有機性廃棄物を素材とした堆肥施用による重金属の土壌、 作物への影響

有機性廃棄物を素材とした堆肥施用による重金属の土壌、
作物への影響
農林総合研究センター(農産物安全性担当)
キーワード:野菜全般、肥料、資源利用、有機質肥料、環境汚染、防止
1
技術の特徴
循環型社会形成の推進等から家畜ふん尿や食品残渣等、有機性廃棄物を原料とした堆肥の施用が今
後より増加すると思われるが、それらの堆肥に含有する重金属の土壌への蓄積や作物への影響が懸念
される。そこで、有機性廃棄物を素材とした堆肥の重金属の含有実態や堆肥施用による重金属の土壌
や作物への影響を明らかにした。
2
技術内容
(1)
有機性廃棄物を素材とした堆肥の重金属含有実態
肥飼料検査担当の調査結果(平成7∼16年度)を集計したところ、県内の牛糞堆肥、豚糞堆肥、
鶏糞堆肥、生ごみ堆肥の重金属濃度について、いずれの堆肥もカドミウム(Cd)、鉛(Pb)、ヒ素
(As)濃度は実際の農耕地土壌の濃度に比べて高くないが、豚糞の銅(Cu)濃度や豚糞、鶏糞の亜鉛
(Zn)濃度は高かった。このため、豚糞、鶏糞とそれらの飼料中の銅、亜鉛濃度について分析した
ところ、飼料中の濃度が高いものを給餌した家畜の糞中の濃度は高く、飼料の銅、亜鉛が糞中の
濃度に影響していた(データ省略)。
(2) 土壌中の重金属の吸着反応
ア 土壌に意図的に重金属を添加し、その溶出率を調査した結果、深谷、鶴ヶ島(いずれも黒ボク
土)の銅の0.1M塩酸による溶出率や亜鉛、カドミウムの0.01M塩酸による溶出率が久喜、熊谷、
妻沼(褐色低地土)や秩父(褐色森林土)に比べ低かった(表1)。また、土壌への腐植酸苦土
肥料処理により、0.1M塩酸可溶性銅濃度や0.01M塩酸可溶性亜鉛、カドミウム濃度が低下した
(表2)。このことから腐植物質が多いと重金属が土壌に吸着されやすく、このため腐植を多く
含む黒ボク土で重金属の吸着が大きくなる考えられた。
イ 土壌への苦土石灰処理により、銅、亜鉛、カドミウムの溶出率が低下した。このことから、土
壌pHの上昇により、重金属が土壌に吸着されやすくなると考えられた(データ省略)。
(3) 堆肥施用による重金属の土壌、作物への影響
家畜糞堆肥を3作連用(1作目牛糞主体(pH7.9)、2、3作目豚糞主体の堆肥(pH 8.4))
したほ場において、堆肥施用量の増加に伴い土壌pHが上昇し、土壌中の銅、亜鉛全濃度が増加
し、カドミウム全濃度に顕著な変化がないが、土壌中の0.01M塩酸可溶性亜鉛、カドミウム濃度
は低下した(表3)。このほ場で栽培したホウレンソウでは堆肥の施用によりカドミウム、亜鉛
濃度が低下し、カブ(根部)では堆肥の施用によりカドミウム濃度が低下した(表4)。また、
土壌pHの上昇によるホウレンソウのカドミウム、亜鉛濃度の低下がポット試験で確認され(図
1)、さらに土壌pHと0.01M塩酸可溶性重金属カドミウム、亜鉛に負の相関が見られた(図
2)。これらのことから、家畜糞堆肥の施用による土壌pHの上昇から土壌中の亜鉛、カドミウ
ムが不溶化され、作物中の濃度が低下したと考えられた。
3
具体的データ
表1 各地域土壌の添加重金属溶出率(%)
褐色低地土
褐色森林土
久喜
熊谷
妻沼
秩父
Cu
85
79
65
52
Zn
28
59
33
39
Cd
15
60
30
32
pH
6.0
5.4
6.2
5.9
C(%)
1.0
0.8
0.9
1.2
注)Cuは0.1M塩酸抽出、Zn、Cdは0.01M塩酸抽出による
黒ボク土
鶴ヶ島 深谷
28
31
9
7
4
3
5.9
6.0
4.2
2.7
表2 腐植酸苦土肥料及び苦土石灰処理による
土壌の可溶性重金属濃度 (単位 mg/kg 乾土)
腐植酸苦土肥料
無処理
2%
10%
苦土石灰
Cu
6.06
4.74
1.59
4.88
Zn
0.49
0.30
0.11
0.08
Cd
0.0135
0.0050
0.0005
0.0008
pH
6.3
6.3
6.5
7.4
C(%)
1.1
1.3
3.8
−
注1)腐植酸苦土肥料の処理量(%)は使用土壌量に対する割合
2)Cuは0.1M塩酸抽出、Zn、Cdは0.01M塩酸抽出による測定値
表3 家畜ふん堆肥の3作連用による土壌中の重金属濃度 (単位 mg/kg 乾土)
1t
46.9
0.15
92.1
0.86
0.230
0.008
5.9
1.6
堆肥施用量(t/10a現物) 無施用
Cu(全濃度)
Cu(0.01M塩酸可溶性)
Zn(全濃度)
Zn(0.01M塩酸可溶性)
Cd(全濃度)
Cd(0.01M塩酸可溶性)
pH
C(%)
43.6
0.12
87.0
1.32
0.222
0.019
5.5
1.4
2t
51.5
0.16
99.6
0.60
0.220
0.003
6.3
2.0
4t
57.3
0.19
110.3
0.49
0.213
0.002
6.6
2.3
注1)堆肥施用量は1作当たりの施用量、各処理区で同一量を3作連用した。表4も同様。
2)堆肥中の濃度等:1作目銅 37、亜鉛 139、カドミウム 0.11mg/kg現物:pH7.9、C/N比9.6
2、3作目銅 324、亜鉛 763、カドミウム 0.47mg/kg現物:pH8.4、C/N比9.0
表4 家畜ふん堆肥の3作連用による作物の重金属濃度 (単位 mg/kg 乾物)
堆肥施用量
(t/10a現物)
Cu
無施用
7.48
ホウレンソウ
1t
2t
8.65
7.52
4t
8.00
無施用
4.11
カブ(根部)
1t
2t
4.43
5.01
4t
4.98
Zn
105.2
94.7
93.9
78.8
27.2
26.6
29.4
34.2
Cd
1.14
0.78
0.60
0.41
0.21
0.18
0.17
0.16
Cd濃度(mg/kg 乾物)
6
H17.8月播種
H18.2月播種
H18.8月播種
4
2
0
5
6
7
0.01M塩酸可溶性Cd濃度
(mg/kg 乾土)
注1)堆肥3作連用後の値
2)ホウレンソウ品種:パレード、カブ品種:しろかもめ
4
5
土壌pHとホウレンソウの
カドミウム濃度との関係
H17.8月播種
0.04
H18.2月播種
H18.8月播種
0.03
0.02
0.01
0
5
8
土壌pH
図1
0.05
図2
6
7
土壌pH
8
土壌pHと土壌の0.01M塩酸可溶性
カドミウム濃度との関係
適用地域
県内全域
普及指導上の留意点
家畜ふん堆肥は一般的にpH8前後のものが多いが、配合原料等によりpHが変動すること
に留意する。
(2) 土壌タイプや作物、品種により重金属の反応程度が異なることに留意する。
(1)
6
試験課題名(試験期間)、担当
有機リサイクル生産における重金属類の汚染防止技術の開発(2004∼2006年度)、農産物安全性担当