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No.
[企画]みんなの体育編集委員会
体育のこれまでとこれから
早稲田大学スポーツ科学学術院教授 友添 秀則
体育科と ICT の関係をもう一度見直してみよう
徳島県三好市立下名小学校教頭 中川 斉史
シリーズ 27
ダブルダッチの学習指導について考える
信州大学教育学部准教授 渡辺 敏明
体育のこれまでとこれから
ー学習指導要領の改訂を前にしてー
早稲田大学スポーツ科学学術院教授 友添 秀則
さて,周知のように,要領は国の教育課程の基準とし
て,社会の変化に応じてほぼ 10 年のサイクルで改訂さ
れてきました。現行の要領は,平成 20 ~ 21 年に改訂
され,小学校は平成 23 年度,中学校は 24 年度,高校
は 25 年度(年次進行)から実施され,ようやく定着し
てきたところです。それにも関わらず,今までにない速
さで新たな改訂へ向けて再び動き出すことになります。
1
学習指導要領が変わる
昨年 11 月に文部科学大臣から中央教育審議会(以下,
2
体育の学習指導要領の特徴
新しい要領の改訂を前にして,現行の要領の特徴を確
中 教 審 と い う)に「初等中等教育における教育課程
認しておきたいと思います。現行の要領の基本的な骨格
の基準等の在り方について」が諮問されました。これ
は先述した「健やか部会」での議論が少なからず影響し
を契機に,再び,学習指導要領(以下,要領という)
ています。例えば,図1は要領に示された運動領域の
「技
の改訂作業が始まります。
能」
「態度」
「知識,思考・判断」の内容構成の元となった
文部科学大臣が中教審に諮問すると,中教審の教育
課程部会での議論が始まります。現行の要領でいえば,
教育課程部会の中に「健やかな体を育む教育の在り方
に関する専門部会」が立ち上がり,そこでの審議の結
果が現在の体育の要領に大きく影響しました。これか
B. クルムの体育授業の構造を模式的に示したものです。
図1 体育授業の構造
運動における問題の解決
運動技術(戦術)の学習
(できる,うまくなる)
社会的行動の学習
(かかわる,守る)
ら,他教科でもそれぞれの専門部会等で新しい教育課
程の在り方が議論され,審議のまとめが中教審で公表
されます。そして,パブリックコメント等の意見を参
照後,中教審から答申として出されます。要領は中教
審の答申に依拠しながら改訂案が作成・公表され,そ
の後修正を経て,文部科学大臣から告示される運びと
認識的・反省的学習(認知的学習)
〈知識,思考・判断〉
(わかる,考える,工夫する)
情意的学習(楽しさにかかわる学習)
(楽しむ,好きになる,実践する)
なります。新要領の実施は小学校が平成 30 年度,中学
校は 31 年度,高校は 32 年度が予定されています。
現行の要領が実施されて以降,体育の指導内容をよ
この構造の大枠は「健やか部会」でも議論され,楽
しさを「方向目標」として位置づけ,
「できる,かかわる,
り定着させるために,小学校に体育の教科書をとの声
わかる」の学習の結果として楽しさをすべての子ども
が多く聞かれるようになりました。また,子どもの体
に保障しようとしたものです。そのためには,
「できる,
力が低下している現実を前にして,小学校に体育専科
かかわる,わかる」の学習が成功裏になされることが
教員の配置が必要であるといわれるようにもなりまし
重要です。また,指導内容や系統性を明確にするために,
た。これらの声や意見が教育課程部会や専門部会で取
「基本の運動」を廃止し,さらに子どもの運動発達の段
り上げられ,中教審の答申に反映されることが,実現
階を考慮して,小学校から高校までの指導内容を 4 年
への第一歩といえるかもしれません。
ごとにくくった 4・4・4 制が導入されました。
社会問題となった体力の低下は,
「体つくり運動」の
