10分でわかる経済の本質金融緩和ドミノとマイナス金利

EY Institute
04 March 2015
執筆者
10分でわかる経済の本質
金融緩和ドミノとマイナス金利をどうみるか?
Ⅰ.長期金利の低下とマイナス金利の常態化
世界的に長期金利が低下している<図1、図2>。日本では、1月20日に長期金利の指標とな
る新発10年物国債利回りが、一時0.195%と初めて0.2%を割り込み、5年債利回りも初めてマイ
ナスとなった。15年中に利上げに転じるとみられている米国でも10年債利回りは最近まで1%台
で推移した。物価上昇率のマイナス幅が拡大する中、デフレ転落の回避に向け、3月から欧州中
央銀行(ECB)が量的金融緩和を開始するユーロ圏では、特に長期金利の低下が著しい。ドイツ
やフランスの10年債利回りは過去最低水準を更新した。周辺国も含めた欧州全体では、長期金
利が1%を割り込む国が続出し、ドイツのほか、デンマークの10年債利回りも日本国債の水準を
下回っている。また、欧州の10カ国ほどでは中短期債利回りがマイナスに落ち込んだほか、スイ
スでは10年債すら一時利回りがマイナスを記録した(10年物のスイス国債の利回りは、1月23
日、マイナス0.3%近辺まで下落した)。
市川 信幸
EY総合研究所株式会社
経済研究部
チーフエコノミスト
図1 主要国の10年債利回りの推移
<専門分野>
► 経済・金融動向に関す
る分析・予測
► 経済・金融動向および
金融政策の解説
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出典:ロイター、QUICKよりEY総合研究所作成
図2 主要国の2年債利回りの推移
出典:ロイター、QUICKよりEY総合研究所作成
これまでも実質金利(名目金利から物価上昇率を差し引いた水準)がマイナスになることは決し
て珍しくなかったものの、名目金利そのものがマイナスになる現象(いわゆる「マイナス金利」)に
ついては、つい最近までは、1970年代のスイスの特殊な金融政策運営を反映した、極めて例外
的な事象にすぎないと一般には考えられていた。しかしながら、2月初めに公表されたオーストラ
リア準備銀行の調査結果によると、現在では、先進国で発行された国債の約4分の1(約7.6兆ド
ル、約900兆円)がゼロ%以下の金利で取引されている。特に、スイスでは約7割、ドイツでは約6
割、フランスでも5割弱の新発国債の利回りがいわゆる「マイナス金利」になっている。今や、先
進国、特に欧州では、中短期債のマイナス金利は「新常態(ニューノーマル)」になったと言える
かもしれない。
Ⅱ.欧州を発端とする金融緩和ドミノ
世界的に長期金利の低下が加速し、また欧州を中心に中短期債のマイナス金利が常態化して
いる背景には、米国を除く世界の主要な中央銀行が、相次いで金融緩和に踏み切ったことがあ
るとみられている。基本的には、景気の低迷と、原油安による物価下落を食い止めるためにECB
が量的金融緩和に踏み出すことを決定し、それを受けて、欧州の周辺国が対ユーロでの自国通
貨高の圧力を減殺するために、対抗上、極端な金融緩和を実施し始めたことの影響が大きいと
される。欧州での金融緩和ドミノは、自国通貨の減価を促し、輸出増加に導く効果を狙っている
面があり、「通貨安競争」の様相も帯びている。しかし、2月10日に開催されたG20 財務大臣・中
央銀行総裁会議では、連鎖的金融緩和の引き金となったECBの量的金融緩和を正当化したよう
な声明が出され、各国中央銀行が自国通貨安への誘導に後ろめたさを感じなくなっているので
はないかと危惧する声も聞かれている。こうした中、昨年秋以降、中央銀行が金融緩和を実施し
た国は20を超えるとされる一方、15年中の利上げが見込まれている米国では、米ドルの独歩高
の悪影響を懸念する声が産業界を中心に出始めている。以下では、①ECBとその周辺国の金
融緩和競争、②資源国の景気刺激策、③原油価格下落で利下げ余地が生まれた新興国等の
