山中 幸

2011 年度 修士論文
大腸菌の酸耐性と嫌気呼吸を制御する
YdeO の機能解析
CHARACTERIZATION OF YDEO REGULATING
ACID RESISTANCE AND ANAEROBIC RESPIRATION
IN ESCHERICHIA COLI.
指導教官 山本 兼由
法政大学大学院工学研究科
生命機能学専攻修士課程
学生証番号 10R7111
山中 幸
<略語>
AC
autoclaved
Amp
ampicillin
bp
base pair(s)
Cad
cadaverine
ddH2O
double distiled water
DEPC
diethylpyrocarbonate
DNA
deoxyribonucleic acid
DNase
deoxyribonuclease
dNTP
deoxynucleoside triphosphate
E. coli
Escherichia coli
EDTA
ethylenediaminetetraacetic acid
EtBr
ethidium bromide
EtOH
ethanol
HEPES
4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid
HPLC
high performance liquid chromatography
Km
kanamycin
LB
Luria-Bertani
NaOAc
sodium acetate
OD
optical density
PAGE
polyacrylamide gel electrophoresis
PCR
polymerase chain reaction
PhOH
phenol
PMSF
phenylmethylsulfonyl fluoride
Put
putrescine
RNA
ribonucleic acid
RNase
ribonuclease
rpm
revolutions per minute
SDS
sodium dodecyl sulfate
TE
Tris-EDTA
Tris
tris(hydroxymethyl) amino methane
<目次>
ページ
第1章 序論 1
第2章 実験材料と方法 2‐1.培地と試薬 2‐2.大腸菌株 2‐3.プラスミドとオリゴヌクレオチド 2‐4.大腸菌株の培養 2‐5.CaCl2 法による大腸菌の形質転換
2‐6.大腸菌ゲノムの調製 2‐7.大腸菌細胞からのプラスミド DNA 調製
2‐8.アガロースゲル電気泳動 2‐9.DNA 塩基配列の決定
2‐10.PCR 反応による特異的 DNA 断片の増幅と精製
2‐11.制限酵素処理による DNA の切断
2‐12.DNA 連結
2‐13.コロニーPCR
2‐14.ファージを用いた lacZ 融合遺伝子導入大腸菌の作製
3
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2‐15.Miller 法による β-galactosidase 活性の測定
2‐16.大腸菌細胞からの RNA 抽出
2‐17.cDNA 合成
2‐18.RT-PCR による遺伝子発現解析
2‐19.トランスクリプトーム解析
2‐20.大腸菌染色体上目的遺伝子へのタグの挿入
2‐21.大腸菌細胞の可溶画分タンパク質抽出
2‐22.ウエスタンブロッティング解析
2‐23.免疫沈降法(Chromatine immunopreciptation: ChIP)
2‐24.ChIP-PCR 解析
2‐25.ChIP chip 解析
2‐26.細胞内ポリアミン量の測定
2‐27.フェノタイプマイクロアレイ解析
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第3章 結果 3‐1.YdeO 遺伝子の発現制御
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3−1−1.UV 照射後に誘導される YdeO 発現
3−1−2.UV 照射後の YdeO により転写制御される遺伝子の網羅的解析
3‐2.YdeO に制御されるアミノ酸依存酸耐性機構
3−2−1.YdeO に制御される細胞内カダベリン量
3−2−2.YdeO により抑制される cad プロモーター活性
3‐3.YdeO 細胞内ゲノム上分布
3−3−1.YdeO 過剰発現における大腸菌生育への影響
3−3−2.ゲノム上 YdeO 結合領域の網羅的解析
3‐4.YdeO レギュロンの同定
3−4−1.YdeO 過剰発現により転写制御される遺伝子の網羅的解析
3−4−2.YdeO 過剰発現により誘導される GadE タンパク質量
3‐5.YdeO→GadE レギュロンカスケード
3−5−1.YdeO 過剰発現における GadE 依存的に転写活性される遺伝
子の網羅的解析
3−5−2.YdeO 過剰発現における GadW 依存的に転写活性される遺伝
子の網羅的解析
3−5−3.YdeO 過剰発現における YiiS 依存的に転写活性される遺伝
子の網羅的解析
3‐6.YdeO による呼吸鎖オペロンプロモーターhyaA、appC
プロモーター発現への影響
3‐7.嫌気環境における ydeO プロモーター発現と YdeO タンパク質
の安定
3‐8.YdeO 発現大腸菌のフェノタイプマイクロアレイ解析
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第4章 考察 4‐1.YdeO に制御されるアミノ酸依存酸適応機構
4‐2.YdeO に制御される嫌気環境適応機構
4‐3.YdeO による H-NS アンチサイレンシング効果
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第5章 参考文献 52
第6章 謝辞 54
第1章 序論
毎年のように腸管出血病原性大腸菌による感染が世界各地で流行し、死亡
するケースも発生している。これらの細菌感染症への根本的な対策を策定する
ことは急務である。この問題には、病原性大腸菌などが環境中からヒト腸管上
皮へ定着するまでに発揮する多様な適応応答を解明することは必須である。環
境中の大腸菌が、経口から動物体内に侵入後すぐに経験する最も過酷なストレ
スは、強酸性条件下の胃である。その後、小腸や大腸に至り定着すると考えら
れている。大腸菌では酸性適応後の腸管上皮定着までのシステマティックな環
境適応機構の存在が示唆されるが、詳細には解明されていない。大腸菌の主な
酸性適応機構は、グルタミン酸、アルギニン、リジン脱炭酸反応に依存する細
胞内プロトン量の恒常化であり、反応生成物としてそれぞれ γ-アミノ酪酸
(GABA)、アグマチン、カダベリンを体外に排出する(図1)(Foster, 2004、
Ma et al., 2004)。最も効果的な大腸菌の酸適応機構は、グルタミン酸依存的機
構であることが知られており、グルタミン酸脱炭酸酵素をコードする gadA,
gadB、グルタミン酸と γ-アミノ酪酸アンチポーターをコードする gadC により
成り立っている。これら酸耐性に必須な遺伝子群の転写は LuxR ファミリーに
属する DNA 結合性転写因子 GadE に活性化される(図2)
(Foster, 2004、Ma
et al., 2004) - 1 1/58。また、アルギニン依存的酸耐性機構は、脱炭酸酵
素をコードする adiA とアンチポーターをコードする adiC が、アクチベーター
AdiY によりアルギニン存在下の嫌気環境下でのみ発現誘導される(図2)。一
方、リジン依存的酸耐性機構では、脱炭酸酵素をコードする cadA、アンチポー
ターをコードする cadB がアクチベーターCadC により誘導されることが報告さ
れているが、酸耐性効果は最も低く詳細な誘導条件などは十分に理解されてい
ない(図2)。本研究では、大腸菌が酸性適応につづく環境適応機構を解明する
ことを第一の目的とした。大腸菌で主要なグルタミン酸依存的酸耐性機構で仲
介的な遺伝子発現制御を担う機能解明が不十分な転写因子 YdeO をコードする
ydeO は、全長 762 塩基対、253 アミノ酸をコードしており、DNA 結合ドメイ
ンの類似性から AraC/ XylS ファミリーに分類される DNA 結合性転写因子であ
ると予測されている。YdeO は、グルタミン酸依存的酸耐性に必須な遺伝子群
(gadA, gadB, gadC)の転写を制御する GadE 発現の転写を促進する転写制御
因子であることが示唆されている(図2)。さらに、近年の研究で、EvgAS の二
成分制御系レギュレーターEvgA が ydeO 発現を活性化し、その発現産物 YdeO
が酸耐性を促進することが明らかとなった(図2)。つまり、EvgA により ydeO
発現が活性化され、その YdeO により gadE が活性化される。一方で、EvgA は
直接的に gadE を活性化することが可能である。また、GadE は自己制御を行う
1
ことが知られている。これらの gadE レギュレーターEvgA, YdeO, GadE はそれ
ぞれ gadE 上流の異なった領域に結合し、gadE プロモーターに直接作用するこ
とが示唆されている(図2)。このように、YdeO は仲介的に gadE 発現を活性
化するが、主要な機能として酸耐性遺伝子群以外の発現制御を行う可能性が考
えられる。そこで本研究では、YdeO の機能解析をゲノムワイドに行い、酸適応
機構と嫌気呼吸のメカニズムとの関連性を見出した。 図1.大腸菌のアミノ酸依存的酸耐性機構 図2.酸耐性遺伝子群の転写制御カスケード 2
第2章 実験材料と方法 2‐1.培地と試薬 2−1−1.1.2x IF-0 液体培地
十分な ddH2O に NaCl 6 g、Pluronic F68 0.36 g を加え、スターラーで回し
ながら pH メーターで pH 7.1 になるよう 0.1 N NaOH で調整した。その後、
Phytagel 0.12 g を加え溶解後、溶液の全量を ddH2O で 0.9 L にしてガラス瓶に
移し、オートクレーブにて 121ºC で 25 分滅菌した。室温に戻った後、TEA-HCl
12 ml を加え常温で保存した。抗生物質を添加した際の培地の使用期限は 1 ヶ月
とした。 2−1−2.LB 液体培地
Bacto Trypton (Difco) 10 g、Bacto Yeast Extract (Difco) 5g、NaCl 10g、5 N
NaOH 0.75 mL を ddH2O に溶解し全容量を 1L に入れ、ガラスのメジューム瓶
にいれオートクレーブにて 121ºC で 21 分滅菌し、常温で保存した。抗生物質を
添加した際の培地の使用期限は 1 ヶ月とし、4ºC で保存した。
2−1−3.5x M9 (-NH 4 Cl)液体培地
Na2HPO4・12H2O 85.4 g、KH2PO4 15 g、KH4Cl 5 g、NaCl 2.5 g を ddH2O
に溶解し全容量を 1 L とし、ガラスのメジューム瓶にいれオートクレーブにて
121ºC で 21 分滅菌し、常温で保存した。
2−1−4.1x M9 + Glucose 液体培地
5x M9 (-NH4Cl) 20 mL、2 M NH4Cl 1 mL、1 M MgCl2 100 µL、250 mM
K2SO4 100 µL、10 mM CaCl2 1 mL、1 M Glucose 1 mL を混合し、AC MilliQ
で全容量を 1 L とし、常温で保存した。抗生物質を添加した際の培地の使用期
限は 1 ヶ月とし、4ºC で保存した。
2−1−5.NZYM 培地
Casein, Enzymatic Hydrolysate (Nacalai) 10 g、Bacto Yeast Extract (Difco)
5 g、NaCl (Nacalai) 5 g、MgSO4・7H2O 3 g、5 N NaOH 700 µl を ddH2O に
溶解し全容量を 1 L とし、ガラスのメジューム瓶にいれオートクレーブにて
121ºC で 21 分滅菌し、常温で保存した。抗生物質を添加した際の培地の使用期
限は 1 ヶ月とし、4ºC で保存した。
3
2−1−6.SOB 液体培地
Bacto Trypton (Difco) 20 g、Bacto Yeast Extract (Difco) 5 g、NaCl 0.5 g、
250 mM KCl 10 mL、5 N NaOH 200 µL を ddH2O に溶解し全容量を 1 L とし、
ガラスのメジューム瓶にいれオートクレーブにて 121ºC で 21 分滅菌し、常温に
戻した。その後、1 M MgCl2 10 mL、1 M MgSO4 10 mL 加え、常温で保存した。
抗生物質を添加した際の培地の使用期限は 1 ヶ月とし、4ºC で保存した。
2−1−7.SOC 液体培地
Bacto Trypton (Difco) 20 g、Bacto Yeast Extract (Difco) 5 g、NaCl 0.5 g、
250 mM KCl 10 mL、5 N NaOH 200 µL を ddH2O に溶解し全容量を 1 L とし、
ガラスのメジューム瓶にいれオートクレーブにて 121ºC で 21 分滅菌し、常温に
戻した。その後、1 M MgCl2 10 mL、1 M MgSO4 10 mL、1 M Glucose 2 mL
加え、常温で保存した。抗生物質を添加した際の培地の使用期限は 1 ヶ月とし、
4ºC で保存した。 2−1−8.LB 寒天培地
Bacto Trypton (Difco) 10 g、Bacto Yeast Extract (Difco) 5 g、NaCl 10 g、
Bacto Agar (Difco) 15 g、5 N NaOH 0.75 mL を 1 L の ddH2O の入ったフラス
コに加え混合し、オートクレーブにて 121ºC で 21 分滅菌し、60ºC 程度まで冷
却した。ここで必要に応じて抗生物質を添加した。冷却後、シャーレに 20 mL
程度ずつ分注して冷却した。培地が固化したらシャーレ内の結露を乾燥させて
から袋に入れ 4ºC で保存した。抗生物質を添加した際の培地の使用期限は 1 ヶ
月とした。 2−1−9.100 mg/mL Amp
15 mL のチューブ(Iwaki)にアンピシリンナトリウム(Nacalai)を 1 g 計り入
れ、そこに ddH2O をチューブの目盛りの 10 mL まで入れて完全に溶解した。
次に溶解液を 10 mL のシリンジ(テルモ)と 0.22 mm の Cellulose Acetate フィ
ルター(Dismic)を使いフィルター滅菌して新しい 15 mL チューブに移し、4ºC
で保存した。使用期限は 1 ヶ月とした。 2−1−10.50 mg/mL Km
15 mL のチューブ(Iwaki)に Kanamycin Monosulfate(Nacalai) 0.5 g 計り入
れ、そこに ddH2O をチューブの目盛りの 10 mL まで入れて完全に溶解する。
次に溶解液を 10 mL のシリンジ(テルモ製)と 0.22 mm の Cellulose Acetate フ
ィルター(Dismic)を使いフィルター滅菌して新しい 15 mL チューブに移し、
4
4ºC で保存した。使用期限は 1 ヶ月とした。 2−1−11.0.1 M CaCl 2
80 mL 程度の ddH2O を入れたビーカーに CaCl2・H2O 14.7 g 入れスターラ
ーで攪拌し溶解させた。溶解後、メスシリンダーに溶液を移し、ddH2O を加え
て全容量を 100 mL にした。ガラス瓶に移し、オートクレーブにて 121ºC、21
分の滅菌を行い、その後 4ºC で保存した。 2−1−12.0.1% DEPC water
ガラス瓶に 1 L の ddH2O を入れ、DEPC 1 mL 加え瓶を密栓してよく混合し
てから 2 時間以上常温で放置した。瓶のふたを少しゆるめてからオートクレー
ブにて 121ºC、21 分の処理を行い未反応分の DEPC を分解揮発させた。オート
クレーブ後は常温で保存した。 2−1−13.0.5 M EDTA (pH 8.0)
ビーカーに入った 350 mL 程度の ddH2O に EDTA 2Na・2H2O 93.06 g 加え、
スターラーで攪拌しながら pH メーターで pH の測定を始めた。5 N NaOH を
溶液中の個体が全て溶けてさらに pH が 8.0 になるまで加えた。メスシリンダー
に移し ddH2O を加え全容量を 500 mL にした。その後、ガラス瓶に移しオート
クレーブにて 121ºC で 21 分滅菌し、4ºC で保存した。 2−1−14.70% EtOH
メスシリンダーに EtOH 70 mL 入れ、ddH2O で全容量を 100 mL とし、ガ
ラス瓶で常温保存した。 2−1−15.60% Glycerol
メスシリンダーに Glycerol 60 mL を入れ、ddH2O で全容量を 100 mL にし
た。その後、ガラス瓶に移しオートクレーブにて 121ºC、21 分の滅菌を行い、
その後 4ºC で保存した。 2−1−16.10% Grycerol
メスシリンダーに Glycerol 10 mL を入れ、ddH2O で全容量を 100 mL にし
た。その後、ガラス瓶に移しオートクレーブにて 121ºC、21 分の滅菌を行い、
その後 4ºC で保存した。 5
2−1−17.10% SDS
ビーカーに入った 450 mL 程度の ddH2O に SDS (Nacalai)を 50 g 溶解させ
た後、ddH2O で全容量を 500 mL にしガラス瓶に移して常温で保存した。 2−1−18.5 N HCl
12 N HCl をメスシリンダーで 40 mL 計り取り、ddH2O の入ったビーカーに