と,アメリカでは「21 世紀型スキル」,OECD(経済協
小学校1年生からの導入に繋がり,中・高校では最低必
力開発機構)のプロジェクトではキー・コンピテンシー
修時間が示されました。さらに,小中高を通じて体つく
という概念が出されています。EU はもちろん,イギリ
り運動以外の領域においては,学習した結果として一層
ス,オーストラリア,韓国などの国も新たな能力概念
の体力の向上が図れるようにすることが示されました。
を創り出しています。日本では,これらの先進諸国の
体力の低下問題は,小・中学校では主要教科以外で唯一,
動向に注意を払いながら,国立教育政策研究所から「21
体育だけが授業時間の増加を可能にしました。そして,
世紀型能力」という新たな能力概念が提案されていま
こういった要領の特徴を簡潔にまとめれば,体育的学力
す。
(技能・体力,態度,知識,思考・判断)をしっかり保
障していこうとする立場に立ったものといえます。
3
図2 国立教育政策研究所の 21 世紀型能力
21 世紀型能力
体育授業の課題
次に,現行要領の下での具体的な実践課題について,
小学校に焦点を当てて見ておきましょう。 体つくり運動ではスモールステップの学習課題や集団
実践力
・自律的活動力
・人間関係形成力
・社会参画力
・持続可能な未来づくりへの責任
化・ゲーム化された学習課題,組み合わされセット化さ
思考力
・問題解決・発見力・創造力
・論理的・批判的思考力
・メタ認知・適応的学習力
れた学習課題など,多様な実践が見られました。ただし,
体育の授業外や日常生活に取り入れての活動への発展に
は少し課題を残したように思います。器械運動では感覚
基礎力
づくり教材が重視されたり,基礎学習・基本学習・発展
・言語スキル
・数量スキル
・情報スキル
学習を取り入れた技の確実な習得を保障する学習過程が
見られるようになりました。ただし,自ら意欲を持って
(国立教育政策研究所,2013)
取り組む発展技への挑戦がなかなか授業ではスムーズに
いかない現実も見られるように思います。ボール運動で
「21 世紀型能力」論は平成 21 年度から 5 か年計画
は,種目主義からの脱却がなされ,ボール操作やボール
で行われてきた研究の成果で,図2に示すものです。
を持たない動き方が指導内容として位置づきました。し
DeSeCo のキー・コンピテンシーや欧米の資質・能力概
かし,これらの学習を可能にする新たな教材や課題ゲー
念と基本的には同じ構造を持つものでもあります。
ムの開発が十分に行われていないようにも思います。
体育は指導内容が 2 学年ユニットとして示されました
これらの能力概念は,名前は違っても,複雑で正解
の見当たらない 21 世紀で,「何かを知っている」だけ
ので,大きな単元設定を組む必要がありますが,これは
ではなく,それを活用して「何ができるようになるか」
何よりも教師の力量が問われることにもなります。と同
という,汎用的で応用が効く教科横断的な能力が求め
時に,よりよい体育授業を実現していくためには,子ど
られるという点で一致しています。
もたち自身に自らの力で学習を組み立て,より一層体育
21 世紀のこれからの時代には,知識を単に身に付
への学びを広げたり発展させたりする応用的・実践的能
けているだけではなく,知識を活用しながら,正解の
力を保障することが必要になってくるように思います。
ない問題や課題に対しても,解決策を見つけ出すこと
4
学習指導要領改訂とこれからの体育
が大切になってきます。体育でいえば,
「基礎力」(運
動やスポーツに関する知識,運動の基礎的・基本的技
先述したように今,日本では新しい要領に向けて改訂
能)を基にしながら「思考力」(自ら考える力)を使っ
作業が始まろうとしています。欧米をはじめとする先進
て,体育の授業で学んだことを価値づけしたり,地域
諸国でも,2000 年を前後して新しい教育の在り方への
や日常の生活へつなげたり,発展させたりする「実践
