問題 地球温暖化 浦瀬太郎 • 地球温暖化が他の環境問題と異なる点は何 ですか? 空間スケール,時間スケール,原因と結果の関 連の確からしさ,他の問題への付け替えの可 能性,人のどのような行為から発生する問題 か,・・・・ 地球温暖化問題の特徴(1) 空間スケール 地球温暖化問題の特徴(2) 時間スケール • 大気汚染,水質汚濁は,どれも,排出源の近 傍の地域で問題となるものである(稀には越 境汚染もあるが,地球の裏側で排出されたも のは関係がない)。騒音・振動などはさらに局 地性が強い(せいぜい数100m)。 • 大気汚染,水質汚濁は,どれも,排出から影 響が出るまで数日から長くても数年である。 • 地球温暖化は,徐々に地球が温まる現象で あり,今日排出した二酸化炭素は何十年,難 百年かけて地球を暖める。 • 地球温暖化は,地球上のどこから排出された 二酸化炭素もほぼ同じ影響を与える。 地球温暖化問題の特徴(3‐1) 他の問題への取り換え 地球温暖化問題の特徴(3‐2) 他の問題への取り換え • 大気汚染,水質汚濁は排出源で処理をする ことが可能な場合が多く,その場合,それら の問題をエネルギー消費(地球温暖化)の問 題と廃棄物問題とに置き換えることが可能で ある。つまり,努力によって,問題を他の問題 転嫁 に添加できる。 • 地球温暖化は,エネルギー消費に関わって おり,努力すること自体が,たいていの場合, また,エネルギーを消費してしまう。 • 化学物質の健康影響であれば,「Aという農 薬は危険だから代わりにBを使いましょう」「C という食品添加物は危険だからDを使いましょ う」という問題の付け替えが可能。 • 二酸化炭素は,エネルギー消費の結果であ り,「二酸化炭素は問題だから○○に取り換 えましょう」とはできない。二酸化炭素以外の 温暖化ガス(冷媒のフロン類)は取り換えが可 能。科学が進歩しても無理だろう。 地球温暖化問題の特徴(3‐3) 原子力ならCO2は出ないか 地球温暖化問題の特徴(3‐4) 化石燃料の中での優等生は • 原子力発電はウランの燃焼からはCO2を出さ ないが,たとえば,発電所の建設や汚染水の 処理,廃棄物の処分などでは,化石燃料を消 費するから二酸化炭素を排出する。 • 化石燃料は,炭素と水素の化合物で燃焼時 に,以下のように反応式が書けるので,石炭 ,石油,天然ガスの順に発熱量当たりのCO2 排出量は多くなる。 CxHy + (x + (y/4))O2 → xCO2 + (y/2)H2O 地球温暖化問題の特徴(3‐5) バイオ燃料ならCO2は出さないか • サトウキビなどから燃料を作る技術は実用化 されている。サトウキビなどは,大気中の二酸 化炭素が固定されて生育したものだから,そ れを燃やしても,差引ゼロとなり,温暖化ガス 排出量は0とカウントできる。 • しかし,サトウキビを育てるために,トラクター が走り回り,肥料を与え,作物を運搬し,燃料 を精製すれば,二酸化炭素が出る。(ただし, サトウキビを育てる農民の呼吸や農家が贅沢 をして大きなテレビを買って電気を使う分はカ ウントしないのが,ルールである) 地球温暖化問題の特徴(4) 原因と結果の関連の確からしさ • 大気汚染,水質汚濁も,昔は,原因と結果の 間に多くの論争があった。今は,水俣病のこ とを「地域の伝染病である」という人はいない し,四日市ぜんそくを「病は気から」という人も いない。 • 地球温暖化は,空間スケール,時間スケール ともに大きく,あいまいな部分は大きく残る。 しかし,重大な問題に発展する恐れがあるこ とから,予防原則が強調される。 地球温暖化問題の特徴(5) すべての人間活動が関与する 地球温暖化問題の特徴(6) 貯蔵はできなくもないが・・・ • 地球温暖化はエネルギー消費と結びついて いるので,人間の活動で,地球温暖化に寄与 しない活動はほとんどない。 • 廃棄物の処理,水の浄化,大気の浄化,温 暖化防止のためのポスターを作ること,など 環境に良いと思われる活動も排出源である。 また,断熱効果の高い建材も使用段階で家 庭のエネルギー消費は減らすが,製造すれ ば,二酸化炭素を排出する。 • 二酸化炭素を発電所で固体(ドライアイス)に してしまうとか,地盤内に閉じ込めてしまう,と いうアイディアもある。化石燃料は燃やすが, 二酸化炭素は排出しないというアイディアで ある。 • しかし,固形化や閉じ込めること自体にエネ ルギーが必要になるので,同じ量の発電をす るのに必要なエネルギー消費量は2‐3割は増 えてしまう。 