c オペレーションズ・リサーチ Newton の不等式を用いたオッズ問題の解析 松井 知己,穴太 克則 本稿では,オッズ問題とその変種に対し,その最適戦略と勝利確率の下界について議論する.特に,いく つかの変種を特殊ケースとして含む一般的な問題が, Newton の不等式を用いることによって統一的に議論 できることを示す. キーワード:古典的秘書問題,オッズ問題,Newton の不等式 文タイトルになっている!). 1. はじめに オッズ問題において,成功確率を pi = 1/i と定めた 確率変数の列 X1 , X2 , . . . XN を,独立なベルヌイ 問題は,古典的秘書問題と本質的に等価であることが 試行の列とする.各確率変数は成功または失敗のどち 知られている.Bruss [2] では,r1 + r2 + · · · + rN ≥ 1 らかの値をとるものとする.本稿では,確率変数 Xi ならば,最適停止規則を用いたときの勝利確率は必ず の値が成功のときは Xi = 1 と表し,失敗のときは 1/e 以上であることが示された.古典的秘書問題にお Xi = 0 と表す.以下では,確率変数 Xi の成功確率 いて人数 (N ) が大きくなると,最適停止規則を用いた を pi = Pr[Xi = 1] と表し,議論の簡略化のために 際の勝利確率は 1/e に収束することが知られており, [∀i, 0 < pi < 1] が成り立つと仮定する.さらに失敗確 上記の下界を(漸近的に)達成している. 率 qi = Pr[Xi = 0] とオッズ ri = pi /qi を定義する. 2. 問題 すべての成功確率 (p1 , p2 , . . . , pN ) が与えられたと オッズ問題については,様々な変種が研究されてい して,以下のような(プレイヤが一人の)ゲームにつ いて考えよう.確率変数の実現値は X1 , X2 , . . . の順に る.Tamaki [3] は,与えられた正整数 に対し,選択 逐次得られるとし,プレイヤは各確率変数の観測直後 回数は(高々)1 回とし,最後から 番目までの( 個 にそれを『選択する』か『選択しない』のどちらかを の)成功のうちどれかに対応する確率変数を選択した 選ばねばならない1 .Bruss の提唱したオッズ問題では, ならば勝利すると定義した問題について議論している. 選択回数は(高々)1 回とし,最後の成功に対応する Bruss and Paindavein [4] は,与えられた正整数 に 確率変数を選択したならば,プレイヤは勝利したと定 対し,選択回数は(高々) 回とし,最後の成功,最後 義する.オッズ問題の目的は,プレイヤの勝利確率を から 2 番目の成功,. . . ,最後から 番目までの成功, 最大化する方法,最適停止規則と呼ぶ,を求めること これらすべてに対応する確率変数を選択したならば勝 である. 利すると定義した問題について議論した.この問題は, Bruss は [1] において,最適停止規則が閾値戦略 選択回数を(高々)1 回とし,最後からちょうど 番 で得られることを示した.閾値戦略とは,特定のイ 目の成功に対応する確率変数を選択したならば,勝利 ンデックス i∗ に対し『Xi∗ 以降の確率変数で最初 したと定義する問題と等価である. に 1 の値を取るものを選択する』というものである. 本稿で議論するのは,オッズ問題に対する次のよ Bruss [1] は,閾値を i = min{i ∈ {1, 2, . . . , N } | うな変種である.正整数 と k が与えられ,これは ri + ri+1 + · · · + rN < 1} と定めた閾値戦略が最適停 1 ≤ k ≤ < N を満たすとする.本稿で扱う問題は, ∗ 止規則となることを示した(この主定理がそのまま論 『最 オッズ問題において,選択回数は(高々)1 回とし, 後から k 番目の成功,最後から k + 1 番目の成功,. . . , まつい ともみ 東京工業大学大学院社会理工学研究科社会工学専攻 〒 152–8550 東京都目黒区大岡山 2–12–1 あのう かつのり 芝浦工業大学システム理工学部数理科学科 〒 337–8570 埼玉県さいたま市見沼区大字深作 307 c by 132(10)Copyright ( − k + 1 個の成功)のう 最後から 番目までの成功』 1 本来は『停止する』と『停止しない』であるが,本稿で は一般化した問題も同様に扱うために,選択という単語を 用いる. ORSJ. Unauthorized reproduction of this article is prohibited. オペレーションズ・リサーチ ち,どれかに対応する確率変数を選択したならば勝利 トル r ∈ RN + と,任意の整数 1 < ∀m < N において, すると定義した問題である.