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原子力防災の論点
関谷直也
東京大学大学院情報学環
総合防災情報研究センター
naoya @ iii.u-tokyo.ac.jp
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新潟市出身
東京大学情報学環総合防災情報研究センター特任准教授
専門:災害情報論、社会心理学
主著:
– 「災害」の社会心理(KKベストセラーズ)、『風評被害』(光文社)など。
• 委員など:
– 新潟県中越大震災復興検証調査会委員
– 新潟県原子力安全対策課「複合災害」対策検証委員会委員
– 内閣官房東京電力福島第一原子力発電所における事故検証委員会(政府
事故調)政策・技術調査参事
– 東京電力福島原発事故損害賠償にかかる被害調査委員会・委員長
– 内閣官房東日本大震災対応総括室東京電力福島第一原子力発電所事故に
おける避難実態調査委員会・委員
– 福島県農林水産部福島県産米の全量全袋検査のあり方に係る有識者会議
委員
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1.「被害」に関わる論点
事前の問題として
① 複合災害対策を事前に考えてこなかった
② SPEEDIの問題(存在そのものを認識していなかっ
た)
緊急時の問題として(特殊性)
①
②
③
④
⑤
⑥
避難範囲拡大の問題 ○
広域避難(対象、手段、避難場所、避難路の確保)
屋内退避の問題
モニタリング・SPEEDIの問題
スクリーニングの全身除染基準の引き上げ
ヨウ素剤配布問題
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1.「被害」に関わる論点
それらに混乱を与えた付随する問題として
⑥ 炉心溶融と情報公開の問題
⑦ 海外との連絡(50マイル)の問題
 長期被曝に関わる問題として
① 福島県の校庭、20mSvを線量限度とした問題
② 汚染水の放出とその情報提供
③ 食品汚染の問題
※
長期的な「被害」という意味では損害賠償
や風評被害の問題が含まれる。
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2.原発事故の緊急避難と安全確保行動の教訓
原子力事故の対策
緊急避難の課題
① 屋内退避と遮蔽
② 広域避難とそのタイミング
③ モニタリングデータの収集/放射性プルームの測定
安全確保行動の課題
被ばくの最小化も防災対策(安全確保)の一つ
④ ヨウ素剤を飲むタイミング(内部被ばくの最小化)
⑤ スクリーニングと除染(外部被ばくの最小化)
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2.原発事故の緊急避難と安全確保行動の教訓
原子力事故の緊急避難に絞った教訓
– 「原子力事故防災」を考えておくこと
– 確率論的安全評価(PSA)を前提にすると防災が成り立たない。
– 「被害想定」前提の対策 → 想定外の避難に対応できず
→ 被害を想定しなかった
「もう福島ほどの災害は起こらない」という物言
いの心理
「事前の知識」を住民が持つこと
– 原子力災害の知識を持つ人が、極めて少なかった。
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3.災害対策に共通する教訓
災害対応の省庁の縦割り(押し付け合い)問題
所管の問題
– [災害対策基本法] 、[原子力災害対策特別措置法]など複
数の災害立法によって内閣府防災など防災担当部局が原子
力防災を扱えない体制を作ってしまったこと)
– [原子力損害賠償法]の所管が文部科学省に残ってしまってい
ること
救助組織の問題
– 双葉病院の救出などにみられる自衛隊と警察の役割分担
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3.災害対策に共通する教訓
縦割りを解消しようと、省庁、自治体が共通して
対策を行うために設けられたオフサイトセンター
が機能しなかったこと
– ERC、OFC、官邸、中央防災会議など複数の司令塔が樹立
– 地震により、各組織毎で対策本部が立ち上がり、以降、簡単
に統合できない、「複合災害」ならではの問題といえる。
要援護者(重病患者)の移動の判断
– 移動が前提なら、近隣・EPZ圏内に要援護者(重病患者)、要
援護者(重病患者)の関連施設を置けない。
– 他の様々な災害に対するハザードの問題と共通。
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中越沖地震後における対応と「想定外」
原子力防災マニュアル
• マニュアルには「大規模自然災害が原子力防災体制に与
える影響」として、以下の項目が記載。
– 大規模自然災害で緊急事態応急対策拠点施設(オフ
サイトセンター)が被災する可能性
– 大規模自然災害により、モニタリング機材が破損し、
必要なモニタリングデータを取得することが困難と
なる可能性があること (事実、中越沖地震時に東
京電力からのモニタリングデータの送信が途絶)
– 放射線、放射性物質への恐れ・不安が重なり、住民
の心理的動揺が生じる可能性があること
• 「免震重要棟」設置以外、ほとんど対策はとられなかっ
た
中越沖地震後における対応と「想定外」
「複合災害」としての教訓
新潟県地域防災計画原子力災害対策篇「複合災害対策」
• 特定事象(原災法10条)に該当しない段階(未満事象)で
も、大規模災害・複合災害時には積極的に情報公開
• 人員が重なることから原対本部を自然災害等対策本部と
原則共通化して複合災害発生を前提とした体制を作る
• 予防的措置として早めの避難を検討。
– 複合災害に起因し避難の困難性が発生。
• 県知事又は関係市町村が独自の判断で屋内退避又は避
難のための立ち退きの勧告又は指示を行う
– 基礎自治体の専権事務である「避難勧告・避難指示」につ
いて、国の指示では遅れる、基礎自治体では判断できない
(原子力発電所の状況について情報を持っていない)ので、
県が主体となって勧告・指示を行う
中越沖地震後における対応と「想定外」
国、県の「所管」の問題
所管の問題
• 災害対策基本法ー内閣府(防災)
• 原子力災害対策特別措置法ー原子力安全・保安院
他省庁と調整がうまくいかず複合災害対策は進まず。
新潟県の検討結果が他道県に普及しなかった
– 地震対策のため県災対が県庁に設置され、現地災害対策本
部を立ち上げることが難しい問題
– モニタリングポストの被災
– 情報伝達手段の機能損失
– 道路の損傷などに係る問題
などが検討されたが新潟県以外の県も検討を行わ
ず、新潟県独自のものとなり波及もしなかった。
終わりに
• 東京電力福島第一原子力発電所事故からの教
訓が踏まえられていない
– ようやく事故を前提とするようになったが、大規
模事故は前提としていない
– 避難先、避難時の情報伝達など、未検討の課題が
多い/東京電力福島第一原子力発電所事故の状況
を踏まえていない
– 原子力防災は防災のプロが担っていない