生涯輝き基盤 - 公益財団法人日本生産性本部

「生涯輝き基盤」によるイノベーションの創出
~少子高齢社会の課題解決に向けて~
2015 年 3 月 2 日
情報化推進国民会議
少子高齢社会の課題や解決策については既に多くの指摘がある。なかでも、生産年齢人
口が減少していく中、全人口に占める高齢者の比率が増加していくという傾向は、今後 20
~30 年間に亘り続くことが明らかとなっている。
情報化推進国民会議(委員長 児玉幸治・一般財団法人機械システム振興協会会長)では、
少子高齢社会の課題解決に向けたICT(情報通信技術)の活用について検討してきたが、
多様性を増す私たちの生活や働き方を生涯に亘ってきめ細かく支える新たな仕組みとして、
マイナンバーの活用範囲を利用者視点で大幅に拡大した「生涯輝き基盤」の構想をまとめ、
その実現を提言する。このような基盤の構築によって、多くの機関が既に取り組んでいる
少子化対策・高齢化対策をも強く後押しできると信じる。
提言の要旨は、以下のとおり。
(1)「生涯輝き基盤」の実現
すべての人々が生涯に亘って健康で快適に暮らし、望む限り働き、社会参加し
続けられる社会を目標とすべきである。その実現のため、マイナンバーの活用を
早期に民間分野にも開放し、少子高齢化の課題解決にも有効な新たな情報基盤「生
涯輝き基盤」の構築を要望する。
(2)強力な推進体制の構築
生涯輝き基盤は、省庁間の壁を越えた相互の協力なくして実現できない。省庁
間の壁を越えた強い権限をもつ独立性の高い推進組織の設立を要望する。予算と
その執行について必要な権限を有する組織にすることが前提で、今後 100 年の政
府組織のモデルケースとして機能させる。
(3)関連制度の整備・充実
生涯輝き基盤の実現に向け、ICTを積極的に活用していくことが可能となる
インセンティブ施策の強化・充実や社会保障制度改革を実施し、個人情報の活用
と保護との均衡が取れた社会への進化を継続していくことを求める。
目
次
ページ
1.目指すべき社会像と課題
1
1-1 目指すべき社会像
1-2 課
題
2.取り組むべき施策
-「生涯輝き基盤」の構築-
2
2-1 生涯輝き基盤とは
2-2 生涯輝き基盤の構造(イメージ)
2-3 生涯輝き基盤の活用例
(1) シームレスな健康管理
(2) 働く場の充実
(3) きめ細かな生活支援のための行政サービス
2-4 生涯輝き基盤の実現に向けて
3.提言
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1.目指すべき社会像と課題
1-1 目指すべき社会像
少子高齢社会の課題や解決策については既に多くの指摘がある。なかでも、生産年齢人口
が減少していく中、全人口に占める高齢者の比率が増加していくという傾向は、今後 20~
30 年間に亘り続くことが明らかとなっている。しかしこのような状況にあっても、活力を
失わずに持続性可能な社会を創り上げていくことを国民一人一人がめざし、実践していける
ようでありたい。そのためにも、経済活動における生産性向上はもちろんのこと、仕事と生
活の調和(ワーク・ライフバランス)の実現など、マイナンバー等の社会的な仕組みも積極
的に活用して、社会の在り方そのものを広く改革していくことが求められている。以上を踏
まえ、情報化推進国民会議では、目指すべき社会像を「生涯に亘って健康で快適に暮らし、
望む限り働き、社会参加し続けられる社会」とし、それを実現するための課題と取り組むべ
き施策について検討し、提言をとりまとめた。
1-2 課
題
2014 年 10 月 8 日の厚生労働省発表によれば、2012 年度の国民医療費は 39 兆 2,117 億
円で、対前年度比で 6,267 億円の増加、率に換算すると 1.6%の増加となり、6年連続で過
去最高を更新した。
こうした中、出生率を高めたり、高齢者の社会参加を促したりする取り組みは、既に多
くの場で行われている。しかしそれらは子育て期や退職後など特定のライフステージに焦
点が当てられ、個々人のライフステージ全体を俯瞰したうえで生活の質を向上する施策と
して展開されているとは言い難い。個人の生涯に亘る有用な情報(健診や診療、介護等の
履歴、就学履歴、就労履歴、保有技能、ボランティア歴等)についても、学校や職場、自
治体、医療機関や介護施設、民間企業など複数の機関に分散して保有されているため、必
要な時に、必要な情報が、必要な人に提供できず、また、時系列的に一貫性を持たせて分
析することを困難にしている。
