明学インターンシンポ2/26報告 異文化経験としての徳島県木頭の山間地におけるインターンシップZiVASAN Project 1.木頭インターン概要 コンビニまで車で1時間という「僻地」に何があるのか?高等教育機関のない場にいった いどんな学びがあるのか?われわれは自然と昔ながらのくらしが僅かに残る山間地ならで はの体験プログラムを試行錯誤している。特に、読み・書く・聞くだけでは得られない 「体験」に基づいた知識や能力を身につけるためには、どのようなプログラムが最適なの かを参加者と共に模索している。 ▶「体験」の本質 木頭で実施した体験内容の一部を表にした。ここで重要視していることは、身近な素材か ら生活に利用できるモノ・コトを編み出すことである。 《体験の多重性》 体験内容 炭焼き カジ蒸し 竹細工 小水力 草刈り 聞書き 素材 木 楮 竹 水 草 人 生活利用 炭 布 籠 電力 肥料 知恵 その他 薪/建材/炭素固定 紙 資材/笊/樋 水車/用水/飲料 保水 協働 地域の素材(その総体を環境空間E)から生活利用可能なモノ・コト(その総体を生活文 化空間L)を生み出す作用(作用素C)は、1対1とは限らない。 環境空間 E 作用素C 生活文化空間 L C11 木 楮 ・・・ 人 C12 C21 炭 薪・・・ C31 C22 布 紙・・・ C32 知恵 協働・・・ ・・・ 例えば、楮(コウゾ)という原料から和紙が作られる。しかし、木頭では太布(タフ)と呼 ばれる古代布も作られる。さらに、楮[初期には穀(カジ)を利用]の栽培から布を生み出す 全工程を経験することは、「体験」を越えるという意味で重要である。 籾 殻 楮 芽 掻 き カ ジ 刈 り カ ジ 蒸 し 皮 剥 灰 汁 炊 き 木 槌 叩 き ま ぶ し 踏 み 皮 糸 糸 川 河 を を を さ 原 積 精 整 ら 干 み 経 し し 紡 δ製 す す る る ぐ 機 に 布 掛 け て 織 る 楮という素材から布ができるまでには幾多の工程がある。すべて手作業であるため、各工 程毎に人によって差が生じる。つまり、素材から完成に至までの経路(作用素C)には試行 錯誤の自由度が存在し、そのブレ(変分δ)を経験することでその後の工程にどのような影 響を及ぼすかを学ぶ。これが体験することの本質的意味ではないかと考える。 equallab. 1 明学インターンシンポ2/26報告 ▶プログラムのカタストロフ 体験することの本質的要素(作用素Cの多重性認識と変分δの経験)をテキストや口頭で説 明するよりも、できれば体験者が内発的に理解できるようなプログラムを準備したい。 つまり、「発見」することを大切にしたいと考えている。 《受入までの流れ》 インターン 希望の学生 大学からの インターン 生受入依頼 スカイプ 面談 LINE/Facebook group/GoogleDoc による連絡調整 プログラム作成 宿舎/移動手段確保 講師打合せ/受入準備 インターン 開始 人の能力にはさほど差があるとは思えないが、思い入れや熱意で大きく違ってくることが ある。それをスカイプによる面談で相互に確認する。さらに情報の共有化を進めている。 予定調和の平坦な プログラム 多様性の受容 プログラムを越え た体験の発生 一般的には、プログラムは予め想定した時空間内で徐々に変化する状況(コントロール空 間)の下で実行される。しかし、そこに突然発生する系の状態の不連続変化(カタストロ フィー)を可能な限り受容したいと考える。そのためには次の要素が必要である。 a)多様な人との出会いの場を設ける(自らの立ち位置・客観性) b)プログラム実施者の感情・意図は出さない(思考の自由度確保) c)進行を優先させない(自発性) d)安全面の配慮(想定外に対する準備) 2.地域へのメリット ▶これまでの取組み 2011年8月に明治学院大学の学生1名の受入れに始まり、翌年1月京都大学大学院生1名 (地球環境学舎)、2012年8月明治学院大学4名、2013年8月同大学3名、2014年8月明治 学院大学3名、龍谷大学3名、9月4名。4年でのべ19名となっている。 《内容》 山村(木頭)理解の為のガイダンス ダムも含めた村の歴史/地域産業/ 集落単位の活動/ 山村の現状/現地案内 恊働作業 学校と地域主催の川遊び準備/夏祭り準備/民俗風習(施飢鬼)研修/炭焼き 調査と作業 広く浅くではなく一人の人を多角的に知るために作業等しつつ共有時間をもつ まとめ・報告 毎日の記録をSNSやビデオで記録/地域の方への報告会 [ ブログ参照] ▶成果 若年層が極端に少ない過疎地であるため、集落の共同 作業への貢献や新しいアイデアを地域としては得るこ とができる。また、関わった人たちのモチベーション があがり、特に、次代へ伝える知恵(在野知)を有する者 は、その重要性を再認識する。 equallab. 2 明学インターンシンポ2/26報告 3.課題と可能性 ▶継続するための課題 a) 短期間では各個人がそれぞれのテーマで深く調べ上げることは難しい。 b) 人数も多くなることでそれぞれのテーマにすべて対応できない。 c) 協力隊制度や助成金を利用して実施しているのが現状。 ▶インターンシップの可能性 a) インターンシップ後の感想や反応を見ると、なにより都会にない人とのつなが りやコミュニティに大きなインパクトを受けている。 b) これまでのインターンシップの例を見ても、地域の方々には同じ経験がベース としてあるため、調べてみたいテーマは違っていても一人からさまざまな角度 の意見を聞くことができる。 c) 聞き取りだけでなく、作業を通してお互いの信頼関係を大切にしたい。 d) 長期(3ヶ月)でインターンシップを取り入れる計画をもつ大学も出てきている。 ▶大学と地域の可能性 「想定外」という言葉が311以降多用され、「自己責任論」も911に端を発した2004年 のイラク人質事件から今日に至まで各種メディアやネット上で取り上げられている。 「自己責任」を責められる側は「想定外」を使用できない。その一方で「民主的」な手続 きに則って「想定」した場合の関係者は、万が一でもその責任が問われることのない環境 で守られている。多くは大学を出たエリート層がそのような仕組みを構築してきた。デモ や選挙、裁判で庶民が訴えても民意が通らない事態がいまの社会を作り上げてきたといえ る。この現状に対して研究機関であり、教育機関でもある大学にはこれからどのような処 方箋が考えられるか。特に、大学と地域(地方)とのこれからの関係性を主眼にすると: a) 専門知と在野知の融合を模索する(専門領域を越えて俯瞰し見通す洞察力) b) 自己実現最優先ではなく、集団的に生きる文化を学ぶ(民主制と相互扶助) c) 多様なコミュニケーション環境下に身を置く(自らの精神的な脆弱性の克服) 高度成長期以降「豊かな」社会を実現してきた。これは大学による能力のある人材の輩出 と地方の労働力とが結びついた結果という側面がある。しかし、生産過剰で人口減少とい う環境の下で、これまでのような経済成長による「豊かさ」にしがみつき続けることは困 難な時代となっている。その状況を本当の意味で理解し、かつ「希望」を見出すことので きる環境を、若い人たちに提示することがこれからの大学と地域の役割ではないかと考え る。 玄番隆行/GEMBA Takayuki [email protected] equallab. 3
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