加えていき全量を 96 mL にする。ガラス瓶に入れ常温で保存した。 2−1−19.5 N NaOH
80 mL 程度の ddH2O を入れたプラスチック容器に粒状 NaOH 20 g 入れスタ
ーラーで攪拌し溶解させた。溶解後、メスシリンダーに溶液を移し、ddH2O を
加えて全容量を 100 mL にし、常温で保存した。 2−1−20.H 2 O 飽和 PhOH
50 mL のチューブに結晶フェノール (PhOH) (Nacalai)を 50 mL の目盛りま
で入れ、そこに 0.1% DEPC water をチューブの 50 mL の目盛りまで加え、60ºC
の恒温槽で溶解させた。その後、水相と PhOH 相が完全に分離するまで 4ºC で
放置し保存した。 2−1−21.1 M NaOAc
ビーカーに入った 400 mL 程度の ddH2O に Sodium Acetate (Nacalai)41 g
加え溶解した後、メスシリンダーに移し全容量が 500 mL なるまで ddH2O を加
えた。ガラス瓶に移し、オートクレーブにて 121ºC で 21 分滅菌し、4ºC で保存
した。 2−1−22.3 M NaOAc
ビーカーに入った 400 mL 程度の ddH2O に Sodium Acetate 123 g 加え溶解
した後、メスシリンダーに移し全容量が 500 mL なるまで ddH2O を加えた。ガ
ラス瓶に移し、オートクレーブにて 121ºC で 21 分滅菌し、4ºC で保存した。 2−1−23.Solution A
ガラス瓶に 0.1% DEPC water 455 mL、0.5 M EDTA (pH 8.0) 10 mL、1 M
NaOAc 10 mL を加えオートクレーブにて 121ºC で 21 分滅菌し常温まで冷却し
た後、10% SDS 25 mL を加え混合し、常温で保存した。 6
2−1−24.TE 飽和 PhOH
アルミニウム箔で遮光したビーカーに結晶 PhOH 500 g、8-hydroxyquinoline
(Nacalai) 0.5 g、0.5 M Tris-HCl (pH 8.0 at 4ºC) 500 mL 入れ結晶 PhOH が溶
解するまで 60ºC の恒温槽内においた。結晶 PhOH 溶解後、 4ºC まで冷却し、
スターラーで 30 分程度攪拌混合して PhOH 相に Tris-HCl を溶け込ませた。そ
の後一晩 4ºC で放置して PhOH 相と水相を完全に分離し、水相をアスピレータ
ーで吸引し除去した。次に再び 0.5 M Tris-HCl (pH 8.0 at 4ºC) 500 mL 入れス
ターラーで 30 分程度攪拌混合し PhOH 相に Tris-HCl を溶け込ませた。pH メ
ーターで溶液の pH を測定し、pH 7.8 以上であることを確認した。pH 7.8 以下
だった場合は一晩 4ºC で放置して PhOH 相と水相を完全に分離し、水相をアス
ピレーターで吸引し除去してから 0.1 M Tris-HCl (pH 8.0 at 4ºC) 500 mL 入れ
スターラーで 30 分程度攪拌混合した。pH 7.8 以上であることが確認できたら
一晩 4ºC で放置して PhOH 相と水相を完全に分離し、水相をアスピレーターで
吸引除去し残った PhOH 相をガラス製の遮光瓶に移し、0.1 M Tris-HCl (pH 8.0
at 4ºC)を PhOH 相を覆うまで加えた。最後に PhOH 相と加えた 0.1 M Tris-HCl
(pH 8.0 at 4ºC)の合計体積に対し、終濃度 1 mM となるよう 0.5 M EDTA (pH
8.0)を添加し、よく混合した後 4ºC で保存した。 2−1−25.1 M Tris-HCl (pH 8.0 at 4ºC)
ビーカーに入った 700 mL 程度の ddH2O に Tris (Nacalai) 121.1 g 加えスタ
ーラーで攪拌して溶解させた。大きめの容器に氷水を作り、そこにビーカーを
置きスターラーで回しながら冷却し、
pH メーターで pH と温度を測定しながら、
4ºC で pH 8.0 になるよう 5 N HCl で調整した。その後、溶液の全量を ddH2O
で 1 L にしてガラス瓶に移し、オートクレーブにて 121ºC で 21 分滅菌し、4ºC
で保存した。 2−1−26.2 M Tris-HCl (pH 7.4 at 4ºC)
ビーカーに入った 700 mL 程度の ddH2O に Tris (Nacalai) 242.2 g 加えスタ
ーラーで攪拌して溶解させた。大きめの容器に氷水を作り、そこにビーカーを
置きスターラーで回しながら冷却し、
pH メーターで pH と温度を測定しながら、
4ºC で pH 7.4 になるよう 5 N HCl で調整した。その後、溶液の全量を ddH2O
で 1 L にしてガラス瓶に移し、オートクレーブにて 121ºC で 21 分滅菌し、4ºC
で保存した。 2−1−27.50x TAE buffer
ビーカーに 500 mL 程の ddH2O 入れ、Tris 242 g、Acetic acid (Nacalai) 57.1
7
mL、0.5 M EDTA (pH 8.0) 100 mL を加え完全に溶解してから、メスシリンダ
ーに移し ddH2O を加えて全容量を 1 L にした。溶液をガラス瓶に移し常温で保
存した。 2−1−28.1x TAE buffer
メスシリンダーに 50x TAE を 20 mL を入れ、ddH2O で全容量を 1 L にし、
常温で保存した。 2−1−29.Z-buffer
ビーカーに 700 mL 程の ddH2O を入れ、Na2HPO4 ・12H2O 21.4 g、
NaH2PO4・2H2O 6.2 g、KCl 0.75 g、MgSO4・7H2O 0.246 g、β-mercaptoethanol
2.7 ml を加え完全に溶解してから、
pH メーターで pH 7.0 になるよう 5 N NaOH
で調整した。メスシリンダーに移し ddH2O を加えて全容量を 1 L にした。溶液
を遮光ガラス瓶に移し常温で保存した。 2−1−30.10x Lysis buffer
ビーカーに 700 mL 程の ddH2O を入れ、1 M Tris-HCl (pH8.0 at 4℃) 500 mL、
5 M NaCl 200 mL を加え完全に溶解してから、メスシリンダーに移し ddH2O
を加えて全容量を 1 L にし、溶液をガラス瓶に移し常温で保存した。使用時に
は 10 倍希釈で使用した。 2−1−31.10x Running buffer
ビーカーに 700 mL 程の ddH2O を入れ、Tris 30.28 g、Glycine (Nacalai) 144.14 g、SDS 10 g を加え完全に溶解してから、メスシリンダーに移し ddH2O
を加えて全容量を 1 L にし、溶液をガラス瓶に移し常温で保存した。使用時に
は 10 倍希釈で使用した。 2−1−32.0.1 M PMSF
ガラス瓶に Phenylmethylsulfonyl Fluoride (PMSF) (Nacalai)を 0.1 M にな
るように計り入れ、2-Propanol (Nacalai)で溶かし、-30℃で保存した。
2−1−33.1x PBS
10x Phosphate Bufferd Saline (Nacalai) 100 mL を ddH2O に溶解し全容量
を 1 L とし、ガラスのメジューム瓶に入れ常温で保存した。 8
2−1−34.1x TBS
2 M Tris-HCl (pH 7.4) 10 mL、NaCl 8.7 g を ddH2O に溶解し全容量を 1 L
とし、ガラスのメジューム瓶に入れ常温で保存した。 2−1−35.500 mM HEPES-KOH (pH 7.5)
十分な ddH2O に HEPES (Dojindo) 119.155 g を溶解し、pH メーターで pH
7.5 になるよう KOH で調整した。その後、溶液の全量を ddH2O で 1 L にして
ガラス瓶に移し、オートクレーブにて 121ºC で 21 分滅菌し、常温で保存した。 2−1−36.IP buffer
500 mM HEPES-KOH (pH 7.5) 100 mL、5 M NaCl 60 mL、0.5 M EDTA 2
mL 、 Triton X-100 (Nacalai) 10 mL 、 Deoxycholic Acid Sodium Salt
(Calbiochem) 1 g、SDS 1 g を ddH2O に溶解し全容量を 1 L とし、ガラスのメ
ジューム瓶に入れ常温で保存した。
2−1−37.IP + Salt buffer
IP buffer に 5 M NaCl 100 mL 加え、全容量を 1 L とし、ガラスのメジュー
ム瓶に入れ常温で保存した。 2−1−38.Wash buffer
1 M Tris-HCl (pH 8.0) 10 mL、LiCl 10.6 g、0.5 M EDTA 2 mL、Triton X-100
5 mL、Deoxycholic Acid Sodium Salt 5 g を ddH2O に溶解し全容量を 1 L とし、
ガラスのメジューム瓶に入れ常温で保存した。 2−1−39.TE buffer
1 M Tris-HCl (pH 8.0) 10 mL、0.5 M EDTA 2 mL を ddH2O に溶解し全容量
を 1 L とし、ガラスのメジューム瓶に入れ常温で保存した。 2−1−40.Elution buffer
2 M Tris-HCl (pH 7.5) 2.5 mL、0.5 M EDTA 2 mL、SDS 1 g を ddH2O に溶
解し全容量を 100 mL とし、ガラスのメジューム瓶に入れ常温で保存した。 2−1−41.Lysis buffer (-Lysozyme)
1 M Tris-HCl (pH 8.0) 10 mL、Sucrose 20 g、5 M NaCl 10 mL、0.5 M EDTA
20 mL を ddH2O に溶解し全容量を 1 L とし、ガラスのメジューム瓶に入れ常温
9
で保存した。 2−1−42.1 M NaOH (RNA 調製用)
NaOH を終濃度 1 M になるよう計り入れ DEPEC 水 (Nacalai)に溶解し全容
量を 10 mL とし、15 mL チューブに入れ常温で保存した。 2−1−43.1 M HCl (RNA 調製用)
35% HCl を終濃度 1 M になるよう計り入れ DEPEC 水に溶解し全容量を 10
mL とし、ガラスのメジューム瓶に入れ常温で保存した。 2−1−44.3 M NaOAc (pH 4.5) (RNA 調製用)
3 M NaOAC を pH メーターで pH 4.5 になるよう Acetic Acid で調整した。 2−1−45.10 mM Tris buffer (pH 8.0) (RNA 調製用)
1 M Tris-HCl (pH 8.0) 100 µL を DEPEC 水 (Nacalai)にて全容量を 10 mL
とし、15 mL チューブに入れ常温で保存した。 2−1−46.20x SSC
ビーカーに 700 mL 程の ddH2O を入れ、NaCl 175.3 g、Sodium citrate
dihydrate 88.2 g を加え完全に溶解してから、pH メーターで pH 7.0 になるよ
う NaOH で調整しメスシリンダーに移し ddH2O を加えて全容量を 1 L にし、
溶液をガラス瓶に移し常温で保存した。 2−1−47.2x SSC/ 0.2%SDS
20x SSC 100 mL、10%SDS 20 mL に ddH2O を加えて全容量を 1 L にし、
溶液をガラス瓶に移し常温で保存した。 2−1−48.0.2x SSC/ 0.1%SDS
20x SSC 10 mL、10%SDS 10 mL に ddH2O を加えて全容量を 1 L にし、溶
液をガラス瓶に移し常温で保存した。 2−1−49.0.05x SSC
20x SSC 2.5 mL に ddH2O を加えて全容量を 1 L にし、溶液をガラス瓶に移
し常温で保存した。 10
2−1−50.2 M Sodium Succinate/ 0.2 mM Ferric Citrate
Sodium Succinate 54 g, Ferric Citrate 4.9 mg を ddH2O に溶解し全容量を
100 mL とし、ガラスのメジューム瓶に入れ 4℃で保存した。 2‐2.大腸菌株 本研究で使用した全ての大腸菌 K-12 株を表1に示す。
表1.本研究で用いた大腸菌株 2‐3.プラスミドとオリゴヌクレオチド 本研究で用いたプラスミドとオリゴヌクレオチドを表2に示す。
2‐4.大腸菌の培養
本研究では特に断りがない限り、前培養については、大腸菌は寒天培地に形
成しているコロニーから液体培養液に植菌した。また好気条件での細菌の液体
培養は 37ºC の恒温槽で 160 min-1 の振とう培養で行い、寒天培地の培養は 37ºC
のインキュベーター(ヤマト科学製 ICL300)で行った。嫌気条件での細菌の液体
11
表2.本研究で用いたプラスミドとオリゴヌクレオチド 培養は 37ºC のインキュベーター内で静置して行った。細菌の増殖曲線は比色計
(TAITEC 製 Mini photo 518R)を用いて OD600 によって培養液濁度を測定した。
12
2−5.CaCl 2 法による大腸菌の形質転換
LB 培地 5 mL で一晩培養した大腸菌培養液を LB 培地 200 mL の入った 500
mL 三角フラスコに 2 mL 植菌し、OD600 値が 0.2 0.3 まで 37oC で振とう培養
させた。培養後、菌体は常に氷上で扱うようにした。3000 rpm、15 分、4oC 遠
心分離し、上清をきれいに取り除き、氷冷しておいた 0.1 M CaCl2 を 10 mL 加
え穏やかに懸濁し氷上で 10 分静置した。その後、遠心分離(3000 rpm、15 分、
4oC)によって上清を除去し、氷冷しておいた 0.1 M CaCl2 2 mL と 60%
Glycerol 0.65 mL で懸濁し、氷冷したエッペンチューブに 100 µL ずつ分注して、
−80oC で保存した。
−80oC に保存しておいたコンピテント大腸菌細胞(DNA 受容菌)を氷上で溶
解し、目的のプラスミド DNA を数 ng 加え、泡立てないようにピペッティング
し、そのまま氷上で 30 分置いた。42oC で 45 秒加熱した後、すぐに氷上に戻し、
1 mL の LB 培地を加えて 37oC で 30 分振湯培養した。その後、100 µL を適当
な抗生物質を含む寒天培地に塗布した。また、必要に応じて、新しい LB 培地で
1/ 10 培希釈し、遠心分離(12000 rpm、1 分、室温)し、上清を約 150 µL 残
して沈殿した大腸菌細胞を懸濁して、適当な抗生物質を含む寒天培地に塗布し
た。
2−6.大腸菌ゲノムの調製
大腸菌細胞からのゲノム調製には Wizard Genomic DNA Purification kit
(Promega)を用いた。大腸菌を LB 培地 5 mL で 37 oC 一晩培養した大腸菌培
養液を 2 mL チューブに全て移し 12000 rpm、4oC、10 分遠心分離し、上清を
きれいに取り除いた。その後、1 mL の MilliQ 水で懸濁し、遠心分離(12000 rpm、
10 分、4oC)し、上清をアスピレータを用いて取り除いた。次に、Nucleilysis
solution 0.6 mL を加えゆっくり懸濁した後、80oC 5 分で反応させ、常温になる
まで冷まし、RNase solution 3 µL を加え 37 oC 60 分反応させ、Protein
precipitation solution 0.2 mL を加え 20 秒間混和し、氷上で 5 分置いた。その
後、遠心分離(15000 rpm、20 分、5oC)し、上清を回収し Isopropanol 0.6 mL
を加え反転し、14000 rpm、15 分、15oC で遠心分離し溶液を捨てた。そして、
70%EtOH 100 µL を沈殿物にかけないように加え、遠心分離(14000 rpm、15
分、15oC)を行い、DNA Rehydration solution 200 µL で溶解した。
2−7.大腸菌細胞からのプラスミド DNA 調製
大腸菌細胞からのプラスミド DNA 調製には QIAprep Spin Miniprep kit
(Qiagen)を用いた。LB 培地 10 mL で一晩振蕩培養させた大腸菌培養液を 15
mL チューブにとり、遠心分離(3000 rpm、10 分、4oC)し、上清をデカント
13
により取り除いた。その後、1 mL の MilliQ 水で懸濁し、溶液を 1.5 mL エッペ
ンに移し遠心分離(12000 rpm、10 分、4oC)し、上清をアスピレータを用い
て取り除いた。次に、250 µL の P1 バッファー(Q1Aprep Spin Miniprep kit に
添付)で懸濁し、250 µL の P2 バッファー(Q1Aprep Spin Miniprep kit に添付)
を加え反転し、350 µL の N3 バッファー(Q1Aprep Spin Miniprep kit に添付)
を加え穏やかに懸濁し、遠心分離(15000 rpm、10 分、4oC)した。上清を QIAprep
Spin Column(Q1Aprep Spin Miniprep kit に添付)に移し、遠心分離(15000
rpm、1 分、4oC)し下側のカラムの溶液を捨てた。0.5 mL の PB バッファー
(QIAprep Spin Miniprep kit に添付)を加え、遠心分離(15000 rpm、1 分、