例えば、わが国が国家戦略として取り上げようとしている「認知症」への取り組みでも、
認知症患者が住み慣れた地域で生活を続けるには、病院での治療だけでなく、介護保険に
よるケアや、自治体が提供する生活支援サービス、さらには地域のボランティアによる支
援も必要となる。現状では、これらは個別に依頼や契約が必要であるが、患者に関わる情
報を有機的に連携することで、必要なサービスをシームレスに提供することが可能になる。
また、アルツハイマー病などの認知症の治療法や予防法を確立している国は未だにないが、
プライバシーに配慮しつつ、個々人の生涯に亘る健診・診療データ等を収集・分析し的確
な処置へと反映させる仕組みを構築すれば、数十年に亘る膨大なエビデンス(ビッグデー
タ)に基づいて発症メカニズム等を解明し、新たな治療法や予防法の発見に結びつけるこ
とが可能となるだろう。
このように個人の情報やデータを活用する仕組みは、多様化が進む私たちの暮らしや働
き方をきめ細かく支えるものとして、医療以外にも私たちの生活や働きに関わる幅広い分
野での応用が期待できる。今や、ICTはそれを可能にしている。
1
以上のように、目指すべき社会像を実現するための最大の課題は、我が国の将来を見据
えて、それぞれの個人が生涯活動によって生み出していく情報やデータを、プライバシー
に配慮しながら、いかに有効に活用していくかという点にある。
2.取り組むべき施策
~「生涯輝き基盤」の構築~
個人が生涯活動によって生み出していく情報やデータを活用する仕組みのベースは、
2016 年 1 月より利用が始まるマイナンバー制度であると考える。情報化推進国民会議で
も 2007 年頃より、国民識別番号制(当時の呼称は JAPAN-ID)の実現を提唱してきたが、
マイナンバー制度は正確な個人識別を可能にする新たな仕組みとして大きな可能性を内
包している。マイナンバー制度は、税と社会保障の分野に限定された形でスタートし、
自己の特定個人情報及びその提供記録の確認を行うことが出来る「マイポータル」
(情報
提供等記録開示システム)を設置することが決定している。さらに、国民の利便性の向
上を図る観点から IT 総合戦略本部の「マイナンバー等分科会」では、マイナンバー利用
事務に限らず、官民連携による身近で利便性の高いサービスを提供する「マイガバメン
ト」へ活用を拡大することを視野に、プッシュ型サービス1及びワンストップサービス2の
提供の検討も進められてはいるが、個々人のライフステージ全体を俯瞰したうえで生活
の質を向上させるためのプラットフォームとして活用するという構想には至っていない。
そこで、マイナンバー制度が実現の運びとなり、個人情報保護等の関連するルール作
りに関する議論も高まりつつある今、すべての人々が生涯に亘って健康で快適に暮らし、
望む限り働き、社会参加し続けるための情報基盤として、新たにマイナンバー制度を大
幅に発展させた「生涯輝き基盤」
(以下、生涯輝き基盤と記す。)の構築をここに提案す
る。
2-1 生涯輝き基盤とは
生涯輝き基盤とは、マイナンバーの活用領域を行政だけでなく、民間企業、教育機関、
NPO等の民間分野にまで拡げると共に、ライフステージのあらゆる場面において国
民への新しいサービスを生み出すインフラである。連携できる組織を、
「マイポータル
/マイガバメント」で想定されているものより大幅に拡大することにより、様々な組
織に分散して保有されていく個人の情報やデータを組織の壁を越えて収集し、必要な
時に必要な情報を連携させることで、個人の生活を支援するサービスを各組織がシー
ムレスに提供することを可能にする。さらに収集した大量の情報は、個人が特定され
ないように加工したうえでビッグデータとして分析し、企業等においてはライフステ
ージに応じた製品・サービスの開発・提供に活用され、行政においては施策のPDC
Aサイクル3を実現し、求められる行政サービスの効率的な提供等にも活用される。
もちろんプライバシーへの配慮が大前提となり、情報の性格に応じて、個人情報の収
集や利用に際しては適切な制限をかける必要がある。たとえば予防接種の通知などは
一定の年齢に達した児童すべてを対象とすべきだが、就学履歴などは利用範囲を明示
したうえで個人の意思に基づく収集とすべきである。このように社会全体の利益向上
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につながると判断できるものについては原則全員参加とすべきであるが、個人の希望
によりオプトアウト4できるケース、希望者だけが参加するオプトイン5のケースなど、
