米国農務省「2024年までの穀物等中期需給見通し」について

【米国農務省「2024年までの穀物等中期需給見通し」について】
図-1 世界における穀物等の貿易量予測
米国農務省は、世界における穀物等の貿易量、米国における農畜産物の需給状況等
の中期予測を毎年発表している。本年も2月11日、「2024年までの穀物等の中期需給見
通し(USDA Agricultural Projections to 2024)」が公表されたので、その中から貿
易の見通しについて概要を紹介する。
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世界の穀物等貿易の見通し -
世界の大豆及び大豆製品の貿易は1990年代初頭から急速に増加し、小麦や粗粒穀物(と
うもろこし、大麦、ソルガム、ライ麦、オート麦、キビ、および混合粒)のいずれの貿
易量も超えている。特に中国や他のアジア諸国における植物油やタンパク質食品の需要
増加により、今後もこの傾向は続くと見込まれる。穀物等の作付面積は、ロシア、ウク
ライナ、ブラジル、アルゼンチン等、潜在的な耕作可能地や、価格変動に対応した農業
者向けの政策を有する国においてより拡大が進むと見られる。一方、単収の伸びは緩や
かであり、それによる市場への影響は部分的には人口成長率の鈍化で相殺されるが、そ
れでも人口の増加が農産物需要拡大の主要な要因である。また、世界の消費量は今後10
年で、肉類、粗粒穀物が15%、小麦、米が8%増加するのに対し、油糧種子は21%増加
すると見られる。他方、一人当たりの消費量では、小麦、米ともにわずかに減少すると
見られる。
(1)とうもろこし(粗粒穀物)
粗粒穀物の貿易量は今後10年間で15%拡大すると見込まれるが、中でもとうもろこし
の増加が顕著であり、飼料用需要が拡大している中国やメキシコ、中東地域等が主要な
成長市場である。中国のとうもろこし需要の増加は、産業用用途の拡大と同様、畜産・
酪農部門の構造的な変化と拡大によるものであるが、現在は国内供給が潤沢なため今後
数年の輸入量は限定的となる見込み。アフリカ及び中東では、人口や所得の増加により
畜産生産品への需要が高まるものの、土地や水の制約により国内供給が限定的となるた
め、粗粒穀物の輸入量は今後10年間で約25%の増加が見込まれる。メキシコはとうもろ
こしの輸入量が15百万トンに拡大し、輸入量世界第1位の日本に追いつくと見られる。
東南アジアやオセアニア地域では、家畜生産者の需要拡大や近代的な給餌への変化に対
応するため、とうもろこしの輸入量が今後10年間で42%増加すると見られる。
輸出国では、米国は2012年の干ばつ等により失ったとうもろこしの輸出量シェアを今
後10年間で45%まで回復するものの、2001/02~2010/11年度の平均59%には及ばない見
込みである。ウクライナをはじめとする旧ソ連地域では、恵まれた土地資源、経済開放、
ハイブリッド種子の普及や農業への投資によりとうもろこしの生産を刺激し、輸出量は
今後10年で21%拡大すると見込まれる。ブラジルでは、大豆に次ぐ生産量のとうもろこ
しは主に新規開拓された地域で生産され、輸送コストの問題から暫くは増加が抑えられ
るが、輸出インフラの改善や国際価格の上昇により輸出は拡大し、今後10年間で輸出量
は21%増加する見込みである。
(2)小 麦
小麦粉を含む小麦の貿易量は今後10年で16%拡大し、2024/25年度には180百万トンに
達すると見込まれる。輸入量増加の大半は人口や所得が増加するアフリカ諸国やエジプ
ト、中東地域、インドネシア、パキスタン等の発展途上国に集中している。それらの国
では、一人当たりの消費量はさほど変わらないものの、人口増加と国内の生産力不足が
原因となっている。また、インドネシアやベトナム等のアジア諸国では、所得の上昇や
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図-2 世界における粗粒穀物の輸入量予測