4oC)し下側のカラムの溶液を捨てた。0.75 mL の PE バッファー(QIAprep Spin
Miniprep kit に添付)を加え、遠心分離(15000 rpm、1 分、4oC)し下側のカ
ラムの溶液を捨てた。そして、上側の QIAprep Spin Column を 1.5 mL エッペ
ンに差し、50 µL の EB バッファー(QIAprep Spin Miniprep kit に添付)を加
え 1 分静置し、遠心分離(15000 rpm、1 分、4oC)した。DNA 溶液について
260 nm の吸光度を測定し、濃度 1 OD260 = 50 µg/ ml より算出した。DNA 溶
液は−30oC で保存した。
2−8.アガロースゲル電気泳動
電気泳動用アガロース(コスモバイオ)を 1x TAE buffer に 0.8%になるように
加え、電子レンジで溶解した。溶解したゲル溶液を電気泳動装置(コスモバイオ
製 Mupid–2)の付属ゲル鋳型に流し込み、コームをさした。完全にゲルが固化し
たらコームを抜き取った。ゲルは使用する前に随時作製した。作製したゲルを
支持板ごと電気泳動槽におき、これに 1x TAE buffer をゲル表面上 5 mm 程度
の高さまで注いだ。ウェルに BPB Solution と混合させた泳動試料とマーカーを
添加し、100 V で泳動を行った。泳動後、ゲルを支持板からはずし EtBr 溶液に
5 分浸した後、紫外線照射することによって DNA を検出した。
2−9.DNA 塩基配列決定
塩基配列決定にはサンガー法を用い、実際の反応は BigDye Terminator v3.1
Cycle Sequencing Kit(ABI)により行った。0.2 mL チューブに、BigDye
Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit 添付の Premix 0.5 µL、BigDye
Termionator v1.1/v3.1 Sequencing Buffer (5x) 3.75 µL、プラスミド DNA を 終
農度が 15 ng/ µL、適当な 5 pmol/ µL Primer を 3.2 pmol になるように加え、
全量が 20 µL になるように MilliQ 水で調製した。これについて PCR 反応を行
った。反応サイクルは 96oC 1 分で加熱後、96oC 10 秒、 50oC 5 秒、60oC 4 分
を 25 サイクルした。反応終了後、反応液は 1.5 mL エッペンに移し、Soium
14
Acetate/ EDTA buffer(DYEnamic ET Terminator Cycle Sequencing Kit に添
付)1 µL、100% EtOH 40 µL を加え、激しく攪拌させた。その後、遠心分離(14000
rpm、20 分、25oC)し、上清をきれいに除いた。さらに、70% EtOH 50 µL を
添加して、遠心分離(14000 rpm、5 分、25oC)し、上清を完全に除いて乾燥
させた。沈殿は Hi Di Formamide(Amersham)15 µL に溶かし激しく攪拌さ
せた後、溶液を解析用チューブに移した。塩基配列決定試料溶液は、オートシ
ークエンサー(ABI 3100 Genetic Analyzer)により解析を行った。ABI 3100
Genetic Analyzer 取り扱い法に従って操作を行い、塩基配列データを取得した。
2−10.PCR 反応による特異的 DNA 断片の増幅と精製
大腸菌 W3110 のゲノム DNA を鋳型にして PCR を行った。0.2 mL PCR 用チ
ューブに、W3110 ゲノム DNA 50 ng、TaKaRa Ex Taq (Takara) 2.5 units、10x
Ex Taq buffer (Ex Taq に添付) 10 µL、2.5 mM dNTP (Ex Taq に添付) 8 µL、
Forward primer 50 pmol、Reverse primer 50 pmol を加え、全量が 100 µL に
なるように MilliQ 水で調製した。次に、溶液を 95oC 5 分加熱後、95oC 30 秒、
50oC 30 秒、74oC 1 分を 30 サイクルし、74oC 5 分で PCR 反応を終えた。その
後、PCR 産物に等量のフェノール/クロロホルム溶液を加え白濁するまで混和
し、遠心分離(12000 rpm、1 分、室温)によって 2 層に分離後に、上層の水溶
液のみを回収した。このフェノール抽出処理を 2 回繰り返した。等量のジエチ
ルエーテルを加え混和後、遠心分離(12000 rpm、1 分、室温)し、上層のエー
テルをアスピレーターで除去した。エーテル処理は 2 回繰り返した。NaOAc を
終濃度が 0.3 M になるように加え、100%EtOH を溶液の 2.5 倍量加えよく混和
した後、遠心分離(14000 rpm、20 分、4oC)し、PCR 増幅 DNA を沈殿させ
た。70%EtOH を加え遠心分離(12000 rpm、5 分、4oC)し、上清を除去した
後、ペレットを乾燥させて MilliQ 水に溶解させた。
2−11.制限酵素処理による DNA の切断
任意量の DNA の 10x H Buffer(任意の制限酵素に添付)溶液中に、任意の
制限酵素を混合し、適当な温度で数時間反応させた。酵素の目安とし、DNA 1 µg
当たり 2 units 程度加えた。その後、反応液と等量のフェノール/クロロホル
ム溶液を加え白濁するまで混和し、遠心分離(12000 rpm、1 分、5 oC)によっ
て 2 層に分離後に、上層の水溶液のみを回収した。次に、回収した上清へ NaOAc
を終濃度が 0.3 M になるように加え、100% EtOH を溶液の 2.5 倍量加えよく
混和した後、遠心分離(14000 rpm、20 分、4oC)し、DNA を沈殿させた。70%
EtOH を加え遠心分離(12000 rpm、5 分、4oC)し、上清を除去した後、ペレ
ットを乾燥させて MilliQ 水に溶解させた。
15
2−12.DNA 連結
DNA Ligation Kit Ver 2 (Takara)を用いて行った。0.5 mL チューブにプラス
ミドベクターを 0.03 pmol、挿入 DNA 断片を 0.1 0.3 pmol を目安に数 µL ず
つ入れ、それぞれの合計量と等量の Kit に添え付きの SolutionⅠを加えて 16oC
で 30 分 16 時間反応させた。反応後、反応液の 5 10 µL を大腸菌 DH5αに形
質転換させ、DNA 連結により構成されたプラスミドをもつ形質転換体を得た。
2−13.コロニーPCR
ベクタープラスミドへの DNA 連結を確認するために、プラスミドを含む形質
転換体の寒天平板培地上でのコロニーを鋳型として PCR を行った。1.5 mL チ
ューブに、Ex Taq (Takara) 2.5 units、10x Ex Taq buffer (Ex Taq に添付) 10 µL、
2.5 mM dNTP (Ex Taq に添付) 8 µL、Forward primer 50 pmol、Reverse primer
50 pmol を加え、全量が 100 µL になるように MilliQ 水で調製した。ただし、
プライマー対は確認される DNA 連結反応により異なるが、原則はベクタープラ
スミド上の配列とした。次に 0.2 mL PCR 用チューブに溶液を 11 µL ずつ 8 本
分注した。寒天平板培地上から 8 つのコロニーを選抜し、滅菌された爪楊枝で
拾い、その後に PCR 溶液に懸濁した。懸濁後すぐに、適当な抗生物質を含む
LB 寒天培地にそれぞれを植菌した。植菌された LB 寒天培地は 37 oC で一晩培
養した。コロニーを懸濁した PCR 溶液は、95oC 5 分加熱後、95oC 30 秒、50oC
30 秒、72oC 30 秒を 30 サイクルし、72oC 5 分で反応させた。反応終了後に、
6x Dye 2 µL をそれぞれ加え、アガロース電気泳動で目的 DNA 断片の増幅また
はそのサイズを確認し、組み換えプラスミドを選抜した。
2−14.ファージを用いた lacZ 融合遺伝子導入大腸菌の作製
Simons 等の開発した方法に従った(Simons et al., 1987)。プラスミド pRS
シリーズ由来の lacZ 融合遺伝子プラスミドを大腸菌 MC4100 へ形質転換した。
得られた形質転換体は Amp を含む NZYM 培地 5 mL において、37 oC で一晩培
養した。調製したλRS45 100 µL と形質転換体培養液 50 µL を 1.5 mL エッペン
で混合して、37 oC で 15 分放置した。その後、Amp を含む NZYM 培地 5 mL
に加え、37 oC で一晩培養した。溶菌は、菌の分解物(糸状沈殿)で確認した。
溶菌液を 15 mL チューブに移し、500 µL のクロロホルムを加え、Vortex をよ
くかけ、遠心分離(3000 rpm、5 分、4 oC)し、上清を新しい 15 mL チューブ
に回収した。再度、遠心分離(3000 rpm、10 分、4 oC)を行い、上清を滅菌フ
ィルター(0.2 µm)で濾過し、4 oC で保存した(組み換えλファージ溶液)。こ
のファージ溶液にはプラスミドとλRS45 上での DNA 相同組み換えによって、
lacZ レポーター遺伝子と Km 耐性遺伝子を有した組み換えファージが含まれる。
16
溶原化させる大腸菌を LB 培地 5 mL において、37 oC で一晩培養し、培養液 100
µL と、組み換えλファージ溶液 100 µL を 1.5 mL エッペン内で混合して、37 oC
で 15 分放置した。溶液は Km を含む LB 寒天培地に塗布し、LB 寒天培地上で
生育するコロニーを溶原菌として単離した。
2−15.Miller 法による大腸菌細胞内 β-galactosidase 活性の測定
LB 寒天培地上の大腸菌シングルコロニーを適当な抗生物質を含む LB 培地 5
mL に植菌し、37 oC で一晩振とう培養した。新しい LB 培地 10 mL に大腸菌培
養液 100 µL を加え、37 oC で振盪培養した。1.5 mL エッペンに 0.02% SDS 25
µL、クロロホルム 25 µL、Z-buffer 450 µL を加えこれを反応液とし、よく攪拌
させた後に、使用するまで氷上で放置させた。OD600=0.3 0.5 まで培養後、培
養液の OD600 を測定し、その培養液 50 µL を予め用意した溶液に加え、すぐに
ボルテックスミキサーで 10 秒攪拌し、氷上で放置した。酵素反応は、ONPG 溶
液 100 µL の添加で開始させ、28 oC で溶液が黄色に呈色させるまで行い、1 M
Na2CO3 溶液 250 µL を加えて反応を停止させた。反応に要した時間は記録した。
反応停止させた溶液は、遠心分離(12000 rpm、5 分、室温)を行い、上清の
OD420 を測定した。β-galactosidase の活性は、次の式に従って Miller unit とし
て算出した。
Miller unit = 10000
OD420 /{OD600×時間(min)}
2−16.大腸菌細胞からの RNA 抽出
大腸菌を LB 培地 5 mL で 37 oC 一晩培養し、新しい LB 培地に 100 倍希釈で
対数増殖期 OD600=0.4 付近まで培養した。大腸菌培養液を 50 mL チューブに
30 mL 移し、遠心分離(5000 rpm、5 分、4oC)し、上清をきれいに取り除い
た。その後、Solution A 750 µL で懸濁し、水飽和 PhOH 750 µL を加え混合し
た後、2 mL チューブに溶液を全て移し、60℃で 10 分反応させた。遠心分離
(13000 rpm、3 分、室温)により回収した上清を新しい 2 mL チューブに移し、
水飽和 PhOH 750 µL を加え混合した後、60℃で 10 分反応させ、遠心分離(13000
rpm、3 分、室温)により上清を回収し、新しい 2 mL チューブに移した。その
後、クロロホルム 375 µL を加え、よく混合後、遠心分離(13000 rpm、3 分、
室温)により上清 400 µL を 1.5 mL チューブに回収した。100%EtOH 1 mL を
加えよく混合した後、遠心分離(13000 rpm、3 分、室温)し溶液を捨て、70%
EtOH 1 mL を沈殿物にかけないように加え、遠心分離(13000 rpm、3 分、室
温)を行い、DEPC 水(Nacalai) 100 µL で溶解した。1 M NaOAc 10µL、0.5 M
MgSO4 10 µL、DNaseⅠ 1 µL を加え室温で 1 時間反応後、クロロホルム 50 µL、
17
水飽和 PhOH 50 µL を加え混合し、遠心分離(12000rpm、3 分、室温)を行っ
た。上清 100 µL を Solution A 300 µL に加え、100%EtOH 1 mL を加えよく
混合した後、遠心分離(13000 rpm、3 分、室温)し溶液を捨てた。そして、70%
EtOH 100 µL を沈殿物にかけないように加え、遠心分離(13000 rpm、3 分、
室温)を行い、DEPC 水(Nacalai) 20 µL で溶解した。
2−17.cDNA 合成
大腸菌細胞の全 RNA からの cDNA 調製には Primer scriptTM 1st strand
cDNA synthesis kit(Takara)を用いた。0.2 mL チューブに、Primer scriptTM
1st strand cDNA synthesis kit 添付の Ramdom primer 1 µL、dNTP Mixture 1
µL、全 RNA を最大 5 µg になるように加え、全量が 10 µL になるように添付の
RNase free dH2O で調製し、65℃で 5 分反応させた後氷上で急冷した。その後、
10µL の RNA/ Primer mixture 反応物に添付の 5x Primer script buffer 4µL、
RNase Inhibitor 0.5 µL、Primer script RTase 1 µL を加え、全量が 10 µL にな
るように添付の RNase free dH2O で調製した。これについてサーマルサイクラ
ーで 30℃ 10 分、42℃ 60 分、95℃ 5 分の反応をした後、氷上で急冷した。
2−18.RT-PCR を用いた遺伝子発現解析
大腸菌 BW25113 の全 RNA から合成された cDNA を鋳型にして PCR を行っ
た。0.2 mL PCR 用チューブに、調製した cDNA 1µL、Ex Taq (Takara) 2.5 units、
10x Ex Taq buffer (Ex Taq に添) 10 µL、2.5 mM dNTP (Ex Taq に添付) 8 µL、
Forward primer 50 pmol、Reverse primer 50 pmol を加え、全量が 100 µL に
なるように MilliQ 水で調製した。これについて PCR 反応を行った。反応サイ
クルは、95oC 5 分加熱後、95oC 30 秒、50oC 30 秒、72℃ 30 秒を 35、30、28、
25 サイクルし、PCR 反応を終えた。その後、0.8%アガロース電気泳動で断片
の増幅を確認した。
2−19.トランスクリプトーム解析
<アジレント社製 DNA アレイを用いた場合>
大腸菌から抽出した全 RNA 5 µg を用いて Cy3、Cy5 によるラベル化 cDNA
調製を行った。cDNA 調製には FairPlay III Microarray Labeling kit (Agilent)
を用いた。1.5 mL チューブに、FairPlay III Microarray Labeling kit 添付の
Random primer 1 µL、DEPC-treated water 12 µL、全 RNA を 5 µg になるよ
うに加え、70℃で 10 分反応させた後、氷上で 5 分冷却した。その後、10 µL の
RNA/ Primer mixture 反応物に添付の 10x Affinity script RT buffer 2 µL、20x
dNTP Mixture 1 µL、0.1 M DTT 1.5 µL、RNase block 0.5 µL、1 M NaOH 10
18
µL を加え、70℃で 10 分反応させた後、室温に戻した。このときの冷却は氷上
では行わない。チューブが室温に戻った後 1 M HCl 10 µL を加え、溶液の pH
を中性にした。cDNA の精製はエタノール沈殿を用いた。サンプルチューブに
3M NaOAc (pH 4.5) 4 µL、添付の 20 mg/ mL Glycogen 1µL、100%EtOH
(ice-cold) 100 µL を加え-20℃で 30 分冷却後、遠心分離(13kg、15 分、4℃)
により沈殿を回収した。その後、70%EtOH 500 µL (ice-cold)を加え再び遠心分
離によって沈殿を得た。得られた cDNA は Cy3 Mono-reactive dye pack、Cy5
Mono-reactive dye pack (GE Helthcare)によりラベル化された。cDNA 沈殿に
添付の 2x Coupling buffer 5 µL を加え懸濁後、37℃で 15 分反応し、Cy3、Cy5
5 µL をそれぞれ加え常温で 30 分反応させた。その後、ラベル化 cDNA 溶液 10
µL に DEPC 水(Nacalai) 90 µL、添付の DNA binding solution 100 µL、80%