上記の問題は,設定が人工 Sm (r)2 ≥ Sm−1 (r)Sm+1 (r), が成り立つ. 的で不自然に感じられるかもしれないが,k = = 1 と Newton の不等式より直ちに以下が得られる. すれば Bruss [1],k = 1 とすれば Tamaki [3],k = とすれば Bruss and Paindavein [4] の研究した問題に 任意の正ベクトル r = ( r1 , r2 , . . . , rN ) > 0 補題 1. 対応しており,これら 3 つの問題を特殊ケースとして と,1 ≤ m ≤ ≤ N を満たす正整数の対 (m, ) に対 含む一般的な問題である. し, あるいは上記の問題は,選択回数を(高々) k 回と e−1 ( r) r) e ( が成り立つ. ≥ em−1 ( r) em ( r) したとき,選択した確率変数すべてが,最後の成功,最 略証. 後から 2 番目の成功,. . . ,最後から 番目までの成功, (1/2)(log(Sm −1 ) + log(Sm +1 )) が得られ,これより の中に含まれているとき勝利とした問題と本質的に等 直ちに以下が導かれる: 価である.例えば N = 8,k = 3, = 4 の場合を 考えてみよう.確率変数列 (X1 , X2 , . . . , X8 ) の実現値 が (0, 1, 1, 0, 0, 1, 1, 1) であったとき,プレイヤは集合 {X3 , X6 , X7 , X8 } の中から 3 つを選択すれば勝利する ことができる.プレイヤが勝利したならばプレイヤが 最初に選択したのは {X3 , X6 } のどちらかである.ま た,プレイヤの最初の選択が {X3 , X6 } のどちらかで あれば,それ以降の確率変数で実現値が成功であるも のを,3 つまで連続して選択すればよい.この戦略を Newton の不等式より中点対数凹性 log(Sm ) ≥ log(Sm ) + log(S−1 ) log(Sm−1 ) + log(S ) ≥ , 2 2 Sm S−1 ≥ Sm−1 S , N r) e−1 ( m−1 N −1 r) em−1 ( r) e−1 ( ≥ em−1 ( r) 用いた際は,プレイヤが勝利したときに選択していた 補題 2. N m S−1 S = ≥ = Sm−1 Sm N N −m+1 N −+1 m r) e ( , r) em ( r) r) e ( e ( ≥ .■ em ( r) em ( r) 任意の正ベクトル r = ( r1 , r2 , . . . , rN ) > 0 確率変数の集合は {X3 , X6 , X7 } または {X6 , X7 , X8 } と,0 ≤ m ≤ ≤ N を満たす正整数の対 (m, ) のどちらかとなる.ゆえに,この問題においてプレイヤ に対し, が勝利することのできる必要十分条件は,プレイヤの r−1 最初の選択が {X3 , X6 } のどちらかとなることである. 3. Newton の不等式 正整数 m, N は 1 ≤ m ≤ N を満たすとしたとき, 任意の N -次元ベクトル r = (r1 , r2 , . . . , rN ) ∈ RN に 対して,m 次基本対称多項式 (関数)em (r) を em (r) = B ⊆ {1, 2, . . . , N } (1) e ( r) r−1 ) + e ( r−1 ) r −1 ) r1 e−1 ( e ( = ≥ .■ em ( r) r1 em−1 ( r−1 ) + em ( r−1 ) em ( r−1 ) て議論する. i∈B 4. 最適停止戦略 と 定 義す る .上 記 の 定 義 に お い て ,関 数 の 項 数 は m 補題 1 を正ベクトル r−1 に 適 用 す る と e−1 ( r−1 ) r−1 ) e ( が得られ,以下が導かれる: ≥ em−1 ( r−1 ) em ( r−1 ) 略 証. 上記の補題を用いて,次節では最適停止戦略につい ri , and |B| = m N e ( r) r−1 ) e ( が成り立つ.