図-3 世界におけるとうもろこしの輸出量予測
人口増加によりインスタント麺、ベーカリー製品の需要が増加し、中国では高所得者層
向けのパン等に使われる高品質小麦の需要が高まっている。
従来の5大輸出国(米国、豪州、EU、アルゼンチン、カナダ)の輸出シェアは、過
去10年の約70%と比較して、今後10年で62%まで低下すると見られる。シェア低下の主
な要因は旧ソ連諸国からの輸出の増加によるものである。ロシア、ウクライナ、カザフ
スタンは2010年、2012年の干ばつから回復し、2024/25年度には49百万トンを輸出できる
見込みで、今後10年の世界の輸出量増加のうち半分近くは旧ソ連諸国の増加が占めると
見られる。カナダではより収益性の高いなたねに移行し、小麦の作付面積はわずかでは
あるが減少する見込みである。
(3)米
米の貿易量は、発展途上国の人口増加や収入の増加により今後10年は年率で1.8%ずつ
拡大し、過去10年の平均に比較して41%増加する見込みである。特にアフリカや中東諸
国では、気候やインフラの不備等により生産拡大には制約があり、今後10年の世界の輸
入量増加のうち3/4は同地域の増加が占めると見込まれる。中国は今後も最大の米輸入国
となるが、輸入量はわずかずつ減少する見込みである。インドネシアやフィリピン、イ
ランも中国に次いで輸入量が多いが、これらの国では今後10年も生産量が消費量の伸び
を賄えないと見込まれる。
タイとベトナムはともに米の大輸出国であり、両国で世界輸出量の45%を占め、今後
10年の世界の輸出増加量のうち60%を両国の増加が占めると見込まれる。一方、インド
は現在世界第2位の輸出国であるが、政府の政策や在庫の変動により輸出量は不安定で、
数年後には順位を下げベトナムに次ぐ第3位となると見込まれる。パキスタンは年間3~
4百万トンを輸出しているが、第4位の輸出国の座を維持する見込みである。米国は、輸
出量第5位であるが、今後10年の輸出量の伸び率は年率1.0%と緩やかな増加に留まる見
込みである。
(4)大 豆
大豆の貿易量は今後10年で33百万トン(28%)増加し、150百万トンに達する見込みで、
増加の大半は中国の輸入によるものである。中国の大豆輸入量は1990年代後半から急激
に伸び、世界の貿易量の約64%を占め、現在の76.7百万トンから2024/25年度には107.7
百万トンに拡大する見込みである。これは中国の穀物生産拡大政策が続き、大豆の国内
生産不足分は輸入で補うという方針が変わらないという前提での見込みである。
3大輸出国(米国、ブラジル、アルゼンチン)は、今後10年で世界の輸出量の約88%を
占めるようになると見込まれる。中でも、ブラジルでは他作物に比べて大豆の収益性が
高く、今後10年で輸出量を46%拡大して69百万トンとし、大豆の最大輸出国としての地
位を確立する見込みである。アルゼンチンは大豆の輸出税が高いため、圧搾して大豆油
としての製品輸出が中心であるが、中国の搾油用大豆需要に合わせ、大豆として輸出を
増やしていく見込みである。その他の南米の輸出国であるウルグアイ、パラグアイ、ボ
リビアでも作付面積の拡大が見込まれており、輸出量も52%拡大する見込みである。ウ
クライナは、輸出量は今のところ少なく、予測期間の当初は生産量が減少するものの最
終的には増加に転じ、輸出量も過去10年の平均に比べ約73%増加し、2.3百万トンに達す
ると見込まれる
資料:米国農務省「USDA Agricultural Projections to 2024」(2015.2)をもとに、農林水産省にて加工
注:旧ソ連諸国とは、ロシア、ベラルーシ、ウクライナ、カザフスタン、モルドバ、キルギスタン、アゼルバイジャン、
グルジア、ウズベキスタン、トルクメニスタン、アルメニア及びタジキスタンの12カ国。
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図-4 世界における小麦の輸出量予測
図-5 世界における米の輸出量予測
図-6 世界における大豆の輸出量予測