地球温暖化問題の特徴(7) 利害調整の国際性 • 地球環境問題では,どの国から出た二酸化 炭素も同じ影響を持つ。したがって,一国で 排出を削減しても効果がない。 • 生きるか死ぬかの生活をしている国が豊かな 国に経済発展すれば,必然的に,二酸化炭 素排出量は増加する。 • 国ごとに削減率を設定すると途上国に不利, 人口1人当たり排出目標を設定すれば,先進 国に不利である。 地球温暖化の論争点(1) 本当に温暖化しているのか 1961~1990年の平均 に対する差(℃) • 陸上の温度には,都市化の影響(ヒートアイラ ンド)が多分に含まれており,実際には,それ ほど温暖化していない? 出典:IPCC 第 5 次評価報告書 気象庁解説版(2013) 1850~2012年の陸域と海上とを合わせた世界平均地上気温偏差の観測値 地球温暖化の論争点(0) 二酸化炭素は増加しているのか • 二酸化炭素の増加 はないという人は いない • その間接証拠であ る海水のpH低下を 嘘だという人もいな い。 すべての研究者の合 意が得られている 地球温暖化の論争点(2) 温暖化の原因はCO2ではない • 地球が温暖化した結果CO2が増加したのであ って,CO2が原因で温暖化したのではない? 出典:IPCC 第 5 次評価報告書 気象庁解説版(2013) 地球温暖化の論争点(3) 温暖化してもそんなに暑くならない? 出典:IPCC 第 5 次評価報告書 気象庁解説版(2013) RCP: 工業化以前と比較して放射強制力が今世紀末にそれぞれ8.5W/m2,6.0W/m2, 4.5W/m2,2.6W/m2上昇するというシナリオ 地球温暖化の論争点(5) 京都議定書はとんでもない不平等条約? わが国は,オイルショックを経験し,すでに省エネルギー努力 をしてきたので,これ以上の削減は難しい。 1990年基準はEUの罠。旧東欧諸国の統合により,旧東欧圏 の不効率な機器の取り換えだけでEUは目標を達成できる。 京都議定書による削減目標(1990年を基準年とした削減率) 国 EUなど 米国(署名したが批准せず)など 日本など 削減目標 -8% -7% -6% 0% ロシアなど 「森林による吸収分を控除できる」「1990年のわが国はバブル 時期だった」など,わが国に有利な面もあることに注意。 地球温暖化の論争点(4) 温暖化しても海面はあまり上がらない? 出典:IPCC 第 5 次評価報告書 気象庁解説版(2013) RCP: 工業化以前と比較して放射強制力が今世紀末にそれぞれ8.5W/m2 、6.0W/m2、 4.5W/m2、2.6W/m2上昇するというシナリオ 地球温暖化の論争点(6) 温暖化よりも寒冷化の方が悲惨? ・1970年代には氷河期に向かうと警告していた気象学者の言 う地球温暖化は信用ならない。 ・人為影響とは別に,太陽の活動によって,地球の温度は大 きく変わる。平安時代から鎌倉時代の比較的温暖な時期には, 文化が栄え,豊かな時代。室町時代の後半の寒冷期には, 貧しく戦争が続いた。人類には,温暖化の方がよい。 公転軌道と自転軸の変化に関する予測では,2万年後く らいには,氷河期が訪れるだろう。しかし,2万年後の寒 冷化と100年後の温暖化のどちらに私たちは資源を割く べきか。 地球温暖化の論争点(7) 対策をしても問題を解決できない? ・排出量を5%削減したくらいでは,温暖化は止められない。し かし,大きく排出削減すれば経済的に大混乱。したがって,温 暖化を防止するより温暖化に適応することが重要。 ・温暖化防止以外に,途上国の衛生状況の改善など緊急性 のある環境問題は多くある。そちらに資源を使うべき。 ・できることから可能な範囲で対策するべき。 ・二酸化炭素排出抑制は化石燃料使用抑制につながり, 長期の人類の生存に不可欠。 ・途上国での様々な改善と地球温暖化問題はトレードオ フではない。両方やればよい。 問題 • (練習)剣道でガッツポーズをしたら失格というル ールは合理的か • (答案交換後)→ その考え方に対してコメント • 幸福でありながら,二酸化炭素の排出の少ない ライフスタイルを提案しなさい。 • (答案交換後)→ その実現性,有効性をコメント しなさい。 • 地球温暖化は,重要な問題か。どの程度の現在 の人的・物的資源を割くべき課題か。 • (答案交換後)→ その考え方に対してコメントし なさい。
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