模索が始まっています。具体的には,地球規模で情報や
力」が必要になってくるでしょう。これまでの運動学
モノ,カネ,人々が動き,次の世代を担う子どもたちが
習を基本とする体育授業は変わらなくても,これから
急減することで産業構造の変化が予測される中,これか
は,私たち教師が設定する授業のねらいや学習の展開
らの教育の在り方を真剣に考えています。換言すれば,
は大きく変わる可能性があります。
21 世紀を生き抜くために必要な資質や能力を確定し,
今,教育や体育は大きな変動期を迎えています。体
そこからどのような教育が求められるのかを明らかにし
育は 21 世紀に生きる子どもたちにどのような能力や資
ようとしてきました。
質を育成できるか,真剣に議論と実践を重ねる必要が
先進諸国で設定された新しい能力の概念を挙げてみる
ありそうです。
体育科と ICT の関係をもう一度見直してみよう
徳島県三好市立下名小学校教頭 中川 斉史
1
はじめに
は垂直になっているが,天井まで上昇させ収納する
と水平になるため,カメラの取り付け角度には試行
近年タブレットなどの整備が進み,あまり大がか
錯誤が必要である。その調整のたびごとに,ゴール
りに準備することなく,体育の授業で ICT を使う
を上下するので,手動の場合はかなり大変である。
環境が身近になってきている。総務省フューチャー
次 に,USB カ メ ラ を つ な ぐ 長 い 延 長 ケ ー ブ ル
スクール推進事業や文部科学省の学びのイノベー
が 必 要 と な る。 た だ し,
ション事業などをはじめとする,近年の ICT 活用
USB は,あまり長くなる
実践の報告でも,体育科での ICT 活用の事例が見
とデータの転送ができな
られるようになってきた。
くなるため,この延長ケー
筆者は,これらの事業に関わった経験から,前任
校である徳島県東みよし町立足代小学校のいくつか
ブルは,延長専用の高品
位なものが必要である。
の実践例と,それらを支える環境について紹介した
いと思う。
2
実践例
1.バスケットボール型ゲーム
ボールを使った多くのゲームでは,チームメンバー
(2)簡単に動画を撮影し,子どもでもすぐに再生
動画は,延々と撮影するわけではなく,確認の試
合のときだけ撮影することが望ましい。時間にして
約 3 分間が1セットだろう。決められた短い時間だ
け撮影でき,さらに再生は撮影時間より短いほうが,
一人一人が,全体の位置関係を見ながら各自の動き
無駄な時間が省ける。
方を確認することが大切である。コート全体が写る
そこで,Sky Watching
ように動画を撮り,それをすぐにチームで確認して
Eye というアプリ(写
作戦を立てるという実践がこれまで多く見られた。
真2)を使い,3分間
しかしこの場合は,動画を撮影する“誰か”が必
の自動撮影と,レート
要であり,例えばコート全体を上から撮影するため
(撮影間隔)を落とし
に一部児童がギャラリーへ移動しないといけないな
た早送り再生を行った。
ど,役割分担や時間のロスなど,多くの課題があっ
2.跳び箱運動
た。そこでこれらを解決して実践するために次のよ
うな工夫をした。
(1)真上からコートの様子を撮影する
写真1 バスケットボール
ゴールへの固定
写真2 Sky Watching Eye に
よる撮影と再生
跳び箱運動では,手を着く位置や腰の高さなどを
いかにして自覚させるかということでさまざまな実
践がある。デジタルカメラが登場した関係で,試技
体育館の天井はとても高い。そのため,物理的に
を撮影し客観的にそれらに気づかせる実践は,すで
カメラを取り付けることはまず不可能である。だか
に数多く報告されている。ただ,そこで課題となる
らといって,釣りざおのように長く棒を伸ばしても,
のが,速い動きをデジタルカメラやタブレットで撮
しなるだけでカメラは安定しない。試行錯誤の末,