Sulfolane (Sigma) 100 µL を加えよく混合し、添付の Micro spin cup に移し遠
心分離(13 krpm、1 分、4℃)を行い、下側のカラム溶液を捨てた。再び等量
の DNA binding solution および 80%Sulfolane を加え遠心分離(14 krpm、1
分、4℃)を行い、下層溶液を捨てた後 75%EtOH 750 µL を加え遠心分離(13
krpm、1 分、4℃)を2回行った後、さらに遠心分離(13 krpm、1 分、4℃)
によってカラム内の溶液を排除した。Micro spin cup を 1.5 mL チューブにセ
ットし、10 mM Tris-HCl (pH 8.5) 50 µL を加え、室温で 5 分置いた後、遠心分
離 14 krpm、1 分、4℃を行い、下層溶液をピペッティングによって混合後再び
1.5 mL チューブにセットした Micro spin cup に添加した。これらの行程は2
3回繰り返し Micro spin cup の Fiber matrix 上にみられるラベル色素がな
くなるまで行った。その後、得られた cDNA 量および色素取り込み率を次の式
により算出した。
cDNA (ng) = A260
37 ng/ µL 50 µL (sample volum)
Cy3 or Cy5 取り込み率 (pmol/ µg) = Cy3 or Cy5 濃度/ cDNA 濃度
1000
マイクロアレイにハイブリダイズさせるためのラベル化 cDNA は、Cy3、Cy5
それぞれで標識させたものをそれぞれ 300 ng になるよう混合し、全量を 20 µL
とした。全量が 20 µL を超える場合は減圧乾燥機によって減量した。サンプル
に 10x Blocking buffer 5 µL、全量が 25 µL になるように DEPC 水 (Nacarai)
で調製した。添付の 2x HI-RPM GE Hybridization buffer 25 µL を加え泡立て
ないよう混合し、遠心分離(15000 rpm、10 分、室温)で不純物を沈殿させた後、
上清 40 µL を DNA マイクロアレイにハイブリダイズさせた。アレイの反応は
65℃で一晩行った。
DNA マイクロアレイは E.coli Gene Expression Microarray、
19
8x 15 K (Agilent)を使用した。反応後の洗浄には Gene Expression Washing
Pack (Agilent)を使用した。Wash buffer は使用前に添付の 10% Triton X-102 2
mL を加えた。
アレイを Wash buffer 1 に浸し洗浄後、37℃で温めた Wash buffer
2 に浸し洗浄した。その後、Agilent G2565CA マイクロアレイスキャナーVer 8.1、
High-resolution でアレイをスキャンした。そして、Agilent Future Extraction
により各スポットの蛍光強度を数値化した。
<タカラバイオ社製 DNA アレイを用いた場合>
Cy3、Cy5 によるラベル化 cDNA 調製には RNA Fluorescence Labeling Core
kit M-MLV Version(Takara)を用いた。0.2 ml チューブに、RNA Fluorescence
Labeling Core kit 添付の Random hexamer 1 µL、全 RNA を 20 µg になるよ
うに加え、全量が 10 µL になるように添付の DEPC-treated water で調製し、
70℃で 5 分反応させた後、氷上で急冷した。その後、10 µL の RNA/ Primer
mixture 反応物に添付の 5x Reaction buffer 4 µL、10x dNTP Mixture for Cy3
または Cy5 labeling 2 µL、1 mM Cy3 または Cy5-dUTP 1 µL、RNase Inhibitor
1 µL、M-MLV Reverse Transcriptase 2 µL を加え、全量を 20 µl とした。これ
についてサーマルサイクラーで 42℃ 60 分、 70℃ 10 分の反応を行った後、
RTase H 1 µL を加え、再び 37℃ 20 分の反応をした後、氷上で急冷した。Cy3、
Cy5 ラベル化 cDNA は添付のスピンカラムを用いて精製した。DNA アレイにハ
イブリダイズさせるためのラベル化 cDNA は、Cy3、Cy5 それぞれで標識させ
たものを混合し、全量が 10 µL になるように MilliQ 水で調製した。この溶液に
等量のクロロホルム溶液を加え白濁するまで混和し、遠心分離(12000 rpm、1
分、室温)によって 2 層に分離後に、上層の水溶液のみを回収した。終濃度が 0.3
M になるように NaOAc を加え、100%EtOH を溶液の 2.5 倍量加えよく混和し
た後、遠心分離(15000 rpm、20 分、4oC)し、ラベル化 cDNA を沈殿させた。70%
EtOH を加え遠心分離(15000 rpm、5 分、4oC)し、上清を除去した後、ペレッ
トを乾燥させて 27 µL の Hybridization buffer に溶解させた。これを、70℃で
1 分温めた後、95℃で 1 分反応させ、遠心分離(15000 rpm、10 分、室温)で不
純物を沈殿させた後、上清を DNA マイクロアレイにハイブリダイズさせた。ア
レイの反応は 65℃で一晩行った。DNA マイクロアレイは IntelliGeneTM E.coli
CHIP Version 2.0 (Takara)を使用した。反応後、アレイを 65℃で温めた 2x SSC/
0.2% SDS で 2 回洗浄し、温めた 0.2x SSC/ 0.1% SDS でさらに 2 回洗浄した。
最後に 0.05x SSC で 1 回洗浄後、遠心分離(1000 rpm、2 分、室温)で乾燥させ、
Agilent G2565CA マイクロアレイスキャナーVer 8.1、High-resolution でスキ
ャンした。そして、Agilent Future Extraction により各スポットの蛍光強度を
数値化した。
20
2−20.大腸菌染色体上目的遺伝子へのタグの挿入
FLAG 配列の染色体への組み換え挿入は PCR を使った Kirill 等の開発した方
法に従った(Kirill et al., 2000)。タグを挿入する目的遺伝子の下流と相同性を
持った 3x FLAG 配列増幅のためのプライマーは、プラスミド pSUB11 を用い
て作成した。0.2 mL PCR 用チューブに、Km 耐性遺伝子を含む pSUB11 50 ng、
Ex Taq (Takara) 2.5 units、10x Ex Taq buffer (Ex Taq に添付) 10 µL、2.5 mM
dNTP (Ex Taq に添付) 8 µL、Forward primer 50 pmol、Reverse primer 50
pmol を加え、全量が 100 µL になるように MilliQ 水で調製したものを 3 本用意
し た 。 そ し て 、 PCR を 行 い 濃 縮 後 、 GFXTM PCR DNA and Gel Band
Purification kit (Amersham Biosciences)で精製し、得られた PCR 産物はエレ
クトロポレーションを用いた形質転換に使われた。
エレクトロポレーションのためのコンピテントセルは大腸菌 BW25113 に
pKD46 を形質転換し、Amp(終濃度 100 mg/ ml)とアラビノース(終濃度 1 mM)
を含む SOB 培地 5 mL で 30℃一晩培養し、Amp とアラビノースを含む新しい
SOB 培地 10 mL で対数増殖期 OD600=0.4 付近まで培養した。培養後、菌体は
常に氷上で扱うようにした。遠心分離(3000 rpm、15 分、4oC)し、上清をき
れいに取り除き、氷冷しておいた MilliQ 水で 2 回洗浄した後、遠心分離(3000
rpm、15 分、4oC)によって上清を除去し、氷冷しておいた 10%Glycerol で 2
度洗浄した。その後、遠心分離(3000 rpm、15 分、4oC)によって上清を除去
し、氷冷しておいた 10%Glycerol を 150 µL になるように加え懸濁し、氷冷し
たエッペンチューブに 50 µL ずつ分注した。
50 µL の菌液に 1 µg の PCR 産物を加え 0.2 cm キュベットに移し、2.5 KV、
150Ωでエレクトロポレーションを行った。アラビノースを含む SOC 培地で
37℃、1 時間の培養後、Km を含んだ LB 寒天培地に 100 µL を塗布した。残り
の培養液は、室温で一晩静置培養し、Km を含んだ LB 寒天培地にコロニー形成
が現れなかった場合これを再び塗布した。得られたコロニーは、LB 寒天培地に
ストリーク後 37℃で一晩培養し、マスタープレートを作成した。その後、4 コ
ロニーについて Amp を含む LB 寒天培地および Km を含む LB 寒天培地にそれ
ぞれストリークし 37℃で一晩培養後、Amp 感受性かつ Km 耐性を示した菌に
対しゲノム抽出を行い、PCR によってタグの目的遺伝子下流への挿入の有無を
確認した。
Amp 感受性かつ Km 耐性を示した大腸菌から抽出したゲノム DNA を鋳型に
して PCR を行った。0.2 mL PCR 用チューブに、ゲノム DNA 50 ng、Ex Taq
(Takara) 2.5 units、10x Ex Taq buffer (Ex Taq に添付) 10 µL、2.5 mM dNTP
(Ex Taq に添付) 8 µL、Forward primer 50 pmol、Reverse primer 50 pmol を
加え、全量が 100 µL になるように MilliQ 水で調製した。ただし、プライマー
21
対は確認される DNA 組み換え反応により異なるが、原則は Forward primer を
目的遺伝子と相同性のある配列、Reverse primer をベクタープラスミド上の耐
性遺伝子の配列とした。次に、溶液を 95oC 5 分加熱後、95oC 30 秒、50oC 30
秒、72oC 2 分を 30 サイクルし、72oC 5 分で PCR 反応を終えた。反応終了後に、
2 µL の 6 x Dye をそれぞれ加え、アガロース電気泳動で目的 DNA 断片の増幅
またはそのサイズを確認し、目的遺伝子下流の染色体上へのタグ配列を確認し
た。
2‐21.大腸菌細胞の可溶画分タンパク質抽出
大腸菌を LB 培地 5 mL で 37 oC 一晩培養し、新しい LB 培地 10 mL に 100
倍希釈で対数増殖期 OD600=0.4 付近まで培養した。大腸菌培養液を 15 mL チ
ューブに移し、遠心分離(5000 rpm、5 分、4oC)し、上清をきれいに取り除い
た。その後、MilliQ 水 1 mL で懸濁し、遠心分離(12000 rpm、10 分、4oC)
し、上清をアスピレータで取り除いた。次に、1x Lysis buffer 400 µL を加え懸
濁した後、0.1 M PMSF 1.1 µL、10 mg/ ml Lysozyme 11 µL を加え、氷上 20
分で反応させ、超音波により細胞を破砕した。超音波処理は、15%で 10 秒の超
音波処理ごとに 10 秒の休みを加え、このサイクルを9回行い全体で 90 秒間の
超音波処理を行った。その後、遠心分離(15000 rpm、20 分、4oC)し、上清
を 1.5 mL エッペンチューブに回収した。
2‐22.ウエスタンブロッティング解析
15%下層分離ゲルと上層濃縮ゲルから成るアクリルアミドゲルを用いて
SDS-PAGE によりタンパク質を分離した。泳動試料は 6x SDS Loading buffer
と 2-メルカプトエタノールを混合させた後、95℃で 5 分加熱処理した。ウェル
に泳動試料とマーカーを添加し、20 mA で泳動を行った。その後、i BlotTM ゲ
ルトランスファーシステム (Invitrogen)を用いてたんぱく質を PVDF 膜に転写
した。その後、PVDF 膜は 3%BSA/ 1x PBS に浸し室温で1時間のブロッキン
グ反応を行った後、0.5%Tween20/ 1x PBS で 3 回洗浄し、3%ゼラチン/ 1x PBS
10 mL、Anti-FLAG (Sigma) 2 µL を加え、室温で1時間一次抗体反応した。そ
の後、PVDF 膜は 0.5%Tween20/ 1x PBS で 3 回洗浄後, 5%スキムミルク/ 1x
PBS 10 mL、Anti-Mouse-IgG HRP (Nacalai) 2 µL を加え、室温で1時間二次
抗 体 反 応 し た 。 そ の 後 、 0.5 % Tween20/ 1x PBS で 3 回 洗 浄 し 、
Chemilmi-Luai-one supere A および B (Nacalai)を 0.5 mL ずつ混合し、PVDF
膜に塗布し LAS-4000 (Fuji film)により目的タンパク質を検出した。
22
2‐23.免疫沈降法(Chromatine immunopreciptation: ChIP)
目的タンパク質と結合している DNA 複合断片は、マグネティックビーズに結
合させた FLAG 抗体を用いて単離した。以後、上清は DynaMagTM-15 および
DynaMagTM-Spin (Invitrogen)を利用して取り除いた。DynaBeads Protein A
(Invitrogen) 15 µL を 1.5 mL チューブに移し、DynaMagTM-Spin で上清を取り
除いた。氷冷しておいた 5 mg/ ml BSA/ 1x TBS 500 µL で洗浄後、上清を取り
除いた。これを2回行った。次に、氷冷しておいた 5 mg/ ml BSA/ 1x TBS 15 µL、
Anti-FLAG 1.3 µL を加え 4℃で一晩ローテーション反応を行った。その後、洗
浄を同様に2回行い、5 mg/ ml BSA/ 1x TBS 15 µL を加えよく混合させた。
大腸菌染色体上の目的遺伝子下流に 3x FLAG タグを持つ菌体を LB 培地で一
晩培養後、新しい LB 培地に 100 倍希釈で対数増殖期 OD600=0.4 付近まで培養
した後、ホルムアルデヒドを加え 20 分間培養後、グリシンを加え架橋反応を止
めた。大腸菌培養液を 15 mL チューブに 10 mL 移し、遠心分離(5000 rpm、5
分、4oC)し、上清をきれいに取り除いた。その後、1 mL の 1x TBS で懸濁し、
2 mL チューブに移し、遠心分離(12000 rpm、10 分、4oC)し、上清をアスピ
レータで取り除いた。これを2回繰り返した。次に、1x Lysis buffer/ Lysozyme
500 µL を加え懸濁した後、
37℃で 30 分反応させ、あらかじめ用意した IP buffer
4mL を加えた 15 mL チューブに反応液と 0.1 M PMSF 400 µL を加え、37℃で
10 分反応させた。その後、超音波によりゲノム DNA を断片化した。超音波処
理は、18%で 30 秒の超音波処理ごとに 30 秒の休みを加え、このサイクルを1
2回行い全体で 6 分間の超音波処理を行った。その後、遠心分離(4000 rpm、
15 分、4oC)し、上清 3.2 mL を 15 mL チューブに移し、15 µL の抗体結合マ
グネティックビーズを加え、4℃で一晩ローテーション反応を行った。また、コ
ントロールとして用いるための上清 200 µL を 1.5 mL チューブに移し、-20℃で
保管した。
抗体反応を行った反応液は、DynaMagTM-15 を用いて上清を取り除いた後、
IP buffer 2 mL で洗浄し、上清を取り除いた。これを2回行った。
次に、
IP buffer
+ Sult 2 mL、Wash buffer 2 mL、TE buffer 2 mL で1回ずつ洗浄し、上清を
取り除いた。その後、Elution buffer 100 µL で懸濁し、1.5 mL チューブに全
て移し、65℃、20 分で反応を行った。75 µL の上清を 0.2 mL PCR 用チュー
ブに移し、50 mg/ ml Pronase 10 µL を加え混合後、サーマルサイクラーを用
いて 42℃ 2 時間、65℃ 6 時間の反応を行った。残りの 25 µL は 1.5 mL チュ
ーブに移し、-20℃で保管し後日ウエスタンブロッティングにより目的タンパ
ク質が存在していることを確認した。また、クロマチン作成時に-20℃で保管
したコントトールサンプル 100 µL に対しても同様の反応および実験を行った。
反応後の DNA 断片サンプルは QIA quick PCR Purification kit (Qiagen)で精
23
製した。
2‐24.ChIP-PCR 解析
ChIP で得られた DNA 断片および大腸菌全ゲノム DNA 断片を鋳型にして
PCR を行った。0.2 mL PCR 用チューブに調整した DNA 断片 1 µL、Phusion
DNA polymerase (Finnzymes) 2 units、5x Phusion HF buffer (Phusion に添
付) 20 µL、50 mM MgCl2 3 µL、2 mM dNTPs (KOD-Plus、Toyobo に添付) 10
µL、Forward primer 50 pmol、Reverse primer 50 pmol を加え、全量が 100 µL