順番で、簡単に金融緩和ドミノの様相を振り返る。
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まず、金融緩和ドミノの震源地である欧州では、ユーロ圏内の物価上昇率がマイナスに落ち込
んだことを受け、ECBが1月22日に国債を大量に買い入れる量的金融緩和の導入を決定した(3
月より実施)※1。ECBの量的金融緩和導入との観測を受けて、決定のかなり前から、為替市場で
はユーロ売り圧力が高まっていた。その結果、スイスフランに上昇圧力がかかったスイス国立銀
行(中央銀行)は、1月15日に、1ユーロ=1.2スイスフランという相場を維持するための無制限
の為替介入を突如放棄し、中央銀行当座預金に適用される金利もマイナス0.75%まで引き下げ
た。また、自国通貨クローネをユーロに連動させているデンマークでは、中央銀行が1月以降4回
の連続利下げに踏み切ったほか、国債の発行を見合わせて長期金利の低下を促している。さら
に、スウェーデン中央銀行は、2月12日、政策金利を従前のゼロ%からマイナス0.1%に変更する
ことを決めると同時に、残存期間1年から5年の同国国債を計100億クローナ(約1400億円)買
い入れる量的金融緩和の導入を決定した。なお、15年中の利上げが見込まれていたイングラン
ド銀行(中央銀行)も、2月12日には「物価下振れリスクが高まれば、資産買い入れの拡大や利
下げといった対応もあり得る」として、利下げの可能性をにおわせるに至っている。
次に、資源価格の下落から、一部の資源国では景気刺激のために中央銀行が金融緩和に追
い込まれる事態になっている。14年後半の原油価格急落を受け、北海油田を抱えるノルウェー
の中央銀行は、景気にブレーキがかかることを恐れ、14年12月、2年9カ月ぶりの利下げを決
定した。また、カナダ中央銀行は1月21日、「原油安の逆風」を理由に5年9カ月ぶりの利下げ
(1.00%→0.75%)に踏み切った。さらに、原油安が鉄鉱石や銅など資源価格の下落に波及した
ことから、オーストラリア準備銀行(中央銀行)も、2月3日、政策金利を過去最低の水準に引き下
げている(2.50%→2.25%)。加えて、同じ資源国のチリやペルーも利下げ実施に追い込まれて
いる。
一方、原油安が追い風になって、中央銀行が金融緩和に動く新興国等もみられる。中国では、
想定以上の景気の減速が懸念される一方、物価が安定してきたこともあって、中国人民銀行(中
央銀行)が14年11月22日の利下げに続き、2月4日に預金準備率の引き下げを決定した ※2。
さらに、2月28日にはもう一段の利下げが決定された。インフレ率の高さが悩みだったインドで
も 、 原 油 安を 受 け た 物価 安 定見 通 し から 、 1月 15 日、 中 央 銀行 が 利下 げに 動 い てい る
(8.00%→7.75%)。さらに、トルコやエジプトでも金融緩和の動きがみられている。
※1 ECBの量的金融緩和については、2015年1月30日公表の「10分でわかる経済の本質 予想を上回る規模ながら
効果は未知数の欧州量的緩和~デフレ転落阻止には量的緩和の強化が必要」を参照。
※2 中国人民銀行の預金準備率引き下げについては、2015年2月13日公表の「10分でわかる経済の本質 準備率
引き下げで全面的な金融緩和の色彩強める中国人民銀行~追加緩和の余地は十分あるものの、通貨安競争を
加速するリスクも」を参照。
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Ⅲ.長期金利低下・マイナス金利常態化の基本的背景
多くの先進国、特に欧州で長期金利が過去最低を更新したり、中短期の国債でマイナス金利
が目立つようになったりしているのはなぜなのだろうか。結論から言えば、世界的な長期金利の
低下の基本的背景としては、先進国の需要不足(デフレ圧力)等を背景とするインフレ率の低下