るとほとんどがブレてしまい,肝心の部分がわかり
たどり着いたのが,昇降式のバスケットボールゴー
にくいということである。無理に使って,結局よく
ルへのカメラ固定である。写真1のように,USB
わからないという残念な授業も見受けられる。
カメラをバスケットボールゴールに取り付けるとき
そこでそれらを解決するためには,高速で連写で
は,下まで下げる。この場合,脚立で十分届く高さ
きる特別なカメラが必要である。特別なカメラと
となるため,取り付けは容易である。
いっても,高速撮影をうたったデジタルカメラのこ
ただ,ゴールのバックボードは下ろしているとき
とである。
撮影にこれらのカメラを使うと,決定的瞬間もブ
方法なども考える必要があり,かといって奥深くし
レることなく,きれいに撮影できる。これらの写真
まってしまえば,今度は取り出すのが面倒となる。
を左右に並べて比較するだけでも十分だが,せっか
そこで,体育館で常にこれら大型提示装置を利用
く ICT を利用するのだから,2枚の写真を重ねて,
できるようにするためには,写真5のようなステー
例えば手の着く位置を比較したり,重心の位置を比
ジ上につり下げたプロジェクタが最適である。これ
較したりするほうがよい(写真3)。
であれば常設でき,一般の利用者からも手が届かな
そのために2枚
い高さになる。さら
の写真を 1 枚の写
に,ステージ上なの
真として重ねて見
で,ステージの前の
えるようにする。
防球ネットで機器は
学校で導入してい
守られる。
る授業支援ソフト
を使えばすぐ実現
写真3 重ね合わせても手の位置がよくわかる
ここで大切なの
は,天井づりのプロ
写真5 体育館常設のプロジェクタ
できる(ここでは,㈱ジャストシステムのジャスト
ジェクタの焦点距離である。ステージ上には数々の
スマイルにあるペイントを使った)。
幕やカーテン,照明のバーなど,いわゆる“ぶどう
3
棚”と呼ばれる天井の格子にいろいろなものがつり
施設環境
下がっている。プロジェクタをつり下げるとき,ス
1.広角レンズ
クリーンとプロジェクタの間にできるだけ何もない
一般に,タブレットに内蔵されているカメラや
ほうがよいので,プロジェクタを超短焦点タイプに
USB カメラのレンズの焦点距離は 35mm ~ 47mm
して,できるだけ距離を縮めるのがコツである。
といったものが多く,体育館でコート全体を撮影し
3.無線 LAN 環境
ようとすると端が切れてしまう。そこで,スマート
今回紹介したようなバスケットボール型ゲームの
フォン用に市販されている広角のアダプタが必要と
実践は,体育館でもタブレットが確実に稼働するだ
なる
(例えば 0.9 倍など)。これらのレンズの接着は,
けの無線 LAN 環境が必要である。タブレットの導
仮止め程度の両面テープがよいが,先に紹介したよ
入はまだまだという場合でも,体育館に無線 LAN
うに天井の USB カメラに取り付けるためには,接
があることは,これからの多くの活動が豊かになる。
着が確実でしかも取り除きやすいという性質のもの
そして,体育に限らず,行事や式典などさまざまな
で接着しないといけない。そこで利用するのが,エ
場面で無線 LAN を生かした活動が期待できる。
アコンのパイプなどの隙
例えば,体育館で行われている式典を職員室でモ
間を埋める,パテやコー
ニタリングしたり,校内サーバにある伴奏用データ
クと呼ばれる粘土であ
を全校合唱で利用したりすることができる。また,
る。これを使うと,広角
災害時の避難所になった場合に,インターネット環
レンズがずれず,確実に
境を開放できる。
設置できる(写真4)。
写真4 パテによる接着
2.プロジェクタの常設
4
まとめ
体育館で大型画面を使って授業を行おうとする
今回は ICT の視点から,環境面や実践例につい
と,大きな課題となるのがその設置準備である。た
て紹介した。文面でも述べたが,ICT ありきでは