ただし ≥ em ( r) em ( r−1 ) = ( r2 , . . . , rN ) と定義する. 個となっていることに注意されたい.特に e0 (r) = 1 と定める.次に m 次基本対称平均を em (r) (∀m ∈ {1, 2, . . . , N }) Sm (r) = N m 本節では,オッズの部分ベクトル (ri , ri+1 , . . . , rN ) を r [i] と記し,確率 Pr[k ≤ Xi + · · · + XN ≤ ] を P[i] と記す,このとき明らかに em (r[i] ) P[i] = qi qi+1 · · · qN em (r[i] ) = m=k N (1 + rj ) j=i m=k が成り立っている.ここで,添え字 i∗ を と定義する.さらに S0 (r) = 1 とする.混乱の恐れが ないときは Sm (r) を Sm と略記する.Newton は以下 e (r[i+1] ) def. i∗ = min i 1 ≤ i ≤ N − , 1 > (2) ek−1 (r [i+1] ) の不等式を示した. と定義し,閾値と呼ぶ.ただし,上記の min が空集合 定理 1. (Newton’s inequalities [5]) 任意の非負ベク 2015 年 3 月号 def. に対するものであった際は i∗ = N − + 1 とする. c by ORSJ. Unauthorized reproduction of this article is prohibited. (11)133 Copyright 表 1 既存の結果および,本稿で示す結果 モデル 条件 Bruss [1] =k=1 B&P(†) [4] =k≥1 Tamaki [3] ≥k=1 本稿 ≥k≥1 下界 閾値の定義式 () ri +ri+1 +···+rN e−1 [2] (!)e m 1 (!) exp −(!) m! m=1 [7] [6] (‡ を参照) [7] 1 [1] e1 (r ) < 1 = e 0 (r ) e (r) <1 e−1 (r) [4] e (r) <1 e0 (r) e (r) <1 ek−1 (r) [3] [7] † Bruss and Paindaveine. 1 m −k+1 −k+1 ! ! 1 ‡ exp − . m=k m! (k − 1)! (k − 1)! 最適戦略は,閾値の定義式を満たす最小の i を用いた閾値戦略で得られる,ただしここで r = (ri , ri+1 , . . . , rN ) である. 確率変数を選択する戦略は,最適停止戦略である.ま このとき,以下の性質が成り立つ. 補題 3. P[1] ≤ P[2] ≤ · · · ≤ P[i∗ −1] ≤ P[i∗ ] > P[i∗ +1] > · · · > P[N −+1] . この定理の証明は,紙面の都合で省略する. 略証.閾値 i∗ の定義と補題 2 より 5. 勝利確率の下界 e (r ) e (r ) e (r ) ≥ ≥ ··· ≥ ≥1 ek−1 (r [1] ) ek−1 (r[2] ) ek−1 (r[i∗ ] ) [1] かつ 1 > たこのときの勝利確率は P[i∗ ] である. [i∗ ] [2] e (r[N −+1] ) e (r[i∗ +1] ) ≥ · · · ≥ . ek−1 (r[i∗ +1] ) ek−1 (r[N −+1] ) 本節では,定理 2 で得られた最適停止規則を用いた 際の勝利確率の下界について議論する. Newton の不等式より,以下の補題が導かれる. 任意の正ベクトル r = ( r1 , r2 , . . . , rN ) > 0 補題 4. が直ちに得られ, ek−1 (r[i+1] ) − e (r[i+1] ) に対し,以下が成り立つ: ≤ 0 (0 ≤ ∀i ≤ i∗ − 1), > 0 (i∗ ≤ ∀i ≤ N − ). が導かれる.これより,∀i ∈ {1, 2, . . . , N − } にお いて Sk−1 ( r )−m ≥ Sm ( r)−k+1 S ( r)k−1−m , ∀m ∈ {0, 1, 2, . . . , k − 1}, Sm ( r) −k+1 ≥ Sk−1 ( r) −m S ( r) m−k+1 , ∀m ∈ {k, k + 1, . . . , }, P[i] − P[i+1] = S ( r) em (r[i] ) − P[i+1] (1 + ri ) · · · (1 + rN ) ri ek−1 (r [i+1] ) − e (r[i+1] ) = m=k Sm ( r) −k+1 (4) , 略証. 