になるように MilliQ 水で調整した。これについて PCR 反応を行った。反応サ
イクルは、95oC 5 分加熱後、95oC 30 秒、50oC 30 秒、72℃ 30 秒を 30、28
サイクルし、PCR 反応を終えた。その後、2%アガロース電気泳動で断片の増
幅またはそのサイズを確認し、目的タンパク質の染色体 DNA への結合を選別
した。
2‐25.ChIP-chip 解析
1.5 mL チューブに ChIP で得られた目的タンパク質 DNA 断片複合体と全
DNA 断片を 25 µL 移し、3 M NaOAc 5 µL、100%EtOH 125 µL、20 mg/ ml
Glycogen 1 µL、MilliQ 水 25 µL 加え、よく混合後、氷上で 30 分置いた。そ
の後、遠心分離 (14000 rpm、20 分、4oC)し、DNA を沈殿させた。70%EtOH
を加え遠心分離 (12000 rpm、5 分、4oC)し、上清を除去した後、ペレットを
乾燥させて ChIP DNA に 7 µL、全 DNA 断片に 5 µL の TE buffer を加え溶解
させ、濃縮した。その後、1.5 mL チューブに 5x Sequence buffer (Usb) 1 µL、
3 mM dNTPs (Kapaz) 1.5 µL、0.1 M DTT 0.75 µL、50 mg/ ml BSA
(Invitrogene) 1.5 µL 加え、反応液を作成した。次に、1.5 mL チューブに Diluted
Sequenase buffer 4 µL、Sequenase (Usb) 1 µl 加え、よく混合し、希釈
Sequenase 液を使用直後まで氷上で置いた。次に、濃縮した DNA 断片を 15 ng/
µL になるように 0.2 mL PCR 用チューブに移し、5x Sequenase buffer 2 µL、
Primer A 1 µL 加え、MilliQ 水で全量 10 µL になるよう調製した後、PCR に
より DNA 断片の増幅を行った。溶液を 94℃ 2 分、10℃ 5 分反応後、調整し
ておいた反応液を 4.75 µL、希釈した Sequenase 0.3 µL 加え混合後、37℃で 8
分以上の Ramp 反応した後、37℃ 8 分、94℃ 2 分、10℃ 5 分で反応させ、
温度が 20℃に上昇したら希釈した Sequenase 1.2 µL 加え混合後、37℃で 8 分
以上の Ramp 反応した後、37℃ 8 分反応させた。反応後、Microcone YM-30
(Millipore) に PCR 産物を全量移し、MilliQ 水 585 µL 加え、遠心分離 (13500
rpm、10 分、室温)した後、カラム内が約 15 µL になるまでさらに遠心分離を
行った。その後、カラムを反転させ新しい 1.5 mL チューブに置き、遠心分離
24
(1000 g、3 分、室温)し、濃縮した。その後、0.2 mL PCR 用チューブに、濃縮
した DNA 断片 15 µL、i proof filedy DNA polymerase (Bio Rad) 0.5 µL、5x
Phusion HF buffer (i proof に添付) 10 µL、10 mM dNTPs 1 µL、Primer B 1 µL
を加え、全量が 50 µL になるように MilliQ 水で調整した。これについて PCR
反応を行った。反応サイクルは、98oC 30 秒加熱後、98oC 10 秒、52oC 30 秒、
72℃ 3 分を 30 サイクル行い、72℃ 7 分で PCR 反応を終えた。反応後、2%
アガロースゲルにより濃縮 DNA 断片を確認した。その後、Ultracel-10k
Membrane (Millipore)に PCR 産物を全量移し、MilliQ 水 550 µL 加え、遠心
分離 (14000 g、30 分、室温)した後、カラム内を約 40 µL にした。その後、カ
ラムを反転させ新しい 1.5 mL チューブに置き、遠心分離(1000 g、2 分、室温)
し、さらに濃縮した。
その後、1.5 mL チューブに全量移し、10x DNase I buffer (Usb) 5 µL、1 unit/
µL DNase I (Usb)を DNA に対し 0.6 units/ µg になるように加え、MilliQ 水で
全量 50 µL になるよう調製し、37℃ 10 分、98℃ 10 分反応させた。反応終了
後に、2 µL の 6x Dye をそれぞれ加え、2%アガロース電気泳動で目的 DNA の
断片化またはそのサイズを確認した。
断片化 DNA のラベリングは BioArrayTM Terminal Labeling Kit (Enzo life
science)を用いて行った。断片化 DNA 溶液に 5x Reaction buffer 20 µL、100x
Biotin-ddUTP 1 µL、10x CoCl2 10 µL、50x Transferase 2 µL 加え、全量が
100 µL になるように MilliQ 水で調製した。その後、37℃ 60 分反応後、2 µL
の 0.5 M EDTA を加え反応を終了した。
ラベル化した DNA 断片溶液に 2x Hybridization buffer 100 µL、3 mM Oligo
B2 3.3 µL、100 mg/ mL Hering Sperm DNA 2 µL、80 mg/ mL BSA 2 µL を
加え、98℃ 5 分反応させた。その後、タイリングアレイにハイブリダイズさせ、
60 rpm、16 時間、45℃反応させた。
2‐26.細胞内ポリアミン量の測定
大腸菌細胞内ポリアミン量の測定は Kurihara 等の方法に従った (Kurihara
et al., 2008)。LB 寒天培地上の大腸菌シングルコロニーを LB 培地 5 mL に植
菌し、37 oC で一晩振とう培養した。新しい LB 培地に大腸菌培養液を
OD600=0.03 になるよう加え、37 oC で振盪培養した。目的の OD600 値まで培養
後、培養液の OD600 を測定し、大腸菌培養液を 15 mL チューブに移し、遠心
分離(5000 rpm、5 分、4oC)し、上清をきれいに取り除いた。その後、1x PBS
で洗浄し-80℃で保管した。その後、Kurihara 等の方法に従い、HPLC により
細胞内ポリアミン量を測定した。
25
2‐27.フェノタイプマイクロアレイ解析
LB 寒天培地上の大腸菌シングルコロニーを適当な抗生物質を含む M9
(+Glucose) 培地 5 mL に植菌し、37 oC で一晩振とう培養した。大腸菌培養液
を 15 mL チューブに移し、遠心分離(5000 rpm、5 分、4oC)し、上清をきれ
いに取り除いた。その後、IF-0 2 mL を加え洗浄し、遠心分離(5000 rpm、5
分、4oC)後、上清をきれいに取り除き、IF-0 2 mL で 懸濁し、IF-0 16 mL
中に OD600 測定機の濁度が 42%T になるように加えた。試験管に 1.2x IF-0 62.5
mL, 100x Dye 900 mL、MilliQ 水 11.6 mL を調製し、作製した培養液を 15 mL
加えた。そのうち、22 mL 分をフェノタイプマイクロアレイ Plate1、2 に使用
した。また、68 mL を新しい試験管に移し、2 M Sodium Succinate/ 0.2 mM
Ferric Citrate 680 µL を加え Plate3 8 に使用した。さらに、全量に対し
IF-10+Dye、100x Dye が 1x になるよう加え、作製した培養液を全体の 200 倍
希釈になるよう加え、最後に MilliQ 水で全容量を調製した培養液サンプルを
Plate9 20 に使用した。各プレート上のスポットには調製液 100 mL を添加し、
よく混合した後、OMNILOG (Biolog)で一晩培養させ、生育曲線を比較した。
各フェノタイプアレイ(Plate 1 Plate 20)のウェルにおける培養条件は
OMNILOG 社ウェブサイトに示されている。
(http://www.biolog.com/pdf/pm_lit/PM1-PM10.pdf)
(http://www.biolog.com/pdf/pm_lit/PM11-PM20.pdf)
26
第3章 結果
3‐1.YdeO 遺伝子の発現制御
3−1−1.UV 照射後に誘導される YdeO 発現 (Yamanaka et al., 2012)
紫外線照射後の ydeO 発現を調べるため、Km を含んだ LB 培地で大腸菌野生
株 YY1001 (λydeO-lacZ)を一晩培養後、新しい LB 培地に 100 倍希釈で対数増
殖期 OD600=0.4 付近まで培養した。その後、培養液を 9 cm 径シャーレに 10 mL
(シャーレには約 0.5 cm の溶液高)移し 30 秒間紫外線にさらし、37 oC で 5 分、
10 分、20 分、30 分間培養した。培養液は必要分量エッペンドルチューブに移
し、使用するまで氷上で保管した。そして、それぞれの大腸菌培養液の
β-galactosidase 活性を測定し、ydeO プロモーター活性を比較した。その結果、
30 分間培養すると紫外線にさらしていない大腸菌では ydeO 発現に変化がない
のに対し、30 秒間紫外線にさらした大腸菌では 30 分培養後に約 3 倍増加した。
また、紫外線照射による ydeO 発現誘導は 20 分以上の培養により起こった(図
3)。
図3.紫外線照射後の ydeO プロモーター活性
[A] 大腸菌細胞の β-galactosidase は Miller 法により測定した。野生株 YY1001 シングルコロニーを Km
を含む LB 培地 5 mL に 37 oC で一晩培養した。新しい LB 培地 10 mL に培養液を 100 倍希釈、37 oC で対
数増殖期まで培養した。得られた培養液をシャーレに全て移し、30 秒間紫外線にさらし、37 oC で 5 分、
10 分、20 分、30 分間培養した。その後、それぞれの大腸菌培養液の β-galactosidase 活性を測定し、ydeO
プロモーター活性を比較した。酵素反応は、ONPG 溶液 100 µL の添加で開始させ、28 oC で溶液が黄色に
呈色するまで行い、Na2CO3 の添加により反応を停止させた。反応液の A420 を測定し Miller Unit として
算出した。●は紫外線照射処理、○は未処理の ydeO プロモーター活性を示す。[B] 紫外線照射後の ydeO
発現を RT-PCR により評価した。野生株 BW25113 を LB 培地 5 mL に 37 oC で一晩培養し、新しい LB 培
地 10 mL に培養液を 100 倍希釈、37 oC で対数増殖期まで培養した。得られた培養液をシャーレに全て移
し、30 秒間紫外線にさらし、37 oC で 5 分、10 分、20 分、30 分間培養し、それぞれの全 RNA を抽出し
た。その後、cDNA を合成し、PCR 反応により得られたサンプルを 0.8%アガロースゲルを用いた電気泳
動により発現量を評価した。 27
また、RT-PCR を用いた遺伝子発現解析により mRNA 量の変化を調べ、またウ
エスタンブロッティング解析によりタンパク質量を評価したところ同様の結果
となった(図3)。これらの結果より、YdeO 発現は紫外線照射後 20 分後に起こ
ることが示唆された。次に、紫外線照射後の ydeO 発現に必要な因子を調べるた
め、Km を含んだ LB 培地で野生株 YY1001、ydeO 欠失株 YY2002、evgA 欠失
株 YY3001、gadE 欠失株 YY4001 をそれぞれ一晩培養後、新しい LB 培地に 100
倍希釈で対数増殖期 OD600=0.4 付近まで培養した。その後、さきほどと同様の
紫外線照射処理を加え 30 分培養後、それぞれの大腸菌培養液の β-galactosidase
活性を測定し、ydeO プロモーター活性を比較した。その結果、紫外線を受けて
から 30 分後の ydeO 発現は野生株で約 60 units であるのに対し、evgA 欠失株、
gadE 欠失株では共に約 20 units であり野生株の約 1/3 の発現量であった。また、
ydeO 欠失株においては野生株の約 1/ 2 の発現量であった(図4)。結果として、
紫外線による ydeO 発現誘導には EvgA, GadE が必要であることが示された。
図4.紫外線照射後の各欠失株における ydeO プロモーター活性
[A] 大腸菌細胞の β-galactosidase は Miller 法により測定した。野生株 YY1001(レーン 1、2)、evgA 欠
失株 YY3001(レーン 3、4)、gadE 欠失株 YY4001(レーン 5、6)それぞれのシングルコロニーを Km を
含む LB 培地 5 mL に 37 oC で一晩培養した。新しい LB 培地 10 mL に培養液を 100 倍希釈、37 oC で対数
増殖期まで培養した。得られた培養液をシャーレに全て移し、30 秒間紫外線にさらし、37 oC で 30 分間振
とう培養した。その後、それぞれの大腸菌培養液の β-galactosidase 活性を測定し、ydeO プロモーター活
性を比較した。酵素反応は、ONPG 溶液 100 µL の添加で開始させ、28 oC で溶液が黄色に呈色するまで行
い、Na2CO3 の添加により反応を停止させた。反応液の A420 を測定し Miller Unit として算出した。■は
紫外線照射、□は未処理の ydeO プロモーター活性を示す。[B] 紫外線照射後の evgA、 gadE 発現を
RT-PCR により評価した。野生株 BW25113 を LB 培地 5 mL に 37 oC で一晩培養し、新しい LB 培地 10 mL
に培養液を 100 倍希釈、37 oC で対数増殖期まで培養した。得られた培養液をシャーレに全て移し、30 秒
間紫外線にさらし、37 oC で 5 分、10 分、20 分、30 分間培養し、それぞれの全 RNA を抽出した。その後、
cDNA を合成し、PCR 反応により得られたサンプルを 0.8%アガロースゲルを用いた電気泳動により発現
量を評価した。
28
EvgA は evgAS 二成分制御系のレスポンスレギュレーターであることから、
ydeO の発現に EvgS が関与している可能性を確かめた。その結果、ydeO の発
現は紫外線照射前後で確認することができなかった。なお、EvgS はセンサーキ
ナーゼであることから、紫外線照射後の ydeO 発現に EvgS がセンサーとして働
いている可能性が示唆された。次に、紫外線照射後の evgA, gadE 発現量の変化
を RT-PCR を用いた遺伝子発現解析により調べた(図4)。その結果、紫外線照
射前後で両者の遺伝子に発現量の変化はみられなかった。また、evgS 欠失株で
は紫外線照射前後で evgA 発現を確認することができなかった。これらの結果よ
り、紫外線による ydeO 発現誘導に EvgA, GadE が必要であるが、それは evgA,
gadE の発現量には依存していないことが示された。
3−1−2.UV 照射後の YdeO により転写制御される遺伝子の網羅的解析
それでは YdeO によって発現される遺伝子にはどのようなものがあるのか。
これに、答えるため紫外線照射後 YdeO に誘導される遺伝子発現を網羅的に解
析するためトランスクリプトーム解析を行った。野生株 YY1001 と ydeO 欠失
株 YY2001 を LB 培地で一晩培養し、新しい LB 培地に 100 倍希釈で対数増殖
期 OD600=0.4 付近まで培養した後、培養液をシャーレに移し 30 秒間紫外線に
さらし、37 oC で 30 分間培養した。その後、それぞれの全 RNA を抽出した。
トランスクリプトーム解析を行うためにタカラバイオ社製の DNA アレイを用
いた。YY1001 株由来の全 RNA を Cy3、YY2001 株由来の全 RNA を Cy5 でラ
ベル化した cDNA を合成した。それらを混合したサンプルを DNA アレイにハ
イブリダイズし、各スポットの蛍光強度を比較することで各遺伝子発現を評価
した。その結果、ydeO 欠失株で 3 倍以上発現が上昇した遺伝子を 8 個、減少し
た遺伝子を 13 個同定することができた(表3)。これら UV によって誘導され
た YdeO によって制御される遺伝子の機能は、細胞膜、トランスポーター、転
写因子に分類することができた。しかし、これらの中にはこれまで YdeO が制
御することが知られている遺伝子群は含まれていなかった。これらの同定され
た YdeO ターゲットは、YdeO 制御を介する新しい UV 適応応答に関与する遺伝
子である可能性が考えられるが今後さらなる研究が必要とされることを示して
いる。
3‐2.YdeO に制御されるアミノ酸依存酸耐性機構
3−2−1.YdeO に制御される細胞内カダベリン量
YdeO はグルタミン酸依存的酸適応機構を誘導する。YdeO によって誘導され
たグルタミン酸脱炭酸酵素 GadA/B は、細胞内グルタミン酸を脱炭酸化し、
GABA を生成する。一方、アルギニン依存的酸適応機構ではアルギニンの脱炭
29
表 3 . 紫 外 線 照 射 後 に YdeO 依 存 的 に 誘 導 さ れ る 遺 伝 子 群
a)
Functions are represented according to the Profiling of Escherichia coli chromosome (PEC) database
(http://www.shigen.nig.ac.jp/ecoli/pec/index.jsp).