だでさえ準備物の多い体育の活動において,ICT
なく,体育活動の課題を解決するための方法として
機器をさらに準備するのはとても大変であり,現実
ICT をさりげなく使うことが大切である。そして
的ではない。それらの機器が体育館に常設してあれ
そのために,体育館の見えない部分での ICT 環境
ば非常にありがたいが,体育館は授業以外にも社会
整備がこれからますます必要となってくると思う。
体育活動へ開放する場合が多く,利用者の手が届く
国の掲げる目標“全ての教室で ICT が使える…”
ところに液晶テレビなどの機器を置くことは難し
という文言は,体育科では“体育館 = 教室”となる
い。また,絶えずボールなどの衝撃から守るための
のだから。
シリーズ 27
基本の運動で使える楽しい運動遊び
(注)
:シリーズ名の「基本の運動」は,旧学習指導要領における運動領域名です。
ダブルダッチの学習指導について考える
信州大学教育学部准教授 渡辺 敏明
1
はじめに
「入る・跳ぶ・出る」という「3歩のリズム(の動
き方)」になります。ロープの回旋を 1 拍とすると,
2本のロープが交互に回ってきますから,ジャンプ
ダブルダッチは,交互に回る2本のロープでさま
のリズムは 1/2 拍になります。この 1/2 拍で行う「3
ざまな跳び方に挑戦するなわとび運動です。授業を
歩のリズム」を,ダブルダッチの「コアな動き(中
入り口にして,子ども同士で日常的に遊ぶことがで
核となる運動感覚)」として位置づけた学習指導が
きる魅力的な運動といえますが,一見すると複雑に
大切になってくるのです。
見えるため,子どもも教師も「知っているけれど,
3
難しくてできそうにない運動」という印象を持って
いることが多いようです。
このように,難しそうに思えるダブルダッチです
3歩のリズムに着目した
ダブルダッチの教材づくり
ダブルダッチの習得につながる「3歩のリズム」
が,学習指導をスモールステップで進めることで,
を取り入れたスモールステップの感覚づくりで,動
子どもに運動の楽しさや喜びを味わわせながら,や
きのポイントをつかませます。
さしく動きのポイントをつかませてあげることがで
きます。
そこで本稿では,体育が得意でない子どもでも楽
学習指導においては,仲間同士でかけ声をかけて
リズムを共有しながら活動できるように促していく
ことが大切になります。また,ダブルダッチでは,
しくダブルダッチの学習に取り組むことのできる学
跳び手の技能だけでなく,回し手の技能が重要にな
習指導モデルについて考えていくことにします。
ることを子どもに伝えて,「回し手役は,跳び手と
交代しながら全員が行うこと」を約束します。
2
ダブルダッチの学習指導ポイント
(1)3歩のリズムを身に付けましょう
①集団リズムジャンプ
ダブルダッチの学習指導では,
「ロープに引っ掛
からずに跳ぶためのコツ」と「ロープの動きを読み
リズムジャンプを仲間と一緒に行うことで,ダブル
ダッチに必要な 1/2 拍の連続ジャンプになじませます。
取るためのカン」を同時に働かせるという「コツと
トーントーントントントン
カンの絡み合い」になじみを持たせることから始め
て,運動感覚として身に付けさせていく教材づくり
の工夫が大切になります。
新たな運動を習得させたり,発展的に学習させる
ためには,運動の系統性による教材や,アナロゴン
(類似の運動)を活用する教材で,子どもの運動感
覚に働きかける学習指導が必要になります。そこで,
ダブルダッチの「動きの成り立ち」を思い起こして
みると,どちらの側から入っても最初に跳ぶロープ
は,足元から回ってくる1本の「むかえなわ」にな
ることがわかります。そのため,
「むかえなわ」に「入
る・跳ぶ・出る」という動き方に習熟させる教材づ
くりの工夫は,ダブルダッチにつながるアナロゴン
の学習指導においても重要な意味を持つのです。
ダブルダッチの最も単純な跳び方は,ロープに
④
③
②
①