生涯輝き基盤におけるデータ活用のルールづくりも重要となる。
生涯輝き基盤は、人々の多様な生涯の中で作り出されていく情報を、まさに国民の財
産として活用し、少子高齢社会の課題解決に結びつける壮大な仕組みと言える。この
仕組みが生み出す様々な成果は、我が国を追う形で進行する各国の少子高齢化関連の
課題解決などにも貢献するものと期待される。さらに海外の国民識別制度との連携が
可能となれば、我が国のグローバル化の一層の促進や国際間交流の更なる発展などへ
の広がりも期待できる。
2-2 生涯輝き基盤の構造(イメージ)
生涯輝き基盤を一言で言えば、マイナンバーの仕組みをベースとしてその活用分野を
「利用者視点」で大幅に拡大したものと言える。私たちがこの世に生を受けてから亡
くなるまでを概観すると、①まず、就学期から始まる。親に養育してもらう養育期を
経て、学校へ入学して知識や社会ルールを学ぶ概ね 20 歳前後までの期間である。②そ
の後、就職や起業により社会の一員として生産活動を行う生産活動期となる。この時
期は、結婚する人、子育てをしながら働く人、介護により離職する人、海外留学をす
る人もいれば、病気により一時的に仕事を辞める人もいる。以前は、想定されるライ
フコースがある程度決まっているかのように思われていたが、個人の生活が多様化す
る中で、結婚しない人もいれば、子育てしながら共働きする世帯もある。結婚、子育
て等の各ライフステージを、個人が選択する多様な生き方を受け入れる社会へと変わ
ってきている。③仕事からリタイヤする離職期も、個々人によって異なる。60 歳を超
えてもフルタイムで働き続ける人もいれば、パートタイムの仕事に転職する人、地域
のボランティア活動に参加する人もいる。④自立したアクティブシニアとして活動し
ていても、いつかは、誰かの支援が必要な時期がくる。そして、人生の終末期を迎え
る。これらの時期が何歳からになるかも個人により様々である。生涯輝き基盤は、こ
のように多様な私たちの人生を ICT の活用で支え、生活の質を向上することを目的と
している。
具体的な活用分野は多々考えられるが、ここでは特に少子高齢社会における課題解決
に効果が期待される分野として次の3つを想定した。
(1)シームレスな健康管理への活用
(2)働く場の充実への活用
(3)きめ細かな生活支援のための行政サービスへの活用
またそれぞれの分野で必要となる学びに関する情報の所在等をライフステージに応
じてタイムリーにかつプライバシーに配慮しながら提供する「学びの場の充実」を、
上記3分野に共通する機能として構想している。
さらにマイナンバー制度の導入により希望者に配布される個人番号カードについて
も、たとえば健康保険証などとの統合をはじめ、個人によるカードの管理を簡素化す
ると共に、様々な分野で本人確認に利用できるものへと拡大させる。
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図:生涯輝き基盤の構造(イメージ)
2-3 生涯輝き基盤の活用例
(1)シームレスな健康管理への活用
健康管理に関する個人情報は、母子手帳に始まり学校健診や企業健診、各種診療機
関等で保有されているデータだけでなく、体組成計やウェアラブルのヘルスケアデバ
イスなど家庭での計測で得られるデータ、介護施設において保有されているデータな
ど様々なものが考えられる。これらが複数の機関に分散して保有されている現状を踏
まえて、生涯輝き基盤により同一人のデータごとに紐付けして収集し、介護情報を含
む生涯健康医療電子記録EHR(Electronic Health Record)として医療機関・介護機
関等における情報連携や、患者自らが自分の健康・医療・介護情報を閲覧管理できる
PHR(Personal Health Record)として必要なときに必要な情報を参照できるよう
にする。こうした仕組みによって、質の高い医療やきめの細かい介護などを個人に提
供できるようになる。また、個人が特定されない形に加工したうえで健康・医療・介
護の情報を蓄積・分析するバイオバンクと言われる大規模データベースを用いてビッ
グデータとして分析し、たとえば処方薬と症状の変化との関連を明らかにするなど、
治療や予防、介護の適正化・効率化等に活用できる。これらの分析結果は、オーダー
メイド治療のような個人に対する適正な医療、きめ細かな介護に役立つだろう。
介護分野においても、介護作業の内容や頻度による要介護度の変化を追跡し因果関