b)
The ratio indicates as the value of level in ΔydeO cell to that of wild type cell. Experiment was
independently performed twice (each ratio is shown as 1st and 2nd).
30
酸反応によりカダベリンが生成される。YdeO のアルギニンおよびリジン依存的
酸耐性機構への影響を調べるため、それぞれの反応生成物であるアグマチンか
ら派生されるプトレッシンおよびカダベリンについて大腸菌細胞内量を HPLC
で測定した。まず、野生株と ydeO 欠失株の対数増殖期初期、中期および定常期
を決定するため、成長曲線からそれぞれ好気培養下では OD600=0.3、0.5、1.0、
また嫌気培養下ではそれぞれ OD600=0.2、0.3、0.5 とした。LB 培地で野生株
BW25113 と ydeO 欠失株 JW1494Δkm を一晩培養後、新しい LB 培地に OD600
=0.03 になるよう希釈、その後好気および嫌気条件下で目的の OD600 値まで培
養した。その後、菌を回収し 1x TBS で洗浄後-30℃で保存した。これらの細胞
は Kurihara 等の方法に従って破砕し、プトレッシンおよびカダベリンを含む抽
出溶液を HPLC に供与し、プトレッシンとカダベリン量の測定を行った。その
結果、プトレッシン量は嫌気条件に比べ好気条件では40倍程度の高濃度存在
していた(図5)。
図5.大腸菌細胞内ポリアミン濃度
野生株 BW25113(□)、ydeO 欠失株 JW1494Δkm(■)を含む LB 培地 5 mL に 37 oC で一晩培養した。
新しい LB 培地 50 mL に培養液を OD600=0.03 になるよう希釈、37 oC で好気および嫌気条件下で目的の
OD600 値まで培養した。好気条件ではフラスコ内で振とう培養し、OD600=0.3 (Early Log phase)、0.5 (Mid
Log phase)、1.0 (Early Stationary phase)まで培養した。嫌気条件では 50 mL チューブ内で静置培養し、
OD600=0.2 (Early Log phase)、0.3 (Mid Log phase)、0.5 (Early Stationary phase)まで培養した。得られ
た培養液を 1x PBS で3回洗浄後、Kurihara 等の方法に従って細胞破砕し、プトレッシンおよびカダベリ
ンを含む抽出溶液を HPLC に供与し、プトレッシンとカダベリン量の測定を行った。
31
しかし、野生株と ydeO 欠失株ではその量に大きな違いはなかった。一方、カダ
ベリン量は好気条件ではほぼ一定の 20 µmol/ mg であったが、嫌気条件では定
常期に約5倍程度の増加が確認された。さらに、ydeO 欠失株ではカダベリン量
が野生株の2 3倍程度増加し、その効果は特に嫌気条件下で培養する一連の
増殖相で観察された(図5)。つまり、YdeO は細胞内カダベリン量を嫌気条件
下で抑制していることが示唆された。
3−2−2.YdeO により抑制される cad プロモーター活性
大腸菌の主要なカダベリン代謝と制御は、合成酵素 CadA、アンチポーター
CadB、アクチベーターCadC により担われ、これらの遺伝子はオペロン構造を
とる。そこで、cadCBA オペロン発現への YdeO の影響を調べた。cad オペロン
には cadA と cadC 上流にプロモーターの存在が示唆されており、そのため
cadAB および cadC プロモーター領域を lacZ 遺伝子に融合するように組み込み、
得られた菌体を BB0901 (λcadB-lacZ)、BC0901 (λcadC-lacZ)、JB0901 (ΔydeO,
λcadB-lacZ)、JC0901 (ΔydeO, λcadC-lacZ)とした。LB 培地で大腸菌野生株
BB0901、BC0901、JB0901、JC0901 を一晩培養後、新しい LB 培地に 100 倍
希釈で対数増殖期 OD600=0.4 付近まで培養し、β-galactosidase 活性を測定し
た。その結果、cadB 発現は野生株と ydeO 欠失株ともに低いレベルであり、そ
れらの株における差異もほとんどなかった(図6A)。しかし、cadC 発現は野生
株ではほとんど発現していないが、ydeO 欠失株では非常に高い活性を示した
(図6B)。これらの結果より、YdeO はカダベリン合成酵素を活性化する CadC
転写因子を抑制し、細胞内カダベリン量を抑制していることが示唆された。
3‐3.YdeO 細胞内ゲノム上分布
3−3−1.YdeO 過剰発現における大腸菌生育への影響
YdeO 過剰発現株を作成するため ydeO の下流に 3xFLAG タグを持つ DNA
断片を pTrc99A プラスミドに挿入し、野生株 BW25113 株、 ydeO 欠失株
JW1494Δkm に導入した。このプラスミド(pYY0401)における YdeO 過剰発現
は、IPTG 添加なしでも確認でき、さらに IPTG により誘導することがウエスタ
ンブロッティングにより確認できた(図7)。YdeO 過剰発現における大腸菌の
生存に影響を及ぼさない IPTG 濃度を決定するため、様々な IPTG 濃度におけ
る大腸菌の生存を確認した。Amp を含む LB 培地で JW1494Δkm/ pYY0401
(ydeO-3xFLAG)株を一晩培養後、新しい Amp を含む LB 培地に 100 倍希釈で
培養し、IPTG 添加有無で時間ごとの好気条件、嫌気条件それぞれの OD600 を測
定した。好気条件では振とう培養し、嫌気条件では静置培養を行った。また、
IPTG 濃度は 0.005 mM、0.01 mM、0.05 mM、0.1 mM とした。その結果、野
32
図6. cadB および cadC プロモーター活性における YdeO の効果
大腸菌細胞の β-galactosidase は Miller 法により測定した。野生株 BB0901(□)、BC0901(□)、ydeO
欠失株 JB0901(■)、JC0901(■)それぞれのシングルコロニーを Km を含む LB 培地 5 ml に 37 oC で
一晩培養した。新しい LB 培地 10 ml に培養液を 100 倍希釈、37 oC で対数増殖期まで培養した。その後、
大腸菌サンプルをそれぞれ β-galactosidase 活性により測定し、cadB および cadC プロモーター活性を比
較した。酵素反応は、ONPG 溶液 100 µl の添加で開始させ、28 oC で溶液が黄色に呈色するまで行い、
Na2CO3 の添加により反応を停止させた。反応液の A420 を測定し Miller Unit として算出した。 生株、ydeO 欠失株および好気条件、嫌気条件それぞれにおいて大腸菌の生育に
影響を及ぼさない最大の IPTG 濃度を 0.01 mM であった。そのため今後の実験
では、終濃度 0.01 mM で IPTG を添加することとした。
3−3−2.ゲノム上 YdeO 結合領域の網羅的解析
YdeO が大腸菌ゲノム上で直接制御する遺伝子を同定するため ChIP-chip 解
析を行った。Amp を含む LB 培地で JW1494Dkm/ pYY0403 を一晩培養後、新
しい Amp を含む LB 培地に 100 倍希釈で対数増殖期 OD600=0.4 付近まで培養
した。ホルムアルデヒドを加え 20 分間培養後、グリシンを加え架橋反応を止め
た。次にリゾチームで細胞を処理した後、超音波によって細胞内 DNA を 200
∼500bp に切断した。得られた試料から一部を回収し、これを全 DNA 断片とし
た。つぎに、YdeO と結合している DNA 断片複合体は、マグネティックビーズ
に結合させた 3xFLAG 抗体を用いて単離した。これまでに YdeO は gadE のプ
ロモーター領域にに結合することが知られているため、得られた複合体断片と
全 DNA 断片を鋳型として gadE のプロモーター領域約 250 bp を増幅するプラ
イマー対 GADE-F-2 と GADE-R-2、GADE-F-3 と GADE-R-3、GADE-F-4 と
GADE-R-4(表2)を用いて PCR 反応を行い、2%アガロース電気泳動によっ
33
図7.YdeO 発現における IPTG の効果
大腸菌 ydeO 欠失株 JW1494Δkm/ pTrc99A、JW1494Δkm/ pYY0403 株を Amp を含む LB 培地で一晩
培養後、新しい Amp を含む LB 培地に 100 倍希釈し、振とう培養で対数増殖期 OD600=0.4 付近までそれ
ぞれ培養した。その後、大腸菌細胞内可溶性タンパク質溶液を調製した。それぞれの、タンパク質は
SDS-PAGE で分離し PVDF 膜に転写した。そして、FLAG 抗体を用いて YdeO-3xFLAG を検出した。
て解析した結果、全 DNA 断片と同じように YdeO-DNA 複合体を鋳型とした
PCR で gadE 領域が確認でき、YdeO-DNA 複合体がうまく単離できていること
がわかった。 gadE 転写開始点は 3 種類同定されており YdeO はそのうち
GADE-F-3 と GADE-R-3、GADE-F-4 と GADE-R-4 のプライマー対が位置する
領域に結合することが in vivo で確認された。その後、得られた YdeO-DNA 複
合体断片と全 DNA 断片を濃縮し、増幅した後、再断片化し、これらを同じ蛍光
色素でラベル化した。その後、タイリングアレイにハイブリダイズし、それぞ
れ の 蛍 光 強 度 の 差 に よ り 7 箇 所 の YdeO 結 合 領 域 を 同 定 し 、 YOBS1
(YdeO-binding site 1)から YOBS7 と名付けた(図8)。それぞれの YdeO 結合
位置は、YOBS1 は nhaA の ORF、YOBS2 は hyaABCDEF オペロン上流、YOBS3
は appCBA プロモーター上流、YOBS4 は yiiS プロモーター上流、YOBS5 は
gadW プロモーター上流、 YOBS6 は gadE プロモーター上流、YOBS7 は slp
プロモーター上流の特徴が確認できた(図9)。
3‐4.YdeO レギュロンの同定
3−4−1.YdeO 過剰発現により転写制御される遺伝子の網羅的解析
YdeO 結合領域は 6 つが遺伝子間領域に見出されたが、さらにこの YdeO 結合
領域周辺遺伝子を含めた全遺伝子発現への YdeO 過剰発現の影響を調べるため
34
図8.大腸菌ゲノム上 YdeO 分布
YdeO 結合が確認された周辺のシグナルを含む大腸菌ゲノム上の YdeO 結合領域を示す。Amp を含む LB
培地で JW1494Dkm/ pYY0403 を一晩培養後、新しい Amp を含む LB 培地に 100 倍希釈で対数増殖期
OD600=0.4 付近まで培養した。ホルムアルデヒドを加え 20 分間培養後、グリシンを加え架橋反応を止め、
超音波により細胞内 DNA を 200∼500bp に切断した。YdeO 結合 DNA 断片複合体は、マグネティックビ
ーズに結合させた 3xFLAG 抗体を用いて単離した。得られた YdeO-DNA 複合体断片と全 DNA 断片を濃
縮し、増幅した後、再断片化し、これらを同じ蛍光色素でラベル化した。その後、タイリングアレイにハ
イブリダイズし、それぞれの蛍光強度の差により7箇所の YdeO 結合領域を同定した。黄色い矢印はそれ
ぞれの遺伝子を示しており、3つのシグナルが表記されている。下から、全 DNA 断片、ChIP により得ら
れたサンプル、それぞれを差し引いたピークを示している。また、YdeO 結合領域は YOBS (YdeO Binding
Site)として示した。
トランスクリプトーム解析を行った。アンピシリンを含む LB 培地で野生株
KP7600/ pTrc99A、YdeO 過剰発現株 KP7600/ pYY0401 を一晩培養し、新しい
アンピシリンを含む LB 培地に 100 倍希釈し、対数増殖期 OD600=0.4 付近まで
培養した。その後、それぞれの全 RNA を抽出した。トランスクリプトーム解析
を行うために Agilent 社製の DNA アレイを用いた。野生株由来の全 RNA を
35
....... . .................
................
....... .....