数列 (log(S0 ), . . . , log(SN )) の凹性が Newton の不等式より導かれ,これより ≤ 0 (0 ≤ i ≤ i∗ − 1), log(Sk−1 ) ≥ > 0 (i∗ ≤ i ≤ N − ), ■ 確率の列 (P[1] , P[2] , . . . , P[N −+1] ) の単峰性が上記 log(Sm ) ≥ の補題で示されたが,これより,閾値 i∗ を用いた閾値 戦略が最適停止戦略となることは,直観的に理解でき るだろう. 定理 2. 閾値 i∗ に対し,Xi∗ 以降で最初に成功となる c by 134(12)Copyright ≥ Sk−1 ( r) m− ∀m ∈ { + 1, + 2, . . . , N }. (5) (1 + ri ) · · · (1 + rN ) が成り立つ. m−k+1 (3) log(S ) ≥ ( − k + 1) log(Sm ) + (k − 1 − m) log(S ) , −m ∀m ∈ {0, 1, . . . , k − 1}, ( − m) log(Sk−1 ) + (m − k + 1) log(S ) , −k+1 ∀m ∈ {k, k + 1, . . . , }, (m − ) log(Sk−1 ) + ( − k + 1) log(Sm ) , m−k+1 ∀m ∈ { + 1, + 2, . . . , N }, が得られ,直ちに不等式 (3),(4) と (5) が導かれる.■ ORSJ. Unauthorized reproduction of this article is prohibited. オペレーションズ・リサーチ 定理 3. 確率変数列 X1 , X2 , . . . , XN 上に定義された と定義する.これは変数 {r2 , r3 , . . . , rN } を固定して オッズ問題において,選択回数が(高々)1 回であり, 得られる関数である.解 r の仮定と性質 (8) より 選択された変数が最後から m 番目の成功としたとき, f (r1 )=ek−1 (r ) − e (r ) < 0 m が k ≤ m ≤ を満たすならば勝利とする.さらに e (r¯ ) (1) ri > 0 (∀i), (2) 1 ≤ k ≤ < N , (3) 1 > e (r¯ ) k−1 ¯ = (rN −+1, rN −+2 , . . . , rN ) ∈ R かつ ただし r e (r ) (4) e (r ) ≥ 1 が成り立つと仮定する.このとき, k−1 いて [∃r ∈ (0, r1 ), f (r ) = 0] が得られる.このとき 最適停止規則を用いた際の勝利確率は ) は問題 P1 の許容解であ 明らかに (r , r2 , r3 , . . . , rN m=k N θ m (1 + θ) ⎛ m ⎞ 1 −k+1 が成り立ち,関数 f (r) の連続性と中間値の定理を用 る.解 r に対応する目的関数値 VN の値は em (r −1 ) + r1 em−1 (r −1 ) ⎜ k−1 ⎟ ⎟ θ=⎜ ⎝ N ⎠ ただし N N <ek−1 (r −1 ) − e (r −1 ) = f (0) VN = m=k (1 + r1 )(1 + r2 ) · · · (1 + rN ) 以上である. 略証. (−1) 最適停止規則として (2) で定義された閾値を 用いた閾値戦略を採用するならば,確率変数の部分列 X1 , X2 , . . . , Xi∗ −1 を元の問題から消去しても,勝利 確率は変わらない.すなわち ek−1 (r1 , r2 , . . . , rN ) − e (r1 , r2 , . . . , rN ) ≤ 0 (7) が成り立つ場合のみ議論すればよい.