巻頭言 岸本 義之(きしもと・よしゆき) ([email protected]) M&Aのスキルを高める Strategy&(旧ブーズ・アンド・カンパニー) 東京オフィスのディレクター・オブ・ストラテ ジー。20 年以 上にわたり、金融機 関を含む 岸本 義之 幅広いクライアントとともに、全社戦略、営 業マーケティング戦略、グローバル戦略、組 織改革などのプロジェクトを行ってきた。 海外企業が大型の M&A を繰り出して巨大 M&A を得意としている企業であっても、逆に 化してきている一 方 、日本 企 業は「 M&A が下 自信過剰から失敗を引き起こしてしまうことが 手」という評価が定着してしまっているようで ある。本号の論考の三本目は、陥りがちな5つの ある。海外からの「持ち込まれ案件」を高値で 「思い込み」と5 つの「過大評価」の罠について つかまされたり、国内の同業との「対等の精神 解説している。 で徐々に経営統合」を行うことによって、むしろ 買収成立後の経営統合についても、その重 時間をロスしてしまったり、というようなイメー 要性が高まっている。時間をかけて徐々に統合 ジがついて回る。 というペースでは、競合にむしろ追い抜かれて こうした問題を回避する方法は、まずは「自ら しまうからである。早期にシナジーの成功事例 主体的にM&A を仕掛けるとしたら、どのような を生み出し、全体最適のための難しい意思決定 長期ビジョンのもとに、どのような企業を M&A を行うには、事前に統合計画をきちんと立てて するか」ということを事前に考えておくことで おいて、勢いのあるうちに壁を乗り越えること ある。本号の論考の一本目は、欧米の大手企業 が有効である。本号の論考の 4 本目は、買収後 による、こうしたビジョンを解説している。隣接 の統合プロセスにおける成功の鍵を解説して 領域に規模を拡大するのではなく、自社が強い いる。 ケイパビリティを持ち、それを活かせる領域に 日本企業の中にも、M&A 担当チームを設置 絞り込んで M&A を行い、それに合わない領域 して 、迅 速に検 討を行うためのスキ ルや 経 験 は むしろ売 却して いくというの が 、ス ー パ ー 値を蓄 積し始 めた 企 業 が ある。そうした 企 業 コンペティターの姿である。 は、投資銀行などのアドバイザーの言いなりに こうした 長 期ビジョンが 事 前に設 定されて なるのではなく、自らの意志で、戦略的な目的 い れば、M&A のスピードを速めることができ のもとに M&A を行おうという姿勢を明確にし る。ビジネスケースを定め、戦略的デューディリ ている、また、財務・税務・法務だけでなく、戦略 ジェンスを短期に実行し、統合計画の早期作成 デューディリジェンスのためにも外部アドバイ に着手できるようになる。本号の論考の二本目 ザーを活用するという企業も増えてきている。 は、スピード時代の M&A プロセスの要諦を論 どのようなシナジーを生み出せるのかの見極 じている。 「時間を買う」M&A であれば、そのプ めが、どこまでの対価を払ってもよいかの判断 ロセスに時間をかけるわけにはいかないので には不可欠なためである。外部アドバイザーを ある。 うまく活用することも含めて、M&A のスキルを また、M&Aにおいて起こりがちな落とし穴に 高めることは企業戦略の実行上、ますます重要 ついても、気を付けておくべきである。欧米で になってきている。 Strategy& S t r a t e g y & Fo r e s i g h t Vol . 2 2 015 W i n t e r 3
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