図9. YdeO の hdeD - gadE 、 gadW p 、 slp p , hyaF - appC , yiiS - uspD 上への結合
図5で示された YdeO 結合領域の一部を拡大した。左上から hyaF-appC、yiiS-uspD、左下から gadWp、
hdeD-gadE、slpp である。それぞれの遺伝子のゲノム上位置は図上に数値で示した。
Cy3、YdeO 過剰発現株由来の全 RNA を Cy5 でラベル化した cDNA を合成し
た。それらを混合したサンプルを DNA アレイにハイブリダイズし、各スポット
の蛍光強度を比較することで各遺伝子発現を評価した。その結果、YdeO 過剰発
現で 3 倍以上 RNA が増加した遺伝子は 55 種、減少した遺伝子は 53 種であっ
た。YdeO 過剰発現によって発現増加した遺伝子には、YOBS1 周辺の nhaA、
YOBS2 周辺の hyaABCDEF オペロン、YOBS3 周辺の appC、YOBS5 周辺の
gadW、YOBS6 周辺の gadE、YOBS7 周辺の slp が含まれていた。次に、mRNA
hyaF、appC、yiiS、gadE、slp が YdeO 過剰発現によって増加するのかを確認
するため RT-PCR 解析を行った。プライマー対はそれぞれ、hyaF は HYAF-F-1
と HYAF-R-1、appC は APPC-F-2 と APPC-R-2、yiiS は YIIS-F-2 と YIIS-R-2、
gadE は GADE-F-1 と GADE-R-1、slp は SLP-F-1 と SLP-R-1 を用いた(表2)。
その結果、これらの遺伝子の mRNA は全て YdeO 過剰発現によって増加した。
従って、トランスクリプトーム解析と同様の結果となったといえる。nhaA はそ
の下流の nhaR とオペロン構造をとり、hyaA はその下流に存在する5種の遺伝
子と hyaABCDEF オペロン構造を、appC はその下流に存在する3種の遺伝子
と appCBA オペロン構造を、yiiS はその下流の uspD とオペロン構造をとり、
gadE はその下流に存在する2種の遺伝子と gadE-mdtEF オペロン構造を、slp
はその下流の dctR とオペロン構造をとる。これらの結果より、YdeO が直接活
36
表4.YdeO 過剰発現によって転写量が増加する遺伝子
37
表5.YdeO 過剰発現によって転写量が減少する遺伝子
38
性化する遺伝子群は酸耐性に関連する gadE-mdtEF、gadW、slp-dctR、呼吸に
関連する appCBA、hyaABCDEF、ナトリウムトランスポーターnhaAR、機能
未知遺伝子 yiiS-uspD であることがわかった。
3−4−2.YdeO 過剰発現により誘導される GadE タンパク質誘導
YdeO 過剰発現による大腸菌細胞内の GadE タンパク質誘導を確認するため、
ウエスタンブロッティングを行った。はじめに野生株 BW25113 の gadE 下流に
3xFLAG タグ を挿入した大腸菌 YY5002 株を作製した。これらに pTrc99A、
pYY0403 (ydeO)を導入し、Amp を含む LB 培地で一晩培養後、新しい Amp を
含む LB 培地に 100 倍希釈し、振とう培養で対数増殖期 OD600=0.4 付近までそ
れぞれ培養した。その後、大腸菌全タンパク質を尿素を含む Lysis buffer で、
大腸菌細胞内可溶性タンパク質溶液を Lysis buffer で懸濁とし、リゾチームと
超音波処理後遠心分離した上清として調製した。それぞれの、タンパク質サン
プルは SDS-PAGE で分離し PVDF 膜に転写した。そして、FLAG 抗体を用い
て GadE-3xFLAG を、RNA ポリメラーゼαサブユニット抗体を用いてαを検出
した。その結果、全タンパク質では ydeO プラスミドの導入した株では RNA ポ
リメラーゼのαサブユニット量はベクターを導入した株とほぼ同じであったが、
ydeO プラスミドの導入により GadE 量が増加していることが確認された(図1
0)。また、可溶性全タンパク質を用いた結果も、全タンパク質と同様に ydeO
プラスミドにより GadE 量の増加を確認した(図10)。
図10.GadE 発現における YdeO の効果
大腸菌 YY5002/ pTrc99A、YY5002/ pYY0403 株を Amp を含む LB 培地で一晩培養後、新しい Amp を
含む LB 培地に 100 倍希釈し、振とう培養で対数増殖期 OD600=0.4 付近までそれぞれ培養した。その後、
大腸菌細胞内可溶性タンパク質溶液を調製した。それぞれの、タンパク質は SDS-PAGE で分離し PVDF
膜に転写した。そして、FLAG 抗体を用いて GadE-3xFLAG を検出した。また、コントロールとして RNAP
のαサブユニットの抗体を用いて検出した。
39
これらの結果より、YdeO の過剰発現によって gadE 遺伝子発現が誘導され、細
胞内 GadE 量が増加することがわかった。さらに誘導される GadE は細胞内に
存在していることも確認された。
3‐5.YdeO→GadE レギュロンカスケード
3−5−1.YdeO 過剰発現における GadE 依存的に転写活性される遺伝子
の網羅的解析
GadE が転写因子であることから、YdeO よって誘導される GadE 依存的な遺
伝子を網羅的に解析するため、トランスクリプトーム解析を行った。YdeO は
gadE 因子を誘導し、細胞内 GadE 量を増加させる。3−4−1で示した同様の手
法を用い、gadE 欠失株に pTrc99A および YdeO 過剰発現プラスミドを導入し
た大腸菌株から得られた全 RNA から cDNA を合成後それぞれ Cy3、Cy5 でラ
ベル化した。それらを混合したサンプルを DNA アレイにハイブリダイズし、各
スポットの蛍光強度を比較した。その結果、YdeO 過剰発現で 3 倍以上 RNA が
増加した 55 種の遺伝子のうち、31 種類の遺伝子の転写増加が gadE 欠失株で確
認できなかった(表4)。これらの遺伝子のオペロン構造を考えると、cbpAM オ
ペロン、osmF-yehYXW オペロン、gadE-mdtEF オペロン、gadAX オペロン、
gadCB オペロン、dnaKJ オペロン、yjjUV オペロン、sufABCDSE オペロン、
gabDTP オペロンであり、これらの YdeO による転写誘導は GadE に依存して
いると考えられる。
3−5−2.YdeO 過剰発現における GadW 依存的に転写活性される遺伝
子の網羅的解析
GadW は YdeO により転写が促進される gadW 遺伝子にコードされる転写因
子である。YdeO により誘導される遺伝子のうち、GadW に依存するものを網
羅的に解析するためトランスクリプトーム解析を行った。その結果、YdeO 過剰
発現で 3 倍以上 RNA が増加した 55 種の遺伝子のうち、4 種類の遺伝子 elaB、
cbpA、dps、ibpA の転写増加が gadW 欠失株で確認できなかった(表4)。こ
れらの遺伝子は gadE 欠失株においても転写量の増加はみられなかった。つまり、
これらの遺伝子の YdeO による転写誘導は GadE および GadW に依存している
と考えられる。
3−5−3.YdeO 過剰発現における YiiS 依存的に転写活性される遺伝子
の網羅的解析
YiiS は YdeO により転写が促進される yiiS 遺伝子にコードされる転写因子で
ある。そこで、YdeO により誘導される遺伝子のうち、YiiS に依存するものを
40
網羅的に解析するためトランスクリプトーム解析を行った。その結果、YdeO 過
剰発現で 3 倍以上 RNA が増加した55種の遺伝子のうち、yiiS 欠失株で転写量
に変化がみられた遺伝子はなかった(表4)。つまり、YdeO によって転写誘導
される遺伝子は YiiS に依存していないと考えられる。YiiS は機能未知遺伝子で
あり、今回の結果より YiiS は転写因子としては機能しない可能性を示唆する。
3‐6.YdeO による呼吸鎖オペロンプロモーター appC 、 hyaA プロモ
ーター発現への影響
YdeO が大腸菌ゲノム上に結合する 7 カ所のうち、5 カ所(YOBS1、YOBS4、
YOBS5、YOBS6、YOBS7)には核様体タンパク質である H-NS が結合してい
ることが明らかである(Oshima et al., 2006)。一方で、YdeO が結合する嫌気
呼吸鎖オペロンプロモーターappCp, hyaAp 上には、H-NS の結合が見られず、
YdeO が直接活性化するプロモーターであることが予想された。appC および
hyaA 発現を調べるため、プロモーター領域を lacZ 遺伝子に融合するように組
み込み APPC-BL (λappC-lacZ)、HYAA-BL (λhyaA-lacZ)、APPC-JL (ΔydeO,
λappC-lacZ)、HYAA-JL (ΔydeO, λhyaA-lacZ)を作製した。LB 培地で大腸菌野
生株 APPC-BL、APPC-JL、HYAA-BL、APPC-JL を一晩培養後、新しい LB
培地に 100 倍希釈し、好気および嫌気培養下で対数増殖期 OD600=0.4 付近まで
培養し、それぞれのサンプルを β-galactosidase 活性により測定した。その結果、
appC プロモーターの活性は好気および嫌気ともに低いレベルであり、ydeO 欠
損による発現の差異は確認できなかった(図11A)。一方で、hyaA プロモータ
ーは嫌気条件で好気条件と比較して約 7 倍の活性値を示し、さらに嫌気条件に
おける hyaA プロモーター活性は ydeO 欠失株では消失した(図8B)。さらに、
ydeO 欠失株に ydeO プラスミドを導入すると、嫌気性特異的な hyaA 発現が回
復した(図8C)。これらの結果より、hyaA プロモーターの嫌気性特異的な発現
には YdeO が必要であることが明らかとなった。
3‐7.嫌気環境における ydeO プロモーター発現と YdeO タンパク質の
安定
嫌気環境での ydeO 発現を調べるため、ydeO プロモーター領域を lacZ 遺伝
子に融合するように組み込み、β-galactosidase 活性を測定した。ydeO 発現は
培地の低い pH で誘導されることが知られているため、pH=5.5 と pH=7.0 の LB
培地における好気および嫌気条件での ydeO-lacZ 活性を測定した。LB 培地で大
腸菌野生株 YY0101 を一晩培養後、酸性と中性 LB 培地それぞれに 100 倍希釈
し、好気および嫌気培養下で対数増殖期 OD600=0.4 付近まで培養し、それぞれ
のサンプルを β-galactosidase 活性により測定した。その結果、予想通り ydeO
41
発現は好気環境では中性培地に比べ酸性培地で約 2 倍の活性がみられた(図1
2A)。しかし、嫌気環境では培地の pH に関係なく、高いレベルの活性を示し
た(図12A)。また、evgA 欠失株における ydeO-lacZ 活性を同様に測定した結
果、好気環境の酸性条件における発現誘導および嫌気条件での発現誘導は確認
図11.YdeO による appC および hyaA プロモーター活性への影響
[A、B] 好気および嫌気培養における appC および hyaA プロモーター活性を調べた。大腸菌細胞の
β-galactosidase は Miller 法により測定した。野生株 APPC-BL、HYAA-BL、ydeO 欠失株 APPC-JL、
HYAA-JL それぞれのシングルコロニーを LB 培地 5 mL に 37 oC で一晩培養した。新しい LB 培地 10 mL
に培養液を 100 倍希釈、37 oC で好気および嫌気条件下で対数増殖期まで培養した。好気条件ではフラス
コ内で振とう培養し、嫌気条件では 50 mL チューブ内で静置培養した。その後、大腸菌サンプルをそれぞ
れ β-galactosidase 活性により測定し、appC および hyaA プロモーター活性を比較した。酵素反応は、ONPG
溶液 100 µL の添加で開始させ、28 oC で溶液が黄色に呈色するまで行い、Na2CO3 の添加により反応を停
止させた。反応液の A420 を測定し Miller Unit として算出した。[C] 嫌気培養における hyaA プロモータ
ー発現への YdeO 効果を調べた。ydeO 欠失株 HYAA-JL にベクターおよび YdeO 過剰発現プラスミド
pYY0401 を形質転換し、それぞれのシングルコロニーを Amp を含む LB 培地 5 mL に 37 oC で一晩培養
した。新しい LB 培地 10 mL に培養液を 100 倍希釈、37 oC 嫌気条件下で対数増殖期まで培養した。以後
の操作は上段と同様の方法で β-galactosidase を測定した。 できなかった(データ未公開)。これらの結果より、好気環境の酸性条件と嫌気
42
環境での ydeO 発現誘導には、二成分制御系 EvgA/S のレスポンスレギュレータ
ーである EvgA が必要であることがわかった。次に好気および嫌気環境で生育
する大腸菌細胞内の YdeO タンパク質量を調べるためウエスタンブロッティン
グ解析を行った。ydeO 欠失株 JW1494Δkm に、ydeO 下流に 3xFLAG タグ を
図12.嫌気環境における YdeO 発現
[A] 大腸菌細胞の β-galactosidase は Miller 法により測定した。野生株 YY0101 のシングルコロニーを
LB 培地 5 ml に 37 oC で一晩培養した。新しい pH=5.5 の LB 培地(□)と pH=7.0 の LB 培地(■)10 mL
に培養液を 100 倍希釈、37 oC で好気および嫌気条件下で対数増殖期まで培養した。好気条件ではフラス
コ内で振とう培養し、嫌気条件では 50 ml チューブ内で静置培養した。その後、大腸菌サンプルをそれぞ
れ β-galactosidase 活性により測定し、appC および hyaA プロモーター活性を比較した。酵素反応は、ONPG
溶液 100 µl の添加で開始させ、28 oC で溶液が黄色に呈色するまで行い、Na2CO3 の添加により反応を停
止させた。反応液の A420 を測定し Miller Unit として算出した。[B] 大腸菌 ydeO 欠失株 JW1494Δkm/
pTrc99A、YdeO 過剰発現株 JW1494Δkm/ pYY0403 株を Amp を含む LB 培地で一晩培養後、新しい Amp
を含む LB 培地に 100 倍希釈し、IPTG を 0.001 mM、0.005 mM、0.01 mM 加え、振とう培養で対数増殖
期 OD600=0.4 付近までそれぞれ培養した。その後、大腸菌細胞内可溶性タンパク質溶液を調整した。それ
ぞ れ の 、 タ ン パ ク 質 は SDS-PAGE で 分 離 し PVDF 膜 に 転 写 し た 。 そ し て 、 FLAG 抗 体 を 用 い て
YdeO-3xFLAG を検出した。
挿入した過剰発現プラスミド pYY0401 とプラスミドベクターpTrc99A を導入
し、LB 培地で一晩培養後、0.001 mM、0.005 mM、0.01 mM の IPTG を含む
新しい LB 培地に 100 倍希釈し、好気条件、嫌気条件で対数増殖期 OD600=0.4
付近までそれぞれ培養した。好気条件では振とう培養し、嫌気条件では静置培
43
養を行った。その後、大腸菌細胞内可溶性タンパク質溶液を調製した。それぞ
れの、タンパク質は SDS-PAGE で分離し PVDF 膜に転写した。そして、FLAG
抗体を用いて YdeO-3xFLAG を検出した。その結果、好気条件、嫌気条件とも
に pYY0401 をもつ大腸菌で IPTG 未添加でも YdeO が検出され、さらに IPTG
濃度に依存してタンパク質量は増加した(図12B)。IPTG 添加後の生育の結
果と合わせ、YdeO 過剰発現に用いる最適な IPTG 濃度を 0.01 mM と決定した。