仮定 (6) と (7), の下では,閾値 i∗ = 1 とした閾値戦略が最適停止戦略 であり,その際の勝利確率は s. t. 0 < ri ば,より小さな目的関数値を持つ解 r が存在して ek−1 (r ) − e (r ) = 0 を満たす. ベクトル r ∗ を問題 P1 の許容解で ek−1 (r ∗ ) − def. em (r) (1 + r1 )(1 + r2 ) · · · (1 + rN ) (∀i ∈ {1, 2, . . . , N }), m=k Sk−1 1 −k+1 k−1 S def. および θ = S Sk−1 1 −k+1 N e ( r ∗ ) ⎜ k−1 θ=⎜ ⎝ N ek−1 (r ∗ ) 1 ⎞ −k+1 ⎟ ⎟ ⎠ ⎛ N ⎞ ek−1 (r−1 ) − e (r−1 ) > 0, (8) が成り立つ. (9) (i) 不等式 (3) より,∀m ∈ {0, 1, 2, . . . , k − 1}, の最適値である,ただし上記において r −1 = (r2 , ∗ em (r )= 約式 (9) を等式で満たすものが存在することを示す. 問題 P1 の許容解 r は,ek−1 (r ) − e (r ) < 0 を満 = で満たす許容解で,目的関数値がさらに小さなものが = 1 あることを示そう.一変数関数 f (r) : [0, r ] → R を N m N m Sm ≤ m たしていると仮定する.このとき,制約式 (9) を等式 N 1 −k+1 ⎜ k−1 ⎟ ⎟ =⎜ ⎝ N ⎠ ek−1 (r) − e (r) ≤ 0, r3 , . . . , rN ) とする.上記の問題の最適解として,制 k−1 k−1 S S N m Sm · m Sk−1 −m Sk−1 Sk−1−m 1 −k+1 1 −k+1 α θm 導入し が成り立つ. f (r) = ek−1 (r, r2 , r3 , . . . , rN ) − e (r, r2 , r3 , . . . , rN ) 2015 年 3 月号 と 定義する.このとき等式 ek−1 (r ∗ ) − e (r ∗ ) = 0 より, ⎛ def. 許容解 r が ek−1 (r ) − e (r ) < 0 を満たすなら α = 率の下限は,以下の最適化問題 min. VN = 数値は r の目的関数値より小さい.ゆえに,P1 の の下界または上界について議論する.簡単のために em (r) (1 + r1 )(1 + r2 ) · · · (1 + rN ) m=k となる.ゆえに,最適停止戦略を用いたときの勝利確 P1 となる.性質 (8) ek−1 (r −1 ) − e (r −1 ) > 0 と e (r∗ ) = 0 を満たすものとする.以下では em (r∗ ) def. (1 + r2 ) · · · (1 + rN ) r ∈ (0, r1 ) より,解 (r , r2 , r3 , . . . , rN ) の目的関 ek−1 (r2 , r3 , . . . , rN ) − e (r2 , r3 , . . . , rN ) > 0 (6) VN = = ek−1 (r −1 ) − e (r −1 ) + em−1 (r −1 ) 1 + r1 m=k (ii) 不等式 (4) より,∀m ∈ {k, k + 1, . . . , }, c by ORSJ. Unauthorized reproduction of this article is prohibited. (13)135 Copyright em (r∗ )= Sm ≥ N m = = N m N m Sk−1 Sm · m k−1 Sk−1 S −m m−k+1 1 −k+1 Sk−1 S 略証. 明らかに,不等式 1 −k+1 m=k m θm m (1 + θ)N = exp − α θm N N (iii) 不等式 (5) より,∀m ∈ { + 1, + 2, . . . , N }, N m N = m N = m Sm ≤ S S k−1 k−1 N m · α θm m m k−1 S S Sm−k+1 m− Sk−1 1 −k+1 N θm m m=k ∗ N N ∗ e (r∗ ) (1 + r1∗ )(1 + r2∗ ) · · · (1 + rN 1 ) m=0 m = = ∗ ∗ VN e (r ) e (r∗ ) m=k m m=k m k−1 N e (r∗ ) em (r∗ ) e (r∗ ) m=+1 m m=k m = m=0 + + e (r∗ ) e (r∗ ) em (r∗ ) m=k m m=k m m=k N k−1 N N α θm α θm m=0 m=+1 m m + 1+ ≤ N N m α θ α θm m=k m=k m m N α N θm m=0 m (1 + θ)N = = N N α m=k θm θm m=k ≥ m=k N m m θm (1 + θ)N θm = N m ⎞ N m −k+1 ⎜ k−1 ⎟ ⎜ ⎟ ⎝ ⎠ N m −k+1 N! !