やデフレ転落に対する懸念を挙げることができよう。そして、昨年後半からの原油安や、最近の
各国中央銀行による矢継ぎ早の金融緩和は、こうした長期金利の低下傾向を加速する要因とし
て位置付けることができるだろう。ただし、先進国の中短期債でマイナス金利が常態化した背景
としては、ECBや周辺国の中央銀行が「マイナスの政策金利と量的金融緩和の組み合わせ」と
いう極端な金融緩和政策に踏み込んだことを指摘せざるを得ない。「名目金利はマイナスにはな
り得ない」というかつての常識が覆され、償還まで保有すれば、名目上は確実に損をする債券
に、買い手がついているというのが、「マイナス金利」の意味するところである。以下では、最近
の長期金利の低下傾向と、中短期債で常態化しているマイナス金利を、債券利回りの理論式に
当てはめながら考え直してみよう。
債券利回りは理論上、(残存期間に対応した)潜在成長率、期待インフレ率、リスクプレミアム
の合計になることが知られている。このうち、潜在成長率については、サマーズ・ハーバード大学
教授らが「長期停滞論」を提唱しており、先進国では低下傾向にあるとの見方が存在する。一
方、期待インフレ率についても、先進国では、需要不足を基本的背景として低下傾向にあるとの
見方が有力だと言えるだろう。例えば、国際通貨基金(IMF)は、14年中の先進国では、財・サー
ビスの供給力に比べて需要が1兆ドル以上も不足していたとの試算を公表している。こうした需
要不足を背景に、金融市場は中長期の低インフレを織り込みつつある。14年後半以降、物価連
動国債から計算される市場の期待インフレ率が、今後5年以上にわたる物価低迷を示唆してい
るとの結果が増えている。欧州でのディスインフレ傾向の予想が目立つが、景気が堅調とされる
米国についても期待インフレ率は物価目標の2%を下回るとされている。14年後半以降の原油
安が先進国の低インフレ傾向を加速していることは間違いないものの、先進国の低インフレの基
本的背景が、需要不足という構造的要因に基づく中長期的な期待インフレ率の低下であること
は正しく認識しておくべきだろう。
ただ、潜在成長率と期待インフレ率が低下しているとしても、その合計である中長期的な名目
成長率がマイナスになるということは一般には考えにくい。というのは、第一に、潜在成長率がマ
イナスという状態は通常想定されない。第二に、例えば、原油安が一時的な物価の下落につな
がることはあっても、中長期的には、家計や企業の負担軽減を通じて、需給ギャップの改善、し
たがって物価上昇をもたらすと考えられているからだ。したがって、中短期債の利回りがマイナス
になっていることは、リスクプレミアムがマイナスになっているとしか考えようがない。ただ、リスク
プレミアムがマイナスになるという状態も異常であり、量的金融緩和に基づく中央銀行による国
債買い入れなどを反映して、需給調整を巡る債券市場の機能が十分に作用していないことを示
唆していると言えるだろう。
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Ⅳ.「マイナス金利」が意味するもの
前述のとおり、構造的なデフレ圧力が根強い中で、先進国の中央銀行は金融緩和で後れをと
ると自国通貨が上昇し、デフレ圧力がさらに強まるといった恐怖心もあって、矢継ぎ早に、極端な
金融緩和策を打ち出していると言えるだろう。ここで残された問題は、中央銀行が極端な金融緩
和、とりわけ量的金融緩和を行うと、なぜ「マイナス金利」が生じるのか、言い換えれば、償還期
まで国債を持ち切ると、利息と償還額の合計が購入額に満たずに、買い手が損をする状態であ
るにもかかわらず、国債の買い手が存在するのはなぜかという点に帰着する。結論から言えば、
量的金融緩和の下で、中央銀行がマイナス金利でも(すなわち、中央銀行が最終的に損失を
被ってでも)、国債を買い上げてくれる(損失を中央銀行に転嫁できる)という見方が広がれば、
