労働災害発生時の企業の責任と予防対策

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編集・発行 三井住友銀行グループ・SMBCコンサルティング株式会社
2015.2.23 第 1453 号
SMBC経営懇話会
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【安全衛生対策で労災リスクを最小限に】
労働災害発生時の企業の責任と 予防対策
梅田総合法律事務所
弁護士 古賀健介
1. 労働災害が発生した場合、企業は「刑事責任」「民事責任」「社会的責任(CSR)」を問われる可能性が
あります。
2. 労働災害で責任を問われないためには、日常の安全衛生活動や、リスクアセスメントの実施などの安
全衛生対策を取ることが求められます。
3. 安全衛生対策は、労働者や現場に任せるのではなく、企業の代表者自らが率先して取り組むことが重
要です。
1.はじめに
近年、労働災害における死傷者数(休業4日以上)は毎年10万人を超えており、その数は、ほぼ横ばい状
態にあります。
もっとも、労働災害によるリスクを十分に認識し、安全衛生対策を講じていれば、労働災害が発生する恐れ
は減りますし、万一、労働災害が発生したとしても、企業が負担する責任を最小限に抑えることができます。
そこで、今回は、労働災害により企業がどのような責任を負うのか、安全衛生対策としてどのような方法があ
るのか、具体的に触れていきたいと思います。
2.労働災害発生時の企業の責任
労働災害が発生した場合に問題となる企業の責任として、(1)刑事責任、(2)民事責任、(3)社会的責任
(CSR)の3つが挙げられます。以下、個別に見ていきましょう。
(1)刑事責任
①労働安全衛生法違反
労働安全衛生法は、事業者(企業)に対して安全措置義務を課すとともに(同法3条以下)、両罰規定
を設けています。そのため、同法違反が認められる場合は、実際に違反をした行為者本人が罰せられる
(同法 119 条、120 条等)だけでなく、事業者に対しても、罰金刑が科されることになります(同法122条)。
労働安全衛生法違反の疑いが認められると、労働基準監督官が捜査を行うことになります。両罰規定
が設けられているため、行為者だけでなく、企業の代表者等に対しても、事情聴取が行われることがあり
ます。
②業務上過失致死傷罪
労働災害においても、業務上過失致死傷罪(刑法 211 条)の成否が問題になる場合があり、その場合
には、通常の刑事事件と同様、警察による捜査が行われます。
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(2)民事責任(安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任)
労働契約法第5条により、使用者(企業)の労働者に対する安全配慮義務が明文化されています。安全
配慮義務の具体的内容は、労働者の職種、労務内容、および労務提供場所等によって異なりますが、裁判
例では安全配慮義務の内容として、物的な施設・設備の安全管理に関する義務から、労働者の人的管理に
関する義務まで、多岐の義務が認められています。
使用者に安全配慮義務違反が認められる場合、当該使用者は被災した労働者に対して損害賠償責任を
負担することになります。
なお、被災した労働者は、労働者災害補償保険法に基づき保険給付を受けることができますが、労災保
険給付は、被災した労働者の全損害を補填するものではありません。慰謝料は全く補填されませんし、休業
損害等の損害は一部しか補填されません。安全配慮義務違反が認められる場合、補填されない部分につ
いては、使用者が賠償しなければなりません。
(3)社会的責任(CSR)
労災事故が発生し、その原因として企業の安全対策が不十分だったことが発覚した場合、当該企業の社
会的信頼が損なわれることになります。特に近年の企業に対する世間の批判や責任追及は、厳しさを増して
います。
3.安全衛生対策の策定方法について
では、企業が上記責任を負担しない、もしくは最小限に抑えるためには、どのような対策を取る必要がある
でしょうか。安全衛生対策にはさまざまな方法があるため、以下、代表的な方法をご紹介します。
(1)日常の安全衛生活動
労働災害発生を予防するにあたっては、安全点検、マニュアルの作成、保護具の準備、ヒヤリ・ハット活動、
危険予知活動(KYK)など日常の安全衛生活動が重要になります。このような日常の安全衛生活動を怠っ
ているとなれば、企業の責任は重いものになります。
(2)リスクアセスメント
リスクアセスメントとは、職場における危険源(潜在的リスク)を洗い出し、それがどの程度の危険性又は有
害性を持っているかを見積もって、リスクの大きいものから優先的にリスクの除去又は低減の措置を検討・実
施することをいいます。
リスクアセスメントを実施することにより、職場のリスクが明確になり、企業が取るべき安全衛生対策につい
て優先順位を決めることができる等の効果を得ることができます。
その手順は厚生労働省のホームページ(http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei14/ )等
にテキストが掲載されていますが、簡潔に説明すると、以下のとおりです。
① 安全ミーティング等を行い、作業者から、安全点検や危険予知活動(KYK)の結果、およびヒヤリ・
ハット事例や類似災害情報等を収集します。
② 上記①で収集した情報を基に、「災害発生の可能性」「災害が発生した場合の重篤度(災害の程
度)」等の観点から、リスクの見積もりを行います。
③ 上記②で見積もったリスクの高いものから順番に、以下の低減措置を図ります。
ア.本質的対策(作業自体の廃止・変更、危険性の低い機器等への代替等)
イ.工学的対策(インターロック、機械・設備の防護板の設置等)
ウ.管理的対策(マニュアルの作成や教育訓練等)
エ.個人用保護具の使用
④ 上記③の低減措置を取った後に、リスクが残留していないか再度検証します。
4.最後に
職場の安全性を確保し、労働災害の減少を図ることは、労働災害が発生した場合の企業の責任を最小限
に抑えることにもなります。そのためには、個々の労働者や現場に任せるのではなく、企業の代表者自らが方
針を示し、率先して安全衛生対策に取り組むことが非常に重要になります。
【本稿に関するご照会窓口】 SMBCコンサルティング・経営相談部 TEL:0120-7109-49
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