 音節名詞をひらがな表記したもの 80 個を,相互に無
関連となるように選出した。
80 個のうち,40 個を旧項目
(old item)
,
了後,符号化や再認方略等に関する内省報告質問紙に記入させた。
結 果
Table 1, 2 に,
実験1と 2 の Hit 率,
FA 率,
CRS
(corrected recognition
score, Hit 率-FA 率)
を示す。
実験1では,Hit [t (20) = 3.80, p <.01] と
FA [t (20) = 2.80, p <.05] において文脈依存効果が生じたが,CRS で
は有意ではなかった [t < 1]。実験2でも,同様の結果パターンであ
った[Hit: t (25) = 2.26, p <.05; FA: t (25) = 2.62, p <.05; CRS: t < 1]
考 察
本研究の結果パターンは,ICE 理論の予測通りである。(1) Hit と
40 個を新項目(new item)にランダムに割り当てた。さらに,5 個
FA で同方向かつ同程度の文脈依存効果が生じ,(2) 両者が相殺さ
を初頭性効果の緩衝項目として選出した。
れた結果,再認弁別では文脈依存効果が消失した。これに対して,
文脈 Microsoft Windows 日本語版のコンピュータに標準で搭載
フォント文脈依存効果を旧文脈内変動を調べた実験結果は,文脈依
されているフォントから 4 種類,
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存効果が生じないという ICE 理論に反して,有意な文脈依存効果
ールできるひらがなフォントから 16 種類のフォントの合計 20 種
(Hit) を得ている(漁田・梶山・片山・宮崎,2009)
。
類を対象とした印象評定(n = 13)の結果をクラスター分析し,10
ポイントは,FA で Hit と同方向かつ同程度の文脈依存効果が生
種類のフォント(MSP明朝,id-カナ013,さなフォン帯,モ
じるか否かにある。この点で,フォント文脈(本研究)と単純視覚
フ字,イバラ字,昭和ノスタルジ,渦筆,たえふぉん,みゅん太,
文脈ではFAで文脈依存効果が生じているが
(e.g., Murnane & Phelps,
柔楷体)を選出した。10 種類のフォントは,実験参加者ごとにラ
1993, 1994, 1995)
,背景色文脈では生じていない(漁田ら, 2005;
ンダムに,5 種類の旧文脈と,5 種類の新文脈に割り当てた。
Rutherford, 2004)
。このような相違点は,焦点情報の属性を含む視
手続 実験は個別におこなった。符号化セッションでは,5.0
覚文脈(単純視覚文脈,フォント文脈)と焦点情報の属性を含まな
秒/項目(提示時間 4.5 秒,提示間隔 0.5 秒)の提示速度(実験1)
,
い視覚文脈(背景色文脈)では性質が異なることを示唆している。
あるいは 4.0 秒/項目(提示時間 3.5 秒,提示間隔 0.5 秒)の提示
Table 1. Summary of the results of Experiment 1
SC
DC
M
SE
M
SE
Hit
0.931
0.017
0.860
0.024
FA
0.150
0.033
0.083
0.016
CRS
0.781
0.025
0.776
0.026
速度(実験2)で,5 個の緩衝項目につづいて,40 個の旧項目を提
示した。
項目は,
コンピュータ画面上に提示した。
実験参加者には,
提示された項目から連想する語を口頭報告させた。フォントが連想
にどのように影響するかを調べるために,項目は色々なフォントで
提示されるが,フォント自体については,気にしなくてよいと教示
クに分け,各ブロック内の 5 項目は,必ず 5 種類の旧文脈フォント
Table 2. Summary of the results of Experiment 2
SC
DC
M
SE
M
SE
Hit
0.906
0.018
0.824
0.038
FA
0.188
0.038
0.098
0.025
CRS
0.718
0.029
0.726
0.043
で提示した。ブロック内のフォントの提示順序は,実験参加者間で
(ISARIDA Takeo KAJIYAMA Satomi SAKAI Tetsuya ISARIDA Toshiko)
した。時間内であれば何回反応してもよく,時間が来ると次の項目
を提示した。この実験は,語連想の実験であるとのみ教示し,再認
テストは知らせなかった。項目の提示順序は,実験参加者間でラン
ダムとした。また,40 個の旧項目の系列提示位置を 8 つのブロッ