係を分析すれば、介護サービス自体の改善や予防法の開発に繋げていくことが可能に
なり、増大を続ける社会保障費の削減も期待できる。
匿名化された情報や分析結果は、医療機関、介護機関、民間企業、大学やNPO6に
提供され、健康・介護関連のサービスやビジネスの創出にもつなげることができるだ
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ろう。今後、介護と仕事の両立に悩む働き手が増えることが予想される中、企業の経
済活動においても大きな効果をもたらすものと期待される。
また、シームレスな健康管理を充実させるためには、個々人のヘルスリテラシー7の
向上も重要であり、健康関連の情報の所在等をライフステージに応じてプッシュ形で
提供していくことも欠かせない。この種の情報は、ワーク・ライフバランスの観点か
らも、仕事でより高い成果を出すための健康管理において重要である。
(期待される効果)
(1) 本人に対する医療や介護の充実
例:過去の健診データや診療経緯も踏まえた最適な処置
例:災害時でも被災者の診療・介護情報を自治体や医療チームで共有可能
(2) 医療・介護技術の発展への貢献
例:認知症の発症メカニズムの解析、予防法・治療法の開発
例:介護作業の内容・頻度と要介護度の変化との相関分析、改善への反映
(3) 健康関連ビジネスや介護関連ビジネスの創出、及び既に顕在化している問題
点の本質的な解決
(4) 健康に対する啓発や正しい知識の普及(健康増進にも繋がる)
(5) 国としての医療費・介護費の削減、健康寿命の延伸
図:生涯輝き基盤の活用例1(シームレスな健康管理)
(2)働く場の充実への活用
働く場の充実に向けた個人情報としては、教育歴やスポーツ歴、業務経歴や取得資
格など様々なものが考えられる。現在はこれらの情報が複数の機関に分散して保有さ
れているが、生涯輝き基盤により生涯に亘る取得スキル等を同一人のデータごとに紐
付けして収集し、必要な人が必要なときに必要な情報を参照できるようにする。
趣味や娯楽を楽しんだり、時には育児、介護、病気治療など様々な生活場面がある
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中での、生活との調和が図れる働き方(ワーク・ライフバランス)、ダイバーシティへ
の対応、高齢者・障害者・若年無業者等への支援が求められている。一方、個人のジ
ョブマッチング・ジョブリコメンデーションや新たな社会参加の支援は個別化が進み、
一律的に対応することはますます難しくなってきている。生涯輝き基盤によって一人
ひとりに合った対応を可能とすることで、最適な就業や社会参加をサポートする。ま
た、キャリアアップや社会参加を促進するため、得意領域や興味領域をさらに発展さ
せるための学びに関する情報の所在等をライフステージに応じてタイムリーにかつプ
ライバシーに配慮した形で、個人にプッシュ型で提供していく。これは、学びと働き
とが相乗的に連鎖しスキルアップが繰り返されていくことを狙ったものである。
さらに、収集した情報を個人が特定されない形に加工したうえでビッグデータとし
て分析し、たとえばスキル、活躍分野、報酬等の関連を明らかにするなどして、新た
な教育・研修ビジネスの創出や学びに関する新たな研究領域の発掘など、産業振興や
社会の発展のためにも活用できる。
期待される効果としては下記に示すようなものが考えられるが、特に重要な点は、
多様な人々の視点や知恵が十二分に発揮・活用されることで、継続的なイノベーショ
ンが起こって新たな産業が創出され続け、真に活力ある社会の形成へと繋がっていく
ことだと考える。
(期待される効果)
(1) 本人に対するジョブマッチングや社会参加支援の精度向上
(2) 新たな求人・求職関連ビジネスや教育・研修ビジネスの創出、及び既に顕在
化している問題点の解決
(3) 地方を含めた就業機会、社会参加機会の増大と多様化
例:時間や場所に制約されない新たな働き方で地方の雇用を促進
例:これまで社会参画の機会に恵まれなかった人々を含む多様な視点や知恵
を結集したイノベーションや新産業の創出
(4) 働きと学びに関する啓発や知識の普及(個人の活躍の場の充実とモチベーシ
ョンの向上とが相乗的に高まることを期待)
図:生涯輝き基盤の活用例2(働く場の充実)
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(3)きめ細かな生活支援のための行政サービスへの活用
生活支援のための行政サービスに関連した個人情報としては、住所や戸籍など基本