【行い方】①各自が,長短変化のある『ジェンカ』のリズム「トー
ントーントントントン」に合わせて,ラインを前後・左右に連
続して跳び越します(トーン:1拍,トン:1/2 拍)
。柔らか
く弾むジャンプが連続できることを目標にします。②連続ジャ
ンプができたら,最後の着地で 90 度向きを変えながら開始時
の向きに戻るまでジャンプを繰り返します(4回方向を変える
と開始時の向きに戻る)
。③発展的な学習として,仲間と一緒に
かけ声(トーントーン・トントントン)と動きを合わせた集団
リズムジャンプに挑戦します(
「小学校体育ジャーナル 47 号」
)
。
(2)むかえなわに入るタイミングをつかみましょう
②大波小波で3歩跳び
ダブルダッチに必要な動きのコツ(1/2 拍の連続
むかえなわに入るタイミングをスモールステップ
ジャンプ)と,ロープの動きを読み取るカンを運動
でつかませます。各ステップでは,跳び手が「8の
感覚として身に付けさせます。
字」の左右どちら側もできるようにします。「ロー
「そ〜れ!」
「おおなみ・こなみ」
「くるっと・まわって」
プが1回回るごとに入って跳ぶ」「ロープに引っ掛
からないで 10 回(10 人)跳ぶ」などの目標に挑戦
させながら,「むかえなわ」に慣れさせましょう。
①止まったロープの走り抜け(ステップ1)
【行い方】まず,回し手
が持っている「止まっ
たロープ」を2・3歩
助走で小さく跳び越し
て走り抜けます。回し
手の左肩側から跳ぶと
きは左足で踏み切るこ
とを伝え,仲間同士で
確認し合うように促し
ます(右肩側から跳ぶ
ときは右足踏み切り)。
「ねー(右)
」
「この(左)」 「め
(右=出る!)
」
②揺れるロープ走り抜け(ステップ2)
【行い方】①「そ〜れ!」の合図で,回し手がロープを振り上げ
てスタートします。②跳び手は,大波小波の歌に合わせて「1/2
拍の両足ジャンプ」で跳び始めます(短なわとびの1回旋2跳
躍の要領)。跳んだロープが振れ戻る間に1回ジャンプを入れ
ることを伝えます。③「くるっと・まわって」では,回ってく
るロープに合わせて 1/2 拍の両足ジャンプを続けます。④「ねー
この・め」では,「1/2 拍の片足交互ジャンプ」を3回行いま
す(3歩跳び)。3歩跳びは,「回ってくるロープを跳んで片
足着地(ねー)」,「着地足でジャンプして足を入れ替えて着地
(この)」,「回ってくるロープを跳び越しながらロープから出る
(め)」という動き方です。スタートでロープが右足側(左足側)
にあるときは,「右左右(左右左)」という3歩の片足交互ジャ
ンプになります。仲間同士で「右左右(左右左)」とかけ声を
かけて着地する足を教えてあげると行いやすくなります。
③シンクロ大波小波
発展的な学習として,仲間とリズムと動きを合わ
せた「シンクロ大波小波」に挑戦します。2〜3人
の跳び手で行い,左右どちら側でもできることを目
標にします。集団的達成の喜びを味わわせながら,
ダブルダッチに必要な動きのコツ(1/2 拍の連続
ジャンプ・3歩のリズム)と,ロープに合わせて跳
ぶためのカンを運動感覚として身に付けさせます。
《スタートで右側にロー
プがある場合のかけ声》
「そ〜れ!」
「おおなみ・こなみ」
「くるっと・まわって」
「右・左・右(出る!)」
次に,「揺れるロープ」を斜め方向から2・3歩
助走でまたぐように跳び越して走り抜けます。
◎ロープに入れない子どもへのアドバイス
遠くに振れたロープが戻ってくるタイミングでスター
トすると,地面にロープが下りてくるので,前段階の「止
まったロープ」の要領で跳び越せばよいことをアドバイ
スします。
◎両足ジャンプ,両足着地になる子どもへのアドバイス
両足ジャンプや,両足着地になる子どもは,「遠くか
ら跳ぼうとしている・高く跳ぼうとしている・踏み切り
足が逆足になっている・跳ぶことだけを意識している」
ことが多いため,「ロープをまたぐように踏み切る・大