(N − )! (N − m)!m! (k − 1)!(N − k + 1)! m −k+1 1− N0 · · · 1− m−1 ! 1 N = m m! (k − 1)! 1− k−1 · · · 1− −1 −k+1 以下を満たすことが示される. N ⎛ 上記を用いると,解 r に対応する目的関数値 V が すなわち V m=k 1 θm m θ N N = ∗ m m 1 −k+1 が成り立つ. ∗ N が成り立つ.これより ∀m ∈ {0, 1, . . . , N } において, が成り立つ. em (r∗ )= ≥ e−N θ 1 → m! ! (k − 1)! m −k+1 N , N as N → ∞ が成り立つ.上記より m=k N θm m lim (1 + θ)N N ≥ lim exp − θ N →∞ N →∞ ⎛ = exp⎝− 1 ! (k − 1)! 1 ⎞ ⎠ m=k N θm m m=k 1 m! ! (k − 1)! m が得られる,ただし = − k + 1 である. ■ 6. おわりに 本稿では,オッズ問題(の変種)について扱った.本 である. 稿で扱った問題は Bruss の問題 [1],Bruss and Pain- 上記の値が問題 P1 の最適値となっていることは,解 daveine の問題 [4] さらに Tamaki の問題 [3] を特殊 r1 = r2 = · · · = rN = θ が P1 の許容解であり,上記 ケースとして含む一般的な問題である.本稿で得られ の値を達成することで示される(詳細略). た勝利確率の下界は,それぞれのケースにおける以下 ■ 最後に N → ∞ として得られる漸近的な下界を示す. 系 1. 定理 3 の仮定の下では, の結果に対応している: (1) e−1( = k = 1 の場合).これは古典的秘書問題 の下界と一致している.この結果は [2] において 1 −k+1 ! exp − (k − 1)! m −k+1 1 ! × m! (k − 1)! m=k は勝利確率の下界となる. c by 136(14)Copyright 既に得られている. (2) ( = k ≥ 1 の場合).これは Bruss and (!)e Paindaveine の問題 [4] において,成功確率を古 典的秘書問題の設定とした際の勝利確率と一致し ている. ORSJ. Unauthorized reproduction of this article is prohibited. オペレーションズ・リサーチ m (!) (3) exp −(!) ( ≥ k = 1 の場合). m! m=1 これは Tamaki の問題 [3] において,成功確率を 1 古典的秘書問題の設定とした際の勝利確率と一致 している.この結果は [6] ですでに得られている. 本稿では紙面の都合で多くの証明を概略のみに留め ている.詳細について興味を持っていただけた際は [7] をご覧いただければ幸いである. が得られる.最後の不等式は,{1/r1 , 1/r2 , . . . , 1/rN } の分散の非負性から導かれる. ■ 次に一般の場合について,それが上記のケースに帰 着されることを示す. 補題 6. 任意の N 次元ベクトル r = (r1 , r2 , . . . , rN ) に対し,(N − 1) 次元ベクトル s = (s1 , s2 , . . . , sN −1 ) が存在して,S1 (r) = S1 (s), S2 (r) = S2 (s), . . . , SN −1 (r) = SN −1 (s) が成り立つ. 参考文献 略証. [1] F. T. Bruss, “Sum the odds to one and stop,” Annals of Probability, 28, 1384–1391, 2000. [2] F. T. Bruss, “A note on bounds for the odds theorem of optimal stopping,” Annals of Probability, 31, 1859–1861, 2003. [3] M. Tamaki, “Sum the multiplicative odds to one and stop,” Journal of Applied Probability, 47, 761– 777, 