民間金融機関はある程度高い価格でも(マイナス金利であっても)国債を買うという行動に出る
のである。そこには冷静な投資判断はなく、ただ「中央銀行が自分たちに有利な価格で国債を買
い上げてくれるはずだ」という、一種のモラルハザードが生じていると言えるだろう。
その点を、現時点で、市場から大量に国債を購入している日本銀行(以下、「日銀」)を例にして
確認してみよう。日銀は現在、量的金融緩和の一環として長期国債を年80兆円のペースで積み
増そうとしている。こうした中、日銀に対する国債の売り手である銀行や証券会社は日銀にマイ
ナス金利を提示し、日銀がマイナス金利の国債を買い上げるというケースがみられる。日銀は国
いと
債を満期まで保有するのが一般的であるため、こうした取引は、「損失も厭わず」国債を積み増
していることを示唆していると言える。こうした取引を眺め、国債入札時の「落札金利」自体がマイ
ナスになった例もみられた※3。「日銀がより有利な価格で買い上げてくれるから、償還の金額より
高く買っても大丈夫」という、モラルハザードがまん延し、落札した国債を短期日のうちに日銀に
さや
売りつけて鞘を抜くという、いわゆる「日銀トレード」が活発化したと言えるだろう※4。
なお、日本の場合、債券市場には日銀以外にもマイナス金利の国債に対する買い手が存在す
る。その第1は、各種の取引の担保として国債を必要とする日本の金融機関である。第2は、為
替スワップ等に応じることで有利な条件で円を調達した海外の金融機関が、その円資金を一時
的に安全な日本国債で運用するといったケースである。国債の利回りはマイナスであっても、ス
ワップ取引での利益と併せて考えれば採算がとれることも多い。ただ、いずれにしても、日本の
長期金利低下・マイナス金利出現の最大の背景は、日銀が国債を大量に買い入れていることで
ある。これに加えて、最近では、欧州で余った投機資金が米国債のみならず、安全性の高い日
本国債にも流入しており、日本の長期金利の低位安定に寄与している面もある。
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ところで、これまで論じてきた「マイナス金利」は、国債の取引の上で成立している「取引上のマ
イナス金利」であった。これに対し、欧州では、すでに金融緩和政策の枠組みの中に、「制度上
のマイナス金利」が存在している。例えば、3月に量的金融緩和を開始するECBは、民間銀行か
ら預かる中央銀行当座預金(の超過分)に適用する金利(主要政策金利の下限に相当する※5)
をマイナス0.2%に設定している。また、2月12日に、スウェーデン中央銀行は量的金融緩和の
導入と併せ、主要政策金利であるレポ・レートそのものをマイナス0.1%に引き下げた。こうした枠
組みの下では、政策金利そのものがマイナスであったり、マイナスになることが想定されたりして
いるため、当然のこととして、利回りがマイナスの国債も中央銀行の買い入れ対象に含まれると
考えられる。この点で、マイナス金利である国債を日銀が買い入れるか否か、明確でない日本の
枠組みよりも、欧州の枠組みの下でのほうがマイナス金利は発生しやすいと言えるだろう。中央
銀行がマイナスの政策金利と量的緩和を同時に採用している枠組みの下では、国債のマイナス
利回りに伴う損失を中央銀行に押し付けやすく、したがってマイナス金利が生じやすいと考えら
れるのである。
最後に、1ユーロ=1.2スイスフランという相場を維持するための無制限為替介入を突如停止し
たスイス国立銀行でも、中央銀行当座預金に適用する金利をマイナス0.75%にまで引き下げ、
自国通貨高の回避に努めている。このように、中央銀行当座預金の適用金利を、現実にマイナ
スに設定できることは何を意味しているのだろうか。一般には、民間銀行が安全資産を保有する
場合、銀行券や金で保有することも可能ではあるものの、それには大きなコストやリスクが伴うた
めに、マイナスの当座預金適用金利(預かり料)が成立し得ると考えられている。そして、こうした