的な情報をはじめ、健康状況、就学状況、居住環境、所得など様々なデータが考えら
れる。現状は、これらの情報が基本的には役所内の各課や介護施設など主に公的機関
に分散して保有されているが、生涯輝き基盤により同一人のデータごとに紐付けして
収集し、必要なときに必要な情報を参照できるようにすることで、当該個人の人生の
節目や状況に応じたきめ細かな生活支援サービスの提供が可能となる。また、収集し
た情報を個人が特定できない形に加工したうえでビッグデータとして分析し、たとえ
ば各種の行政施策と生活の質の向上度合との関連を明らかにするなどして、行政サー
ビスの検証・改善や新たな生活支援サービスの実現など、地域社会のためにも活用で
きる。
期待される効果としては下記に示すようなものが考えられるが、たとえば個人や世
帯の状況に応じた行政サービスがきめ細かくかつプッシュ型で提供できるようになる
ことや、企業やNPOなどと連携した生活支援のための新たな行政サービスや関連し
た民間ビジネスの創出などが期待できる。
(期待される効果)
(1) 本人や世帯に対するきめ細かな行政サービスをプッシュ型で提供
(2) 行政サービスの検証と改善
(3) 行政と民間とが連携した新たな生活支援サービスの開発
例:NPOによる独居老人の見守りと民間による宅配サービスの連携(行政が支援)
(4) 国や自治体が提供する各種の支援制度に関する正しい知識の普及(健康で快
適な暮らしの基盤)
図:生涯輝き基盤の活用例3(きめ細かな生活支援のための行政サービス)
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2-4 生涯輝き基盤の実現に向けて
(1) 推進体制
生涯輝き基盤構築のねらいは、すべての人々が生涯に亘って健康で快適に暮らし、
望む限り働き、社会参加し続けられる社会を実現することにある。そのためには、マ
イナンバー制度の現状の制限を見直し、マイナンバーの活用分野を行政だけでなく民
間分野(企業、教育機関、NPO、医療・介護機関など)に拡大していく必要がある
ほか、省庁等の組織をまたがる連携や、ビッグデータの分析システムの構築など巨額
の投資も必要となる。また、パイロットプロジェクトのような形で国が先導して一定
の道筋を描けた後には、民間の参入を適正に誘導していくような推進策も必要と考え
る。見方を変えれば、組織の壁を取り払うと共に幅広い民間の力を結集した施策を展
開するのに最適なテーマでもある。
以上から生涯輝き基盤の構築にあたっては、時代に適合しつつ国民目線に立った推
進のため、国においても省庁の壁を越えた強い推進力に加え、予算とその執行につい
ても必要な権限を有する強力で専任の推進体制を新たに構築して臨む必要がある。
(2) 関連制度の整備・充実
生涯輝き基盤を実現・定着させるには、上記で述べたマイナンバー制度を見直して
その活用分野の拡大を図るほか、関連するその他の制度も見直して、情報の活用やI
CT機器の普及を促進することが必要である。
たとえば医療の分野では、長らく規制されていた遠隔医療に対して厚生労働省から
新しい解釈が出された。しかし、遠隔医療に用いるICT機器の費用負担については
特段の支援策が存在せず、診療報酬の対象となるICTを活用した治療も限定されて
おり、これが遠隔医療の普及が進まない大きな要因となっている。医療保険制度にお
いて保険請求の対象とならなければ医療機関でのICT機器の導入は難しい。技術革
新のスピードの速いICT分野の特性に合わせて、必要とされる機器・サービスにつ
いては速やかに診療報酬の対象とできるような報酬ルールの改定が必要である。介護
ロボット、テレワーク、ビッグデータなどについても、同じような費用負担の問題が
阻害要因として存在する。
もとより、提案している生涯輝き基盤は、それのみで少子高齢社会の課題解決のた
めの万能薬や特効薬になる訳でもなく、個々の高齢化対策・少子化対策とも協調して
課題を解決していくものである。その際にICTを積極的に活用していくことが可能
となるインセンティブ施策の強化・充実に加え、社会保障制度そのものの改革を進め
ることが肝要である。
また個人情報の取り扱いについても、今国会で個人情報保護法の改正が見込まれて
いるが、ICT活用を阻害する要因を解消し、生涯輝き基盤を活用することを前提と
して、個人情報の活用と保護とのバランスが取れた社会を目指したものへと進化を継
続していくことを求めたい。