きく跳ばない・踏み切り足を意識する・跳んだら止まら
ずに走り抜ける」ことをアドバイスします。
③むかえなわ走り抜け(ステップ3)
揺れるロープに慣れたら,「回るロープ(むかえ
なわ)」を斜め方向から2・3歩助走でまたぐよう
に跳び越して走り抜けます。
◎むかえなわに入れない子どもへのアドバイス:
「むかえなわ」に入るタイミングがわからない子ども
には,ロープの動きをシャッターに例えて,「①シャッ
てくるロープをよく見て,最初のジャンプを小さく跳ぶ
といいよ」
「ロープから出るときは,回し手の近くを通っ
て出るといいよ」などの言葉かけが大切になります。
ターが開いたら中に入ろう(ロープが上に来たときにス
タートするよ)」「②開いたシャッターに入って,揺れる
ロープの要領で跳ぼう」とアドバイスします。教師や仲
間が,ロープが上に来たときに「3・2・1,いま!」
のかけ声や,腕をロープの動きに合わせて下から上に動
かしてロープに入るタイミングを視覚的に伝えることで
ロープに入りやすくなります。
(3)2本のロープを回しましょう
両手を使ったロープ回しの要領をつかませるため
に,まず「三角内回し(直角内回し)」でロープを
交互に回すことに慣れさせてから,「左右交互内回
し(二条回旋)」に挑戦します。
①三角内回し(同時 / 交互)
④むかえなわ3歩跳び
次に,大波小波で取り組んだ 1/2 拍のリズムで
なわの動き
行う3歩跳びを「むかえなわ」で行います。
同時
右足
(出る)
交互
跳び手の動き
左足
跳び手を
加えて
右足
スタート
(左足踏み切り)
【行い方】①「むかえなわ走り抜け」の要領で,ロープが上に来
たらスタートします。②回し手の左肩側から跳ぶときは,左足
踏み切りで跳んで「右足着地(右)」「着地足でジャンプして足
を入れ替えて左足着地(左)」「回ってくるロープを右足で跳び
越しながらロープから出る(右)」という3歩の片足交互ジャ
ンプになります。③仲間同士で「3・2・1,いま(入る)」
に続けて,「右・左・右(出る)」のかけ声をかけてあげると,
動きのポイントがつかみやすくなります。柔らかく弾むジャン
プが連続できることを目標にします。
◎よくあるつまずき:
「むかえなわ3歩跳び」の苦手な子どもは,跳ぶ位置
が「手前(奥)すぎ」だったり,最初のジャンプを大き
く跳びすぎて,3歩のリズムが崩れてしまうことが多い
ものです。また,ロープから「真横」に出ようとして,
ロー
プに引っ掛かる姿も見られます。そのため,教師のアド
バイスとして「ロープの真ん中で跳ぶといいよ」
「回っ
【行い方】①3人組になり,ロープを持って三角形に立ちます。
頂点の子は,ロープを「同時内回し」で大きく回します。回し
手役は順に交代します。②慣れたら,「交互内回し」に挑戦し
ます。三角形の頂点の子が起点になり,一定のリズムでロープ
をたるませないよう大きく回します。慣れるまで,「イーチ・
ニー」の2拍子のかけ声をかけます。③安定したロープ回し(同
時・交互)ができるようになったら,跳び手を加えて「むかえ
なわ走り抜け」「むかえなわ3歩跳び」に挑戦します(2か所
で跳べます)。
②左右交互内回し
ロープの長さを
合わせる
左右交互の
小さな内回し
近づきながら
位置を決める
【行い方】①2人組でロープを持ち,向かい合って立ちます。「小
さく前にならえ」の腕の位置でロープをピンと張り,長さを合
わせます。②左右交互の内回しでロープを小さく回し始め,ロー
プが床(地面)に当たる位置まで近づきます(ロープの張りを
感じます)。③ロープがたるまないよう気を付けて回します。
10 〜 20 回程度スムーズに回わすことを目標にします。うま
く回せないグループには,教師がサポートに入ります。
➡
(4)2本のロープを跳びましょう
①ダブルダッチ走り抜け
回し手が2本のロープを安定して回せるように
なったら,
「ダブルダッチ走り抜け」を行います。
➡
➡
【行い方】
①回し手は,左右交互の内回し