2010. [4] F. T. Bruss and D. Paindaveine, “Selecting a sequence of last successes in independent trials,” Journal of Applied Probability, 37, 389–399, 2000. [5] I. Newton, Arithmetica universalis: Sive de compositione et resolutione arithmetica liber, Tooke, 1707. [6] T. Matsui and K. Ano, “A note on a lower bound for the multiplicative odds theorem of optimal stopping,” Journal of Applied Probability, 51, 885–889, 2014. [7] T. Matsui and K. Ano, “Compare the ratio of symmetric polynomials of odds to one and stop,” Discussion Paper, 2014-05, Department of Social Engineering, Tokyo Institute of Technology, 2014. 変数 x を持つ一変数多項式 g(x) = (x + r1 )(x + r2 ) · · · (x + rN ) を導入する.明らかに g(x) = e0 (r)xN + e1 (r)xN −1 + · · · + eN −1 (r)x + eN (r)x0 が成り立ち,その導関数は g (x) = N e0 (r)xN −1 + (N − 1)e1 (r)xN −2 + · · · + eN −1 (r) となる.N 次多項式 g(x) が N 個の実根を持つことよ り,導関数 g (x) は重根度を含めて N − 1 個の実根を 持つので,これを以下では (−s1 , −s2 , . . . , −sN −1 ) と 書く.すると明らかに g (x)=N (x + s1 )(x + s2 ) · · · (x + sN −1 ) =N e0 (s)xN −1 + N e1 (s)xN −2 補遺 + · · · + N eN −1 (s) 以下では r の要素がすべて正の場合について,New- が成り立つ.ゆえに,g (x) の各項を比べると ton の不等式の証明の概略を記す.最初に特別な場合 (N − k)ek (r) = N ek (s) (0 ≤ ∀k ≤ N − 1) について示そう. 補題 5. 任意の N 次元正ベクトル r > 0 において SN −1 (r)2 ≥ SN −2 (r)SN (r) が成り立つ. 略証. が得られる.これを用いると ek (r) = Sk (r)= N 簡単な変形により, k SN −1 (r) − SN −2 (r)SN (r) ⎛ ⎞2 eN −2 (r) eN (r) eN −1 (r ) − = ⎝ ⎠ N N N 2 N −1 N −2 N (eN (r))2 N − 1 eN −1 (r) 2 2 eN −2 (r) = − N −1 N2 eN (r) N eN (r) N 2 (eN (r))2 N − 1 1 2 1 = − N −1 N2 ri N i<j ri rj i=1 N 1 2 N 1 2 ( ) ( ) (eN (r))2 i=1 ri i=1 ri − = ≥0 N −1 N N 2015 年 3 月号 e (s) N k N −k N = k ek (s) N −1 = Sk (s) k が成り立つ. ■ 最後に Newton の不等式の証明の概要を記す.任 意の整数 1 < ∀m < N において,Sm (r)2 ≥ Sm−1 (r)Sm+1 (r) が成り立つことを示すには,補題 6 をベクトル r に繰り返し適用し,ベクトルの次元が m + 1 次元になった所で補題 5 を適用すればよい.詳 細については紙面の都合上省略する. c by ORSJ. Unauthorized reproduction of this article is prohibited. (15)137 Copyright
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