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3.提言
(1) 「生涯輝き基盤」の実現
すべての人々が生涯に亘って健康で快適に暮らし、望む限り働き、社会参加し続け
られる社会を目標とすべきである。その実現のため、マイナンバーの活用を早期に民
間分野にも開放し、少子高齢化の課題解決にも有効な新たな情報基盤「生涯輝き基盤」
の構築を要望する。
私たちの生涯における様々なライフステージで複数の機関に分散して保有・管理さ
れていく個人の情報やデータを適切に収集し、必要な時に、必要な情報が、必要な人
の間で共有でき、その分析結果に基づいて適切な対処法を本人にフィードバックする
ことは個々人の生活の質の向上につながる。また、収集した大量の情報をビッグデー
タとして分析して国民の財産として活用すると共に、匿名化した情報を民間企業等に
おける製品やサービスの開発・提供に活用することは、少子高齢社会の課題解決に結
びつく。これは、マイナンバーの活用分野をプライバシーやセキュリティに配慮した
上で、民間分野等(企業、教育機関、NPO、医療・介護機関など)に開放された生
涯輝き基盤の実現なくして達成できないことである。
(2) 強力な推進体制の構築
生涯輝き基盤は、省庁間の壁を越えた相互の協力なくして実現できない。省庁間の
壁を越えた強い推進力をもつ独立性の高い推進組織の設立を要望する。予算とその執
行について必要な権限を有する組織にすることが前提で、今後 100 年の政府組織のモ
デルケースとして機能させる。
私たちの生涯に亘る様々な情報は、企業や学校、自治体、医療機関や介護施設,N
POなど複数の機関に分散して保有されており、その監督官庁も様々である。このた
め、生涯輝き基盤の構築にあたっては、関係官庁が協力した推進体制の構築が不可欠
となる。また、収集したデータをビッグデータとして分析するシステムの構築費など
巨額の投資が必要となるため、予算措置とその執行についても必要な権限を有する強
力で独立性の高い推進体制が求められる。
(3) 関連制度の整備・充実
生涯輝き基盤の実現に向け、ICTを積極的に活用していくことが可能となるイン
センティブ施策の強化・充実や社会保障制度改革を実施し、個人情報の活用と保護と
のバランスが取れた社会への進化を継続していくことを求める。
生涯輝き基盤を実現・定着させるには、マイナンバー制度の拡大に加え、関連する
法律や制度を見直し、必要な情報の連携や活用を積極的に進められるようにすること
が必要である。生涯輝き基盤が個々の高齢化対策・少子化対策とも協調して課題を解
決していけるよう、遠隔医療や介護ロボット、テレワークやビッグデータなど、IC
Tの積極的活用がインセンティブとなるような施策の実現を求める。また、プライバ
シーやセキュリティへの配慮が行きすぎ、ICT活用を阻害することのないよう、個
人情報の活用と保護とのバランスが取れた社会を目指すべきである。
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主な用語
1
プッシュ型サービス
サービスを受けるときに、利用者がサービス提供者にアクセスしに
いくのではなく、サービス提供者から利用者に自動的にお知らせ情
報などを配信するなどして、提供者から利用者に能動的に提供する
サービス。
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ワンストップサービス
3
PDCAサイクル
4
オプトアウト(opt-out)離脱する、脱退する、断る、などの意味を持つ英語表現。企業
が一方的に送ってくる広告などの受け取りを拒否することや、その
ために用意された制度や措置などを意味する場合が多い。
5
オプトイン(opt-in)「選択」という意味の英単語で、ユーザが明示的に広告メールの受
け取りを承諾することを指すことが多い。
6
NPO(Non Profit Organization)
7
ヘルスリテラシー
1カ所で必要な行政手続きをすべて済ませること。
業務プロセスの管理手法の一つで、計画(plan)→実行(do)→評価
(check)→改善(act)という 4 段階の活動を繰り返し行なうことで、
継続的にプロセスを改善していく手法。
非営利団体
健康情報を獲得し、理解し、評価し、活用するための知識、意欲、
能力であり、日常生活におけるヘルスケア(医療)問題について意
思決定する能力。
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