興味深いことに 0.01 mM で誘導される YdeO タンパク質は好気条件下での培養
に比べて、嫌気条件下で著しく増加した(図12B)。また、0.01 mM IPTG 添
加では pYY0401 をもつ形質転換体の生育は好気および嫌気で IPTG 未添加と同
じであった。IPTG による ydeO 発現誘導が好気と嫌気環境で同じとすれば、細
胞内 YdeO は嫌気環境で安定であることが考えられる。
3‐8.YdeO 発現大腸菌のフェノタイプマイクロアレイ解析 YdeO 過剰発現により得られる表現型を網羅的に調べるため、Biolog 社製フ
ェノタイプマイクロアレイプレートを用いて解析した。大腸菌 ydeO 欠失株
JW1494Δkm に pTrc99A ベクターおよび YdeO 過剰発現プラスミド pYY0401
を形質転換し、Amp を含む M9 (+Glucose) 培地 5 ml に植菌し、37 oC で一晩
振とう培養した。培養液を IF-0 で懸濁した後、IF-0 中に OD600 の濁度が 42%T
になるように加えた。この大腸菌希釈液を生育指示薬であるテトラゾリウム塩
を含む適当な培地に加え、フェノタイプマイクロアレイに供与して 24 時間での
生育を経時的に測定した。まず、炭素源が異なる様々な培地を含むフェノタイ
プマイクロアレイ Plate1 と 2 では、大腸菌希釈液を炭素源を含まない IF-0+dye
培地に添加し、アレイに供与して、培地が異なるウェルで増殖をテトラゾリウ
ム塩の紫色呈色度合いで測定した。その結果、試された 192 条件(96 ウェル
2 プレート)で 67 条件において生育が確認できたが、YdeO 発現による生育の
影響ではなかった(図13)。つぎに、窒素、リン、硫黄源および微量元素が異
なる培地が含まれるフェノタイプマイクロアレイ Plate 3 (窒素源)、Plate 4 (リ
ン、硫黄源)、Plate 5 (微量元素源)、Plate 6 (窒素源)、Plate 7 (窒素源)、Plate 8
(窒素源)を用いて解析を行った。大腸菌希釈液を 2 M こはく酸ナトリウムと 0.2
mM クエン酸鉄を含む IF-0+dye 培地に添加し、アレイの各ウェルに供与し、各
ウェルでの生育を測定した。その結果、試された窒素源の全 384 条件のうち、
161 条件で大腸菌の生育を確認した。生育した条件では、YdeO 発現による増殖
に影響を確認することはできなかった。リンおよび硫黄源が異なる全 96 条件で
は 61 条件での大腸菌生育が確認されたが、YdeO 発現による増殖への影響はな
かった。また、異なる微量元素が含まれる全 96 条件のすべて大腸菌の生育した
ものの、YdeO 発現による増殖への影響はなかった。さらに、浸透圧、pH、化
44
学物質などストレス条件における増殖を調べるため、フェノタイプマイクロア
レイ Plate 9(浸透圧)、Plate 10(pH)、Plate 11 20(化学物質)を用いて解
析した。大腸菌希釈液を IF-10+dye 培地に加え、アレイに供与し、各ウェルで
の生育を測定した。その結果、異なる浸透圧の全 96 条件で 35 条件において大
腸菌が生育したが、YdeO 発現による増殖への影響はなかった。異なる pH の全
96 条件では 48 条件で大腸菌生育を確認したが、YdeO 発現による増殖への影響
はなかった。異なる化学物質を含む全 960 条件(96 ウェル 10 プレート)では
632 条件で大腸菌の生育を確認した。これらの 632 条件のうち、YdeO 発現株で
野生株より明らかに増殖がよくなるつぎの 7 条件を確認した。それぞれのウェ
ルに含まれる化学物質はテトラサイクリン(Plate 12、A-8 ウェル)、ペニメピ
サイクリン(Plate 12、B-7 ウェル)、シソマイシン(Plate 12、D-3 ウェル)、
クリオキノール(Plate 16、A-10 ウェル)、プロタミン硫酸塩(Plate 16、C-6
ウェル)、クロロキシレノール(Plate 16、H-8 ウェル)、ポリ L リジン(Plate 18、
C-3 ウェル)であった。これらは抗生物質など抗菌剤であり、YdeO 過剰発現に
よりそれらに対する耐性が上がることが示唆された。しかし、影響が高く見ら
れたテトラサイクリン、ペニメピサイクリン、プロタミン硫酸塩、クロロキシ
レノール、ポリ L リジンについて試験管での振とう培養における影響を調べた
が、どの抗生物質に対してもベクターと YdeO 発現株による増殖の影響を確認
できなかった。この矛盾はフェノタイプマイクロアレイでの静置培養と振とう
培養との条件の違いによるかもしれない。
図13.異なる炭素源下での大腸菌生育における YdeO の効果
大腸菌 ydeO 欠失株 JW1494Δkm/ pTrc99A、YdeO 過剰発現株 JW1494Δkm/ pYY0403 株を Amp を含
む M9+Glucose 培地で一晩培養後、新しい Amp を含む M9+Glucose 培地に 100 倍希釈し、振とう培養で
対数増殖期 OD600=0.4 付近までそれぞれ培養した。培養液を IF-0 で懸濁した後、IF-0 中に OD600 の濁度
が 42%T になるように加え、大腸菌希釈液を炭素源を含まない IF-0+dye 培地に添加し、アレイに供与し
て、培地が異なるウェルで増殖をテトラゾリウム塩の紫色呈色度合いで測定した。各プレート上のスポッ
トには調製液 100 mL を添加し、よく混合した後、OMNILOG (Biolog 社)で一晩静置培養させた。得られ
た生育曲線はベクター由来の株が赤、YdeO 過剰発現株が緑、ベクターおよび YdeO 過剰発現株の生育に
変化がない場合は黄色で示されている。
45
図14.異なる窒素、リン、硫黄源および微量元素下での大腸菌生育における YdeO の効果
大腸菌 ydeO 欠失株 JW1494Δkm/ pTrc99A、YdeO 過剰発現株 JW1494Δkm/ pYY0403 株を Amp を含
む M9+Glucose 培地で一晩培養後、新しい Amp を含む M9+Glucose 培地に 100 倍希釈し、振とう培養で
対数増殖期 OD600=0.4 付近までそれぞれ培養した。培養液を IF-0 で懸濁した後、IF-0 中に OD600 の濁度
が 42%T になるように加え、大腸菌希釈液を 2 M こはく酸ナトリウムと 0.2 mM クエン酸鉄を含む
IF-0+dye 培地に添加し、アレイの各ウェルに供与し、各ウェルでの生育を測定した。以後、図13同様の
手法で大腸菌生育度合いを比較した。
また、YdeO で耐性能が促進されるクリオキノールは、細菌の呼吸における電子
伝達装置であるキノールに類似した構造であり、今後解析が必要であると考え
る。
46
図15.異なるストレス条件での大腸菌生育における YdeO の効果
大腸菌 ydeO 欠失株 JW1494Δkm/ pTrc99A、YdeO 過剰発現株 JW1494Δkm/ pYY0403 株を Amp を含
む M9+Glucose 培地で一晩培養後、新しいアンピシリン Amp を含む M9+Glucose 培地に 100 倍希釈し、
振とう培養で対数増殖期 OD600=0.4 付近までそれぞれ培養した。培養液を IF-0 で懸濁した後、IF-0 中に
OD600 の濁度が 42%T になるように加え、大腸菌希釈液を IF-10+dye 培地に加え、アレイの各ウェルに供
与し、各ウェルでの生育を測定した。以後、図13同様の手法で大腸菌生育度合いを比較した。
47
図15.続き
48
第4章 考察
4‐1.YdeO に制御されるアミノ酸依存酸適応機構
大腸菌酸適応機構は、グルタミン酸、アルギニン、リジン脱炭酸反応に依存
する細胞内プロトン量の恒常化である。これらの反応は、遺伝子発現レベルで
制御されているが、酸耐性効果、誘導条件は異なる。大腸菌転写因子 YdeO は、
グルタミン酸およびリジン依存的酸適応機構に関与する遺伝子群の発現を制御
することが明らかとなった。グルタミン酸依存酸適応機構では、マスターマス
ターレギュレーターをコードする gadE のプロモーターを直接活性化すること
で主要な GadE 支配下遺伝子群(gadABC など)が活性化される。一方、リジン依
存酸適応機構では、cadAB オペロンのアクチベーターをコードする cadC 発現
を間接的に抑制することが明らかとなった。その結果として、リジン脱炭酸反
応により生じるカダベリン量は野生株と比べ ydeO 欠失株で上昇する。しかし、
リジン脱炭酸酵素をコードする cadA 発現には YdeO の抑制はみられない。この
ことは、アンチポーターである CadB が cadAB オペロンを構成し、誘導される
ことによってカダベリンは細胞外に排出されるため YdeO のカダベリン量への
影響は cadAB 発現以外の要因が考えられる。これまでに他のリジン脱炭酸酵素
として LdcC が同定されている(Yamamoto et al., 1997)。そのため、CadC が
ldcC 発現のアクチベーターとなり、YdeO による細胞内カダベリン量の抑制が
生じた可能性を示唆する。これらの結果は、YdeO が遺伝子発現制御により複数
ある大腸菌酸適応システムを使い分けることに貢献していることを示唆する。
しかし、大腸菌が酸適応においてグルタミン酸を活用する一方でリジンの利用
を抑制する生理的意義は不明であり、今後の解明する課題である。最近、植物
由来の GABA が、アグロバクテリウムのクオラムセンシングのシグナルである
N-アセチルホモセリンラクトンを分解する酵素(ラクトナーゼ)の発現を誘導
することが報告されている(Chevrot et al., 2006)。YdeO により活性化される
グルタミン酸依存的酸適応では、グルタミン酸脱炭酸反応生成物 GABA の細胞
内外量が増加することが予想される。故に、大腸菌においてグルタミン酸依存
的酸耐性システムは動物の胃での生存と同時に細菌間のシグナル伝達物質とし
て働く GABA の生成に貢献することが示唆される。
4‐2.YdeO に制御される嫌気環境適応機構
呼吸鎖は、NADH、水素、ピルビン酸塩などの電子供与体をキノン還元酵素
が酸化し、生成された電子を膜中に存在する適当なキノン類に授与する。さら
に、電子を受け取ったキノンは、適当なキノン酸化酵素により酸化され、電子
をフマル酸塩や酸素など適当な電子受容体に受け渡す。この一連の流れによっ
49
て、電子は膜中を流動し、酸化還元反応時にエネルギーを生産する(Gennis and
Steward, 1996)。YdeO が転写活性する app および hya オペロンは、ともに呼
吸鎖を担う遺伝子である。hyaABC は、ヒドロゲナーゼをコードし、嫌気性環
境下で水素分子を酸化し、膜外に2つのプロトンを生産する。そして、電子を
膜中のユビキノンに授与する。一方、appBC はキノン酸化酵素であり、キノン
の受け取った電子を細胞内の酸素に授与する。その際、1電子あたり細胞内1
プロトン消費し、酸素から H2O を生産する(Borisov et al., 2011)。YdeO が直
接活性化する7つのプロモーター(appCp、gadEp、gadWp、hyaAp、nhaAp、
slpp、yiiSp)は、呼吸鎖に加え酸耐性とトランスポーターとして機能する。興
味深いことに、これらの機能には、呼吸鎖のように細胞内外のプロトン量を変
化させる共通点がある。酸耐性機構では、細胞外プロトンを細胞内で消費し結
果として pH の恒常性に貢献する。また、ナトリウムトランスポーターはナトリ
ウムとプロトンのアンチポーターである。したがって、YdeO が活性化する遺伝
子群は、主にプロトンを細胞膜外に排出し、その影響の一部として細胞内 pH の
恒常性に寄与することを示唆する。
ydeO 発現は、酸性条件に加えて嫌気環境下で発現誘導され、YdeO タンパク
質の安定化も向上することが確認された。これらの結果は、YdeO が酸耐性に必
要な遺伝子群を活性化すると同時に嫌気環境下で呼吸遺伝子群を制御している。
動物体内は腸に至るにつれて酸素濃度が減少し、嫌気性環境になることから、
YdeO に制御される遺伝子群は酸適応後嫌気環境へ適応し、動物腸管上皮細胞へ
の定着を可能にする初期適応機構で重要な働きをすることが考えられる。 YdeO は大腸菌が動物体内侵入直後に必須な適応応答を担う重要な転写因子
であることが示唆された。YdeO レギュロンにおける発現シグナルの同定やレギ
ュロン機能の全容解明は、病原性大腸菌などの感染症への新しい対策に貢献で
きると考える。特に、YdeO 依存的な機能未知 YiiS および細胞内外プロトン量
の変化における生理的意義の解明が今後の課題であると考える。 4‐3.YdeO による H-NS アンチサイレンシング効果
大腸菌核様タンパク質 H-NS は、これまでにゲノム上に約 1000 ヶ所の結合が
確認されており、外来遺伝子や不必要な遺伝子発現を抑制する。近年、H-NS の
抗サイレンシング因子として LeuO が同定され、約 100 遺伝子の発現を誘導す
ることが明らかとなっている(Shimada et al., 2011)。YdeO に制御される遺伝
子群のプロモーター領域(gadEp、gadWp、nhaAp、slpp、yiiSp)には細菌の
核様タンパク質 H-NS の結合がみられ、通常の培養条件ではサイレンシングさ
れている(Oshima et al., 2006)。この5種類のプロモーターは、YdeO 過剰発
現で活性が誘導されることより LeuO と同様に YdeO が H-NS アンチサイレン
50
サーとして機能することが予測される。一方で、YdeO はゲノム上の 1000 カ所
以上の H-NS 結合のうち 5 カ所のみに作用する特異性があることは興味深い。
また、5 カ所の YdeO 結合領域には特異的な DNA 配列が見出されなかった。従
って、YdeO の特異的なプロモーターに対する H-NS のアンチサイレンサー作用
は全く新しい分子機構であることを示唆する。
図16.転写因子 YdeO の遺伝子制御モデル 51
第5章 参考文献
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Yamamoto et al, The Escherichia coli ldcC gene encodes another lysine decarboxylase,
probably a constitutive enzyme. (1997), Genes Genet. Syst., 72, 167-172
53
第6章 謝辞
本論文は筆者が法政大学大学院工学研究科生命機能学専攻に在籍中に行った
研究成果をまとめたものである。本研究を行うにあたり終始適切なご助言を賜
り、また丁寧に指導して下さった法政大学生命科学部山本兼由准教授に深く感
謝の意を表する。また本研究を共同研究として ChIP-chip 解析の指導及び数多
くの助言を賜った奈良先端技術大学院大学大島拓助教ならびに大腸菌細胞内ポ
リアミン量の測定を賜った京都工芸繊維大学鈴木秀之教授、栗原新博士、修士
1年坂井友美さんに深く感謝の意を表する。フェノタイプマイクロアレイ解析
の指導ならびに数多くの助言を賜った法政大学生命科学部石浜明教授に深く感
謝の意を表する。さらに法政大学生命科学部長田敏行教授には副査としてご助
言を賜った。ここに深く感謝の意を表する。法政大学教育技術嘱託の山田加代
子氏、郡彩子氏には各種研究機器の使用法、ならびに実験試薬の調製法などの
指導を賜った。深く感謝の意を表する。2011 年度法政大学工学部生命機能学科
3 年の近藤寛之氏、長谷川加奈子氏には実験データを提供して戴いた。ここに両
氏に深く感謝の意を表する。法政大学生命科学部ゲノム生物学研究室の各位に
は研究遂行の為、日頃より実験機器などの使用に際し協力して戴いた。ここに
深く感謝の意を表する。最後に、これまでの研究生活を支えてくださった家族
に深く感謝の意を表する。
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