「制度上のマイナス金利」が、中短期債利回りのマイナス金利化の頻度を高め、グローバルな裁
定を通じて他国の長期金利低下に波及するのだろう。ただ、スウェーデン中央銀行の主要政策
金利そのもののマイナス化については、その意味付けや影響が理解しにくいため、今後の動向
に注目していくべきだろう。
※3 14年12月に財務省が実施した2年物国債の入札(表面利率0.1%)の平均落札利回りはマイナス0.003%であっ
た。
※4 なお、15年入り後は、ギリシャ問題などの影響もあって、国債利回りの変動が大きくなっており、日銀が買い上げ
てくれる確証が持ちにくいとして、いわゆる「日銀トレード」は下火になっている模様。
※5 通常、中央銀行当座預金や預金ファシリティの適用金利は、主要政策金利である市場金利がそれより低ければ、
当該市場金利で運用するより、中央銀行に預金したほうが有利になるため、当該市場金利がその水準より下がる
ことがなくなるという意味で、主要政策金利の下限を画すと考えられている。
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Ⅴ.金融緩和ドミノと長期金利低下に伴う問題は何か?
金融緩和の広がりや長期金利の低下が加速する中で、安定的な経済成長を阻害しかねない
ような副作用のリスクが懸念されるようになっている。以下では、①価格機能の低下による財政
規律の緩みなどの弊害、②市場流動性の欠如によるボラティリティーの拡大、③バブル生成の
助長や貧富の格差拡大といった不均衡の招来、④構造改革や成長戦略の棚上げ、⑤利上げを
展望する米国にとっての問題点の順で、簡単にリスクについて整理する。
第1に、競争的に緩和が長期化するという観測は、低インフレの持続とも相まって、ファンダメン
タルズでは説明できないほどの国債利回りの低下や低位安定をもたらす可能性がある。このよ
うに価格機能が失われた状態の下で、人為的に押し下げられた長期金利が続くと、政府の利払
い負担が不当に軽減され、財政規律が緩み、財政健全化の取り組みが遅れるといったことが懸
念される。
第2に、各国債券市場における最大で圧倒的な国債の買い手が中央銀行という状況は、市場
での国債の流通量を大幅に減少させ、流動性不足の状況を招来しかねない。流動性不足の下
では、価格が急騰したり、その反動で急落したりするため、長期金利のボラティリティーが極端に
ばくだい
高くなるだろう。その結果、市場参加者の一部に莫大な損失が発生するとか、安定的な資金調
達が難しくなるといった支障が生じやすくなる。
第3に、人為的に押し下げられた長期金利が続く下では、投機熱が高まり、資源配分がゆがみ
かねない。特に、すでに世界の株価は最高値圏にあるため、この先株式市場ではバブルが生成
される恐れもある。バブル崩壊による市況急落が懸念される一方、株式保有の有無による貧富
の格差拡大も危惧されるなど、金融面での不均衡が現れやすい状態になっている。
第4に、金融緩和に伴い、金利の低下のほか、株高や自国通貨安が生じると、短期的な需要
増から景気が押し上げられる可能性が高く、そうした下では、痛みを伴う構造改革や成長戦略が
棚上げされることが多い。
第5に、米国では、利上げを見越して世界中の余剰資金が集まることが予想されるため、連邦
準備制度(中央銀行)が利上げに転じても、長期金利は上がりにくいだろう。「政策金利を引き上
げても長期金利が上がらない」というグリーンスパン元議長が、かつて「謎(コナンドラム)」と呼ん
だ状態に陥るだろう。その場合には、イールドカーブがフラットになって、銀行が収益を上げにく
い構造になるほか、ドル高圧力の高まりが、米国製造業の競争力低下につながることが懸念さ
れる。こうした中、すでに産業界や金融界から出始めている利上げに対する慎重論が、今後さら
に強まる可能性もあるだろう。
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