でロープを回します(ダブル
ダッチ)。ロープは一定のリ
ズムで回し,たるまないよう
気を付けます。回し手役は,
跳び手と交代しながら全員が
行うようにします。
② 跳 び 手 か ら 見 て, 手 前 側 の
ロープが上に来たタイミング
でスタートします。ロープに
入るタイミングがわからない
子どもには,手前側のロープ
だけを見るように伝え,ロー
プが上に来たときに「3・2・
1,いま!」とかけ声をかけ
ると入りやすくなります。
③「むかえなわ」で回ってくる
手前側のロープを斜め方向か
ら2・3歩助走で跳び越して
走り抜けます(ダブルダッチ
走り抜け)。高く跳びすぎな
いこと,着地で止まらずに走
り抜けることをアドバイスし
ます。左右どちら側からも走
り抜けられるようにします。
➡
4
びでは,
「むかえなわで回っ
てくる手前側のロープを跳
んで右足着地」「回ってく
る逆側のロープを跳んで左
足着地」「回ってくる手前
側のロープを跳び越して右
足着地でロープから出る」
という3歩の片足交互ジャ
ンプになります。
③跳ぶ順番を待つ間は,その
場でロープ回旋に合わせた
片足交互ジャンプの練習を
することをアドバイスしま
す。
④発展的な跳び方として,跳
び手が8の字の道筋で移動
して前の人が抜け出たら入
る「8の字連続回数跳び」,
跳ぶ歩数を増やして競争す
る「かけ足回数跳び」,両
足ジャンプで何回続けられ
るか競う「両足回数跳び」,
跳ぶ人数を増やして競争す
る「人数跳び」に挑戦しま
す。かけ足跳びでロープか
ら出るには,次に着地する
足の側に出るとよいことを
アドバイスします。
まとめにかえて
紹介してきたダブルダッチの教材は,コアな動き
(3歩のリズム)の学習を中心に据えたスモールス
テップの感覚づくりによって,技能の習得を促して
いく学習指導モデルです。誰もがあこがれるダブル
ダッチの入り口として,子どもたちと一緒に学習に
取り組むことで,教師の皆さんにも新たな発見やお
もしろさを感じていただきたいと思っています。
②ダブルダッチ3歩跳び
「ダブルダッチ走り抜け」ができるようになった
ら,2本のロープを交互に跳ぶ「ダブルダッチ3歩
跳び」に挑戦します(図は右上)。
【行い方】
①跳び手は,「ダブルダッチ走り抜け」の要領で,手前側のロー
プが上にきたタイミングでスタートします。
②むかえなわで回ってくる手前側のロープを斜め方向から2・3
歩助走で跳び越して3歩跳びをします。左足踏み切りの3歩跳
小学校体育ジャーナル 78号
●企 画 みんなの体育編集委員会
●発行人 石津 正文
●編集人 近藤 茂
●発行所 株式会社 学研教育みらい
平成27(2015)年1月発行 ※この冊子は,環境に配慮した紙,インキ,CTP方式で製作しています。
【参考文献】
1)金子明友『コツとカンの動感深層』スポーツ運動学研究 25,日本スポーツ運動学会,
2012
2)戸田克『ダブルダッチの指導法』小学館,2012
3)眞榮里耕太『長なわとび(低・中学年)授業運営・運動指導の秘訣 23』体育科教育 58 ⑵,
大修館書店,2010
4)大塚隆『長なわとび遊び,新しい体つくり運動の授業づくり』体育科教育 57 ⒀,大
修館書店,2009
5)木下光正『とってもビジュアル ! 筑波の体育授業(低学年編)
』明治図書,2009
6)清水由『とってもビジュアル ! 筑波の体育授業(中学年編)
』明治図書,2008
7)平川譲『なわとび−写真でわかる運動と指導のポイント−』大修館書店,2008
8)松本格之祐『指導内容の明確化が体育教師にもたらすもの』体育科教育 56 ⑺,大修
館書店,2008
9)山本悟『なわとび−写真で見る「運動と指導」のポイント−』日本書籍,1998
10)太田昌秀『楽しいなわとび運動』ベースボール・マガジン社,1992
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